矢吹町が取り組んでいる「スポーツ×デジタル振興プロジェクト」について、町議会12月定例会一般質問で議員がその是非を問うシーンがあった。厳しい財政状況で敬老会の予算まで削られる一方で、同プロジェクト関連事業はコンサルに多額の業務委託料を払って続けられてきた。12月定例会で具体的な数字が明らかになったので紹介したい。
財政難の中でコンサルに高額委託料

矢吹町スポーツ×デジタル振興プロジェクトは、スポーツとデジタルを掛け合わせ、スポーツヘルスケア関連のイベント開催、デジタル技術による体のデータ分析などを通じて、スポーツ振興や健康維持、交流人口拡大につなげるという事業だ。
デジタル田園都市国家構想交付金(地方創生推進タイプ)の交付対象で、2023年度から3年間にわたり事業に取り組んでいる。初年度にはスポーツ庁の「スポまち!長官表彰2023」を受賞した。
同町の最上位計画である第7次まちづくり総合計画でも、3つの重点プロジェクトの1つに位置付けられている。プロジェクト3年目となる今年度は拠点施設「(仮称)スマートパーク」の整備を予定しており、蛭田泰昭町長は本誌昨年3月号のインタビューで次のように話していた。
「スポーツデジタル振興プロジェクトを推進する拠点となる施設を造りたいと考えています。子どもたちの運動能力を腕時計型の機器で計測し、データに基づいた適切なスポーツ指導を行うなど、スポーツとデジタルを融合した様々な取り組みを行っていきます」


拠点施設「(仮称)スマートパーク」はトレーニングスペースを備えた延べ床面積約200平方㍍のクラブハウスと、屋外での運動・イベントなどに使えるマルチフィールドを備える。町生涯学習課によると、総事業費約2億3000万円。予定地は、JR矢吹駅近くの複合施設「KOKOTTO(ココット)」の駐車場の一角で、町は約4000万円で土地を取得していた。
昨年5月に同施設の基本計画が公表され、パブリックコメントを実施したところ、「新しい施設ができればその分ココットの駐車場が減ってしまう」、「町民から要望があった施設なのか」などの意見が寄せられた。
同6月に設計・施工一体型の公募型プロポーザル公告を行ったが不調に終わり、設計・施工を分離発注する形で仕切り直すことになった。その際、パブリックコメントの意見を反映し、配置計画を一部修正。マルチフィールドを駐車場としても利用できる形に変更して、北側(ココット側)に配置した。
結果として、この判断が想定外の問題を招いた。翌年度以降に予算を繰り越す「事故繰り越し」申請のため、交付金窓口の県と相談した際、「建設する建物は交付金の申請時の内容と同一でなければ交付金対象とならない」と定められていたことが判明したのだ。
パブリックコメントの意見を無視することはできないし、交付金を活用しなければ財政負担が大きくなる――そこで町は整備計画を見直し、今年度はセミパーソナルトレーニング、企業向けヘルスケア指導などのソフト事業を進めることにした。
町議会9月定例会の一般質問では、町執行部の〝お粗末対応〟を問題視する意見が続出。「住民の意見を聞かず、一部の関係者だけで整備を決めたのが問題だったのではないか」、「そもそも少子高齢化が進む中で本当に必要な投資と言えるのか」と、スマートパーク整備の意義を問う声が上がった。
続く12月定例会でも三村正一町議(3期)がスマートパーク関連の質問を行い、町執行部は▽来年度はスマートパーク整備に関する予算は計上しない、▽地域おこし協力隊と町職員が中心となり、ソフト事業を中心に進めていく――という方針を明かした。
問われる費用対効果
議会でのやり取りで興味深かったのは、同プロジェクトの構想・事業計画策定、ソフト事業、スマートパーク整備などを進めるに当たり、コンサル会社にいくらで業務を委託したのかが明かされたことだ。
業務を委託したのは、広島市のみらい㈱(妹尾暁代表取締役CEO)。地方創生に関するコンサル事業、スポーツビジネス事業、人材育成事業を手掛ける。同社はデジタル田園都市国家構想推進交付金事業の採択に向けて、実施計画書を検討する過程から参画していたこともあって、随意契約で委託先に決まった。
