本誌2月号で、伊達市梁川町に建設中のバイオマス発電所で水不足の問題が起こり、急きょ新規井戸を掘ることになった経緯を伝えた。同発電所は「バイオパワーふくしま発電所」という名称で5月1日から営業運転開始を予定する。設置者は廃棄物収集運搬・処分業の㈱ログ(群馬県太田市、金田彰社長)。
同発電所をめぐっては「梁川地域市民のくらしと命を守る会」(引地勲代表、以下守る会と略)がダイオキシンや放射能に対する不安から建設反対運動を展開してきたが、施設はほぼ完成し、1月9日から試運転が始まっている。
同発電所の当初計画では、3カ所の既存井戸(6㍍)から地下水を汲み上げ、その水を蒸気の冷却に使うとしていた。ログ社が2022年に行った揚水検査では「水は豊富にあり、冷却に必要な1日2500㌧前後を揚水できた」と市や市民に報告。ところが実際は
《水位が低い中、仮設ポンプを強引に使用し(いつ壊れてもおかしくない状況)、揚水量確保を主目的に強引に揚水したものだった。この揚水試験データから、水は豊富にあると情報共有されてきた》(1月5日に同発電所周辺の住民に配られた「お知らせ」文書より)
ログ社は水量が足りないのに、豊富にあると見せかけていたことを自ら認めたのである。
ログ社は既存井戸を廃止し、1月中旬から新規井戸(7・5㍍程度)の設置工事に着手した。しかし守る会の引地代表によると、工事前に開いた地下水資源が専門の柴崎直明・福島大学共生システム理工学類教授を招いた勉強会で、柴崎教授から次のような指摘があったという。
①既存井戸から持続的に1日2500㌧揚水するのは無理。②水位が少しでも低下すれば、水は汲めなくなる。③新たに深い井戸を掘削するのではないか。④深い井戸から1日2500㌧揚水すれば、地下水位は大きく低下する。⑤地下水位が低下すると、地盤沈下が発生したり地下水の水質悪化が懸念される。
引地代表の話。
「柴崎先生の言う通り、現実に①~③の段階まで進んでおり、今後、新規井戸から1日2500㌧の揚水が始まれば④⑤の問題が起きる恐れがある」
1月27日にはログ社主催の住民説明会があり、金田社長が「近隣の井戸水に影響があった場合、使用量を減らしたり発電所の運転を停止する。損害が生じた人には相当因果関係のある範囲で損害賠償を行う」と述べたが「これまで住民への説明を後回しにしてきたログ社が、誠実に対応するかは疑問」(引地代表)。
また住民説明会では、新規井戸の完成後、揚水量を確認しながら使用開始するという説明もあったが、揚水試験を行わず、使用しながら「水位をモニタリングしていく」「あくまで想定だが近隣に問題となる可能性は低い」(住民説明会で配った資料より)という〝ぶっつけ本番〟の揚水が妥当なのか。5月1日に営業運転開始を控える中、どうにか施設を稼働させたい焦りがうかがえる。
そんな同発電所では今、電気技師やボイラー技士の資格を持つ社員が次々と退職し、運転要員の確保が問題に挙がっている。本誌もある社員から「こんな体制で施設は稼働できるのか。ログ社のバイオマスに対する認識は甘く、この間、住民への説明を蔑ろにしてきたことも地域と共存する上ではよくなかった」との話を聞いたが、後日、この社員も退職してしまった。引地代表によると、1月27日の住民説明会に出席していた社員も直後に退職したという。
営業運転開始を前に、混乱する施設が正常に稼働するのか、市民の心配は尽きない。
※バイオパワーふくしま発電所に新規井戸の進捗状況や運転要員の退職等について問い合わせると、所長代理を名乗る男性から「上の者に確認しないと答えられない。折り返し連絡する」と言われたが、締め切りまでに返答はなかった。