政経東北|多様化時代の福島を読み解く

現職退任で混沌とする猪苗代町長選

続・現職退任で混沌とする猪苗代町長選

 任期満了に伴う猪苗代町長選は6月13日告示、同18日投開票の日程で行われる。現職・前後公氏は今期限りでの退任を表明しており、次の舵取り役が誰になるのかが注目されている。(※記事は3月27日時点での情勢をまとめたもの)

前後氏の後継者と佐瀬氏の一騎打ちか

前後公町長

 猪苗代町議会3月定例会の最終日(3月20日)。閉会のあいさつに立った前後公町長は、同議会に上程した議案が議決されたことへの感謝を述べた後、「私事ですが」として、こう話した。

 「6月に行われる町長選には立候補しない。3期12年、東日本大震災・原発事故があった中、年間100万人が訪れる道の駅猪苗代がオープンし、認定こども園2カ所も開所することができた。中学校統合の道筋もできた。後進に道を譲りたい」

 前後氏は1941年生まれ。日本大学東北工業高(現・日大東北高)卒。1961年に町職員となり、生涯学習課長などを務めた。2011年の町長選で初当選し、3期目。

 現在81歳で、県内市町村長では最年長になる。年齢的な面で、以前から関係者の間では「今期までだろう」と言われており、その見立て通りの退任表明だった。

 「就任して少し経ったころは、疲れているのかなと思うこともあったが、町長の職務に慣れてきてからは就任前より元気なのではないかと思うくらい、気力が充実していたように感じます。酒席などに出ても長居することは少なく、健康面にはかなり気を使っていました。実際、この間、大きな病気をしたことはない。ただ、いまは元気でも任期中に何かあったら迷惑がかかるという思いはずっとあったようです」(ある支持者)

 近隣の関係者はこう評価する。

 「よく『開かれた町政』ということを掲げる人がいますが、前後町長は任期中、一度も町長室の扉を閉めたことがなく、文字通り『開かれた』町政だった。そうして町民と気軽に接することができるようにしたのは立派だったと思います。もっとも、本当に気軽に町長室に入っていく町民はあまりいなかったでしょうけどね。それに対して、ある首長は部屋(市町村長室)の鍵をかけておくんですから、えらい違いですよ」

 この間、本誌記者も幾度となく前後町長と面会したが、確かに町長室の扉が閉められた(閉まっていた)のは見たことがない。前後町長はよく「誰かに聞かれて困るようなことは何もない」、「(扉を閉めて)密室で何をしているのかと思われるよりはよっぽどいい」、「誰でも入ってきて要望等、言いたいことを言ってくれたらいい」と言っていた。

 さて、前後町長退任後の町長選だが、同町議員の佐瀬真氏が3月定例会初日の3月7日に、渡辺真一郎議長に辞職願を提出し、本会議で許可された。同時に町長選への立候補を表明した。なお、議員辞職は会期中であれば議会の許可が必要になり、閉会中だと議長の権限で辞職の可否を決めることができる。

 佐瀬氏は1953年生まれ。会津高卒。2012年2月の町議選で初当選。2015年6月の町長選に立候補し、前後氏に敗れた。その後、2016年2月の町議選で返り咲きを果たした。2019年6月の町長選にも立候補し、前後氏と再戦。最初のダブルスコアでの落選から、だいぶ票差を詰めたが当選には届かなかった。2020年の町議選で三度返り咲きを果たしたが、前述したようにすでに辞職して町長選に向けた準備に入っている。

 ある町民はこう話す。

 「最初の町長選(2015年)は、佐瀬氏本人も『予行演習』と言っていたくらいで、2期目を目指す現職の前後氏に勝てるとは思っていなかったようです。ただ、2回目(2019年)は本気で取りに行くと意気込んでいた。結果は、1回目よりは善戦したものの、現職の前後氏に連敗となりました。その後は地元を離れて仕事をしているという情報もあったが、翌年(2020年)の町議選で復帰したことで、次の町長選も出るつもりだろうと言われていました。ですから、佐瀬氏の立候補表明は予想通りでした」

前後町長の後継者は誰に

 一方で、別の町民は次のように語った。

 「佐瀬氏は過去2回、町長選に出ていますが、いずれもその翌年の町議選で議員に復帰しています。『町長選がダメでも、また議員に戻ればいい』とでも考えているのではないかと疑ってしまう。少なくとも、私からしたらそういう感じがミエミエで、町民の中にも『どれだけ本気なのか』、『そんな中途半端では応援する気になれない』という人は少なくないと思いますよ」

 確かに、同様の声を町内で何度か耳にした。町長選の8カ月後に町議選がある並びというも良くない。ちなみに、2020年の町議選は無投票で、町によると、記録が残る1964年以降で初めてのことだったという。労せずして議員に返り咲いたことになる。

 3月27日時点で、佐瀬氏のほかに立候補の意思を明らかにしている人物はいないが、前後氏の後継者が立候補することが確実視される。

 前後氏の後援会関係者は次のように話す。

 「前後町長は後援会役員に、『今期で引退する。後継者は私が責任を持って決める。私が決めた人で納得してもらえるなら、応援してほしい』と宣言しました」

 そんな中で、名前が挙がるのが元町議の神田功氏(70)。過去にも町長選の候補者に名前が挙がったことがあった。

 「その時は家族の理解が得られなかったようだ。それと関係しているかどうかは分からないが、直前で息子さんが亡くなり、町長選どころではなくなった」(ある町民)

 神田氏は2008年の町議選を最後に議員を引退した。現在は、家業である民宿を経営している。

 「もともとは前後町長の対立側にいた人物で、もし、神田氏が前後町長の後継者に指名されたら、後援会関係者の中には、『神田氏では納得できない』という人も出てくるかもしれない」(前後氏の支持者)

 いずれにしても、前後町長の後継者と佐瀬氏の一騎打ちになる公算が高く、有権者がどのような判断を下すのかが注目される。

モバイルバージョンを終了