• 【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

    【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

     昨年11月下旬、南会津町の福島県南会津合同庁舎で県職員とみられる中年男性が死亡していたという。同庁舎で何が起きていたのか、一部の町民の間でウワサになっている。  町民の話を総合すると、職員が亡くなっていたのは11月22~23日で、朝、出勤した職員が発見した。「中年男性が土壌などを調べる部屋で倒れていた」、「パトカーや救急車が出入りして車を囲んでいた」、「現場の状況から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い」という。  同庁舎には南会津地方振興局、南会津農林事務所、南会津建設事務所、南会津教育事務所が入っている。同庁舎を管理している振興局に確認したところ、「(亡くなった職員がいるという)話があったのは事実」と認めたものの、年齢や性別、所属部署、死因については「職員や遺族のプライバシーを尊重する観点」から詳細な説明を避けた。  「仮に何らかの事故で亡くなっていたり、殺人事件などに巻き込まれたとしたら、周りの住民は不安になる。行政機関として、ある程度は公表する義務があるのではないか」とただしたところ、「今回は公表する事例には当たらないと判断した」と話した。こうした回答から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い。  職場を最期の場所に選んだのには、どんな背景があったのか。組織として改善すべき問題があった可能性も考えられるが、同振興局は口を閉ざし、詳細も報道されていない。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 計量法抵触事例を公表していなかった柳津町

    計量法抵触事例を公表していなかった柳津町

     昨年11月上旬、本誌編集部に柳津町の水道メーターに関する情報が寄せられた。  「2018年ごろに町内の水道メーターを一斉更新したが、それまでは10年以上経過したものが設置されていた。法律では検定有効期限が8年と定められている。普通は少しずつ更新するものだが、内部の指摘を受け慌てて一斉更新したらしい。町民には公表していないが、法に抵触していた事実を伏せたままにしているのはまずいのではないか」  複数の町民によると、同町では民間団体などに検針業務を委託しており、一般住民でも水道メーターに触れる機会があるという。情報提供者は名前を名乗らなかったが、何らかの形で水道メーターを見ていた町民と思われる。  計量法施行令では水道メーターの検定有効期限が8年と定められており、交換を怠った場合、「6月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされている。  情報提供の内容は事実なのか。柳津町に問い合わせたところ、建設課上下水道係の佐藤雄一係長からファクスで回答が寄せられた。それによると、「有効期限が切れているものがあった事実は認識しております」という。  どういうことか。同町では2017年に1200基分を更新するため、当初予算で462万6188円の予算を計上し、更新を行っていた。  同町ホームページに掲載されている同年1月1日現在の町世帯数は1307世帯。町内の大半の水道メーターを一気に更新しようとしていたことになる。  ところが、2018年8月、県計量検定所の立入検査時に有効期限が切れているもの(前年に交換されていなかったもの。基数は不明)が一部あることが判明。町議会9月定例会で予算計上し、同年12月までに交換を行った。翌19年1月には再度県計量検定所の立ち入り検査を受け、是正確認を受けた。  実は水道メーターの有効期限切れは全国で起きている。例えば、昨年10月には、山口県下関市で、委託業者による取り換え業務が遅れ、1294戸分の水道メーターが有効期限切れとなった。いずれの場合も当局が記者会見などで公表しきちんと謝罪している。ところが、柳津町は「(県計量検定所に)改善計画書及び改善報告書を提出したため、公表は必要ないと思った」(佐藤係長)という。  水道業関係者によると「有効期限切れのメーターは回りにくいし、ゴムの部品などが劣化するので、正確な水道料金が算出されていなかった可能性が高い」と語る。つまり、町民にも影響する問題なのだが、町は公表していなかったことになる。  水道業関係者によると、会津地方の町村では水道関係部署は担当者1~2人で、専門知識を持つ職員も少ないという。水道メーター更新の作業が計画通り進まない面があったのかもしれない。  仮にそうだとしても、周囲の職員は、有効期限切れの事実を公表しないことに違和感を抱かなかったのか。議会はチェックできなかったのか。疑問は多い。  県計量検定所の担当者によると、「有効期限切れなどが分かった場合も、いきなり罰則の対象になることはなく、まずは当検定所から速やかに更新するように働きかけます」という。そもそも数年前に起きた案件で、すでに解決済みでもある。それでも、計量法違反状態が発生していたのは事実。そのことを自ら公表して反省・検証しないと、また再び同じ事態を招くのではないか。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 完成した田村バイオマス発電所

    田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

     本誌昨年2月号に「棄却された田村バイオマス住民訴訟 控訴審、裁判外で『訴え』続ける住民団体」という記事を掲載した。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所に関連して、周辺の住民グループが起こした住民訴訟で昨年1月25日に地裁判決が言い渡され、住民側の請求が棄却されたことなどを伝えたもの。  その後、住民グループは昨年2月4日付で控訴し、6月17日には1回目の控訴審口頭弁論が行われた。裁判での住民側の主張は「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しており、それに基づいて市は補助金を支出している。しかし、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問があり、市の補助金支出は不当」というものだが、原告側からすると「一審ではそれらが十分に検証されなかった」との思いが強い。  ただ、二審では少し様子が違ったようだ。  「一審では、実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターがきちんと機能しているかを確認するため、詳細な設計図を出してほしいと言っても、市側は守秘義務がある等々で出さなかった。フィルター交換のチェック手順などの基礎資料も示されなかった。結局、二重のフィルターが本当に機能しているのか分からずじまいで、HEPAフィルターに至っては、本当に付いているのかも確認できなかった。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として、請求が棄却された。ただ、控訴審では、裁判長が『HEPAフィルターの内容がはっきりしない。具体的資料を出すように』と要求した」(住民グループ関係者)  そのため、住民グループは「二審では、その辺を明らかにしてくれそうで、今後に期待が持てた」と話していた。  その後、8月26日に2回目、11月18日に3回目の口頭弁論が開かれた。3回目の口頭弁論で、同期日までに提出された書類を確認した後、裁判長は「これまでに提出された資料から、この事件の判決を書くことが可能だと思う。控訴人から出されている証人尋問申請、検証申立、文書提出命令申立、調査嘱託申立は、必要がないと考えるので却下する。本日で結審する」と宣言した。  原告(住民グループ)の関係者はこう話す。  「被告はわれわれの様々な指摘に『否認する』と主張するだけで、何ら具体的な説明をせず、データや資料なども出さなかった。論点ずらしに終始し、二審でようやく資料のようなものが出てきたが、それだってツッコミどころ満載で、最終的には『HEPAフィルターは安心のために設置したもので、集塵率などのデータは存在しない』と居直った。裁判長は、これまでの経過から、事業者が設置したとされるHEPAフィルターが、その機能、性能を保証できない『偽物』『お飾り』であると分かったうえで結審を宣言したのか。それとも、一応、原告側の言い分を聞いてきちんと審理したとのポーズを取っただけなのか」  当初は、「一審と違い、HEPAフィルターの効果などをきちんと審理してくれそうでよかった」と語っていた住民グループ関係者だが、結局、証人尋問や現地実証は認められず、最大のポイントだった「HEPAフィルターの効果」についても十分な審理がなされたとは言い難いまま結審を迎えた。このため、原告側は不満を募らせているようだ。  判決の言い渡しは、2月14日に行われることが決まり、まずはそれを待ちたい。 あわせて読みたい 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証【福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」】

    日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

     一般社団法人・日本損害保険協会は昨年10月26日、最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表した。同マップには都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載されている。それを基に、県内ワーストとなった交差点での人身事故のケースなどを検証すると同時に、あらためて事故防止のためにどういったことを心がければいいか考えていきたい。 福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」  一般社団法人・日本損害保険協会の広報担当者によると、「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て作成したという。データは2021年のもので、毎年、同時期に更新されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、人身事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。  マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の過去5年の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数ともに年々減少傾向にあることが分かる。  一方で、2021年の人身事故2997件のうち、1653件(55・2%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。  では、実際にどこの交差点での人身事故が多かったのか。  ワースト1は、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」だった。国道49号と国道118号が交差するところだ。さらに、そこから600㍍ほど東側に行ったところにある「郷之原交差点」がワースト2タイになっている(地図参照)。  もっとも、ワースト1の「北柳原交差点」とその付近で起きた人身事故は5件、ワースト2タイの「郷之原交差点」とその付近は4件だったから、びっくりするほど多いというわけではない。 「北柳原交差点」 郷之原交差点  ちなみに、そのほかのワースト2タイは、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計6カ所。 その中から、今回はワースト1の会津若松市一箕町の「北柳原交差点」と、そのすぐ近くにある「郷之原交差点」について検証してみる。 まず「北柳原交差点」だが、国道49号と国道118号が交差する地点で、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。 「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートにも、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されている。 実際の事故事例  事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防方策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘している。  そこから東(国道49号の猪苗代方面)に600㍍ほど行ったところにあるのがワースト2タイの「郷之原交差点」。国道49号と県道会津若松裏磐梯線(通称・千石バイパス)が交わるT字路となっている。  マップのリポートには、交差点の特徴として、「東西に国道49号、南側に主要地方道会津若松裏磐梯線がそれぞれ交わる交差点であり、国道49号がカーブとなっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」とある。  事故の種別は軽傷事故が4件、事故類型は追突が2件、右折時、左折時がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「脇見等の動静不注視により、前車に追突した」、予防方策としては「運転に集中し、前車の動きや渋滞の発生を早めに見つけられるようにする」と書かれている。 ドライバーの声  普段、両交差点(付近)をよく走行するドライバーに話を聞いた。  「正直、『北柳原交差点や郷之原交差点とその付近で事故が多い』と言われても、ピンと来ない。そんなに〝危険個所〟といった認識はありませんね。ただ、いつも混んでいる印象で、当然、交通量が多ければそれだけ事故の確率も上がるでしょうから、そういうことなのかな、と思いますけどね」(仕事で同市によく行く会津地方の住民)  「両交差点に限ったことではないが、会津若松市内では県外ナンバー(観光客)をよく見る。普段、走り慣れていない人が多いことも要因ではないか」(ある市民)  「北柳原交差点は、国道49号を会津坂下方面から猪苗代方面に走行すると、下り坂になっていて見通しはあまり良くないですね。加えて、その方向に走ると、右折レーンが2つあり、本当は直進したいのに間違って右折レーンに入ってしまい、直進レーンに無理に戻ろうとしたクルマに出くわし、ビックリしたことがありました。郷之原交差点はT字路のため、左折信号があり、ちょっと気を抜いていると、それ(左折信号が点いたこと)に気づかないことがあります。その場合、後方から追いついてきたクルマに衝突される可能性が考えられます。そういったケースが事故につながっているのではないかと思います。もう1つは、両交差点に限ったことではありませんが、(積雪・凍結等の恐れがあるため)会津地方での冬季の運転はやっぱり怖いですよね」(同市をよく訪れる営業マン)  いずれの証言も、「なるほど」と思わされる内容。両交差点を通行する際はそういった点での注意が必要になろう。 「交通白書」記載の事例  ここからは、会津若松地区交通安全協会、会津若松地区安全運転管理者協会、会津若松地区交通安全事業主会、会津若松市交通対策協議会、会津若松警察署が発行している「令和3年 交通白書」を基に、さらに深掘りしてみたい。  2021年に同市内で起きた人身事故は167件で、死者1人、傷者186人となっている。2012年は633件、死者5人、傷者764人だったから、この10年でかなり改善されていることが分かる。人身事故発生件数が200件を下回ったのは1962年以来59年ぶりという。  同市内の人身事故の特徴は、「交差点・交差点付近の事故が全体の6割を占める」、「8時〜9時、17時〜18時の発生割合が高い」、「追突・出会い頭事故が全体の約6割を占める」、「国道49号での発生割合が高い」、「高齢運転者の事故が増加している」と書かれている。  実際に事故が多い交差点の状況についても記されており、当然、前述した「北柳原交差点」と「郷之原交差点」がワースト地点に挙げられている。ただ、同白書によると、両交差点での事故件数はともに6件となっており、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」に記された件数と開きが生じている。  会津若松署によると、その理由は「物件事故を含んでいることと、どこまでを交差点(交差点付近)と捉えるか、の違いによるもの」という。  同白書によると、「北柳原交差点(同付近)」の事故ケースは、右折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、出会い頭など、「郷之原交差点(同付近)」の事故ケースは追突、左折時に歩行者・自転車と接触、私有地から交差点に進入した際の歩行者・自転車との接触などが挙げられている。  このほか、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」には入っていなかったが、「北柳原交差点」から国道49号を西(会津坂下方面)に600㍍ほど行ったところにある「荒久田交差点」も両交差点に次いで事故が多い地点として挙げられている(2021年の事故発生件数は5件)。  同交差点(付近)では、左折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、追突といった事故事例が紹介されている。  会津若松署では、「やはり、単路より交差点での事故が多く、交差点付近では一層の注意が必要。心に余裕を持った運転を心がけてほしい」と呼びかける。  さらに、同署では、これら交差点に限らず、酒気帯び等の悪質なケースの取り締まり、事故被害を軽減するシートベルト着用の強化、行政・関係団体と連携した講習会の開催、道路管理者と連携した立て看板・電光掲示板での呼びかけなど、事故防止に努めている。  一方で、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、「地元警察本部の取り組み」として、以下の点が挙げられている。  ○モデル横断歩道  各署・各分庁舎管内における信号機のない横断歩道で、過去に横断歩行者被害の交通事故が発生した場所や学校が近くにある場所、または、車両および横断歩行者が多いため、対策を必要とする場所を「モデル横断歩道」と指定し、横断歩行者の保護を図るもの。  ○参加・体験型交通安全講習会(運転者、高齢歩行者、自転車)  運転者、高齢歩行者、自転車の交通事故防止のため、警察職員が県内各地に出向き、「危険予測トレーニング装置(KYT装置)」等を使用して、参加・体験型の交通安全講習会を実施するもの。  ○家庭の交通安全推進員による高齢者への反射キーホルダーの配布  県内の全小学校6年生(約1万5000人)を「家庭の交通安全推進員」として各署・分庁舎で委嘱しており、その家庭の安全推進員の活動を通じて、祖父母など身近な高齢者に対して、交通安全のアドバイスをしながらお守り型の反射キーホルダーを手渡してもらうもの。  ○自転車指導啓発重点地区・路線の設定、公表による自転車交通事故防止対策の推進  警察署ごとに自転車事故の発生状況等を基に自転車指導啓発重点地区・路線を設定し、同地区・路線において自転車事故防止、交通事故防止の広報啓発を実施。 福島市で暴走事故  今回は、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」を基に、事故が多い交差点の紹介、その形状と特徴、事故発生時の事例、注意点などをリポートしてきたが、県内では昨年秋、高齢の男がクルマで暴走するというショッキングな事故があった。  この事故は11月19日午後4時45分ごろ、福島市南矢野目の市道で起きた。97歳の男が運転するクルマ(軽自動車)が歩道に突っ込み、42歳の女性がはねられて死亡。その後、信号待ちで前方に停止していたクルマ3台にも衝突し、街路樹2本をなぎ倒しながら数十㍍にわたって走行した。衝突されたクルマのうち、2台に乗っていた女性4人が軽傷を負った。  軽自動車を運転していた97歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された。男は2020年夏に、免許を更新した際の認知機能検査では問題がなかったという。  地元紙報道には、事故に巻き込まれたドライバーの「こんな人が運転していいのかと感じた」という憤りの声が紹介されていた。  その後の警察の調べでは、現場にブレーキ痕はなかったことから、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いという。  この事故を受け、警察庁の露木康浩長官は記者会見で、「(高齢運転者対策の)制度については不断の見直しが必要」との見解を示した。警察庁長官がそうしたことに言及をするのは異例と言える。  このほか、週刊誌(オンライン版)などでも、この事故が取り上げられ、逮捕された男の人物像に迫るような記事もいくつか見られた。  そのくらい、ショッキングな事故だったということである。  地方では、クルマを運転する人は多いが、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことを自覚し、各ドライバーが無理のない運転を心がけ、より注意を払い、事故防止のきっかけになれば幸いだ。 あわせて読みたい 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

  • 私が出産後も働き続けた理由【福島県内在住フリーライター みきこ】

    私が出産後も働き続けた理由

    福島県内在住フリーライター みきこ  県内の女性は働くことについてどういう思いを抱いているのか。県内在住のフリーライター・みきこさんに自身の体験や周囲の女性の声について執筆してもらった。  就職して結婚、出産するまでの約10年間、介護業界で働き、副業でライターの仕事もしていた。なかなか子宝に恵まれず、「仕事との両立は難しい」とされる不妊治療を受けていたが、その間も働き続けていた。たとえ妊娠・出産しても仕事を辞めるつもりは全くなかった。  ようやく子どもを授かり、1500㌘にも満たない極低出生体重児を出産した。子どもは病弱で心臓に疾患があった。育休が終わるとき、「仕事で代わりの人はいるけど、母親の代わりはいない」と考え、休職して子育てに専念することにした。  ただ、「病気がちな子を抱えていたら、これからもっとお金がかかるはず」と、子どもが1歳を過ぎたころライター業を再開した。在宅で子育てしながら働けて、文章と向き合う仕事は性に合っていた。  子どもは成長に伴い体が丈夫になり、運動制限が解除された。3歳になると幼稚園に入園した。自分の時間が増えて、まず考えたのは「これからどう仕事をしていくか」ということだった。  「男性は妻を養う」、「女性は夫がいるからいつでも仕事を辞められる」という価値観を持つ人はまだまだ多い。実は私もその一人だった。  しかし、子どもとの生活で、仕事に対する考えは大きく変わった。「生活の中心は子どもだが、ある程度経済的に自立したい」、「育児、家事の合間にできる仕事をしたい」と望むようになった。小さい子を持つ母親は同じく考える人が多いのではないか。もちろん、これは配偶者が収入を得ているからできることで、そのことに感謝しなければならない。  一方で、「キャリアは捨てたくない」、「家計が厳しいから仕事したい」、「小さい子どもとずっと一緒だと息が詰まるから働きに出たい」という意見もある。どの意見も正しいし、その人が置かれた状況によって考えが違うのは当然である。  私の場合、休職中も介護の仕事の同僚や上司から、定期的に連絡を受けていた。会社から必要とされていると実感できてうれしかったし、仕事自体も好きだった。だからパートとして復職し、ライターの仕事も副業として続ける道を選んだ。職場と同僚の理解を得て働き続けられるのだから恵まれている。  もっとも、すべての女性が希望する形で働き続けられるとは限らない。  介護業界に限らず、多くの業界でパート勤務を希望する女性は「平日の昼間だけ働きたい」という人が圧倒的多数だ。家事・子育てとの両立を考えてのことだろうが、当然好条件の仕事には応募が集中する。友人・知人からは「人にはないスキルや資格がないと、希望の条件で働くのは難しい」、「継続して働きたかったが派遣切りにあった」、「仕事は好きだったが職場で派閥があって、人間関係が苦痛で仕事を辞めた」という声をよく耳にする。  逆に、キャリアを積んでバリバリ働きたい女性からは「やりたい仕事ができず自ら離職した」という意見が多く聞かれた。ちなみに、厚生労働省の令和2年雇用動向調査結果によると、女性の転職入職者が前職を辞めた理由のトップは人間関係だ。  男性に比べ、女性は結婚・出産などライフステージの変化が多く、キャリアが中断されがちだ。  家庭生活を充実させながらやりがいのある仕事に就き、キャリアアップしていける働き方が理想だが、それを実現できる企業は県内にどれぐらいあるのだろう。  こうした点が、本県において女性の県外転出が多い一因となっているのではないだろうか。 あわせて読みたい 【女性流出】全国ワーストの福島県

  • 【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工【アルミ太郎】

    【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工

     喜多方市で土壌汚染と地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)は、会津北部土地改良区が管理する用水路への「処理水」排出を強行しようとしている。同社は同土地改良区と排水時の約束を定めた「覚書」を作成し、住民にも同意を迫っていたが、難航すると分かると同意を得ずに流そうとしている。同土地改良区の顔を潰したうえ、住民軽視の姿勢が明らかとなった。 見せかけだった土地改良区の「住民同意要求」 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。  昭和電工喜多方事業所の敷地内では、2020年に土壌汚染対策法の基準値を上回るフッ素、シアン、ヒ素、ホウ素による土壌・地下水汚染が発覚した。フッ素の測定値は最大で基準値の120倍。汚染は敷地外にも及んでいた。県が周辺住民の井戸水を調査すると、フッ素やホウ素で基準値超が見られた。フッ素は最大で基準値の4倍。一帯では汚染発覚から2年以上経った今も、ウオーターサーバーで飲料水を賄っている世帯がある。  原因は同事業所がアルミニウムを製錬していた40年以上前に有害物質を含む残渣を敷地内に埋めていたからだ。同事業所がこれまでに行った調査では、敷地内の土壌から生産過程で使用した履歴がないシアン、水銀、セレン、ヒ素が検出された。いずれも基準値を超えている。  対策として昭和電工は、  ①地下水を汲み上げて水位を下げ、汚染源が流れ込むのを防止  ②敷地を遮水壁で囲んで敷地外に汚染水が広がるのを防止  ③地下水から主な汚染物質であるフッ素を除去し、基準値内に収まった「処理水」を下水道や用水路に流す  という三つを挙げている。「処理水」は昨年3月から市の下水道に流しており、1日当たり最大で300立方㍍。一方、用水路への排出量は計画段階で同1500立方㍍だから、主な排水経路は後者になる。  この用水路は会津北部土地改良区が管理する松野左岸用水路(別図)で、その水は農地約260㌶に供給している。同事業所は通常操業で出る水をここに流してきた。  周辺住民や地権者らは処理水排出に反対している。毎年、大雨で用水路があふれ、水田に濁流が流れ込むため、汚染土壌の流入を懸念しているのだ。昨年1月に希硫酸が用水路に流出し、同事業所から迅速かつ十分な報告がなかったことも、昭和電工の管理能力の無さを浮き彫りにした。以降、住民の反対姿勢は明確になった。  昭和電工はなぜ、反対を押しのけてまで用水路への排出を急ぐのか。考えられるのは、公害対策費がかさむことへの懸念だ。  同事業所は市の下水道に1カ月当たり4万5000立方㍍を排水している。使用料金は月額約1200万円。年に換算すると約1億4000万円の下水道料金を払っていることになる(12月定例会の市建設部答弁より)。  昨年9月に行われた住民説明会では、同土地改良区の用水路に処理水排出を強行する方針を打ち明けた。以下は参加した住民のメモ。  《住民より:12月に本当に放流するのか?  A:環境対策工事を実現し揚水をすることが会社の責任であると考えている。それを実現する為にも灌漑用水への排水が最短で効果の得られる方法であると最終的に判断した。揚水をしないと環境工事の効果・低減が図れないことをご理解願いたい。  住民より:全く理解できない! 汚染排水の安全性、納得のいく説明がなされないままの排水は断じて認めることが出来ない。  (中略)  土地改良区との覚書、住民の同意が無ければ排水を認めない。約束を守っていない。  説明が尽くされていないまま時間切れ紛糾のまま終了。再説明会等も予定していない》  昭和電工は住民の録音・撮影や記者の入場を拒否したので、記録はこれしかない。 処理水排出は「公表せず」  「実際は『ふざけるな』とか『話が違う』など怒号が飛びました。昭和電工は記録されたくないでしょうね」(参加した住民)  昭和電工は用水路へ排出するに当たり、管理者の会津北部土地改良区との約束を定めた「覚書」を作成していた。同土地改良区は「周辺住民や地権者の同意を得たうえで流すのが慣例」と昭和電工に住民から同意を取り付けるよう求めたが、これだけ猛反対している住民が「覚書」に同意するはずがない。  同事業所に取材を申し込むと「文書でしか質問を受け付けない」というので、中川尚総務部長宛てにファクスで問い合わせた。  ――会津北部土地改良区との間で水質汚濁防止を約束する「覚書」を作成したが、締結はしているのか。  「会津北部土地改良区との協議状況等につきまして、当社からの回答は差し控えさせていただきます」  同土地改良区に確認すると、  「締結していません。住民からの同意が得られていないので」(鈴木秀優事務局長)  ただ、昭和電工は昨年9月の住民説明会で「12月から用水路に『処理水』を流す」と言っている。同土地改良区としては「覚書」がないと流すことは認められないはずではないかと尋ねると、  「『覚書』が重要というわけではなく、地区の同意を取ってくださいということです。あくまで記録として残しておく書面です。他の地区でも同様の排水は同意があって初めて行われるのが慣例なので、同じように求めました。法律で縛れないにしても、了承を取ってくださいというスタンスは変わりません」(同)  つまり、昭和電工の行為は慣例に従わなかったことになるが、同土地改良区の見解はどうなのか。  「表現としてはどうなんでしょうね。こちらからは申し上げることができない。土地改良区は農業者の団体です。地区の合意を取っていただくのが先例ですから、強く昭和電工に申し入れていますし、今後も申し入れていきます」(同)  これでは、住民同意の要求は見せかけと言われても仕方がない。  直近では昨年10月に昭和電工に口頭で申し入れたという。12月中旬時点では「処理水」を放出したかどうかの報告はなく、「今のところ待ちの状態」という。  同事業所にあらためて聞いた。  ――「処理水」を流したのか。開始した日時はいつか。  「対外的に公表の予定はございません」  処理水放出を公表しないのは住民軽視そのもの。昭和電工の無責任体質には呆れるしかない。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】

