いわき市が「情報公開後進自治体」の汚名返上

 いわき市は行政文書の開示手続きを定める情報公開条例を来年4月に改正し、これまで主に市内在住者しか認めていなかった開示請求権を拡充、何人(なんぴと)にも保障する。条例制定から27年が経ち、市政情報へのアクセスを制限することはデジタル化や境界を越えた活動が当たり前となった社会にそぐわなくなっていた。他の中核市に遅れを取り悪目立ちしていたのも一因。改正後は研究者の調査の他、オンブズパーソンや報道機関による行政監視への活用が想定される。

開示請求権者制限を撤廃へ

 情報公開制度とは、行政機関が保有する「行政文書」の開示を個人や法人が請求する制度。ここで言う行政文書とは、職員が職務上作成したり取得したりした文書や図画、電磁的記録を言う。業務上用いるメールのやり取りや音声、画像、動画も業務として用いていれば行政文書に当たる。

 日本では、まず先進的な自治体が整備を始め、2001年に国が国家機関の行政文書の開示手続きを定めた情報公開法を施行。同法では何人にも開示請求権を保障し、地方自治体は制度整備を進めるよう努力する旨が定められたので、各自治体はこれに準じた条例を制定している。

 各自治体はPRに力を入れているが、当然のごとく行政側が伝えたい情報しか発表されない。だが、本来行政に関わる情報は、国民や住民などの主権者、納税者が知りうるべきものだ。情報公開制度では、行政機関に請求し、プライバシーに関わる個人情報などを除いた上で開示が受けられる。

 この制度の意義は行政の透明性を高め、民主主義を支える点にある。主権者や納税者から監視の目が届かない権力機構は好き放題が可能で、腐敗を迎える。そのため、法令遵守と行政手続きの検証を可能とするように、その過程は記録に残すことになっている(文書主義)。同制度を利用することで記録の閲覧ができ、開示決定が恣意的な運用がなされない限り、理論上、公の業務はチェックにさらされることになる。

 本誌は取材手法の一つとして、各自治体に情報公開請求してきた。障壁だったのが、条例で開示請求権者を「住民のみ」としている自治体が現存することだった(表参照)。本誌の事務所は福島市にあるので、「住民のみ」としている自治体にはそもそも開示請求できない。

市町村開示請求権者歳入に占める地方交付税(%)
福島市何人も11.3
伊達市何人も27.7
桑折町制限35.9
国見町何人も38.3
川俣町制限(任意開示)29.2
二本松市制限(任意開示)27.3
本宮市制限16.8
大玉村制限(任意開示)34.4
郡山市制限(任意開示)9.1
須賀川市制限(任意開示)23.6
鏡石町制限(任意開示)23.9
天栄村何人も37.1
石川町制限(任意開示)31.9
玉川村制限38.0
平田村制限(任意開示)44.6
浅川町制限40.4
古殿町制限(任意開示)48.3
田村市制限(任意開示)32.9
三春町制限(任意開示)29.1
小野町制限40.5
白河市制限(任意開示)21.3
西郷村制限(任意開示)6.2
泉崎村制限(任意開示)28.8
中島村制限(任意開示)40.1
矢吹町制限(任意開示)22.1
棚倉町制限(任意開示)29.0
矢祭町制限36.2
塙町制限(任意開示)39.0
鮫川村制限(任意開示)51.2
会津若松市制限18.3
喜多方市制限(任意開示)35.8
北塩原村制限(任意開示)50.9
西会津町制限(任意開示)47.4
磐梯町制限38.8
猪苗代町制限(任意開示)39.9
会津坂下町制限(任意開示)35.6
湯川村制限49.9
柳津町制限(任意開示)52.2
三島町制限(任意開示)50.6
金山町制限48.7
昭和村制限(任意開示)60.3
会津美里町制限(任意開示)38.0
下郷町制限43.2
檜枝岐村制限(任意開示)41.0
只見町制限54.8
南会津町制限(任意開示)50.0
いわき市制限10.6
相馬市制限(任意開示)28.2
新地町制限(任意開示)30.6
飯舘村制限(任意開示)24.0
南相馬市何人も20.1
広野町制限(任意開示)5.5
楢葉町制限(任意開示)11.5
富岡町制限(任意開示)16.1
川内村制限(任意開示)20.5
大熊町何人も10.8
双葉町制限(任意開示)11.0
浪江町制限(任意開示)18.0
葛尾村制限(任意開示)23.7
出典:福島県「2022年度財政状況資料集」普通会計の状況
地方交付税は普通交付税、特別交付税、震災復興特別交付税で構成
22年度は広野町、大熊町、新地町は普通交付税の不交付団体

開示請求権者を制限する東北の自治体数   ※カッコ内は自治体総数

青森県14(40)
岩手県4(33)
宮城県7(35)
秋田県13(25)
山形県11(35)
福島県55(59)
中林純教授の調査結果(2022年11月時点)を基に作成
初報は河北新報同月11日付


