追加原発賠償の課題【原発事故から13年③】

追加原発賠償の課題【原発事故から13年③】

 文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)は、2022年12月20日、原発賠償集団訴訟の確定判決を踏まえた新たな指針「中間指針第5次追補」を策定した。これを受け、東京電力は昨年1月31日、「中間指針第五次追補決定を踏まえた賠償概要」を発表、同年4月から受け付けを開始した。これに基づく追加賠償はどれだけ進んだのか。

住所不明で約19万人に請求書未発送

 追加賠償の概要については、本誌昨年3月号でリポートした。全国各地で起こされた原発賠償集団訴訟で、追加賠償を認める判決が下されていることを受け、原賠審が調査・分析を行い、それに基づき、「中間指針第5次追補」(2022年12月20日付)を策定した。

 これを受け、東電は昨年1月31日に「中間指針第五次追補決定を踏まえた避難等に係る精神的損害等に対する追加の賠償基準の概要について」というリリースを発表した。それに基づく賠償概要をまとめたのが別表で、賠償範囲の基本となる県内各地の区分を地図にまとめた。地図上の区分を簡単に解説すると――

追加賠償の一覧
賠償範囲の基本となる県内各地の区分を地図にまとめた

Aは福島第一原発から20㌔圏内の帰還困難区域。なお、ここには双葉・大熊両町の居住制限区域・避難指示解除準備区域(※現在は解除済み)も含まれている。

 Bは福島第一原発から20㌔圏外の帰還困難区域。旧計画的避難区域で、浪江町津島地区や飯舘村長泥地区などが対象。

 Cは福島第一原発から20㌔圏内の居住制限区域と避難指示解除準備区域(双葉・大熊両町を除く)。このエリアは2017年春までにすべて避難解除となった。

 Dは福島第一原発から20㌔圏外の居住制限区域と避難指示解除準備区域。旧計画的避難区域で、川俣町山木屋地区や飯舘村(長泥地区を除く)などが対象。

 Eは緊急時避難準備区域。主にC・D以外の20~30㌔圏内が指定され、2011年9月末に解除された。

 Fは屋内退避区域と南相馬市の30㌔圏外。屋内退避区域は2011年4月22日に解除された。南相馬市の30㌔圏外は、政府による避難指示等は出されていないが、同市内の大部分が30㌔圏内だったため、事故当初は生活物資などが入ってこず、生活に支障をきたす状況下にあったことから、市独自の判断で、30㌔圏外の住民にも避難を促した。そのため、屋内退避区域と同等の扱い。

 Gは自主的避難等対象区域。A~D以外の浜通り、県北地区、県中地区が対象。

 Hは白河市、西白河郡、東白川郡が対象。宮城県丸森町も同等の扱い。

 Iは会津地区で「第5次追補」の追加賠償の対象外。

課題は未請求者への対応

東電のウェブ広告
東電のウェブ広告

 こうした区分に基づき、追加賠償が行われたわけだが、支払いはどれくらい進んでいるのか。

 原賠審は2月5日に会合を開き、その中で東電から追加賠償に関する報告があった。当日配布された資料によると、追加賠償の対象者は約148万人で、このうち東電から請求書を発送したのが約110万人。それ以外に約19万人からウェブ請求があり、それを除いた約19万人に対して請求書の発送ができていない。その理由は、対象の世帯主がすでに亡くなっていたり、引っ越しなどで発送先(住所)が分からないため。

 一方で、東電から発送された請求書に基づき、請求があったのは約94万人で、ウェブ請求を含めた受付件数は約113万人。このうち、支払い完了は約98万人だった(いずれも今年1月末時点)。

 昨年9月26日時点では請求受付人数は約76万人、支払い完了は約31万人だったというから、この4カ月ほどでかなり進んだことになる。とはいえ、まだ約35万人、対象者全体の23・6%が請求していない。そのうち、約19万人に至っては請求書の発送すらできていない状況だが、それでも以前よりは減った。

 というのは、東電は請求書の発送先が分かる人で、まだ請求していない人には随時送付しているほか、住所が不明な人の請求を促すため、昨年12月から県内を中心に、新聞やテレビ、ウェブ、ラジオ、バス広告などを通して同社に連絡するよう呼びかけた。例えば、インターネット検索エンジンのサイトなどで、東電の広告(原発賠償請求の呼びかけ)を見た人も少なくないのではないか。

 そうした取り組みの成果もあってか、昨年10月25日時点では、請求書の発送ができていない人は約36万人いたが、今年1月末時点では約19万人に減少したのである。

 旧避難指示区域の住民はこう話す。

 「以前は、いろいろな部分で情報交換する機会があり、仲間内で『○○さんはまだ請求していないそうだから教えた方がいい』とか、そんな話になったが、いまはなかなかそういう話にならない。そういうことも関係しているんでしょうね」

 今回の追加賠償は避難指示区域に指定されたところだけでなく、県内広範囲にわたるが、この旧避難指示区域の住民が言う「以前ほど、原発事故関連の情報収集・交換をしなくなった」という点では、共通していると思われる。

 なお、追加賠償に関する東電の連絡先は0120(926)470。原発事故当時、浜通り、中通りに住んでいた人で、まだ請求していない(請求書が届いていない)人は問い合わせてほしい。

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