【6期連続赤字大熊イチゴ栽培事業】第三セクター社長の言い分

6期連続赤字大熊イチゴ栽培事業

 本誌11月号で、大熊町100%出資のイチゴ栽培・加工・販売会社が6期連続赤字となっていることをリポートした。同社の社長を務める同町副町長のコメントは期日まで届かず、記事に掲載できなかったが、その後メールで送られてきたのであらためて紹介したい。

第三セクター社長の言い分

 6期連続赤字となったのは、大熊町100%出資の第三セクター「ネクサスファームおおくま」(島和広社長=大熊町副町長)。

 2018年7月設立。発光ダイオード(LED)や養液を使いコンピューター制御でイチゴを栽培する。福島再生加速化交付金を活用し広大な工場(事業費約20億円)を新設。放射能汚染への懸念が根強く残る原発被災自治体で屋内型農業を実現し、営農意欲向上や雇用創出、帰還促進を図る狙いがあった。

 ところが、売り上げは思うように伸びず、設立2年で合計約7000万円の赤字が発生。2020年12月には資本金を9000万円から2億8000万円に増資した。主力品種が計画通り出荷できず売上高が伸びなかったこと、夏秋イチゴは栽培の難易度が高く収穫には技術と多くの人手が必要となること――が赤字の主な原因。取締役工場長の徳田辰吾氏は人員不足で工場がフル稼働できなかったことが原因と分析した。(本誌2021年6月号参照)。

 記事掲載から3年経過し、業績は改善されているのか気になり、同社に関する資料を同町に開示請求したところ、記事掲載後も業績は上向かず、6期連続赤字となっていたことが分かった。

 2024年5月期の業績は売上高7329万円に対し売上原価1億1730万円、販管費2540万円、営業利益は6942万円の赤字。

 当期純利益は1005万円の赤字。営業利益よりも赤字額が少なくなっているが、毎年町から「大熊町いちご栽培施設運営費補助金」が給付されており、雑収入として計上されているので赤字額が圧縮されている(本誌11月号「やっぱり甘くなかった大熊イチゴ栽培事業」参照)。

 同社ではこの現状をどのように捉えているのか。同社社長を務める島和広副町長にコメントを求めたところ、総務課を通して「島副町長がどうしても時間が取れない。現在農業振興課で回答を作成しており、数日はかかるので期日に間に合わない。回答する気はあるということだけは分かってほしい」との回答が寄せられた。そのため、コメントは掲載できなかったが、本誌11月号校了後、メールでコメントが寄せられた。以下、一問一答形式で紹介したい。

社長からのコメント

ネクサスファームおおくまの工場
ネクサスファームおおくまの工場

 ――6期連続赤字となっているが黒字回復の見込みはあるのか。

 「今年から経営および栽培技術のコンサルタント会社などと契約して、経費の見直しや栽培技術の向上を図っており、1株当たりの収益性を増加させることで安定的な生産・経営体制の確立を目指しております。今期は夏イチゴの収穫量が増加しており、今後収穫される冬イチゴでも成果が出れば数年後には黒字化が可能ではないかと考えています」

 ――ここまで赤字が続く要因はどんなところにあると考えるか。

 「ここ数年は猛暑などの気候変動により収穫量が減少したうえ、必要な労働力の確保ができず栽培面積を拡大できなかったことが大きな要因です。また、電気料金などのエネルギーコストや資材費の高騰も負担となっています」

 ――雑収入として計上されているのは運営に対する町からの補助金と捉えていいか。

 「雑収入のすべてではありませんが、概ねは町から交付された『大熊町いちご栽培施設運営費補助金』となります」

 ――町の第三セクターは議会で決算状況について報告する機会がある。議会ではどんな意見が出たのか。

 「議会へは決算状況などの説明を行っており、その際には経営改善に向けた対応を求めるもののほか、会社役員への民間有識者の登用、栽培品目の変更を提案するご意見などがありました。当社としましては、経営改善策などすでに検討・対応を進めている件もありますが、民間有識者の登用については今後検討したいと考えています」

 ――町民からは事業継続性・持続性を懸念する声が上がっているがどのように受け止めるか。

 「赤字が続いており、ご心配をおかけして申し訳なく思っております。当社では、現在のところ事業自体の見直し等の検討はしておらず、まずは現在進めております収穫量の増加や経費見直し等による経営改善策で成果を出し、早期の黒字化を目指しているところであります」

 コンサルを入れて収益性向上を図るなどの経営改善策を進めており、〝数年後〟には黒字化が可能と考えているので、事業自体の見直しの検討はしない、と。

 公共的な役割を持つ第三セクターなので、採算性は度外視しているということかもしれないが、民間で設立後10年近く赤字が続けば、金融機関も融資に二の足を踏み、経営を維持できないだろう。

持続可能でない復興事業

工場で生産されたイチゴと加工食品(2021年5月撮影)
工場で生産されたイチゴと加工食品(2021年5月撮影)

 2011年3月11日時点の同町の人口は1万1505人。今年9月末現在の町内居住者数は848人。「必要な労働力の確保ができず栽培面積を拡大できなかった」ことを赤字の要因に掲げているが、原発被災自治体の人口増加が簡単にいかないことは事前にある程度想定できたはず。気候変動もしかり。

 現在、福島再生加速化交付金の見直しが議論されているが、同交付金ありきの事業となり、ノウハウ不足のまま工場を稼働させたのではないか。〝持続可能〟でない復興事業は同町以外にもあるはずで、今後各自治体で問題になりそうだ。

 町議会でイチゴ栽培事業について議論が行われるのは非公開の議員全員協議会に留まり、公開されている一般質問では話題に上がらない。ただですら町民の多くが町外で避難生活を送っているのに、議論の様子が見えないのでは誰も町政に関心を持たないし、町議会の存在意義が問われることになる。そういう意味でも、同町議会12月定例会の一般質問で三セクの〝6期連続赤字〟について、徹底的な議論が行われることに期待したい。

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