政経東北|多様化時代の福島を読み解く

【矢祭町・強盗事件】暴力団を匂わせ矢祭の大家を恐喝

刑務所仲間と強盗を謀った元入居者

 強盗集団は行き当たりばったりで押し入るのではなく、何かしら奪う財産に見当を付け、一時的な「協力関係」を築いて決行する。徒党を組むのは信頼があるからではなく、被害者にさらなる恐怖を与え、犯行の役割分担ができるからに過ぎない。そして、いざ自分が捕まれば「主謀者はもう一人の奴だ」となすり合いが始まる。

 昨年3月に矢祭町の80代夫婦が住む民家で発生した強盗事件の犯人2人のうち1人は、福島刑務所(福島市)で服役中に知り合った男と犯行を計画した。今年4月に住所不定無職の大金照男(63)=本籍栃木県那珂川町=が逮捕され、住居侵入、強盗の罪で裁かれた。もう1人の実行犯は既に死亡。法廷では、生き残った大金が死亡した仲間に罪を押し付ける発言を繰り返した。

 強盗事件の発端は、大金が2018年5月に当時の妻に傷害を負わせて実刑を受け、服役した時点にさかのぼる。この時の大金の住所地は、矢祭町で起こった強盗の被害者となる夫婦が経営するアパートだった。

 検察側の冒頭陳述によると、大金は福島刑務所で懲役2年4月の刑期を終え、2021年3月に出所。知人男性宅に居候し、男性宅を出た後は車上生活を始めた。自分が刑務所に収監されてから、大家がアパートに残された大金所有の自動車を処分したことを知り、損害賠償にかこつけて大家を脅し、現金550万円を要求した。この時、大金は暴力団と付き合いがあることをほのめかしていたという。

 大金によると、大家から受け取った550万円のうち、270万円は自分の物にし、残りの280万円は刑務所で知り合ったミズヌマショウジなる男にあげたという。ミズヌマは、大金が大家に金品を要求するのに加担したとされる。大金は、これに味を占めたミズヌマが犯行を計画したと主張した。2022年2月ごろ、ミズヌマからワダヤスユキを紹介された。

 大金はミズヌマたちを車で矢祭町に案内し、現場の下見をする。強盗計画は当初、ミズヌマとワダ、カネサワリキオ、ニヘイヨウイチら4人に話していたが、ミズヌマ、カネサワ、ニヘイが離脱。大金とワダのみになった。ワダは強盗発覚後、逮捕されることなく死亡した。

 死人に口なし。裁判で大金の弁護人は「ワダが主導し、大金は従属的な立場」と主張。次に記す犯行の様子は、被害者で大家の80代夫婦2人と大金の供述に基づく。

 犯行当日の2022年3月14日午後5時半ごろ、夕飯の準備をしていた老夫婦宅に「こんばんは」と訪ねてくる男の声が響いた。妻はアパート契約の申し込みで直接訪問してきた人だと思い、玄関の戸を開けると、男が侵入して土のう袋を妻にかけ、紐で首を絞めてきたという。

 最初に侵入したのはワダ。「暴れると火を付ける」「金どこにあんの」とドスの効いた声で妻を脅した。栄養ドリンクの空き瓶にガソリンを入れ、場合によっては家に火を付けることも事前に大金と打ち合わせていた。

 ワダが押し入って約5分後、大金は乗り付けた車から降りて老夫婦宅に侵入し、横になっていた夫の方に向かって行った。夫は目が不自由だった。「金取りに来たんだから金あるとこ教えろ。早くしないと殺されちゃうよ」と脅す。夫はかつての入居者である大金の声と認識していた。大金は夫を立たせ、金品の在りかに案内させた。寝室にあったタンスから封筒を発見すると、2人は50万円が入っていた封筒3袋と巾着袋を奪って逃走した。他に財布から55万円が盗まれていた。被害額は合わせて205万円。

 大金は「自分がもらう予定だった報酬は3分の1」と述べ、受け取った報酬は60万円くらいと主張した。計算と合わなくなる。奪った全体額を把握していなかったのか、自分の物にした額を過少に報告しているのか。また、当初計画の5人からどんどん抜け、メンバーが2人になったにもかかわらず強盗を実行したことについて「ワダが続けると言った」と述べた。

 あくまで従属的な立場を強調する大金だが、犯行に使った車のナンバープレートを偽物に付け替えていた点、さらに被害者の老夫婦が経営するアパートの元入居者で内情を知っていた点から、少なくとも大金なしでは強盗は起こりえなかった。

 その疑いを強める点がある。犯人2人は老夫婦に目隠しをするため土のう袋を用意していたが、先に玄関で応対した妻にしか被せていない。大金が、夫の目が不自由なことを把握していたため、メンバーが2人に減っても強行したのではないか。

 実は、本誌は昨年5月号「視覚障害者が狙い? 逃走中の矢祭町強盗犯」という記事でこの事件を報じていた。記事中では、犯人は家人の内情を知っている人物の可能性があると言及していたが、案の定、大家のことをよく知る元入居者だった。

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