【古殿町・馬事振興会】【午年企画】ふくしまの馬文化に触れる

今年は午(うま)年ということで、県内の馬文化に触れていきたい。1月号では、競走馬施設・ノーザンファーム天栄(天栄村)を取材し、巻頭グラビアで紹介したが、今回は古殿町のNPO法人・馬事振興会の活動に迫る。

NPO法人・馬事振興会(古殿町)

「流鏑馬(やぶさめ)の里」として知られる古殿町で、馬と人が共生する豊かな文化を守り、次世代へと受け継ぐ活動をしているのがNPO法人・馬事振興会(ばじしんこうかい)である。

NPO法人の立ち上げは2009年。当時、古殿町の流鏑馬に使用する馬の調達を引き受けていたのは、一人の「馬好き」だった。かつては専門の馬喰(ばくろう)がいたが、高齢化に伴い、その役目を受け継ぐ形となった。それが同法人理事の鈴木清彦さん。

「当初は、自分一人で動いていたような格好でしたが、協力者が集まり、『社会的責任を果たすためにも法人化してはどうか』、『そのためにはNPO法人がいいのではないか』という提案をいただき、NPO法人を設立する流れになりました」

鈴木さんを取材する中で印象的だったのは、「今の時代、馬に乗れる人は多いけど、扱える(育成・訓練ができる)人はいない」ということ。華やかな祭りの舞台は年に数日。そこで馬に乗れる人は多数いる。だが、馬を飼う日々は365日、昼夜を問わず続く。いろいろと覚えさせることもある。それは単なる「乗馬」のための技術ではなく、馬の気持ちを汲み取り、信頼関係を築く「共生」と言えるもの。それができる人は少ないということだ。

鈴木さんは祖父・父が、馬を使って田んぼを耕す「馬耕」、山から木を運び出す「馬搬」など、馬と共に山で働き、田んぼを耕してきたことが記憶に残っている。

かつて日本の山林業で一般的だった馬で丸太を運び出す「馬搬」。機械化が進んだ現代では失われつつあるこの技術を、馬事振興会は保存・活用している。

山仕事・馬搬の様子(中央が鈴木さん)

山仕事・馬搬の様子

「いまは、丸太を運び出すとしたら、その場所まで重機・トラックなどが入れるように道を作る作業から始めます。そこまで大掛かりなことをして、1本だけを運び出すのは効率が悪いから、ある程度の数を伐採して運び出すことになります。ただ、馬なら人が歩けるところは入れますから、重機が入れない険しい山道や、環境保護が必要なエリアから木を運び出すことができますし、例えば少量だけ必要という場合も対応できます。そういう意味では機械化が進んだ現代でも、活用できる部分はあると思っています」

機械作業だと山を丸裸にするが、馬なら自然を守りながら仕事ができるということだ。

鈴木さんは「機械化が進み、山仕事や農作業の上で馬が必要なくなったからといって、その技術や文化を絶やしていいのか」といった思いを持っている。そのため、「馬耕」、「馬搬」の技術を伝えていく活動を行っているのだ。

観光遊覧馬車を運行

観光遊覧馬車
観光遊覧馬車

そうした伝統の保存・活用に加え、もう一つ大きな活動になっているのが観光遊覧馬車の運行だ。同法人では北海道帯広市のばんえい競馬の引退馬を譲り受け、桜の季節を中心に、観光遊覧馬車を運行している。

ちなみに、ばんえい競馬は、競走馬がそりをひきながら力や速さなどを争うレース。騎手はそりに乗る。起源は木材を運び出していた馬の力比べとされ、北海道開拓期に、各地で余興や催事として行われていた。現在、日本国内の公営競技(地方競馬)としては帯広競馬のみで、世界的にも唯一の形態。

そんな帯広競馬から古殿町にやってきて、観光遊覧馬車を引いていたばん馬は、ばんえい競馬時代は「フレイムファイヤー」の名前で活躍していた。10歳で現役引退し、本来であれば、安楽死や馬肉になることが多いが、同法人が譲り受け、古殿町にちなんで「フルード」と名前を改めた。フルードが引く観光遊覧馬車は、地域のイベントで多くの人々を楽しませたが、同法人で譲り受けてから6年、2024年冬に天に召された。

そのため、観光遊覧馬車は一時休止となった。その後は、新たな馬を迎え入れる資金集めのため、クラウドファンディングを実施。目標金額には届かなかったが、新たにばん馬を2頭迎え入れることができた。

「地元の方で、(クラウドファンディング上ではなく)直接支援してくれた方もいました。感謝しかないですね」(鈴木さん)

現在、同法人では3頭の馬を所有している。サラブレッド1頭とばん馬2頭。同じ馬でも、サラブレッドは400〜500㌔、ばん馬は約1㌧と馬格が全く違う。それだけでなく、性格も違っており、「個体差はありますが、サラブレッドは神経質、ばん馬はおっとりしています」(鈴木さん)という。

新たに迎え入れたばん馬2頭は、ばんえい競馬時代の名前はあるものの、フルードのように、こちらに来てからの名前はまだない。鈴木さんは祖父から「情を移しすぎるのも良くない。だから、名前は付けるな」と教わったという。「もし、馬を譲ってほしいという人が現れ、その人に託すことが馬にとっていいと思ったら、迷わず譲ってやれ」というのが祖父の教えだった。そのため、新入り2頭の名前をどうするかは迷っているようだ。

現在、ばん馬2頭は別の育成施設に預けており、徐々に環境に慣らしていき、3月の地元のイベントでお披露目される予定という。

かつては農林業を支える「仕事仲間」であり、さらに時代を遡ると神の使いでもあった馬。古殿町には、命あるものへの深い敬意を払いつつ、その伝統を守り伝えようとする姿があった。

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