東京電力福島第一原発事故の収束作業で出た汚染水から特定の放射性物質を取り除いた「ALPS処理水」の海洋放出差し止めを国と東電に求める訴訟の第2回期日が6月13日、福島地裁(小川理佳裁判長)で開かれた。原告は漁業者や一般市民ら363人。国は原告に差し止めを求める適格性がないとして却下を、東電は棄却を求めている。
東電が拒む傍聴席への丁寧な説明
第2回期日は東電が主張するターンだ。国から海洋放出の許認可が得られた経緯を説明し、「原告は海洋放出で生じる権利の侵害を具体的に主張していない」「排出基準を大幅に下回る放射性物質濃度なので、漁業権行使は疎外せず、一般公衆にも健康影響を及ぼす具体的な危険は生じさせない」と述べた(5月31日付、東電の答弁書より)。
原告と被告双方の主張は、民事事件を特定し、裁判所で手続きをすれば誰でも閲覧できる。複写や撮影は禁止。パソコンを持ち込み文章を打ち込んで書き写すことはできるが、全文の打ち込みは複写に当たるのでメモ程度だ。手続きには身分証明書と認印、150円分の収入印紙が必要。事件の特定は裁判所が付す事件番号、あるいは原告と被告双方の名前が分かれば良い。ALPS処理水の差し止め訴訟の事件番号は「令和5年(行ウ)第11号、同第16号 認可処分取消等請求」。
本誌記者は裁判を傍聴したが、訴訟資料の閲覧手続きを取った。法廷での東電側の主張が分かりにくかったからだ。民事裁判は当事者同士の手続きだが、争われているのは賛否が分かれるALPS処理水放出の是非だ。裁判は公開。傍聴席が原告(漁業者や一般市民)ばかりだったとしても、法廷では国民への説明を意識した主張を行うべきだ。
法廷には傍聴人が見られる大型モニターが設置されている。原告側はプレゼンテーションを映し出して主張を伝えたが、被告の東電は裁判官と原告に資料を見せるだけだった。東電の代理人弁護士は40分以上も答弁書を抑揚なく読んだ。
傍聴席は原告たちが傍聴を希望し、抽選を経て満員。我慢ならなかったのか、傍聴席からは「私は見られないよ」と声が上がった。小川裁判長が「傍聴人は発言しないように」と注意した。
本誌記者は東電の答弁書を読んだが内容は隠すようなものではなかった。「海洋放出による具体的な危険は生じない」と従来の主張を繰り返しているだけだ。プレゼンテーションを用意し、現に原告と裁判官に見せているのだから、あとは傍聴席に見えるように映すかどうかの問題。東電は説明する意思が本当にあるなら、公開の裁判の場でも実行してほしい。