【大熊町】吉田淳町長インタビュー

【大熊町】吉田淳町長インタビュー

 よしだ・じゅん 1956年1月生まれ。大熊町出身。法政大学経営学部卒。1979年に大熊町職員となり、教育総務課長、総務課長などを歴任。2016年1月に副町長となり、2019年11月の町長選で初当選。2023年に再選を果たす。

 ――昨年11月12日投開票の町長選を振り返って。

 「前回は新人同士の選挙戦でしたが、今回は現職として選挙戦に臨み、表現として適切かどうか分かりませんが、相手候補の動きが見えづらく苦労した点もありました。結果的には全体の約9割の票をいただき、当選できたことは一定の信任が得られたと思っています」

 ――2022年に特定復興再生拠点区域の避難指示が解除されました。

 「震災前、町の中心地だった下野上地区を含む860㌶が待望の解除となりました。帰還した住民からはスーパーなど買い物環境の整備を求める声が多数あります。以前、町内にはスーパーが3店舗ありました。買い物環境整備には喫緊の課題として取り組んでいます。医療面では、診療所はあるものの週2日だけなので充実を求める声が出ています。県では県立大野病院の後継病院を開院するとの方針を打ち出しており、医療体制の拡充を進めていきます。

 特定復興再生拠点区域より前に避難解除された大川原地区は、役場周辺を中心に環境が整い、今後は大野駅周辺整備を進めていきます。駅前に産業交流施設を建設し、周辺には帰還した方や働く人のために商業施設整備を進めています。それに先駆けて3月には50戸の住宅団地が2つ完成するほか、元々あった民間アパートを町が補助を行いリフォームして約200室整備しました。

 こうして、さまざまな環境整備を進めていますが、まずは居住人口を増やさなければなりません。加えて、昨今は国の復興事業の関係で学生が訪れるなど関係人口も増えていますので、そういった大熊町に関心を示してくれる人を増やしていきたい。働く場所も必要になりますから、工業団地への企業誘致なども進めていきます」

 ――2023年6月に、福島復興再生特別措置法が改正され、特定復興再生拠点区域から外れたところのうち、帰還意向のある住民が帰還できるよう必要な個所の除染を行い、特定帰還居住区域として定めることで、避難解除を目指す方針が示されました。

 「新しい方針のもと、下野上1区を特定帰還居住区域に指定して国から認定を受けました。今年度内にも除染に着手してほしいと要望を出しています。

 町内には21行政区ありますが、そのうち帰還困難区域を抱える行政区は下野上1区を含めて10行政区あります。残りの9行政区においても下野上1区に遅れることなく、特定帰還居住区域への指定、除染、解除を目指して国に要望を行っています。町としても、町民の意見を聞きながら、次の除染エリアの選定を検討しています。新しい方針では、1人でも帰還したい住民がいれば除染を行うこととされていますので、なるべく広い区域を住めるエリアとして取り戻したいと思っています」

 ――休止している県立大野病院が現在地で建て替えられ、2029年度の開院を目指す方針が示されました。

 「県立大野病院は、町内だけの施設ではなく、相双地区の拠点病院に位置付けられていますから、1日も早い開院を目指して整備してほしいと思います。また、先ほどもお話ししましたように、帰還した住民からも近くに病院があってほしいと、医療体制の充実を願う声が出ています。町民の中には、帰還するかどうか迷っている方も多数おり、そういう方々の判断材料という点でも、病院の有無は大きな要素となります。同病院の存在は双葉郡をはじめ、相双地域全体の大きな問題でもありますから、1日でも早い整備をお願いしたいと思います」

 ――教育施設「学び舎ゆめの森」の新校舎が完成し、2学期から使用されています。

 「震災・原発事故から12年が経ち、ようやく子どもたちの声が聞こえるようになりました。同施設では認定こども園と義務教育施設が一体となっており、0歳から15歳までが保育・授業を受けています。最初は園児・児童・生徒数は計26人でしたが、同施設で行っている新しい教育方針が保護者の間で関心を集め、若い世代が移住して入園・入学する園児・児童・生徒が増加し、まもなく40人を超える勢いです。9月には12年ぶりに運動会が開催され、園児・児童・生徒や保護者以外に地域住民も参加して盛大に行われました。

 資材不足の関係で完成が当初予定から遅れ、2学期から新校舎での保育・授業がスタートしましたが、校舎完成前の1学期は町役場や交流施設などを活用し、分散して授業が行われました。不便だった分、工夫しながら学習に取り組み、さらには、学校関係者以外の人とも関わることができたことは、子どもたちにとっていい経験になったと思っています。

 新校舎完成後は校舎のつくりや独自の教育プログラムが評判を呼び、視察が増えています。新校舎での授業がスタートした8月から数カ月で視察者は1000人を超えました。また、『グリーン留学』という体験入園・入学プログラムも用意していますので、帰還や定住人口増加の起爆剤につなげていきたいと思います」

 ――「長者原じゃんがら念仏踊り」が震災後はじめて町内で披露されました。

 「『長者原じゃんがら念仏踊り』と『熊川稚児鹿舞』は町の無形文化財に指定されています。そのうちの一つであるじゃんがら念仏踊りがようやく町内で再開できたことは、区長をはじめ地元の方々に本当に感謝したいと思います」

 ――今後の重点事業について。

 「まずは避難解除された特定復興再生拠点区域内の環境整備をしっかりと進めていきます。それを経て、特定帰還居住区域の整備へと、1歩ずつ進んでいきたいと思います」

 ――今後の抱負。

 「先ほども話したように、まずは居住人口を増やしていきたい。震災前は約1万1500人でしたが、現在は住民登録している居住者が600人超、住民登録していない居住者が400人超ほどおり、合わせて1100人が町内で暮らしています。町ではそれを4000人にすることを目指しています。そのためには町に訪れる関係人口を増やすことが必要だと思います。その中で住んでみたい方がいればお試し住宅を利用していただき、子育て世代であれば学び舎ゆめの森を見ればきっと気に入っていただけると思います。働く場所も工業団地の整備を進めており、そこで働く方に町内に住んでいただくための住宅整備も進めています。こうして、様々な事業を行いながら人口増加に向けた取り組みを行っていきたいと思っています。また、戻れない住民の絆の維持のための取り組みも継続して進めていきます」

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