【第2弾】【田村市・贈収賄事件】積算ソフト会社の「カモ」にされた市と業者

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田村市役所
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 田村市で起きた一連の贈収賄事件。受託収賄・加重収賄の罪に問われている元職員は、市内の業者に公共工事に関する情報を漏らし、見返りに金品や接待を受けていた。本誌は先月号で、元職員が漏らした非公開の土木事業単価表が積算ソフト会社に流れたと見立てていたが、裁判では社名が明かされ仮説が裏付けられた。調べると、仙台市に本社があるこの会社は宮城県川崎町でも全く同じ手口で贈収賄事件を起こしていた。予定価格の漏洩が常態化していた田村市は、規範意識の低さを積算ソフト会社に付け込まれた形だ。

 元職員への賄賂の経路は、贈った市内の土木建築会社ごとに「三和工業ルート」と「秀和建設ルート」に分かれる。本稿では執筆時点の11月下旬、福島地裁で裁判が進行中で、同30日に役員に判決が言い渡される予定の「三和工業ルート」について書く。

 「三和工業ルート」は単価表をめぐる事件だった。公共工事の入札に当たり、事業者は資材単価を工事に合わせて積算し、入札金額を弾き出す。この積算根拠となるのが、県が作成し、一部を公表している単価表だ。実物をざっと見ると半分以上が非公表となっている。ただし都道府県が市町村に単価表を提供する際は、すべての単価が明示されている。

 問題は、不完全な単価表しか見られない業者だ。これを基に他社より精度の高い積算をしなければ落札できない。そこで、事業者は専門の業者が作成する積算ソフトを使ってシミュレーションする。積算ソフト会社にとっては、精度を上げれば製品の信頼度が上がり、商品(積算ソフト)が売れるので、完全な情報が載っている非公表の単価表は「のどから手が出るほど欲しい情報」なのだ。

 一方で、三和工業は堅実で業績も安定しており、自社の落札のために単価表入手という危ない橋を渡ることは考えにくい。こうした理由から、本誌は先月号で、積算ソフト会社が三和工業役員に報酬をちらつかせて単価表データの入手を働きかけ、役員が元市職員からデータを漏洩させたと見立てた。果たして裁判で明らかとなった真相は、見立て通り、積算ソフト会社社員の「依頼」が発端だった。

 11月9日の「三和工業ルート」初公判では、元市職員の武田護被告(47)=郡山市=と同社役員の武田和樹被告(48)=同=が出廷した。2人は旧大越町出身で中学時代の同級生。和樹被告は大学卒業後、民間企業に勤めたが、父親が経営する同社を継ぐため2014年に入社した。

 次第に積算業務を任されるようになったが、専門外なので分からない。そこで、相談するようになったのが護被告、そして取引先の積算ソフトウェア会社「コンピュータシステム研究所」の社員Sだった。

 公判で言及されたこの会社をあらためて調べると、仙台市青葉区に本社を置く「株式会社コンピュータシステム研究所」とみられることが分かった。法人登記簿や民間信用調査会社によると、1986(昭和61)年設立。資本金2億2625万円で、コンピュータソフトウェアの企画、開発、受託、販売及び保守、システム利用による土木・建築の設計などを行っている。建設業者向けのパッケージソフトの開発が主力だ。 

 代表取締役は長尾良幸氏(東京都渋谷区)。同研究所ホームページによると、東京にも本社を置き全国展開。東北では青森市、盛岡市、仙台市に拠点がある。「さらなる積算効率の向上と精度を追求した土木積算システムの決定版」と自社製品を紹介している。

 実は、田村市の事件は氷山の一角の可能性がある。同研究所は他の自治体でも単価表データの入手に動いていたからだ。

 2021年6月30日、宮城県川崎町発注の工事に関連して謝礼の授受があったとして、同町建設水道課の男性職員(49)、町内の建設業「丹野土木」男性役員(50)、そして同研究所の男性社員(45)が宮城県警に逮捕された(河北新報7月1日付より、年齢役職は当時。紙面では実名)。町職員と丹野土木役員は親戚だった。

 同年12月28日付の同紙によると、3人は受託収賄や贈賄の罪で起訴され、同27日に仙台地裁から有罪判決を受けている。町職員は懲役1年6月、執行猶予3年、追徴金1万2000円(求刑懲役1年6月、追徴金1万2000円)。丹野土木元役員と同研究所社員にはそれぞれ懲役10月、執行猶予3年(求刑懲役10月)が言い渡された。

