相馬地方森林組合で、昨年末に職員の退職が相次いだという。その中には10年以上勤務していたベテラン職員も含まれ、「業務に支障が出ている」との声や、「そもそも内部の体制に問題があるのではないか」との話も伝わっている。一方で、本誌取材では、それだけではない組合内の不穏な動きも浮かび上がった。
職員大量退職、事務所移転、役員改選間近……

相馬地方森林組合は、相馬市、南相馬市、新地町が事業エリアで、南相馬市原町区に本拠(組合事務局)、同市鹿島区に製材工場がある。理事は相馬市4人、南相馬市原町区3人、同市小高区3人、同市鹿島区2人、新地町2人と、各地区に割り振りがあり、計14人が選ばれる。理事互選で組合長、副組合長、筆頭理事などの役員が選出され、現在、組合長には多田穣治氏(南相馬市鹿島区)が就いている。役員任期は3年で、組合長以外は非常勤。

そんな同組合で、昨年末、職員5人が退職したのだという。
本誌が聞いたところ、その理由としては「役員のパワハラ・セクハラが原因のようだ」(理事A)との話や、「職員同士でイザコザがあったらしい」(理事B)との指摘があり、確定的な情報は得られなかった。ただ、職員の退職が相次いだのは間違いないようだ。
本誌は関係者を通じて、辞めた職員に接触できないか試みたが、「一部の理事が(辞めた職員を)呼び戻そうと動いているため、いまは勘弁してほしい」と言われ、ひとまず様子見することに。一方で、「中には、一部の理事が辞めた職員を呼び戻そうと動いていること自体をよく思っていない人(理事)もいる」とのことで、理事同士でも意見の相違があるようだ。
前出の理事Bによると、「組合職員は約10人だが、退職によって半分になった。ただ、この騒動(職員5人退職)後に数人を補充して、ほぼ戻っている」という。
ただ、ある関係者によると、「人数的には補充することができたが、業務的にはなかなか難しい面もある」と話した。
「辞めたのは事務職員もいますが、現場の職員が多いんです。資格や技術を持った職員ですね。ですから、空いた分の募集をかけてもなかなか適当な人材が集まりません。いまは多少なりとも林業経験のある人を臨時で雇っていますが、現場では即戦力にならないと言ったら語弊があるでしょうけど、従来の職員のようにはいかないことが多い。そのため、県森林組合連合会などにも、いろいろと相談しているそうです。原発事故を受け、いま森林再生事業が行われていますが、ただでさえ相馬地方は遅れているのに、そんな事情でなかなか事業が進まないなどの問題が発生して困っています」
取材依頼後に情報殺到
本誌は、3月中旬、多田組合長に取材を申し込んだ。具体的には、文書に質問内容をまとめ、電話、メールやファクス等での回答、どんな形でもいいので、質問内容についてコメントをいただきたい旨を書き込み、組合事務所に直接届けた。
それ以降、本誌にはメール等で、さまざまな情報が寄せられるようになった。
内容は、以下のようなもの。
《相馬地方森林組合の現組合長、副組合長就任以降、続けて10人の職員が退職した。異常な事態である。残った職員の中には、ノイローゼ状態で休業している職員もいる。現在の職員は疲労困憊で、このような状況ながら、現組合長、副組合長は分かっていない。まずは、この状態の責任を取るために、現組合長、副組合長は辞職するべきである。そして、新たな組合長、副組合長のもと、体制を立て直すべきである。このような状況では、相馬地方の森林は守れない》
