福島市のJR福島駅西口構内の商業施設「パワーシティPivot(ピボット)」がこの春改装オープンし、連日多くの人が訪れている。2024年にイトーヨーカドー福島店が閉店した後、福島駅西口周辺は人通りが減少していたが、再生を果たすことができるのか。(志賀)
人気テナントが県内初進出を決めた理由



金曜日の18時30分、福島市の福島駅構内にある「銀だこハイボール酒場福島駅西口店」の前には10人ほどの行列ができていた。県内初出店かつ席数が28席ということもあり、オープンから2週間近く経っても満席状態が続いていた。
同店は〝焼きたて〟のたこ焼きや多彩な居酒屋メニューを肴に、超炭酸ハイボールなどのアルコールを楽しめる人気店。記者は同僚と待ち合わせて1時間ほど並んでから入店。こってりソースで味付けされた熱々のたこ焼きをほおばり、キンキンに冷えたハイボールで流し込んだ。

店内は仕事帰りのサラリーマンや家族連れなど、バリエーション豊かなたこ焼きメニューを味わいながら談笑する人であふれた。味もさることながら、車社会の福島市において、駅構内にある居酒屋で同僚と1杯飲んで帰るのが何だかうれしい。何より福島駅構内の西口側がこれだけ多くの人でにぎわっている姿を見たのはここ数年で初めてで、福島市西部地区在住の記者は感動すら覚えた。
同店は、ピボットのリニューアルの一環として3月28日にオープンしたものだ。ほかにも、ラーメンチェーン店「喜多方ラーメン坂内」、希少なスペシャルティコーヒーを扱う「富久栄珈琲」、メガネ専門店「Zoff」など、県内・福島市初出店の店舗を含む全8店舗が開店した。初夏には東北初出店となる不二家・ペコちゃんブランドのカフェ「ペコちゃんmilkyタイム」もオープンする予定。さらに4月24日にはカルチャーコミュニケーション(郡山市)が運営する職業訓練施設も開所した。
4月15日には、今回のリニューアルの目玉ともいえる県内初出店の食品スーパー・ロピアがオープンした。開店前には約500人の行列ができ、入場制限がかかるほどの熱狂ぶりを見せた。
ロピアは神奈川県川崎市に本社を置く低価格路線のスーパー。国内外に155店を出店。持ち株会社であるOICグループは小売店をはじめ、農林・水産、畜産、製造、商社、外食企業を傘下に入れる。2025年2月期の年商(グループ合算)は5213億円。
記者も20分かけて行列に並び実際に売り場で買い物したが、豚小間100㌘当たり69円など、大型パックの安さに衝撃を受けた。県産の野菜やメヒカリの唐揚げ、円盤餃子など福島県を意識した商品が並ぶ。1枚500円の店内焼きたてピザは飛ぶように売れていた。大きなネタの「寿司バイキング」や鶏もも肉を焼き上げた「てっぺん焼き」など、オリジナル性が高い総菜メニューにもひかれる。
来店客は、「お肉がとにかく安くて思わず買ってしまった」、「東京や仙台で利用していたが、店づくりや品ぞろえは同じ。総菜のクオリティーが高いのと、厚切り肉が購入できる点を評価しているので、今後も買い物に来たい」と興奮気味に感想を述べた。
出店したテナントの狙い
福島駅西口では2024年5月にイトーヨーカドー福島店が閉店した。和田賢一・桜の聖母短大教授(地域経済)の試算によると、マイナスの経済波及効果は90億円超に上る。本誌では閉店当時の反響を報じたほか、周辺の人通りが減少し近隣商店街も打撃を受けたこと、さらに買い物空白地帯のJR金谷川駅周辺に住む福島大学生にとっても公共交通機関で通える買い物場所がなくなり、困っている実態をリポートした。そうした中で、学生同士で大学近くにスーパーを始めた取り組みを紹介したほか、昨年3月号では現役福大生・星芽生さんに学生のリアルな買い物事情を執筆してもらった。
昨年1月にはピボットの生鮮食品5店舗が施設リニューアルのために閉店し、いよいよ福島駅西口の空洞化が深刻に捉えられていた。だからこそ、今回のピボットのリニューアルとロピアのオープンがここまで熱狂をもって歓迎されたといえる。
ピボットを運営するJR東日本東北総合サービスは、リニューアルの狙いを次のように語る。
「オープンから30年経ったことによる陳腐化・老朽化、それと併せて福島駅周辺の空洞化などの周辺動向も念頭に、この街を元気にしたいという思いから、出店者さまとの交渉を重ね開業に至りました」(同社営業部担当者)
リニューアルは駅利用者よりも、地域住民の利用を想定し、街全体の活性化を目標としているという。リニューアルはまだ終わったわけでなく、年内にリニューアルグランドオープンを迎えるとのことで、「福島駅だけでなく新白河・郡山・会津若松の各駅土産店、郡山駅・会津若松駅併設のピボットなどにおいて、弊社のビジョンに掲げる『東北に暮らすしあわせと、東北を訪れるよろこびを。』を実現すべく、各エリアで積極的に事業を展開していきます」と抱負を述べた。
出店した店舗はどのような戦略を持ってオープンを決めたのか。
「富久栄珈琲」を展開する富久栄商会(郡山市)の中島茂代表取締役は「以前から、福島市に出店したいと考えていたところにJR東日本東北総合サービスからお声がけいただいた」と出店の経緯を語る。
「県庁所在地で人口規模が大きい。かつ当社の店舗の常連さんも多く住んでおり、新たに良質な顧客層が作れることを期待して出店しました。新幹線駅に近い立地であり、観光資源も豊富なので、大型店が撤退したとはいえ需要が消失したわけではないと思うし、ポテンシャルは大きいと考えています」(中島代表)
「喜多方ラーメン坂内」を展開する麺食(東京都、中原誠代表取締役社長)も「JR側から『ご当地ラーメンの店舗を招致したい』と声をかけられたのがきっかけ」と明かす。
「福島ブランドとして弊社に白羽の矢を立てていただいたからには、福島を少しでも盛り上げたい、元気になっていただきたいという使命感に近い思いが湧きました。福島市に本社があり、事業を長年にわたり堅調に行い、多くの知見をお持ちの加盟者様(株式会社松屋)のご協力もあり、(フランチャイズでの)出店を決めました。福島市は人口が30万人近くで、さらにピボット改装の目玉としてスーパーのロピア様が出店されるとのこと。(坂内は)同市でブランド認知があり、かつ同市の方がスーパーにご来店されると考えると、相乗効果が期待できるので、非常に魅力的な商圏と考えています」
「新幹線の駅ということもあり、観光や出張で福島にお越しになる方が福島っぽさを感じていただくには最適だと思っています。福島駅構内ということもあり、〝目的来店〟してもらえるブランド力が福島ではあると考えております」
「(『喜多方ラーメン坂内』のルーツは喜多方市の坂内食堂にあり)本拠地が福島なので、坂内食堂さんをはじめ、地域の皆様と協力しながら『喜多方ラーメン』のブランド力、認知力向上のためにできる限り努めていきたいと考えています」(同社マーケティング部担当者)
ドンキとの相乗効果

