(2022年10月号)
会津坂下町は老朽化している役場本庁舎の新築事業を進めている。もともとは2017年度から検討を行い、2022年度に完成のスケジュールで進められていたが、2018年9月に「財政上の問題」を理由に事業延期を決めた。それから4年が経ち、今年度から再度、庁舎建設に向けて動き出したのだが、町内では賛否両論が上がっている。
「4年前の決定」継続派と再考派で割れる
会津坂下町役場本庁舎は、1961年に建設され老朽化が進んでいること、1996年に実施した耐震診断結果で構造耐震指標を大きく下回ったこと、本庁舎のほかに東分庁舎・南分庁舎があり、機能が分散して不便であること等々から、2017年度から新庁舎建設を検討していた。その際、国の補助事業である「市町村役場機能緊急保全事業」を活用すること、そのためには2020年度までに着工することを条件としていた。
町は2017年に、町内の社会福祉協議会や商工会、観光物産協会、区長・自治会長会の役員などで構成する「会津坂下町新庁舎建設検討委員会」を立ち上げ、調査・検討を諮問した。それに当たり、最大のポイントになっていたのは建設場所をどこにするか、だった。
同委員会では、①現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地、②旧営林署・保健福祉センター・中央公園用地、③南幹線南側町取得予定県有地――の3案を基本線に検討を行い、2018年2月、「現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地が適地である」との答申をした。
同年3月議会では、同案に関する議案が提出され、賛成13、反対2の賛成多数で議決した。
ところが、同年9月、町(齋藤文英町長=当時)は「事務事業を見直し、将来の財政状況を算定したところ、計画通り進めれば住民サービスに大きな影響を及ぼすことが予想されることになった。財政健全化を重視し新庁舎建設延期という重い決断をした」として、庁舎建設の延期を決めた。
それから4年。町は今年度から役場内に「庁舎整備課」を新設し、庁舎建設事業再開を決定した。今年度予算では関連費用として約6700万円が計上されている。
そんな中、5月12日付で町民有志「まちづくりを考える青年の会」(加藤康明代表)から、議会に対して「会津坂下町役場新庁舎の建設場所について様々な現状を加味し再度協議することを求める請願」が提出された。内容は次の通り。
× × × ×
町民にとって関心の高い新庁舎の建設については、これまで様々な議論がなされてきました。特に建設場所については平成30(2018)年2月15日に会津坂下町新庁舎建設検討委員会から「現本庁舎・北庁舎、東分庁舎及び東駐車場用地」を適地として選定した旨の答申がなされ、同年、町議会第1回定例会において、議案として提出され賛成多数で可決されました。
この流れを受け、昨年度までに用地買収や移転補償などのスケジュールが進捗していると聞き及んでおり、これについては本年3月において新聞報道等により周知の事実となりました。
しかしながら、この決定が既に4年前のものとなっており、その間、町における公共施設や公有地の状況の変化、社会情勢の変化に伴う民間施設や商業施設の状況の変化などが見られました。
会津坂下町新庁舎建設検討委員会からの答申書においても、選定理由の一つとして「中心市街地や周辺まちづくりへの寄与」といった観点が挙げられておりますが、この観点から新庁舎の建設場所を考えるにあたって、上記の様々な現状の変化を加味し、現状のままでよいか再度協議することは必要不可欠と考えます。
今後の会津坂下町のまちづくりを担う青年世代の多くがこの議論に関心をもっております。既に決定され、議決された内容ではありますが、下記の事項について強く請願いたします。
1、会津坂下町役場新庁舎の建設場所について様々な現状を加味し再度協議すること。
× × × ×
同請願は6月議会で、総務産業建設常任委員会に付託され、請願者が同委員会で意図や内容を説明した。委員会では請願は採択された。
議員の賛成・反対意見
その後、本会議に諮られ、以下のような賛成・反対討論があった(「議会だより 206号」=7月25日発行より)。
