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なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

福島大学の学生が語る投票率アップのヒント

 若者の投票率が低迷を続けている。昨年10月に行われた福島県知事選挙は10代から30代の有権者の投票率がいずれも3割に満たなかった。その中でも最低は20代の21・35%。なぜ若者は選挙に行かないのか。どうすれば投票率を上げられるのか。若者への選挙啓発を中心に活動する福島大学の学生団体「福大Vote(ボート)プロジェクト」(以下、福大Voteと表記)に所属する学生に話を聞いた。(佐藤大)

若者の投票率がほかの世代と比べてどれだけ低いのか

 昨年10月に行われた福島県知事選挙の投票率は42・58%だった。一方、年代別投票率はグラフの通り

福島県,令和4年10月30日執行 福島県知事選挙 年代別投票率
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/543772.pdf

 最も高いのは70代の59・52%、最も低かったのは20代で前回より1・77ポイント低い21・35%、次いで10代が同4・52ポイント低い26・22%、30代が同1・47ポイント低い28・68%と、若い世代がいずれも3割に満たない結果となった。

若者の投票率が低い原因にはどんなことがあるのか

【①社会と接する機会】

 東京都が行った「選挙に関する啓発事業アンケート結果」(2018年)によると、若年層の投票率が低い背景について「政治を身近に感じられないから」(70・7%)が最も高く、以下「選挙結果で生活が変わらないと考えているから」(69・7%)、「政治や社会情勢に関する知識が不十分だから」(46・4%)と続いている。

東京都,選挙に関する啓発事業アンケート結果,2018
https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/29/01_07.html(若年層の投票率が低い背景)


 「政治を身近に感じられない」のはなぜか。その原因を探るため、若者への選挙啓発を目的に、2016年に福島大学の学生有志で結成された福大Voteのメンバーに生の声を聞いた。

 福大Voteは設立当初、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることを受けて、大学や福島市選挙管理委員会に働きかけ、学内の図書館に期日前投票所を設置することに尽力した。現在のメンバーは7人で、若者に向けた選挙啓発を中心に活動している。

 代表の関谷康太さんは「そもそも友達同士で政治や選挙が話題に上がらない」と話す。

 「政治の話はタブーという雰囲気がありますね。あとは普通に生活していると、自分のことで精一杯というか……。大人になってから政治が及ぼす影響を考えるようになるのかもしれません」(関谷さん)

 若者は他の年代と比べて社会との接点が少ない。人は年を重ね、会社に入ったり、家族を持ったりすることで社会、地域、教育といった問題を自分事として捉え始める。

 東京都主税局の「租税に対する国民意識」(2017年)によると、中間層の税負担について、日本は「あまりに高すぎる」「高すぎる」と回答した人の割合が60%を超えている。また、回答者の60%以上が官公庁からの情報発信が不十分としており、情報提供の充実を求めている。

東京都主税局,租税に対する国民意識と税への理解を深める取組,2017
https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc29_s1/15-1.pdf(6ページ)

 福島県の「少子化・子育てに関する県民意識調査」(2019年)によると、子育て環境の整備や少子化対策で期待することは「児童・児童扶養手当拡充、医療費助成、保育料等軽減等、子育て世帯への経済的な支援」(44・7%)が最も高い。

福島県,少子化・子育てに関する県民意識調査,2019
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/344247.pdf(9ページ)



 払う金は少なくしたい、でも、もらえる金は多くしたい、という本音が透けて見える。

 社会人になって初めて気付く社会保険料のインパクト……。新卒1年目、しゃかりきに働いてやっと掴んだ1万円の昇給……その金が住民税でチャラになってしまう虚しさ……所得税も地味に負担となる……。

 「税金が高すぎる」――こんな叫びが、結果として政治に関心を持つきっかけになるということだろう。

【②住民票問題】

 山形県出身の井上桜さんは「福大周辺に住んでいますが、山形から福島に住民票を移していないので投票には行きませんでした」と話す。

 「私が通う行政政策学類は多少なりとも政治に興味があって入っている人が少なくない。なので実家暮らしで住民票がある人は『投票に行った』とよく聞きますね」(井上さん)

 井上さんが福大Voteに入ったきっかけは大学の受験科目「政治・経済」を深く勉強していく中で政治に興味を持ったからだという。入学前からサークルを調べ、自らSNSでダイレクトメッセージを送って福大Voteに入った。そこまで政治に興味がある彼女ですら選挙に行かなかった(行けなかった)のだ。

