【いわき市長選】オモテの選挙資金

【いわき市長選】オモテの選挙資金

 9月27日の任期満了に伴ういわき市長選への立候補を目指した動きが活発になっている。水面下の動きを含めれば、最大で5人が立候補する見通し。激戦が繰り広げられると吊り上がるのが選挙資金だ。4人が立候補し乱戦となった前回(2021年)市長選の選挙運動費用収支報告書から、公開されている「オモテの金」を分析した。

4年前の激戦を分析

 いわき市長選が選挙戦になる公算が高いと先んじて報じたのは1月15日付の福島民友だった。

 《9月27日の任期満了に伴ういわき市長選で、元職の清水敏男氏(61)が立候補する意向であることが14日、関係者への取材で分かった。複数の関係者に対して出馬に向けた意思を伝えているという。清水氏は福島民友新聞社の取材に「(後援会などの)皆さんと相談しながら熟慮を重ねている。遅くとも3月までには結論を示したい」と述べるにとどめた》

 翌16日に福島民報といわき民報が立候補の動きを報じた。

実績に「スタバ誘致」

 清水氏は今年に入って挨拶回りを加速させており、名刺型の資料が地元有力者の間に出回っている。それには、2期8年の主な実績に「震災復興・ハード面の完了」、「スターバックスコーヒーの誘致」を挙げ、「豊かな経験と人脈を活かし、誇れる『いわき』の創生!」を掲げている。

 現職の内田広之氏(52)=1期=は態度を明らかにしていないが、出馬は既定路線で、有権者はいつ正式表明するかをうかがっている。

 地元の選挙ウオッチャーAは

 「内田氏、清水氏に続いて出馬を模索する動きがある。全員立候補するとしたら、最大5人の選挙戦になるのではないか」

 と見立てを話す。

 選挙ウオッチャーBは、

 「地元の若手男性政治家を推す動きがある。清水氏は昨年春ごろから盛んに活動しているが、かつての勢いは乏しい。いわきの有権者は新顔に弱いので、内田氏、清水氏とは別に若手の選択肢が出たら台風の目になるだろう」

 と警戒する。

開示請求協力者を募集

 選挙戦が過熱すれば、費用も必然的に高額化する。本誌は4人が立候補し乱戦模様となった前回(2021年)市長選の選挙運動費用収支報告書を市選挙管理委員会事務局で閲覧した。集計結果は表の通り。

内田広之氏

内田広之氏

出馬が既定路線。2023年水害時、「市長の広報誌表紙掲載」が全国紙や一部議員から問題視されたが、かえって仕事ぶりが市民に伝わった。

内田広之氏 45,885票(36.3%)
6月21日~9月6日の収支(9月13日受理)

(1)収入
寄付 0
自己資金(7月1日入金) 5,200,000
計 5,200,000

(2)支出
立候補準備のための支出 3,900,139
選挙運動のための支出 1,419,024
計 5,319,163

(3)支出の科目別小計
1 人件費 595,000
2 家屋費(選挙事務所費)2,179,700
3 通信費 9,439
4 交通費 23,961
5 印刷費 791,000
6 広告費 1,271,013
7 文具費 112,076
8 食糧費 0
9 休泊費 0
10 雑費 336,974
合計 5,319,163

(4)支出のうち公費負担相当額
ポスター作成 770.0(円)×727(枚)=559,790
ビラ作成 7.5(円)×16,000(枚)=120,000

宇佐美登氏

宇佐美登氏

本業の医療工学ビジネスが順調で「政治への情熱が低下している」と言う人もいれば、「出馬に意欲を示している」との話もあり判然としない。

宇佐美登氏 28,258票(22.4%)
6月29日~9月27日の収支(9月27日最終受理)

(1)収入
寄付 350,000
自己資金(6月29日入金) 1,197,178
計 1,547,178

(2)支出
立候補準備のための支出 1,140,465
選挙運動のための支出 1,089,657
計 2,230,122

(3)支出の科目別小計
1 人件費 902,500
2 家屋費(選挙事務所費) 210,000
3 通信費 0
4 交通費 60,644
5 印刷費 836,040
6 広告費 0
7 文具費 17,059
8 食糧費 128,951
9 休泊費 0
10 雑費 74,928
合計 2,230,122

(4)支出のうち公費負担相当額
ポスター作成 792.0(円)×727(枚)=575,784
ビラ作成 7.51(円)×16,000(枚)=120,160

清水敏男氏

袂を分かった東洋システムの庄司秀樹社長との再会が「選挙協力では」と噂されたが、薬局で偶然会っただけだった(2024年8月号【いわき市議選】混迷市議選の陰で来年市長選に熱視線参照)。

清水敏男氏 26,658票(21.1%)
6月15日~10月23日の収支(10月25日最終受理)