  • 【女性流出】全国ワーストの福島県

    【女性流出】全国ワーストの福島県

     人口減少が加速する本県。昨年11月現在の推計人口は178万8873人で、ついに180万人を切った。その背景には若い女性が進学・就職を機に県外に転出し、出生数が減っていることがある。本県から女性が去っていく背景には何があるのか、さまざまな女性の〝本音〟に耳を傾けた。 「職の選択肢少なくキャリアも積めない」  昨年10月9日付けの福島民報に衝撃的な記事が掲載された。転出者が転入者を上回る「転出超過」により、女性が直近10年間でどの程度減少したか全国で比較したところ、本県が最多だったというのだ。  総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2012年から21年までの本県転出超過総数は6万3528人。内訳は男性2万2245人、女性4万1283人。  本県以外で女性の転出超過が多かったのは北海道、長崎県、新潟県、岐阜県など。大都市圏から遠い、もしくは本県同様、大都市圏に近かったり交通面で移動しやすい県が目立つ。逆に東京都をはじめ首都圏は女性の転入超過となっている。  第一の原因として考えられるのは、震災・原発事故の影響だ。3・11以降、避難指示区域はもちろん、区域外でも放射能汚染を懸念して、県外に母子避難する人が相次いだ。  転出超過は2011年3万1381人(男性1万3798人、女性1万7583人)、12年1万3843人(男性5714人、女性8129人)に上った。その後、公共工事の復興需要などを背景に男性は14、15の両年、転入超過となったが、女性は転出超過が続いている。直近21年の3572人は全国2位の多さだ。  2021年の女性の転出超過の内訳をみると、15~19歳27%(977人)、20~24歳62%(2216人)と、若い世代が全体の9割近くを占める。進学・就職で県外に転出していると思われる。  若い女性が県内から減れば出生数も減っていく。2020年の出生数は1万1215人。10年は1万6126人。10年間で約5000人減った。それに伴い人口減少も加速しており、180万人を切っている。  東北活性化研究センターは2020年、東北出身の女性2300人にインターネット調査を実施した。その結果、東京圏に住み続ける女性は「『選択肢が多くて希望の進学先がある』という理由で東京の教育機関に進学し、『希望の職種の求人が多い』という理由で東京圏で就職した」という傾向がみられた。  「地方に求めていること」という設問に対しては「若い女性たちが正社員として長く働き続けられる企業を増やす」、「女性にとって多様な雇用先・職場を多く創出する」、「公共交通機関などのサービスを充実させる」、「地方の閉塞感や退屈なイメージを払拭するような取り組みをする」といった回答が多く選ばれた。  暁経営会計(郡山市)代表取締役の伊藤江梨さん(38)は安積黎明高校卒業後、大阪大学法学部に進学。共同通信社に就職し、報道記者として全国で取材活動を続けた後、税理士に転身。地元で独立した異色の経歴の持ち主だ。伊藤さんに女性の転出超過数が多いことについてコメントを求めたところ、こう語った。  「女性にとって、それなりの所得を手にできる職の選択肢が少ないのは事実です。せいぜい公務員、銀行、看護師ぐらい。首都圏で医療業界に就職し、バリバリ働いていた同級生が、震災・原発事故後、志を持って帰って来たケースもありました。ただ、自分の意見が全く通らず、男性中心の職場環境であることにあらためて気付かされたようで、県外の職場に移っていきました」  男性に正面から意見を言っても、表立って潰されることはない。ただ、その場でヘンな空気が流れ、後日、自分が〝腫れ物扱い〟されていることが聞こえてきたりする。優秀な女性ほど息苦しさを感じる。  「そもそも管理職やリーダーとして活躍している女性が県内には少ない。だから、『女性が働きやすいように職場環境を整えよう』という考えになりにくいし、『責任のある仕事は男性がやるもの』という先入観が男女とも根付いているのです」(同)  県労働条件等実態調査によると、2021年の従業員30人以上の企業の管理職(係長相当職以上)に占める女性の割合は18・9%。  一方、総務省の就業構造基本調査によると、2017年の公務員を含む管理的職業従事者(課長相当職以上)に占める女性の割合は13・8%。  管理職に占める女性の少なさは平均賃金の男女格差につながっている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2021年の県内女性の平均賃金(残業代除く)は男性の75・2%に留まり、45~49歳世代では100万円以上の差がある。賃金格差は東北6県で最大だ(福島民報11月6日付)。背景には出産や育児で休職・退職を余儀なくされ、キャリアを積んで管理職を目指すのが難しい事情がある。 女性に厳しい労働環境  前出・就業構造基本調査2017年版によると、県内で過去5年間に離職した女性のうち、出産・育児が退職理由だった人は1万1500人(全体の7・9%)。育休制度はあるものの、離職している人が多いわけ。出産前の働き方と比較し「元の会社に戻って働き続けるのは無理だ」と自ら判断し、退職する面もあるのかもしれない。  「女性としては、責任が重い管理職や時間の融通が利かないフルタイムを避けて、育児と仕事を両立させたいと考える。だから、仕事に復帰する際も、配偶者の扶養控除内(103万円)の範囲に収まるように、パートタイムで働くことを選ぶ傾向が強いのです」(同)  県内の正規従業員の割合を見ると、24~34歳が男性87・2%、女性61・9%で、25・3ポイントの差がある。年齢が上がるごとにその差は開いていき、45~54歳は男性90・4%、女性46・8%となっている(福島民報11月23日付)。  やりたい仕事に就けず、結婚・出産でキャリアが断絶される――こうした環境では、県内から去っていく若い女性が多いのも当然だろう。  女性は働くことを望んでいる。2019年現在の国内の専業主婦世帯は582万世帯で、共働き世帯数(1245万世帯)の半分以下。別掲記事で体験談を執筆してもらった県内在住の女性フリーライター・みきこさんも「専業主婦志向だったが、実際に出産したら、家計や子育ての問題は別として、できる限りの範囲で働きたくなった」と述べている。  11月8日には福島市で同市主催の「そろそろ働きたい女性のための就活準備セミナー」が開かれ、約50人が参加した。テーマ別の意見交換会では「在宅勤務」、「仕事と子育てとの両立」に参加者が集中した。 福島市主催のセミナーでの意見交換会の様子  ハローワーク福島で行われた出産後の母親向けミニセミナーでは、新卒向けの〝就活セミナー〟のように、履歴書の書き方や会社への要望の伝え方などが細かく教えられた。  参加した女性たちは「そもそも子連れで参加できるセミナーがないのでありがたい」、「せっかくだから新しい仕事にも挑戦したい」、「希望の職に就いて、子どもに生き生きと働く姿を見せたい」と語っていた。  出産により再び就職活動をせざるを得なくなった女性たち。例えば県内の企業が時短勤務や在宅勤務などを積極的に取り入れ、彼女たちが退職(再就職)しなくてもいい労働環境を整えることで、女性の転出超過の状況も改善されるのではないか。  一方で伊達市に移住した女性は、女性を取り巻く環境についてこんな〝本音〟を打ち明ける。  「女性同士で情報交換したいと思い、いろいろ働きかけたが、なかなか親密になれず孤独感を抱きました。都市部の個人主義的な面と、地方特有の閉鎖的な面を備えている印象です。求人を見ると『こんな給料で生活していけるの!?』という労働条件。緑が多く子育てしやすい環境と言われるが、子どもたちが外で遊んでいる姿は見ないし、学力テストの結果は低い。正直、他地域より暮らしにくい場所だと感じていますよ」  女性が置かれている環境を根本的に変えなければ、移住者も定着せず、人口減少も加速するということだ。  12月3日に東京で開かれた国際女性会議「WAW!2022」では県内の女性が出席し、地方の現状を発表したほか、県男女共生センター(二本松市)にサテライト会場が設けられ、遠隔で意見を述べた。地元女性や専門家、地元企業の管理職などを交えたパネルディスカッションも開催された。  同センターの千葉悦子館長(福島大学名誉教授)は「女性に限らず、結婚したい人、したくない人、多様な生き方が受容される社会にしていくことが大事だと思います。イベントや当センター主催の講座などを通して〝気づき〟の機会を作り、地道に変えていくしかない」と語る。 少子化対策の失敗  前出・東北活性化研究センターが運営している「TOHOKU MIRAI+」というウェブサイトに昨年7月、福島市で開かれたフォーラムの動画と文字起こししたリポートが掲載されている。  同フォーラムで行われた講演で、ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さんは経営者や自治体職員に対し厳しい言葉で問題提起した。  《福島県の出生数は1970~2020年の50年間で63%減》  《この理由は、県内から出ていった女性の産むはずだった子どもが生まれていないからです》  《「子育て世帯誘致」とよく言いますが、年齢層別の社会減をみると、統計的に子育て世代に当たるアラサー世帯の増減は全体からすると殆ど影響しない》  《少子化対策や地方創生政策において「福島県に留まる既婚女性」のイメージしか持てないというアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があった》  《福島県の少子化対策、福島県の地方創生政策において、20代女性の就業問題、就職問題がメインになったことはあったでしょうか。何より、皆さまがこの課題に対して問題提起、本気の取り組みをしたことはあったでしょうか》  女性の働く環境を考え改善することは地方創生、人口増加に直結する。天野さんの言葉を重く受け止め、まずは女性の声を聞き、意識を変えていくことから始める必要がある。県や市町村には、そのけん引役としての役割が期待される。 あわせて読みたい 私が出産後も働き続けた理由

  • 【国見町移住者】新規就農奮闘記

    【国見町移住者】新規就農奮闘記

     国見町では新規就農者向けの町営農業研修施設「くにみ農業ビジネス訓練所」を運営している。同訓練所を卒業した新規就農者は昨年、どんな1年目を過ごし、どのようなことを感じたのか、振り返ってもらった。 「補助金ありき」農業参入の厳しい現実  「訓練所で基本的なところは勉強できたのですが、自分の畑・スタイルでやるとなると全く違う面もあるので、戸惑いながら試行錯誤した1年でした」  苦笑しながら1年を振り返るのは、国見町藤田に住む三栗野祐司さん(43)。昨年4月から自営農家としてキュウリやズッキーニの栽培を開始した。妻と共に無我夢中で農作業に明け暮れたとか。 三栗野祐司さん  「半年以上、毎日朝晩、休まずにキュウリを収穫していたので、正直精神的に参っていたところでした。11月に入り、やっとひと段落したので、勉強も兼ねて、あんぽ柿作りの手伝いのアルバイトに行っていたところです」  1年目のキュウリの売り上げは200万円弱。ズッキーニなどその他の野菜も含めれば約250万円。夫婦2人分の年収としては厳しいところだが、国が新規就農者向けに給付している「経営開始資金」なども加えればそれなりの金額になる。金額は年間150万円(月12万5000円)で、給付期間は3年間。  「さまざまな補助金を活用して何とか独り立ちできている状況ですね。1年目は初期投資で何かと出費がかさむので、貯えがどんどん減っています。キュウリの卸値は1本30円の世界。大変な仕事に就いたと実感していますし、妻は時間を見てアルバイトに出ています」 メーンの作物となっているキュウリ  新潟県長岡市生まれ。高校卒業後、製造業、飲食業などで働いていた。東京にいたとき出会った女性と結婚。その後、妻が仕事を辞め、地方への移住を考えるようになった。そこで候補に挙がったのが福島県だった。実は共通の友人が福島県出身で、地元に戻った後に何度か遊びに訪れていた。  2020年6月、妻、愛猫とともに福島市に移住。夫婦でできて、かつ自然環境を生かした仕事がないか探す中で、たどり着いたのが「農業」だった。担い手不足が叫ばれている中で、挑戦してみたくなった。  と言っても、三栗野さんは全く農業経験がなかった。そこで、福島市から近い国見町の新規就農者向け訓練所に通って基礎を身に付けることにした。 くにみ農業ビジネス訓練所  同訓練所は道の駅国見「あつかしの郷」の近くに立地しており、新規就農に取り組む移住者の増加、生産者支援を目的に設置された。1年かけて農業の基礎を学べる「長期研修」(受講料無料)、専門的な技術を習得したい就農者向けの「短期研修」、子ども向けの「体験研修」などの事業を実施している。  町内には果樹・水稲農家が多いが、どちらも多額の初期投資が必要となるため、新規就農者はほとんどが親元での就農だ。そうした現状を踏まえて、同訓練所では新規就農者向けに、初期投資が少なく、収益化サイクルが短い野菜農家を勧めており、それに基づいたカリキュラムが組まれている。  三栗野さんは21年4月に入所し、1年間かけて野菜の土づくりや種まき、収穫、出荷調整などの技術や農業経営に必要な知識を学んだ。  卒業後はキュウリを生産することにした。伊達地区は夏秋キュウリの販売額が日本一で、ブランドとなっているため単価も高い。1株から50~100本は収穫でき、生産者に対する支援・補助も手厚い。  22年4月、晴れて就農者となったものの、しばらくは移住や就農の準備に追われたという。  中でも住まい探しには時間がかかった。同訓練所に近いと機械などが無料で借りられ、支援制度も充実しているため国見町への移住を決めた。だが、農地付きの住宅がなかなか見つからなかったという。  「空いている住宅や土地はいっぱいあるが、ほとんどは空き家バンクに登録されていないので、移住者はたどり着けずに別の自治体に流れてしまう。私もずいぶん見て回ったが、人づてに紹介してもらった築50年の住宅・農地を300万円で購入した。住宅は320万円かけて、リフォームして暮らしています」  ちなみに、野菜栽培用のパイプハウスに250万円かかり、キュウリの苗の購入や、灌水設備の整備などにもその都度費用がかかったという。前述の通り、新規就農や移住に関する補助金は充実しているが、「年度末に入ってくるものも多いです」。三栗野さんは何とか貯金で賄ったとのことだが、初期投資分を考えると、1000万円程度の貯えは必要ということだろう。水稲農家となると、コンバイン、トラクターといった農機具が必要となるので、さらに金額が跳ね上がると思われる。 地元レストランと契約  就農1年目の手応えについて、三栗野さんに尋ねたところ、このように話した。  「生産したことのない畑で、どう肥料をあげたらいいのかも分かりませんでしたが、そうした中で安定して出荷し、収入を得られた点はよかったと思います。ズッキーニに関しては、JR藤田駅前の『Trattoria da Martino(トラットリア・ダ・マルティーノ)』というイタリアンレストランに契約してもらっています。『(傷がついているものでも)選別せずに納品して構わない』と言っていただいているので助かるし、何のツテもない地域で、使っていただけるのはありがたい限りです」(同)  国見町周辺でズッキーニを生産している農家が少なかったことが幸いしたのだろう。  なお、キュウリに関してはこんな迷いが生じている最中だという。  「JAに出荷していたが、手数料を計算したところ、4割近く引かれていることに気付いた。周囲の先輩方は『仕方ない』と受け入れているが、箱詰めなどを自分でやればいくらか手数料は減らせます。一方、さまざまな面で補助を受けられるなど、JAと取り引きするメリットは大きいし、梱包作業の負担を軽減してくれるのはありがたい面もある。すべてJAにお任せするか、しんどい思いをして手数料を減らす努力をするか、検討し続けています」  道の駅国見は手数料が低く価格も自分で決められるが、ほかの生産者の農産品も並ぶので、必ず手に取ってもらえるわけではない。農産物直売所も手数料が低めだが、すべて売り捌けるとは限らない。  そう考えると、本当の意味で〝農業の仕事だけで飯が食える〟ようになるためには、前出・イタリアンレストランのように、販売ルートを確保する必要がある。そこが今後の課題になりそうだ。  「レストランの方と話していると『こういう西洋野菜を作ってくれたらぜひ買わせてほしい』と言われることがあります。需要があるのに、市場にそれほど出回っていないということだと思うので、新年からぜひ作ってみたい。卸値が変動しやすいキュウリの生産・収穫に追われるだけではいずれ低空飛行になるだろうし、何より楽しみもなくなるので、いろいろと挑戦していきたいと思います」  一方で、1年目に戸惑ったことを尋ねたところ、「農業器具関連業者の対応」と答えた。  「灌水設備を取り付けるため、複数の業者に話を聞いたが、当然ながら長年農業に携わってきた方ばかり。『こうしてほしい』と伝えても『ほかではこうやっていた』と返され、工程の途中で『残りは自分でできると思うので』と完成させずに帰ってしまうこともあった。訓練所には設備がそろっているため、そうした設備の取り付け方法などは習っていない。かなり戸惑いました」  同じような思いを抱いている新規就農者は意外と多いかもしれない。  行政に求める支援策を尋ねたところ、次のように述べた。  「高齢で離農する農家の方が多いが、子どもや孫がやるのであればと、新たに投資する意思があったりする。一方、新規就農の意思がある人は農地がなく、ミスマッチが生じているのです。同様の問題は商店街にもありますが、行政にはそのつなぎ役となって解決してほしいと考えています。地域のコーディーネーターという意味では、飲食店が欲している農作物を行政などで聞き取りして、就農者が手分けして対応するというやり方もできると思います。行政には期待しています」 国見町移住の卒業生は2人  農閑期はゆっくりできるのかと思いきや、「せっかくハウスがあるのに使わないのはもったいないので、今シーズンのキュウリが終わり次第、新たな苗を植えられるように準備しています」と語る三栗野さん。  新規就農事情に詳しいジャーナリストによると、1年目で250万円という収入は「よく頑張っている方」という。苦労したことも多々あったようだが、移住・新規就農1年目の生活を満喫していると言えよう。  しかし、一方では前述の通り、さまざまな補助金に頼って生活している実態がある。〝農業の仕事だけで飯が食える〟ようになるのはそれだけ難しいということだろう。新規就農者数が過去最多となっていることを前掲記事で紹介したが、補助金が充実していて参入しやすいという要素は大きそうだ。  同訓練所は費用対効果の問題もある。2019~21年の卒業生10人のうち、国見町に移住したのは三栗野さんを含めてわずか2人。あまりに寂しい数字。年間経費は約2000万円だという。  卒業生らは「農友会」と呼ばれる若手農業者の組織を作り、定期的に交流している。そういう意味では、農業振興に貢献していると言えるが、経済人からは「やるなら町を代表する農産物などに特化すべき。金をかけて町営訓練所を作ったが、いまいちアピール度に欠ける」と不満の声も聞こえてくる。  これらもまた新規就農者を取り巻く環境の〝現実〟ということだ。 あわせて読みたい 【福島】県内農業の明と暗

  • 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

    【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

     新潟県新潟市に本拠を置く家庭教師派遣と学習教材販売の㈲興創が、2022年9月7日付で新潟地方裁判所から破産手続の開始決定を受け倒産した。同社は1998年に創業し、「家庭教師のコーソー」(以下、コーソーと表記)として小中学生や高校生を対象に家庭教師による個別指導を手掛けていた。新潟本社のほか秋田市、札幌市、大宮市に営業拠点を開設し、派遣地域は新潟県、秋田県、山形県、青森県、福島県、岩手県、北海道、埼玉県をカバーするなど事業を拡大していた。しかし、競争激化に加え少子化による需要の減少で業績が悪化すると、借入金が資金繰りを圧迫。これ以上の事業継続は困難と判断し、今回の措置に至った。 新潟・家庭教師派遣業「倒産」に見る業界事情 新潟地方裁判所(HPより)  2022年12月9日、新潟県民会館で興創(榊茂喜代表取締役、資本金800万円)の債権者集会が開かれた。破産管財人は新潟みなと法律事務所の堀田伸吾弁護士。  債権者集会は裁判所による指揮のもと、破産管財人が破産債権者に対して、破産会社が破産に至った経緯や資産(負債、財産)状況、配当の見込みなどについて情報を提供するもの。破産管財人が行う管財業務に関わる重要事項について意思決定をするため、破産管財人・破産者・破産債権者が一堂に会して開かれる。  集会の冒頭、榊氏は「従業員ならびに家庭教師の皆様、なにより一番は我々の会社の教材をご購入いただいた、ご入会いただいた会員の皆様には大変申し訳ないと思っております」と謝罪した。興創は2014年2月期には売上高3億7200万円を計上し利益も確保していたが、ここ数年は著しく業績が悪化し、2022年2月期には売上高2億5000万円にまで減少していた。負債額は1・5億円に上る。  「会社を取り巻く環境が厳しくなり、思うような業績が上がらなくなりまして、非常に苦しんでおりました。メインバンク、その他の銀行から融資を受け、頑張ってまいりましたが、支えきれなくなってしまいました」(榊氏)  破産管財人の堀田弁護士は破産に至った経緯について「生徒を獲得するための営業活動がうまくいかなくなった」と説明した。  「コーソーでは会員生徒を獲得するため、自宅の固定電話に架電する営業活動を行ってきましたが、携帯電話の普及に伴う固定電話の利用減少によって思うように業績を伸ばせなくなりました。また、個人情報に対する社会的意識の高まりによって生徒の名簿も入手困難となりました」(堀田弁護士)  20年ほど前まで、学校では児童・生徒の氏名や住所、電話番号が記載されたクラス名簿が配布されていた。コーソーをはじめとする家庭教師派遣業者が、独自のルートで各学校のクラス名簿を買い取り入手することは容易かったはずだ。しかし、2005年に全面施行された個人情報保護法により、プライバシー保護の観点から名簿が配布されなくなった。現在は児童・生徒の氏名のみのクラス名簿ですら公表しない学校が多いようだ。  自力でクラス名簿が入手困難となれば、次の手は名簿業者を利用するしかない。1件数円~数十円で個人情報を買い取ることになるが、違法な名簿業者から提供された個人情報を使用して営業すれば当然違法性を問われる可能性が高いことに加え、営業内容と親和性の高い名簿が得られるとは限らない。さらに名簿を入手したとしても、電話を受ける消費者の側が、プライバシーに対するリテラシーが高まっているため、営業活動云々の前に「なぜうちの電話番号を知っているんだ」と話を聞いてもらえず、成約率は以前より低くなっているのが実情だ。  今の時代、知らない電話番号から電話が掛かってきたときに、すぐに折り返さず、インターネットの検索エンジンで電話番号を入力して調べれば、即座に業者名や口コミが出てくる。  試しに「コーソー」で検索してみると、複数の電話番号がヒットし多数の口コミが出てきた。    ×  ×  ×  ×  口コミ1   たった今「夜分恐れ入ります。〇〇様のお宅ですか?」と穏やかな口調の男性から。「はい、そうですけど?」と不機嫌に答えると「家庭教師のコーソーと申しますが、お母様でいらっしゃいますか?」と聞きやがるので「どこでお調べで?」と返すと「名簿でございます」だと。「即消してくださいませ」と答えると「はい。申し訳ございませんでした」と。  口コミ2  21時ぐらいに電話してきた。まじで迷惑。聞いた話だと、同じ家に何回も勧誘すると法律違反らしい。  口コミ3  さっきこの番号でかかってきました。「断っても何回もかけてくる。そちらと同じ内容のセールス電話にうんざりしてる。いい加減やめて下さい!」と言うと、「それはスミマセンでした~」と感心なさそうな声で言うので、頭に来てそのまま電話を切りました。着信拒否かけても新しい番号でかけてくるので、いたちごっこで腹が立ちます。    ×  ×  ×  ×  コーソーはかなり手荒い電話営業を行っていたようだ。「家庭教師のトライ」などの大手家庭教師派遣業であれば、テレビCMやユーチューブなどを利用したインターネット広告にお金をかけられるが、会社の規模が小さくなればなるほど広告費を捻出するのは難しい。お金をかけずにできる宣伝は、チラシをポスティングしたり店舗に置いてもらったりしながら、自社のホームページを充実させ、ツイッターなどのSNSを有効活用するしかない。 明かされた財産目録 財産目録  債権者集会で配られた財産目録は別図の通り。  「資産の部」の預貯金を見てみると、新潟信用金庫米山支店の33万5576円が最も多い残高となっており、資金繰りに困窮していたことがうかがえる。  また「資産の部」の貸付金を見てみると、最も高額なのが伊藤修の921万4151円。伊藤氏は埼玉県さいたま市で「家庭教師のハヤテ」を運営していた社長で、榊氏とは二十数年来の友人だった。榊氏は伊藤氏から家庭教師派遣業や教材販売の知識やノウハウのアドバイスをもらっていた間柄だったという。ハヤテが2017年末に倒産した際、榊氏の貸付によって再建されたが、2020年にその資金も尽き、榊氏が会社を引き取ることになった。現在、伊藤氏とは連絡がつかず、貸付金は回収不能の見込みだ。  事務用品や携帯電話などの備品や車両を現金化し、最終的に残った破産財団(破産手続の手続費用および破産債権者等への弁済原資)は597万4235円となり、諸経費を引いた最終的な破産財団の残高は377万7969円となった。  「負債の部」を見てみる。財団債権(公租公課)が3330万8272円となっている。財団債権とは最も優先的に弁済を受けることができる債権(別除権を除く)。公租は国税・地方税、公課は社会保険料など。財団債権(公租公課)のうち、2000万円強が公課に当たる社会保険料の滞納分という。  財団債権(労働債権)は破産手続開始前3カ月の賃金請求権であり、従業員やアルバイトなどの未払い賃金に当たる債権。記載が空欄となっているのは、独立行政法人労働者健康安全機構の立て替え払い制度を利用したため。同制度で未払い賃金の8割相当が保証される(未払い賃金が2万円以下は対象外)。正社員とアポインターのアルバイトは2022年12月中に立て替え払いが完了しており、家庭教師は今後請求を進めていくという(※)。  ※財団債権(公租公課)と財団債権(労働債権)は同列で、優先順位はない。  最後に破産債権。記載が空欄なのは、前述・破産財団の残高が財団債権よりも下回っているため、破産債権への配当が見込めないためだ。  つまり、学習教材を購入した、あるいは家庭教師の指導を受けた消費者の債権は1円も返ってこない状況となっている。多くの会員は教材費として、入会時に30万円を一括かクレジットの分割で支払っている。また、家庭教師の指導を受ける権利が付与された指導券を4回分まとめて購入しており、コーソーが事業停止した8月末以降に指導券が余っていた場合は、ただの紙切れとなる。  家庭教師は「特定商取引法における特定継続的役務提供契約」に当たり、契約の解除(クーリングオフ)や中途解約が認められている。  債権者集会では、債権者である生徒の保護者から教材費や指導券の返金に関する質問が集中した。  ある会員生徒の母親は「教材費31万円をクレジットカードの36回払いで購入しました」と話す。  「これまで3回クレジットの支払いをしました。クレジット会社とお話しして支払いを止めてもらっていますが、残りの分も払わなければならないのでしょうか。契約の際に教材費だけでなく、3年間の管理料も含まれていると聞いています。教材費はやむを得ないにしても、管理料も払わなければならないのは納得できません」  これに対して、管財人の堀田弁護士は次のように答えた。  「あくまでクレジット会社と会員様の契約となりますので、管財人としては助言できる立場にありません。大変心苦しいのですが、消費者センターや弁護士に相談してみてくださいとしか申し上げられません」  会員の中には興創が倒産する直前に契約したために、教材すら届いていない人もいた。榊氏いわく、事業停止する8月末に初めて従業員に倒産する旨を伝えたため、倒産直前まで会員の勧誘を行っていたことになる。 時代に追いつけず  厚生労働省によると、2021年の国内の出生数は81万1622人と過去最少を更新している。学習塾や家庭教師派遣などの教育関連業者は、少子化による児童・生徒数の減少や新型コロナウイルスの影響に加え、講師不足や後継者難といった問題を抱えるケースが多く、教育関連業者の倒産が増加している。  民間信用調査機関の帝国データバンクは、2008年以降の教育関連業者の倒産動向(負債1000万以上、法的整理のみ)について集計・分析している。調査結果要旨は以下の通り。  ①2018年の倒産件数は91件、2015年から4年連続で増加。  ②負債合計は27億6300万円となり、過去10年で最小に。  ③業態別では「各種スクール・家庭教師」が最多。「学習塾」の倒産件数は過去最多を記録した。  教育関連業者を取り巻く環境は年々厳しくなっていることが分かる。そんな中、生き残りをかけてオンライン個別指導に活路を見いだしているのが「家庭教師のトライ」などを手がけるトライグループだ。2015年7月には完全無料の映像授業サービス「Try IT(トライイット)」をスタート。無料会員登録をするだけですべての映像授業(1本15分程度)が無料で視聴できるという、業界初の画期的なサービスとして注目された。このサービスは、すでに100万人の子どもたちが利用しているという。  そう考えると、コーソーが行ってきたコンプライアンス無視のテレアポ営業や高額な教材販売というビジネスモデルが終焉を迎えるのは当然の結果だった。  ちなみに福島県内の教育関連業者は2016年の政府統計(経済センサス―活動調査)によると、学習塾の民営事業所数は266、家庭教師が231となっている。また「都道府県別統計とランキングで見る県民性」によると、本県の小学生通塾率は33・2%(全国平均45・8%)、中学生通塾率は49・2%(同61・4%)となっている。  子どもを持つ親の身になれば、何とかして我が子の成績を上げたいと思うのは当然だ。塾に通わせてもついていけなければ意味がないと、家庭教師という個別指導に頼るのは自然の流れである。  今後、家庭教師派遣業に求められるのは明瞭な料金体系の公開や、入会金や教材費に頼らない仕組みだろう。また、消費者である子どもを持つ親も、自分の子どもにとって何が一番良い投資になるのかを吟味するリテラシーが求められる。コーソーの指導を受けていた会員の児童・生徒が、今後も充実した学習ができることを願うばかりだ。 あわせて読みたい 中学受験【ベスト学院】「県立安積中専門校」を開校

