「食料品消費税ゼロ」食品加工業への影響

「食料品消費税ゼロ」食品加工業への影響

2月に実施された衆院選は、高市早苗首相が率いる自民党が歴史的圧勝を収めた。その際、高市首相(自民党)が目玉政策の1つとして打ち出したのが「食料品消費税2年間ゼロ」案だった。物価高騰対策の一環という位置付けで、現在その検討が進められている。実現すれば、家計負担が減る一方で、「財源はどうするのか」、「外食産業は大きな打撃を受ける」との懸念もある。もっとも、そうした課題については、さまざまなメディアで取り上げられているから、この稿では「食品加工業への影響」に絞って、関係者の声をお届けしたい。

「2年だけなら必要ナシ」との声も

消費税の現行制度(複数税率制度)は、「標準税率」と「軽減税率」の2段階になっている。標準税率は10%で、衣類、日用品、家電、アルコール飲料、外食、医薬品など、ほとんどの物品・サービスが対象。一方、軽減税率は8%で、生活に不可欠な「飲食料品」(酒類・外食を除く)と定期購読される新聞(週2回以上発行が条件)が対象となっている。同じ食品でも、スーパーで買って持ち帰ると8%、店内のイートインスペースで食べれば「外食」とみなされ10%になるという少々ややこしい制度だ。

そんな中、現在、政府が検討中の「食料品消費税2年間ゼロ」案は、前述した8%の軽減税率が適用されている飲食料品の税率を、2年間限定で0%にするというもの。早ければ今年度中にも開始される見通し。

この制度が食品加工業にどんな影響を与えるのか。

ある食品加工業者はこう話す。

「同業者と話をすると、『消費税がゼロになれば、実質値下げになるわけだから、いままでより商品が売れるんじゃない』と呑気なことを言う人もいましたが、そんな簡単な話ではありません」

食品加工業のジャンルは、肉類や水産物の加工品、漬物などの農産物加工品、菓子、味噌・醤油などの調味料、ヨーグルトやチーズなどの乳製品など、さまざまだが、それらをスーパー・コンビニなどで購入する際、消費税がかからなければ、実質値下げだから、消費者目線で言うと買いやすくなるのは間違いない。

管理が面倒

ただ、この業者によると、「そんな簡単な話ではない」という。

「ウチの場合、『仕入れ』の中で、原材料費の割合は約4割で、そこには8%の消費税がかかっていました。残りの6割は包装費や光熱費などですが、そこには10%の消費税がかかります。いままで8%と10%だったのが、2年間限定で0%と10%で管理システムを作り直さないといけません。しかも、2年経ったら、また戻さないといけない。これはかなり面倒ですよ」

事業規模が比較的大きなところからは「税理士さんにお願いしているから、そこまで面倒ではない」との話が聞かれたが、そうでないところは前出の業者と同じように「管理システムを作り直すのが面倒」という声が多かった。

わずか2年間のために、受注システム、請求書発行ソフト、原価管理システムなどの税率設定を書き換え、2年後にまた元に戻すという作業は、中小業者にとって重い事務負担になるということだ。

受け取りがゼロになる弊害

もう一つが、受け取る消費税がゼロになるという問題だ。

前出の業者を例にすると、仕入れのうち、原材料費が4割、そのほかが6割という。「食料品消費税2年間ゼロ」が実施されれば、加工商品をつくるのに必要な農産物、調味料などを仕入れた際、そこには消費税はかからない。ただ、包装費や光熱費、配送費などには従来通り10%の消費税がかかる。一方、実際に製造した商品を小売店などで売った場合、消費税は受け取らない。

つまり、受け取りの消費税がゼロ、支払いは原材料費以外はかかるということになる。本来、消費税は「受け取った税額」―「支払った税額」の差額が「納税額」になるが、受け取りがゼロでは、この図式は成立しないことになる。

当然、支払った税額の方が大きければ、後に還付されることになるはずだが、タイムラグが生じる。

前出の業者は「ウチは納税スパンが半年単位だから、還付があるとすれば半年ごとだろう」という。

「その場合、半年間は支払いだけで、受け取り分がなくなるわけだから、資金繰りが悪化する危険性があります」(同)

こんな問題があるということだ。

そのほか、「2年後に元に戻った時にどうなるか、という不安もある」との声もあった。

「2年間だけ安い」という駆け込み需要が発生し、制度開始直後に注文が殺到する可能性がある。一方で、2年後の「税率復活(0%から8%)」の直前には買い溜めが起き、その後に深刻な消費冷え込みが起きるかもしれない。つまり、急激に重要が増えたり、減ったりする可能性があるということ。これでは安定した経営にはつながず、戦略が立てにくいということだ。

さらには、「同制度終了後の値下げの圧力も怖い」という。同制度終了後、消費者は「高くなった」という印象を持つに違いない。「頑張って、前の価格(消費税ゼロ時)のようにならないか」といった有形無形の圧力を受けるのはないか、という不安だ。

本誌は食品加工業者や業界団体関係者などを取材したが、その中で感じたのは、おそらく商品は売れるようになるが、それが必ずしもプラスになるとは限らないということ。その理由は、ここで述べた管理システムの問題、受け取る消費税がゼロになること、急激に重要が増えたり、減ったりする可能性があること、制度終了後の値下げ圧力の懸念――等々だが、ほかにも課題が出てくるかもしれない。

中には、明確に「2年限定だったらやらなくていい」という関係者もいた。それも複数の人が同様の見解だったのだ。政府はこうした声にも耳を傾けるべきだろう。

関連記事

  1. 仙台ホテル競争に巻き込まれる福島市

  2. 【いわき信組問題】私はこう考える【作家・江上剛】

  3. うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

    うすい百貨店からルイ・ヴィトンが撤退

  4. 過渡期を迎えた公設温浴施設【いわき編】

    過渡期を迎えた公設温浴施設【いわき編】

  5. 【お菓子のさかい】新規客増加につながった老舗の新ブランド戦略

    【お菓子のさかい】新規客増加につながった老舗の新ブランド戦略

  6. 【福島県】酒造メーカーの苦悩

    【福島県】酒造メーカーの苦悩

  7. 【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

    【会津バス社長が明かす】民事再生【丸峰観光ホテル】再生手法

  8. 裏磐梯グランデコ経営譲渡の余波

    裏磐梯グランデコ経営譲渡の余波

政経東北 最新号
月刊「政経東北」2026年6月号
人気記事
  1. 政経東北【2026年6月号】
  2. 【和久田麻由子】NHK女子アナの結婚相手は会津出身・箱根ランナー【猪俣英希】
  3. 「MEGAドン・キホーテ」出店に沸く福島市
  4. 【天栄村】犬同伴コテージ「死亡火災」の一部始終
  5. いわき信組「反社資金提供問題」報じられないもう一つの真実
  6. 政経東北【2026年1月号】
  7. クマの隠れ家になる中間貯蔵施設
  8. 【猪苗代町】飛び地メガソーラーが「認定取り消し」
最近の記事
  1. 「産廃銀座化」を恐れる郡山市田村町の住民
  2. 【郡山市】「4年連続ごみワースト1」からの脱却
  3. イオンモール郡山シネコン進出は実現するか
  4. 福島駅商業施設改装オープンの熱狂と試練
  5. 山場を迎えた亀岡元衆院議員「公選法違反公判」 山場を迎えた亀岡元衆院議員「公選法違反公判」
PAGE TOP