郡山市田村町の守山地区で民生委員の改選を巡り、推薦を担当する男性区長(80代)が委員の女性(70代)に続投意思を確認せずに退任させたことがトラブルになっている。市は委員の続投意思を確認せずに区長が退任を決めたことは「道義的に問題」とし、委員の意向を確認する手続きの徹底を求めた。区長は取材に「委員に再任させたくなかった」と言い、続投意思を敢えて確認しなかったことを認めた。当人が知らないうちに退任を既成事実化するやり方に元委員の女性は憤っている。
説明なしの「強制退任」に憤る元委員
民生委員とは、民生委員法に基づき厚生労働大臣が委嘱する非常勤の地方公務員。無報酬で活動し、任期は3年で再任も可能。人口減少・高齢化が進み、なり手不足なこともあり再任は珍しくない。全国で約23万人が活動している。
住民の生活上のさまざまな相談に応じ、行政や福祉への「つなぎ役」を果たす。高齢者や障害者世帯の見守りや安否確認が主な業務となる。委員は自治体ごとに選ばれ、郡山市では方部ごとに開かれる「民生委員推薦準備会」で候補者を選定。それを基に市の全域をまとめる「民生委員推薦会」が最終決定する。実質、方部ごとの推薦準備会が委員を選ぶ。
推薦準備会は方部の下にある各地区の区長や民生委員、社会福祉協議会長、市役所支所の担当者などで構成する。地域事情に明るい区長が候補者に打診して名簿を作り、委員を推薦するのが通例だ。
昨年12月は民生委員の全国一斉改選期だったが、郡山市では改選を巡って推薦者である区長の傲慢な手法に委員から異議の声が上がった。
トラブルが起きたのは郡山市南東部の山間部に位置する田村町守山地区。行政区分上は郡山市―田村町―守山地区の順に小さくなる。12年間民生委員を務めた女性Aさん(70代)は、守山区長のB氏(80代)から説明もないまま退任を勝手に決められたという。
Aさんが経緯を振り返る。
「私が身に覚えのない退任を迫られていることを知ったのは改選を2カ月後に控えた昨年10月のことでした。民生委員は方部ごとに協議会を設け、私は当時田村方部の会長を務めていました。会長を集めた会議が毎月開かれます。その日は民生委員の改選が発表される日で、資料を見ると、私の名前の後ろに『退任』と書かれていて驚きました。私は民生委員を続けたいと思っており、退く意思を示したことはありません。区長からも連絡がなかったので再任されるものと思っていました」
席上で「本人に確認しないまま退任になることがあるのか」と聞くと、郡山市内の民生委員活動を所管する市保健福祉総務課の職員が異常を察し、詳細を聞いてきた。市は田村方部の民生委員の推薦を担う守山区長のB氏に問いただした。B氏はAさんに続投意思を確認しないまま、勝手に退任扱いにしたことを認めた。
B氏が敢えてAさんに続投意思を確認せず、退任を既成事実化するよう画策していた疑いも濃厚になった。田村方部の民生委員協議会長を務めるAさんは、役職上、本来であれば次期委員を決める推薦準備会に委員の1人として参加する立場だ。推薦準備会は昨年6月にB氏を委員長として開かれた。だが、B氏はAさんに委員を委嘱しなかった。郡山市内の他の民生委員推薦準備会35方部は、おしなべて民生委員協議会長であれば自動的に委員にしていたにもかかわらず。しかも、B氏からAさんには推薦準備会を開いたことも知らされなかった。
身に覚えのない「退任」を知った後、AさんはB氏に電話で「なぜ継続意思の有無を確認しなかったのか」と聞いた。すると「長くやっているから辞めるのかと思った」と悪びれずに答えたという。
意思確認がないまま退任扱いされた手続きは無効ではないか。Aさんは市に撤回を求める書面を送った。結果から言うと退任の撤回は認められなかった。市保健福祉総務課は次のように回答した。
「民生委員法をはじめとする各種法令では、現任民生委員の継続意思を『確認しなければならない』と明記された規定はない」
一方で、
「民生委員として地域のためにご活動いただいた方々への道義的な配慮及びトラブル防止のため、意思の確認は当然行われるべきものと認識している」(同)
B氏は推薦者として当たり前のことをしなかったことになる。市は2025年4月にB氏ら民生委員推薦準備会の委員長を対象に説明会を開いており、現任民生委員に意思の確認をするよう依頼していた。
市は最後に、「現任民生委員に対する継続意思の確認についてはこれまでも担当課として依頼してきたが、本事案を踏まえ推薦準備会の事務説明会資料で明文化する」とAさんに約束した。退任が覆せない以上、Aさんは委員の立場にこだわりはないが、打診もなく辞めさせられたことが許せないという。
B氏にはAさんに内情を伏せたまま退任させようとした意図がうかがえるが、実際どうなのか。地区の集会所である守山会館にいるB氏を訪ねた。B氏は「Aを辞めさせたかった」と答えた。
「クビにしたんじゃなくて任期満了。本人が続けたくたって地域から反対があればやらせておけない。説明がなかったと批判されるが、任期満了に説明は必要ない。内閣総辞職と一緒。総理大臣が国務大臣に辞めさせる理由を教えるのか?」(B氏)
意思疎通が不可欠

B氏はAさんに悟られぬように敢えて続投意思を確認しなかったことを認めた。辞めさせたかった主な理由は、Aさんが守山会館で会計業務を担当する中で上役に楯突いたり、民生委員業務で訪問家庭から苦情があったことだという。
Aさん自身は「業務の中で強い口調になったのかもしれないが、お互いに言い合ったこと」と反論。逆に上役からは「今度の民生委員協議会長は女なのか」と軽口を叩かれ、下に見られていたという。民生委員業務での苦情は、「訪問家庭の事情ゆえのもので、私の問題ではないと市には理解してもらっている」とする。
仮にAさんが適任でないと判断されたとしても、市は説明がないまま勝手に退任扱いしたB氏を「道義的に問題がある」としている。再任しない方針を事前にAさん本人に伝えるべきでないかと聞くと、B氏は「辞めろと言って辞めるような女ではない」と吐き捨てた。
「事前に話したらゴタゴタしてしまうので守山地区だけで収めようと思った。Aは退任が不当だと市に訴え出ているようだが、私から言わせると自分の恥を自分でさらけ出しているようなもの。民生委員は本人の意向でなく地元が選んでいる。田村や守山のやり方がおかしいのではなくAがおかしい」(B氏)
問題の根本はAさんに隠したまま退任を既成事実化したB氏にある。市が言うように住民同士の意思疎通が不可欠。B氏は「不当だと訴えたAが恥をかく」と言ったが、本当に恥をかいたのは、当たり前の手続きを無視して事を進めたB氏、トラブルをきっかけに、市内外から好奇の目で見られる守山地区だ。

























