
まえがき
未曾有の原発事故を起こした福島第一原発。
「どうなれば『廃炉』は完了するのか?」
この質問に対して東京電力は次のように回答しています。
「事故を起こした福島第一原子力発電所の『廃炉』の最終的な姿について、いつまでに、どのような状態にしていくかについては、地元の方々をはじめとする関係者の皆さまや国、関係機関等と相談させて頂きながら、検討を進めていくことになると考えています」
でも、「廃炉の完了について相談させてください」と東電や政府関係者から求められて、専門家でもない私たちは何ができるのでしょう? 結局、都合の良い説明を聞かされ、勝手な結論を押しつけられるのではないでしょうか?
原子力の問題ではいつも、推進する政府や電力会社と住民の間に大きな情報(知識)の格差があります。特に事故を起こした原発の廃炉という課題は、世界でも成功した事例はありませんから、誰も正解を知りません。
そんな問題について私たち一般住民に「相談させてください」というのは、結構乱暴なことです。「廃炉について相談する」というなら、政府や東電は自らに都合の悪い情報も含めて前提情報を提供してほしいものです。
でも政府や東電が作った「廃炉」についての Q&Aや解説資料は、都合の悪い部分(廃炉の法的責任や燃料デブリの法的定義など)には、ほとんど触れていません。
筆者はスリーマイル島原発やチョルノービリ(チェルノブイリ)原発の「廃炉」に関する法制度や意思決定プロセスを調査し、大学や報道機関と協力して「廃炉」に関する法整備の必要性を訴えてきました。福島県の月刊誌『政経東北』では、2020年 4月から「廃炉の流儀」というコラムを連載しています。
これらの成果に基づいて、今回、「福島第一原発の廃炉」について、最低限知っておきたい 10の質問を軸に Q&Aをまとめてみました。
住民、地方議会議員、報道関係者など関心を持つ方々が、対話集会やその他の機会に、東電もしくは東電の廃炉を監督・指導する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に質問できるよう「ぶつけてみたい」質問案も掲載しています。
私たちは原発について「安全」「事故は起きない」と説明されて、事故の被害だけ押しつけられました。
「廃炉」についても同じことを繰り返さないようにしたいものです。
そのために、この Q&Aが多少なりとも役に立てば幸いです。
尾松 亮
Q1:そもそも廃炉って何?
A:原発構内を普通の土地に戻すための手続きです。
「原発の廃炉」と聞くと「建物の解体」とか「核燃料を搬出する」などの作業をして更地にすること、とイメージするかもしれません。これは半分正解です。
これらの作業はなぜ必要なのかというと、最終的に原発の敷地の外の「普通の土地」と同じ扱いにできるようにするためです。 原発構内では「防護服を着ないといけない」「このエリアで寝泊まりは駄目」「子どもは入れない」(放射線管理区域)などの普通の土地と違う「規制」がかけられています。
この「規制」を取り外す(規制解除)手続きこそが、廃炉の本質です。建物を解体して更地になっても汚染が残っていれば規制解除できません。逆に建物は残っていても、ちゃんと基準値を下回るよう除染されていれば、規制解除できることもあります。「更地化すればすなわち廃炉」ではないのです。
廃炉のプロセス(福島第二原発の例)

これらの作業が終わっても「規制解除できるか」終了要件確認が必要になる
出所:東京電力ホールディングス「福島第二原子力発電所廃止措置実行計画2026」(2026年 5月 20日)
〈ぶつけてみたいこの質問〉
国際原子力機関(IAEA)は「廃炉」(法令上は「原子力施設の廃止措置」と呼ばれている)を「原子力施設にかけられている規制を解除するための、構造物解体・除染などを含む技術的・行政的活動」と定義しています。
わざわざ「行政的活動」と呼ぶのは、「普通の土地と同じ扱いにしていいですよ」(もう規制は必要ないですよ)と原子力規制委員会に認めてもらうための手続きがあって初めて「廃炉終了」だからです。
福島第一原発の「廃炉の最終形」について意見を求められたら、「規制解除できる状態にするのですか?」と聞いてみてください。政府や東電が「それは決まっていません」と回答するなら、それは「(通常の意味での)廃炉をやるつもりはない(=廃炉ではない別の何かをする)」ということなのです。
Q2:普通の原発と福島第一原発(1F)の廃炉はどう違う?
A:1Fは廃炉の大前提である「核燃料の取り出し」ができない状態です。
1Fでは 1~3号機で核燃料が溶け落ちて「燃料デブリ」となってしまいました。廃炉の前段階である「核燃料の抜き出し」ができない特殊な状態にあります。 通常は廃炉を始める前に、原子炉の中にある核燃料を取り出すことが大前提です。原子炉の中に核燃料が入ったまま、原子炉を解体しようとしたら大事故になります。
原子炉から核燃料の取り出しができない状態

