公金詐取の富樫縫製社長は不起訴【ふくしまの事件簿#26】

公金詐取の富樫縫製社長は不起訴【ふくしまの事件簿#26】

 新型コロナ下に「水着素材マスク」で有名になった二本松市の富樫縫製(富樫三由社長)が、感染拡大時に支給された国の雇用調整助成金1億0168万円余りを不正受給していた。虚偽の申請書類を作成し助成金をだまし取ったとして、詐欺や詐欺未遂に問われている経理担当の女性パート従業員に福島地裁は7月14日、懲役2年6月(求刑懲役5年)の実刑を言い渡した。女性が「経営を立て直すためにやった」と釈明した一方、社長自身は不起訴となっている。同社の再建と合わせて社長の去就に地元の注目が集まっている。

実刑を受けた古参女性経理の浅慮


 裁判で、詐欺罪に問われていることに異議はあるかと問われた女性は、当初は「だまし取ろうとしたつもりはありません。会社を立て直そうと思っていました」と発言。弁護人と話し合って撤回し、「間違いありません」と認めた。証人尋問や被告人質問を重ねるにつれ、富樫社長(77)が助成金を申請するよう指示したことや社長のパワハラ気質が明らかになった。富樫社長は詐欺容疑で逮捕されたものの、不起訴となり釈放。今後は富樫社長が起訴されるかどうかが焦点となる。

 今回、有罪判決が言い渡されたのは経理を担当していたパート従業員の遠藤里美氏(68)=福島市=。公判で遠藤氏が語ったことによると、「まだ解雇の連絡は受けていない」という。パート従業員のため、雇用を更新されないことをもって富樫縫製を退社したと捉えている。

 検察側は、遠藤氏が2022年から23年にかけて新型コロナ禍にともなって交付された雇用調整助成金を9回に渡ってだまし取ろうとし、うち8回で計1億0168万円余りを金融機関の口座に振り込ませて実際にだまし取ったとした。23年5月にだまし取ろうとした最後の助成金616万円は、犯行が露見し未遂に終わった。検察側の冒頭陳述や遠藤氏の証言によると、富樫縫製は助成金詐取に手を染める2年前の2020年ごろから赤字が続き、資金繰りが悪化していたという(別表参照)。遠藤氏は富樫社長の指示を受けて犯行に及んだと明かした。福島市の社会保険労務士法人に雇用調整助成金の申請手続きの代行を依頼した。

 雇用調整助成金は、会社側都合で従業員を休業させた場合に休業補償を補填するために支払われる。社会保険労務士は遠藤氏に、従業員の休業を労働局に届け出たにもかかわらず業務を続けていれば不正受給に当たり、立ち入り検査や罰則があることを説明していた。

 ある職員の供述では、2022年から1年間は会社側から理由を告げられずに「タイムカードを押さないように」と指示があった。実際の業務時間より少ない時間が打刻されたタイムカードと申請書を二本松公共職業安定所(ハローワーク二本松)に提出し、不正受給した。遠藤氏によると、助成金を受け取ったにもかかわらず従業員が働いていたため、富樫社長に「休ませないといけないんですよ」と説明したが、返事はなかったという。

 発覚したきっかけは元職員の雇用相談だった。富樫縫製を退職後に別の助成金を申請しようとハローワーク二本松に相談した際、福島労働局に届け出ていた休業期間に実際は勤務していたことが判明。ハローワークから情報提供を受けた同労働局が調査し、2023年11月29日付で支給決定を取り消す処分を科し、同12月に告訴状を提出した。富樫縫製は返還の意思を示していたというが、今も未返還が続く。

 遠藤氏には実刑が言い渡された一方、富樫社長は不起訴処分とな
った。だが、社長の責任が不問になったわけではない。遠藤氏によると、助成金の申請は富樫社長の指示を受けて行い、不正受給の可能性を指摘しても改めなかったからだ。遠藤氏は富樫縫製に40年勤めており、「富樫社長は仕事のイロハを分からない自分に厳しくもいろいろ教えてくれた」という。遠藤氏は恩義を感じていたわけだが、証人として出廷した遠藤氏の姉は

 「別会社の社長から『富樫社長は従業員を怒鳴りつけて人の話を聞く耳を持たないが、あなたの妹さんは大丈夫か』と心配された」と富樫社長のパワハラ気質を指摘した。

 「富樫社長は唯我独尊で従業員に強く当たるとの噂を聞いており、妹の身を案じていた。妹が一人暮らしをしていたアパートを訪ねると、部屋は散らかっており、身だしなみも乱れていた。あまり眠れていないようで、使いもしないジップロックが大量に干されていたのが異様だった。今振り返ると、妹が不正に従っていた時だ。普通ではない心理状態だったのだと思う」(遠藤氏の姉)

 カリスマ経営者ゆえの強圧的な態度で、従業員は不正に「ノー」と言えない雰囲気だったことが推察できる。富樫社長にとって、遠藤氏は信頼できると同時に都合のよい従業員だったようだ。遠藤氏は定年退職する予定だったが、後釜が決まらずパート雇用で1日5~6時間経理業務を続けた。今住んでいる福島市のアパートは技能実習生を受け入れ、住まわせるための寮として富樫社長が整備したが、使わなくなったので遠藤氏が譲り受けたという。

 遠藤氏は富樫社長からは「いい年してこれくらいのことも分からないのか」とよく叱責されたが、もっともな指摘だと思い従っていたという。富樫社長は「働かざる者食うべからず」「人間には勤労の義務がある」が口癖だった。

 社長の指示に従い、自分は利得を得ていないとはいえ、1億円以上の公金をだまし取ったのは重罪だ。遠藤氏は「判決が出た後は、もしかなうならボランティア活動などをして社会に貢献したい」と法廷で語っていたが、一審判決では2年6月の懲役刑を言い渡された。2週間の間に年齢や労力を考えて控訴するかどうか、判断を迫られる。

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