南相馬市立総合病院で右手首の治療を受けた40代男性が「脱臼していたことを見落とされた結果、重大な後遺症が残った」として、病院開設者である南相馬市と市長の門馬和夫氏を相手取り、損害賠償を求める訴訟を提起していたことが分かった。
後遺障害残った男性が市と市長を提訴
訴訟を提起したのは南相馬市在住の40代男性・Xさん。南相馬市と同市長の門馬和夫氏に対し、入退院慰謝料や後遺症逸失利益、治療費など約3670万円の損害賠償を求める訴訟を福島地裁相馬支部に提起した。11月7日、東京都内で記者会見を開き、原告代理人を務める渥美陽子弁護士、橋爪愛来弁護士が訴訟に至った経緯を説明した。
本誌が入手した訴状や会見資料によると、Xさんは2022年10月17日、自宅で知人から暴行を受けて右手首を負傷し、南相馬市立総合病院の救急外来を受診した。痛み止めが処方され一旦帰宅したが、その後も痛みが続き、手首を動かせなくなり、高熱まで出た。そこであらためて同病院の整形外科を受診し、A医師に症状を訴えたところ、MRI撮影の結果、「右橈骨尺骨遠位部骨挫傷」(手首の骨の内部で起きた炎症や内出血)、「TFCC損傷」(手首の小指側にある軟骨・靭帯などの複合体の損傷)と診断された。

ギプスなどでの固定を経て、同病院で週2、3回のリハビリに取り組んだが、負傷から半年近く経っても痛みが消えず、右手首の可動域も回復しなかった。医療保険でリハビリを受けられる期日(150日)が迫っていたこともあり、〝セカンドオピニオン〟として、同病院に診察に来ていた県立医大のB医師に診てもらうことにした。
不誠実な病院の対応

そうしたところ、B医師はXさんの手首を一目見て「脱臼していますね」と指摘し、レントゲン撮影により「右尺骨頭脱臼」と診断された。脱臼の長期間放置により尺骨頭が変形していたことから、Xさんは県立医大で関節形成術による手術を受け、尺骨の一部を切除した。
リハビリを経て手首が動かない状態は改善されたが、右手首の可動域は未だ左手首の2分の1以下に留まり、右手の握力は11㌔まで低下した(左手の握力は33・3㌔)。自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)では後遺障害10級相当(14段階で10番目に重い)と認定された。
生活に支障があるのはもちろん、自衛官として活動してきたXさんだったが、右手首が思うように動かせなくなったことで、継続が困難になってしまった。
Xさんは昨年12月末、脱臼を見落とされたことについて、同病院に具体的な経緯の説明を求めた。それに対し、同病院は約3カ月後の今年3月「今回の症例はまれで、手の外科の専門家でなければ診断が難しい症例だった。A医師は手の外科の専門家ではない」と回答した。男性は引き続き説明を求め、2回ほどやり取りがあったが、同病院は従来の説明を繰り返すばかりだった。
具体的な経緯の説明を拒否し、不誠実な対応に終始する同病院の対応にあきれたXさんは「もはや話し合いでの解決は不可能」と判断し、訴訟を提起するに至った。
訴状によると、診察で見落とされた脱臼は、正式には「遠位橈尺関節掌側脱臼」(手首の橈骨と尺骨をつなぐ関節が手のひら側に脱臼する症状)だという。この脱臼はけがをしてから3週間以内であれば、手技によって元通りに戻す「徒手整復」とギプスによる固定で治療可能だが、それ以降になると、外科手術での対応を余儀なくされる。すなわち、初期段階で症状を見落とさず徒手整復で治療していれば、尺骨頭変形に伴う手術を受ける必要はなかったし、後遺障害が残ることもなかった、とXさんは主張しているわけ。
訴状などによると、Xさんは▽MRI画像で脱臼の事実は容易に発見できたはずなのに、A医師は「手の骨の形が変なのは生まれつきのため」と考え検討を怠った、▽TFCC損傷と診断しておきながら、TFCC損傷と関連性が強い遠位橈尺関節掌側脱臼を見落とし、MRI画像の読影医にも脱臼の可能性を適切に記載しなかった――として不作為による注意義務違反があったと主張。
加えて「医療水準に応じた診療等ができないときは、他の医療機関に患者を転送し、転医のための説明をする義務がある。手の骨の形が変であることを認識し、リハビリを継続したにもかかわらず症状が改善しないのであれば、負傷した日から3週間以内に転医すべき義務があったのではないか」と訴えている。
相次ぐ医療ミス裁判
記者会見ではXさんのコメントも公開された。以下一部抜粋する。
《私は診断根拠や治療の経過について、同病院の及川(友好)院⻑に対し、書⾯にて説明を求めてまいりました。しかしながら、1通の返信に3カ月を要する上、その内容も数行程度と極めて不十分なものでした。およそ1年をかけて3通の回答を受け取りましたが、診断や治療の根拠、過程についての具体的な説明は一切ありませんでした。
さらに、今年2⽉には、同院で及川院⻑が担当していた別の患者が亡くなられた件について医療過誤訴訟が提起されました。その訴訟が報道された直後、及川院⻑は退任されております。
こうした経緯から、これ以上病院側と誠実な話し合いを続けることは難しいと判断し、やむを得ず提訴に⾄りました》
《⾃衛官であれば誰しも同じだと思いますが、いざという時のために⻑い間、⽇々訓練を重ね、練度の維持向上に努めております。その結果、いくつかの賞やメダルを頂き、代表として中央訓練に参加させていただいたこともあります。しかし、今の⾝体では、もう実任務に就くことは難しい状況です。
この⼝惜しさは、⾔葉では⾔い表せないものがあります。私たちは、南相⾺市⽴総合病院と南相⾺市⻑に対し、誠実な反省と、被害に対する正当な補償を強く求めます》
Xさんが触れている「別の患者が亡くなられた件」とは、本誌2月号「南相馬市立病院で重大医療事故 脳動脈瘤手術失敗で遺族が市を提訴」という記事で取り上げた件を指す。2021年3月、60代女性が同病院で脳外科の手術を受けた後に死亡した。その後、遺族が「病院側の医療ミスだった」として、同病院院長の及川友好氏(当時)と病院開設者である南相馬市を相手取り、福島地裁に約1億1700万円の損害賠償請求訴訟を提起した。現在も係争中で、女性の夫は「時間がかかってもどかしいが、裁判を通して真相を明らかにしたい」と話す。
今回の訴訟をどう受け止めるのか、同市にコメントを求めたところ、同病院医事課の担当者から電話が寄せられ、「訴状を確認していないのでコメントできない」と述べた。
1月11日告示、同18日投開票の日程で行われる南相馬市長選に、3選を目指し立候補する考えを示した門馬氏。今回の訴訟の詳細や背景はまだ明らかになっていないが、同病院の医療ミスの責任を問う訴訟が相次いで提起されていることをどう受け止め、どのように対応していくのか。今後の動向が注目される。
























