【動画あり】喜多方市議選で露呈した共産党の「時代遅れ選挙」【田中修身】

【動画あり!】喜多方市議選で露呈した共産党の「時代遅れ選挙」

 4月の喜多方市議選で初当選した共産党の田中修身議員(61)=塩川町=が、公選法で禁じられている戸別訪問を自宅がある新興住宅地で行っていた。その数、200軒近く。投開票日当日だから投票依頼と受け取られるのは明らか。田中議員自身は疑問を抱いたが、選挙対策を担った党員に「そういうものだ」と言い含められ、気乗りしないままピンポン。不審がられ、動画に記録されるお粗末さだった。見境のない戸別訪問の背景を、専門家は「組織の高齢化と若者を獲得できない共産党の焦りの表れ」と指摘。有権者の反感を買わない選挙活動が求められている。(小池航)

投票日に「戸別訪問」を撮られるお粗末さ

インターホンに映った戸別訪問動画。日時や背景は情報提供者の特定を防ぐために加工
田中修身議員
田中修身議員

 喜多方市塩川町にある御殿場地区は新興住宅地だ。同市と会津若松市の中間に位置する利便性の良さから、市内でも人口減少が抑えられており、若年層も多い(2022年1月号の合併検証記事で詳報)。

 4月23日の日曜日、黒いスーツにネクタイを締め、新築が並ぶその住宅街を一軒一軒回り、律儀にインターホンを押す男がいた。マスクを付けて顔の下半分は分からないが、眼鏡をかけている。ある家のインターホンを鳴らした。応答はない。住人は不在のようだ。

 男はインターホンに向かって控えめに話した。

 「あのー、1組の田中なんですけども。えーっと、1週間大変お世話になりました。ご迷惑をおかけしました。大変お世話になりました」

 時間にして10秒。いったい何のことだろうか。何かを伝えたいが、言葉が足らず伝えられないといった様子で要領を得ない。確かなことは、インターホンに残された映像には4月23日の昼間の時間帯が記録されていること、スーツ姿の男が「田中」と名乗ったということだ。

 数時間後の夜8時、喜多方市議選(定数22)の開票作業が行われ、当選者が決まった。結果は表の通り。投票率59・09%(当日の有権者3万8148人)は過去最低だった。

喜多方市議選開票結果(定数22)

得票数候補者(敬称略)所属
当選1354遠藤吉正
当選1348山口和男
当選1207渡部忠寛
当選1149渡部一樹
当選1132山口文章
当選1066十二村秀孝
当選1053齋藤仁一
当選1019齋藤勘一郎
当選964小島雄一
当選896小林時夫
当選864菊地とも子
当選849後藤誠司
当選843高畑孝一
当選834五十嵐吉也
当選810坂内まゆみ
当選804佐原正秀
当選802佐藤忠孝
当選785渡部勇一
当選778田中修身
当選719矢吹哲哉
当選678伊藤弘明
当選648上野利一郎
591蛭川靖弘
556渡部崇
452関本美樹子

 昼間の男、「田中」は当選者の中にいた。田中修身氏。共産党所属の新人で、778票を得て19位で初当選した。住所は市内塩川町遠田でインターホンに映っていた男の住所、人相と一致した。「1組の田中」というのは、御殿場地区内に数字で割り振られた行政区を指す。

 当選の知らせを受け、御殿場地区のある住民はインターホンに残った男の動画を見ながらわだかまりが残った。要領を得ない言動。こそこそした後ろ暗い様子。はっきり言って不審者だ。

 「何か悪いことをやっているのではないか」

 公職選挙法をネットで調べると早速ヒットした。

・戸別訪問の禁止

・投開票日当日の選挙運動の禁止

 すなわち、田中議員は二つの違反をしていたことになる。

警察官「田中さん本人ですね」


 翌24日、住民は市選挙管理委員会にまずは報告したが「捜査機関ではないので調べることはできない」「警察に情報提供することは妨げない」と言われた。

 同日、喜多方署に相談すると、警察官2人が住民の家を訪れた。動画を見て、前日(23日)に撮影されたものであることを確認すると、1人が「あー、これは田中さん本人ですね」と言った。警察官たちは証拠として動画を撮影し帰っていった。その後、同署から住民には何の連絡もないという。

 本誌は4月号で、前回(2019年)市議選である候補者の陣営が一升瓶を配っていた疑惑を報じた。その候補者は当選し、今回も再選を果たしている。この記事を読んでいた住民が、市・警察に相談しても動きがないことを受け、本誌にインターホンの動画を提供した。