以下、業務内容と委託金額を列挙する(1000円以下は切り捨て)。
【2023年度】
〇プロジェクトの企画・立案・構想策定 385万円
〇ソフト事業の実証事業企画・実施、スポーツイベントの開催、ハード整備の企画検討 3578万円
【2024年度】
〇プロジェクト推進事業体の設立支援、ソフト事業の展開、トレーナー人材育成支援、スポーツイベントの開催・情報発信 956万円
〇ハード整備の基本計画策定 536万円
【2025年度】
〇プロジェクト事業体の自走に向けた支援、人材育成支援、ソフト事業の開発、スポーツイベントの開催 990万円
※施設整備見直しに伴い1892万円から減額
各年度のハード・ソフト事業別業務委託料と、この間の事業費の財源内訳は次頁のグラフの通り。デジタル田園都市国家構想交付金の対象と言っても、46・5%は町の一般財源で賄われていることが分かる。
本誌の手元に、2023年度に行われたソフト事業をまとめた文書がある。個別プログラムにどれぐらいの費用がかかっていたのか、書き出してみる(カッコ内は参加者とプログラム実施回数)。
〇体力・運動能力向上
スポーツテストを可視化してデジタル連携により的確なアプローチを実現する(三上小2年生、2回) 356万円
〇タレント発掘事業
潜在能力の高いタレントを見出し優れたコーチから質の高い育成プログラムを提供する(矢吹中陸上部、ソフトテニス部、3回) 290万円
〇スポーツを活用した英語教育
子どもの体力・運動能力低下の課題解決と同時に英語のアウトプット能力向上を目指す(三上小3年生、2回) 356万円
〇ヘルスケア
機能改善プログラムを実施し失われた動きを取り戻し心も体も健康にする(矢吹スポーツクラブ会員、2回) 356万円
〇ジュニアアスリート活動支援
トップアスリートを指導するトレーナー、管理栄養士による競技力向上を目的とした支援を行う(矢吹中バレーボール部、2回)
278万円
〇研修教材作成 184万円
2、3回のスポーツイベントに300万円前後の費用がかかっていることに驚かされる。関係者によると、「体力・運動能力向上」の三上小2年生の参加者は12人だったという。1人当たり30万円近くかかっている計算だ。スポーツを通した人材育成やヘルスケアの重要性は理解しているが、一般的な感覚からするとかなり高額と言わざるを得ない。
前出・三村町議からも「単価がかなり高いのではないか」と費用対効果を問う質問が出た。
これに対し町の答弁は以下の通り。
「単に授業の回数だけでなく、それに至るまでの準備、資材、日程調整、指導の内容確認、学校向けプログラム、教材の提供などの業務が費用に含まれている」
「この事業は先進的な取り組み。企画や他の事例の情報などを含めた、それなりのノウハウを持っている業者でなければ当初の事業開始は難しかったため、専門的な知識を持つ当該業者との契約に至った」
加えて町は、スポーツを通じた健康増進が将来的に医療費の抑制など財政面に好影響をもたらすこと、ジュニアアスリート支援が定住人口の増加に資することなど、長期的な視点でのメリットも強調する。
要するに、かなり業務委託料が高額に見えるソフト事業だが金額に見合う価値があり、費用対効果としても問題はない、と主張しているのだ。
みらいの社員は、国が派遣期間の給与などを支援する「地域活性化企業人制度」を用いて、町企画・デジタル推進課で2人が勤務していた。役場内に入り込んで同プロジェクトを進めていたことになる。
カットされた敬老会予算


それだけ蛭田町長にとって肝いりの事業であることが伝わってくるが、一方で町の財政は決して余裕がある状況ではなく、明確な効果が見えなければ即不満につながる。
町広報11月号によると、2024年度の実質公債費比率は10・4%で、早期健全化基準(25%)は下回っているが、2023年度末に10億3000万円あった財政調整基金は2024年末に約4億円にまで減少した。物価高騰や労務単価上昇による歳出増加に地方税や地方交付税などの歳入が追い付かなかったのが原因だ。
