本誌昨年10月号と今年1月号で、JR郡山駅前の東邦銀行郡山大町支店跡地に風俗店が建設された問題を取り上げた。支店跡地は郡山市の不動産業㈱大地物産が入札で取得後、風俗店に売却されたが、今から30年近く前、同社オーナーは「深刻なトラブル」の渦中にいたことが分かった。同社オーナーの意外な前職とともに、その過去を追った。
《あわせて読みたい》2024年10月号 【郡山駅前】東邦銀行跡地に風俗店建設
《あわせて読みたい》2025年1月号 東邦土地建物を騙した!?郡山の不動産業者
中古車販売業時代に起きた保険金殺人未遂事件

大地物産が東邦銀行から郡山大町支店跡地を取得し、風俗店を運営する群馬県の飲食店経営会社に売却するまでの経緯は昨年10月号と今年1月号で詳報しているため、ここでは割愛する。
この稿で取り上げるのは、大地物産そのものについてだ。
法人登記簿によると大地物産は1984年6月設立。資本金1000万円。事務所は郡山市菜根一丁目の新築された建物内に置き、不動産の売買、賃貸借、斡旋、仲介、管理を行っている。役員は代表取締役・大原喬、取締役・蛯原亜紀子、大原靖仁の各氏。大原喬社長は靖仁氏の息子だが、全株式を保有するのは靖仁氏。民間信用調査機関によると2024年5月期の決算は売上高が7億9400万円、当期純利益は8200万円を計上している。
今年で設立41年になるが、大原靖仁氏が不動産業と一緒に中古車販売業も行っていたことはあまり知られていない。
三春町に㈱キヤラバンモータースという中古車販売や修理・板金塗装を手掛ける会社があった。1978年11月設立。資本金1000万円。年配層は「ピーマンおじさん」が登場するユニークなローカルCMで覚えている人もいるかもしれない。ピーク時は年商14億円を超え、従業員は二十数名、福島市と会津若松市に支店も構えていた。
大原氏はこの会社で代表取締役を務めていたが、代表取締役はもう一人いた。Aという人物だ。大原氏とA氏は以前、同じ食品製造販売会社で同僚という間柄だった。
そんな関係性から、キヤラバンモータースを創業したのはA氏だったが、大原氏は取締役として参画し、のちに代表取締役に就いた。
事件は今から28年前に起きた。以下は1997年8月28日付の福島民報より。
郡山市片平町の郡山ウエストソフトパークの路上で21日夜、同市内の不動産仲介業者がけん銃で発砲され負傷した事件で、郡山署は県警本部捜査二課と銃器対策課の応援を受け、27日までに殺人未遂の疑いで郡山市××、自動車販売会社役員A(48)=新聞記事には詳細な住所、実名が載っているが、ここでは伏せ字、イニシャル表記とする。以下同=、同市××、不動産業N(53)、栃木県那須町、医療器具販売業I(58)の3容疑者を逮捕した。
調べでは、A容疑者ら3人は共謀して郡山市××、不動産仲介業Sさん(46)を殺害しようと計画。21日午後7時5分ごろ、郡山ウエストソフトパークの路上でSさんにけん銃を発砲し、後頭部に約10日間のけがを負わせた疑い。現場の状況からけん銃を発砲したのはI容疑者とみている。
これまでの調べで、A容疑者とSさんの間に中古車販売などで7000万円の金銭トラブルがあったことが分かった。さらに、Sさんには7000万円の生命保険がかけられていたこともつかんでいる。このため、保険金を狙った犯行の可能性が大きいとみて、A容疑者らから詳しい動機や犯行の役割分担などを厳しく追及している。
記事によると、けん銃で撃たれたSさんは自力で市内の病院に行き、治療を受け、病院から警察に通報した。事情聴取に対し「土地の話があると呼び出され、現場でAと話していたところ被害に遭った」と説明した。現場にはSさんの車を含め3台の車があったという。
同紙から、さらに抜粋する。
郡山署の調べによると、A容疑者は社長時代の平成6年から7年にかけて、Sさんと中古車の販売を通して付き合いがあった。
SさんがA容疑者のもとに中古車数十台を持ち込み、A容疑者が買い上げていた。しかし、その中古車に問題があるなどしてトラブルが続き、A容疑者はSさんに約7000万円の貸金を持つようになったという。
7年初めにはSさんに借用書を書かせるとともに貸金と同額の生命保険に加入させ、A容疑者が受取人になっていた。その後、貸金の回収は進まなかったらしい。
