連続自殺ほう助事件の舞台となった福島県

 男女5人が犠牲になり、うち4人が死亡した連続自殺ほう助事件で、福島県は不名誉にも注目を浴びる。自殺をお膳立てした男が福島市民だったこと、四つの現場のうち三つが喜多方市と田村市だったからだ。SNSで自殺志願者を募り、自身は死なずにわいせつ行為や窃盗を働くやり口は、2017年に発覚した「神奈川県座間市9人殺害事件」と似ている。違う点は、座間事件はアパートの一室で起こったが、今回の現場は福島県や山形県の山あいの廃村や廃墟だった点だ。廃村・廃墟はノスタルジーやおどろおどろしさを感じさせ、ネットでは人気コンテンツ。土地勘のない者にも人けのない場所を知られ、田舎を舞台にした模倣犯が現れかねない。(敬称略)

廃村・廃墟マニアには知られていた喜多方と田村の現場

事件現場となった田村市の林道近くにある建物
事件現場となった田村市の林道近くにある建物

 事件が世間に知られるようになったきっかけは、今年1月9日に田村市の林道で、いわき市の20代女性が車内で練炭自殺するのを手助けしたとして、福島市永井川在住の無職岸波弘樹(36)が同31日に自殺ほう助容疑で田村署に逮捕されたことだった。

 被害者が一人ではないことが分かり、地元紙には「連続自殺ほう助」の見出しが躍るようになった。2月20日には、昨年5月下旬から6月下旬に喜多方市で男性2人が自殺するのを手助けしたとして嘱託殺人未遂と自殺ほう助容疑で再逮捕。岸波は昨年5月28日、県境付近にある福島市の山中で宮城県の20代男性から頼まれ、車内でロープや両手で首を絞めて殺害しようとしたという。男性から中止を求められ未遂に終わった。

 岸波は、あらためて同6月10~12日に喜多方市内の山間地にある集落の空き地で同じ男性と埼玉県の10代男性が練炭自殺する準備を教えたとされる。男性2人はテント内で練炭を焚き、一酸化炭素中毒で死亡。通行人に発見された。

 岸波は「一緒に自殺しませんか」と自殺志願者を装って標的に接近していたというが、一緒に死ぬつもりはなかったようだ。田村市で20代女性が死亡した事件では、女性のキャッシュカードを使って現金16万円を引き出したとして窃盗罪で起訴されている。

 性的暴行を受けた被害者もいた。今年4月3日には、不同意性交等、未成年者誘拐、自殺ほう助未遂の疑いで3回目の逮捕となった。昨年7月1日に自殺しようとしていた県内の18歳未満の女性を郡山市で自身の軽乗用車に乗せて連れ回し、喜多方市の山中でわいせつな行為をしたという。テントの中で七輪の練炭に火を付けたが、合流から約10時間後に女性は郡山市で解放され、同日中に郡山署に被害届を出した(福島民友4月4日付より)。

 事件は福島県内だけに収まらず、山形県にまで及んだ。今度は同県内の10代女性を車で連れ去ったとして、山形県警が5月13日に未成年者誘拐の疑いで逮捕した。女性は昨年9月に同県上山市の山間部の集落に設置されたテント内で遺体となって発見された。これで被害者は5人に上り、うち4人が死亡した。地元紙報道によると、岸波は他にもSNSで標的を漁り、被害者予備軍は複数いたという。

自殺ほう助事件の経緯

 岸波の素性については『週刊文春』5月29日号が詳しい。福島市で育ち、中学校ではテニス部だった。実家から程近い高校に進学したという。同級生の話として、市内のパチンコ店で働いていた時期があると伝えている。

大越町の旧宿泊施設

 自殺ほう助はなぜ半年間も露見しなかったのか。犠牲者を廃村や廃墟など、人が訪れない場所に呼び込んだためと考えられる。

 人口減少と高齢化により、県内では空き家が増え、定住者がいなくなった集落がある。観光地や山奥には営業停止した旅館・ホテルが点在。所有者と連絡が取れず、荒れたままになったところも多い。不法侵入を気にしなければ、よそ者が人知れず滞在できる場所は事欠かない。廃村や廃墟は若年層を引き付けるようで、ネット上では探索動画が人気コンテンツだ。集落の出身者や建物の所有者は複雑な気持ちかもしれない。

 よそ者が縁もゆかりもない場所にノスタルジーを感じて訪れてくれるならまだいい。中には、朽ち果てた建物に侵入して酒宴を開いたり火遊びしたりする様子を動画サイトに投稿する者もいる。(本誌2022年6月号「猪苗代〝廃墟ホテル〟で配信者が花火 5月の連続不審火を誘発!?」)

 自殺ほう助事件の現場となった田村市の林道は、大越町地区の旧宿泊施設の脇にある。地区内の男性住民が建物のいきさつを話す。

 「あの宿泊施設は30年ほど前に建てられ、温泉を引いてチャペルもあった。宴会や結婚式で賑わっていた時期があったよ。宿泊と言うよりは、地元住民が風呂に入った後に宴会を開くのが主だったな。郡山市の不動産会社が運営していたと聞いたが、いつの間にか閉業していた。今は心霊スポットとしてマニアの間で知られている」

 男性2人の死体が見つかった喜多方市の集落は、市街地から20分ほど山道を車で走ったところにある。隣の集落には人が住むが、岸波たちが滞在した集落は人の住む気配がない。ここも、ネットを検索すると廃村マニアが探索動画を上げている。今の時代、土地勘のない者がネットを頼りに、事件が露見しにくい人けのない場所を見つけるのは想像以上に容易になっている。

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