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    【飯舘村】出身女優が性被害告発

     飯舘村出身の俳優・大内彩加さん(29)が、「福島三部作」で知られ、双葉町に移住した劇作家・谷賢一氏(40)=石川町生まれ、千葉県育ち=から性被害を受けたとして損害賠償を求めて提訴している。谷氏は否定し、法廷で争う姿勢。別の俳優からも性被害やパワハラの証言がある。  大内さんは高校2年生の時に東日本大震災・原発事故で被災。2018年から谷氏が主宰する劇団に客演として参加するようになる。同年夏の「福島三部作」東京公演後に谷氏からレイプ被害を受けたという。  大内さんは「谷はハラスメントの常習犯。移住すると聞いて怖くて仕方がなかった。何も知らない福島県民や演劇が好きな人が被害を受ける前に『告発』したかった」と決意の固さを話してくれた。提訴を受けて12月に南相馬市で予定されていた谷氏作・演出の舞台が中止になったことについては、「千秋楽の後に『告発』したら見に来てくれたお客様が傷つくと考えました。後になって深い傷が生まれてほしくなかった」。  12月末にZoomで開いた会見には、地元紙の記者の姿はなかった。共同通信の配信記事で事足りるということか。いままで散々、谷氏をもてはやしておいて被害者の声に耳を傾けないのはフェアではない。

  • 本宮市の用水路工事が住民の苦情でストップ

    本宮市の用水路工事が住民の苦情でストップ

     本宮市高木地区で行われていた市発注の用水路工事がストップしているという。  ある関係者によると、「同事業は市が実施しているもので、昨年秋ごろに工事が始まったと思ったら、すぐにストップした」とのこと。  市のホームページで入札情報を確認したところ「高木字戸崎地内水路改良工事」の入札が昨年9月8日に行われており、この工事を指していることが分かった。  前出の関係者はこう話す。  「同工事は、農地脇に用水路を通すもので、十数軒の権利者(農地所有者)がいるのだが、そのうちの1人? 数人? が市にクレームを付けたそうです。具体的には、農地脇の土手のところに作業用道路を通して、用水路工事完了後は元に戻すことになっていたようだが、その過程で(農地所有者に)きちんと説明する前に、農地脇の土手の一部に土を入れて埋め立ててしまった。それに、一部農地所有者が怒り、工事をストップさせた、と」  その後、市は関係者に対して説明会を実施するなど、対応に追われ、工事はストップしたままという。  本宮市建設部に確認したところ、「昨年9月に工事がスタートしたが、地元の方から要望があり、中断している」とのこと。  そのうえで、担当者は次のように説明した。  「この間、2回、地元の方を対象に説明会を実施しており、そこで出た要望などを踏まえながら、地元の方の要望に沿うような形で進めたいと思っています。もともと工期は今年度末まで(2023年3月末)でしたが、それを受け、この12月議会で、2023年度(2024年3月末)まで繰り越すための関連議案を提出して承認いただきました」  最後に、前出の関係者は次のように話した。  「もちろん、市(受注業者)の対応ももっとやりようがあったんだろうけど、そもそも、市にクレームを入れた人の農地は耕作されていなかったんです。ですから、そんなに怒らなくても、と思いますけどね」

  • 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

    北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

     北塩原村の観光・交流拠点の1つである道の駅裏磐梯では、期間限定商品だった「裏磐梯桜峠プリン」の通年販売を昨年9月23日から開始し、好評を博している。  同商品は同駅オリジナルスイーツとして開発されたもの。会津山塩をきかせた濃厚カスタードプリンの上に、オオヤマザクラの実を用いたジュレをのせた。プリンの甘じょっぱさと、ジュレのほのかな酸味を同時に味わえる。濃紅とミルク色のコントラストが美しく、かわいらしいラベルと相まって見栄えの良い商品となっている。  名前の由来となった桜峠は、同村の温泉リゾート施設・ラピスパ裏磐梯の隣に位置する桜の名所。毎年3000本のオオヤマザクラが咲き誇る。ソメイヨシノよりもピンク色が濃く、その華やかさに魅了される観光客が多いという。  商品開発の経緯や特色について、同駅の榎本季一総支配人は「一昨年から北塩原村ならではの付加価値の高いオリジナルスイーツを開発すべく熟慮を重ねてきた中、当村の絶景スポットである桜峠に着目した次第です。春のお花見シーズン以外でも桜峠を感じてほしいとの思いから商品開発に至りました」と説明する。  製造については、喜多方市の橋谷田商店に依頼し、通年販売するため冷凍での提供を決めた。プリンの冷凍は技術的に難易度が高く、解凍した際に離水などで食感が著しく低下してしまうことがあるが、試行錯誤を繰り返し、満を持して本格販売できるようになった。  「解凍後もプリン独特のプルプル感を味わえる商品を開発しました。解凍は常温で3~4時間、冷蔵庫で6時間が目安。独特な食感が楽しめる半解凍もおすすめです。オオヤマザクラジュレとカスタードプリンが口の中で織りなすハーモニーを楽しんでほしいです」(榎本総支配人)  道の駅裏磐梯のみでの限定販売。価格は1個380円(税込み)。水曜日定休。  詳しい問い合わせは、道の駅裏磐梯☎0241(33)2241まで。 あわせて読みたい 「道の駅ふくしま」が成功した理由

  • 福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市内の男子中学生が市立小学校に通っていたときにいじめを受け、不登校になった問題について、本誌2022年4月号「【福島市いじめ問題】6つの深刻な失態」という記事で、詳細にリポートした。  記事掲載後、男子中学生と保護者は市や市教育委員会の対応を巡り、担任の教員や教育委員会などに謝罪を要求。県弁護士会示談あっせんセンターに示談のあっせんを申し立て、2022年10月末、市長と教育長が謝罪することで和解に至った。  福島市は2022年11月22日の記者会見で、木幡浩市長と佐藤秀美教育長が非公式の場で直接謝罪しことを明らかにした。和解の条件として、市が児童らに180万円の解決金を支払い、いじめ問題の関係者を今後処分する。  同日、被害者側も記者会見を開き、男子中学生は「心の傷は治らない」と語った。保護者は「こちらが求める謝罪ではなかった」としつつ、「今後は組織一体となっていじめ問題に対応してほしい」と訴えた。

  • 福島市西部で進むメガソーラー計画の余波「開閉所の整備予定地」

    福島市西部で進むメガソーラー計画の余波

     「自宅の周辺を作業員が出入りして地質調査をしていると思ったら、目の前の農地に開閉所(家庭でのブレーカーの役割を担う施設)ができると分かった。一切話を聞いていなかったので驚きました」(福島西工業団地の近くに住む男性)  同市西部の福島西工業団地(同市桜本)の近くの土地を、太陽光発電事業者がこぞって取得している。東北電力の鉄塔に近く、変電所・開閉所などを設置するのに好都合な場所だからだ。  2022年2月、鉄塔がある地区の町内会長の家をAC7合同会社(東京都)という会社の担当者が訪ねた。外資系のAmp㈱(同)という会社が特別目的会社として設立した法人で、福島市西部の先達山(635・9㍍)で大規模太陽光発電施設を計画している。そのための変電所を、市から取得した土地に整備すべく、町内会長の了解を得ようと訪れたのだ。  町内会長は冒頭の男性と情報を共有するとともに、同社担当者に対し「寝耳に水の話で、とても了承できない」と答えた。  同計画の候補地は高湯温泉に向かう県道の北側で、すぐ西側に別荘地の高湯平がある。地元住民らは「ハザードマップの『土砂災害特別警戒地域』に隣接しており、大規模な森林伐採は危険を伴う。自然環境への影響も大きい」として、県や市に要望書を提出するなど、反対運動を展開している。  そうした事情もあってか、変電所計画にはその後動きがないようだが、2022年3月には、別の太陽光発電事業者が近くの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが明らかになった。  発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。  発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。2022年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。  開閉所は20㍍×15㍍の敷地に設置される。変圧器や昇圧期は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ。 開閉所の整備予定地  5月7日には地元住民への説明会が開かれた。大きな反対の声は出なかったようだが、冒頭・予定地の目の前に住む男性は「電磁波は出ないというが、子どもへの影響など心配になる。工事期間中、外部の人が出入りすることを考えると防犯面も気になります」と語った。  前出・町内会長は、一方的な進め方に違和感を抱き、市の複数の部署を訪ねたが、親身になって相談に乗ってくれるところはなかった。  特別高圧送電線のケーブルが歩道の地下に埋設される予定であることを知り、市に「小学生の通学路にもなっているので見直してほしい」と訴えたところ、車道側に移す方針を示した。だが、根本的に中止を求めるのは難しそうな気配だ。  「鉄塔周辺の地権者が応じれば、ほかにも関連施設ができるのではないかと危惧しています」(町内会長)  福島市西部地区で進むメガソーラー計画で、離れた地区の住民が思わぬ形で余波を受けた格好だ。2つのメガソーラー計画についてはあらためて詳細をリポートしたい。 あわせて読みたい 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声 大玉村「メガソーラー望まない」 宣言の真意

  • 福島市「デコボコ除雪」今シーズンは大丈夫?

    福島市「デコボコ除雪」今シーズンは大丈夫?

    2021年末から断続的に降った大雪で、福島市中心部は除雪が十分に行われない「デコボコ除雪」が問題となった。降雪、気温の低下が続いたことも相まって起きた災害だ。これを教訓に、市は除雪体制強化のため1億2727万円の予算を計上。道路の除雪を担う建設業界は「今季も同じくらい雪が降ると考えなければ」と神経をとがらせている。 業者を悩ます「費用対効果」  気象庁によると、今冬の予報は、気温は東日本で平年並みか低い見込み、福島県を含む北日本でほぼ平年並みの見込み。降雪量は東日本の日本海側で平年並みか多い見込み、北日本の日本海側でほぼ平年並みの見込みとなっている。太平洋側は毎年予報をしていない。あくまで予報である点は念頭に置かなければならないが、少なくとも暖冬ではないということだ。  さらには、世界的な異常気象の原因となり、日本の冬に低温傾向をもたらす「ラニーニャ現象」が12月以降も続く可能性があるという。西高東低の冬型の気圧配置が強まり、寒気が流れ込みやすくなる。  2021年末から2022年初めにかけての大雪は、断続的に降り、低温が続いたため根雪ができた。雪を路肩によけても解けないため、壁のように固まり道路幅を狭め、交通が麻痺した。  2014年以来の大雪に、ツイッターでは《福島市の除雪はやっぱりヘタクソ。国道4号と13号以外はヒドイもんだ。飯坂街道などの主要道路もしっかり除雪すべき。木幡市長、除雪にもっと力を入れてくれ》など、除雪の遅さに苛立つ声が相次いで投稿された。市には2022年2月時点で2340件の苦情が寄せられたという。 なかなか雪が解けない本誌編集部前の道路  「デコボコ除雪」を教訓に、市は1億2727万円の「除雪力強化パッケージ」予算を打ち出した(表)。木幡浩市長は議会で「今回の大雪対応を検証した結果、準備態勢や除雪体制、情報発信などに課題があることを確認しました。それに基づき、2022年度当初予算で除雪力強化パッケージを盛り込み、この冬に向けて除雪力強化に取り組んでいます」と答弁している。 福島市の雪害対策予算(2022年度当初予算) 事業金額(千円以下切り捨て)排除雪に要する経費8400万円除雪車両「グレーダー」の更新3100万円凍結防止剤自動散布装置6か所設置623万円小型除雪機械購入補助120万円凍結防止剤散布車を2台新たにリース460万円委託業者の除雪技術向上研修会参加に助成金20万円合計1億2727万円  何を揃えたのか見てみよう。中央部に雪掻きが付いた「グレーダー」はこれまで1台のみだったが、新たに1台増やした。グレーダーは雪を寄せるほか、削る機能がある。前面に付いた板で雪を押し分ける「ドーザー」6台と併せ市の維持補修センターが保有する専用車両は現在8台となっている。  雪が積もる前の準備については、凍結防止剤散布車を3台から5台に増やした。また凍結防止剤を自動散布する装置を、スリップ事故が多い伏拝周辺の旧国道4号沿いに6か所設置している。  「生活道路や通学路は地域で」の方針も見える。町内会やボランティア団体を対象に、小型除雪機械購入補助として2021年度と同様に120万円を計上した。11月末現在で5件の申請があり、予算の上限を超えたことから、同じ除雪関連費用を流用しているという。その他には除雪技術向上に関する研修会の参加費として1人当たり1万円を助成する。  市で増やした機器は凍結防止剤散布車やグレーダーに限られ、歩道は地域住民が小型除雪車などを使って除雪することになる。ただ、2021年のような異例の大雪への対応は依然不安が残る。交通麻痺が起きた要因は、車道脇の固まった雪が解けずにいつまでも残っていたからだ。「ロータリー」(写真)で道路そのものから雪をどかさなければならなかった。 道路脇に溜まった雪を除去する除雪車両「ロータリー」  道路の除雪を担う委託業者はどのように備えているのか。市内でも積雪が多い飯坂町を拠点とする信陵建設の斎藤孝裕社長(66)は  「それなりに人員と予算を確保すれば対応できます。問題は、福島市は会津地方ほどの豪雪地帯ではないということ。せっかく用意しても出動する機会がなければ無駄になってしまう」  同社は除雪車を2台持つが、これまではそれで回ってきた。県道では5~10㌢、市道では10㌢の積雪が見込まれると出動するルールになっているが、斎藤社長によると、基準に達しなくても地元業者が自己判断で前もって出動するのが実情という。同社は本社周辺の国道399号の一部、県道福島飯坂線、フルーツラインの一部など5路線計約20㌔を担当している。  「前回は真夜中から出動しても降り続け、掻いても掻いてもきりがありませんでした。除雪車をリースしたり、臨時で人を雇うにしてもだいぶ前から手配しないと間に合いません。交通量や人通りの多い道路から除雪する優先順位もあり、家の前の除雪が後回しになった住民からは『何で来ないんだ』と言われました。ただ、すべての業者ができる限りの対応をしていることは理解してほしい」(斎藤社長)  同社では新たに8㌧除雪車の購入を考えたが、相場は1000万円ほど。前回ほどの大雪が毎年降るのかどうか判断が付かず、出動しなくても維持費や車検代がかかることを考えると、なかなか手が出せないという。半導体不足で中古車の相場も新車とほとんど変わらない。どこまで行っても、「豪雪地帯でない福島市でどこまで用意する必要があるか」が問題のようだ。 建設業の人手不足、人口減が重しに  除雪にかかわらず建設業界は人手不足が付きまとう。同社では、除雪車のオペレーターを2人募集しているが集まらない。給与を上げて再募集をかけているが、それでも厳しいという。  地元の道路の雪掻きは近くの住民が協力するのが原則だが、地方経済の沈下で自営業は衰退。居住地近くで働き、除雪作業に参加できる人も少ないだろう。地域の力でやるといっても、町内会を構成するのは高齢者ばかりで、体力の衰えた高齢者が主体となればなるほど除雪作業も事故が増えていく可能性がある。どこを削り、その分、どこを費やすか。雪害対策も人口減少でままならない状況が垣間見える。 福島市ホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー

  • 会津地方の農家を襲う「8050問題」

    会津地方の農家を襲う「8050問題」

     80代の老親と50代のひきこもりの子が孤立や困窮に直面する「8050問題」が進行している。会津地方のある農家は、自分の死後も病気を抱える一人息子の生活を支えようと、なけなしの田を売ることを考えたが法律の壁に阻まれた。一方で米価は下落し収入も減り、老親自身も今の暮らしで手一杯。農家の8050問題を追った。 「息子のために農地を売る」老親の覚悟  「私は息子のために農地を売りたいが、売るのを阻まれています」  会津地方に住む農家の80代男性はため息をつく。妻と40代後半の一人息子と3人暮らし。息子は高校中退後、働きに出ず、ずっと家で過ごしている。  80代の老親と50代のひきこもりの子に関わる社会問題「8050問題」が顕在化している。進学や就職に失敗したことなどをきっかけに、家にこもって外部との接触を断つひきこもりが長期化。さらに、高齢となった親の収入が途絶えたり、病気や要介護状態になったりして経済的に一家が孤立・困窮することで起こる。孤立死や「老老介護」の原因ともなりうる。  人口の多い団塊の世代が80代を迎え、その子らの第二次ベビーブーム世代が50代を迎える時、社会に与える影響は大きいと見込まれる。ただ、40~50代はバブル崩壊後の就職氷河期で「割を食った」世代。採用を抑制され、新卒時に就職先に恵まれなかったこともあり、一概に失敗を「個人の努力不足」に帰することはできない。  冒頭で嘆いた男性の息子は、10代で精神疾患を発症した。その影響からか、人とうまくなじめず不登校になったという。家族が疾患と分かったのは高校中退後だった。  「もっと早く気づいてあげたかった」(男性)  息子は現在、医療機関に通い、週2回、支援者が訪問サービスに訪れている。  「息子は調子が良い時は農業を手伝ってくれます。薬が合っているのか、最近は以前よりも体調が良いようです。車は運転できないが、自転車を使って1人で買い物に行っています。私がいなくなってもお金さえあればなんとかなると思う」(同)  規則正しく食事も取るようになった。少しずつ復調し、農業の手伝いなど自分のできることから始めようとする息子を見て、最後まで支えなければという気持ちが強くなった。  「息子は障害年金を受け取っていますが、月数万円ではとてもじゃないが暮らしていけない。私もいつ死ぬか分からない。それまでに1000万円以上は用意してあげたい。やはり最後はお金です」(同)  男性は1000万円を国民年金基金に積み立てたいと考えている。そうすれば約10年後、自分が亡くなっても60歳になった息子には月約7万円が支給されるという。国民年金基金は自営業、無職、フリーランスが対象の1号被保険者が保険料を上乗せして払い、受給額を多くする制度だ。  だが、男性が元手にできるのは農地しかない。今は約16反(1万5800平方㍍)で米を作っているが、米価は下落し、苗代や肥料、農業機械の維持費、固定資産税などを考えると赤字で、助成金で埋め合わせているという。  「田んぼをやっているのは、手を入れなくなると雑草で荒れてしまうからです。周囲の田畑に迷惑がかかるし、何しろ笑われてしまう。息子が米を作ることはないだろうから、できれば売ってしまいたい」(同)  採算が合わないのに同調圧力で仕方なく米を作っているが、そのまま農地を残せば息子にとって負債となる。だから、処分して金に換えたいというわけ。  男性は宅地にしたり、太陽光発電施設の設置業者に売却しようと考えたが、農地を転用するには農業委員会の許可が必要になる。同委員会に申し出たが「他の人が(男性の農地を取得して)農地を広げる可能性がある」と認められなかったという。  「米が値下がりしている中、わざわざ新たに田んぼを買う奇特な人がいるとは思えない。作っても手間ばかりで、儲けはほとんどないんですから。農業委員会に『農地として買う予定の人がいるのか』と尋ねても答えてくれませんでした」(同)  自分の寿命はそれほど残されていない。元気に動けるのはあと10年もないだろう。農業委員会の許可は今後得るとして、まずは業者に売却する算段を付けようとした。  太陽光発電施設の設置業者をネットで調べ電話した。東京や名古屋から複数の業者がすぐに飛んできた。営業社員の男は調子が良かった。「米を作っていたということは日当たりが良いってことです。つまり太陽光発電にもうってつけなんですよ。会津は太陽光の宝庫です」と前のめりだったが、農業委員会の許可が下りそうもないことが分かると、見切りを付けて去っていった。 「太陽光の宝庫」と発電事業者から評される会津地方の田園  男性は現在も地元の農業委員会に通っているが、「それは県農業委員会に聞いてほしい」「東北農政局じゃないと分からない」などとたらい回しにされているそうだ。 「残された時間は少ない」  なぜ、ここまで農地売却に固執するのか。それは息子のために売れる資産がそれしかないからだ。  「国は国債を際限なく発行して借金があるでしょう? 頼りになりません。自分たちの身は自分で守らないと」(同)  他人を頼る気持ちにはなれない。周囲に不信感がある。10年ほど前に近隣で連続不審火があった。原因が分からなかったため、犯人探しが始まった。「無職で家にいるアイツ(息子)じゃないか」とウワサされたという。世間はいつも、息子をこう見ていたのかと知った。周囲がとても冷たく感じられたという。  「事情を知らない役所の人は、年寄りが息せき切って土地を売ろうとしている様子を陰で笑っているんでしょうね。でも、私には残された時間が少ない。『分からず屋』と言われても、息子のために動かなければならないんです」(同)  このまま農地を売却できないことも十分想定される。筆者は男性亡き後の息子の独り立ちを考え、市町村の相談窓口や成年後見制度を紹介したが、男性はしばらくすると、また農地を売却するための方法を熱心に探り出した。「どうしても売れなくて困っている」。農地売却には高い壁が立ちはだかるが、困難であればあるほど、男性の生きる「最後の目標」になっているようだ。 あわせて読みたい 【国見町移住者】新規就農奮闘記 【福島】県内農業の明と暗

