東京電力福島第一原子力発電所事故について、旧経営陣が強制起訴され、無罪が確定した刑事裁判をめぐり、福島原発事故訴訟支援団などが裁判記録を「刑事参考記録」として永久に保存するよう東京地検に申出書を提出した。肝は、旧経営陣や重要証人の調書など裁判に提出されなかった捜査資料も保存対象に求めた点で、生々しい証言や非公開資料は事故の全容を解明するのに役立つ。事故報告書に等しい唯一無二の情報を市民社会に還元するために、訴訟支援団は国立公文書館での閲覧や国会の権限による公開なども提案する。
福島原発刑事訴訟支援団が東京地検に要請
東京電力福島第一原発事故をめぐっては、事故前に原発の津波対策などに関与した経営陣3人が業務上過失致死傷罪で強制起訴された。勝俣恒久氏(2024年に84歳で死去)は、2002年から社長、2008年から会長を務めた。武黒一郎氏は2008年に副社長を、武藤栄氏は2008年に常務、2010年から副社長を務め、いずれも原発安全対策の責任ある立場だった。
旧経営陣は一審、二審で無罪となり、最高裁は2025年3月に「事故の予見可能性はなかった」として、検察官役の指定弁護士側の上告を棄却する決定をし、無罪が確定した。
今年4月15日に福島原発刑事訴訟支援団は、裁判記録を「刑事参考記録」として保管するよう念押しするとともに、捜査資料を含めた全ての裁判記録を永久保存するよう東京地検に求めた。地検側は「上層部と検討する」と述べたという。申し出書を提出後に団員とその代理人らが東京都内で記者会見した。

冒頭、福島原発刑事訴訟支援団の佐藤和良団長(いわき市議)は、旧経営陣の無罪確定を振り返った。
「刑事裁判の結果は無罪でしたが、やはり原発事故は防げたということが公判の中で明らかにされたと考えています。経営陣が津波対策を取っていれば、あの過酷事故は防ぐことができたということが明らかになった。残念ながら司法はそういう判断をしなかったわけですけれども、現実的に公判で明らかになった刑事記録あるいは捜査記録によると、東京電力の内部で対策を立てながら、3人の経営陣が最終的に対策を取るように進めなかった」
今後は刑事裁判の記録をどのように活用していくかに軸足が移る。刑事参考記録とは、刑事裁判の記録のうち、刑事法制及びその運用、並びに調査研究の重要な参考資料に当たるものを、保管期間が満了した後も保存する制度。記録を保管する検察庁の申し立てに基づき法務大臣が指定する。研究目的で長期に渡り閲覧できるようになる。
基準が定められており、東電旧経営陣の裁判は、検察審査会の議決を経て強制起訴された事件、国政を揺るがせた犯罪に係る事件、無罪が確定した事件のうち重要なもの、全国的に社会の耳目を集めた犯罪に係る事件で特に重要なものの4項目に該当。当然、刑事参考記録として保存されると思われる。
重要なのは、取り調べ段階の捜査資料など裁判に提出されていない捜査記録も含めて、「永久に」保存するよう求めたことだ。刑事裁判は公開で行われるが、全ての証拠が裁判で吟味されるわけではない。検察側や弁護側の一方が同意しないこともある。
東電旧経営陣の刑事裁判では、検察官役の指定弁護士によって全ての証拠が弁護側に開示されたが、証拠として扱われたのは一部にとどまり、さらに弁護人が同意したものだけが刑事事件の確定記録となった。公判未提出の記録を見ることができたのは、指定弁護士や弁護側といった当事者に限られた。その中には、旧経営陣や津波対策の専門家などの重要証人の調書に代表される極めて貴重な資料が含まれていたという。
原発事故の被害者代理人を務めた海渡雄一弁護士は、
「津波対策に直接関与した多数の専門家や東電社員の取り調べ記録が含まれており、唯一無二の資料です」
と価値を語った。
東電の刑事裁判を無駄にしないために
旧経営陣の刑事責任を追及してきた福島原発告訴団の武藤類子団長(三春町)は、永久保存の意義をこう語る。
「私は東電経営陣の刑事裁判を全て傍聴しました。株主代表訴訟などいろいろな裁判の中で明らかになった事実や、私たち事故の被害者にですら知りえなかった事実がまだたくさんあります。そういう意味から言うと、今、永久保存を求めている記録は本当に重要なものだと思います」
安全対策に関与した東電旧経営陣の無罪は確定している。
「上告が棄却され、裁判は無駄だったという見方もあります。ですが、今後誰かが明らかになった証拠を見て、どうしてこの事故が起きたのか、誰に責任があったのかということを歴史的に明らかにできるのではないでしょうか。 そういう意味から言っても、ぜひともこれは永久保存して、後世の方も閲覧できるようにしてほしいです」(同)
海渡弁護士によると、捜査には東京地検公安部をはじめ全国から多くの検事が駆り出され、裁判を通して把握できた捜査資料の一部からは、起訴に向けた懸命な捜査ぶりがうかがえるという。
「取り調べられた社員や専門家などの証人はショックを受けて責任を感じていたでしょう。反省などを率直に語っているのではないか。事故がなぜ起こったのかの全容を知る上でそういうものを私たちは見たいと思っています」
海渡弁護士たちは、東京地検に対し記録の永久保存を求めるだけでなく、一般市民が利用しやすいような閲覧方法を求めた。
「一般の方が閲覧できるように国立公文書館に移管する方法も考えられます。東京地検には一般の方が閲覧可能な状態にできるように判断してほしいと要望しました」
公文書館への移管は、現状では検察庁の裁量に頼るしかないが、他に国会の権能を使って公開を進めることができるという。国会議員たちが全記録の公開を法律で定める方法だ。米国の連邦議会が「エプスタイン事件」をめぐり捜査資料の公開を法律で定めた事例が念頭にある。
目にすることができない記録はないものに等しい。時間が経過すればするほど、悲惨な原発事故は歴史的検証の対象となる。現時点で全記録の公開が進むことが最善だが、後世の研究者やジャーナリストが利用できるように、今できることをやっておく必要がある。
※東京地検への申し入れ後に開かれた記者会見






















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