文春オンラインに不正を暴露された福島日産前社長

文春オンラインに不正を暴露された福島日産前社長

 『週刊文春』電子版「文春オンライン」(2022年10月7日付)に「スーパーGTから6カ月で撤退 福島日産社長が辞任の理由は参戦資金を〝1億6千万円不正送金〟」という記事が掲載された。2022年3月に福島日産自動車と日産部品福島販売から突然発表された「不可解な社長交代人事」と深く関係しているようだ。

責任問われ「金子家」から会社を追われる


 文春オンラインの記事に触れる前に、2022年春に行われた福島日産自動車(福島市北町)と日産部品福島販売(福島市松山町)の社長交代人事を振り返っておきたい。

 それは何の前触れもなく、突然、2022年3月21日に「金子與志人社長(55)が同31日付で退任し、後任に金子與志幸専務(34)が4月1日付で就任する」と発表された。両社の決算期は3月で、それに伴う株主総会・取締役会が5、6月とすると、かなりの慌ただしさを感じる。

 当時、県中地区の販売店に勤務する社員はこう話していた。

 「いきなり会社から(社長交代人事の)メールが一斉送信されてきたのです。社内の誰もが『なぜ?』と不思議がっていましたよ」

 與志人氏の退任理由も憶測を呼ぶ原因となった。

 《両社によると、金子與志人氏はコロナ禍により経営環境が激変する中、体調を崩した。長期療養が必要と判断し、自ら辞任を申し出、2022年3月11日の取締役会で承認された》(福島民報2022年3月22日付)

 とはいえ経営環境の激変といっても、2022年3月期決算を見ると、福島日産自動車は売上高95億2600万円で1億2400万円の黒字、日産部品福島販売は売上高57億5800万円で5300万円の黒字。「厳しい経営を余儀なくされたことによる心労」は当てはまらない。

 実は、記者は社長交代人事の発表直後、與志人氏と電話でやりとりした経済人から

 「とても元気な様子で入院もしていなかった。退任理由は明言しなかったが、長期療養が必要な感じは全くなかった」

 という話を聞いていた。ただ福島日産自動車には、2022年4月に金子與志幸新社長のインタビュー取材を申し込んだものの断られた。

 よって、この時点での推測は①金子與志雄会長の次男・與志人氏は、もともと〝リリーフ役〟として社長に就き、将来的には與志幸氏に譲る予定だった。②與志幸氏は與志雄会長の長男・與志文氏の息子で、與志人氏からすると甥に当たる。③與志文氏は與志幸氏が幼少のころに亡くなった。④要するに、今回の人事で社長の座は本家筋に戻ったが、34歳と若い與志幸氏が就くには早い印象が否めない――そんな金子家の〝御家事情〟が浮かぶ程度だった。

 そうした中、10月に入って文春オンラインの記事が出回り、判然としなかった與志人氏の退任理由が明らかになった。

 記事によると、

 〇2019年10月から2022年1月にかけて、日産部品福島販売からクレアーレという会社に1億1700万円、BUSOUという会社に5000万円、計1億6700万円の資金が流れていた。両社の主業は自動車部品販売で、クレアーレの所在地は東京、社長のA氏はレーシングドライバー・星野一義氏の甥で與志人氏とは旧知の仲。一方、BUSOUの所在地は福島日産自動車と同じで與志人氏が社長を務めている。

 〇資金の使途は自動車レース「スーパーGT」の参戦資金とみられ、クレアーレは2022年からエアロパーツブランド「BUSOU」としてレースに参戦していた。與志人氏はA氏に対し、その参戦資金を協力していたという。

 〇この資金流出が日産部品福島販売の役員会で指摘され、與志人氏は3000万円を回収したが、残りは未回収だった。A氏はスーパーGTの参戦費用として集めていたスポンサー料も返済に回したが、それでも足りなかった。するとA氏は、複数の知人を騙して借金を重ね、そのまま行方をくらました。クレアーレは新規参入からわずか半年でスーパーGTから撤退した。

 〇原田綜合法律事務所の原田和幸弁護士によると、日産部品福島販売の金を不正に支出した疑いのある與志人氏は、業務上横領罪で10年以下の懲役、もしくは会社法の特別背任罪で10年以下の懲役または1000万円以下の罰金刑が科される可能性があるという。

 〇文春オンラインの電話取材に、與志人氏は「勘弁してほしい」と繰り返すばかり。福島日産自動車、日産部品福島販売も「回答は差し控えたい」という返答だった。

 これが事実なら、與志人氏は両社から問題の責任を問われ、社長の座を追われたことになる。

 與志人氏を知る県北地方の会社役員はこう話す。

 「與志人氏は2月に県自動車販売店協会長に再任されるなど複数の宛て職に就いていたが、3月に入ると知人らに『××協会長を代わってほしい』と頼んで回っていた。理由を尋ねると『3月いっぱいで福島日産の社長を辞める』と言うのです。その時は冗談だろうと思ったが、新聞記事(前述)を見て本当だったのかと驚いた」

父の葬儀に姿を見せず

 そんな福島日産自動車では悲しい出来事も起きていた。2022年10月3日に金子與志雄会長が老衰のため91歳で亡くなったのだ。同社と金子家の合同葬として、通夜は同7日、告別式は同8日に行われたが、喪主は現社長の與志幸氏、葬儀委員長は西形健吉氏(西形商店会長)、葬儀副委員長は安孫子静夫氏(原町内会長)が務めたものの、葬儀の場に與志人氏の姿はなかったという。実の息子でありながら葬儀役員に名前がなく、葬儀にも参列しなかった(できなかった?)のは、それだけ故人、会社、金子家から反感を買っていたということかもしれない。

 「與志雄会長は、晩年は車椅子を使っていたが、週に一度は出社していたそうだから経営意欲は最後まで衰えなかったのでしょう。突然の社長交代人事も、與志雄会長の目が黒いうちに、問題を起こした與志人氏を辞めさせるとともに、社長の座を本家筋に戻すという判断が働いたのかもしれませんね」(同)

 実は、文春オンラインの記事は與志雄会長の通夜と同じ日に公表された。記事を読むと、内部告発がなければ書けない内容だ。文春サイドが生前の與志雄会長に余計な心配をかけまいと、葬儀を待って記事を公表したような〝配慮〟がうかがえる。あるいはネタ元から、與志雄会長が存命のうちは公表しないでほしいと依頼されていたのかもしれない。

 記者は、記事に書かれていた問題がどこまで進展したのか確認するため10月中旬、福島市内にある與志人氏の自宅を訪ねたが留守だった。駐車場に車はなく、家のカーテンや障子もすべて閉め切られていたが、インターホンを押すと中から2匹の犬の鳴き声が聞こえてきた。どこかの時間帯には本人か家族がいるのかもしれない。

 福島日産自動車と日産部品福島販売にも文春オンラインの記事について問い合わせたが、両社とも「その件は回答を差し控えたい」とのことだった。

 県自動車販売店協会長を務めるなど県内ディーラーのリーダー的存在だった與志人氏。〝道楽〟と言われてもおかしくない自動車レースに会社の金を突っ込めば、どういう結末になるか想像できなかったことは残念でならないが、両社の経営に深刻な影響が及ばなかったのは幸いだったと言えよう。


【あわせて読みたい】スーパーGTから6カ月で撤退 福島日産社長が辞任の理由は参戦資金を〝1億6千万円不正送金〟(週刊文春電子版)

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