  • 【会津若松・喜多方・福島】市街地でクマ被害多発のワケ

    【クマ被害過去最多】市街地でクマ被害多発の理由

     2022年は市街地でのクマ出没やクマによる人的被害が目立った1年だった。会津若松市では大型連休初日、観光地の鶴ヶ城に出没し、関係部署が対応に追われた。クマは冬眠の時期に入りつつあるが、いまのうちに対策を講じておかないと、来春、再び深刻な被害を招きかねない。 専門家・マタギが語る「命の守り方」  会津若松市郊外部の門田町御山地区。中心市街地から南に4㌔ほど離れた山すそに位置し、周辺には果樹園や民家が並ぶ。そんな同地区に住む89歳の女性が7月27日正午ごろ、自宅近くの竹やぶで、頭に傷を負い倒れているところを家族に発見された。心肺停止状態で救急搬送されたが、その後死亡が確認された。クマに襲われたとみられる。  「畑に出かけて昼になっても帰ってこなかったので、家族が探しに行ったら、家の裏の竹やぶの真ん中で仰向けに倒れていた。額の皮がむけ、左目もやられ、帽子に爪の跡が残っていた。首のところに穴が空いており、警察からは出血性ショックで亡くなったのではないかと言われました」(女性の遺族) 女性が亡くなっていた竹やぶ  現場近くでは、親子とみられるクマ2頭の目撃情報があったほか、果物の食害が確認されていた。そのため、「食べ物を求めて人里に降りて来たものの戻れなくなり、竹やぶに潜んでいたタイミングで鉢合わせしたのではないか」というのが周辺住民の見立てだ。  8月27日早朝には、同市慶山の愛宕神社の参道で、散歩していた55歳の男性が2頭のクマと鉢合わせ。男性は親と思われるクマに襲われ、あごを骨折したほか、左腕をかまれるなどの大けがをした。以前からクマが出るエリアで、神社の社務所ではクマ除けのラジオが鳴り続けていた。 愛宕神社の参道  大型連休初日の4月29日早朝には、会津若松市の観光地・鶴ヶ城公園にクマが出没し、5時間にわたり立ち入り禁止となった。市や県、会津若松署、猟友会などが対応して緊急捕獲した。5月14日早朝には、同市城西町と、同市本町の諏訪神社でもクマが目撃され、同日正午過ぎに麻酔銃を使って緊急捕獲された。  市農林課によると、例年に比べ市街地でのクマ目撃情報が増えている。人的被害が発生したり、猟友会が緊急出動するケースは過去5~10年に1度ある程度だったが、2022年は少なくとも5件発生しているという。  鶴ヶ城に出没したクマの足取りを市農林課が検証したところ、千石バイパス(県道64号会津若松裏磐梯線)沿いの小田橋付近で目撃されていた。橋の下を流れる湯川の川底を調べたところ、足跡が残っていた。クマは姿を隠しながら移動する習性があり、草が多い川沿いを好む。  このことから、市中心部の東側に位置する東山温泉方面の山から、川伝いに街なかに降りてきた線が濃厚だ。複数の住民によると、東山温泉の奥の山にはクマの好物であるジダケの群落があり、クマが生息するエリアとして知られている。  市農林課は河川管理者である県と相談し、動きを感知して撮影する「センサーカメラ」を設置した。さらに光が点滅する「青色発光ダイオード」装置を取り付け、クマを威嚇。県に依頼して湯川の草刈りや緩衝帯作りなども進めてもらった。その結果、市街地でのクマ目撃情報はなくなったという。  それでも市は引き続き警戒しており、10月21日には県との共催により「市街地出没訓練」を初めて実施。関係機関が連携し、対応の手順を確認した。  市では2023年以降もクマによる農作物被害を減らし、人的被害をゼロにするために対策を継続する。具体的には、①深刻な農作物被害が発生したり、市街地近くで多くの目撃情報があった際、「箱わな」を設置して捕獲、②人が住むエリアをきれいにすることでゾーニング(区分け)を図り、山から出づらくする「環境整備」、③個人・団体が農地や集落に「電気柵」を設置する際の補助――という3つの対策だ。  さらに2023年からは、郊外部ばかりでなく市街地に住む人にも危機意識を持ってもらうべく、クマへの対応法に関するリーフレットなどを配布して周知に努めていく。これらの対策は実を結ぶのか、2023年以降の出没状況を注視していきたい。 一度入った農地は忘れない  本州に生息しているクマはツキノワグマだ。平均的な大きさは体長110~150㌢、体重50~150㌔。県が2016年に公表した生態調査によると、県内には2970頭いると推定される。  クマは狩猟により捕獲する場合を除き、原則として捕獲が禁じられている。鳥獣保護管理法に基づき、農林水産業などに被害を与える野生鳥獣の個体数が「適正な水準」になるように保護管理が行われている。  県自然保護課によると、9月までの事故件数は7件、目撃件数は364件。2021年は事故件数3件、目撃件数303件。2020年が事故件数9件、目撃件数558件。「件数的には例年並みだが、市街地に出没したり、事故に至るケースが短期間に集中した」(同課担当者)。  福島市西部地区の在庭坂・桜本地区では8月中旬から下旬にかけて、6日間で3回クマによる人的被害が続発した。9月7日早朝には、在庭坂地区で民家の勝手口から台所にクマが入り込み、キャットフードを食べる姿も目撃されている。  会津若松市に隣接する喜多方市でも10月18日昼ごろ、喜多方警察署やヨークベニマル喜多方店近くの市道でクマが目撃された。  河北新報オンライン9月23日配信記事によると、東北地方の8月までの人身被害数40件は過去最多だ。  クマの生態に詳しい福島大学食農学類の望月翔太准教授は「2021年はクマにとってエサ資源となるブナやミズナラが豊富で子どもが多く生まれたため、出歩くことが多かったのではないか」としたうえで、「2022年は2021年以上にエサ資源が豊富。2023年の春先は気を付けなければなりません」と警鐘を鳴らす。  「クマは基本的に憶病な動物ですが、人が近づくと驚いて咄嗟に攻撃します。また、一度農作物の味を覚えるとそれに執着するので、1回でも農地に入られたら、その農地を覚えていると思った方がいい」  今後取るべき対策としては「まず林や河川の周りの草木を伐採し、ゾーニングが図られるように見通しのいい環境をつくるべきです。また、収穫されずに放置しているモモやカキ、クリの木を伐採し、クマのエサをなくすことも重要。電気柵も有効ですが、イノシシ用の平面的な配置では乗り越えられてしまうので、クマ用に立体的に配置する必要があります」と指摘する。 近距離で遭遇したら頭を守れ クマと遭遇した時の対応を説明する猪俣さん  金山町で「マタギ」として活動し、小さいころからクマと対峙してきた猪俣昭夫さんは「そもそもクマの生態が変わってきている」と語る。 奥会津最後のマタギposted with ヨメレバ滝田 誠一郎 小学館 2021年04月20日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  「里山に入り薪を取って生活していた時代はゾーニングが図られていたし、人間に危害を与えるクマは鉄砲で駆除されていました。だが、里山に入る人や猟師が少なくなると、山の奥にいたクマが、農作物や果物など手軽にエサが手に入る人家の近くに降りてくるようになった。代を重ねるうちに人や車に慣れているので、人間と会っても逃げないし、様子を見ずに襲う可能性が高いです」  山あいの地域では日常的にクマを見かけることが多いためか、「親子のクマにさえ会わなければ、危険な目に遭うことはない」と語る人もいたが、そういうクマばかりではなくなっていくかもしれない。  では、実際にクマに遭遇したときはどう対応すればいいのか。猪俣さんはこう説明した。  「5㍍ぐらい距離があるといきなり襲ってくることはないが、それより近いとクマもびっくりして立ち上がる。そのとき、大きな声を出すと追いかけられて襲われるので、思わず叫びたくなるのをグッと抑えなければなりません。クマが相手の強さを測るのは『目の高さ』。後ずさりしながら、クマより高いところに移動したり、近くの木を挟んで対峙し行動の選択肢を増やせるといい。少なくとも、私の場合そうやって襲われたことはありません」  一方、前出・望月准教授は次のように話す。  「頭に傷を負うと致命傷になる可能性が高い。近距離でばったり出会った場合はうずくまったり、うつ伏せになり、頭を守るべきです。そうすれば、仮に背中を爪で引っかかれてもリュックを引き裂かれるだけで済む可能性がある。研修会や小学校などで周知しており、広まってほしいと思っています」  県では、会津若松市のように対策を講じる市町村を補助する「野生鳥獣被害防止地域づくり事業」(予算5300万円)を展開している。ただ、高齢化や耕作放棄地などの問題もあり、環境整備や効果的な電気柵設置は容易にはいかないようだ。  来春以降の被害を最小限に防ぐためにも、問題点を共有し、地域住民を巻き込んで抜本的な対策を講じていくことが求められている。

  • 「第8波」に入った新型コロナ

    【相馬市が分析】2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)

     相馬市は2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)の詳細な分析を行った。その内容を紹介・検証しつつ、すでに到来しつつある「第8波」に向けて、どのような対策が有効かを考えていきたい。 相馬市の陽性者分析で見えた対策  2022年11月23日時点での国内のコロナ感染者累計数は2409万4925人、死者数は4万8797人。およそ5人に1人がこれまでに罹患している計算になる。1日の感染者数で見ると、今夏の「第7波」と言われる感染拡大の中で、7月下旬から8月下旬にかけて連日20万人を超える新規感染者が確認された。その前後でも、1日に10万人から15万人の感染者が出ている。  県内で見ると、11月23日時点でのコロナ感染者累計数は24万9359人、死者数は335人。およそ7人に1人が感染している計算で、国内平均よりは低い。1日の感染者数が最も多かったのは、2022年8月19日で3584人。その前後で、2000人越え、3000人越えの日が相次いだ。7月下旬から9月上旬までが「第7波」に位置付けられる。  その後は、少し落ち着き500人から1000人弱の日が続いたが、11月中旬ごろからまた増え始めている。11月22日は3341人、23日は3191人と、過去最高に迫っている。すでに「第8波」が到来していると言えそうだ。  政府(新型コロナウイルス感染症対策本部)は、11月18日までに「今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合の対応について」をまとめた。いわゆる「第8波対策」である。  基本方針は「今秋以降の感染拡大が、今夏のオミクロン株と同程度の感染力・病原性の変異株によるものであれば、新たな行動制限は行わず、社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止措置を講じるとともに、同時流行も想定した外来等の保健医療体制を準備する」というもの。  住民は、これまでと同様、3密回避、手指衛生、速やかなオミクロン株対応ワクチン接種、感染者と接触があった場合の早期検査、混雑した場所や感染リスクの高い場所への外出などを控える、飲食店での大声や長時間滞在の回避、会話する際のマスク着用、普段と異なる症状がある場合は外出、出勤、登校・登園等を控える――等々の基本的な対策が求められる。  「第8波対策」で、これまでと大きく変わったところは、「外来医療を含めた保健医療への負荷が相当程度増大し、社会経済活動にも支障が生じている段階(レベル3 医療負荷増大期)にあると認められる場合に、地域の実情に応じて、都道府県が『医療ひっ迫防止対策強化宣言』を行い、住民及び事業者等に対して、医療体制の機能維持・確保、感染拡大防止措置、業務継続体制の確保等に係る協力要請・呼びかけを実施する」「国は、当該都道府県を『医療ひっ迫防止対策強化地域』と位置付け、既存の支援に加え、必要に応じて支援を行う」とされていること。  つまり、都道府県の判断で「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を行い、営業自粛、移動自粛などの要請ができるということだ。  こうして「第8波」に向けた対策や基本方針が定められる中、相馬市が「第7波」の感染者について詳細な分析を行ったものが今後の参考になりそうなので紹介・検証したい。  ちなみに、同市の立谷秀清市長は、医師免許を持っており、地元医師会との意思疎通が図りやすいほか、全国の医師系市長で組織する「全国医系市長会長」を務め、他市の医療体制・感染状況などの情報交換がしやすいこと、全国市長会長を務め、比較的頻繁に国と意見交換ができる環境にある、といった強みがある。 ワクチンの効果  別表は、同市で「第7波」で陽性判定を受けた人の「陽性者数と陽性率」、「年代別、ワクチン接種回数別の陽性者と陽性率」、「陽性者の症状」をまとめたもの。 第7波の陽性者数と陽性率 適正回数接種者検査対象者2万8355人陰性者2万7095人(95・6%)陽性者1260人(4・4%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 適正回数未満接種者検査対象者5157人陰性者4241人(82・2%)陽性者916人(17・8%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 年代別、ワクチン接種回数別の陽性者数と陽性率 区分接種回数陽性者 カッコ内は対象総数陽性率未就学未接種228人(1327人)17・18%1回3人(5人)60・00%2回10人(78人)11・49%小学生未接種222人(875人)25・37%1回27人(44人)61・36%2回108人(874人)12・36%中学生未接種33人(162人)20・37%1回1人(12人)8・33%2回40人(217人)18・43%3回31人(512人)6・05%高校生未接種17人(94人)18・09%1回0人(4人)0・00%2回34人(132人)25・76%3回43人(707人)6・08%青壮年未接種311人(1492人)20・84%1回7人(82人)8・54%2回149人(1091人)13・66%3回954人(1万0705人)8・91%4回125人(4007人)3・12%高齢者未接種28人(606人)4・62%1回2人(36人)5・56%2回14人(244人)5・74%3回78人(838人)9・31%4回174人(9359人)1・86%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日まで。 陽性者の症状 無症状117人4・4%軽症2501人94・8%中等症Ⅰ13人0・5%中等症Ⅱ8人0・3%重症00・0%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日。  まず、陽性者数と陽性率だが、ワクチン適正回数接種者は対象2万8355人のうち、陽性者1260人で、陽性率は4・4%、適正回数未接種者は対象5157人のうち、陽性者916人で、陽性率は17・8%となっている。なお、ワクチンの適正接種回数は60歳以上が4回、12歳から59歳が3回以上、5歳から11歳が2回。  こうして見ると、ワクチンを適正回数接種した人は、していない人に比べて、陽性率が4分の1程度になっていることが分かる。  立谷市長は「ブレイクスルー(ワクチンを適正回数接種しても感染するケース)はあるものの、ワクチンの効果はあることが証明された」と説明した。  年代別で見ると、若年層の適正回数未接種者の陽性率が高い傾向にあることが分かる。若年層は、注意をしていても、人が集まる場に行く機会が多い、移動機会が多い、といった理由から、感染リスクが高くなると言われているが、それが裏付けられたような結果だ。対象的に、高齢者は適正回数接種者の陽性率は1・86%、それ以外でも10%以下と低くなっている。高齢者や基礎疾患がある人は重症化のリスクが高まるとされていることなどから、十分注意していることがうかがえる。  一方、陽性者の症状を見ると、94・8%が軽症となっており、無症状を含めると、99%以上が無症状・軽症になる。残りの0・8%は中等症Ⅰ、Ⅱで重症はゼロ。なお、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」によると、中等症Ⅰは「呼吸困難、肺炎所見」、中等症Ⅱは「酸素投与が必要」とされている。  立谷市長は以前の本誌取材に「ウイルス側も寄生するところがなくなったら生存できないわけだから、オミクロン株などに形を変えて『広く浅く』といった作戦に切り替えてきた。それをわれわれ人間がどう迎え撃つか。その戦いだ」と語っていたが、まさにそういった状況になっていることが分かる。 立谷市長  「今後、『第8波』が来る。年末年始で人の動きが活発になるということもあるが、基本的にこうしたウイルスは厳冬期は活性化しますからね」(立谷市長)  もっとも、対策としては「これまで継続してやってもらっている基本対策(消毒、マスク着用、密回避など)と、早期のワクチン接種しかない。『第8波』が来る前に、11月上旬からワクチン接種を実施している」(立谷市長)とのことで、そこに尽きるようだ。 新型コロナ体験談  郡山市に住む50代男性。妻、子ども3人、義父母と暮らしています。 最初に感染したのは高1の娘。11月初めの夕方、高校に迎えに行くと喉がイガイガすると言う。まさかコロナじゃないだろうなと思いながら念のため車の窓を開けたが、娘も私もマスクを外していた。すると翌日、娘は咳をし出して発熱。病院でPCR検査を受け、陽性と判定された。 その2日後、私の体調に異変が表れた。喉がイガイガし、翌朝さらに酷くなった。次第に乾いた咳をするようになり、熱は38度台半ばに達した。抗原検査キットで陽性を確認。頭痛、寒気、関節の鈍い痛み等にも襲われ、寝るのもしんどい。解熱剤を服用してようやく眠れたが、その後、微熱と平熱を3、4日繰り返した。頭痛や寒気は翌日収まったが、喉のイガイガと咳は6日ほど続いた。寝過ぎた際に頭がボヤーっとする感じもしばらく残った。 私が発症した2日後には小学4年の次男も同じ症状に見舞われたが、幸い他の家族には広がらず、3人の感染で食い止めることができた。 私はワクチンを3回接種し、4回目の予約を検討しているところだった。インフルエンザに罹った時よりは辛くなかったが、できればもう感染したくないですね。 あわせて読みたい 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー コロナで3割減った郡山のスナック

  • 【FSGカレッジリーグ】仮想空間で授業を実施【実証事業の様子】

    郡山市の専門学校【FSGカレッジリーグ】仮想空間で授業を実施

     専門学校グループ「学校法人国際総合学園 FSGカレッジリーグ」(郡山市)は1984(昭和59)年の開校以来、38年間積み上げてきた指導ノウハウと、2万0900人以上の卒業生ネットワークによる学生支援体制を備え、若者の学び場の充実を図り続けてきた。同グループは5校57学科で構成されており、東北最大級の規模を誇る。  グループ校の一つ、国際アート&デザイン大学校では9月、米国発メタバース「Virbela(バーベラ)」の日本向けプラットフォーム「GIGA TOWN(ギガタウン)」を活用した実証授業を実施した。専門学校としては初の試み。  メタバースとはインターネットの中に構築された仮想空間のこと。自分自身の分身(アバター)を操作して他者と交流できる。ゲームなどで使われてきたが、近年はビジネスシーンでの利用も進んでおり、今後の成長が見込まれている。  同校は「ギガタウン」の日本公式販売代理店・㈱ガイアリンク(長野県)と連携。学生らはアバターを使って「ギガタウン」での授業に参加し、事例研究、ゲーム、ディスカッション、グループ発表などを行った。  参加した学生からは「実際にその場で授業を受けているような臨場感があり、楽しかった。テーブルごとに個別通話できたり、画面を複数に分けて資料を提示できるなど、さまざまな機能があり、使いやすかったです」との声が聞かれた。  実証授業は学生の夢や目標達成のためのスキル、コミュニケーション力を育む目的で行われたもの。同校では5月にも、ICT関連やデジタルコンテンツ分野の教育機関を運営するデジタルハリウッド㈱(東京都)と連携し、アバター生成・操作のアプリケーションを使用した実証授業を行っている。  同グループでは教育のICT化を進める「Ed―Tech推進室」が中心となって、ICT技術・デジタル化を活用した効果的な授業の在り方を検討しており、同校の授業に積極的に取り入れている。  例えば、同校コミックマスター科では県内で初めて、アニメーション制作ソフト「Live2D」を授業に導入した。同ソフトは低コストで原画の画風を保ったアニメーションが制作できることから、家庭用ゲームやスマートフォンアプリに多く使用されている。同校は「Live2D」モデル作成ソフトライセンス無償貸与の教育支援プログラム認定校に県内で唯一指定されているため、授業での使用が可能となった。  一方でアナログテクニックを身に付ける実習も充実させており、どんな現場にも対応できる即戦力のスペシャリストの養成に努める。  ICT関連の資格取得も全力で支援しており、「PhotoShop(フォトショップ)クリエイター能力認定試験」の合格率は100%を誇る。さらにCGクリエイター検定の文部科学大臣賞を全国で唯一3年連続受賞している。  同グループが目標として掲げているのは「ONLY1、No・1」の教育実績。今後もコロナ禍以降本格的に導入したICT教育を発展させる形で、メタバースを活用した授業を推進し、学生一人ひとりのニーズに沿った教育を行うことで、夢の実現をサポートしていく考えだ。 FSGカレッジリーグのホームページ FSGカレッジリーグのオープンキャンパス・保護者説明会に参加する

  • 京都・仁和寺で「カラー絵巻」一般公開

    京都・仁和寺で「カラー絵巻」一般公開【福島県双葉町出身学芸員が解説】

     京都を代表する古刹・仁和寺で、明治時代に作られた「戊辰戦争絵巻」のデジタル彩色版が12月8日まで一般公開されている。福島県と何かと関係が深い戊辰戦争だが、その絵巻がなぜいま京都の寺院でカラー化されて公開されたのか。双葉町出身の学芸員に、その背景や一般公開の見どころを解説してもらった。 デジタル技術で蘇る戊辰戦争の風景 仁和寺金堂  仁和寺は888(仁和4)年、宇多天皇が先帝の光孝天皇の遺志を継いで創建した寺院で、真言宗御室派の総本山。1994(平成6)年にユネスコの世界遺産に登録された。境内に咲く遅咲きの「御室桜」が有名で、和歌などにも詠まれている。  皇族や公家が出家して住職を務める門跡寺院で、歴代天皇の厚い帰依を受けたことから、優れた絵画・書籍・彫刻・工芸品が数多く所蔵されている。創建当時の本尊である「阿弥陀三尊像(国宝)」をはじめ、国宝12件、重要文化財48件、古文書数万点を保存・管理している。  そんな同寺院の所蔵物の一つである「戊辰戦争絵巻」をデジタル彩色するプロジェクトが進められている。  戊辰戦争の幕開けとなった1868(明治元)年の「鳥羽伏見の戦い」を描いた絵巻で、全39場面。幅31㌢、長さは上下巻合わせて約40㍍。  「歴史資料に光彩を与えたことで、情報がより写実的になりました。例えば紅蓮の炎や血色染まる兵士の姿は、視覚的に凄惨さを増しましたが、その痛ましさに想像力を持って向き合うことで、絵巻に描かれていることは『物語』ではなく『歴史』であるという気づきをもたらすのではないか、と思います」  デジタル彩色の狙いについて、こう解説するのは双葉町出身の仁和寺学芸員・朝川美幸さんだ。  1971(昭和46)年生まれ。双葉高校、東洋大文学部卒。立命館大学大学院文学研究科博士前期課程を修了。年数回開催される仁和寺霊宝館名宝展の企画・展示を担当。共著に『もっと知りたい仁和寺の歴史』(東京書籍)がある。小さいころに真言密教に興味を抱き、仏教のことを学び続けている専門家だ(本誌2018年1月号参照)。  朝川さんによると、仁和寺と戊辰戦争のつながりは深い。仁和寺第30世の純仁法親王は1867(慶応3)年に還俗(出家した人が俗人に戻ること)し、仁和寺宮嘉彰(にんなじのみやよしあきら)親王と名を改めた。その後、征夷大将軍に任命され、鳥羽伏見の戦いで新政府軍を率いた。出陣の際には仁和寺に仕えていた坊官や寺侍が警備に回った。  明治の世になってから、時代の転換点となった戦争を記録し、その事実を絵巻として残すことになった。戦争体験者の東久世通禧伯爵と林友幸子爵が計画し、1889(明治22)年に完成。明治天皇に献上された。1891(明治24)年には保勲会がモノクロ、木版画の複製品を若干部制作し、仁和寺などに寄贈した。  ただ、制作数が少なく事実を広く知ってもらうには至らなかったことから、絵巻の一部を新たに着色し、『錦の御旗』と改題して一般向けに刊行した。  今回のプロジェクトは、仁和寺に所蔵されていた絵巻(複製品)を超高精細スキャンによりデジタル化。『錦の御旗』や解説本の記述、専門家などの考証を参考に彩色し直して、原寸大で和紙に印刷するものだ。  デジタル彩色は「先端イメージング工学研究所」(京都市左京区)代表理事で、京都大学名誉教授の井手亜里さんが率いるプロジェクトチームが担当。10カ月かけて彩色を行い、ようやく完成した。 デジタル彩色のメリット  絵巻の撮影に同席し、一部の絵巻の解説文執筆も担当した朝川さんはこう説明する。  「超高精細デジタルスキャニング技術で撮影したことで、現物を何度も広げずに済み、画像を拡大してより細かい描写を読み解けるようになりました。保存・分析、両面でメリットがあったと思います。また、着色したことで、戊辰戦争の様子をイメージしやすくなり、幅広い方に興味を持っていただきやすくなったと思います」 仁和寺霊宝館で解説する朝川さん  完成したデジタル彩色絵巻は2022年12月3~8日まで「令和絵巻に見る仁和寺と戊辰戦争」特別展で一般公開される。デジタル彩色絵巻と元来の絵巻(複製)の比較展示のほか、デジタル彩色絵巻をタッチパネル式の画面で見ることができる。好きな場所を指定して拡大することで高精細な画像の閲覧が可能。またオリジナル映像を視聴するコーナーも設けられている。12月3日には、絵巻に合わせて講談師・神田京子さんが講談を行うライブも開かれた。 ジタル彩色された「戊辰戦争絵巻」の一部(上は「第二図会津藩伏見上陸」、下は「第十三図征討大將軍節刀拜受」=画像:先端イメージング工学研究所提供)  同プロジェクトは文化庁の「Livng History(生きた歴史体感プログラム)促進事業」に採択されている。文化庁は京都への移転準備を進めており、2023年3月27日にはいよいよ業務が開始される。移転の目的は東京一極集中の是正に加え、「文化の力による地方創生」、「地域の多様な文化の掘り起こし・磨き上げによる文化芸術の振興」というもの。デジタルの力を使い地方の寺院に眠る歴史的資料の価値を磨き上げる同プロジェクトは、象徴的な活動と言えよう。  一般公開は期間限定であり、福島から離れているので、気軽には行けないかもしれないが、仁和寺は何かと福島に縁のある場所。世界遺産の建物や所蔵物が展示されている霊宝館(期間限定公開)はもちろん、春は桜、秋は紅葉が美しい観光スポットでもある。機会があればぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。 仁和寺ホームページ 【エアトリ】で予約して仁和寺に旅行をする