(1)収入
寄付 0
自己資金(6月15日入金) 5,000,000
計 5,000,000

(2)支出
立候補準備のための支出 2,610,341
選挙運動のための支出 2,462,581
計 5,072,922

(3)支出の科目別小計
1 人件費 585,000
2 家屋費(選挙事務所費)1,565,038
3 通信費 174,015
4 交通費 119,395
5 印刷費 642,970
6 広告費 1,194,413
7 文具費 267,693
8 食糧費 221,984
9 休泊費 0
10 雑費 302,414
合計 5,072,922

(4)支出のうち公費負担相当額
ポスター作成 530(円)×727(枚)=385,310
ビラ作成 7.51(円)×16,000(枚)=120,160

猪狩謙二氏

落選後は社長を務めた常磐共同ガスのグループ会社の役員に就き、出馬の動きはなし。東洋システムの庄司秀樹社長が支援した。

猪狩謙二氏 25,512票(20.2%)
6月14日~9月17日の収支(10月20日最終受理)

(1)収入
寄付 1,650,000
自己資金(6月14日に150万円、9月8日に100万円入金) 2,500,000
計 4,150,000

(2)支出
立候補準備のための支出 1,021,710
選挙運動のための支出 3,641,170
計 4,662,880

(3)支出の科目別小計
1 人件費 700,000
2 家屋費(選挙事務所費) 21,163
3 通信費 23,009
4 交通費 394,619
5 印刷費 822,050
6 広告費 2,049,993
7 文具費 66,499
8 食糧費 248,675
9 休泊費 0
10 雑費 336,872
合計 4,662,880

(4)支出のうち公費負担相当額
ポスター作成 750.0(円)×727(枚)=545,250
ビラ作成 7.51(円)×16,000(枚)=120,160

※選挙運動費用収支報告書は投票日から15日以内に選管に提出しなければならない。1回目を期限内に提出し、確定した支出を後から追加で報告する場合もある。内田氏陣営は最初の1回で提出を完了。他の陣営は追加提出した。

 公職選挙への立候補者は選挙の準備と選挙運動に掛かった費用を記録し、投票日から15日以内に選挙管理委員会に提出しなければならない(公選法第189条)。選管に提出された選挙運動費用収支報告書は、受理した日から3年間は保存しなければならず、何人も閲覧を請求できる。公選法で「受理した日から3年間、保存しなければならない」と書いてあるのをよいことに、3年を過ぎたら廃棄する自治体もあるが、いわき市は3年を過ぎても保存している。

 公選法上の保存期間3年を超過した場合は、市の情報公開条例に基づき収支報告書の閲覧・複写が請求できるが、ここでいわき市の欠陥が立ちはだかった。市は市内在住者や勤務者・通学者など以外には開示請求を認めていないのだ。

 本誌は福島市に事務所を置き、スタッフにもいわき市民はいない。2021年市長選の立候補者4人は9月13日〜10月25日にかけて最終分を報告しており、2024年9月を迎えると、公選法上の保存期間3年を終え閲覧すらできなくなる。選管に通ってパソコンに転記した。

 4人が支出した選挙費用は多い順に、内田広之氏(531万円)、清水敏男氏(507万円)、猪狩謙二氏(466万円)、宇佐美登氏(223万円)=千円以下切り捨て、以下同。

 清水氏と猪狩氏はどちらも支持層が厚く、共に常磐地区が地盤だった。票を奪い合った結果、自民系、労組系、東日本国際大関係者の支援を受けた内田氏が初当選し、草の根運動とインターネットを活用した宇佐美氏が次点になった。

 4氏の支出の内訳を比べると、内田氏は家屋費217万円、広告費127万円、印刷費79万円の順に多い。宇佐美氏は人件費90万円、印刷費83万円、家屋費21万円、通信費と広告費に至ってはゼロ。清水氏は家屋費156万円、広告費119万円、印刷費64万円。猪狩氏は広告費204万円、印刷費82万円、人件費70万円の順だった。家屋費、広告費、印刷費が上位に来る傾向にある。

 気になるのが地元紙への広告費だ。選挙運動費用収支報告書によると、福島民報は32万6095円、福島民友は36万3968円かかり、宇佐美氏を除く3氏が活用した。内田氏は㈱デップ(いわき市)、清水氏は直接、猪狩氏は市外の業者を通して支払った。

 広告代理業㈱デップは、いわき市議の西山一美氏(63)=4期=が代表取締役を務めている。市議会の多数を占める自民系の議員は、国政選挙の影響から保守分裂が続いており、内田氏に近い会派「政風会」と、内田氏と距離を置き、清水氏に近い会派「真政会」に分かれている。西山氏は政風会に属しており、選挙運動費用収支報告書からも内田氏との関係性が分かった。

 選挙運動費用収支報告書には他にも運動員や寄付者の氏名、個別の寄付額など選挙運動の透明性を担保する情報が書いてあるが、市外在住者に公文書開示を認めないいわき市の情報公開条例に阻まれ、現在閲覧できない。

 本誌に代わって公文書開示請求を行ってくれるいわき市民の方を募集します。開示請求にかかる実費を負担し、薄謝あり。巻末の連絡先に一報ください。

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