 なぜ田中議員は投開票日に、不審者に思われる危険を犯してまで戸別訪問したのか。御殿場地区は行政区が1~14組あり、住宅地図で戸数を確認すると、田中議員が戸別訪問したのは200軒近くに上る可能性がある。

 5月19日に全員協議会を終えた田中議員を直撃した。共産党会派の議員控室で矢吹哲哉議員(70)=松山町、4期=が同席。田中議員が言葉に詰まると、先輩の矢吹議員が助け舟を出した。(以下、カギカッコの発言は断りがない限り田中議員)

矢吹哲哉議員
矢吹哲哉議員


 ――投開票日当日の戸別訪問動画が出回っていますが、田中議員本人でよろしいですか。

 「よろしいです」

 ――この訪問は公選法違反に当たると思うか。

 「選挙期間中はご迷惑をおかけしましたということで、自分が住む住宅街の行政区にご挨拶にうかがいました。ただそれだけです」

 ――ご迷惑というのは何に対してですか。

 「お騒がせしたというか……」

 ここで矢吹議員が「時候の挨拶でしょ」と割って入った。

 「選挙で隣近所にお世話になりましたという意味です。『おはようございます』と全く同じではないが、近い意味合いでしょう」(矢吹議員)

 ――私は田中議員に聞いているんです。時候の挨拶というのは選挙にかかわらず御殿場地区で行っているんですか。

 「選挙に出ることになってからが多いですね」

 ――選挙に出ることが決まる前は時候の挨拶はしていなかったということですか。

 「まあそうです」

 ――公選法では投票を依頼する戸別訪問は禁止されていますが、この行為は該当すると思いますか。

 「私たちは当たらないということで挨拶に回りました」

 ――私たちということは、先輩の矢吹議員などから教わって行ったということですか。

 「先輩議員ではありません。私の選対の役員から、選挙活動をした中でご迷惑をおかけしたと言って回った方がいいと言われました」

 ここで矢吹議員がフォローする。

 「選挙に出るとなると『出ますのでよろしくお願いします』と言って回る慣例があります。選挙が終わっても回ります。ケースバイケースです」(矢吹議員)

田中議員「訪問効果はあまりないと思う」

 ――まだ投票が終わっていない有権者がいる投開票日に戸別訪問するのは、投票を依頼する意図があったと誰もが思う。言い逃れできないのではないか。

 「依頼したということではなく、あくまでご迷惑をおかけしたということを伝えるためです。私は今回初めて選挙に出ました。選対から『お騒がせした』と言って回った方がいいと言われたものですから、その通りにやっただけです」

 ――どういう行為が選挙違反に当たるか教えられたか。

 「市の選管から選挙の手引きを渡されました。初めての選挙だったので書物を読むというよりは、党員の先輩の言うことに従いました」

 ――投開票日に戸別訪問するのは法律上マズいという認識はなかったのか。疑問は感じなかったのか。

 「選対からやるように言われたので『そういうものかな』と。疑問を全く感じなかったかと言われれば、それはウソになります。投票依頼と受け取られる言葉遣いにならないようには気を付けました」

 気を付けたと話す田中議員だが、本誌には、ある住民が「何の目的で訪問したのか」と尋ねると、田中議員が「選挙です」と答えたという情報が寄せられている。

 ――田中議員が住む御殿場地区は新興住宅地で、郡部のように地縁に基づく付き合いが希薄です。見知らぬ人が訪れて効果はあると思いましたか。

 「そこまでは考えが及びませんでした。選対が訪問するように、とのことだったので」

 共産党は、支持基盤が確立している。「それでも新たな訪問で支持が広がると思うか」と筆者があらためて尋ねると、田中議員は「効果はあまりないと思います」と打ち明けた。

 ――新築にはインターホンが備えられています。自分の行為が記録されているとは考えなかったのか。

 「そこまでは考えませんでした」

 田中議員へ一通り質問した後、矢吹議員が再びフォローした。

 「田中議員が訪問したのは選挙活動ではなく、あくまで挨拶です。投開票日当日に選挙運動ができないことは分かっています。当日に回って有権者の方に誤解を与えたことは、田中君も反省しないといけないな」

 矢吹議員と田中議員は、それぞれ共産党喜多方市委員会の委員長と、党市議団事務局長を務める。後日、有権者に誤解を与えたことを釈明する機会を何らかの方法で検討するという。

