なみえ焼そば「商標権騒動」の本質

なみえ焼そば「商標権騒動」の本質

 浪江町のご当地グルメ「なみえ焼そば」の商標権をめぐり、浪江町商工会と一部飲食店の間で騒動が発生した。商標権と地域グルメのあり方をめぐる問題として注目されたこの騒動の背景に迫る。

商工会にロイヤリティー徴収の権限はない

 「なみえ焼そば」は浪江町で長年提供されてきたご当地グルメ。極太麺と濃厚ソース、豚肉とモヤシだけのシンプルな具材が特徴だ。

 浪江町商工会(青年部)では、2008年ごろからなみえ焼そばによる町おこしを展開し、2013年にはご当地グルメ(B級グルメ)の祭典「B―1グランプリ」でグランプリに輝いた。これを機に全国区になり、町外(従来からなみえ焼そばを提供していた店舗以外)から「ウチでもなみえ焼そばを出したい」といった問い合わせが増えた。そういった問い合わせがある分にはいいが、勝手に使われる事例も確認されたことから、地域ブランドを保護する必要が出てきた。

浪江町商工会
浪江町商工会

 そこで、同商工会は、なみえ焼そばの商標登録に向けて動き出し、2017年3月に地域団体商標として登録された。

 それからしばらくして、今年5月ごろ、同商工会はなみえ焼そばを提供する事業者に対して、商標の使用許諾契約を結び、登録料3000円と、売上の2・5%をロイヤリティー(使用料)として徴収することを通知した。徴収は同年10月から開始された。

 このロイヤリティーについて、一部飲食店から、負担が大きいと反発の声が上がり、支払いに応じず、メニュー名を「なみえ焼そば」から別の名称に変更して提供を続ける動きが出た。

 この件を最初に報じたのは朝日新聞(10月12日付)で、その報道をきっかけにSNS上で議論や批判が巻き起こった。

 以上がこの騒動の簡単な経過である。

商工会が声明発表


 こうした騒動を受け、同商工会は11月7日、「地域団体商標『なみえ焼そば』に関する報道について」という声明を出した。以下はその全文。

 地域団体商標「なみえ焼そば」に関する報道について

 先般、地域団体商標「なみえ焼そば」に関し、一部メディアの報道や、SNS上での投稿がありました。この点につき、背景事情をご説明させていただきます。

 1、当会における「なみえ焼そば」普及活動とその資金について

 当会では、青年部を中心に、震災前の2008年11月から、「なみえ焼そば」を用いた町おこしを行い、福島第一原子力発電所の事故により全町民が強制避難を余儀なくされる中でも活動を続けて参りました。2017年には活動が認められ、「なみえ焼そば」の地域団体商標を取得するに至っています。

 具体的には、浪江町商工会青年部が中心となって、提供店マップの作成や小学校でのなみえ焼そば授業、東北やきそばサミットへの参加などをしており、その費用の多くを当会青年部の部費で賄っておりました。

 しかし、浪江町商工会はあくまで浪江町全体のために活動する公的な団体であって、青年部の部費を「なみえ焼そば」のみに使用すると、「なみえ焼そば」を扱っていない他の事業者との間で不公平が生じ得ることもあり、「なみえ焼そば」普及に向けた活動を継続したい反面、資金面では苦戦を強いられておりました。

 2、「なみえ焼そば」提供店に資金協力をお願いした理由

 上記のような経緯で、当会は、今後もなみえ焼そばの普及活動を通じた町おこしを継続するため、普及活動によって直接的なメリットを受けると思われる事業者様に対し、資金面での協力を要請することとしました。

 3、「ロイヤリティー」とした理由

 当会としては、かつては「なみえ焼そば」のロイヤリティーをお支払いいただいていた時期もあったことも踏まえ、単なる協賛金よりは、商標の「ロイヤリティー」という形の方が、各事業者様にもご納得いただきやすいと考え、「ロイヤリティー」という名目で、資金協力をお願いするに至りました。

 2025年3月には、「ロイヤリティー」の使途を明示した上で公平に各事業者様に「ロイヤリティー」をお支払いいただきたい旨伝え、2025年7月には具体的な金額をお伝えし、2025年10月以降のお支払いをお願いしてきました。事業者様からのお問合せやご質問もありましたが、都度対応させていただき、結果、多くの事業者様にご賛同をいただております。

 なお、今回報道のあった飲食店様とは、「なみえ焼そば」の名称使用について、当会との間で問題解決しております。

 4、今後について

 当会では、なみえ焼そばの普及活動を通じた地域活性化と、東日本大震災からの復興の象徴として、関連する事業者様に前向きにご協力いただける「なみえ焼そば」のブランドの取り扱いを、専門家の助言も仰ぎながら目指していく所存です。

