敵地ファンも魅了する郡山のボクサーたち

 県内でユニークな活動をしている人にインタビューして掘り下げる本シリーズ。2回目は県内唯一のプロボクシングジム「Dangan郡山ボクシングジム」に所属するプロボクサー2人に話を聞いた。普段は地元企業で働き、夜にジムで練習を重ねる。試合は大都市圏で行われるため、遠征することがほとんどだ。そこまでして、なぜ彼らは戦い続けるのか。

県内唯一のプロボクシングジムに密着

DANGAN郡山ボクシングジムに所属する池上渉選手(写真右)
DANGAN郡山ボクシングジムに所属する池上渉選手(写真右)

 記者が小学生だったころ、ボクシングの世界タイトル戦が頻繁にテレビで放送され、WBC世界ミニマム級王者の井岡弘樹さんや大橋秀行さん、WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎さんの試合に熱狂した。

 周りにボクシングジムがなかったので、大都市圏に住む人しかボクサーになれないと思い込んでいたが、最近、県内にもプロボクシングジムがあることを知った。それが郡山市安積町日出山のDANGAN郡山ボクシングジムだ。

 プロボクシングのプロモートやジム運営を手掛ける「DANGAN」グループ傘下で、ジムを率いる会長は郡山市出身の元プロボクサー・鈴木拓也さん(49)。現在は約20人のボクサーが所属しており、プロボクサーと同じ空間で練習できるのが大きな魅力だ(巻頭グラビア参照)。

 ジムを代表する選手は、日本スーパーバンタム級ランキング9位の二瓶竜弥選手(27)と、6月まで日本バンタム級ランキング13位だった池上渉選手(35)だ。戦績は二瓶選手が17戦12勝(4KO)、池上選手が23戦11勝(7KO)。

 多くのボクシング興行は大都市圏で行われているので、同ジムの所属選手は常に遠征して試合に臨んでいるが、2人はボクシング界で広く知られる存在となっている。

 東京・後楽園ホールや関西で取材するボクシングライターの一人は、両選手の魅力を次のように評する。

 「二瓶選手、池上選手とも、基本的に『全戦アウェー』で戦ってきたわけです。そして、アウェーに呼ばれる場合、普通は主催者側の選手が赤コーナー、彼らが青コーナーになります。『赤の選手が勝ってくれれば』という思惑で組まれた試合の多くを、彼らはひっくり返してきました。特に関西地方や愛知県での興行で大暴れし、敵地にもファンを作ってきました。『ほとんど全てが不利予想の試合だった』と考えて、彼らの戦績を眺めてみると、その数字が違ったふうに見えると思います」

 昨年と今年の7月、郡山市でDANGANグループによるボクシング興行が開催され、同ジム所属選手が激闘を見せて大いに盛り上がった。メーンイベントを務めた二瓶選手は2年連続でTKO勝ちを果たし、観客と勝利を分かち合った。

 「二瓶選手には大物感があり、日本チャンピオンになる素質があると思います。日本ランキング入りする前から、業界内で強いと評判になっていました。対戦した選手に聞くと、『とにかく腕が長く、距離が遠い』と。4団体世界チャンピオンの井上尚弥選手が君臨するスーパーバンタム級は、国内戦線もレベルが高いのですが、日本ランカーの中でも最も身体的に恵まれた一人といえます」(前述・ボクシングライター)

 2020年度の東日本新人王決定戦では決勝まで進出し、二瓶選手とスパーリングをするため県外から訪れる選手もいるほどの注目の存在だが、インタビューでは「地元興行の前はメーンイベントの重圧で眠れない日が続きました」と素直に明かす面も併せ持つ。

 郡山市出身。中学1年生のとき、前述した辰吉選手の過去の試合をテレビで見て、その面白さとカリスマ性に魅了された。中学2年生になってからダイエットを兼ねて、現在のジムの場所にあったアマチュアボクシングジムに通い始めた。高校2年生でプロを目指し、高校3年生でプロライセンスを取得、卒業前にプロデビューを果たした。

 昼間は郡山市の田母神建設(田母神達雄社長)で働きながら、夜や休日にジムで練習を重ね、試合の日は有休を使って遠征する。会社はプロボクサーとして活動することに理解を示しており、地元興行には2年とも同僚が応援に駆け付けていた。

 地方を拠点にプロボクサーとして活動するのは楽ではない。大都市での試合に向かうため、長距離移動とホテル宿泊を余儀なくされ、肉体的にも金銭的にも負担が大きい。当然、地元から足を運んで応援してくれる人は限られるし、スパーリングの相手も少なくなる。

 だが、二瓶選手は「それでも、郡山を離れるつもりはありません。郡山のこのジムで強くなっていくことに意味があると思っています」と断言する。10月に予定されていた試合は対戦相手のけがのため流れたが、今後も激戦区・スーパーバンタム級で注目される存在となりそうだ。

友達100人超が来場

長く伸びるパンチが二瓶選手の魅力
長く伸びるパンチが二瓶選手の魅力

 そんな二瓶選手と連日のようにスパーリングで拳を交わしているのが、ジムを代表するもう一人の選手、池上選手だ。こちらは11月に試合が決まり、取材時の練習にも気合がみなぎっている様子が伝わってきた。6ラウンドにわたり、1階級上の二瓶選手と全力で打ち合う。その姿を見ていると、ダメージが残らないか心配になるほどだ。

