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CМでよく見る転職仲介業者とは【福島県】

CМでよく見る転職仲介業者とは

 転職活動において転職希望者と企業の仲介役を担う転職エージェント。首都圏では一般的になっており、福島県でも利用者が増えつつある。本県の最新転職事情を追った。

県内では地域密着スタイルで少しずつ浸透

 「転職エージェント」という仕事をご存じだろうか。

 転職希望者の活動をサポートしつつ、契約している企業に合う優秀な人材を紹介する。報酬は企業側から支払われる仕組みなので、転職希望者は無料で転職活動を進められる。報酬の相場は年収の3割。転職した仕事の年収が500万円だとしたら、150万円を企業側からもらえる。

 大手はリクルートエージェントマイナビエージェントdodaXパソナキャリアビズリーチなど。登録すると、それぞれのサイトと契約している複数のスカウト(担当者)から連絡が寄せられ、面談を経て各企業とのマッチングが進められる。条件が合致する企業があった際、初めて採用試験(面接)が行われるという流れだ。

 自分の市場価値を知ることができるというメリットもあって数年前から広まっており、今夏、転職エージェントを主人公にしたテレビドラマが放送されたほどだ。

 少し前まで転職活動と言えば、ハローワークや求人情報誌、折り込みチラシなどで求人情報を収集し、企業に直接連絡するものだった。そこから、求人情報を掲載した転職者向けサイトで検索し仕事を探す時代に移り変わったと思ったら、それすら過去の話になった。

 首都圏ではいまや転職エージェントが転職活動のメーンになりつつあるようだ。

 本県の中小企業は人手不足に見舞われており、売り手市場の状況が続く。県内の7月の有効求人倍率は1・39倍で、求人数が求職者数を大きく上回っている。

 ただし製造業など一部の業種で弱まっている傾向もみられる。福島労働局の担当者によると、主な要因は経済の先行きが不透明なことによる採用抑制。

 資材高騰・原油高により営業利益が圧迫され、コロナ禍に講じられた〝ゼロゼロ融資〟の返済が本格化する中、新規採用に慎重になっている中小企業が多いという。

 ただでさえ人口減少・少子高齢化が進む本県。求められているのは優秀かつ即戦力の人材であり、転職希望者と企業をつなぐ転職エージェントの役割に注目が集まりそうだ。

県内の本格普及はこれから

 もっとも、首都圏と比べると、本県では転職エージェントを使った転職活動の動きは鈍いようだ。その理由について、人材紹介業の経営者は「地元中小企業の求人が少ないからではないか」と指摘する。

 「例えば、『福島県 転職』と検索すると大手の転職エージェントが上位に表示されます。ただ、実際に登録すると、『東京の企業の福島支社』の求人が多く出ているだけで、地元でキャリアアップを目指す人やUターン・Ⅰターン希望者が求める中小企業の求人はそれほど多くないのです」

 高い報酬を出してまで人材を集める文化が県内企業にないという事情もあるようだ。東北地方で活動する転職エージェントの話。

 「大規模企業であれば、優秀な人材を確保するために100万円単位の紹介料を迷いなく払う。『リクナビNEXT』『マイナビ転職』などの大手転職サイトも、上位に掲載されるために各社数十万円規模の掲載料を払っている。ただ、県内の中小企業がそんな費用を捻出するのは難しい。ハローワークに求人を出し、求人チラシにも有料広告を掲載しつつ、インディード、エンゲージといった無料掲載可能な求人サイトも試しに活用していく――というのが一般的だと思います」

 そもそも本県ではまだまだ保守的な意識が強く、キャリアアップのための転職活動がそれほど盛んでないという背景もある。「実際、面談で転職理由を尋ねると、人間関係や待遇への不満など後ろ向きの理由が多い」(同)。

 工場が多く、第2次産業就業者の比率が東北6県で最も高い(30・6%、2015年現在)という環境も影響していそうだ。というのも、工場勤務者が転職で飛躍的な年収アップを図るためには、役員・管理職としてマネジメント業務を担った経験を持っていたり、飛び抜けた技術を持っていることが求められる。逆に言えば、そうした経験・技術がなければ転職してキャリアアップを果たすのは難しいということだ。

 「工場でそれなりの経験を積んでいるなら、転職で手取りが月2、3万円程度上がる可能性はある。しかし、そのことで扱う機械や労働環境が変わり、働きづらくなるかもしれない。二つの選択肢をてんびんにかけて、結局現状維持の道を選ぶ人が多いと思います」(転職事情に詳しい郡山市の経営者)

2つの事例

 こうした中、本県の実情に合わせた〝地域密着型〟転職エージェントサービスを提供する事業者も現れ始めた。

 郡山市のクノウ(久能雄三社長)は、大手エージェントのスカウトでは見つけられない県内優良企業の求人を集め、登録者とのマッチングを行っている。

 「広告事業も展開しており、人材紹介を通して見えた経営課題の解決のお手伝いなども併せて行っています。県からの委託事業で企業と副業希望者のマッチングも手掛けています。こうした活動を通して、福島県の活性化につながることを期待しています」(久能社長)

 求人広告業の老舗・ガイドポスト(郡山市、片田秀司社長)は、求人情報が掲載されたチラシ「ガイドポスト」やウェブサイトに、業務内容と勤務地だけの情報を掲載し、転職希望者と企業をマッチングする有料職業紹介サービスを展開している。

ガイドポスト本社

 「もともとは家に引きこもって社会復帰が難しい方の力になれないかと思って始めた事業です。企業と求職者、双方の状況や希望を聞き、条件のミスマッチをなくし、面接は人柄チェックという感じです」(栗山俊光専務)

 紹介手数料は相場の「年収の3割」ではなく一律20万円に設定。入社後すぐに退職してしまった場合は減額する。転職希望者と企業の間に同社が入ることで採用がスムーズに行われるようになり、好評を博しているという。

 総務省の労働力調査によると、2022年の転職希望者数は過去最高の968万人。本県の転職市場もさらに活発になっていくと予想される。

 本県はまだ「転職エージェント過渡期」の状況だが、転職希望者・企業ともに活用することで、「理想の転職」、「理想の採用」を実現できるはずだ。スカウトとの相性や能力差もあり、うまく使いこなすことが重要になる。

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