 是非、浪江町にお越しいただき、「なみえ焼そば」をお楽しみいただけますと幸いでございます。

商標権の区分を勘違い

 本誌はこの通知が出された約1週間後に同商工会を取材したが、その時点でロイヤリティー徴収の件は撤回しており、「すでに登録料をお支払いいただいたところもありましたが、それも返還しました」(同商工会担当者)とのこと。

 その理由は騒動が広がったからということもあるが、それだけではない。そもそも、ロイヤリティーを徴収できる状況ではなかったのだ。同商工会が有する商標権は「第30類」という区分。これは食品の販売に関する商標の使用権になる。分かりやすくいうと、道の駅や物産店などで、箱詰めされた「なみえ焼そば」の土産用商品を見たことがある人も多いと思われるが、「第30類」はそういった商品にしか適用されない。そのほか、「なみえ焼そばポテトチップス」、「なみえ焼そばソース煎餅」なども売り出されているが、それらも「第30類」の対象になる。

 一方で、店舗で提供するものに関しては「第43類」という区分の商標権が必要になるが、同商工会はその区分の商標権を有していない。つまりは、なみえ焼そばを提供している店舗から、使用料、ロイヤリティーを徴収する権限がないということである。

 その点については、「認識の欠如があった」(同商工会)と非を認め、ロイヤリティー徴収の撤回、登録料返還といった対応に至ったという。

 「各店舗に直接説明し、町外の店舗には電話をして文書(通知)を出しました」(同商工会)

 前述したように、なみえ焼そばは2013年のB―1グランプリで優勝し、それから商標登録に向けて動き出し、2017年3月に地域団体商標として登録された。その時点で、浪江町は東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、全町避難が続いていた。同町の避難指示が解除されたのは2017年3月末(※帰還困難区域を除く)で、商標権登録に向けて動いていた時期は、町内に飲食店が1つもない状況だった。そのため、なみえ焼そばを提供している店舗から、使用料やロイヤリティーを徴収できる商標権の区分「第43類」を取得できなかったという事情がある。

 この間、商工会事務局や青年部役員は入れ替わりがあるから、そんな中で「第43類」を有していない、すなわち、なみえ焼そばを提供している店舗から、使用料やロイヤリティーを徴収する権限がないということが抜け落ちてしまったのだろう。結果、こうした騒動になり、マイナスイメージだけが残った。

批判が異常に過熱

なみえ焼そば
なみえ焼そば

 一方で、視点を変えると、かつて2万人近くいた人口が、原発事故の避難指示を経て、現在の町内在住者が約2400人になった中で、関係者は「何とか町を盛り上げていきたい」という思いを持っている。そのためにも、なみえ焼そばは重要なコンテンツだが、復興事業・イベントなどへの補助金はどんどん少なくなっていった。そんな中でも、前述の同商工会の声明にあったように、提供店マップは常に更新し、小学校でのなみえ焼そば授業の開催、東北やきそばサミット参加といった活動を続けてきたが、資金的に厳しい状況になった。

 「なみえ焼そばを使って、何とか復興途上にある町を盛り上げていきたい。だけど、予算は限られている」という中で、たどり着いたのがなみえ焼そば提供店舗に協力を求める、すなわち使用料・ロイヤリティーの徴収だった。

 実際は、その権利がなかったというのは前述したとおりだが、同商工会の声明には「多くの事業者様にご賛同をいただいた」とあった。それは間違いないが、一部飲食店から反発があったのも事実。何か新しいことをしようとすると、賛同者もいれば反対者もいる。それはよくあることだから、そこについては言うことはない。

 ただ、前段の事情を知ってか知らずかは不明だが、SNSなどでは後者の「一部飲食店が反発」という部分だけがピックアップされ、「一方的に使用料・ロイヤリティーを払えというやり方はひどすぎる」といった批判が相次いだ。それも異常なほどに過熱した。ただ実際は、やり方がひどかったわけではない。むしろ、やり方自体は賛同者も多かった。しかし、その権限を有していなかった。それがこの問題の本質である。

 中には、「なぜ町(行政)は見て見ぬふりをしているのか」といった指摘もあったが、なみえ焼そばのPR活動などに公金(補助金)が支出されているわけではないので、町は指導・仲裁する立場にない。

 「町のPRのために頑張ってくれているのはありがたいことで、イベント等で会場を提供したり、後方支援のような形で応援していますが、おっしゃるように指導・仲裁などができる立場ではありません」(町産業振興課)

 こうして波紋を広げた「なみえ焼そば商標権騒動」だが、同商工会が前述の声明を出して以降は鎮火に向かっている。SNS上では「なみえ焼そばに対するイメージが悪くなった」といった指摘もあった。実際、何も得るものはなく「商標権をめぐってゴタゴタがあった」という事実だけが残った印象。とはいえ、記者は取材終わりになみえ焼そばを食べて帰った。少なくとも、記者にとっては「イメージ低下云々」は関係ないが、多くの人はそうではないのだろうか。

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