本誌に最初に寄せられた情報は、「昨年末に5人の職員が退職した」ということだったが、ここには「現組合長、副組合長就任以降、続けて10人の職員が退職した」とある。前出の理事などに確認したところ、「昨年末に辞めた職員5人のほかに、この数年でそのくらい(計10人)の入れ替わりがあったのは間違いない」とのことだった。
こうしたメールに対して、「問題点としては、業務量が多く追い付いていない、そのことを組合長などの役員が把握していない、ということでしょうか。前組合長時代と、いまの組合長体制になってからで、何か変わったところはあるのでしょうか」といった質問を投げかけてみた。
しかし、こちらの質問に対する回答はなく、《組合長、副組合長は、組合業務を全然理解していないし、職員のことも考えていない》といった内容のメールが繰り返し送られてくるのみ。具体的に、こういう事情で業務が増えて職員にしわ寄せがきているとか、そういった詳細は一切記されていない。もはや、現状を訴えて改善したいというよりは、ただただ組合長や副組合長などの役員を貶めたいだけではないか、と思えてくるような状況だ。
停滞している事務所移転計画
こうした動きについて、ある関係者は「職員が辞めた理由とリンクするかは分からないが、いま組合では2つの問題があり、いろいろな不満や意見の相違が出ている」と教えてくれた。
1つは事務所移転。前述したように、同組合は、相馬市、南相馬市、新地町が事業エリアで、南相馬市原町区に組合事務所、同市鹿島区に製材工場がある。組合事務所は老朽化のほか、駐車スペースが少ない、製材工場と分かれているのは不便などの理由から、移転案が浮上し、製材工場隣接地に事務所移転することを理事会で決定済み。そのための敷地も確保しており、この間、積み立てもしてきた。ただ、昨今の資材や建築単価の高騰により、現在、事務所移転計画はストップしている状況。

「その点について、理事同士で『理事会で決まったことなんだから、早急に事業を進めるべき』という意見と、『資材・建築単価が高騰しており、積立金ではまかないきれない。もう少し様子を見るべき』という意見で割れているのです」
それ以上のことは、この関係者は言葉を濁したが、要はその矛先が多田組合長に向いているようだ。つまりは、早期建設派は「多田組合長は決断力がない」といった思いを抱いている、と。一方で、早期建設派に急かされ、いまの状況で事業を進めたら、今度は慎重派から「多田組合長は鹿島区から選出された組合長だから、事務所新築(自身のお膝元への移転)を急いでいる」と言われかねない――という構図。
ちなみに、相馬地方は、警察署やハローワークは相馬市と南相馬市原町区(旧原町市)の両方にあるが、裁判所や税務署など国の出先は相馬市、農林事務所、建設事務所、保健所などの県の出先は南相馬市原町区にあり、両市区がダブル中心のような感じ。ただ、地理的には南相馬市鹿島区が中心に位置する。例えば、合併前のJAそうま(現在はJAふくしま未来)は南相馬市鹿島区に本所があった(JAそうまは、相馬地方森林組合の事業エリアに飯舘村を加えたエリアが管内)。そこからしても、鹿島区に移転することは、特段不自然なことではなく、理事会で決まっている以上は、関係者もそう思っているということになる。
ただ、多田組合長が鹿島区から選出されているだけに、早期に事業を進める、あるいは資材・建築単価が高騰しているから、もう少し様子を見る――どちらの判断をしても、いろいろ言われることになるのだろう。
来春役員改選を意識!?
