店がないなら自分で開けばいい

店がないなら自分で開けばいい

福島大学周辺には学生向けのアパートが多く立ち並ぶが、近くに学生街が存在せず、買い物やアルバイトなどには電車で市街地まで移動する。地域との関わりが希薄になりがちな中で、雑貨店を開き地域を盛り上げる学生がいる。(本誌編集部)

美術教員目指す福大生の雑貨店

福島大学の最寄り駅・JR金谷川駅前には単身者向けアパートが林立し、多くの学生が暮らしている。

 その一角にある小さな建物に昨年10月、雑貨店「Atelier(アトリエ)」がオープンした。4畳半ほどの店舗内の壁面に16マスの棚が設けられ、県内のハンドメード作家が制作したアクセサリーやぬいぐるみ、焼き菓子やマフィンなどが並べられている。

 「商品は県内のハンドメード作家と契約し、販売を受託する形を取っています。建物は障害者の就労支援事業などを展開するNPO法人南茶和(みなみさわ)が所有している建物を格安で借りています」

 笑顔でこう説明するのは店主で福島大学2年生の佐藤響さんだ。

 佐藤さんは同大人間発達文化学類の芸術・表現コースで学ぶ。福島市に生まれ、会津若松市で育った。会津高校在学時からアートを学び、会津地方の複数の公募展で賞を受賞。「高校卒業後は美術の教員になりたい」と同大学に進んだ。教員を目指す学生がなぜ雑貨店を始めたのか。

 「大学のボランティアサークルで草むしりや金谷川駅前の掃除などの地域活動に参加した際、同じく参加していたNPO法人南茶和の方から、『コロナ禍にテイクアウト用弁当を販売していた建物が空いている。格安で貸すので活用してもらえないか』と打診されたのです」(佐藤さん)

 大学周辺には学生が多く暮らしているものの、店舗はコンビニと飲食店が数軒ある程度で、娯楽施設は皆無。学生は買い物、遊び、アルバイトなどの用事がある際は電車で市街地に出掛け、住んでいる地域との関係は希薄だ。一方、地域活動に参加する地元住民は高齢者が多い。

 「とてもアンバランスな状況と感じ、少しでも学生の手で地域を盛り上げたかった。ただ、サークルのメンバーの反応はいま一つだったので、個人的に挑戦することにしたのです」(佐藤さん)

 県内のハンドメード作家に地道に声を掛け、棚がすべて埋まるほど商品が集まった。福島大学地域未来デザインセンターの教員や仲間と相談しながら、半年以上かけて店づくりを進め、昨年10月、オープンに漕ぎ着けた。インスタグラムを活用し、PRに取り組んだ結果、地元の新聞やテレビ局、ウェブサイトなどで紹介され、徐々に注目を集めるようになった。

 「ハンドメード作品も一つのアート。お客さんに身近なものに感じてもらい、地域の盛り上がりに貢献できたら、アートに携わる者としてこれほどうれしいことはありません」(同)

 学業との両立と採

 もっとも、委託販売の売り上げだけで家賃や人件費を賄うのは困難。佐藤さんは4月から教職課程の授業で忙しくなることもあり、同店は2月26日で一旦閉店することになった。ただ、閉店後は学内での単発イベントなどに出店する形で、活動を継続していく方針だという。

 高校受験直前の2020年初頭にコロナ禍に突入し、さまざまな制限が課せられる中で高校生活を送ってきた佐藤さん。大学に入ってからもしばらくは対面授業と遠隔授業が混在していたが、規制が緩められるのに合わせて、能登半島地震の災害ボランティアや楢葉町での地域おこし協力隊インターン活動などに参加してきた。

 「サークル活動で地元住民の方と交流した際、普段は接点のない学生の活動でも地域に受け入れられていると実感できました。今後もアートをはじめさまざまなアプローチで地域と学生の関わりを増やし、大学周辺の松川地区のイメージ向上につなげていきたいと考えています」(同)

 空きテナントをアトリエに改装してアーティストに安く貸したり、人を呼び寄せ、心に訴えるアートの力を使ったりしてまちおこしや地域の課題解決につなげる取り組みが全国で展開されている。佐藤さんの取り組みが今後どのように発展していくか興味深いし、大学を卒業して教職に就いた後も続いていくのだろう。

 福島大学周辺では、学生らが空きテナントなどに出店する動きが盛んで、知る人ぞ知る人気のラーメン店や自家焙煎のコーヒー店も進出している。佐藤さんのアート活動をはじめ、学生と地元住民の交流が深まり、連動していくことで、全く新しい学生街が誕生するかもしれない。

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