7月19日、東京千代田区の首相官邸に、中間貯蔵施設(双葉町、大熊町)から除染土壌が運び込まれた。「除染土再生利用」のためだ。これを皮切りに、国は除染土再利用を加速させたい考えだが、果たして上手くいくのか。
使用土壌は全体の500万分の1
東京電力福島第一原発事故を受け、放射性物質を取り除く除染作業が県内広範囲で実施された。これによって発生した除染土壌は、双葉・大熊両町に設置された中間貯蔵施設に運び込み、30年間(2045年3月まで)、適正管理した後、県外で最終処分することが決まっている。
一方、国は管理しなければならない除染土壌の容量を減らすことで、県外最終処分を受け入れてもらいやすくしようと、放射性セシウム濃度が1㌔当たり8000ベクレル以下の除染土壌を公共事業などで使用する「除染土再利用計画」を進めている。最近ではこの計画ついて、環境省は「除染土壌の復興再生利用」というフレーズを使っている。
同計画に関しては、これまでに南相馬市や飯舘村で実証事業を行ってきた。ほかにも実証事業の計画はあったが、近隣住民の反対を受け、計画を断念した経緯がある。二本松市原セ地区の市道整備で路床材として用いる実証事業(詳細は本誌2018年7月号でリポート)、南相馬市小高区の羽倉地区周辺で、常磐道拡幅工事の盛り土に使う実証事業(同2019年2月号)などがそれに当たる。
県外でも、埼玉県所沢市と東京都新宿区で実証事業計画があったが、同様の理由で進んでいない。県外での実証事業は施工予定業者との契約が破棄になり、事実上の白紙状態になっている。
そんな中、除染土再利用の「本格運用」の最初となる事例が7月19日から始まった。場所は首相官邸で、前庭に60㌢の深さで除染土壌を入れ、通常の土を20㌢以上かぶせる形で、すでに工事は完了している。
環境省「中間貯蔵施設情報サイト」には次のように記されている。
《東日本大震災により発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故後の環境再生に向けた除染により、大量の土壌が発生しました。この土壌は福島県外で最終処分することとなっています。最終処分の実現に向けては、最終処分する土壌の量を減らすことが重要であり、放射能濃度の低い土壌を公共事業等で利用する(復興再生利用)の推進が鍵です。また、最終処分・復興再生利用の必要性・安全性の理解醸成が重要です。このため、復興再生利用の取り組みについて、まずは首相官邸から進めてまいります》
同サイトによると、放射線量は施工前が0・7〜0・10マイクロシーベルト、施工後が0・11マイクロシーベルト(8月22日測定)という。若干、放射線量が上がっているが、これは除染土壌を搬入した影響なのか、測定誤差なのかは分からない。今後も定期的に環境モニタリング結果が公表されることになっているので注視したい。
問題の本質
今回の件を受け、県外での除染土再利用に反対の意向を示し、環境省と直接交渉などを行ってきた市民グループ「放射能拡散に反対する会」の関係者は次のように話した。
「この件の本質は、汚染土壌(放射能汚染廃棄物)のクリアランスレベルの問題や、安全性の問題、放射性物質汚染対処特措法の解釈を捻じ曲げていることなどです。だから、われわれは県外での除染土再利用に反対し、環境省と話し合いをしてきました。ただ、首相官邸や霞が関でやるとなれば、近隣に人が住んでいるわけではないから反対運動は起こりにくい。それが狙いでもあるんでしょうけど、問題の本質が解消されたわけではありません」
確かに、「放射能拡散に反対する会」が環境省との直接交渉で指摘してきた汚染土壌(放射能汚染廃棄物)のクリアランスレベルの問題や、安全性の問題、放射性物質汚染対処特措法の解釈を捻じ曲げていることなどが解消されていない以上、「首相官邸など、近隣に人が住んでいないところであればいい」という問題ではない。
そもそも、今回、首相官邸に運び込まれた除染土壌は約2立方㍍という。一方、今年5月末までに中間貯蔵施設に運び込まれた除染土壌は約1411万立方㍍で、このうち再利用が可能なのが1000万立方㍍程度とすると、今回使用されたのは500万分の1に過ぎない。
この先、今回の500万倍の再利用先があるのか、さらには最終処分の容量が少なくなったところで、最終処分場を受け入れてもいいというところが出てくるのかは不透明と言わざるを得ない。
結局のところ、首相官邸での除染土再利用は、近隣に人が住んでいないため、反対を受けにくいことから、最初の実績づくりとして行われたに過ぎない。
そんな中、環境省は8月18日、福島市のコラッセふくしまで「県外最終処分に向けた環境省の取組についてのパネルディスカッション」を開催した。福島県出身のタレント・なすびさんや長崎大原爆後障害医療研究所の高村昇教授らがパネリストとなり、再生利用の必要性や基準値の妥当性などについて議論を交わした。
ある参加者は「言ってみれば、アルプス処理水の海洋放出のときと同じで、『除染土再生利用は必要だからやります。理解してください』というだけの会合だった。今後は除染土再利用のプロパカンダが始まるのではないか」と感想を述べた。
一方で、一般の参加者からは「全国に除染土をばら撒くのはおかしい」、「最終処分の場所は決まったのか」といった意見が出たという。
国は、8月中に最終処分に向けた今後5年間の工程表を示す、としていた。8月25日時点ではまだ正式に工程表は公表されていないが、同22日ごろからマスコミ各社が「概要が判明した」として、その内容を報じている。それによると、最終処分場の候補地選定や調査は2030年ごろから行われるという。
本誌で再三指摘しているように、除染土再利用によって管理しなければならない除染土の容量を減らしたところで、最終処分場を受け入れてもいい、というところが出てくるとは思えない。そう考えると、「除染土再生利用は除染土を全国にばら撒くだけ」といった意見はその通り。まずは県外最終処分の道筋を付けることに全力を注いでもらいたい。

