PCV 内部調査進捗 ~ 21日調査速報~」(掲載日:2017年7月21日)
そもそも、高いレベルの放射線を発する核燃料には、解体のための作業員が近づくこともできないでしょう。
だから通常の原発廃炉では、原子炉から核燃料を取り出した後に廃炉のプロセスが始まります。しかし、1Fでは廃炉のプロセスが始められない状態にあるのです。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
通常は廃炉を始める前に「廃炉計画(廃止措置計画)」を提出して、規制委員会が了承しないと廃炉開始できません。
実は 1Fの「廃止措置計画」は提出すらされていません。1Fでは「廃炉」は行われていない、というのが事実です。だから東電も「廃炉〈に向けた〉ロードマップ」としか言わないのです。
「1Fの廃止措置計画は提出されているか?」と聞いてみてください。「代わりに実施計画の中に廃炉の計画も示してある」と回答がくるでしょう。これはまやかしの回答です。「実施計画」とは汚染施設や核燃料の安全保護の計画であり、廃炉計画とは全く別です。1Fを更地に戻すことや規制解除(Q1参照)することを約束する計画ではありません。
Q3:廃炉の「最終形」を住民と議論するというけど、どう進めるの?
A:東電と住民で決められることではありません。
廃炉は規制解除(敷地外の普通の土地と同様の扱いにする)のための活動ですから、規制解除できる状態にならなければ廃炉の終了(最終形)ではありません。その要件は法規則で決まっています。
東電は「1F廃炉の最終形は地元の関係者などと話し合って決める」と言い、政府も「最終形」の問題を対話集会や自治体との協議で話し合うと言います。
話し合いで「作業が中途半端でも廃炉終了で良いよ」と住民と東電が合意したとしても、それは規制解除できる状態ではありません。汚染施設やデブリが残ります。つまり「廃炉の最終形」ではないのです。東電や政府は「何の最終形」を話し合いたいのか。東電や政府が「責任を負う作業の最終形(手を引くポイント)」を決めて合意したいだけなのです。
廃炉の最終形などを話し合う県内での対話集会

〈ぶつけてみたいこの質問〉
通常の原発の廃炉の場合、廃炉(廃止措置)の終了を確認する要件が原子力規制委員会規則で定められています。
その要件は、
・使用済み核燃料を再処理事業者に引き渡す
・放射性廃棄物の処分完了
・残る放射線のレベルが基準を下回るよう除染すること
などです。
1Fもこれらの要件を満たさなければ廃炉の終了と認められないはず。しかし1Fは「特定原子力施設」と呼ばれており、通常原発のルールの一部しか適用されません。これを利用して勝手な「最終形」を決めようとしているのです。「1F廃止措置の終了確認要件は法規則でどう定められていますか?」と聞いてみてください。
Q4:「燃料デブリ」の取り出しなんてできるの?
A:「燃料デブリ」を勝手に定義すれば「取り出し完了」にすることはできてしまいます。
「燃料デブリの取り出しは困難で危険だから、むしろそのままにした方がいい」という意見があります。逆に「遠い将来でも燃料デブリは取り出すべき」という意見も耳にします。
でもちょっと待ってください。そもそも「燃料デブリ」とは何か。溶け落ちた核燃料を含むコンクリートや土や金属のどの範囲までを「燃料デブリ」として取り出し管理するのか。それが決まっていないのです。定義が定まっていない以上、取り出せるとも、取り出せないとも言えません。
福島第一原発 2号機では 2025年 4月、2回目の燃料デブリの試験的取り出しが行われた