  • 【南会津合同庁舎内で県職員急死!?】詳細を明かさない南会津地方振興局

     昨年11月下旬、南会津町の福島県南会津合同庁舎で県職員とみられる中年男性が死亡していたという。同庁舎で何が起きていたのか、一部の町民の間でウワサになっている。  町民の話を総合すると、職員が亡くなっていたのは11月22~23日で、朝、出勤した職員が発見した。「中年男性が土壌などを調べる部屋で倒れていた」、「パトカーや救急車が出入りして車を囲んでいた」、「現場の状況から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い」という。  同庁舎には南会津地方振興局、南会津農林事務所、南会津建設事務所、南会津教育事務所が入っている。同庁舎を管理している振興局に確認したところ、「(亡くなった職員がいるという)話があったのは事実」と認めたものの、年齢や性別、所属部署、死因については「職員や遺族のプライバシーを尊重する観点」から詳細な説明を避けた。  「仮に何らかの事故で亡くなっていたり、殺人事件などに巻き込まれたとしたら、周りの住民は不安になる。行政機関として、ある程度は公表する義務があるのではないか」とただしたところ、「今回は公表する事例には当たらないと判断した」と話した。こうした回答から判断する限り、自ら命を絶った可能性が高い。  職場を最期の場所に選んだのには、どんな背景があったのか。組織として改善すべき問題があった可能性も考えられるが、同振興局は口を閉ざし、詳細も報道されていない。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 計量法抵触事例を公表していなかった柳津町

     昨年11月上旬、本誌編集部に柳津町の水道メーターに関する情報が寄せられた。  「2018年ごろに町内の水道メーターを一斉更新したが、それまでは10年以上経過したものが設置されていた。法律では検定有効期限が8年と定められている。普通は少しずつ更新するものだが、内部の指摘を受け慌てて一斉更新したらしい。町民には公表していないが、法に抵触していた事実を伏せたままにしているのはまずいのではないか」  複数の町民によると、同町では民間団体などに検針業務を委託しており、一般住民でも水道メーターに触れる機会があるという。情報提供者は名前を名乗らなかったが、何らかの形で水道メーターを見ていた町民と思われる。  計量法施行令では水道メーターの検定有効期限が8年と定められており、交換を怠った場合、「6月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされている。  情報提供の内容は事実なのか。柳津町に問い合わせたところ、建設課上下水道係の佐藤雄一係長からファクスで回答が寄せられた。それによると、「有効期限が切れているものがあった事実は認識しております」という。  どういうことか。同町では2017年に1200基分を更新するため、当初予算で462万6188円の予算を計上し、更新を行っていた。  同町ホームページに掲載されている同年1月1日現在の町世帯数は1307世帯。町内の大半の水道メーターを一気に更新しようとしていたことになる。  ところが、2018年8月、県計量検定所の立入検査時に有効期限が切れているもの(前年に交換されていなかったもの。基数は不明)が一部あることが判明。町議会9月定例会で予算計上し、同年12月までに交換を行った。翌19年1月には再度県計量検定所の立ち入り検査を受け、是正確認を受けた。  実は水道メーターの有効期限切れは全国で起きている。例えば、昨年10月には、山口県下関市で、委託業者による取り換え業務が遅れ、1294戸分の水道メーターが有効期限切れとなった。いずれの場合も当局が記者会見などで公表しきちんと謝罪している。ところが、柳津町は「(県計量検定所に)改善計画書及び改善報告書を提出したため、公表は必要ないと思った」(佐藤係長)という。  水道業関係者によると「有効期限切れのメーターは回りにくいし、ゴムの部品などが劣化するので、正確な水道料金が算出されていなかった可能性が高い」と語る。つまり、町民にも影響する問題なのだが、町は公表していなかったことになる。  水道業関係者によると、会津地方の町村では水道関係部署は担当者1~2人で、専門知識を持つ職員も少ないという。水道メーター更新の作業が計画通り進まない面があったのかもしれない。  仮にそうだとしても、周囲の職員は、有効期限切れの事実を公表しないことに違和感を抱かなかったのか。議会はチェックできなかったのか。疑問は多い。  県計量検定所の担当者によると、「有効期限切れなどが分かった場合も、いきなり罰則の対象になることはなく、まずは当検定所から速やかに更新するように働きかけます」という。そもそも数年前に起きた案件で、すでに解決済みでもある。それでも、計量法違反状態が発生していたのは事実。そのことを自ら公表して反省・検証しないと、また再び同じ事態を招くのではないか。 あわせて読みたい 【奥会津編】合併しなかった福島県内自治体のいま

  • 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審

     本誌昨年2月号に「棄却された田村バイオマス住民訴訟 控訴審、裁判外で『訴え』続ける住民団体」という記事を掲載した。田村市大越町に建設されたバイオマス発電所に関連して、周辺の住民グループが起こした住民訴訟で昨年1月25日に地裁判決が言い渡され、住民側の請求が棄却されたことなどを伝えたもの。  その後、住民グループは昨年2月4日付で控訴し、6月17日には1回目の控訴審口頭弁論が行われた。裁判での住民側の主張は「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しており、それに基づいて市は補助金を支出している。しかし、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問があり、市の補助金支出は不当」というものだが、原告側からすると「一審ではそれらが十分に検証されなかった」との思いが強い。  ただ、二審では少し様子が違ったようだ。  「一審では、実地検証や本田仁一市長(当時)の証人喚問を求めたが、いずれも却下された。バグフィルターとHEPAフィルターがきちんと機能しているかを確認するため、詳細な設計図を出してほしいと言っても、市側は守秘義務がある等々で出さなかった。フィルター交換のチェック手順などの基礎資料も示されなかった。結局、二重のフィルターが本当に機能しているのか分からずじまいで、HEPAフィルターに至っては、本当に付いているのかも確認できなかった。にもかかわらず、判決では『安全対策は機能している』として、請求が棄却された。ただ、控訴審では、裁判長が『HEPAフィルターの内容がはっきりしない。具体的資料を出すように』と要求した」(住民グループ関係者)  そのため、住民グループは「二審では、その辺を明らかにしてくれそうで、今後に期待が持てた」と話していた。  その後、8月26日に2回目、11月18日に3回目の口頭弁論が開かれた。3回目の口頭弁論で、同期日までに提出された書類を確認した後、裁判長は「これまでに提出された資料から、この事件の判決を書くことが可能だと思う。控訴人から出されている証人尋問申請、検証申立、文書提出命令申立、調査嘱託申立は、必要がないと考えるので却下する。本日で結審する」と宣言した。  原告(住民グループ)の関係者はこう話す。  「被告はわれわれの様々な指摘に『否認する』と主張するだけで、何ら具体的な説明をせず、データや資料なども出さなかった。論点ずらしに終始し、二審でようやく資料のようなものが出てきたが、それだってツッコミどころ満載で、最終的には『HEPAフィルターは安心のために設置したもので、集塵率などのデータは存在しない』と居直った。裁判長は、これまでの経過から、事業者が設置したとされるHEPAフィルターが、その機能、性能を保証できない『偽物』『お飾り』であると分かったうえで結審を宣言したのか。それとも、一応、原告側の言い分を聞いてきちんと審理したとのポーズを取っただけなのか」  当初は、「一審と違い、HEPAフィルターの効果などをきちんと審理してくれそうでよかった」と語っていた住民グループ関係者だが、結局、証人尋問や現地実証は認められず、最大のポイントだった「HEPAフィルターの効果」についても十分な審理がなされたとは言い難いまま結審を迎えた。このため、原告側は不満を募らせているようだ。  判決の言い渡しは、2月14日に行われることが決まり、まずはそれを待ちたい。 あわせて読みたい 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

     一般社団法人・日本損害保険協会は昨年10月26日、最新の「全国交通事故多発交差点マップ」を公表した。同マップには都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載されている。それを基に、県内ワーストとなった交差点での人身事故のケースなどを検証すると同時に、あらためて事故防止のためにどういったことを心がければいいか考えていきたい。 福島県内ワーストは会津若松市「北柳原交差点」  一般社団法人・日本損害保険協会の広報担当者によると、「全国交通事故多発交差点マップ」は、交差点・交差点付近での交通事故防止・軽減を目的に、各都道府県の地方紙(記者)の協力を得て作成したという。データは2021年のもので、毎年、同時期に更新されている。同マップでは、都道府県別に人身事故が多い交差点ワースト5が掲載され、人身事故のケースや交差点の特徴、予防策などが紹介されている。  マップとともに掲載されたリポートによると、福島県全体の過去5年の人身事故件数、死傷者数の推移は別表の通り。人身事故の発生件数、死傷者数ともに年々減少傾向にあることが分かる。  一方で、2021年の人身事故2997件のうち、1653件(55・2%)が交差点とその付近で発生している。こうして見ても、やはり交差点とその付近はより注意が必要であることが分かっていただけよう。  では、実際にどこの交差点での人身事故が多かったのか。  ワースト1は、会津若松市一箕町の「北柳原交差点」だった。国道49号と国道118号が交差するところだ。さらに、そこから600㍍ほど東側に行ったところにある「郷之原交差点」がワースト2タイになっている(地図参照)。  もっとも、ワースト1の「北柳原交差点」とその付近で起きた人身事故は5件、ワースト2タイの「郷之原交差点」とその付近は4件だったから、びっくりするほど多いというわけではない。 「北柳原交差点」 郷之原交差点  ちなみに、そのほかのワースト2タイは、いわき市常磐の「下船尾交差点」、同市小名浜の「御代坂交差点」、郡山市横塚の「横塚三丁目交差点」喜多方市一本木上の「塗物町交差点」、福島市渡利の「渡利弁天山交差点」、同市仲間町の「仲間町交差点」の計6カ所。 その中から、今回はワースト1の会津若松市一箕町の「北柳原交差点」と、そのすぐ近くにある「郷之原交差点」について検証してみる。 まず「北柳原交差点」だが、国道49号と国道118号が交差する地点で、朝夕を中心に交通量が多い。国道49号の会津坂下方面から猪苗代方面に向かうと交差点付近が下り坂になっており、右折レーンが2車線ある、といった特徴がある。 「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートにも、交差点の特徴として、「国道同士が交わる交差点であり、東西に延びる国道は東側に向け下り坂、南北に延びる国道は交差点を頂上にそれぞれ下り坂になっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」と記されている。 実際の事故事例  事故の種別は重傷事故が1件、軽傷事故が4件、事故類型は右折直進が2件、追突、右折時、出会い頭がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「信号無視により、右折車両と衝突した」、「対向車が来るのをよく確認せずに右折したことにより、対向車と衝突した」と書かれており、予防方策としては「交通法規を遵守し、信号をよく確認して運転する」、「交差点を通行する際は、対向車がいないかよく確認し、速度を控えて運転する」と指摘している。  そこから東(国道49号の猪苗代方面)に600㍍ほど行ったところにあるのがワースト2タイの「郷之原交差点」。国道49号と県道会津若松裏磐梯線(通称・千石バイパス)が交わるT字路となっている。  マップのリポートには、交差点の特徴として、「東西に国道49号、南側に主要地方道会津若松裏磐梯線がそれぞれ交わる交差点であり、国道49号がカーブとなっている」、交差点の通行状況として、「恒常的に渋滞している」とある。  事故の種別は軽傷事故が4件、事故類型は追突が2件、右折時、左折時がそれぞれ1件となっている。  実際の事故のケースは「脇見等の動静不注視により、前車に追突した」、予防方策としては「運転に集中し、前車の動きや渋滞の発生を早めに見つけられるようにする」と書かれている。 ドライバーの声  普段、両交差点(付近)をよく走行するドライバーに話を聞いた。  「正直、『北柳原交差点や郷之原交差点とその付近で事故が多い』と言われても、ピンと来ない。そんなに〝危険個所〟といった認識はありませんね。ただ、いつも混んでいる印象で、当然、交通量が多ければそれだけ事故の確率も上がるでしょうから、そういうことなのかな、と思いますけどね」(仕事で同市によく行く会津地方の住民)  「両交差点に限ったことではないが、会津若松市内では県外ナンバー(観光客)をよく見る。普段、走り慣れていない人が多いことも要因ではないか」(ある市民)  「北柳原交差点は、国道49号を会津坂下方面から猪苗代方面に走行すると、下り坂になっていて見通しはあまり良くないですね。加えて、その方向に走ると、右折レーンが2つあり、本当は直進したいのに間違って右折レーンに入ってしまい、直進レーンに無理に戻ろうとしたクルマに出くわし、ビックリしたことがありました。郷之原交差点はT字路のため、左折信号があり、ちょっと気を抜いていると、それ(左折信号が点いたこと)に気づかないことがあります。その場合、後方から追いついてきたクルマに衝突される可能性が考えられます。そういったケースが事故につながっているのではないかと思います。もう1つは、両交差点に限ったことではありませんが、(積雪・凍結等の恐れがあるため)会津地方での冬季の運転はやっぱり怖いですよね」(同市をよく訪れる営業マン)  いずれの証言も、「なるほど」と思わされる内容。両交差点を通行する際はそういった点での注意が必要になろう。 「交通白書」記載の事例  ここからは、会津若松地区交通安全協会、会津若松地区安全運転管理者協会、会津若松地区交通安全事業主会、会津若松市交通対策協議会、会津若松警察署が発行している「令和3年 交通白書」を基に、さらに深掘りしてみたい。  2021年に同市内で起きた人身事故は167件で、死者1人、傷者186人となっている。2012年は633件、死者5人、傷者764人だったから、この10年でかなり改善されていることが分かる。人身事故発生件数が200件を下回ったのは1962年以来59年ぶりという。  同市内の人身事故の特徴は、「交差点・交差点付近の事故が全体の6割を占める」、「8時〜9時、17時〜18時の発生割合が高い」、「追突・出会い頭事故が全体の約6割を占める」、「国道49号での発生割合が高い」、「高齢運転者の事故が増加している」と書かれている。  実際に事故が多い交差点の状況についても記されており、当然、前述した「北柳原交差点」と「郷之原交差点」がワースト地点に挙げられている。ただ、同白書によると、両交差点での事故件数はともに6件となっており、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」に記された件数と開きが生じている。  会津若松署によると、その理由は「物件事故を含んでいることと、どこまでを交差点(交差点付近)と捉えるか、の違いによるもの」という。  同白書によると、「北柳原交差点(同付近)」の事故ケースは、右折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、出会い頭など、「郷之原交差点(同付近)」の事故ケースは追突、左折時に歩行者・自転車と接触、私有地から交差点に進入した際の歩行者・自転車との接触などが挙げられている。  このほか、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」には入っていなかったが、「北柳原交差点」から国道49号を西(会津坂下方面)に600㍍ほど行ったところにある「荒久田交差点」も両交差点に次いで事故が多い地点として挙げられている(2021年の事故発生件数は5件)。  同交差点(付近)では、左折時に歩行者・自転車と接触、右折時に対向車と衝突、追突といった事故事例が紹介されている。  会津若松署では、「やはり、単路より交差点での事故が多く、交差点付近では一層の注意が必要。心に余裕を持った運転を心がけてほしい」と呼びかける。  さらに、同署では、これら交差点に限らず、酒気帯び等の悪質なケースの取り締まり、事故被害を軽減するシートベルト着用の強化、行政・関係団体と連携した講習会の開催、道路管理者と連携した立て看板・電光掲示板での呼びかけなど、事故防止に努めている。  一方で、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」のリポートでは、「地元警察本部の取り組み」として、以下の点が挙げられている。  ○モデル横断歩道  各署・各分庁舎管内における信号機のない横断歩道で、過去に横断歩行者被害の交通事故が発生した場所や学校が近くにある場所、または、車両および横断歩行者が多いため、対策を必要とする場所を「モデル横断歩道」と指定し、横断歩行者の保護を図るもの。  ○参加・体験型交通安全講習会(運転者、高齢歩行者、自転車)  運転者、高齢歩行者、自転車の交通事故防止のため、警察職員が県内各地に出向き、「危険予測トレーニング装置(KYT装置)」等を使用して、参加・体験型の交通安全講習会を実施するもの。  ○家庭の交通安全推進員による高齢者への反射キーホルダーの配布  県内の全小学校6年生(約1万5000人)を「家庭の交通安全推進員」として各署・分庁舎で委嘱しており、その家庭の安全推進員の活動を通じて、祖父母など身近な高齢者に対して、交通安全のアドバイスをしながらお守り型の反射キーホルダーを手渡してもらうもの。  ○自転車指導啓発重点地区・路線の設定、公表による自転車交通事故防止対策の推進  警察署ごとに自転車事故の発生状況等を基に自転車指導啓発重点地区・路線を設定し、同地区・路線において自転車事故防止、交通事故防止の広報啓発を実施。 福島市で暴走事故  今回は、日本損害保険協会の「全国交通事故多発交差点マップ」を基に、事故が多い交差点の紹介、その形状と特徴、事故発生時の事例、注意点などをリポートしてきたが、県内では昨年秋、高齢の男がクルマで暴走するというショッキングな事故があった。  この事故は11月19日午後4時45分ごろ、福島市南矢野目の市道で起きた。97歳の男が運転するクルマ(軽自動車)が歩道に突っ込み、42歳の女性がはねられて死亡。その後、信号待ちで前方に停止していたクルマ3台にも衝突し、街路樹2本をなぎ倒しながら数十㍍にわたって走行した。衝突されたクルマのうち、2台に乗っていた女性4人が軽傷を負った。  軽自動車を運転していた97歳の男は、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の疑いで逮捕された。男は2020年夏に、免許を更新した際の認知機能検査では問題がなかったという。  地元紙報道には、事故に巻き込まれたドライバーの「こんな人が運転していいのかと感じた」という憤りの声が紹介されていた。  その後の警察の調べでは、現場にブレーキ痕はなかったことから、ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いという。  この事故を受け、警察庁の露木康浩長官は記者会見で、「(高齢運転者対策の)制度については不断の見直しが必要」との見解を示した。警察庁長官がそうしたことに言及をするのは異例と言える。  このほか、週刊誌(オンライン版)などでも、この事故が取り上げられ、逮捕された男の人物像に迫るような記事もいくつか見られた。  そのくらい、ショッキングな事故だったということである。  地方では、クルマを運転する人は多いが、ハンドルを握るということは、それ相応の責任が生じる。そのことを自覚し、各ドライバーが無理のない運転を心がけ、より注意を払い、事故防止のきっかけになれば幸いだ。 あわせて読みたい 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

  • 私が出産後も働き続けた理由

    福島県内在住フリーライター みきこ  県内の女性は働くことについてどういう思いを抱いているのか。県内在住のフリーライター・みきこさんに自身の体験や周囲の女性の声について執筆してもらった。  就職して結婚、出産するまでの約10年間、介護業界で働き、副業でライターの仕事もしていた。なかなか子宝に恵まれず、「仕事との両立は難しい」とされる不妊治療を受けていたが、その間も働き続けていた。たとえ妊娠・出産しても仕事を辞めるつもりは全くなかった。  ようやく子どもを授かり、1500㌘にも満たない極低出生体重児を出産した。子どもは病弱で心臓に疾患があった。育休が終わるとき、「仕事で代わりの人はいるけど、母親の代わりはいない」と考え、休職して子育てに専念することにした。  ただ、「病気がちな子を抱えていたら、これからもっとお金がかかるはず」と、子どもが1歳を過ぎたころライター業を再開した。在宅で子育てしながら働けて、文章と向き合う仕事は性に合っていた。  子どもは成長に伴い体が丈夫になり、運動制限が解除された。3歳になると幼稚園に入園した。自分の時間が増えて、まず考えたのは「これからどう仕事をしていくか」ということだった。  「男性は妻を養う」、「女性は夫がいるからいつでも仕事を辞められる」という価値観を持つ人はまだまだ多い。実は私もその一人だった。  しかし、子どもとの生活で、仕事に対する考えは大きく変わった。「生活の中心は子どもだが、ある程度経済的に自立したい」、「育児、家事の合間にできる仕事をしたい」と望むようになった。小さい子を持つ母親は同じく考える人が多いのではないか。もちろん、これは配偶者が収入を得ているからできることで、そのことに感謝しなければならない。  一方で、「キャリアは捨てたくない」、「家計が厳しいから仕事したい」、「小さい子どもとずっと一緒だと息が詰まるから働きに出たい」という意見もある。どの意見も正しいし、その人が置かれた状況によって考えが違うのは当然である。  私の場合、休職中も介護の仕事の同僚や上司から、定期的に連絡を受けていた。会社から必要とされていると実感できてうれしかったし、仕事自体も好きだった。だからパートとして復職し、ライターの仕事も副業として続ける道を選んだ。職場と同僚の理解を得て働き続けられるのだから恵まれている。  もっとも、すべての女性が希望する形で働き続けられるとは限らない。  介護業界に限らず、多くの業界でパート勤務を希望する女性は「平日の昼間だけ働きたい」という人が圧倒的多数だ。家事・子育てとの両立を考えてのことだろうが、当然好条件の仕事には応募が集中する。友人・知人からは「人にはないスキルや資格がないと、希望の条件で働くのは難しい」、「継続して働きたかったが派遣切りにあった」、「仕事は好きだったが職場で派閥があって、人間関係が苦痛で仕事を辞めた」という声をよく耳にする。  逆に、キャリアを積んでバリバリ働きたい女性からは「やりたい仕事ができず自ら離職した」という意見が多く聞かれた。ちなみに、厚生労働省の令和2年雇用動向調査結果によると、女性の転職入職者が前職を辞めた理由のトップは人間関係だ。  男性に比べ、女性は結婚・出産などライフステージの変化が多く、キャリアが中断されがちだ。  家庭生活を充実させながらやりがいのある仕事に就き、キャリアアップしていける働き方が理想だが、それを実現できる企業は県内にどれぐらいあるのだろう。  こうした点が、本県において女性の県外転出が多い一因となっているのではないだろうか。 あわせて読みたい 【女性流出】全国ワーストの福島県

  • 【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工

     喜多方市で土壌汚染と地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)は、会津北部土地改良区が管理する用水路への「処理水」排出を強行しようとしている。同社は同土地改良区と排水時の約束を定めた「覚書」を作成し、住民にも同意を迫っていたが、難航すると分かると同意を得ずに流そうとしている。同土地改良区の顔を潰したうえ、住民軽視の姿勢が明らかとなった。 見せかけだった土地改良区の「住民同意要求」 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。  昭和電工喜多方事業所の敷地内では、2020年に土壌汚染対策法の基準値を上回るフッ素、シアン、ヒ素、ホウ素による土壌・地下水汚染が発覚した。フッ素の測定値は最大で基準値の120倍。汚染は敷地外にも及んでいた。県が周辺住民の井戸水を調査すると、フッ素やホウ素で基準値超が見られた。フッ素は最大で基準値の4倍。一帯では汚染発覚から2年以上経った今も、ウオーターサーバーで飲料水を賄っている世帯がある。  原因は同事業所がアルミニウムを製錬していた40年以上前に有害物質を含む残渣を敷地内に埋めていたからだ。同事業所がこれまでに行った調査では、敷地内の土壌から生産過程で使用した履歴がないシアン、水銀、セレン、ヒ素が検出された。いずれも基準値を超えている。  対策として昭和電工は、  ①地下水を汲み上げて水位を下げ、汚染源が流れ込むのを防止  ②敷地を遮水壁で囲んで敷地外に汚染水が広がるのを防止  ③地下水から主な汚染物質であるフッ素を除去し、基準値内に収まった「処理水」を下水道や用水路に流す  という三つを挙げている。「処理水」は昨年3月から市の下水道に流しており、1日当たり最大で300立方㍍。一方、用水路への排出量は計画段階で同1500立方㍍だから、主な排水経路は後者になる。  この用水路は会津北部土地改良区が管理する松野左岸用水路(別図)で、その水は農地約260㌶に供給している。同事業所は通常操業で出る水をここに流してきた。  周辺住民や地権者らは処理水排出に反対している。毎年、大雨で用水路があふれ、水田に濁流が流れ込むため、汚染土壌の流入を懸念しているのだ。昨年1月に希硫酸が用水路に流出し、同事業所から迅速かつ十分な報告がなかったことも、昭和電工の管理能力の無さを浮き彫りにした。以降、住民の反対姿勢は明確になった。  昭和電工はなぜ、反対を押しのけてまで用水路への排出を急ぐのか。考えられるのは、公害対策費がかさむことへの懸念だ。  同事業所は市の下水道に1カ月当たり4万5000立方㍍を排水している。使用料金は月額約1200万円。年に換算すると約1億4000万円の下水道料金を払っていることになる(12月定例会の市建設部答弁より)。  昨年9月に行われた住民説明会では、同土地改良区の用水路に処理水排出を強行する方針を打ち明けた。以下は参加した住民のメモ。  《住民より:12月に本当に放流するのか?  A:環境対策工事を実現し揚水をすることが会社の責任であると考えている。それを実現する為にも灌漑用水への排水が最短で効果の得られる方法であると最終的に判断した。揚水をしないと環境工事の効果・低減が図れないことをご理解願いたい。  住民より:全く理解できない! 汚染排水の安全性、納得のいく説明がなされないままの排水は断じて認めることが出来ない。  (中略)  土地改良区との覚書、住民の同意が無ければ排水を認めない。約束を守っていない。  説明が尽くされていないまま時間切れ紛糾のまま終了。再説明会等も予定していない》  昭和電工は住民の録音・撮影や記者の入場を拒否したので、記録はこれしかない。 処理水排出は「公表せず」  「実際は『ふざけるな』とか『話が違う』など怒号が飛びました。昭和電工は記録されたくないでしょうね」(参加した住民)  昭和電工は用水路へ排出するに当たり、管理者の会津北部土地改良区との約束を定めた「覚書」を作成していた。同土地改良区は「周辺住民や地権者の同意を得たうえで流すのが慣例」と昭和電工に住民から同意を取り付けるよう求めたが、これだけ猛反対している住民が「覚書」に同意するはずがない。  同事業所に取材を申し込むと「文書でしか質問を受け付けない」というので、中川尚総務部長宛てにファクスで問い合わせた。  ――会津北部土地改良区との間で水質汚濁防止を約束する「覚書」を作成したが、締結はしているのか。  「会津北部土地改良区との協議状況等につきまして、当社からの回答は差し控えさせていただきます」  同土地改良区に確認すると、  「締結していません。住民からの同意が得られていないので」(鈴木秀優事務局長)  ただ、昭和電工は昨年9月の住民説明会で「12月から用水路に『処理水』を流す」と言っている。同土地改良区としては「覚書」がないと流すことは認められないはずではないかと尋ねると、  「『覚書』が重要というわけではなく、地区の同意を取ってくださいということです。あくまで記録として残しておく書面です。他の地区でも同様の排水は同意があって初めて行われるのが慣例なので、同じように求めました。法律で縛れないにしても、了承を取ってくださいというスタンスは変わりません」(同)  つまり、昭和電工の行為は慣例に従わなかったことになるが、同土地改良区の見解はどうなのか。  「表現としてはどうなんでしょうね。こちらからは申し上げることができない。土地改良区は農業者の団体です。地区の合意を取っていただくのが先例ですから、強く昭和電工に申し入れていますし、今後も申し入れていきます」(同)  これでは、住民同意の要求は見せかけと言われても仕方がない。  直近では昨年10月に昭和電工に口頭で申し入れたという。12月中旬時点では「処理水」を放出したかどうかの報告はなく、「今のところ待ちの状態」という。  同事業所にあらためて聞いた。  ――「処理水」を流したのか。開始した日時はいつか。  「対外的に公表の予定はございません」  処理水放出を公表しないのは住民軽視そのもの。昭和電工の無責任体質には呆れるしかない。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】