 田中議員は旧山都町出身。喜多方高校卒業後、小中学校で事務職員を務める傍ら、県教職員組合の専従をしてきた。今回の市議選では、引退した小澤誠氏の後釜となった形。

 市選管事務局の金田充世選挙係長に、選挙運動についての見解を聞いた。

 「選挙運動は直接投票を依頼する行動で、公示・告示から投開票日の前日までしかできません。候補者が有権者に挨拶するのは、捉え方によっては選挙運動に見られるので注意してほしいということは毎回の選挙で候補者に説明しています」

 田中、矢吹両議員が「挨拶」と言い張ったのは「選挙運動ではない」という理屈を立てるためのようだ。もっとも「挨拶」にかこつけた投票依頼の戸別訪問は、喜多方市に限らずどこの自治体の選挙でも常道と化している。今回、記事として取り上げたのは、証拠が動画に残されていたことが一つ、そして、共産党という支持基盤が強固で、クリーンさを打ち出している政党でさえも実行していたことに意外さを感じたからだ。

 田中議員に選管や警察から注意を受けたか尋ねると、今のところないと話した。市選管に聞いても「注意はしていない」と言うし、喜多方署も「捜査に関わることは教えられない」とのこと。

 応対した同署の渡邉博文次長は「田中議員ってどこの人?」と筆者に聞いてきたぐらいだから、投開票日当日の戸別訪問は、いちいち上層部に情報を上げるまでもない、昔からありふれた行為なのだろう。

 戸別訪問のみで法的責任を問われる可能性は極めて低い。だが、挙動はインターホンの動画に克明に記録され、出回っている。

 東北大の河村和徳准教授(政治情報学)は、新興住宅地における共産党の見境のない戸別訪問を「力の陰りがみられる」と話す。どういうことか。

 「共産党の票読みは固いと言われますが、陣営は候補者間で組織票を融通する票割りがうまくいっていないと思ったんでしょうね。党員の高齢化で組織票が減る一方、若年層への支持は広まらない。新興住宅地を回ったのは若年層の支持獲得への焦りがあったのではないでしょうか」

 共産党に限った話ではない。河村准教授は同様の例として、統一地方選で行われた東京・練馬区議選などで、これまで全員当選を果たしていた公明党の候補者が軒並み落選したことを挙げた。

若年層獲得に焦る共産と公明

 投票依頼の戸別訪問は紛れもない公選法違反だ。「単なる挨拶」と苦しい言い訳をしてでも決行するなら、それに見合う効果がいる。だが、回った本人が「あまりなかった」と吐露するようでは、何のためにやったのか。田中議員は「上から言われたので『そういうものか』と思った」と話す。こうして、思考停止の議員が送り込まれる。

 戸別訪問の表向きは「挨拶」だから、自分が「候補者」で「投票してほしい」とは口にできず「名前」しか言えない。投票依頼の本心を見透かした前出の住民は、要領を得ない挙動に不審と反感を抱き、動画に残して本誌に通報した。最新のインターホンが設置された新築住宅を回れば、違反と疑われる行為が記録されると想像しなかったことはお粗末と言える。

 前出の河村准教授は、

 「選挙違反には問われなくても、有権者が疑念に思う動画が出回ればダメージです。動画撮影が普及していない昔の選挙であれば普通に行われていた行為が可視化された。共産党をはじめ多くの陣営は『グレーゾーンが記録される選挙』に認識が追いついていないのでしょう」

 選挙カーで名前を連呼しながら住宅街を回る行為は、有権者から「騒音」と捉えられ選管に苦情が来る。河村准教授によると、コロナ禍を経て都市部ではネットや電話を活用した選挙運動にシフトしたが、電話の場合「アポ電強盗」への恐れから、そもそも知らない電話に出ない人も多いという。

 「高齢化が進む組織はネット戦術に疎いので、若い層にアプローチするには戸別訪問しかない。盤石な支持層を背景にできた票割りは共産党や公明党の得意技だったかもしれないが、今やその方法は終わりを迎えつつあるのかもしれません。どの陣営も新しい選挙運動を考える時が迫っています」(同)

 若者よりも投票に行く高齢者が多くを占める地方では、ネットを活用した選挙に移行するには時間がかかるだろう。投票率が下がれば下がるほど組織票の重みが増すため、過去最低の投票率を記録する喜多方市では、むしろ高齢の党員と学会員を優先する現状維持が働く。

 だが、地方ではいずれ高齢者の人口すら減り、社会は縮小、議会の定数減は不可避だ。共産・公明両党は喜多方市議会で各2議席を確保するが、将来的には議席減が見込まれる。未来に影響力を持つ今の若年層からどう支持を取り付けるか、旧態依然の選挙から脱し、世代にあった方法を考えねばなるまい。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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