 判決によると、2020年11月24日ごろから21年4月27日ごろまでの6カ月間、町職員は公共工事の設計や積算に使う単価表の情報を提供した謝礼として元役員から役場庁舎などで6回にわたり商品券計12万円分を受け取った。贈賄側2人は共謀して町職員に情報提供を依頼して商品券を贈ったと認定された。1回当たり2万円払っていた計算になる。

 田村市の事件では、三和工業役員の和樹被告が、2020年2月ごろから21年5月ごろまで、ほぼ毎月のペースで元市職員の護被告から単価表データを受け取ると、同研究所のSに渡した。Sは見返りに会社の交際費として2万円を計上し、和樹被告に14回にわたり計28万円払っていた。和樹被告は、毎回2万円を護被告と折半していた。田村市の事件では、折半した金の動きだけが立件されている。川崎町の事件と違い、和樹被告とSの共謀を立証するのが困難だったからだろう。それ以外は手口、1回当たりに払った謝礼も全く同じだ。

 共謀の立証が難しいのは、和樹被告の証言を聞くと分かる。2019年12月、Sは「上司からの指示」としたうえで「単価表を入手できなくて困っている」と和樹被告に伝えた。積算業務の素人だった自分に普段から助言してくれたSに恩義を感じていたという和樹被告は「手伝えることがある。市役所に同級生がいるから聞いてみる」と答えた。翌20年1月、和樹被告は護被告に頼み、「田村市から出たのは内緒な」と注意を受けて単価表データが入ったCD―Rを受け取り、それをSに渡した。Sからもらった2万円の謝礼を「オレ、なんもやっていないから」と護被告に言い、折半したのも和樹被告の判断だという。 

 一連の単価表データ入手は、川崎町の事件で同研究所の別の社員が2021年6月に逮捕され、同研究所が「コンプライアンス強化」を打ち出すまで続いた。逮捕者が出て、ようやく事の重大性を認識したということか。

 田村市で同様の手口を繰り返していた護被告は、川崎町の事件を知り自身に司直の手が伸びると恐れたに違いない。捜査から逃れるためか、今年3月に市職員を退職。そして事件発覚に至る。

 単価表データを入手する活動は、同研究所が社の方針として掲げていた可能性がある。裁判で検察は、SがCD―Rのデータを添付して上司に送ったメールを証拠として提出しているからだ。

 本誌は、同研究所に①単価表データを得る活動は社としての方針か、②自社製品の積算ソフトに、不正に入手した単価表データを反映させたか、③事件化した自治体以外でも単価表データを得る活動を行っていたか、など計8項目にわたり文書で質問したが、締め切りの11月25日を過ぎても回答はなかった。

 川崎町の事件から類推するしかない。河北新報2021年12月5日付によると、有罪となった同研究所社員は《「予想した単価と実際の数値にずれがあり、クレーム対応に苦慮していた。これ(単価表)があれば正確なデータが作れる」と証言。民間向け積算ソフトで全国トップクラスの社の幹部だった被告にとって、他市町村の発注工事の価格積算にも使える単価表の情報は垂ぜんの的だった》という。積算ソフトにデータを反映させていたことになる。

 一方、田村市内のある建設会社役員は「積算ソフトの精度は向上し、製品による大きな差は感じない。逮捕・有罪に至る危険を冒してまで単価表データを入手する必要があるとは思えない。事件に関わった同研究所の社員たちは『自分は内部情報をここまで取れるんだぞ』と営業能力を示し、社内での評価を高めたかっただけではないか」と推測する。

 事件は、全国展開する積算ソフト会社が、地縁関係が強い地方自治体の職員と地元建設業者をそそのかしたとも受け取れるが、だからと言って田村市は「被害者面」することはできない。公判で護被告と和樹被告は「入札予定価格を懇意の業者に教えることが田村市では常態化していた」と驚きのモラル崩壊を証言しているからだ。

 全国で熾烈な競争を繰り広げる積算ソフト会社が、ぬるま湯に浸かっていた自治体に狙いを定め、情報を抜き取るのはたやすかったろう。川崎町や田村市以外にも「カモ」と目され、狙われた自治体があったと考えるのが自然ではないか。同市の事件が氷山の一角と推察される所以である。

【田村市・贈収賄事件】第1弾の記事は下記です。

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