会津豪雪に自衛隊が出動しなかったワケ

会津若松市を襲った今年2月の大雪。災害救助法が適用されるほどの豪雪だったにもかかわらず、自衛隊の災害派遣の対象にならなかった理由とは。

情報公開文書で分かった市の準備不足

 『政経東北』7月号で「会津若松市・豪雪パニックは防げなかったのか」という記事を掲載した。2月の大雪で会津若松市は除雪の遅れから交通網が麻痺し市民生活が混乱状態に陥った。その教訓を生かすべく、市議会では検証を求める一般質問が行われ、市民の間ではいまから議会に請願を出し、地域内の除排雪設備の修繕を進めるように市に促す動きもみられている。記事はそうした様子をリポートしたもの。

 市民の関心は高く、5月7日から15日にかけて市内15カ所で開かれた同市議会の意見交換会では、大雪に関する質問が40以上あった。

 本題に入る前に、市民から大雪についてどのような意見が出ているのか、同市議会ホームページに掲載されている意見集計表から一部を紹介したい(質問への回答者は議員、読みづらい箇所や誤字脱字はリライトしている)。

 ▽雪の問題については、會津稽古堂などでシンポジウムを開いて、広く市民のアイデアを募ってはどうか。市民の声を多く聞く方法として効果的だと思う。また、各町内の空き地を事前に調査し、借り上げて雪溜場にしてはどうか。

 →ご意見として伺う。(建設)委員会では、空き地を雪溜場として借り上げた場合の固定資産税の減免について提言や研究をしているが、実現していない。除雪の初動体制や、国・県との連携も重要だと考えるが、雪溜場の不足も今回の雪害の大きな要因かと考える。空き地の活用については引き続き(建設)委員会で議論を深めていきたい。

 ▽降雪時、空き家の前は除雪されず雪の山になってしまうことがある。雪が溜まると交通にも支障が出てしまうのではないか。

 →空き家の情報は市で把握しているので、建築住宅課に相談していただきたい。

 ▽除雪、排雪の方法について、除雪のシーズン前に業者としっかり打ち合わせをしてほしい。

 →契約時に町内会長と業者で事前打ち合わせを行い、確認表を提出することが義務付けられている。業者の中には雪置き場をマッピングして提出しているところもある。しかし、詳細な打ち合わせがされていない場合もあるかもしれないので、建設委員会で再度確認する。

 ▽排雪は遠くに捨てに行かず、近隣の空き地を活用すればコストが下がるのではないか。除雪のシーズン前に町内単位で調べ、貸してもよいという場所があれば、使用料の有無や税制の優遇措置を検討することはできないのか。

 →現在も許可が得られた空き地等については、雪置き場として使っている。しかし、令和7年は大雪のため不足する状況になった。建設委員会で検討を重ねる。

 ▽除雪業者が地区のごみステーションを壊してしまった。市の道路課に3回電話したがつながらず、自分で修理した。

 →委託業者が壊した場合は保険等で修理対応する契約となっている。今回の大雪時は電話対応等を建設部全体で行ったが、対応しきれない状況もあった。今後の対応方法については建設委員会で確認する。

 ▽みんな同時に家を出たので混雑し、出勤に2、3時間かかった。学校を休校にしたり、企業に依頼して時差出勤や半日営業にしてもらうなど、知恵を出しあいながら対策をすることも大事である。

 →ご意見として伺う。

 ▽今年の大雪の除雪の在り方について検証は行ったのか。

 →2月定例会議では除雪の在り方についての検証は行っていない。今後、決算審査などにおいてしっかりと検証し、反省事項や改善項目などを明らかにし、次回の意見交換会(11月)などで皆さんに報告したいと考えている。

 こうしてみると、さまざまな視点での質問があったことが分かるだろう。そうした中でも一部の市民の間で燻り続けているのが「62年ぶりに災害救助法が適用されるほどの豪雪だったのに、なぜ自衛隊の災害派遣の対象にならなかったのか」という疑問だ。

 当初、市では自衛隊の災害派遣を検討していたが、結局実現しなかった。そのため「市の対応に不手際があったのではないか」という疑念の声が出ているのだ。前出・意見交換会でも自衛隊の災害派遣要請について、「議会では議論になったのか」という質問が市民から出ていた。

 市議会6月定例会議の一般質問で、室井照平市長は自衛隊の災害派遣要請を検討していたことを認めたうえで、「協議の結果、自衛隊法及び県地域防災計画で自衛隊の災害派遣に必要とされている三要件(緊急性、公共性、非代替性)を満たさないことから派遣には至らなかった」と答弁した。

 本誌7月号で市危機対策課や県災害対策課を取材したところ、協議では「大雪への災害派遣は公共性が認められる」とされたものの、市全体が完全に孤立していたわけではなく、人命や財産が危険にさらされているわけでもなかったため、「緊急性、非代替性(自衛隊でなければ対応できない作業かどうか)を満たしていない」という結論に至ったという。