賛成討論
渡部正司議員 議決の建設場所は、国からの財政支援措置と平成32(2020)年度までの着工が条件で決められたものであり、建設延期によって候補地選定の前提は崩れた。改めて協議すべきであり、本議案に賛成する。
小畑博司議員 庁舎建設が計画され、そのために全国各地を行政調査したが、建設コストは主たる課題にはならなかった。検討委員会の結果を受けて建設場所を決議した流れも、財政状況を反映したものではなかった。提案した根拠が違ったままの決議をそのままに進めることは説明責任が果たせない。本意見書は採択すべき。
反対討論
酒井育子議員 町民を代表した建設検討委員会の答申を無視し、また、提出議案、土地買収・跡地取り壊し料の予算を満場一致でした議会議決を無視している。自主財源の少ない当町、未来を担う子供たちに「負」を残してはいけない観点から反対。
五十嵐一夫議員 建設場所は4年前に議決済で、周辺に多少の社会情勢の変化があるが、その後にこの決定済の場所に欠陥が生じたわけではない。再度位置について議論をすることは、混乱を招くだけで採択・意見書提出に反対する。
山口亨議員 請願内容的には建設場所は「現本庁舎、北庁舎、東分庁舎、東駐車場用地」であることに反対ではないとのことで、単に話し合いを求めるというものだった。庁舎建設場所は、平成30(2018)年第1回定例会で議決しているものである。もし、この請願を可決すれば、町民に対しあいまいな話が独り歩きしてしまう可能性がある。現在、旧江戸鮨の解体工事が始まろうとしている。更には、令和7(2025)年4月には新庁舎での業務開始とのスケジュールも組まれている。あいまいなメッセージを町民に与えるべきではない。よってこの請願には反対。
これら討論の後、採決が行われ、賛成8、反対5の賛成多数で同請願は採択された。これを受け、議会は前段で紹介した請願書の内容と同様の意見書を、町執行部(古川庄平町長)に提出した。
請願者である「まちづくりを考える青年の会」の加藤康明代表に話を聞いた。
「町内の仲間内での飲食時や雑談の中で、『延期になっていた庁舎建設事業が再開されることになったが、いま建てるべきなのか』、『財政的な問題が理由で延期になったが、それをクリアできたとは思えない』といった話が出ました。私自身、最初に庁舎建設の話が出たころから2年前まで行政区長を務めていましたが、区の要望として、例えば街灯を増やしてほしいとか、子どもたちの通学路で歩道がないところがあるから何とかしてほしいとか、生活に直接関係する部分について、町にお願いしてきましたが、そのほとんどが『予算の問題』で実現しませんでした。そんな状況で庁舎を建てられるのか、と。さらには、この4年間で町内の生活環境は大きく変化しました。そんな中で、4年前の計画をそのまま進めていいのかと思い、請願を出しました」
加藤代表によると、「建設場所が現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地となっていること自体に反対ではない」という。
ただ、この4年間で坂下厚生病院が新築移転したこと、坂下高校が大沼高校と統合して会津西陵高校になり、同校は旧大沼高校の校舎を使っているため、事実上、坂下高校がなくなったこと、新築移転した坂下厚生病院の近くに、今年11月に商業施設「メガステージ会津坂下」がオープン予定であること――等々から、「生活環境が変わっていることを考慮すべき」(加藤代表)というのだ。
さらには、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻などの影響で、建設資材が高騰しており、4年前と比べるとコスト増加は間違いない。
「これだけ、社会情勢が変わっているのに、4年前の計画をそのまま進めることが正しいのか。もう一度、議論してもらいたいというのが請願の趣旨です」(同)
懇談会の模様
町は議会からの意見書を受け、新庁舎建設検討委員会を立ち上げ(※2017年に立ち上げた委員会が解散されておらず、正確には「再開」だが、委員に変更等があった)、7月から検討を再開した。その中で、今後、町民の声を聞くために、まちづくり懇談会、新庁舎建設に関するアンケートを実施することになった。