その他、取材に応じてもらった店舗の回答は以下の通り。
【タリーズコーヒー】
「今回、西口エリアは新たな商業施設の開業により、住宅地域とのつながりがより深まり、観光で訪れる方の利用も見込まれるので、幅広い皆さまに日常的にご利用いただける店舗を想定しております。店舗内装には『土湯こけし』など福島市の名産や文化の要素を取り入れ、地域に親しみを感じていただける空間づくりを行っています。福島県内は今後も可能性のあるエリアと考えており、地域の皆さまとのつながりを大切にしながら、出店や取り組みを進めていきます」
【丸亀製麺】
「地元住民にとってのターミナル駅として、休日、平日ともに多くの方がご利用されている駅であり、幅広い方に日常におけるさまざまなシーンで打ち立てのおいしいうどんをお届けできたら、と考えました。地域のみなさまの食の選択肢の一つになっていただけたらうれしいです」
各社とも観光・ビジネス、両面での利用客が多い新幹線駅であることや、人口の多さ、ロピアなどとの相乗効果を評価して出店を決めたことが分かるだろう。
福島駅西口駅前の歩行者通行量は2024年7月時点で、休日1197人、平日1628人に落ち込んでいたが、福島市の「AI人流・交通分析システム」で確認したところ、休日(4月19日・日曜日)4758人、平日(4月22日・水曜日)5912人とイトーヨーカドー福島店閉店前よりも増えていた。
市内の商業関係者は、福島駅を起点に西口のピボット、そして北側のMAXふくしまへと人々が回遊する「新たな人の流れ」に注目し、2つの動きが中心市街地活性化の〝救世主〟になることを期待する。
福島市商店街連合会の小河日出男会長は「毎年まちなか広場などで開催している日本酒イベントには県内外から多くの人が集まる。提案次第で中心市街地ににぎわいを生み出すことは可能であり、今後も東西連携しながら、さまざまな企画で盛り上げていきたい」と語った。
来店客に対応できるか
福島大行政政策学類学類長を務める今西一男教授(都市計画論、都市社会学、社会調査論)は今回のリニューアルオープンについて次のようにコメントする。
「大型商業施設の閉店が続き、生鮮食料品を入手できる店舗が近くにない『フードデザート』が中心市街地に発生しつつあった中で、民間事業者の進出により環境が改善したのはひとまず喜ぶべきこと。今後は来店客の動向に合わせていかにフィットしていけるかがにぎわいを保つためのカギになると思います」
来店客の動向にフィットするとはどういうことか。例えば、ロピアの閉店時間は20時で、仕事帰りの人やアルバイト終わりの大学生などは開店時間までに来店できない可能性が高い。イトーヨーカドー福島店の閉店時間は21時だった。また、同店の特徴は低価格の大型パックだが、駅構内の店舗を日常的に利用する顧客層を考慮すると、1~2人用の少量パックの需要が高いと予想され、ミスマッチが生じかねない。
気になったのは駐車場問題だ。ロピアオープン日、店の前に行列ができているのに、ピボットの有料駐車場(約420台分)には空きがあった。行列に並ぶ来店客は「福島駅東口に車を止めると西口への移動が煩わしくなると思い、周辺に車をとめてきた」、「バスを利用してきた」と話していた。専用駐車場の存在が十分に認知されていない可能性がある。
新聞報道によると、この間時間帯によって買い物客以外の利用が増えて駐車場が混雑し、館内利用者が駐車できないケースもあったため、JR東日本東北総合サービスは3月に最大料金を撤廃。館内で1500円以上の買い物をすれば1時間半以上無料となるサービスを提供する形に切り替えたという。ただし、「日常的な買い物をするのに駐車券を取るタイプの駐車場に入るのが面倒」(年配男性)という声もあり、気軽に利用できることを周知していく必要性がある。
東西に分断された都市構造もネックとなり得る。市民からは「話題の店舗には行ってみたいが、わざわざ東口から地下通路を通って西口まで歩いていく気にならない」(中年男性)、「そもそも高齢者は歩いて移動したりカートがない店舗で買い物をするのが億劫。コメや飲料など重いものを買う気はしない」(年配男性)といった辛辣な声が聞かれた。
2024年11月には、QRコードを活用して駅の東口と西口を結ぶ改札内の跨線橋を無料で通れる社会実験が行われたが、本格導入には至っていない。
さらに言えば、2024年5月に閉店したイトーヨーカドー福島店の跡地利用はいまだに決まっていない。建物は解体され更地になったが、土地を所有するヒューリック社は具体的な活用策を明かしていない。
福島駅東口の再開発事業も壁にぶつかっている。当初は2026年度の開業を目指していたが、建設費の高騰により計画が大幅に遅延。現在は2029年度中の開業を見込んでいるが、2月にはそこからさらに7カ月遅れる見通しが発表され、建設費用も含めて不透明な状態だ。
こうした中で、ピボットは今回生み出した熱狂を、安定したにぎわいとして定着させることができるか。
東西で魅力創出できるか