 総務省が行った「18歳選挙権に関する意識調査」(2016年)によると、投票に行かなかった理由として「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」が最も多く、年齢別では18歳(15・6%)よりも19歳(27・5%)の割合が高い。

総務省,18歳選挙権に関する意識調査の概要,2016
https://www.soumu.go.jp/main_content/000456090.pdf(2ページ)

 選挙は通常、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家から移さないため、帰省のタイミングで選挙がない限り進学先では投票できない。

 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。

 実際、福島県知事選挙の投票率を詳細に見ていくと、18歳は34・21%だったが、19歳は17・83%と最も低かった。

【③なじみの薄い選挙】

 読書が好きで、もともと政治に関心が高い山本雅博さんは「政治は面白いのに、面白さに気付いてない」と話す。

 「周りを見てみると、政治に関心がないし、あまり知識がない印象です。それでも僕が友人に熱心に語りかけると、『投票行ったよ』と言ってくれる人もいる。もっと政治を話す場があれば選挙に行くきっかけになるだろうし『誰々は選挙に行ったみたいだ』という話が広まればさらに選挙に行く人は増えると思います」(山本さん)

 福大Voteは県選管の協力を得て、知事選前の10月27・28日、投票率アップにつなげようと、大学図書館の一角で学生が選挙や政治について気軽に話すことができる「選挙カフェ」を開いた。テーマを決めて議論し、訪れた学生と意見を交わした。

 市町村の選管も、若者の投票率向上のためさまざまな取り組みを行っている。

 須賀川市選管ではバス車内で投票ができる移動期日前投票所を市内の高校に初めて開設するなど、若者が投票しやすい工夫を凝らした。

 福島市選管では市内の中学校で選挙への理解を促す出前授業を開き、生徒が模擬投票を体験した。

 決定に関わる取り組みを子どものころに経験し、積極的に物事に関わる姿勢(若者の主権者意識)が醸成されれば、民主主義の基盤を早くから意識できる。

投票率を上げるためにはどうすればいいのか

【①情報】

 各選管は移動期日前投票所の設置や模擬投票の実施など若者の投票率向上に躍起だが、冒頭に示した投票率の通り結果は伴っていない。

 若者の投票率を上げる方策はあるのか。

 前出・渋谷さんは次のように指摘する。

 「若者の目に留まりやすいSNSなどを活用し、社会に関心を持ってもらうような啓蒙活動を多面的にアプローチすることが必須なんじゃないかなと思います」

 例えば、知事選の候補者だった内堀雅雄氏と草野芳明氏は若者からすると、言ってしまえばどちらも〝知らないおじさん〟でしかない。

 東京都知事選挙は22人が立候補し、テレビで見たことがある馴染みの候補者が何人もいた。宮崎県知事選挙はタレントの東国原英夫氏が立候補するなど、地方の選挙でも有名人が立候補することは珍しくなくなった。

 もちろん知名度があればいいというわけではないが、話題性は高くなるので、結果的に有権者は候補者の素性や公約を知る機会が増える。

 新聞・テレビ離れが進み、若者が候補者の情報をキャッチする機会は減り続けている。一方、スマートフォンが普及し、アプリが多様化する中、若者は求める情報を自らキャッチしにいくのが当たり前になっている。

 若者が普段使っているアプリ―ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトック―挙げたらきりがないが、各選管は予算をかけて多方面で周知を図る必要があるだろう。

【②選挙に出よう】

 日本財団ジャーナルが行った意識調査(2021年)によると、「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人にその理由を尋ねたところ「投票したい候補者・政党がいないから」が最も多く22%だった。

日本財団ジャーナル,意識調査,2021

https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63822

 本誌で連載しているライター、畠山理仁氏の「選挙古今東西」(昨年6月号)を引用する。

私はかねてから「選挙に行こう」ではなく「選挙に出よう」と呼びかけてきた。選挙に出る人が増えれば選択肢が増える。選択肢が増えれば投票に行く人も増える。つまり、自分の1票を実感できるチャンスが増える。候補者が増えて適正な競争が行われれば、政治業界全体のレベルも上がる。多様な候補者が立候補することで「今、政治には何が求められているか」も可視化される。誰にとっても不都合はない。

 (中略)