もう1つは、「問題」ではないが、同組合では来春に役員改選を控えている。
前出の関係者は「そんなタイミングで、いろいろと騒がしくなってきたのは……まあ、そういうことですよ」という。
つまりは、「来春に役員改選を控えているから、職員退職にしても、事務所移転にしても、必要以上に多田組合長の組合運営を問題視する向きもある」ということだ。もちろん、そういう側面もあるのだろうが、半数ほどの職員が一度に退職するのは正常とは言えないが……。
ちなみに、本誌2022年4月号に「相馬森林組合の事業発注に理事が疑義 今春の役員改選に向けた〝牽制〟」という記事を掲載した。
同組合では2021年から2022年にかけて、自前の製材工場内に、オガ粉の製造設備を導入したのだが、複数理事から「組合役員の関係者が一連の工事に関与しており、行政から補助を受けている組織として、そういった発注は妥当なのか」との声が寄せられ、関係者を取材して記事にまとめたもの。記事では、問題の詳細やそうした指摘に対する八巻一昭組合長(当時)の弁明などを紹介した。
実は、当時は役員改選の直前だった。本誌に前述の情報が寄せられたのが2022年2月ごろで、同年5月の総代会、理事会で新役員が決められることになっていたのだ。そのため、記事では「役員改選に向けた〝牽制〟の意味もあるのだろう」とも書いた。
その後、同年5月下旬に同組合の総会・理事会があり、役員改選の結果、八巻組合長は再任されず、新たに多田氏が代表理事組合長に選ばれた。八巻氏はヒラ理事に降格した格好である。
当時、ある関係者はこう話していた。
「それまで内部事情をよく分かっていなかった人も、『政経東北』記事で(八巻組合長の組合運営の)実態を知り、『任せておけない』という人が多数出てきた。その結果、八巻組合長は再任されず、新たに多田氏が組合長に選ばれたのです」
当時、関係者の間で「八巻組合長降ろし」の動きがあったのは間違いない。そんな中で、多田氏は担がれて組合長に就いたような形。実際、ある関係者は「多田さんがどうというより、オガ粉製造設備の一連の問題に加え、いろいろと難があった八巻組合長を降ろすことが優先事項だった」と話していた。
改選後、他地区の組合や業界関係者からは「八巻組合長から新しい組合長に代わってくれて良かった」といった声を耳にすることがあった。八巻氏は組合長在職時、県森林組合連合会の役員を兼務していたり、他地区の組合や業界関係者と接する機会があったようだが、それら関係者から「組合長が代わってくれて良かった」といった声が出るのだから、かなりクセのある人物だったのは間違いない。
多田組合長に聞く
ところで、前段で多田組合長に取材を申し込んだことを伝えたが、3月下旬、多田組合長に話を聞くことができた。
――昨年末に5人の職員が退職したと聞いたが。
「退職理由は『一身上の都合』で、(当人から)それ以上のことは明かされていません。私が見てきた限りでは、特段残業が多くて大変とか、人間関係などで問題になるようなことはなかったと認識しています」
――辞めた職員は事務所勤務の人もいれば、製材工場勤務の人もいると聞くが、組合長はどちらにいる時間が長いのか。
「私は(自宅が)鹿島区ですから、朝(鹿島区の)製材工場に寄って、職員に声かけや挨拶をして、そこから(原町区の)事務所に行きます。帰りに(夕方)再度、製材工場に寄ることもあります」
――そうして見ていた中で、特に問題は感じられなかった、と。
「そうですね。ただ、これまでは事務所にいるときは組合長室にいることが多かったが、いまは職員と同じ執務スペースで仕事をするようにしています」
――一度に半数ほどの職員が辞めたことで、業務に支障は出ていないのか。
「(退職した)5人のうち、1人は臨時職員、1人は採用して間もない職員でしたが、1月以降、人員を補充して、業務に支障がないように対応しているところです」
――事務所移転問題で、多田組合長が鹿島区から選出されていることもあって、いろいろと苦労されているようだが。
「いやいや。それは理事会で決めたことですから。それも、私が組合長になってからではなく、前組合長時代に決まったことです。建設委員会を立ち上げ、理事の1人が委員長になり、そこが中心になって進めていますから、私は何も。近年は建築単価が上がっており、それで遅れているだけです」
――来春には役員改選を控えているが、その関係なのか、本誌にはいろいろと情報が寄せられている。
「私は組合長職にしがみつくような考えはありません。『政経東北』さんはいろいろとご存知でしょうけど、前回はいろいろありましたからね。それ以上は言いませんけど」
職員の労働環境などに問題があるとしたら、当然、その改善は必要だが、それ以上に来春の役員改選まではいろいろと騒がしい状況が続きそうだ。