蛭田町長は震災・原発事故、コロナ禍などへの対応で予算額が膨らんでいた「有事」から、「新たな『平時』」に転換し、財政規模の適正化を図っていく考えを述べている。
その一環として予算見直し・行政運営の効率化が進められ、敬老の日に行われる「敬老会」の予算が400万円減額されたほか、例年75歳以上の高齢者に贈られていたカステラ(配布費用433万円)も見直された。このほか矢吹太鼓祭り中止、フロンティア祭り予算カット、高齢者向け生涯学習事業・ことぶき大学予算縮減なども進められており、不満を募らせている町民は少なくない。
そうした中で、スポーツ×デジタル振興プロジェクトには潤沢な予算が投じられているわけで、このプロジェクトをそこまで特別扱いする必要があるのか、という疑問の声も出始めている。
12月定例会では青山英樹町議(5期)が「歳入身の丈の行政」に合わせた住民サービスの最適化を呼び掛けたところ、蛭田町長はこのように答弁した。
「短期的な財政の均衡だけを重視するのではなく、成長分野などの将来世代を見据えた投資や、持続可能なまちづくりの視点も欠かすことはできない。長期的な展望を持ち、必要な政策を計画的に進めていくことが、結果として町全体の成長と安定につながる」
町内の事情通はこのように話す。
「スマートパークに関しては町内にも民営のジムがあるのにわざわざ建てる必要があるとは思えないし、費用対効果がどれだけあるのかも不透明。一般財源が投じられる予定だったとのことですが、負担の公平性という意味でも疑問です。町のAI活用型オンデマンドバス事業も利用者が少なく、スマートパークと似た状況になっている。行政としてどう事業にかかわっていくか、あらためて議論する必要があると思います」
残ったのは土地とノウハウだけ
12月定例会閉会後、議会で同プロジェクトやスマートパークに関する質問が出たことについて、あらためて蛭田町長に受け止めを尋ねたところ、町生涯学習課を通して以下の回答が寄せられた。
《「スポーツ×デジタル振興プロジェクト」における「(仮称)スマートパーク整備」等の必要性については、スポーツや運動を軸に多様な交流が生まれ、人と町を育む場となるよう本プロジェクトの拠点施設として、「(仮称)スマートパーク」の整備を進めてまいりましたが、事業計画を見直し、今年度の施設整備は見送ることとしました。
施設整備の見直しに伴い、今年度に実施するソフト事業の内容についても精査し、来年度以降も継続して取り組める形で当初の事業計画を見直しました。
様々な御意見、御質問があることについては、真摯に受け止めており、まずは、本プロジェクトの必要性について町民に広く理解していただき、実際に体感していただくことに重点を置いて、取り組みを進めてまいります》
《本事業は、先進的な取り組みを行うことで、事業を進め、拠点施設を中心に、町民の健康づくりや体力向上を図るとともに、地域の活力創出につなげることを目的として、段階的に取り組んできた事業であります。しかしながら、施設整備の見直しに伴い、ソフト事業についても一から見直しを図り、今後の町民理解の浸透を進め、事業をより身近に感じてもらえるよう取り組んでまいります》
みらいにも、今回の議会で費用対効果などが注目されたことについてコメントを求めたが、《お問い合わせいただいた件につきましては、弊社として回答を控えさせていただきます》との返答が寄せられた。
多額の費用を投じて進められている同プロジェクト。結局、スマートパークは整備されず、残ったのは約4000万円で購入した土地と、みらいから学んだノウハウだった。高い勉強代だったとみるべきか、自前でスポーツイベントをやれるノウハウが身について有意義だったとみるべきなのか。今後も続けるのであれば、町民が望む事業なのかどうか、という点がポイントになるだろう。

























