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【福島県医師会】石塚尋朗会長インタビュー

【福島県医師会】石塚尋朗会長インタビュー

いしづか・じんろう 東北大医学部卒。1985年に渡米、テキサス大准教授であった1994年に帰国。2011年から田村医師会長。2016年より県医師会常任理事を4期務め、今年6月に県医師会長に就任。

福島県医師会に(医)慶信會石塚醫院(小野町)理事長・院長の石塚尋朗氏(72)が就任した。新会長の石塚氏は、地域社会からの「医師不足」を懸念する声に、データを積み上げて、県や県立医大、各自治体と連携して対応すると意気込む。勤務医に適用された労働時間の上限規制や、医療のDX化など今後の課題への方針を語ってもらった。

 ――立候補者2人の選挙の結果、6月に会長に就任しました。

 「今回の選挙に立候補するにあたっては、多くの会員にご意見をうかがいました。殆どの皆さんが公明正大に選挙という形にした方がよいとお考えでした。選挙になったことで、福島県医師会について長年抱いてきた私の考えを文書で代議員の皆様にお伝えする機会ができてよかったと思っております。 

 今後は立候補者が代議員の質問に答えるような、候補者についてより多くの情報を得る機会が必要ではないかと感じました。ディベートとまではいかなくても、与えられたテーマについて話すかたちでもよいと思います」

 ――医師不足が深刻です。

 「『医師不足』と一言で表現するのではなく、正確な情報分析が必要です。医師の数は決まっている中、県民に必要な医療を提供するために、どこにどのような仕事をする医師がどのぐらい不足しているのかを詳細なデータに表すことが求められています。地域によって医療ニーズも異なります。地域に医師が不足しているという声にただ応えるのではなく、実情を詳細に把握したうえで、医師会は各自治体や県、県立医大といった関係各所と連携し様々なアプローチで適材適所の医師確保に取り組んでいきます」

 ――勤務医に労働時間の上限が適用されます。

 「医師の過労がクローズアップされ、社会全体で環境改善に乗り出しています。県民の皆さんに必要な医療を提供すると同時に、会員である医師が疲弊せず心身の健康を維持して幸福に働くことのできる環境整備に尽力していきます。

 一方で、20年後の医療を考えた時、労働時間の上限規制がどのような影響を与えるかは今の段階では正直分かりません。多くの勤務医が働く医療現場が人の生命に関わる重要な場であることは否めず、スケジュール通りに働くことが難しい局面が多々あることは想像できます。

 私も若い時は肉体的にも精神的にも余裕があり、臨床の場で経験を積みながら医学を学んできました。経験の浅い医師が実力を身に付けるためには臨床の場が早道であることは、私のみならず多くの医師が身をもって知っています。『働き方改革』によって、一律に働き方が制限され、若い頃に吸収すべき学びを経験できない医師が出てくる面もあります。若い医師に意欲や体力があっても上限規制によって意欲が削がれる可能性もあるのではないでしょうか。

 今後はまず勤務医の皆さん、そして病院・医療機関から実情とご意見を聞いていきたいです。働き方改革がはじまってから現場はどのように変わったのか、最新のデータはまだ揃っていません。医師会としては、県病院協会とも連携しながら調査を行う予定です。勤務医の働き方改革が開業医にどのような影響を及ぼすのかなど調査を継続することで、メリット・デメリットが見えてくるはずです」

 ――医師会でのDXの取り組みについて。

 「厳密にいえば、現在の医師会はDX(Digital Transformation)の域には達していません。今医師会で進めようとしているのは、実現までのfirst stepであるDigitizationです。

 開かれた医師会にするためには、会員から様々な情報を頂きつつ、重要な情報を即時に伝えることが大切です。紙に印刷し、郵送していた書類をデジタル化して共有するようにしたり、会員全員が連絡手段としてメールを使用したりするシステムを構築することが必要です。しかしながら会員の中にはIT分野が苦手な方がいるのも実情なので、FAXといった通信手段を残し様々なサポートをしていきたいです。

 また、WEB会議を当たり前にすることで、県内各地にいる役員の移動の負担が軽減できます。長期的な視野でプロセス全体を変革する取り組みであるDigitalizationを進めていくのがsecond stepであると思います。DXを通して私たち医師会が何を実現し、地域にどのような価値を提供したいのか、中長期的な視座に立って計画を策定する必要があると思います」

 ――高齢化が進む中で医師も高齢となり閉院する課題があります。

 「特に郡部では医師になった子どもがいても継がない例があるようです。医療を取り巻く環境も変わり、対応すべきシステムも増える中で高齢医師にとって診療所の運営も難しくなるばかりです。医師会が何らかのサポートを行うなど今から手を打つことが重要です。

 医療機関の事業承継も対策の一つです。県から委託されて医師会が『医業承継バンク』事業に取り組んでいます。そのおかげか、福島県は医業承継が18件と全国的に高い水準です。ただし、承継が成立したのは交通の便がよいところが主で、過疎地でのマッチングにはまだまだ課題があります。自治体の補助も必要だと感じます。新型コロナ下での経営難など閉院の理由は様々ですが、会員医師が様々な医療行政に対応できるようサポートに努めていきます」

 ――県や県立医大との連携が重要になっています。

 「先日、県立医大の竹之下誠一理事長と会い、様々なアイディアを交換しました。今後は医大の各理事の先生方の意見を伺う機会を持っていきたいです。勤務医の労働時間上限規制の影響などについては、先程も申し上げた通り県病院協会と連携しながら調査を実施し、実態を把握していきます。今後ますますニーズが高まると思われるのが医業承継事業です。医療機関は地域の資源として様々な役割を果たしており、将来に渡って安定した役割を果たすことができるように少しでも多くの医療機関の存続に向け、努力していきたいです」

 ――県民へのメッセージ。

 「県民の皆さんの健康寿命をもっとのばしていきたいと考えています。減塩・禁煙・脱メタボを合言葉に、健康福島を目指して頑張っていきましょう。特定健診や各種がん検診の機会を逃さず利用してください。体調について相談できる『かかりつけ医』と二人三脚で幸せな長寿を目指してください。最後に、今、全国的に『コンビニ受診』やタクシー代わりに救急車を利用することが問題になっています。限られた医療資源を本当に必要な方に届けるためにそのようなことを慎んでほしいと、 救急医療現場からの声を代弁してお願いいたします」

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