それまで、町は4年前に決まった現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地に新庁舎を建設する考えだったようだ。その証拠に、昨年8月に東分庁舎・東駐車場用地に隣接し、競売物件になっていた寿司店の土地・建物を取得、今年5月から解体工事を進めていた。しかし、請願・意見書を受けて、場所を含めて再考することにしたのだ。
「これまで(4年前)の議論がゼロになったわけではありません。それも踏まえて、請願・意見書を受けて町民の声を聞くために、懇談会やアンケートを実施することにしました。3月時点で議会には2024年度内の完成目標というスケジュールを示しましたが、(請願・意見書を受けての再考で)少し遅れることになると思います」(町庁舎整備課)
懇談会は9月15日から30日の日程で、町内7地区で開催された。本誌はこのうち9月20日に開かれた坂下地区(中央公民館)での模様を取材した。その席で配布された資料には「請願・意見書を尊重し、状況の変化などを鑑みて、建設場所を含めて総合的に判断することにしました。そのための判断材料として、懇談会やアンケートなど、幅広く町民の声を聞く機会を設けることにしました」と記されていた。
懇談会では、「4年前に決まったのに、なぜ再考しなければならないのか」、「こんなことをしていたら、いつまで経ってもできない。早く建設すべき」といった意見が出た。中には、「議会は4年前に自分たちが決めたことを覆すとはどういった了見か。しかも、今年3月議会では関連予算を可決しており、わずか3カ月で方針転換した」との指摘も。
これには、懇談会に出席していた議員(請願に賛成した議員)が前段で紹介した請願に対する賛成討論と同様の説明を行った。
古川町長は「4年前の議決も、今回の意見書も、どちらも重く受け止めている。そんな中で、あらためて意見を聞くことにしたのでご理解願いたい」旨を述べた。
同地区はまちなかで役場に近いエリアということもあり、「いまの場所で早急に進めてほしい」といった意見が目立った。ただ、それ以外の地区では「4年前の計画をそのまま進めるのではなく、もっと深く議論すべき」といった意見も出たようだ。つまりは、役場に近い地区とそうでない地区では温度差がある、ということだ。
依然厳しい財政
懇談会では事業延期の原因となった財政面についても説明があった。それによると、町の貯金である財政調整基金、減債基金、行政センター建設整備基金の合計は、2017年度末が約3億円だったのに対して、昨年度末は約13億8000万円に増えた。一方、町の借金である町債残高は2017年度末が約97億円、昨年度末が約77億円。昨年度の実質公債費比率は11・0%、将来負担費比率は49・1%で、この数年で少しずつ改善されてはいるものの、全国市町村の平均値と比べると高い数値となっている。
当日配布された資料には、「財政健全化の取り組みを進めたことで、各種財政指標は改善の傾向にあります。しかし、令和2(2020)年度の全国市町村平均値と比較すると依然として悪い状況ですので、今後の新庁舎建設に備えるためにも、より健全な財政運営に努めます」と書かれている。
10月には町民アンケートの実施を予定しており、町庁舎整備課によると、「年代や地区を分けたうえで、無作為抽出で15歳以上の1000人を対象に実施する予定」という。懇談会とアンケートを踏まえて最終的な決定をしていく方針だが、やはり最大のポイントは場所ということになろう。すなわち、4年前に決めた現本庁舎・北庁舎・東分庁舎・東駐車場用地なのか、それ以外か。
ちなみに、懇談会で配布された資料にはあくまでも1つの目安として、以前の決定地、南幹線沿い県有地、旧坂下高校跡地、旧厚生病院跡地が示されている。
町内では「場所は4年前に決まったところでいい。早急に進めるべき」といった意見や、「場所を含め、もう一度、深く議論すべき」、「そもそも、いま建設を行うべきなのか」といった意見が出て紛糾しているわけだが、1つだけ言えるのは、役場に直接的に関わっている人はともかく、庁舎が新しくなったところで、町民の日々の生活が豊かになるわけではない、ということ。それを指摘して締めくくる。