最近になって、A容疑者のもとに中古車を持ち込んでいた郡山市××、不動産業N容疑者(53)がSさんへの貸金の取り立てを持ちかけ、今回の事件に発展していった。
事件のそもそもの原因はSさんにあったようだが、A氏は貸金と同額の生命保険に加入させ、自分を受取人にしていることから、回収できなければ殺して清算する意図があったのだろう。
3被告に対しては2000年2月に地裁郡山支部で、A氏とI氏に懲役8年(求刑同10年)、N氏に懲役7年(求刑同8年)の実刑判決が言い渡されたが、同年7月、仙台高裁はA氏とN氏の一審判決を破棄し、A氏を懲役6年、N氏を懲役6年6月に減刑した。両氏とSさんとの間で示談が成立したことが理由。
東邦銀行と懇意の関係
これだけの事件を起こしたのだから、キヤラバンモータースは当然仕事がやりにくくなる。事件が報じられる前日(1997年8月27日)、A氏は代表取締役および取締役を解任された。事件から約2カ月後の同年11月7日には、社名を㈱キャメルオートに変更した。
そんなトラブルを引き起こした会社で、大原靖仁氏はA氏とともに代表取締役を務めていたのだ。
意外にも、キャメルオートはそれから約18年存在し続けたが、中身は休眠状態だったようだ。2015年7月、大原氏が代表清算人となり解散した。
解散直前の役員は代表取締役・大原靖仁、取締役・遠藤芳彦、蛯原亜紀子、吉川正幸、監査役・上石英子の各氏。大地物産の取締役(専務)にも同姓同名の蛯原亜紀子氏がいるが、同一人物だろう。
「当時のことは薄っすらと記憶している」と振り返るのは県中地区の不動産業者である。
「当時、A氏は反社との関わりがウワサされていたし、N氏は某宗教団体の幹部だった。そういう人と一緒に会社をやっていた大原氏が不動産業に進出してきた時は、正直『どんな人なんだろう』と思った」
時が経ち、大原氏に中古車販売業を行っていた面影はない。大地物産は順調に売り上げ、利益を確保しているが、ここ数年、特に目立つのが東邦銀行との取引だ。本誌が調べただけでも別表の実績がある。

抵当権と根抵当権の合計は、実に43億9700万円に上る。
別表の5カ所のうち、大地物産が現在も所有しているのは①~③だ。④は、向河原町204―2を大阪市のアーク不動産に売却し、同所にはその後、中古車販売業ビッグモーターの店舗が建った(同社は数々の不正で経営破綻し、伊藤忠商事グループなどに買収され、新会社WECARSに変わっている)。同じく向河原町204―6は仙台市の仙建工業に売却し、同社社屋が建てられた。⑤はすべてヨークベニマルの子会社ライフフーズに売却し、現在、新しい食品工場を建設中だ。④と⑤に設定されていた東邦銀行の担保は売却に伴い抹消されている。
「理解に苦しむ」
大地物産が東邦銀行と懇意な関係にあることが分かるが、そんな同行の郡山大町支店跡地を本誌既報の通り風俗店に売却したから、前出・不動産業者は「なぜそんなことをしたのか」と首を傾げる。
「銀行が風俗店と取引しないことは大地物産も分かっていたはず。にもかかわらず、同社は支店跡地を風俗店に売ってしまった。しかも政経東北の記事によると、支店跡地の入札を行った同行の関連会社・東邦土地建物は取材に『風俗店に売却されることを知らなかった』と答えている。同行は東邦土地建物に、支店跡地が風俗店に売却されたことに猛抗議したという話も伝わっている。他社のことながら、なぜ同行との関係が揺らぐような行為をしたのか理解に苦しむ」(同)
さらに、この不動産業者は「東邦銀行はキヤラバンモータース時代のことを知っていたんでしょうかね」とも付け加えたが、30年近く前のことだけに現行員が知らなかったとしても不思議ではない。
大原氏に、キャラバンモータース時代のことや東邦銀行支店跡地の売却について話を聞くため、大地物産に取材を申し込んだが、1月27日現在、何の返事もない。
本誌昨年11月号で大地物産の蛯原専務は、東邦銀行→大地物産→風俗店への転売は停滞する「日の出通り線」の工事に協力する狙いがあったと語っていたが、思わぬ形で自社に火の粉が降りかかってしまっている状況だ。
《あわせて読みたい》2024年10月号 【郡山駅前】東邦銀行跡地に風俗店建設
《あわせて読みたい》2025年1月号 東邦土地建物を騙した!?郡山の不動産業者