  • 【女性流出】全国ワーストの福島県

     人口減少が加速する本県。昨年11月現在の推計人口は178万8873人で、ついに180万人を切った。その背景には若い女性が進学・就職を機に県外に転出し、出生数が減っていることがある。本県から女性が去っていく背景には何があるのか、さまざまな女性の〝本音〟に耳を傾けた。 「職の選択肢少なくキャリアも積めない」  昨年10月9日付けの福島民報に衝撃的な記事が掲載された。転出者が転入者を上回る「転出超過」により、女性が直近10年間でどの程度減少したか全国で比較したところ、本県が最多だったというのだ。  総務省の住民基本台帳人口移動報告によると、2012年から21年までの本県転出超過総数は6万3528人。内訳は男性2万2245人、女性4万1283人。  本県以外で女性の転出超過が多かったのは北海道、長崎県、新潟県、岐阜県など。大都市圏から遠い、もしくは本県同様、大都市圏に近かったり交通面で移動しやすい県が目立つ。逆に東京都をはじめ首都圏は女性の転入超過となっている。  第一の原因として考えられるのは、震災・原発事故の影響だ。3・11以降、避難指示区域はもちろん、区域外でも放射能汚染を懸念して、県外に母子避難する人が相次いだ。  転出超過は2011年3万1381人(男性1万3798人、女性1万7583人)、12年1万3843人(男性5714人、女性8129人)に上った。その後、公共工事の復興需要などを背景に男性は14、15の両年、転入超過となったが、女性は転出超過が続いている。直近21年の3572人は全国2位の多さだ。  2021年の女性の転出超過の内訳をみると、15~19歳27%(977人)、20~24歳62%(2216人)と、若い世代が全体の9割近くを占める。進学・就職で県外に転出していると思われる。  若い女性が県内から減れば出生数も減っていく。2020年の出生数は1万1215人。10年は1万6126人。10年間で約5000人減った。それに伴い人口減少も加速しており、180万人を切っている。  東北活性化研究センターは2020年、東北出身の女性2300人にインターネット調査を実施した。その結果、東京圏に住み続ける女性は「『選択肢が多くて希望の進学先がある』という理由で東京の教育機関に進学し、『希望の職種の求人が多い』という理由で東京圏で就職した」という傾向がみられた。  「地方に求めていること」という設問に対しては「若い女性たちが正社員として長く働き続けられる企業を増やす」、「女性にとって多様な雇用先・職場を多く創出する」、「公共交通機関などのサービスを充実させる」、「地方の閉塞感や退屈なイメージを払拭するような取り組みをする」といった回答が多く選ばれた。  暁経営会計(郡山市)代表取締役の伊藤江梨さん(38)は安積黎明高校卒業後、大阪大学法学部に進学。共同通信社に就職し、報道記者として全国で取材活動を続けた後、税理士に転身。地元で独立した異色の経歴の持ち主だ。伊藤さんに女性の転出超過数が多いことについてコメントを求めたところ、こう語った。  「女性にとって、それなりの所得を手にできる職の選択肢が少ないのは事実です。せいぜい公務員、銀行、看護師ぐらい。首都圏で医療業界に就職し、バリバリ働いていた同級生が、震災・原発事故後、志を持って帰って来たケースもありました。ただ、自分の意見が全く通らず、男性中心の職場環境であることにあらためて気付かされたようで、県外の職場に移っていきました」  男性に正面から意見を言っても、表立って潰されることはない。ただ、その場でヘンな空気が流れ、後日、自分が〝腫れ物扱い〟されていることが聞こえてきたりする。優秀な女性ほど息苦しさを感じる。  「そもそも管理職やリーダーとして活躍している女性が県内には少ない。だから、『女性が働きやすいように職場環境を整えよう』という考えになりにくいし、『責任のある仕事は男性がやるもの』という先入観が男女とも根付いているのです」(同)  県労働条件等実態調査によると、2021年の従業員30人以上の企業の管理職(係長相当職以上)に占める女性の割合は18・9%。  一方、総務省の就業構造基本調査によると、2017年の公務員を含む管理的職業従事者(課長相当職以上)に占める女性の割合は13・8%。  管理職に占める女性の少なさは平均賃金の男女格差につながっている。厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2021年の県内女性の平均賃金(残業代除く)は男性の75・2%に留まり、45~49歳世代では100万円以上の差がある。賃金格差は東北6県で最大だ(福島民報11月6日付)。背景には出産や育児で休職・退職を余儀なくされ、キャリアを積んで管理職を目指すのが難しい事情がある。 女性に厳しい労働環境  前出・就業構造基本調査2017年版によると、県内で過去5年間に離職した女性のうち、出産・育児が退職理由だった人は1万1500人(全体の7・9%)。育休制度はあるものの、離職している人が多いわけ。出産前の働き方と比較し「元の会社に戻って働き続けるのは無理だ」と自ら判断し、退職する面もあるのかもしれない。  「女性としては、責任が重い管理職や時間の融通が利かないフルタイムを避けて、育児と仕事を両立させたいと考える。だから、仕事に復帰する際も、配偶者の扶養控除内(103万円)の範囲に収まるように、パートタイムで働くことを選ぶ傾向が強いのです」(同)  県内の正規従業員の割合を見ると、24~34歳が男性87・2%、女性61・9%で、25・3ポイントの差がある。年齢が上がるごとにその差は開いていき、45~54歳は男性90・4%、女性46・8%となっている(福島民報11月23日付)。  やりたい仕事に就けず、結婚・出産でキャリアが断絶される――こうした環境では、県内から去っていく若い女性が多いのも当然だろう。  女性は働くことを望んでいる。2019年現在の国内の専業主婦世帯は582万世帯で、共働き世帯数(1245万世帯)の半分以下。別掲記事で体験談を執筆してもらった県内在住の女性フリーライター・みきこさんも「専業主婦志向だったが、実際に出産したら、家計や子育ての問題は別として、できる限りの範囲で働きたくなった」と述べている。  11月8日には福島市で同市主催の「そろそろ働きたい女性のための就活準備セミナー」が開かれ、約50人が参加した。テーマ別の意見交換会では「在宅勤務」、「仕事と子育てとの両立」に参加者が集中した。 福島市主催のセミナーでの意見交換会の様子  ハローワーク福島で行われた出産後の母親向けミニセミナーでは、新卒向けの〝就活セミナー〟のように、履歴書の書き方や会社への要望の伝え方などが細かく教えられた。  参加した女性たちは「そもそも子連れで参加できるセミナーがないのでありがたい」、「せっかくだから新しい仕事にも挑戦したい」、「希望の職に就いて、子どもに生き生きと働く姿を見せたい」と語っていた。  出産により再び就職活動をせざるを得なくなった女性たち。例えば県内の企業が時短勤務や在宅勤務などを積極的に取り入れ、彼女たちが退職(再就職)しなくてもいい労働環境を整えることで、女性の転出超過の状況も改善されるのではないか。  一方で伊達市に移住した女性は、女性を取り巻く環境についてこんな〝本音〟を打ち明ける。  「女性同士で情報交換したいと思い、いろいろ働きかけたが、なかなか親密になれず孤独感を抱きました。都市部の個人主義的な面と、地方特有の閉鎖的な面を備えている印象です。求人を見ると『こんな給料で生活していけるの!?』という労働条件。緑が多く子育てしやすい環境と言われるが、子どもたちが外で遊んでいる姿は見ないし、学力テストの結果は低い。正直、他地域より暮らしにくい場所だと感じていますよ」  女性が置かれている環境を根本的に変えなければ、移住者も定着せず、人口減少も加速するということだ。  12月3日に東京で開かれた国際女性会議「WAW!2022」では県内の女性が出席し、地方の現状を発表したほか、県男女共生センター(二本松市)にサテライト会場が設けられ、遠隔で意見を述べた。地元女性や専門家、地元企業の管理職などを交えたパネルディスカッションも開催された。  同センターの千葉悦子館長(福島大学名誉教授)は「女性に限らず、結婚したい人、したくない人、多様な生き方が受容される社会にしていくことが大事だと思います。イベントや当センター主催の講座などを通して〝気づき〟の機会を作り、地道に変えていくしかない」と語る。 少子化対策の失敗  前出・東北活性化研究センターが運営している「TOHOKU MIRAI+」というウェブサイトに昨年7月、福島市で開かれたフォーラムの動画と文字起こししたリポートが掲載されている。  同フォーラムで行われた講演で、ニッセイ基礎研究所生活研究部人口動態シニアリサーチャー・天野馨南子さんは経営者や自治体職員に対し厳しい言葉で問題提起した。  《福島県の出生数は1970~2020年の50年間で63%減》  《この理由は、県内から出ていった女性の産むはずだった子どもが生まれていないからです》  《「子育て世帯誘致」とよく言いますが、年齢層別の社会減をみると、統計的に子育て世代に当たるアラサー世帯の増減は全体からすると殆ど影響しない》  《少子化対策や地方創生政策において「福島県に留まる既婚女性」のイメージしか持てないというアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)があった》  《福島県の少子化対策、福島県の地方創生政策において、20代女性の就業問題、就職問題がメインになったことはあったでしょうか。何より、皆さまがこの課題に対して問題提起、本気の取り組みをしたことはあったでしょうか》  女性の働く環境を考え改善することは地方創生、人口増加に直結する。天野さんの言葉を重く受け止め、まずは女性の声を聞き、意識を変えていくことから始める必要がある。県や市町村には、そのけん引役としての役割が期待される。 あわせて読みたい 私が出産後も働き続けた理由

  • 【国見町移住者】新規就農奮闘記

     国見町では新規就農者向けの町営農業研修施設「くにみ農業ビジネス訓練所」を運営している。同訓練所を卒業した新規就農者は昨年、どんな1年目を過ごし、どのようなことを感じたのか、振り返ってもらった。 「補助金ありき」農業参入の厳しい現実  「訓練所で基本的なところは勉強できたのですが、自分の畑・スタイルでやるとなると全く違う面もあるので、戸惑いながら試行錯誤した1年でした」  苦笑しながら1年を振り返るのは、国見町藤田に住む三栗野祐司さん(43)。昨年4月から自営農家としてキュウリやズッキーニの栽培を開始した。妻と共に無我夢中で農作業に明け暮れたとか。 三栗野祐司さん  「半年以上、毎日朝晩、休まずにキュウリを収穫していたので、正直精神的に参っていたところでした。11月に入り、やっとひと段落したので、勉強も兼ねて、あんぽ柿作りの手伝いのアルバイトに行っていたところです」  1年目のキュウリの売り上げは200万円弱。ズッキーニなどその他の野菜も含めれば約250万円。夫婦2人分の年収としては厳しいところだが、国が新規就農者向けに給付している「経営開始資金」なども加えればそれなりの金額になる。金額は年間150万円(月12万5000円)で、給付期間は3年間。  「さまざまな補助金を活用して何とか独り立ちできている状況ですね。1年目は初期投資で何かと出費がかさむので、貯えがどんどん減っています。キュウリの卸値は1本30円の世界。大変な仕事に就いたと実感していますし、妻は時間を見てアルバイトに出ています」 メーンの作物となっているキュウリ  新潟県長岡市生まれ。高校卒業後、製造業、飲食業などで働いていた。東京にいたとき出会った女性と結婚。その後、妻が仕事を辞め、地方への移住を考えるようになった。そこで候補に挙がったのが福島県だった。実は共通の友人が福島県出身で、地元に戻った後に何度か遊びに訪れていた。  2020年6月、妻、愛猫とともに福島市に移住。夫婦でできて、かつ自然環境を生かした仕事がないか探す中で、たどり着いたのが「農業」だった。担い手不足が叫ばれている中で、挑戦してみたくなった。  と言っても、三栗野さんは全く農業経験がなかった。そこで、福島市から近い国見町の新規就農者向け訓練所に通って基礎を身に付けることにした。 くにみ農業ビジネス訓練所  同訓練所は道の駅国見「あつかしの郷」の近くに立地しており、新規就農に取り組む移住者の増加、生産者支援を目的に設置された。1年かけて農業の基礎を学べる「長期研修」(受講料無料)、専門的な技術を習得したい就農者向けの「短期研修」、子ども向けの「体験研修」などの事業を実施している。  町内には果樹・水稲農家が多いが、どちらも多額の初期投資が必要となるため、新規就農者はほとんどが親元での就農だ。そうした現状を踏まえて、同訓練所では新規就農者向けに、初期投資が少なく、収益化サイクルが短い野菜農家を勧めており、それに基づいたカリキュラムが組まれている。  三栗野さんは21年4月に入所し、1年間かけて野菜の土づくりや種まき、収穫、出荷調整などの技術や農業経営に必要な知識を学んだ。  卒業後はキュウリを生産することにした。伊達地区は夏秋キュウリの販売額が日本一で、ブランドとなっているため単価も高い。1株から50~100本は収穫でき、生産者に対する支援・補助も手厚い。  22年4月、晴れて就農者となったものの、しばらくは移住や就農の準備に追われたという。  中でも住まい探しには時間がかかった。同訓練所に近いと機械などが無料で借りられ、支援制度も充実しているため国見町への移住を決めた。だが、農地付きの住宅がなかなか見つからなかったという。  「空いている住宅や土地はいっぱいあるが、ほとんどは空き家バンクに登録されていないので、移住者はたどり着けずに別の自治体に流れてしまう。私もずいぶん見て回ったが、人づてに紹介してもらった築50年の住宅・農地を300万円で購入した。住宅は320万円かけて、リフォームして暮らしています」  ちなみに、野菜栽培用のパイプハウスに250万円かかり、キュウリの苗の購入や、灌水設備の整備などにもその都度費用がかかったという。前述の通り、新規就農や移住に関する補助金は充実しているが、「年度末に入ってくるものも多いです」。三栗野さんは何とか貯金で賄ったとのことだが、初期投資分を考えると、1000万円程度の貯えは必要ということだろう。水稲農家となると、コンバイン、トラクターといった農機具が必要となるので、さらに金額が跳ね上がると思われる。 地元レストランと契約  就農1年目の手応えについて、三栗野さんに尋ねたところ、このように話した。  「生産したことのない畑で、どう肥料をあげたらいいのかも分かりませんでしたが、そうした中で安定して出荷し、収入を得られた点はよかったと思います。ズッキーニに関しては、JR藤田駅前の『Trattoria da Martino(トラットリア・ダ・マルティーノ)』というイタリアンレストランに契約してもらっています。『(傷がついているものでも)選別せずに納品して構わない』と言っていただいているので助かるし、何のツテもない地域で、使っていただけるのはありがたい限りです」(同)  国見町周辺でズッキーニを生産している農家が少なかったことが幸いしたのだろう。  なお、キュウリに関してはこんな迷いが生じている最中だという。  「JAに出荷していたが、手数料を計算したところ、4割近く引かれていることに気付いた。周囲の先輩方は『仕方ない』と受け入れているが、箱詰めなどを自分でやればいくらか手数料は減らせます。一方、さまざまな面で補助を受けられるなど、JAと取り引きするメリットは大きいし、梱包作業の負担を軽減してくれるのはありがたい面もある。すべてJAにお任せするか、しんどい思いをして手数料を減らす努力をするか、検討し続けています」  道の駅国見は手数料が低く価格も自分で決められるが、ほかの生産者の農産品も並ぶので、必ず手に取ってもらえるわけではない。農産物直売所も手数料が低めだが、すべて売り捌けるとは限らない。  そう考えると、本当の意味で〝農業の仕事だけで飯が食える〟ようになるためには、前出・イタリアンレストランのように、販売ルートを確保する必要がある。そこが今後の課題になりそうだ。  「レストランの方と話していると『こういう西洋野菜を作ってくれたらぜひ買わせてほしい』と言われることがあります。需要があるのに、市場にそれほど出回っていないということだと思うので、新年からぜひ作ってみたい。卸値が変動しやすいキュウリの生産・収穫に追われるだけではいずれ低空飛行になるだろうし、何より楽しみもなくなるので、いろいろと挑戦していきたいと思います」  一方で、1年目に戸惑ったことを尋ねたところ、「農業器具関連業者の対応」と答えた。  「灌水設備を取り付けるため、複数の業者に話を聞いたが、当然ながら長年農業に携わってきた方ばかり。『こうしてほしい』と伝えても『ほかではこうやっていた』と返され、工程の途中で『残りは自分でできると思うので』と完成させずに帰ってしまうこともあった。訓練所には設備がそろっているため、そうした設備の取り付け方法などは習っていない。かなり戸惑いました」  同じような思いを抱いている新規就農者は意外と多いかもしれない。  行政に求める支援策を尋ねたところ、次のように述べた。  「高齢で離農する農家の方が多いが、子どもや孫がやるのであればと、新たに投資する意思があったりする。一方、新規就農の意思がある人は農地がなく、ミスマッチが生じているのです。同様の問題は商店街にもありますが、行政にはそのつなぎ役となって解決してほしいと考えています。地域のコーディーネーターという意味では、飲食店が欲している農作物を行政などで聞き取りして、就農者が手分けして対応するというやり方もできると思います。行政には期待しています」 国見町移住の卒業生は2人  農閑期はゆっくりできるのかと思いきや、「せっかくハウスがあるのに使わないのはもったいないので、今シーズンのキュウリが終わり次第、新たな苗を植えられるように準備しています」と語る三栗野さん。  新規就農事情に詳しいジャーナリストによると、1年目で250万円という収入は「よく頑張っている方」という。苦労したことも多々あったようだが、移住・新規就農1年目の生活を満喫していると言えよう。  しかし、一方では前述の通り、さまざまな補助金に頼って生活している実態がある。〝農業の仕事だけで飯が食える〟ようになるのはそれだけ難しいということだろう。新規就農者数が過去最多となっていることを前掲記事で紹介したが、補助金が充実していて参入しやすいという要素は大きそうだ。  同訓練所は費用対効果の問題もある。2019~21年の卒業生10人のうち、国見町に移住したのは三栗野さんを含めてわずか2人。あまりに寂しい数字。年間経費は約2000万円だという。  卒業生らは「農友会」と呼ばれる若手農業者の組織を作り、定期的に交流している。そういう意味では、農業振興に貢献していると言えるが、経済人からは「やるなら町を代表する農産物などに特化すべき。金をかけて町営訓練所を作ったが、いまいちアピール度に欠ける」と不満の声も聞こえてくる。  これらもまた新規就農者を取り巻く環境の〝現実〟ということだ。 あわせて読みたい 【福島】県内農業の明と暗

