「東北」楽天は福島県に根付いたか

「東北」楽天は福島県に根付いたか

 プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスが創設20周年を迎えた。同チームは仙台市の「楽天モバイルパーク宮城」を本拠地にしているが、名称には「東北」が付いており、東北地方のチームであることを謳っている。福島県をはじめ、宮城県以外の東北5県に楽天は根付いたのか。

県内での公式戦は年1回ペース

県内での公式戦は年1回ペース

 2004年、当時のオリックス・ブルーウェーブと大阪近鉄バファローズの合併に端を発する「プロ野球再編問題」が起こり、その過程で誕生したのが東北楽天ゴールデンイーグルスだった。それまで、球団の身売りに伴う親会社、チーム名の変更などはあったが、純粋な新規参入球団は50年ぶりのことだった。

 楽天は2005年シーズンからプロ野球パシフィック・リーグに参入したが、球団新設に当たり本拠地に選んだのが当時〝プロ野球空白地〟だった東北地方の中心都市である仙台市だった。プロ野球の試合は興行として行われるわけだから、いかに集客するかが経営に大きく関わってくる。その点で言うと、仙台市は人口100万人を超える都市で、ほかに競合する相手(プロ野球球団)がいないことから、絶好の場所だったと言える。ただ、チーム名は「仙台楽天」ではなく、「東北楽天」とし、東北地方のチームであることを自称している。

 日本では関東、中京、近畿の3大都市圏に加え、札幌市、仙台市、広島市、福岡市が主要7大都市(都市圏)と言われ、楽天球団の誕生で、それらすべてにプロ野球チームが存在することになった。

 形の上では、プロ野球の地域フランチャイズ化が図られたということになるが、実際、宮城県以外の東北5県に楽天は浸透したのか。

 一般財団法人・中央調査社が毎年実施している「人気スポーツ調査」によると、楽天誕生前の2004年、北海道・東北地方の好きなプロ野球チームは1位が読売ジャイアンツ(巨人)で40・7%、2位が阪神タイガースで10・2%、3位が北海道日本ハムで5・1%だった。楽天が誕生した2005年の同調査では、1位は巨人で変わらず33・5%、2位が日本ハムで12・3%、3位が楽天で7・1%。

 2013年の同調査からは、それまで北海道・東北地方で集計されていたものが、北海道と東北地方が分離された。東北地方の好きなプロ野球チームは1位が巨人で30・0%、2位が楽天で20・0%だった。昨年の同調査では、巨人と楽天が1位タイで並び18・0%だった。

 もともと東北地方は巨人ファンが多い地域だったが、楽天誕生から20年が経ち、東北地方ではトップタイの人気になったことがうかがえる。ただ、同調査によると、北海道では日本ハムが78・9%、中国地区では広島東洋カープが44・2%、九州地区では福岡ソフトバンクホークスが38・8%のシェア率になっており、それと比べるとまだまだ低い。

 同調査は都道府県別のデータがないため、測りかねる部分はあるが、宮城県以外では「地元球団」といった認識はさほど持たれていないように感じる。例えば、宮城県内では市役所・町村役場などの公共施設や商店街などで、楽天のユニフォームや応援グッズなどが飾られていたり、応援ポスターが貼られているところをよく見るが、福島県内ではほとんど見ない。ほかの東北各県も同様だろう。

 宮城県(仙台市)在住者によると、「宮城県では楽天に加え、サッカーJリーグのベガルタ仙台、バスケットボールBリーグの仙台89ERSの話題をよく目にする」という。

5年ぶりの県内開催

5年ぶりの県内開催

 対して、県内在住のプロ野球ファンはこう話す。

 「例えば、地元の高校から甲子園で活躍して、その後に楽天に入って、という選手がいれば、それをきっかけに楽天ファンになることもあるかもしれない。ただ、なかなかそういう選手もいませんからね」

 甲子園には出場していないが、〝令和の怪物〟と言われた岩手県大船渡高校の佐々木朗希投手がドラフト指名された際、楽天も入札したが、くじ引きの結果、交渉権を引き当てられなかった。その際、ニュースで地元住民(大船渡市民)の「地元の星。市民としても嬉しい。だけど、試合を見に行きやすいから楽天が良かったな」といったコメントが紹介されていた。

 ドラフトは指名が被った際、抽選になるため、運の要素が大きいが、地元出身のスター選手を獲得できるかどうかも人気に大きく影響してこよう。

 一方で、県内在住のソフトバンクファンの男性は「自分もそうだが、楽天が誕生する前から贔屓チームがあった人からすると、楽天に乗り換えるということにはなりにくいと思う」という。

 そう考えると、ファン獲得のターゲットは楽天誕生後にプロ野球に興味を持った若年層ということになるが、例えば小中学生が頻繁に仙台市まで試合を見に行ったり、楽天の試合が見られるサブスクなどに自由に加入できるかというと、そう簡単ではない。

 ただ、前出・ソフトバンクファンの男性はこうも話した。

 「仙台(楽天モバイルパーク宮城)にソフトバンクが来る試合(楽天―ソフトバンク戦)は毎年数回は見に行っている。そういう意味では楽天ができたのはありがたいけど、地元チームという感じではないね」

 相馬市のある企業は年間シートを買っているという。同市には楽天が建設して市に寄付した屋内スポーツ施設「相馬こどもドーム」があり、比較的身近な存在なのだろう。

 県内在住の女性プロ野球ファンは「楽天は宮城県、仙台市のチームでしょ。そもそも、県内で楽天の試合はほとんどないし」という。

 県内では2005年から2009年に福島市のあづま球場で、2005年と2006年にいわき市のグリーンスタジアムで、2010年から2019年に郡山市の開成山野球場で、それぞれ主催試合が行われていた。ただし、その中には雨天中止により、本来は県内の球場で行われるはずだったものが、日程が組み直され、仙台市の本拠地球場で試合をしたケースもある。

 今年は20周年を記念して、東北各県で公式戦の主催試合を行う。県内では5月31日にあづま球場で、セパ交流戦の東京ヤクルトスワローズ戦が組まれている。県内での楽天主催の公式戦は実に5年ぶり。この稿を書いている時点では無事実施されたかどうかは分からないが、要は天候次第ということになる。

 とはいえ、年に1試合あるかどうか程度では、「本物のファン」を獲得するのは簡単ではない。福島県の広い範囲で「楽天は地元のチーム」と認識されるまでは至っていないと言えよう。

「楽天モバイルパーク宮城」で行われた試合
「楽天モバイルパーク宮城」で行われた試合

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