 もう一つの問題は「立候補のしかた」を学校で教えないことだ。そのため、どうやって立候補したらいいのかわからない人が多くいる。

 安心してほしい。私たちの社会は、そんな時のために働いてくれる人たちをちゃんと用意している。役所にある選挙管理委員会(選管)の人たちだ。そこをたずねて「立候補したい」と伝えれば、懇切丁寧に立候補までサポートしてくれる。

 選挙の約1カ月前には、各地の選管で「立候補予定者事前説明会」が開かれる。一度出席してみれば、すべての候補者がとても複雑な手続きや高いハードルを超えて立候補していることがわかる。会場を出るころには候補者への敬意を抱くこと間違いなしだ。ぜひ、自分の権利を確認するためにも訪ねてみてほしい。

 参議院議員と都道府県知事の被選挙権は満30歳以上だが、衆議院議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議員は満25歳以上だ。供託金などの費用が最大のネックではあるが、20代がもっと当事者意識を持っていいはずだ。

【③与野党への考え】

 福大Voteの3人に「政党についてどう考えているか」を聞いた。

 「特定の支持政党は無いですね。ただ、野党には頼れないので、結局与党に投票することが多いです」(関谷さん)

 「私も与党野党どちらを支持するとかはないです。政治全体を見て判断したいですね」(井上さん)

 「根本に政権交代してほしいという思いがあるので、野党の国民民主党を支持していたことはあります。ただ結局、政治は多数決で、数が必要という要素があるので、今はどこがどうというのはありません」(山本さん)

 本誌主幹・奥平はたびたび「政府与党の傲慢さと野党のだらしなさ」を指摘している。投票しようにも、推したい政党・候補者がいなければ選挙離れは進む一方だ。

左から井上桜さん、関谷康太さん、山本雅博さん

投票しないことのデメリットは何か

 福大Voteの3人に「政治に求めるもの」を聞いた。

 「若い世代の支援をもうちょっと増やしてほしいです。あとは地方創生、教育格差の是正です。生まれた家庭環境によって教育機会に違いがあるのはおかしいと思います」(関谷さん)

 「大学周辺に買い物ができる場所がないんです。スーパーが1軒でもあれば……。電車やバスの本数ももっと増やしてほしいですね」(井上さん)

 「防衛費はGDPの何%ということではなく、必要なものを精査して調達することが重要だと思いますし、それに合わせた予算を組むべきです。防衛省の情報が分かりにくいので、国防上明かせない情報があったとしても『こういう戦略で国を守っていく』と分かりやすく説明してほしいです」(山本さん)

 3人はまだ学生なのに、それぞれしっかりした考えを持っている。ここまで意識が高ければ、黙っていても選挙に行くだろう。問題は、政治に全く興味がない人へのアプローチだ。

 人が行動する動機は2種類しかない。「快楽を得たい」か「痛みを避けたい」かのどちらかだ。

 政治に興味がない人に、選挙に行くメリットを説いても響かない。快楽を得るほどの成果も生まれない。それであれば、痛みを避けるパターンで訴えていくしかない。

 再び畠山氏の「選挙古今東西」(2020年4月号)を引用する。

 選挙は積極的に参加したほうが絶対に「得」だ。参加しなければ「損」をすると言っても過言ではない。

 今、日本人は収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している。これは「国民負担率」という数字で表されるが、令和2年度の見通しは44・6%。このお金の使い道を決めていくのが政治家だ。

 幸いなことに、日本は独裁国家ではない。民主主義国家だから、有権者は自分たちの代表である政治家を選挙で選ぶことができる。18歳以上で日本国籍を有していれば、性別や学歴、収入や職業的地位に関係なく、誰もが同じ力の「1票」を持っている。実はこれはスゴイことだ。

 もっとわかりやすく言う。

 「無収入の人も年収1億円の人も平社員も社長も同じ1票しかない」

 それを誰に投じるかは有権者次第であり、1票でも多くの票を得た候補が当選する。これがルールだ。

 つまり、選挙に積極的に関わらないでスルーしていると、自分の理想とは違う社会がやってくる可能性がある。考えようによっては、かなりヤバイ。自分の収入の約4割をドブに捨てることにもなりかねない。

 今は国政選挙でも投票率5割を切る時代だ。地方選挙ではもっと低いこともある。つまり、「確実に選挙に行く人たち」の力が相対的に大きくなっている。貴重な1票を捨てている人は、あっという間に社会から切り捨てられる存在になるだろう。

 政治に参加せず、「収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している」現状を放置すれば、それが5割、6割と高くなっていくのは目に見えている。痛みを避けたければ、まずは選挙に行くしかない。

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