  • 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

     新潟県新潟市に本拠を置く家庭教師派遣と学習教材販売の㈲興創が、2022年9月7日付で新潟地方裁判所から破産手続の開始決定を受け倒産した。同社は1998年に創業し、「家庭教師のコーソー」(以下、コーソーと表記)として小中学生や高校生を対象に家庭教師による個別指導を手掛けていた。新潟本社のほか秋田市、札幌市、大宮市に営業拠点を開設し、派遣地域は新潟県、秋田県、山形県、青森県、福島県、岩手県、北海道、埼玉県をカバーするなど事業を拡大していた。しかし、競争激化に加え少子化による需要の減少で業績が悪化すると、借入金が資金繰りを圧迫。これ以上の事業継続は困難と判断し、今回の措置に至った。 新潟・家庭教師派遣業「倒産」に見る業界事情 新潟地方裁判所(HPより)  2022年12月9日、新潟県民会館で興創(榊茂喜代表取締役、資本金800万円)の債権者集会が開かれた。破産管財人は新潟みなと法律事務所の堀田伸吾弁護士。  債権者集会は裁判所による指揮のもと、破産管財人が破産債権者に対して、破産会社が破産に至った経緯や資産(負債、財産)状況、配当の見込みなどについて情報を提供するもの。破産管財人が行う管財業務に関わる重要事項について意思決定をするため、破産管財人・破産者・破産債権者が一堂に会して開かれる。  集会の冒頭、榊氏は「従業員ならびに家庭教師の皆様、なにより一番は我々の会社の教材をご購入いただいた、ご入会いただいた会員の皆様には大変申し訳ないと思っております」と謝罪した。興創は2014年2月期には売上高3億7200万円を計上し利益も確保していたが、ここ数年は著しく業績が悪化し、2022年2月期には売上高2億5000万円にまで減少していた。負債額は1・5億円に上る。  「会社を取り巻く環境が厳しくなり、思うような業績が上がらなくなりまして、非常に苦しんでおりました。メインバンク、その他の銀行から融資を受け、頑張ってまいりましたが、支えきれなくなってしまいました」(榊氏)  破産管財人の堀田弁護士は破産に至った経緯について「生徒を獲得するための営業活動がうまくいかなくなった」と説明した。  「コーソーでは会員生徒を獲得するため、自宅の固定電話に架電する営業活動を行ってきましたが、携帯電話の普及に伴う固定電話の利用減少によって思うように業績を伸ばせなくなりました。また、個人情報に対する社会的意識の高まりによって生徒の名簿も入手困難となりました」(堀田弁護士)  20年ほど前まで、学校では児童・生徒の氏名や住所、電話番号が記載されたクラス名簿が配布されていた。コーソーをはじめとする家庭教師派遣業者が、独自のルートで各学校のクラス名簿を買い取り入手することは容易かったはずだ。しかし、2005年に全面施行された個人情報保護法により、プライバシー保護の観点から名簿が配布されなくなった。現在は児童・生徒の氏名のみのクラス名簿ですら公表しない学校が多いようだ。  自力でクラス名簿が入手困難となれば、次の手は名簿業者を利用するしかない。1件数円~数十円で個人情報を買い取ることになるが、違法な名簿業者から提供された個人情報を使用して営業すれば当然違法性を問われる可能性が高いことに加え、営業内容と親和性の高い名簿が得られるとは限らない。さらに名簿を入手したとしても、電話を受ける消費者の側が、プライバシーに対するリテラシーが高まっているため、営業活動云々の前に「なぜうちの電話番号を知っているんだ」と話を聞いてもらえず、成約率は以前より低くなっているのが実情だ。  今の時代、知らない電話番号から電話が掛かってきたときに、すぐに折り返さず、インターネットの検索エンジンで電話番号を入力して調べれば、即座に業者名や口コミが出てくる。  試しに「コーソー」で検索してみると、複数の電話番号がヒットし多数の口コミが出てきた。    ×  ×  ×  ×  口コミ1   たった今「夜分恐れ入ります。〇〇様のお宅ですか?」と穏やかな口調の男性から。「はい、そうですけど?」と不機嫌に答えると「家庭教師のコーソーと申しますが、お母様でいらっしゃいますか?」と聞きやがるので「どこでお調べで?」と返すと「名簿でございます」だと。「即消してくださいませ」と答えると「はい。申し訳ございませんでした」と。  口コミ2  21時ぐらいに電話してきた。まじで迷惑。聞いた話だと、同じ家に何回も勧誘すると法律違反らしい。  口コミ3  さっきこの番号でかかってきました。「断っても何回もかけてくる。そちらと同じ内容のセールス電話にうんざりしてる。いい加減やめて下さい!」と言うと、「それはスミマセンでした~」と感心なさそうな声で言うので、頭に来てそのまま電話を切りました。着信拒否かけても新しい番号でかけてくるので、いたちごっこで腹が立ちます。    ×  ×  ×  ×  コーソーはかなり手荒い電話営業を行っていたようだ。「家庭教師のトライ」などの大手家庭教師派遣業であれば、テレビCMやユーチューブなどを利用したインターネット広告にお金をかけられるが、会社の規模が小さくなればなるほど広告費を捻出するのは難しい。お金をかけずにできる宣伝は、チラシをポスティングしたり店舗に置いてもらったりしながら、自社のホームページを充実させ、ツイッターなどのSNSを有効活用するしかない。 明かされた財産目録 財産目録  債権者集会で配られた財産目録は別図の通り。  「資産の部」の預貯金を見てみると、新潟信用金庫米山支店の33万5576円が最も多い残高となっており、資金繰りに困窮していたことがうかがえる。  また「資産の部」の貸付金を見てみると、最も高額なのが伊藤修の921万4151円。伊藤氏は埼玉県さいたま市で「家庭教師のハヤテ」を運営していた社長で、榊氏とは二十数年来の友人だった。榊氏は伊藤氏から家庭教師派遣業や教材販売の知識やノウハウのアドバイスをもらっていた間柄だったという。ハヤテが2017年末に倒産した際、榊氏の貸付によって再建されたが、2020年にその資金も尽き、榊氏が会社を引き取ることになった。現在、伊藤氏とは連絡がつかず、貸付金は回収不能の見込みだ。  事務用品や携帯電話などの備品や車両を現金化し、最終的に残った破産財団(破産手続の手続費用および破産債権者等への弁済原資)は597万4235円となり、諸経費を引いた最終的な破産財団の残高は377万7969円となった。  「負債の部」を見てみる。財団債権(公租公課)が3330万8272円となっている。財団債権とは最も優先的に弁済を受けることができる債権(別除権を除く)。公租は国税・地方税、公課は社会保険料など。財団債権(公租公課)のうち、2000万円強が公課に当たる社会保険料の滞納分という。  財団債権(労働債権)は破産手続開始前3カ月の賃金請求権であり、従業員やアルバイトなどの未払い賃金に当たる債権。記載が空欄となっているのは、独立行政法人労働者健康安全機構の立て替え払い制度を利用したため。同制度で未払い賃金の8割相当が保証される(未払い賃金が2万円以下は対象外)。正社員とアポインターのアルバイトは2022年12月中に立て替え払いが完了しており、家庭教師は今後請求を進めていくという(※)。  ※財団債権(公租公課)と財団債権(労働債権)は同列で、優先順位はない。  最後に破産債権。記載が空欄なのは、前述・破産財団の残高が財団債権よりも下回っているため、破産債権への配当が見込めないためだ。  つまり、学習教材を購入した、あるいは家庭教師の指導を受けた消費者の債権は1円も返ってこない状況となっている。多くの会員は教材費として、入会時に30万円を一括かクレジットの分割で支払っている。また、家庭教師の指導を受ける権利が付与された指導券を4回分まとめて購入しており、コーソーが事業停止した8月末以降に指導券が余っていた場合は、ただの紙切れとなる。  家庭教師は「特定商取引法における特定継続的役務提供契約」に当たり、契約の解除(クーリングオフ)や中途解約が認められている。  債権者集会では、債権者である生徒の保護者から教材費や指導券の返金に関する質問が集中した。  ある会員生徒の母親は「教材費31万円をクレジットカードの36回払いで購入しました」と話す。  「これまで3回クレジットの支払いをしました。クレジット会社とお話しして支払いを止めてもらっていますが、残りの分も払わなければならないのでしょうか。契約の際に教材費だけでなく、3年間の管理料も含まれていると聞いています。教材費はやむを得ないにしても、管理料も払わなければならないのは納得できません」  これに対して、管財人の堀田弁護士は次のように答えた。  「あくまでクレジット会社と会員様の契約となりますので、管財人としては助言できる立場にありません。大変心苦しいのですが、消費者センターや弁護士に相談してみてくださいとしか申し上げられません」  会員の中には興創が倒産する直前に契約したために、教材すら届いていない人もいた。榊氏いわく、事業停止する8月末に初めて従業員に倒産する旨を伝えたため、倒産直前まで会員の勧誘を行っていたことになる。 時代に追いつけず  厚生労働省によると、2021年の国内の出生数は81万1622人と過去最少を更新している。学習塾や家庭教師派遣などの教育関連業者は、少子化による児童・生徒数の減少や新型コロナウイルスの影響に加え、講師不足や後継者難といった問題を抱えるケースが多く、教育関連業者の倒産が増加している。  民間信用調査機関の帝国データバンクは、2008年以降の教育関連業者の倒産動向(負債1000万以上、法的整理のみ)について集計・分析している。調査結果要旨は以下の通り。  ①2018年の倒産件数は91件、2015年から4年連続で増加。  ②負債合計は27億6300万円となり、過去10年で最小に。  ③業態別では「各種スクール・家庭教師」が最多。「学習塾」の倒産件数は過去最多を記録した。  教育関連業者を取り巻く環境は年々厳しくなっていることが分かる。そんな中、生き残りをかけてオンライン個別指導に活路を見いだしているのが「家庭教師のトライ」などを手がけるトライグループだ。2015年7月には完全無料の映像授業サービス「Try IT(トライイット)」をスタート。無料会員登録をするだけですべての映像授業(1本15分程度)が無料で視聴できるという、業界初の画期的なサービスとして注目された。このサービスは、すでに100万人の子どもたちが利用しているという。  そう考えると、コーソーが行ってきたコンプライアンス無視のテレアポ営業や高額な教材販売というビジネスモデルが終焉を迎えるのは当然の結果だった。  ちなみに福島県内の教育関連業者は2016年の政府統計(経済センサス―活動調査)によると、学習塾の民営事業所数は266、家庭教師が231となっている。また「都道府県別統計とランキングで見る県民性」によると、本県の小学生通塾率は33・2%(全国平均45・8%)、中学生通塾率は49・2%(同61・4%)となっている。  子どもを持つ親の身になれば、何とかして我が子の成績を上げたいと思うのは当然だ。塾に通わせてもついていけなければ意味がないと、家庭教師という個別指導に頼るのは自然の流れである。  今後、家庭教師派遣業に求められるのは明瞭な料金体系の公開や、入会金や教材費に頼らない仕組みだろう。また、消費者である子どもを持つ親も、自分の子どもにとって何が一番良い投資になるのかを吟味するリテラシーが求められる。コーソーの指導を受けていた会員の児童・生徒が、今後も充実した学習ができることを願うばかりだ。 あわせて読みたい 中学受験【ベスト学院】「県立安積中専門校」を開校

  • 【飯舘村】出身女優が性被害告発

     飯舘村出身の俳優・大内彩加さん(29)が、「福島三部作」で知られ、双葉町に移住した劇作家・谷賢一氏(40)=石川町生まれ、千葉県育ち=から性被害を受けたとして損害賠償を求めて提訴している。谷氏は否定し、法廷で争う姿勢。別の俳優からも性被害やパワハラの証言がある。  大内さんは高校2年生の時に東日本大震災・原発事故で被災。2018年から谷氏が主宰する劇団に客演として参加するようになる。同年夏の「福島三部作」東京公演後に谷氏からレイプ被害を受けたという。  大内さんは「谷はハラスメントの常習犯。移住すると聞いて怖くて仕方がなかった。何も知らない福島県民や演劇が好きな人が被害を受ける前に『告発』したかった」と決意の固さを話してくれた。提訴を受けて12月に南相馬市で予定されていた谷氏作・演出の舞台が中止になったことについては、「千秋楽の後に『告発』したら見に来てくれたお客様が傷つくと考えました。後になって深い傷が生まれてほしくなかった」。  12月末にZoomで開いた会見には、地元紙の記者の姿はなかった。共同通信の配信記事で事足りるということか。いままで散々、谷氏をもてはやしておいて被害者の声に耳を傾けないのはフェアではない。

  • 本宮市の用水路工事が住民の苦情でストップ

     本宮市高木地区で行われていた市発注の用水路工事がストップしているという。  ある関係者によると、「同事業は市が実施しているもので、昨年秋ごろに工事が始まったと思ったら、すぐにストップした」とのこと。  市のホームページで入札情報を確認したところ「高木字戸崎地内水路改良工事」の入札が昨年9月8日に行われており、この工事を指していることが分かった。  前出の関係者はこう話す。  「同工事は、農地脇に用水路を通すもので、十数軒の権利者(農地所有者)がいるのだが、そのうちの1人? 数人? が市にクレームを付けたそうです。具体的には、農地脇の土手のところに作業用道路を通して、用水路工事完了後は元に戻すことになっていたようだが、その過程で(農地所有者に)きちんと説明する前に、農地脇の土手の一部に土を入れて埋め立ててしまった。それに、一部農地所有者が怒り、工事をストップさせた、と」  その後、市は関係者に対して説明会を実施するなど、対応に追われ、工事はストップしたままという。  本宮市建設部に確認したところ、「昨年9月に工事がスタートしたが、地元の方から要望があり、中断している」とのこと。  そのうえで、担当者は次のように説明した。  「この間、2回、地元の方を対象に説明会を実施しており、そこで出た要望などを踏まえながら、地元の方の要望に沿うような形で進めたいと思っています。もともと工期は今年度末まで(2023年3月末)でしたが、それを受け、この12月議会で、2023年度(2024年3月末)まで繰り越すための関連議案を提出して承認いただきました」  最後に、前出の関係者は次のように話した。  「もちろん、市(受注業者)の対応ももっとやりようがあったんだろうけど、そもそも、市にクレームを入れた人の農地は耕作されていなかったんです。ですから、そんなに怒らなくても、と思いますけどね」

  • 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

     北塩原村の観光・交流拠点の1つである道の駅裏磐梯では、期間限定商品だった「裏磐梯桜峠プリン」の通年販売を昨年9月23日から開始し、好評を博している。  同商品は同駅オリジナルスイーツとして開発されたもの。会津山塩をきかせた濃厚カスタードプリンの上に、オオヤマザクラの実を用いたジュレをのせた。プリンの甘じょっぱさと、ジュレのほのかな酸味を同時に味わえる。濃紅とミルク色のコントラストが美しく、かわいらしいラベルと相まって見栄えの良い商品となっている。  名前の由来となった桜峠は、同村の温泉リゾート施設・ラピスパ裏磐梯の隣に位置する桜の名所。毎年3000本のオオヤマザクラが咲き誇る。ソメイヨシノよりもピンク色が濃く、その華やかさに魅了される観光客が多いという。  商品開発の経緯や特色について、同駅の榎本季一総支配人は「一昨年から北塩原村ならではの付加価値の高いオリジナルスイーツを開発すべく熟慮を重ねてきた中、当村の絶景スポットである桜峠に着目した次第です。春のお花見シーズン以外でも桜峠を感じてほしいとの思いから商品開発に至りました」と説明する。  製造については、喜多方市の橋谷田商店に依頼し、通年販売するため冷凍での提供を決めた。プリンの冷凍は技術的に難易度が高く、解凍した際に離水などで食感が著しく低下してしまうことがあるが、試行錯誤を繰り返し、満を持して本格販売できるようになった。  「解凍後もプリン独特のプルプル感を味わえる商品を開発しました。解凍は常温で3~4時間、冷蔵庫で6時間が目安。独特な食感が楽しめる半解凍もおすすめです。オオヤマザクラジュレとカスタードプリンが口の中で織りなすハーモニーを楽しんでほしいです」(榎本総支配人)  道の駅裏磐梯のみでの限定販売。価格は1個380円(税込み)。水曜日定休。  詳しい問い合わせは、道の駅裏磐梯☎0241(33)2241まで。 あわせて読みたい 「道の駅ふくしま」が成功した理由

  • 福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市内の男子中学生が市立小学校に通っていたときにいじめを受け、不登校になった問題について、本誌2022年4月号「【福島市いじめ問題】6つの深刻な失態」という記事で、詳細にリポートした。  記事掲載後、男子中学生と保護者は市や市教育委員会の対応を巡り、担任の教員や教育委員会などに謝罪を要求。県弁護士会示談あっせんセンターに示談のあっせんを申し立て、2022年10月末、市長と教育長が謝罪することで和解に至った。  福島市は2022年11月22日の記者会見で、木幡浩市長と佐藤秀美教育長が非公式の場で直接謝罪しことを明らかにした。和解の条件として、市が児童らに180万円の解決金を支払い、いじめ問題の関係者を今後処分する。  同日、被害者側も記者会見を開き、男子中学生は「心の傷は治らない」と語った。保護者は「こちらが求める謝罪ではなかった」としつつ、「今後は組織一体となっていじめ問題に対応してほしい」と訴えた。

  • 福島市西部で進むメガソーラー計画の余波

     「自宅の周辺を作業員が出入りして地質調査をしていると思ったら、目の前の農地に開閉所(家庭でのブレーカーの役割を担う施設)ができると分かった。一切話を聞いていなかったので驚きました」(福島西工業団地の近くに住む男性)  同市西部の福島西工業団地(同市桜本)の近くの土地を、太陽光発電事業者がこぞって取得している。東北電力の鉄塔に近く、変電所・開閉所などを設置するのに好都合な場所だからだ。  2022年2月、鉄塔がある地区の町内会長の家をAC7合同会社(東京都)という会社の担当者が訪ねた。外資系のAmp㈱(同)という会社が特別目的会社として設立した法人で、福島市西部の先達山(635・9㍍)で大規模太陽光発電施設を計画している。そのための変電所を、市から取得した土地に整備すべく、町内会長の了解を得ようと訪れたのだ。  町内会長は冒頭の男性と情報を共有するとともに、同社担当者に対し「寝耳に水の話で、とても了承できない」と答えた。  同計画の候補地は高湯温泉に向かう県道の北側で、すぐ西側に別荘地の高湯平がある。地元住民らは「ハザードマップの『土砂災害特別警戒地域』に隣接しており、大規模な森林伐採は危険を伴う。自然環境への影響も大きい」として、県や市に要望書を提出するなど、反対運動を展開している。  そうした事情もあってか、変電所計画にはその後動きがないようだが、2022年3月には、別の太陽光発電事業者が近くの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが明らかになった。  発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。  発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。2022年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。  開閉所は20㍍×15㍍の敷地に設置される。変圧器や昇圧期は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ。 開閉所の整備予定地  5月7日には地元住民への説明会が開かれた。大きな反対の声は出なかったようだが、冒頭・予定地の目の前に住む男性は「電磁波は出ないというが、子どもへの影響など心配になる。工事期間中、外部の人が出入りすることを考えると防犯面も気になります」と語った。  前出・町内会長は、一方的な進め方に違和感を抱き、市の複数の部署を訪ねたが、親身になって相談に乗ってくれるところはなかった。  特別高圧送電線のケーブルが歩道の地下に埋設される予定であることを知り、市に「小学生の通学路にもなっているので見直してほしい」と訴えたところ、車道側に移す方針を示した。だが、根本的に中止を求めるのは難しそうな気配だ。  「鉄塔周辺の地権者が応じれば、ほかにも関連施設ができるのではないかと危惧しています」(町内会長)  福島市西部地区で進むメガソーラー計画で、離れた地区の住民が思わぬ形で余波を受けた格好だ。2つのメガソーラー計画についてはあらためて詳細をリポートしたい。 あわせて読みたい 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声 大玉村「メガソーラー望まない」 宣言の真意

  • 福島市「デコボコ除雪」今シーズンは大丈夫?

    2021年末から断続的に降った大雪で、福島市中心部は除雪が十分に行われない「デコボコ除雪」が問題となった。降雪、気温の低下が続いたことも相まって起きた災害だ。これを教訓に、市は除雪体制強化のため1億2727万円の予算を計上。道路の除雪を担う建設業界は「今季も同じくらい雪が降ると考えなければ」と神経をとがらせている。 業者を悩ます「費用対効果」  気象庁によると、今冬の予報は、気温は東日本で平年並みか低い見込み、福島県を含む北日本でほぼ平年並みの見込み。降雪量は東日本の日本海側で平年並みか多い見込み、北日本の日本海側でほぼ平年並みの見込みとなっている。太平洋側は毎年予報をしていない。あくまで予報である点は念頭に置かなければならないが、少なくとも暖冬ではないということだ。  さらには、世界的な異常気象の原因となり、日本の冬に低温傾向をもたらす「ラニーニャ現象」が12月以降も続く可能性があるという。西高東低の冬型の気圧配置が強まり、寒気が流れ込みやすくなる。  2021年末から2022年初めにかけての大雪は、断続的に降り、低温が続いたため根雪ができた。雪を路肩によけても解けないため、壁のように固まり道路幅を狭め、交通が麻痺した。  2014年以来の大雪に、ツイッターでは《福島市の除雪はやっぱりヘタクソ。国道4号と13号以外はヒドイもんだ。飯坂街道などの主要道路もしっかり除雪すべき。木幡市長、除雪にもっと力を入れてくれ》など、除雪の遅さに苛立つ声が相次いで投稿された。市には2022年2月時点で2340件の苦情が寄せられたという。 なかなか雪が解けない本誌編集部前の道路  「デコボコ除雪」を教訓に、市は1億2727万円の「除雪力強化パッケージ」予算を打ち出した(表)。木幡浩市長は議会で「今回の大雪対応を検証した結果、準備態勢や除雪体制、情報発信などに課題があることを確認しました。それに基づき、2022年度当初予算で除雪力強化パッケージを盛り込み、この冬に向けて除雪力強化に取り組んでいます」と答弁している。 福島市の雪害対策予算(2022年度当初予算) 事業金額(千円以下切り捨て)排除雪に要する経費8400万円除雪車両「グレーダー」の更新3100万円凍結防止剤自動散布装置6か所設置623万円小型除雪機械購入補助120万円凍結防止剤散布車を2台新たにリース460万円委託業者の除雪技術向上研修会参加に助成金20万円合計1億2727万円  何を揃えたのか見てみよう。中央部に雪掻きが付いた「グレーダー」はこれまで1台のみだったが、新たに1台増やした。グレーダーは雪を寄せるほか、削る機能がある。前面に付いた板で雪を押し分ける「ドーザー」6台と併せ市の維持補修センターが保有する専用車両は現在8台となっている。  雪が積もる前の準備については、凍結防止剤散布車を3台から5台に増やした。また凍結防止剤を自動散布する装置を、スリップ事故が多い伏拝周辺の旧国道4号沿いに6か所設置している。  「生活道路や通学路は地域で」の方針も見える。町内会やボランティア団体を対象に、小型除雪機械購入補助として2021年度と同様に120万円を計上した。11月末現在で5件の申請があり、予算の上限を超えたことから、同じ除雪関連費用を流用しているという。その他には除雪技術向上に関する研修会の参加費として1人当たり1万円を助成する。  市で増やした機器は凍結防止剤散布車やグレーダーに限られ、歩道は地域住民が小型除雪車などを使って除雪することになる。ただ、2021年のような異例の大雪への対応は依然不安が残る。交通麻痺が起きた要因は、車道脇の固まった雪が解けずにいつまでも残っていたからだ。「ロータリー」(写真)で道路そのものから雪をどかさなければならなかった。 道路脇に溜まった雪を除去する除雪車両「ロータリー」  道路の除雪を担う委託業者はどのように備えているのか。市内でも積雪が多い飯坂町を拠点とする信陵建設の斎藤孝裕社長(66)は  「それなりに人員と予算を確保すれば対応できます。問題は、福島市は会津地方ほどの豪雪地帯ではないということ。せっかく用意しても出動する機会がなければ無駄になってしまう」  同社は除雪車を2台持つが、これまではそれで回ってきた。県道では5~10㌢、市道では10㌢の積雪が見込まれると出動するルールになっているが、斎藤社長によると、基準に達しなくても地元業者が自己判断で前もって出動するのが実情という。同社は本社周辺の国道399号の一部、県道福島飯坂線、フルーツラインの一部など5路線計約20㌔を担当している。  「前回は真夜中から出動しても降り続け、掻いても掻いてもきりがありませんでした。除雪車をリースしたり、臨時で人を雇うにしてもだいぶ前から手配しないと間に合いません。交通量や人通りの多い道路から除雪する優先順位もあり、家の前の除雪が後回しになった住民からは『何で来ないんだ』と言われました。ただ、すべての業者ができる限りの対応をしていることは理解してほしい」(斎藤社長)  同社では新たに8㌧除雪車の購入を考えたが、相場は1000万円ほど。前回ほどの大雪が毎年降るのかどうか判断が付かず、出動しなくても維持費や車検代がかかることを考えると、なかなか手が出せないという。半導体不足で中古車の相場も新車とほとんど変わらない。どこまで行っても、「豪雪地帯でない福島市でどこまで用意する必要があるか」が問題のようだ。 建設業の人手不足、人口減が重しに  除雪にかかわらず建設業界は人手不足が付きまとう。同社では、除雪車のオペレーターを2人募集しているが集まらない。給与を上げて再募集をかけているが、それでも厳しいという。  地元の道路の雪掻きは近くの住民が協力するのが原則だが、地方経済の沈下で自営業は衰退。居住地近くで働き、除雪作業に参加できる人も少ないだろう。地域の力でやるといっても、町内会を構成するのは高齢者ばかりで、体力の衰えた高齢者が主体となればなるほど除雪作業も事故が増えていく可能性がある。どこを削り、その分、どこを費やすか。雪害対策も人口減少でままならない状況が垣間見える。 福島市ホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー

  • 会津地方の農家を襲う「8050問題」

     80代の老親と50代のひきこもりの子が孤立や困窮に直面する「8050問題」が進行している。会津地方のある農家は、自分の死後も病気を抱える一人息子の生活を支えようと、なけなしの田を売ることを考えたが法律の壁に阻まれた。一方で米価は下落し収入も減り、老親自身も今の暮らしで手一杯。農家の8050問題を追った。 「息子のために農地を売る」老親の覚悟  「私は息子のために農地を売りたいが、売るのを阻まれています」  会津地方に住む農家の80代男性はため息をつく。妻と40代後半の一人息子と3人暮らし。息子は高校中退後、働きに出ず、ずっと家で過ごしている。  80代の老親と50代のひきこもりの子に関わる社会問題「8050問題」が顕在化している。進学や就職に失敗したことなどをきっかけに、家にこもって外部との接触を断つひきこもりが長期化。さらに、高齢となった親の収入が途絶えたり、病気や要介護状態になったりして経済的に一家が孤立・困窮することで起こる。孤立死や「老老介護」の原因ともなりうる。  人口の多い団塊の世代が80代を迎え、その子らの第二次ベビーブーム世代が50代を迎える時、社会に与える影響は大きいと見込まれる。ただ、40~50代はバブル崩壊後の就職氷河期で「割を食った」世代。採用を抑制され、新卒時に就職先に恵まれなかったこともあり、一概に失敗を「個人の努力不足」に帰することはできない。  冒頭で嘆いた男性の息子は、10代で精神疾患を発症した。その影響からか、人とうまくなじめず不登校になったという。家族が疾患と分かったのは高校中退後だった。  「もっと早く気づいてあげたかった」(男性)  息子は現在、医療機関に通い、週2回、支援者が訪問サービスに訪れている。  「息子は調子が良い時は農業を手伝ってくれます。薬が合っているのか、最近は以前よりも体調が良いようです。車は運転できないが、自転車を使って1人で買い物に行っています。私がいなくなってもお金さえあればなんとかなると思う」(同)  規則正しく食事も取るようになった。少しずつ復調し、農業の手伝いなど自分のできることから始めようとする息子を見て、最後まで支えなければという気持ちが強くなった。  「息子は障害年金を受け取っていますが、月数万円ではとてもじゃないが暮らしていけない。私もいつ死ぬか分からない。それまでに1000万円以上は用意してあげたい。やはり最後はお金です」(同)  男性は1000万円を国民年金基金に積み立てたいと考えている。そうすれば約10年後、自分が亡くなっても60歳になった息子には月約7万円が支給されるという。国民年金基金は自営業、無職、フリーランスが対象の1号被保険者が保険料を上乗せして払い、受給額を多くする制度だ。  だが、男性が元手にできるのは農地しかない。今は約16反(1万5800平方㍍)で米を作っているが、米価は下落し、苗代や肥料、農業機械の維持費、固定資産税などを考えると赤字で、助成金で埋め合わせているという。  「田んぼをやっているのは、手を入れなくなると雑草で荒れてしまうからです。周囲の田畑に迷惑がかかるし、何しろ笑われてしまう。息子が米を作ることはないだろうから、できれば売ってしまいたい」(同)  採算が合わないのに同調圧力で仕方なく米を作っているが、そのまま農地を残せば息子にとって負債となる。だから、処分して金に換えたいというわけ。  男性は宅地にしたり、太陽光発電施設の設置業者に売却しようと考えたが、農地を転用するには農業委員会の許可が必要になる。同委員会に申し出たが「他の人が(男性の農地を取得して)農地を広げる可能性がある」と認められなかったという。  「米が値下がりしている中、わざわざ新たに田んぼを買う奇特な人がいるとは思えない。作っても手間ばかりで、儲けはほとんどないんですから。農業委員会に『農地として買う予定の人がいるのか』と尋ねても答えてくれませんでした」(同)  自分の寿命はそれほど残されていない。元気に動けるのはあと10年もないだろう。農業委員会の許可は今後得るとして、まずは業者に売却する算段を付けようとした。  太陽光発電施設の設置業者をネットで調べ電話した。東京や名古屋から複数の業者がすぐに飛んできた。営業社員の男は調子が良かった。「米を作っていたということは日当たりが良いってことです。つまり太陽光発電にもうってつけなんですよ。会津は太陽光の宝庫です」と前のめりだったが、農業委員会の許可が下りそうもないことが分かると、見切りを付けて去っていった。 「太陽光の宝庫」と発電事業者から評される会津地方の田園  男性は現在も地元の農業委員会に通っているが、「それは県農業委員会に聞いてほしい」「東北農政局じゃないと分からない」などとたらい回しにされているそうだ。 「残された時間は少ない」  なぜ、ここまで農地売却に固執するのか。それは息子のために売れる資産がそれしかないからだ。  「国は国債を際限なく発行して借金があるでしょう? 頼りになりません。自分たちの身は自分で守らないと」(同)  他人を頼る気持ちにはなれない。周囲に不信感がある。10年ほど前に近隣で連続不審火があった。原因が分からなかったため、犯人探しが始まった。「無職で家にいるアイツ(息子)じゃないか」とウワサされたという。世間はいつも、息子をこう見ていたのかと知った。周囲がとても冷たく感じられたという。  「事情を知らない役所の人は、年寄りが息せき切って土地を売ろうとしている様子を陰で笑っているんでしょうね。でも、私には残された時間が少ない。『分からず屋』と言われても、息子のために動かなければならないんです」(同)  このまま農地を売却できないことも十分想定される。筆者は男性亡き後の息子の独り立ちを考え、市町村の相談窓口や成年後見制度を紹介したが、男性はしばらくすると、また農地を売却するための方法を熱心に探り出した。「どうしても売れなくて困っている」。農地売却には高い壁が立ちはだかるが、困難であればあるほど、男性の生きる「最後の目標」になっているようだ。 あわせて読みたい 【国見町移住者】新規就農奮闘記 【福島】県内農業の明と暗

