相馬市の景勝地・松川浦の老舗旅館「手づくりの湯 栄荘」は「空と海の隠れ家 碧ノ音(かのん)」としてリニューアルオープンし、10月6日から営業を開始した。
松川浦といえば、かつては潮干狩りでにぎわい、港町ならではの活気に満ちていた。しかし、2011年の震災・原発事故により観光客が激減。さらに20年以降のコロナ禍、21年、22年の福島県沖地震が追い打ちをかけ、廃業する旅館も相次いだ。
栄荘も例外ではなく、建物が全壊して旧旅館を解体せざるを得なくなった。ただ、管野英信専務は「家族と相談し、せっかく建て直すのならばこれまで松川浦になかった客室数の少ないぜいたくな宿を造ろう」と再建を決断。事業費約15億円をかけて新たに建て替えた。
新旅館は鉄骨造9階建て。延べ床面積1836平方㍍。「スモールラグジュアリー~日常生活の中で楽しめるちょっとした贅沢~」をコンセプトに掲げ、客室数を8室に抑えた。各部屋に天然温泉の露天風呂、サウナ、松川浦を一望できるテラスを設置し、上層階はワンフロア1室というぜいたくさだ。
料理は相馬沖で水揚げされた新鮮な魚介を中心に、地場野菜や全国の旬の食材を合わせた会席料理スタイル。1階の食事会場には個室のほか、テラスにもテーブル席を設け、開放感を味わいながら食事することも可能。海沿いの〝隠れ家〟でのリゾート気分を楽しめる。


料金は1泊2食付きで1人5万円から(1部屋2人宿泊の場合)。仙台空港から1時間圏内に立地しており、全国の富裕層の需要をはじめ、大切な人との記念旅行、親戚との集まり、仕事の接待、各種会合などでの利用を想定している。
取材時に案内された客室のテラスからは海と空が溶けあうような眺望が広がる。採光や部屋の間取りに合わせて家具やカーテン、壁紙を変え、違った魅力を演出。栄荘時代からこだわりの全館畳敷きを踏襲し、靴を脱いでリラックスして過ごせる。備え付けの冷蔵庫には無料のドリンクやアイスが入っており、部屋の中だけで楽しんでもらえる心配りが徹底されている。
新旅館を運営するのは、前出・管野専務の子どもたち。中心となって運営を担う長男・結太さん(30)は「早速ご利用いただいた相馬市内のお客様から『夢のような時間、あっという間でした。頑張って働いてまた来ます』とメッセージがありました」と語る。そのうえで「まずはSNSなどを通してファンを増やし、来てくださる方に心地よい時間を提供していきたいです。部屋が広いので家族3世代での旅行などで利用してほしいです」と意気込む。
館内には多様な風呂を備えた男女大浴場があり、日帰り入浴も実施する。さらには、食事会場ではランチを提供し、希望者には屋上の360度パノラマテラスを開放したり、部屋を見学してもらうなど、地元住民に愛してもらう工夫も忘れない。
観光庁の調査によると、旅行に金をかける傾向が年々強まっており、宿泊業界では各種補助金を活用して高単価路線に舵を切る動きが見られる。ここで何も手を打たなければ経営に行き詰まる可能性があるだけに、各宿泊施設は模索を続けている。
松川浦では近年「浜の駅松川浦」の拡張や齋春商店のリニューアルオープンなど、観光再生の動きが相次ぐ。そうした中で高単価路線に舵を切った同旅館がどれだけ集客してリピーターを作ることができるのか、注目が集まる。

























