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【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ

【例年とは違った原賠審視察】中間指針改定議論は佳境へ

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は2022年8月29、30日の2日間、県内の視察を行い、同年9月26日にそれを踏まえた会合を開いた。

 原賠審は原発賠償の基本的なルールとなる中間指針(同追補を含む)を定めた文部科学省の第三者組織で、毎年、「中間指針等に基づく賠償の実施状況を確認する」ことを目的に、県内の視察を行っている。2022年は例年の目的に加え、「中間指針の見直しも含めた対応の要否の検討に当たり、被害者の意見を聴取すること」も念頭に視察を行った。

 視察先は大熊町、浪江町、葛尾村の原発被災地に加え、今回は福島市も訪れた。福島市では木幡浩福島市長、品川萬里郡山市長、鈴木和夫白河市長、押山利一大玉村長、杉山純一会津美里町長らと意見交換を行った。そのほか、大熊町では広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町の住民と、浪江町では南相馬市、川俣町、浪江町、飯舘村の住民と、葛尾村では田村市、川内村、葛尾村の住民と、それぞれ意見交換を行った。

 これまでの視察では、避難指示区域が中心で、福島市などの「自主的避難等対象区域」に来ることはなかった。また、避難指示区域の視察でも、首長や議長などと意見交換は行われていたが、住民と意見交換をしたことはなかった。

 そういった意味では、今回の視察はこれまでとは違ったものだった。その背景にあるのは、全国各地で起こされた原発賠償集団訴訟の判決が少しずつ確定しており、中間指針(同追補を含む)の範疇を超える賠償が認められていること。

 原賠審は2022年4月27日に開かれた会合で、同年3月までに判決が確定した7件の原発賠償集団訴訟について、「専門委員を任命し、調査・分析を行う」との方針を決めた。これまでに判決が確定した集団訴訟では「ふるさと喪失に伴う精神的損害賠償」、「コミュニティー崩壊に伴う精神的損害賠償」などが認められているが、そういった賠償項目は中間指針にはない。そのため、委員から「そういった賠償項目を類型化して示せるのであればそうすべき」といった意見が出ていたのだ。

 こうして、中間指針の見直しが必要かどうかの議論を進めており、その過程で従来とは違った形での現地視察となったのである。

 懇談会では、福島市などの「自主的避難等対象区域」からは「今回の判決で、中間指針が不十分なことが示された。中間指針の見直しを早急に進めてほしい。それが遅れること自体、さらなる精神的苦痛につながる」との意見が、避難指示区域の住民からは「地区によって復旧・復興の進み具合が違う。地区の状況を踏まえ、中間指針を見直してほしい」、「避難が長期化し、戻りたくても戻れず、精神的な被害は継続している」といった意見があった。

 これらを踏まえて行われた2022年9月29日の原賠審では、確定判決の調査・分析を行っている専門委員がまとめた中間報告が示された。それによると、「ふるさと喪失に伴う精神的損害」は、中間指針では帰還困難区域を除いて十分に反映されていないこと、自主避難については、中間指針が定めた賠償期間・賠償額と、各判決の賠償期間・賠償額が異なっており、さらなる検討が必要であること等々が記されている。

 原賠審では、専門委員にさらなる調査・分析を進めて最終報告をまとめてもらい、そのうえで最終的な判断を下す方針だ。

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