赤字額県内最大の常磐線いわき―原ノ町間

赤字額県内最大の常磐線いわき―原ノ町間

 JR東日本は昨年10月29日、利用が少ない線区の経営情報を公表した。それによると、県内では常磐線のいわき駅―原ノ町駅間が最も赤字額が大きかったという。一方で、このリリースを見て、過去に指摘されていたある問題を思い出した。

Jヴィレッジ駅新設の経緯を再検証

常磐線いわき―原ノ町間 地図

 今回のJR東日本のリリースでは、2023年度実績で1日の平均通過人員が2000人未満の線区の収支状況が開示された。それに該当するのは36路線72区間で、2023年の34路線、62区間から増えた。なお、昨年は2019年度実績に基づく公表だった。平均通過人員のデータが更新されたことで、該当路線・区間が増えた格好だ。

 県内では常磐線、水郡線、只見線、磐越西線、磐越東線の5路線12区間が該当する。詳細は別表の通り。赤字額が最も大きかったのは、常磐線のいわき駅―原ノ町駅間の31億2300万円、次いで水郡線の磐城塙駅―安積永盛駅間の10億6400万円、磐越東線の小野新町駅―郡山駅間の10億0600万円などとなっている。そのほか、2011年の新潟・福島豪雨の影響で会津坂下駅―小出駅間が不通となり、2022年10月に全線再開通となった只見線は全区間が該当している。

県内の対象路線・区間

路 線区 間赤字額平均通過人員
常磐線いわき―原ノ町31億2300万円1731人
水郡線常陸大子―磐城塙5億2100万円147人
磐城塙―安積永盛10億6400万円839人
只見線会津若松―会津坂下4億4200万円987人
会津坂下―会津川口8億6500万円206人
会津川口―只見1億6800万円103人
只見―小出9億0000万円121人
磐越西線会津若松―喜多方7億8700万円1534人
喜多方―野沢9億7500万円398人
野沢―津川9億8200万円102人
磐越東線いわき―小野新町7億3100万円216人
小野新町―郡山10億0600万円1896人


 常磐線のいわき駅―原ノ町駅間はJR東日本全体でも3番目に赤字額が大きい区間だった。同区間は東京電力福島第一原発事故の避難指示区域を含んでおり、大部分は事故後に不通となっていた。中でも、富岡駅―浪江駅間は放射線量が高い帰還困難区域を通ることから復旧作業が難航していた。代わりに代行バスが運行されていたが、それと並行して復旧作業を進め、2020年3月に全線開通となった。

 前述したように、2023年のJR東日本の発表では、2019年度実績に基づき、1日の平均通過人員が2000人未満の線区の収支状況が公表されていた。常磐線(いわき駅―原ノ町駅)の開通前のデータが用いられていたため、対象になっていなかったのである。ただ、今回は2023年度のデータを基にしたため、新たに公表対象に加えられ、結果、JR東日本全体でも3番目に赤字額が大きい区間であることが明らかになったわけ。

 ある沿線住民は「そりゃあ、人が減ったんだから、電車に乗る人も減るでしょう」という。

 まさにその通りで、いわき市は別として、それ以外の沿線自治体、広野町、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、南相馬市は、旧緊急時避難準備区域を含めて、すべて避難指示区域に指定された。現在は帰還困難区域(復興拠点区域外)を除いて解除されているが、実人口は激減している。一例を紹介すると、浪江町が約2万人から約2000人、富岡町が約1万6000人から約2500人という具合だ。

 今回公表されたJR東日本のデータによると、いわき駅―原ノ町駅の1987年の1日の平均通過人員は7029人。原発事故直前(2010年)がどのくらいだったかは示されていないが、いまより多かったのは間違いない。

 ここで1つ指摘しておかなければならないのは、人口減少に伴い、乗客が減ることは容易に想像できた中、駅を含め、周辺の環境整備などに多額の国費が投じられたこと。その是非については、本誌でもたびたび指摘してきたが、端的に言うと、必要以上だったのではないか、ということに尽きる。

浪江町民の指摘

Jヴィレッジ駅
Jヴィレッジ駅

 一方で、今回のリリースを見て、過去に浪江町民が指摘していたあることを思い出した。

 「今度、Jヴィレッジ駅を新設するらしいが、双葉地方町村会でその整備費用の一部を負担することになるという。となると、浪江町も負担することになるが、浪江町民にとってはJヴィレッジに駅ができても何の恩恵もない。そもそも、これだけ住民が減っている中で、使う人がいるのか」

 サッカーナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」は、双葉郡復興のシンボル的な位置付けとされ、避難指示解除が進む中で、より利便性を高めるため、Jヴィレッジ付近への駅新設が議論されるようになった。2017年に双葉地方町村会が県に対して要望し、同年、JR東日本、県、双葉地方町村会による3者協議の場が設けられた。そこでの協議で設置が決まったわけだが、整備事業費約15億円は、この3者で3分の1(5億円)ずつ負担することになった。それが2018年のことで、先の浪江町民の指摘はそのころに耳にしたもの。

 その時点では、双葉地方町村会の中での負担割合は明かされていなかったが、浪江町民から「われわれには何の恩恵もないのに、浪江町も負担しなければならないのか」との声が出るのも必然だった。

 あらためて確認したところ、負担割合はJヴィレッジが立地する広野町と楢葉町で4億円、残りを人口割で負担することになったが、常磐線沿線でない川内村と葛尾村の負担は軽めに設定されたという。すなわち、浪江町の負担は数千万円ということになる。整備費全体からしたら、大きな金額ではないが、自身に恩恵がないものに対して、負担があったことには変わらない。

 なお、負担を求められたのは駅整備にかかる部分のみで、利用者が少なく赤字が発生していることに対して、何らかの追加負担を求められることはないという。とはいえ、せっかく多額の費用をかけて新駅を整備したのだから、利用促進が求められる。それは多額の費用を投じて復旧された避難指示区域内の駅にも同じことが言える。

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