田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐり、周辺住民が市を相手取り訴訟を起こしていた問題で、仙台高裁は2月14日、一審の福島地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却する判決を下した。
同発電所の事業者は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」で、市は同社に補助金を支出している。訴訟では、住民グループは「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当である」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、現在は白石高司市長)が事業者に、補助金17億5583万円を返還請求するよう求めていた。
住民グループの基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」といったことがある。そうした背景があり、反対運動を展開し、2019年9月に住民訴訟を起こすに至ったのである。
一審判決は昨年1月25日に言い渡され、住民側の請求は棄却された。その後、住民グループは同2月4日付で控訴し、3回の控訴審口頭弁論を経て判決が言い渡された。冒頭で述べたように、控訴審判決は、一審判決を支持し、住民側の控訴を棄却するというものだった。
その後、住民グループは会見を開き、代理人の坂本博之弁護士は次のように述べた。
「例えば、我々は『(市や事業者側が示した)HEPAフィルターの規格は放射性物質に対応したものではない』と主張したが、それに対して判決では『(放射性物質に対応した規格ではなくても)放射性物質を集塵できないとは言えない』とされており、そのほかにも『〇〇できないとは言えない』というような表現が多い。当初はきちんと審理してくれるかと思ったが、証拠・根拠がないのに、被告(市)・補助参加人(※事業者の田村バイオマスエナジーが補助参加人となっている)の説明を鵜呑みにしたいい加減な判決としか言いようがない」
住民グループ代表の久住秀司さんはこう話した。
「残念で悔しい判決だった。私は個人的に民事訴訟の経験がある。その時は、裁判所は証拠資料をしっかり確認して審理してくれた。ただ、行政を相手取った裁判となると、こんなにも違うのかと驚いた。平等な視点で進行してくれるものと思っていたが、そうではなく、司法・裁判所への信頼がなくなった」
報道陣から「上告するか」との質問が飛ぶと、坂本弁護士は「検討のうえで決めたい」と話した。
一方、市は判決から1週間後の時点で「判決文を精査中」とのこと。
住民グループの話を聞いていると、「○月×日に発電所のメンテナンスが入った」とか、「発電所の敷地内に焼却灰などが入ったフレコンバッグが置かれていたが、○日夜から翌日の朝にかけてどこかに搬出された」というように、発電所の動向を細かくチェックしている様子がうかがえた。裁判では訴えが棄却されたが、住民グループは「今後も継続して監視や放射線量の測定などを行っていきたい」との考えを示した。