奇妙なM&Aで事件屋に乗っ取られた白河市の結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」を運営する㈱ピーアンドケーカンパニーに先日、興味深いダイレクトメール(DM)が届いた。大手のM&A仲介会社から資本提携に関する面談依頼があったのだ。
DMの送り主は㈱M&A総合研究所(東京都千代田区、佐上峻作社長)で2023年3月設立。資本金1億円。民間信用調査機関によると会社設立から半年後の同年9月期決算は売上高58億0700万円、当期純利益18億1500万円。佐上社長は東京証券取引所プライム市場に上場する㈱M&A総研ホールディングスの社長も兼務し、M&A総合研究所は同社の100%子会社となっている。
「M&A総合研究所はいわばM&Aのプロですよね? そんな会社がM&Aという名の詐欺に遭ったピーアンドケー社にDMを送るなんて信じられない」
憤った口調でそう話すのは、ピーアンドケー社と同様の被害に遭った全国の企業でつくる「被害者の会」代表の荒川公一氏である。
気になるDMにはどんなことが書かれていたのか。
《弊社クライアントの下記企業様が、結婚式場業の企業との資本業務提携・M&Aを希望しております。複数回の打ち合わせの上で当該企業の要望を汲み、弊社にてリサーチを進めたところ、貴社の事業領域が正に合致しており、今回お声掛けをさせて頂きました》
その上で、相手企業を▽金融サービス業▽売上高30億円以上▽資本提携の目的は①後継者不在の解消および創業者利潤の獲得、②人生の大きな節目となるライフイベント事業への参入を通じて自社の金融サービスのクロスセルを企図、③譲渡企業にとっても金融商品の情報提供を通じ顧客へのアフターフォローサービスを図ることで関係性の継続が可能――と紹介。「検討の可能性があれば7月26日までに連絡がほしい」とも書かれていた。
「ちょっと調べれば(ピーアンドケー社が)問題企業と分かるのに、DMを送り付けるなんてプロの仕事とは言えない」(荒川氏)
県中小企業診断協会ふくしま地域M&Aセンター長の石原幸一氏(中小企業診断士)は「それが大手のやり方です」と指摘する。
「AIを使って例えば60歳以上の経営者をリストアップし、手当たり次第にDMを送るんです。高齢の経営者は後継者問題に悩んでいるケースが多いですからね」
では、ピーアンドケー社とのM&Aを希望する「金融サービス業」の会社は実在するのか。
「おそらく実在しないと思う。さも実在するかのような文面は、ピーアンドケー社と接触するためのフックに過ぎない」(同)
石原氏によると、仮にピーアンドケー社が連絡したら仲介業者は「決算書を見せてほしい」と内部資料を精査し「この業績ではM&Aは厳しい」と難色を示しながら「ただ、当社には他に紹介できる企業が複数あるのでコンサル契約しないか」と持ちかけ、顧客として囲い込む可能性があるという。
「中小企業庁はこういう進め方を問題視しており、M&Aへの悪いイメージにもつながっている」(同)
それでもDMをきっかけとするM&Aで売り手も買い手も幸せになれば問題ないが、現実は「手当たり次第に送ったDMの中からマッチングさせるM&Aでは互いのニーズは噛み合いにくい」(同)。そのくせ平均年収が高い会社全国ランク(東洋経済オンライン2023年3月18日配信)を見ると、1位はM&Aキャピタルパートナーズ(2688万円、平均年齢32・2歳)で他にも仲介業者が上位にランクする。「口利きで荒稼ぎしているだけ」と感じてしまうのは筆者だけだろうか。