任期満了に伴う南相馬市議選に元市長の桜井勝延氏(66)が立候補を表明した。もともと市議を務めていたが、市長選で二度落選後、市議に出戻るのは極めて異例だ。
低迷する投票率のアップを目指す
市議選(定数22)は2022年11月13日告示、同20日投開票で行われ、同年10月下旬現在25人程度が立候補する模様だ。
立候補予定者説明会は同年10月4日に開かれ、現職19人、新人2人が出席したが、この時、桜井氏の陣営からは誰も出席しなかった。ただ、同年9月下旬には立候補を決意し、後援会長などに挨拶を済ませていた。
当の桜井氏がこう話す。
「2022年1月の市長選に落選後、多くの方から『市議選に挑むべきだ』という声をかけてもらったが、親族の入院などが重なり選挙のことを考える余裕がなかった。しかし、お盆過ぎに退院し、ようやく落ち着いたタイミングで再度熱心に声をかけてもらい、出馬を決意した」(以下、断りがない限りコメントは桜井氏)
旧原町市議を1期、南相馬市議を2期務め、2010年から市長を2期務めた桜井氏。8年間の任期中は大半を震災・原発事故対応に費やしたが、18、22年の市長選で現市長の門馬和夫氏(68)に敗れた。
その間には国政への誘いもあったが、桜井氏は見向きもせず「脱原発をめざす首長会議」世話人として各地の現・元首長たちと脱原発に向けた活動をするなど、一貫して地方政治の立場から国に物申してきた。
「市長選は落選したが、2018年は1万6293票、22年は1万5625票を投じてもらった。ここで市政を投げ出し国政に転じれば、市民から『市民を見放した』『市長をステップに国会議員になりたかっただけ』と言われてしまう。市民に、市政に対する諦めの気持ちを抱かせないためにも地方政治にこだわりたいと思った」
とはいえ、たとえ僅差でも門馬氏に連敗したのは事実。市内には熱烈な支持者が大勢いるが、それと同じくらい〝反桜井〟の有権者もいる。二度目の落選後に「もう応援はこりごり」と離れた元支持者もいる。そういった人たちからは、今回の桜井氏の決断に「市長がダメだから市議なんて虫が良すぎる」「市議を踏み台に、また市長選に挑むつもりなんだろう」「どうせ報酬目当て」と辛辣な声も聞かれる。
一方で、桜井氏のもとには未だに市民から多くの相談が寄せられている。市立総合病院の診療・入院に関すること、災害対応に関すること、子育て支援に関すること――等々、市民が日常生活に困っている姿を日々目の当たりにしている。
市職員からも現市政を憂うメールが頻繁に届く。中堅・若手職員からは「今の職場環境では『市民のために働く』というモチベーションが保てない」と早期退職を示唆する声も寄せられている。
「市政に関心持ってほしい」
「市議は22人もいるのに、市民や職員のことを分かっていない。市議会もチェック機能が働かず、執行部の追認機関と化している。これでは市民の暮らしの改善につながらない」
ただ、市長選で1万票以上獲得している桜井氏が、1000票あれば悠々と当選できる市議選で落選する姿は想像できない。市民の関心は、桜井氏が何票獲得するかだろう。
ちなみに前回(2018年11月18日投開票)の市議選で、1位当選の得票数は2658票。しかし、桜井氏の口からは票数に関する話題は一切出てこない。桜井氏が強く意識するのは投票率だ。
「市議選出馬を決めた後、市内を挨拶回りしたら『えっ、市議選があるの?』『投票日はいつ?』と言う人がとても多かった」
要するに、市民は市議会(市議)に関心がないことを知り、桜井氏はショックを受けた。
「なぜ関心がないのか。それは市議会・議員に魅力がないからです。例えば、その商品に魅力があれば客は競うように買い求めるが、魅力がなければ見向きもしない。今の市議会・市議はそれと同じで、市民にと
って魅力がないのでしょう。だから市議選の投票率も上がらない」
市長選と市議選の投票率を比べると、有権者の関心の違いがよく分かる。(日付は投開票日、人数は当日有権者数)
2014年
市長選(1月19日)―62・82%、5万3943人
市議選(11月16日)―59・10%、5万3828人
2018年
市長選(1月21日)―62・39%、5万2933人
市議選(11月18日)―55・91%、5万2376人
2022年
市長選(1月23日)―63・75%、5万0972人
市議選の投票率は下がっているが、2018年と22年の市長選は同じ顔ぶれでも1・36㌽上がっている。それだけ市民の関心が高かったということだろう。
「私は市長時代も落選後も市議選で応援マイクを握った。しかし、その候補者たちの得票数を合わせても私の市長選の得票数には及ばない。市議選も市長選と同じくらい関心を集め、候補者に魅力があればもっと得票してもいいのにそうならないのは、市民が投票に行かないか、票が別の人に逃げているかのどちらか。立候補予定者はこうした有権者の投票行動に危機感を持つべきです」
市議の多くは「桜井氏が出れば自分の票が減る」と警戒感を露わにしている。しかし、その市議が普段から支持を得ていれば、たとえ桜井氏が立候補しても、有権者はその市議に投票するはず。要するに、その市議がこれまでどういう活動をして、有権者がそれをどう評価しているかが今回の得票数に表れる、と。
「もちろん、選挙後の私自身の活動も問われる。意識しなければならないのは、市長選も市議選も投票に行かない『市政に無関心な市民』です。そういう人たちに、いかに市政に関心を持ってもらうか。国政や県政と比べて市政にできることは限られるかもしれないが、市民に最も身近だからこそ、きちんとやらなければ市民生活に及ぼす影響は大きいのです。市民には、とにかく市政に関心を持ってほしい。そのきっかけとなれるように今は市議選に全力を注ぎ、投票率アップにつなげたい」
若い世代の低投票率や若手候補者の少なさが課題となる中、市議と市長を経験し、66歳の桜井氏が立候補するのは「時代に逆行している」という批判もある。批判を跳ね返すには、投票率アップや市政に無関心な市民を引き付けるなど、さまざまな難題をクリアするほかない。