 池上選手は地元興行で2年連続セミファイナルを務めた。残念ながら勝利を挙げることはできなかったが、パンチをもらうのをいとわず果敢に相手の懐に飛び込み、鋭いパンチを放つ姿は会場を熱狂させた。その好戦的なファイトスタイルもさることながら、驚かされたのは人気の高さ。試合前から大歓声が上がり、全試合終了後に興行全体の感想を聞こうと複数人に声をかけたところ、ことごとく池上選手の知り合いだった。

 ジムでの練習の合間、池上選手にそのことを伝えると「仕事関係の人や地元の友達など100人以上に来てもらい、試合を見てもらえたので本当に良かったですよ」と人懐こい笑顔を見せた。周囲から愛されていることが伝わってきた。

 前出・ボクシングライターも池上選手のファンになった一人だとか。

 「私が池上選手を初めて見たのは和歌山市の会場で、相手の関西の選手を攻めまくってKO勝ちした試合でした。戦い方は『激闘スタイル』で、体は大きくないのですが、勝っても負けても、その日の興行で一番盛り上がる試合をする選手です。一方で、リングを降りると口調は優しく、冗談も言います。私が持っている理想のプロボクサー像そのものです(一度、後楽園ホールの近くでお茶を飲んだ時の印象とのこと)。後楽園ホールで試合をした後は『時間がもったいない』と夜行バスで地元に帰るそうで、エネルギーに満ちあふれている人だと思います」

 池上選手は郡山市出身。岩瀬農業高卒業後、先輩に誘われ趣味の延長でボクシングを始めた。普段は電気工事業㈲マスデン(郡山市、増戸芳政社長)で働き、夕方からジムに足を運び、数㌔のロードワークやスパーリングを行う。

 現在は実家を出てジム近くのアパートで1人暮らしをしている。池上さんの両親は全国で行われる試合に可能な限り足を運んでくれているという。

 子どもがプロボクサーとして戦い続けることをどう思っているのか、父親に尋ねたところ、こう話した。

 「ボクシングはKOするときもあれば、されるときもある。プロボクサーになると本人から報告はあったが、こちらからは特に何も言わなかった。基本的に本人の判断に任せています。特別な才能があったとは思っていませんが、高校時代、野球部に所属していたときから練習着などの洗濯や料理は自分でやっていた。仕事をしながら10年以上休まずに練習し、自己管理を続けているのだから、プロボクサー向きの性格なんだろうと感心して見ています」 

 勤務先の増戸社長も池上選手の真面目さを評価する。

 「渉くん(池上選手)とは2人で10年近く一緒に仕事をしているが、働きながら仕事関連の資格を取得し、ジムにも毎日のように通い続けている。目標を立ててストイックに取り組み続ける姿勢には脱帽です。頑張っているので、試合の際はできるだけ応援に行っています」

 池上選手は試合に合わせて5、6㌔の減量が必要となる。食事の量を減らしつつ、筋肉量やスピードを落とさないよう練習の量や強度を上げていくため、必然的にけがのリスクも高まるが、自分を律して自己管理しながら長年試合を続けるのは、それだけで一つの才能と言える。

11月に後楽園で次戦

作業着で取材に応じる池上選手
作業着で取材に応じる池上選手

 プロボクサーの年齢制限はかつて37歳までとされていたが、2年前に撤廃された。現在35歳の池上さんに、あえて今後の目標について話を聞いたところ、「いつまでもできるものじゃないし、次が最後でも全然おかしくない」と心境を明かした。

 一方で、まだまだ自分に〝伸びしろ〟を感じているとも言う。

 「地元興行で試合した相手選手は前評判が高く、実際かなり強くて負けてしまったのですが、『やり方次第でもっとうまく戦えた』という思いもあります。当面は11月の試合に向けて集中し、全力で練習に取り組んでいきます」

 「最初はこんなに続けるつもりじゃなかったんですけどね」と笑いながらも闘志を燃やす池上選手。始めたきっかけは「何となく」だったという。だが、同じジムの仲間と毎日のように練習して高め合い、地方ゆえの不利も嘆かず、アウェーのリングで牙をむいてきた。積み重ねてきた人生をかけてリングに立つ興奮と、勝利した瞬間に押し寄せる歓声がボクサーたちをリングに向かわせるのだろう。今日も池上選手は同志である二瓶選手と激しいスパーリングをこなす。

 ボクシングに専念するため高校を中退し、16歳でプロライセンスを取得した同ジム期待の星・箭内皇成選手。憧れの選手を尋ねたところ、「いつも近くで練習する姿を見ている二瓶プロと池上プロです」と答えた。2人の戦う姿に憧れた地元出身の若い選手が育ちつつある。「郡山にこのジムあり」と呼ばれる日は近そうだ。

 池上選手の次戦は11月11日、東京・後楽園ホールで予定されている。対戦相手は岸部久也選手(27、角海老宝石ジム)。13戦7勝(4KO)と決定力が高いだけに、激しい攻防が予想されるが、アウェーのファンをも魅了する戦いを見せてくれるに違いない。

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