「屋根の除雪はできない」

 協議はどのような形で行われたのか。記事掲載後、県への情報公開請求により関連文書が手に入ったので、内容を抜粋して紹介する。

 関連文書の1つ目は、市危機管理課が作成した「2月4日からの大雪に係る要配慮世帯の除排雪について」(2月10日付)という文書。

 同文書によると、市内の障害者や要介護度3以上などの「要配慮者」は7625人。そのうち、住居が古い、玄関から道路までの道が狭い・遠いなどの理由で除雪支援を必要としている人が905人。除排雪の依頼件数(2月6~9日)は286件で、うち文書作成時点で除排雪が実施されたのは75件だった。

 今後の課題としては、①除雪班の対応などで一定程度の生活道路の確保は実施しているが、屋根の除雪は行っていない(対応できない)、②建設業組合など屋根の除雪を行える業者が手一杯で対応不可、③徐々に除雪支援の依頼が増加しており、一度除雪を行った世帯でも落雪などで再び除雪が必要になっている、④屋根の除雪が行われず家屋倒壊のおそれがあるのに加え、落雪により生活通路の確保が困難になり要配慮者の孤立が懸念される――といった点を挙げている。

 そのうえで《会津地域外の建設業者等による屋根の除雪や生活通路の確保が本格的に行われるまでは、自衛隊による救助支援が必要》として、自衛隊に対応を依頼する件数(除雪支援班では対応不可能な案件)は10件程度という見積もりも示していた。
 だが結局、自衛隊による災害派遣は見送られた。その経緯が記されているのが、関連文書の2つ目である県災害対策課作成の「復命書」(2月13日付)だ。同文書は2月11日、会津若松市で行われた関係機関の協議内容をまとめたもの。

 当日参加したのは会津若松市(危機管理課)、同市社会福祉協議会、陸上自衛隊第44普通科連隊、福島県災害対策課、会津地方振興局県民環境部。

 協議では自衛隊による災害派遣が検討されたが、話し合いの中で市側の切実な要望があっさり却下されているのが分かる。

 例えば、「屋根の除雪をしてほしい」という市の要望に関しては《会津若松市が希望している屋根に上っての雪下ろしについては、自衛隊では対応できない。あくまで人力で地上から、張り出している雪を落として、生活通路を除雪することは可能》、《自衛隊からの派遣人数は20~30人(4~6班)確保できる可能性あり》との見解が示された。

 生活道路の確保に関しては《市、社協、消防団、業者、自衛隊、それぞれの除雪の割り振りを決める必要がある。要配慮者のケアができるようにするのが最優先であり、不透明な支援件数で自衛隊を拘束することはできない。正確な必要件数を示す必要あり》と、まず割り振りを決めるように求められた。

 排雪場までの道路渋滞解消のための除雪支援依頼についても《支援を求めるのならば、除雪対象箇所のルートを示す必要あり》と返された。このほか、《除雪作業に必要な機材は会津若松市で用意》、《排雪用のトラックも必要》、《潜在的な要支援者についての現状把握が必要》、《活動期間は3日間。長くても土日まで》と細かく条件を付けられた。

教訓は公開していくべき

 結局、《自衛隊への災害派遣要請の前に、まずは会津若松消防本部へ支援要請を出すことが前提。地元消防本部での対応が不可能ならば、広域応援を要請すること。会津若松市から会津若松消防本部へ要請を行うこととなった》という結論になった。要するに、「自衛隊にできることは限られているし、市側も準備不足なので災害派遣は難しい。まずは消防に支援を要請してみてはどうか」とかわされたわけ。

 ちなみに同文書では、災害派遣に必要とされている三要件については触れられていなかった。

 消防が除雪で出動することはあるのか。会津若松地方広域市町村圏整備組合消防本部に確認したところ、担当者が「例えば、大雪で孤立して命にかかわる状態となれば、災害救助、救急の業務の一環として、その都度除雪をすることはある。ただ、本来の業務とは異なるし、一般の道路の除雪に出動することはない」と説明した。協議後、市危機管理課は一応同本部と連絡を取ったそうだが、やはり本来の消防の業務とは異なるという話になり、要請は出さなかったという。

 一般的には、災害時において自衛隊=万能というイメージがあるが、開示された文書を見ると「屋根に上っての雪下ろしについては、自衛隊では対応できない」など、大雪ではその活動はかなり限定的なことが分かる。そう考えると、災害派遣が実現したところでどれだけ状況が変わったかは判然としないし、想定外の大雪に見舞われながら対応する自治体側の負担も大きそうだ。

 ただ、「もっと事前に準備を進めていたら災害派遣が実現したのではないか」、「自衛隊が来ていたら混乱状態はもう少し抑えられたのではないか」という市民の不満は燻り続けている。実際、現状把握やルート策定など事前に準備できた部分も多くあったのではないか。

 市議会6月定例会議で「自衛隊による災害派遣についての経緯を市民に周知したのか」と問われた室井市長は「周知は行っていない」と平然と答弁していた。

 ただでさえ会津地方の他市町村の住民から「除雪が下手」と評されている同市。本稿で紹介したようなやり取りもすべて公開し、〝教訓〟をもとに議論を重ねていくことで、大雪時の混雑を避けられるようになっていくはずだ。

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