南相馬市の常磐自動車道南相馬鹿島サービスエリア(SA)がにわかに注目を集めている。市と民間で計96億円を投資し、SA周辺を開発する計画が動き出そうとしている。好調な売り上げと高い集客力を誇る同SAのポテンシャルを生かすため、2022年から調査・研究が進められてきた。他に例を見ない「まちをつくるSA」というコンセプトが目を引き、経済団体も早期着工を要望。しかし、市内の各界各層からは様々な反対意見が上がる。
旅館・ホテル業界から「民業圧迫」と反対の声

「もともとは南相馬市に合併する前の旧鹿島町時代に壮大な開発計画があったんです」
そう説明するのは、南相馬市の常木孝浩副市長だ。
「今から30年以上前に『常磐道が延伸した暁には鹿島町に浜通りを代表するSAをつくる』という方向で当時の町長や商工会長が各方面と調整したと聞いています」(同)
そして、2015年2月にスマートインターチェンジ(IC)が併設されてオープンしたのが現在の南相馬鹿島SAだ。その2カ月後にはSA内に商業施設「セデッテかしま」がオープン。同SAは常磐道を走るドライバーだけでなく、一般道からもアクセスできるため、平日も多くの市民で賑わっているが、
「鹿島の人たちには『あの場所を町を活性化させる中心にしたい』という思いがずっとあった。本来目指していた姿は今のSAとは比較にならない規模だったそうです」(同)
そういう話を鹿島区に行く度に耳にしていた常木副市長が、併せて聞かされてきたのが小高区に対する不満だった。
「鹿島の人たちは『小高ばかり復興が進んでずるい』というのです。実際はそんなことはないのですが、原発から30㌔圏内(小高区)か30㌔圏外(鹿島区)かで色々と差があるのも事実。そこで、鹿島の人たちが思いを寄せるSA周辺の開発を検討することになった」(同)
SA内で営業するセデッテかしまはコロナ禍には売上高が落ち込んだものの、2023年度は10億7000万円を計上し、利用者も150万人に達している。一方、混雑時は食堂が満席で利用できず、5月の連休や夏休みには本線まで車が渋滞するなど、施設狭隘や駐車場不足によるチャンスロスが発生。「今あるものを大事にしながら、さらに価値を高めていく」(同)観点から、市は大学や民間企業と連携し、2022年からSA周辺の開発に向けた調査・研究を進めてきた。
開発対象になるのは、SA周辺にある山林や畑など最大20㌶。調査・研究を経て、物販施設、飲食施設、宿泊・温浴施設、自然体験施設、野馬追伝承施設、花見山などの整備が構想に挙がった。
市が10月に作成した「南相馬鹿島SA周辺開発基本計画」説明資料によると、年間利用者数は250万人程度、年間売上高は33億円程度と想定。常磐道は今後、全線が4車線化される可能性があるが、その場合の利用者数の増加は想定に含んでいない。ただ、利用者の増加に備えて追加の駐車場・施設のための拡張余地が確保されている。
「開発対象を『最大20㌶』としているのは、20㌶を全て開発するのではなく、まずは必要な広さだけ開発し、利用者が増えたらさらに敷地を広げるためです」(同)
開発は官民連携で行うが、民間活力を最大限活用することを想定。初期投資は民間側が60億円程度、市側が36億円程度としている。市側の負担は補助金や合併特例債の活用、民間側からの利用料収入などにより実質的な負担はないという。
常木副市長が特に強調するのが事業コンセプトだ。計画では、地域にある魅力が来訪者に伝えきれていないとして①「『伝えたくなる』がたくさんあるSA」、自分が行きたいと思う場所、人を連れていきたいと思う場所がないとして②「一緒に育てるSA」、SAが持つ集客力を地域として生かすことができていないとして③「まちをつくるSA」という三つのコンセプトが掲げられている。
三つの中で、常木副市長が「他に例を見ない」と自信をのぞかせるのが③「まちをつくるSA」だ。
「従来のSAは休憩、食事、買い物、給油などが主な目的でした。新しいSAはそこに▽まちに人を送り出す、▽まちを再生する、▽まちと人材をシェアする、▽まちづくりの資金を獲得する、▽まちの伝統を継承するという機能を持たせたい」(同)
例えば、SAの来訪者を対象に野馬追やロケット発射見学ツアー、発酵や農をテーマにしたツアーなどを企画・開催する(=まちに人を送り出す)。移住者やUターン者を呼び込む際に課題となる働く場をSAにつくり、市街地や農村部の空き家、空き店舗の解消につなげる(=まちを再生する)。深刻化する人手不足に対応するため、特定地域づくり事業協同組合の制度を活用し、SAと事業所、農家、商工会などで人材をシェアする(=まちと人材をシェアする)。地域資源を生かしたふるさと納税向けの返礼品を開発し、まちづくりのための資金を市にもたらす(=まちづくりの資金を生み出す)。野馬追伝承施設を設置することで、初陣騎馬武者の増加や馬具・武具の修繕技術の継承を目指す(=まちの伝統を継承する)。
「このようなコンセプトで稼働している施設は全国に一つもないが、この間、様々な施設を視察し、関係者から成功例だけでなく失敗例も教えていただきました。得られた知見は計画に落とし込みます」(同)
これまでに、三重県多気町のテーマパーク「VISON」(2021年オープン)、静岡県島田市のフードパーク「KADODE OOIGAWA」(2020年オープン)、群馬県川場村の道の駅「川場田園プラザ」(1998年オープン)、山形県鶴岡市のホテル「SUIDEN TERRACR」(2018年オープン)などの先進地を視察してきた。