 表中にある「任意開示」とは行政の裁量で開示に応じることで、何人にも開示請求を権利として認めているわけではない。そのため、不開示決定などに不服を申し立て、諮問機関が是非を判断する審査請求ができない。開示請求の実際の場面では、担当者が法令や開示を巡る司法判断を熟知しておらず、恣意的な運用も少なくないので、審査請求は情報公開制度を少しでも内実が伴ったものにするために欠かせない仕組みだ。

 いわき市は請求権者を「住民のみ」に制限し、なおかつ任意開示すら認めていない珍しい自治体だ。国が情報公開法を制定するより前の1998年に条例を施行し、その時点では先進的だったが、請求権者を「市民のみ」に定めた条文が時代に取り残されていった。県内第2位の経済規模で、1999年に中核市に移行された同市は多くの権限が委譲され、市外にも大きな影響力を及ぼす自治体だ。にもかかわらず27年もの間、情報公開制度の改正を進めなかったのは、民主主義を守る仕組みを整備する意識が低く、怠慢だったからにほかならない。

 遅ればせながら、いわき市は情報公開条例を改正し、何人も閲覧できるように来年4月から施行する予定。2024年から市の諮問機関「情報公開・個人情報保護審議会」が開示請求権者制限の撤廃を念頭に議論を重ねてきた。

 条例改正を初めて審議した同年1月の会合では、事務局(総務課)が委員たちに説明した開示請求権者の制限を撤廃する目的を説明した。目的は主に次の二つ(同年1月15日の審議会資料より)。

 ⑴「情報の共有」や「連携」などを基本原則に定めた「いわき市以和貴(いわき)まちづくり基本条例」に則り、情報公開制度をより利便性が高く、開かれたものとする。

 ⑵デジタル社会と経済活動の広域化で市政に関する情報を必要とする者は市民に限らない。移住定住や境界を越えた商工・観光業の進展からも影響力は市外に及び、誰もが情報を入手する機会を保障する必要がある。

 もっともらしいが改正の真の理由はどちらでもないと本誌は考える。末尾に書かれた一文に真実味がある。

 《なお、国に先立ち全国の自治体が情報公開条例を整備した後に、情報公開法において各自治体は法の趣旨にのっとった情報公開制度の実施が求められたことを受け、他の自治体においては法に準じた条例の制定や改正が行われている》※傍線部本誌注

 表から一目瞭然のように、いわき市は「情報公開後進自治体」として悪目立ちしている。市が照会した2024年の時点では、中核市の中で任意開示すら認めていないのは、いわき市、秋田市、岡山県倉敷市の3市のみだった(25年度現在も同じ)。

市政課題が客観的に浮き彫りに

 審議会では6回以上にわたって議論され、条例改正案の方針がまとまった。開示請求権者の制限撤廃を前提として、それによって生じうる業務負担の算定や手数料徴収の是非を話し合った。現行では請求手続き自体は無料。これとは別に文書の複写をもらう場合には1枚に付き10円の実費を支払う。

 いわき市の場合、これまでの開示請求者は入札に参加する事業者がほとんどだった。2018年度は575件中65・9%が金入設計書。2022年度に1229件と2倍以上になったが79・9%が同様に金入設計書だった。大半は建設業者が落札するために経済活動の一環として利用しているということだ。

 そのため、委員からは営利目的の請求には手数料を課すべきとの意見が挙がった。「市外からの請求が増えればリソースが割かれるので、受益者負担として請求には手数料を課すべき」、「市税を払って運用されるのだから、市外の請求者にのみ手数料を課してはどうか」との意見もあった。

 ただ、事務局から次のように原則論を説明されると、手数料負担は重要な論点ではなくなった。

 「理論的には、利害関係を有しない者の調査や研究によって、市政の問題や課題などが客観的に浮き彫りになり、結果として市政向上につながることが考えられる。本市条例の目的に『市民の的確な理解と批判』 とあるが、これらの前提となる知識や情報が市外の方からもたらされる可能性があるというのが、請求権者拡大の目的になると思う」

 事務局は、そもそも開示請求への対応は通常業務として捉えているという見解を示した。請求に手数料を課しているのが中核市では8市と少数なこともあり、条例には盛り込まないことになった。

 審議結果を受けて、市は10月8日から28日にかけて改正への意見(パブリックコメント)を募集した。市ではこの結果を踏まえ、来年2月の市議会定例会に条例改正案を提出する見込み。

 パブリックコメントでは次の改正部分について意見を募集した。

 ①開示請求権者を「市民のみ」などに制限した条文を改め「何人も」に保障することについて

 ②市政情報の透明化という制度の趣旨に則った「適正な請求」を行うよう請求者に求める規定

 ②は、職員に業務負担を与えるのが目的で数万枚単位の文書を請求するなどカスタマーハラスメントが他自治体であったことが念頭にある。例外中の例外だ。

 本誌もパブリックコメントを提出した。改正されたらいわき市民の的確な理解と批判のために活用し、市政に還元していきたい。

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