政府と東電のロードマップでは燃料デブリを「燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの」と説明しています。では被覆管以外の部材や土と混ざり合った燃料は「デブリ」ではないのか? それも決まっていません。
つまり、ほんの数グラム~数キロの燃料の塊を取り出して「〈燃料デブリ〉とはこの塊だけです。だから取り出しは終了しました」と言うことも可能なのです。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
新聞やニュースを見ていると「880トンの燃料デブリ」というフレーズを見聞きすることがあります。でもこの 880トンという数字も、溶け落ちる前の核燃料の量をもとに計算しただけの数字です。1Fでは核燃料が溶け落ちて、コンクリートや金属、土などと混ざり合っていますから、これら混ざり合った物質全部を含めたら到底 880トンでは収まりません。本当なら「最低でも 880トン以上」というべきところです。
東電や政府の担当者と「対話」する機会があるなら、「土に混ざった核燃料は燃料デブリとして取り出しや管理の対象にするのですか?」と聞いてみてください。「どの程度土と混ざった燃料があるかも含めて今後調査が必要」などと回答がくるかもしれません。こんな回答ならおかしいですよね。「土に混ざった燃料の量」を聞いているのではなく、土に混ざった核燃料を「燃料デブリとして取り出し対象にするのか」と聞いているのだから。論点をすり替えた回答に気を付けてください。
Q5:デブリを取り出しても受け入れ先がないのでは?
A:「受け入れ先がない」を理由に危険な状態で放置することは認められません。
燃料デブリを受け入れても最終処分する場所がない。それなら取り出す意味はあるのか? そういう意見もあります。
1F廃炉を指導する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の責任者・更田豊志・廃炉総括監は「更地にして廃棄物も何もない状態にすると言っても、実現するためには、どこかに廃棄物を引き受ける場所が必要になる」「(だから)全国的な議論が必要」と言います。逆に言えば、廃棄物を引き受ける場所がないから「廃棄物のない更地状態」は目指さない、という理屈も通ってしまいます。
忘れていけないのは、倒壊する危険性のある原子炉施設の地下に、管理できない状態で核燃料物質が広がっているという事実です。地震も津波も来る、地下水も流入する場所に、です。これを、取り出して耐震性のしっかりした地上の施設で管理できるなら、その方がよいでしょう。そして燃料デブリを「高レベル放射性廃棄物」と法律で位置づけて、搬出と処分の責任は政府に。これが、本来あるべき姿なのです。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
ウクライナ・チョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故で生じた燃料デブリは「高レベル放射性廃棄物」として政府による取り出しと管理が義務付けられています。米国スリーマイル島原発事故で発生した燃料デブリは特殊物質として政府の研究施設が引き取りました。
でも、日本では 1Fの燃料デブリを「高レベル放射性廃棄物」と位置付けるルールがありません。だから政府の引き受け義務もないのです。国会議員の質問に対して「東電が廃棄しない場合、燃料デブリは放射性廃棄物ではない」というのが政府の答弁でした。
「燃料デブリは高レベル放射性廃棄物と認めるか?」「認めないならその理由は何か?」と聞いてみてください。「今後、調査検討する」なんて回答はあり得ない責任逃れです。
事故直後の福島第一原発 1~4号機

Q6:2051年廃炉完了を目指すロードマップは見直した方が良いのでは?
A:東電の計画書に過ぎないロードマップを見直しても何の保証にもなりません。
東電は 2051年の終了目標を示した「中長期ロードマップ」に基づいて、1Fの廃炉に向けた作業を行っている、ということになっています。この「2051年終了」というのはあまりに非現実的だからロードマップを見直すべきだ、という意見があります。