「初めての取り組みではあるが、地元にあるものを生かし、そこを起点に地域内に人、物、金、仕事の循環をつくるという発想なので、ゼロから新しいものを生み出す難しさにはならないと思っています」(同)
描いた通りの効果がもたらされるかは「正直、やってみないと分からない」(同)が、9月には原町商工会議所、鹿島・小高両商工会から早期着工を求める要望書が提出されるなど、地元経済界もSA周辺開発に期待を寄せていることが分かる。
市が30億円を無利子融資

しかし、市内の各界各層からは反対意見や懐疑的な見方も出ている。
元市長の櫻井勝延議員(3期)は次のように指摘する。
「市は『民間投資の60億円に市の金は入れない』としていたのに、ここにきて60億円のうちの30億円はふるさと融資(※)を行うと言う。その場合、市は融資金を調達するために市債を発行する。それに伴う利払い分の75%は交付税措置され、民間金融機関が連帯保証する制度になっているので(焦げ付いた際に)市が弁済する心配もないというが、結局は『市の金を入れる』ことを市民に説明しないのは不誠実だし、正しい情報発信ではないと思います」
※ふるさと融資=地域振興に資する民間投資を支援するため、都道府県または市町村が長期の無利子資金を融資する制度。一般財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)が地方公共団体から依頼を受け、事業の総合的な調査・検討や貸付実行から最終償還に至るまでの事務を行う。ふるさと融資の申込先は事業地の都道府県または市町村になる。
これに対し、門馬和夫市長は9月定例会で
「市の金を入れないと言ったのは建設費を補助するとか運営の赤字を補填するとかそういう意味であり、民間が何らかの補助制度を使うことは今後の協議の中で出てくるかもしれないと申し上げたはずだ」
と反論した。ふるさと融資は市の実質負担がないという意味で「市の金は入らない」と言いたかったようだが、市債を発行する時点で市の金が絡むわけで、市民への説明としては丁寧さに欠ける。
櫻井議員は大熊町が整備を計画する道の駅も懸念材料に挙げる。
「常磐道大熊IC周辺に道の駅を整備する計画があります。南相馬鹿島SAは浜通り唯一のSAという点が強みだが、大熊町に道の駅ができれば見込み通りの売り上げや集客に届かない懸念がある」(櫻井議員)
これについては、常木副市長が大熊町やネクスコ東日本に確認したところ「現時点で道の駅が常磐道に接続するかどうかは不明」とのこと。売り上げや集客への影響は「両施設による相乗効果も考えられる」として、大熊町の計画の推移を見守ると述べるにとどまっている。
原町区在住の大杉高雄さんは、南相馬鹿島SA周辺開発基本計画について市が募集したパブリックコメントに反対意見を寄せた。
「計画に用いられているデータに疑問を持ちました。セデッテかしまの2023年度の利用者は150万人というが、同年11月に2日間行われた利用実態調査の数値をもとにした推計値と思われます。そういう信憑性のない数値から、将来的に250万人の利用を想定していることに杜撰さを覚えました」(大杉さん)
大杉さんはこの時の利用実態調査の報告書を読みたいと市に問い合わせたが、一般に公開しておらず、情報開示請求が必要と言われた。
「税金でつくられた資料が開示を求めないと見られないなんて、誰のための報告書なのか。しかも開示までには1カ月かかるという。市民に開かれた市政とは思えない」(同)
そもそも論として、人口が急激に減少し、常磐道の通行量も増えるのか不透明なのに、年間利用者数を250万人と想定している点が「数値の算出方法に疑問が残る」(同)
大杉さんは「裏付けの薄い数値をもとに96億円も使って事業をするのは、将来を生きる市民に借金を背負わせ、遺物を残すだけだ」と厳しく批判する。
櫻井議員、大杉さん以上に切実な理由から反対するのが市内の旅館とホテルが加盟する南相馬市旅館ホテル組合だ。組合事務局を務めるビジネスホテル高見(㈲グローバルサービス)の只野訓良社長はこう話す。
「組合としては明確に反対しています。SA周辺に新しく宿泊施設をつくるんですよね? 市が税金や補助金を使ってそんなことをやるなんて明らかな民業圧迫でしょう」
飲食業者の多くも反対していると話す只野社長は「まちをつくる」というコンセプトにも疑問を呈する。
「セデッテかしまには年間150万人の来訪者があるというが、その人たちが市街地に回遊した実績はない。150万人もいて回遊が実現していないのに、250万人に増えたら回遊するんですかね? しかも新しい宿泊施設には温浴施設も併設され、飲食する場所もあるという。客がそこにとどまるのは確実で、回遊なんて期待できません」(同)
只野社長は、それならスポーツイベントの受け入れ充実を提案する。
「Jヴィレッジでは毎年、サッカーのインターハイが開催されているが、せっかく全国からチームが集まるのに市内には練習グラウンドがない。また、馬事公苑ではフライングディスクの全国大会が定期的に開かれ、国内トップレベルの選手が集まるサーフィンやボディボードのイベントもある。そういう人たちの合宿や観客を受け入れるハード・ソフトの体制を整えてもらった方が地元の経済効果は大きいし、我々業界も有り難いんですが」(同)
理想は高ければ高いほど実現が難しく、周囲の理解を得るのも簡単ではない。経済が縮小する中では、費用対効果も慎重に判断しなければならない。様々な反対の声を、覆すことはできなくても和らげ、着工に向けて走り出すことができるのか。門馬市長、常木副市長にはさらなる丁寧な説明が求められそうだ。

