中合福島店が閉店した2020年には、中心市街地のにぎわい回復に向けて、食品スーパー・いちい(福島市)が空きビルに出店していたことがあったが、解体工事が始まるのに合わせてそのまま閉店した。駅前という立地もあり、来店客数はそれなりにあったようだが「売り上げはかなり厳しかったようだ」(市内の経済人)という声も聞こえてくる。
福島駅西口はかつて〝駅裏〟と呼ばれ、工場や資材置き場、国鉄の関連施設や職員向けの住居があるぐらいだった。
東北新幹線開通に合わせて周辺で再開発事業が進み、イトーヨーカドー福島店がオープンしたことで人の流れが生まれた。ただ、同店の閉店により人の流れが減り、中心市街地活性化を巡る議論でも、福島駅西口への商業施設整備は後回しにされがちだった。今回のピボットのリニューアルにより、再生の兆しが見えたが、課題は残る。
一過性のブームに終わらせないためには、東口の再開発問題や跡地利用といった「宿題」をいかに解決し、東西で一体となって魅力を創出できるかが需要となる。そうした意味でも、旗振り役を務める馬場雄基福島市長の手腕が問われる。「西口が発展して人が行き来する場所になってほしい」――買い物を済ませた市民が語った一言を官民でどう実現していけるか。






















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