このロードマップを見直して終了目標を「2080年」と書き直したとしましょう。それで計画は「より現実的」になるのでしょうか? そもそもロードマップは東電という一企業の計画書にすぎず、書かれたことをその通りにやらなかったとしても何の罰則もありません。これまでもロードマップは 5回改訂され、「デブリ取り出し完了時期」の記載を削除したり、「取り出したデブリは敷地内で保管する」と書き加えたり、東電や政府の都合に合わせて見直されてきました。必要なのは「計画書」の見直しではなく、法的な責任を伴う 1F管理と廃止措置の規則です。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
廃炉計画(廃止措置計画)は提出や改訂に際して原子力規制委員会の認可が必要になります。
一方で1Fの「中長期ロードマップ」は 5回改訂されていますが、改訂内容は規制委員会の審査や認可を受けていません。ロードマップが規制解除を目指す廃止措置計画でないからです。
「ロードマップに書かれている目標が達成できなかった場合、東電に罰則は科されるのですか?」と聞いてみてください。「実施計画(Q2参照)に基づき、その違反に対して指導が行われます」などと煙に巻く回答が来るかもしれません。実施計画のことなど聞いていません。結局、東電がロードマップの目標など無視しても、何の罰則もないのです。
Q7:そもそも 1Fの廃炉完了なんてできるの?
A:廃炉完了の定義を勝手に決めれば「完了」できてしまいます。
事故の起きていない通常原発の廃炉と同じように「放射性廃棄物は全部処分済み」「使用済み核燃料は再処理施設に引き渡し済み」「除染を徹底して放射線管理区域は解除」というところまでやることを「廃炉完了」とするなら、技術的には相当困難、少なくとも 2051年の完了はほぼ無理でしょう。
でも東電は「1F廃炉の最終形は地元関係者らと話し合って決める」と言っています。そして東電は 1Fの廃炉を「放射性物質によるリスクから人と環境を守るための継続的なリスク低減を実践していく活動」と語っています。ある時点で「十分リスクが下がったから廃炉完了です」と言えば、それで廃炉完了にできてしまいます。つまり終わらせやすい形で「廃炉完了」の定義を作ってしまえば、完了はたやすいのです。勝手な定義で逃げることを許さないためにも、1F廃炉の法的定義を定めた「1F廃炉法」の制定が必要です。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
前述の通り、東電は「どうなれば廃炉は完了するのか?」という質問に対して「福島第一原子力発電所の『廃炉』は、『放射性物質によるリスクから人と環境を守るための継続的なリスク低減』を実践していく活動であると考えています」と答えています(東京電力ホールディングス HP「もっと知りたい廃炉のこと」)。
それでは「リスクがどのくらい下がったか」をどのような基準で誰が評価するのか?
「継続的なリスク低減」を実践すると言うが、「2051年まででこのリスク低減の実践を終了するつもりなのか」と聞いてみたいところです。
リスクが下がったかどうかも地元と話し合って決めるのでしょうか? それではリスク低減に対する責任を住民に丸投げしているようなものです。
福島第一原発 2~4号機

Q8:更地化はあきらめてその場に固めた方が良いという意見もあるけど?
A:その場合、誰が永久に安全管理責任を負うのか議論しないといけません。
「2051年までの燃料デブリ取り出しも更地化もできっこない」「非現実的な計画を急ぎで進めて作業員を危険な目に遭わせてはいけない」という意見は、その通りです。けれど「どうせデブリ取り出しなんてできないから、その場でコンクリートなどで固めて更地化はあきらめた方が良い」という議論には気をつけないといけません。
損傷した原子炉施設とコンクリートなどで固めたデブリを「そのまま」にするとして、その後の安全管理を誰の責任で、どれだけの期間行うのでしょうか? コンクリートは数十年で劣化します。津波や地震に襲われる施設を、文字通り永久に管理して周辺に汚染が広がらないようにしなければいけません。そして更地化をあきらめた東電の責任は問わなくていいのでしょうか? それらの問題を議論せず「固めて放置」の提案は無責任です。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
2051年になっても「溶け落ちた核燃料の取り出しも原子炉施設の解体もできていない」という事態は十分にあり得ます。その場合、敷地に残る損傷した原子炉(これも高レベルに汚染されている)や溶け落ちた核燃料の安全管理をする責任は誰にあるのか?
東電は「これで終了です」と言って作業縮小・撤退し、政府も「東電の責任だから」と知らんぷりをする。そんなことが許されるのでしょうか? 2051年までに溶け落ちた核燃料の取り出しや 1F原子炉施設の解体ができない場合、政府は原子炉施設や溶け落ちた核燃料の安全管理に責任を負うのか?
「まずは2051年までがんばる。その後の安全管理については今後検討する」という回答が予想できますが、それは「政府が直接の責任を負うつもりはない」と言っているようなものです。
海側から見た福島第一原発 1~4号機

