もちづき・たかふみ 1983年静岡県富士市生まれ。京都大学大学院都市環境工学専攻修了。国土交通省水管理・国土保全局河川環境課河川保全企画室企画専門官などを経て昨年4月から現職。
福島河川国道事務所は、県内の大動脈である国道4号、13号、東北中央道の維持管理、国道13号福島西道路(Ⅱ期)事業、阿武隈川緊急治水対策プロジェクト、2022年3月の福島県沖地震で被災した国道399号伊達橋の権限代行での復旧など、地域住民の生活に直結する事業を担う。昨年4月に就任した望月貴文事務所長に、それら事業の進捗や今後の抱負などを聞いた。
激甚化・頻発化する自然災害に新しい技術やアイデアで対応。
――今年度から事務所長に就任されました。率直な感想についてお聞かせください。
「福島県での勤務は初めてですが、実際に勤務して感じているのは、福島県はいろんなポテンシャルを秘めているということです。食べ物も美味しいですし、果物・お米・お酒など地の物に加えて魅力的な観光地も多く、物流や産業の立地環境としての利点があります。ポテンシャルを最大限生かせるようなインフラ整備をはじめとする事業を推進していきたいと考えています。また、4月からの勤務で、現場の出先機関としての地域の窓口である事務所に対する期待の大きさを感じています。自治体の首長さんや業界の関係機関の方と接する機会も多いのですが、災害対応やインフラの維持管理、住民の方々への対応に対する感謝や労いの言葉を頂くことが多く、その期待に応えられるように今後も取り組んでいきます」
――2026年度に開通予定だった福島西道路の開通時期見直しが発表されました。トンネル掘削中に想定を超える巨大な岩石が多数見つかったとのことですが、今後の見通しについて。
「福島西道路のⅡ期事業ということで、福島市を南北に縦貫する国道4号の混雑解消や、伏拝地区の急勾配区間での冬期におけるスタックなどの交通への影響を解決する、延長約6・3㌔のバイパス事業です。現在約1・8㌔の(仮称)浅川トンネルの掘削工事を行っているところですが、当初想定をしていなかった5㍍を超える巨礫が出てきたことで、これまでの機械掘削では対応できなくなりました。火薬を使った発破作業で岩を砕いているのですが、近隣が住宅地ということもあって、作業する時間や振動・騒音に配慮する必要が出てきました。いろいろと工夫はしていますが、作業に時間を要しているところです。
現在工事を進めながら残工事量などを精査しているところですが、2026年度開通を目指していた目標の見直しが必要となり、見直し後の開通時期については精査中ですので、今後の工事の進捗を踏まえてあらためてお伝えしていく所存です」
自然災害への対応
――現在進められている阿武隈川遊水地整備計画について、7月30日には農地や集落が移転対象となっている3町村の首長から、移転する住民の負担軽減や適切な維持管理を求める要望書が提出されました。
「令和元年東日本台風で阿武隈川流域において既往最大規模の洪水によって堤防が決壊するなど、各地で甚大な被害が見られました。これを受けて、浸水被害軽減に向けた、阿武隈川の上流部である鏡石町・玉川村・矢吹町に遊水地整備を進めているところです。遊水地はそれぞれの町村に1つずつ、合計3つで構成され、全体の貯留量が約1500~2000万㌧という広大な遊水地となっています。全ての地盤を掘り下げて遊水地の容量を確保するために、地権者の皆さまから貴重な土地をご提供頂いています。
3町村から住民の方の生活再建についてご要望いただきました。2022年10月から用地協議を開始しており、現在2028年度の完成を目指して、地権者の皆さまと用地協議を進めているところです。移転される方の負担軽減や、今までのコミュニティーを維持したいというご要望もありましたので、集団移転をご希望される方については、代替地の整備・調整を各町村と連携しながら進めています。
さらに遊水地完成後における平常時の利活用について、有識者及び行政関係者などによる利活用検討会を2024年1月に設置しており、地域の皆さまの意見も踏まえながら、持続可能で現実的な利活用の実現に向けて一体となって検討しているところです」
――2022年3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震によって通行止めとなった国道399号伊達橋について、現在は仮橋による走行が可能となっていますが、新しい橋を含めた今後の事業予定についてうかがいます。
「伊達橋は福島県が管理している橋ですが、復旧には高い技術力を要するということで県知事からの要望を受けまして、国の権限代行として事業を実施しています。復旧工事には相当な期間を要しますので、まず交通確保のために2023年10月29日に仮橋を設置しました。
現在まで既設の上部工を撤去し、橋脚の補強、橋台の改修を実施しており、新しい橋桁を工場で製作しているところです。今後も関係機関と連携しながら一日も早い復旧を目指して取り組んで参りますので、ご理解とご協力をお願い申し上げます」
――その他重点事業について。
「まず河川事業について、先ほども述べた遊水地整備事業も含め東日本台風への対応ということで、ハード・ソフト両面の治水対策につきまして、阿武隈川緊急治水対策プロジェクトを立ち上げており、河道掘削、堤防整備などを2028年度までに集中的に推進していきます。河道掘削は既に伊達・福島・本宮・郡山地区では完了しており、2025年度以降須賀川地区を予定しています。
続いて道路事業について、国道4号福島北道路の事業化を目指して調査計画を進めております。福島市中心市街地から北へ向かうルートでは渋滞による速度低下が発生しており、それによって物流拠点や病院等へのアクセス性が低下するという課題があります。そうした課題の解決にむけて、地域の皆さまの意見を伺い、概略ルート及び構造の検討を進めています」
――今後の抱負。
「自然災害が激甚化・頻発化しています。気候変動の影響もありますが、今までと同じ考え方では対応が困難になっています。防災・減災に加えて地域の安全のためにも流域治水や強靭な道路ネットワークの構築など、新しい技術やアイデアを取り入れつつ、関係機関と連携の上事業を進めていきます。
また、建設業界の人材確保が大きな課題となっています。建設業に従事する皆さまは災害時においては地域の守り手としてご活躍頂いており、地域の安心・安全に直結すると言っても過言ではありません。人材確保のために建設業界の魅力向上は急務であり、デジタル化やDXの推進、施工の効率化や省力化、働き方改革を通じて担い手の育成・確保に繋げていきたいと考えています」