Q9:廃炉を進めるうえで処理水海洋放出って必要なの?
A:「廃炉を前に進めるため放出」という理屈は破綻。放出はやめるべきです。
「処理水」と言いますが、正確には核燃料に触れて多種多様な放射性物質が溶け込んだ汚染水を政府が定めた放出基準に合わせて薄めたものです。海洋放出しないで済むなら、放出しない方が良いに決まっています。
それでも政府が海洋放出を決めた理由は「廃炉を前に進めるため」「取り出した燃料デブリを保管する施設のスペースが必要だから」というものでした。
でも、ここまで読んでくれた皆さんなら分かる通り、1Fで「廃炉(廃止措置)」は行われていません(Q2参照)。今行っている作業を進めたところで、「更地化」も「普通の土地に戻すこと(規制解除)」も保証されません。燃料デブリの取り出しも「やらない」選択肢が議論されています。「廃炉を進めるため」という前提の理屈が破綻しているのですから、処理水海洋放出はストップすべきです。
〈ぶつけてみたいこの質問〉
東電の 1F廃炉を指導する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の更田豊志・廃炉総括官は燃料デブリの取り出しについて「(30~40年後の廃止措置終了の最終年となる)2051年に最初の一つかみができていれば、上出来だと思っています」と語っています(2025年 5月、福島市内での報道機関との懇談会での発言)。
2051年に「最初の一つかみ」ができるというスケジュール感なのであれば、それほど広い「燃料デブリ保管スペース」がすぐに必要になるわけではないはず。「廃炉を前に進めるため」という理屈も、廃炉完了が何かをこれから話し合うというのだから、詭弁です。「処理水の海洋放出は何のために進めているのか?」と聞いてみたいですね。
福島第一原発構内に並ぶ処理水タンク

Q10:東電や NDFの対話集会に参加しないと必要な情報が得られないのでは?
A:情報公開請求を出したり、地方議員に質問してもらう方がずっと情報は得られます。
東電の廃炉を監督・指導する原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)は 2024年 6月から福島県内の市町村で廃炉に関する対話集会を続けてきました。これら対話集会に基づき NDFは「今年(2026年)中にも『廃炉の最終形』を福島県と話し合う」「東京でも対話集会を開き国民的な議論にする」などと意気込んでいます。
政府機関や東電が主催するような「廃炉」に関する対話集会では、政府や東電にとって都合の悪い情報は出てきません。住民の意見なんか取り入れる気もないくせに、「住民の意見を聞いた」というアリバイ作りに使われてしまう。皆さんもそれは理解していると思いますが、「でもそういう対話集会に出ないと情報が得られない……」と心配する意見も聞かれます。
本当にそうでしょうか? 東電や NDFは私たち住民が知らないところで、勝手に市町村や県の担当者に「廃炉」について水面下で説明していたりすることが多くあります。どんな会議が行われて、どんな資料が配られていたのか、知りたいですよね。「でも一般住民の私が東電や NDFに問い合わせても、答えてくれるはずがない……」。そう思っていませんか?
それならば市町村の役場や県庁に対して、情報公開請求を出せばよいのです。「●年●月●日~●日までの期間に、東京電力あるいは NDFの担当者と市(又は県)職員が参加した非公開会議の文字記録、音声記録および配布資料全て」と指定して請求を出せば、水面下でどのような会議が行われていたのか、自治体には記録を開示する義務があります。開示しない場合にもその理由を説明する義務があります。
自分で情報公開請求をやるのは慣れていない、という場合どうすればいいか。市町村議会議員や県議会議員に働きかけて、議会で質問してもらいましょう。指定した期間に行われた東電や NDFとの非公開会議の記録を全部出すように、と議員から求められれば役所は対応せざるを得ないのです。そうやって、住民の疑問を役所にぶつけて情報を引き出してくれる議員を議会に送り込む。そのために選挙があります。次の市町村・県議会議員選挙では、廃炉の問題を議会で質問してくれる候補を応援してはどうでしょうか?
これが住民自治や住民の知る権利のための一番の近道であり、「廃炉監視」のためにも有効なアクションです。
廃炉問題は専門家や事業者だけのものではありません。情報公開制度や議会を通じて行政に説明を求めることも、住民が参加できる大切な「廃炉監視」の一つです。
*情報公開請求のやり方については参考図書として、日野行介著『情報公開が社会を変える..調査報道記者の公文書道』(2023、ちくま新書)をお勧めします。

尾 松 亮 (おまつ・りょう)
1978年生まれ。東洋大学国際共生社会研究センター客員研究員。
東京大学大学院人文社会研究科修士課程修了。通信社、民間シンクタンクでロシア・北東アジアのエネルギー問題を中心に調査。2019年から民間の専門家、ジャーナリストによる「廃炉制度研究会」を主宰。2025年度日本地理学会賞(社会貢献部門)受賞。
著書に『廃炉とは何か』(岩波書店、2022年)、編著に『原発廃炉地域ハンドブック』(東洋書店新社、2021年)ほか。
東京電力福島第一原発
知らなきゃ騙される〈廃炉のこと〉Q&A
2026年 7月 15日発行
著 者 尾松 亮
発行人 佐藤大地
発行所 株式会社東邦出版
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