  • 【クマ被害過去最多】市街地でクマ被害多発の理由

     2022年は市街地でのクマ出没やクマによる人的被害が目立った1年だった。会津若松市では大型連休初日、観光地の鶴ヶ城に出没し、関係部署が対応に追われた。クマは冬眠の時期に入りつつあるが、いまのうちに対策を講じておかないと、来春、再び深刻な被害を招きかねない。 専門家・マタギが語る「命の守り方」  会津若松市郊外部の門田町御山地区。中心市街地から南に4㌔ほど離れた山すそに位置し、周辺には果樹園や民家が並ぶ。そんな同地区に住む89歳の女性が7月27日正午ごろ、自宅近くの竹やぶで、頭に傷を負い倒れているところを家族に発見された。心肺停止状態で救急搬送されたが、その後死亡が確認された。クマに襲われたとみられる。  「畑に出かけて昼になっても帰ってこなかったので、家族が探しに行ったら、家の裏の竹やぶの真ん中で仰向けに倒れていた。額の皮がむけ、左目もやられ、帽子に爪の跡が残っていた。首のところに穴が空いており、警察からは出血性ショックで亡くなったのではないかと言われました」(女性の遺族) 女性が亡くなっていた竹やぶ  現場近くでは、親子とみられるクマ2頭の目撃情報があったほか、果物の食害が確認されていた。そのため、「食べ物を求めて人里に降りて来たものの戻れなくなり、竹やぶに潜んでいたタイミングで鉢合わせしたのではないか」というのが周辺住民の見立てだ。  8月27日早朝には、同市慶山の愛宕神社の参道で、散歩していた55歳の男性が2頭のクマと鉢合わせ。男性は親と思われるクマに襲われ、あごを骨折したほか、左腕をかまれるなどの大けがをした。以前からクマが出るエリアで、神社の社務所ではクマ除けのラジオが鳴り続けていた。 愛宕神社の参道  大型連休初日の4月29日早朝には、会津若松市の観光地・鶴ヶ城公園にクマが出没し、5時間にわたり立ち入り禁止となった。市や県、会津若松署、猟友会などが対応して緊急捕獲した。5月14日早朝には、同市城西町と、同市本町の諏訪神社でもクマが目撃され、同日正午過ぎに麻酔銃を使って緊急捕獲された。  市農林課によると、例年に比べ市街地でのクマ目撃情報が増えている。人的被害が発生したり、猟友会が緊急出動するケースは過去5~10年に1度ある程度だったが、2022年は少なくとも5件発生しているという。  鶴ヶ城に出没したクマの足取りを市農林課が検証したところ、千石バイパス(県道64号会津若松裏磐梯線)沿いの小田橋付近で目撃されていた。橋の下を流れる湯川の川底を調べたところ、足跡が残っていた。クマは姿を隠しながら移動する習性があり、草が多い川沿いを好む。  このことから、市中心部の東側に位置する東山温泉方面の山から、川伝いに街なかに降りてきた線が濃厚だ。複数の住民によると、東山温泉の奥の山にはクマの好物であるジダケの群落があり、クマが生息するエリアとして知られている。  市農林課は河川管理者である県と相談し、動きを感知して撮影する「センサーカメラ」を設置した。さらに光が点滅する「青色発光ダイオード」装置を取り付け、クマを威嚇。県に依頼して湯川の草刈りや緩衝帯作りなども進めてもらった。その結果、市街地でのクマ目撃情報はなくなったという。  それでも市は引き続き警戒しており、10月21日には県との共催により「市街地出没訓練」を初めて実施。関係機関が連携し、対応の手順を確認した。  市では2023年以降もクマによる農作物被害を減らし、人的被害をゼロにするために対策を継続する。具体的には、①深刻な農作物被害が発生したり、市街地近くで多くの目撃情報があった際、「箱わな」を設置して捕獲、②人が住むエリアをきれいにすることでゾーニング(区分け)を図り、山から出づらくする「環境整備」、③個人・団体が農地や集落に「電気柵」を設置する際の補助――という3つの対策だ。  さらに2023年からは、郊外部ばかりでなく市街地に住む人にも危機意識を持ってもらうべく、クマへの対応法に関するリーフレットなどを配布して周知に努めていく。これらの対策は実を結ぶのか、2023年以降の出没状況を注視していきたい。 一度入った農地は忘れない  本州に生息しているクマはツキノワグマだ。平均的な大きさは体長110~150㌢、体重50~150㌔。県が2016年に公表した生態調査によると、県内には2970頭いると推定される。  クマは狩猟により捕獲する場合を除き、原則として捕獲が禁じられている。鳥獣保護管理法に基づき、農林水産業などに被害を与える野生鳥獣の個体数が「適正な水準」になるように保護管理が行われている。  県自然保護課によると、9月までの事故件数は7件、目撃件数は364件。2021年は事故件数3件、目撃件数303件。2020年が事故件数9件、目撃件数558件。「件数的には例年並みだが、市街地に出没したり、事故に至るケースが短期間に集中した」(同課担当者)。  福島市西部地区の在庭坂・桜本地区では8月中旬から下旬にかけて、6日間で3回クマによる人的被害が続発した。9月7日早朝には、在庭坂地区で民家の勝手口から台所にクマが入り込み、キャットフードを食べる姿も目撃されている。  会津若松市に隣接する喜多方市でも10月18日昼ごろ、喜多方警察署やヨークベニマル喜多方店近くの市道でクマが目撃された。  河北新報オンライン9月23日配信記事によると、東北地方の8月までの人身被害数40件は過去最多だ。  クマの生態に詳しい福島大学食農学類の望月翔太准教授は「2021年はクマにとってエサ資源となるブナやミズナラが豊富で子どもが多く生まれたため、出歩くことが多かったのではないか」としたうえで、「2022年は2021年以上にエサ資源が豊富。2023年の春先は気を付けなければなりません」と警鐘を鳴らす。  「クマは基本的に憶病な動物ですが、人が近づくと驚いて咄嗟に攻撃します。また、一度農作物の味を覚えるとそれに執着するので、1回でも農地に入られたら、その農地を覚えていると思った方がいい」  今後取るべき対策としては「まず林や河川の周りの草木を伐採し、ゾーニングが図られるように見通しのいい環境をつくるべきです。また、収穫されずに放置しているモモやカキ、クリの木を伐採し、クマのエサをなくすことも重要。電気柵も有効ですが、イノシシ用の平面的な配置では乗り越えられてしまうので、クマ用に立体的に配置する必要があります」と指摘する。 近距離で遭遇したら頭を守れ クマと遭遇した時の対応を説明する猪俣さん  金山町で「マタギ」として活動し、小さいころからクマと対峙してきた猪俣昭夫さんは「そもそもクマの生態が変わってきている」と語る。 奥会津最後のマタギposted with ヨメレバ滝田 誠一郎 小学館 2021年04月20日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle  「里山に入り薪を取って生活していた時代はゾーニングが図られていたし、人間に危害を与えるクマは鉄砲で駆除されていました。だが、里山に入る人や猟師が少なくなると、山の奥にいたクマが、農作物や果物など手軽にエサが手に入る人家の近くに降りてくるようになった。代を重ねるうちに人や車に慣れているので、人間と会っても逃げないし、様子を見ずに襲う可能性が高いです」  山あいの地域では日常的にクマを見かけることが多いためか、「親子のクマにさえ会わなければ、危険な目に遭うことはない」と語る人もいたが、そういうクマばかりではなくなっていくかもしれない。  では、実際にクマに遭遇したときはどう対応すればいいのか。猪俣さんはこう説明した。  「5㍍ぐらい距離があるといきなり襲ってくることはないが、それより近いとクマもびっくりして立ち上がる。そのとき、大きな声を出すと追いかけられて襲われるので、思わず叫びたくなるのをグッと抑えなければなりません。クマが相手の強さを測るのは『目の高さ』。後ずさりしながら、クマより高いところに移動したり、近くの木を挟んで対峙し行動の選択肢を増やせるといい。少なくとも、私の場合そうやって襲われたことはありません」  一方、前出・望月准教授は次のように話す。  「頭に傷を負うと致命傷になる可能性が高い。近距離でばったり出会った場合はうずくまったり、うつ伏せになり、頭を守るべきです。そうすれば、仮に背中を爪で引っかかれてもリュックを引き裂かれるだけで済む可能性がある。研修会や小学校などで周知しており、広まってほしいと思っています」  県では、会津若松市のように対策を講じる市町村を補助する「野生鳥獣被害防止地域づくり事業」(予算5300万円)を展開している。ただ、高齢化や耕作放棄地などの問題もあり、環境整備や効果的な電気柵設置は容易にはいかないようだ。  来春以降の被害を最小限に防ぐためにも、問題点を共有し、地域住民を巻き込んで抜本的な対策を講じていくことが求められている。

  • 【相馬市が分析】2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)

     相馬市は2022年夏の新型コロナ「第7波」の感染者(陽性者)の詳細な分析を行った。その内容を紹介・検証しつつ、すでに到来しつつある「第8波」に向けて、どのような対策が有効かを考えていきたい。 相馬市の陽性者分析で見えた対策  2022年11月23日時点での国内のコロナ感染者累計数は2409万4925人、死者数は4万8797人。およそ5人に1人がこれまでに罹患している計算になる。1日の感染者数で見ると、今夏の「第7波」と言われる感染拡大の中で、7月下旬から8月下旬にかけて連日20万人を超える新規感染者が確認された。その前後でも、1日に10万人から15万人の感染者が出ている。  県内で見ると、11月23日時点でのコロナ感染者累計数は24万9359人、死者数は335人。およそ7人に1人が感染している計算で、国内平均よりは低い。1日の感染者数が最も多かったのは、2022年8月19日で3584人。その前後で、2000人越え、3000人越えの日が相次いだ。7月下旬から9月上旬までが「第7波」に位置付けられる。  その後は、少し落ち着き500人から1000人弱の日が続いたが、11月中旬ごろからまた増え始めている。11月22日は3341人、23日は3191人と、過去最高に迫っている。すでに「第8波」が到来していると言えそうだ。  政府(新型コロナウイルス感染症対策本部)は、11月18日までに「今秋以降の感染拡大で保健医療への負荷が高まった場合の対応について」をまとめた。いわゆる「第8波対策」である。  基本方針は「今秋以降の感染拡大が、今夏のオミクロン株と同程度の感染力・病原性の変異株によるものであれば、新たな行動制限は行わず、社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止措置を講じるとともに、同時流行も想定した外来等の保健医療体制を準備する」というもの。  住民は、これまでと同様、3密回避、手指衛生、速やかなオミクロン株対応ワクチン接種、感染者と接触があった場合の早期検査、混雑した場所や感染リスクの高い場所への外出などを控える、飲食店での大声や長時間滞在の回避、会話する際のマスク着用、普段と異なる症状がある場合は外出、出勤、登校・登園等を控える――等々の基本的な対策が求められる。  「第8波対策」で、これまでと大きく変わったところは、「外来医療を含めた保健医療への負荷が相当程度増大し、社会経済活動にも支障が生じている段階(レベル3 医療負荷増大期)にあると認められる場合に、地域の実情に応じて、都道府県が『医療ひっ迫防止対策強化宣言』を行い、住民及び事業者等に対して、医療体制の機能維持・確保、感染拡大防止措置、業務継続体制の確保等に係る協力要請・呼びかけを実施する」「国は、当該都道府県を『医療ひっ迫防止対策強化地域』と位置付け、既存の支援に加え、必要に応じて支援を行う」とされていること。  つまり、都道府県の判断で「医療ひっ迫防止対策強化宣言」を行い、営業自粛、移動自粛などの要請ができるということだ。  こうして「第8波」に向けた対策や基本方針が定められる中、相馬市が「第7波」の感染者について詳細な分析を行ったものが今後の参考になりそうなので紹介・検証したい。  ちなみに、同市の立谷秀清市長は、医師免許を持っており、地元医師会との意思疎通が図りやすいほか、全国の医師系市長で組織する「全国医系市長会長」を務め、他市の医療体制・感染状況などの情報交換がしやすいこと、全国市長会長を務め、比較的頻繁に国と意見交換ができる環境にある、といった強みがある。 ワクチンの効果  別表は、同市で「第7波」で陽性判定を受けた人の「陽性者数と陽性率」、「年代別、ワクチン接種回数別の陽性者と陽性率」、「陽性者の症状」をまとめたもの。 第7波の陽性者数と陽性率 適正回数接種者検査対象者2万8355人陰性者2万7095人(95・6%)陽性者1260人(4・4%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 適正回数未満接種者検査対象者5157人陰性者4241人(82・2%)陽性者916人(17・8%)※相馬市提供の資料を基に本誌作成。 集計期間は今年6月1日から9月25日。 年代別、ワクチン接種回数別の陽性者数と陽性率 区分接種回数陽性者 カッコ内は対象総数陽性率未就学未接種228人(1327人)17・18%1回3人(5人)60・00%2回10人(78人)11・49%小学生未接種222人(875人)25・37%1回27人(44人)61・36%2回108人(874人)12・36%中学生未接種33人(162人)20・37%1回1人(12人)8・33%2回40人(217人)18・43%3回31人(512人)6・05%高校生未接種17人(94人)18・09%1回0人(4人)0・00%2回34人(132人)25・76%3回43人(707人)6・08%青壮年未接種311人(1492人)20・84%1回7人(82人)8・54%2回149人(1091人)13・66%3回954人(1万0705人)8・91%4回125人(4007人)3・12%高齢者未接種28人(606人)4・62%1回2人(36人)5・56%2回14人(244人)5・74%3回78人(838人)9・31%4回174人(9359人)1・86%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日まで。 陽性者の症状 無症状117人4・4%軽症2501人94・8%中等症Ⅰ13人0・5%中等症Ⅱ8人0・3%重症00・0%※相馬市提供の資料を基に本誌作成。集計期間は今年4月1日から9月25日。  まず、陽性者数と陽性率だが、ワクチン適正回数接種者は対象2万8355人のうち、陽性者1260人で、陽性率は4・4%、適正回数未接種者は対象5157人のうち、陽性者916人で、陽性率は17・8%となっている。なお、ワクチンの適正接種回数は60歳以上が4回、12歳から59歳が3回以上、5歳から11歳が2回。  こうして見ると、ワクチンを適正回数接種した人は、していない人に比べて、陽性率が4分の1程度になっていることが分かる。  立谷市長は「ブレイクスルー(ワクチンを適正回数接種しても感染するケース)はあるものの、ワクチンの効果はあることが証明された」と説明した。  年代別で見ると、若年層の適正回数未接種者の陽性率が高い傾向にあることが分かる。若年層は、注意をしていても、人が集まる場に行く機会が多い、移動機会が多い、といった理由から、感染リスクが高くなると言われているが、それが裏付けられたような結果だ。対象的に、高齢者は適正回数接種者の陽性率は1・86%、それ以外でも10%以下と低くなっている。高齢者や基礎疾患がある人は重症化のリスクが高まるとされていることなどから、十分注意していることがうかがえる。  一方、陽性者の症状を見ると、94・8%が軽症となっており、無症状を含めると、99%以上が無症状・軽症になる。残りの0・8%は中等症Ⅰ、Ⅱで重症はゼロ。なお、厚生労働省が作成した「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」によると、中等症Ⅰは「呼吸困難、肺炎所見」、中等症Ⅱは「酸素投与が必要」とされている。  立谷市長は以前の本誌取材に「ウイルス側も寄生するところがなくなったら生存できないわけだから、オミクロン株などに形を変えて『広く浅く』といった作戦に切り替えてきた。それをわれわれ人間がどう迎え撃つか。その戦いだ」と語っていたが、まさにそういった状況になっていることが分かる。 立谷市長  「今後、『第8波』が来る。年末年始で人の動きが活発になるということもあるが、基本的にこうしたウイルスは厳冬期は活性化しますからね」(立谷市長)  もっとも、対策としては「これまで継続してやってもらっている基本対策(消毒、マスク着用、密回避など)と、早期のワクチン接種しかない。『第8波』が来る前に、11月上旬からワクチン接種を実施している」(立谷市長)とのことで、そこに尽きるようだ。 新型コロナ体験談  郡山市に住む50代男性。妻、子ども3人、義父母と暮らしています。 最初に感染したのは高1の娘。11月初めの夕方、高校に迎えに行くと喉がイガイガすると言う。まさかコロナじゃないだろうなと思いながら念のため車の窓を開けたが、娘も私もマスクを外していた。すると翌日、娘は咳をし出して発熱。病院でPCR検査を受け、陽性と判定された。 その2日後、私の体調に異変が表れた。喉がイガイガし、翌朝さらに酷くなった。次第に乾いた咳をするようになり、熱は38度台半ばに達した。抗原検査キットで陽性を確認。頭痛、寒気、関節の鈍い痛み等にも襲われ、寝るのもしんどい。解熱剤を服用してようやく眠れたが、その後、微熱と平熱を3、4日繰り返した。頭痛や寒気は翌日収まったが、喉のイガイガと咳は6日ほど続いた。寝過ぎた際に頭がボヤーっとする感じもしばらく残った。 私が発症した2日後には小学4年の次男も同じ症状に見舞われたが、幸い他の家族には広がらず、3人の感染で食い止めることができた。 私はワクチンを3回接種し、4回目の予約を検討しているところだった。インフルエンザに罹った時よりは辛くなかったが、できればもう感染したくないですね。 あわせて読みたい 【相馬市】立谷秀清市長インタビュー コロナで3割減った郡山のスナック

  • 郡山市の専門学校【FSGカレッジリーグ】仮想空間で授業を実施

     専門学校グループ「学校法人国際総合学園 FSGカレッジリーグ」(郡山市)は1984(昭和59)年の開校以来、38年間積み上げてきた指導ノウハウと、2万0900人以上の卒業生ネットワークによる学生支援体制を備え、若者の学び場の充実を図り続けてきた。同グループは5校57学科で構成されており、東北最大級の規模を誇る。  グループ校の一つ、国際アート&デザイン大学校では9月、米国発メタバース「Virbela(バーベラ)」の日本向けプラットフォーム「GIGA TOWN(ギガタウン)」を活用した実証授業を実施した。専門学校としては初の試み。  メタバースとはインターネットの中に構築された仮想空間のこと。自分自身の分身(アバター)を操作して他者と交流できる。ゲームなどで使われてきたが、近年はビジネスシーンでの利用も進んでおり、今後の成長が見込まれている。  同校は「ギガタウン」の日本公式販売代理店・㈱ガイアリンク(長野県)と連携。学生らはアバターを使って「ギガタウン」での授業に参加し、事例研究、ゲーム、ディスカッション、グループ発表などを行った。  参加した学生からは「実際にその場で授業を受けているような臨場感があり、楽しかった。テーブルごとに個別通話できたり、画面を複数に分けて資料を提示できるなど、さまざまな機能があり、使いやすかったです」との声が聞かれた。  実証授業は学生の夢や目標達成のためのスキル、コミュニケーション力を育む目的で行われたもの。同校では5月にも、ICT関連やデジタルコンテンツ分野の教育機関を運営するデジタルハリウッド㈱(東京都)と連携し、アバター生成・操作のアプリケーションを使用した実証授業を行っている。  同グループでは教育のICT化を進める「Ed―Tech推進室」が中心となって、ICT技術・デジタル化を活用した効果的な授業の在り方を検討しており、同校の授業に積極的に取り入れている。  例えば、同校コミックマスター科では県内で初めて、アニメーション制作ソフト「Live2D」を授業に導入した。同ソフトは低コストで原画の画風を保ったアニメーションが制作できることから、家庭用ゲームやスマートフォンアプリに多く使用されている。同校は「Live2D」モデル作成ソフトライセンス無償貸与の教育支援プログラム認定校に県内で唯一指定されているため、授業での使用が可能となった。  一方でアナログテクニックを身に付ける実習も充実させており、どんな現場にも対応できる即戦力のスペシャリストの養成に努める。  ICT関連の資格取得も全力で支援しており、「PhotoShop(フォトショップ)クリエイター能力認定試験」の合格率は100%を誇る。さらにCGクリエイター検定の文部科学大臣賞を全国で唯一3年連続受賞している。  同グループが目標として掲げているのは「ONLY1、No・1」の教育実績。今後もコロナ禍以降本格的に導入したICT教育を発展させる形で、メタバースを活用した授業を推進し、学生一人ひとりのニーズに沿った教育を行うことで、夢の実現をサポートしていく考えだ。 FSGカレッジリーグのホームページ FSGカレッジリーグのオープンキャンパス・保護者説明会に参加する

  • 京都・仁和寺で「カラー絵巻」一般公開【福島県双葉町出身学芸員が解説】

     京都を代表する古刹・仁和寺で、明治時代に作られた「戊辰戦争絵巻」のデジタル彩色版が12月8日まで一般公開されている。福島県と何かと関係が深い戊辰戦争だが、その絵巻がなぜいま京都の寺院でカラー化されて公開されたのか。双葉町出身の学芸員に、その背景や一般公開の見どころを解説してもらった。 デジタル技術で蘇る戊辰戦争の風景 仁和寺金堂  仁和寺は888(仁和4)年、宇多天皇が先帝の光孝天皇の遺志を継いで創建した寺院で、真言宗御室派の総本山。1994(平成6)年にユネスコの世界遺産に登録された。境内に咲く遅咲きの「御室桜」が有名で、和歌などにも詠まれている。  皇族や公家が出家して住職を務める門跡寺院で、歴代天皇の厚い帰依を受けたことから、優れた絵画・書籍・彫刻・工芸品が数多く所蔵されている。創建当時の本尊である「阿弥陀三尊像(国宝)」をはじめ、国宝12件、重要文化財48件、古文書数万点を保存・管理している。  そんな同寺院の所蔵物の一つである「戊辰戦争絵巻」をデジタル彩色するプロジェクトが進められている。  戊辰戦争の幕開けとなった1868(明治元)年の「鳥羽伏見の戦い」を描いた絵巻で、全39場面。幅31㌢、長さは上下巻合わせて約40㍍。  「歴史資料に光彩を与えたことで、情報がより写実的になりました。例えば紅蓮の炎や血色染まる兵士の姿は、視覚的に凄惨さを増しましたが、その痛ましさに想像力を持って向き合うことで、絵巻に描かれていることは『物語』ではなく『歴史』であるという気づきをもたらすのではないか、と思います」  デジタル彩色の狙いについて、こう解説するのは双葉町出身の仁和寺学芸員・朝川美幸さんだ。  1971(昭和46)年生まれ。双葉高校、東洋大文学部卒。立命館大学大学院文学研究科博士前期課程を修了。年数回開催される仁和寺霊宝館名宝展の企画・展示を担当。共著に『もっと知りたい仁和寺の歴史』(東京書籍)がある。小さいころに真言密教に興味を抱き、仏教のことを学び続けている専門家だ(本誌2018年1月号参照)。  朝川さんによると、仁和寺と戊辰戦争のつながりは深い。仁和寺第30世の純仁法親王は1867(慶応3)年に還俗(出家した人が俗人に戻ること)し、仁和寺宮嘉彰(にんなじのみやよしあきら)親王と名を改めた。その後、征夷大将軍に任命され、鳥羽伏見の戦いで新政府軍を率いた。出陣の際には仁和寺に仕えていた坊官や寺侍が警備に回った。  明治の世になってから、時代の転換点となった戦争を記録し、その事実を絵巻として残すことになった。戦争体験者の東久世通禧伯爵と林友幸子爵が計画し、1889(明治22)年に完成。明治天皇に献上された。1891(明治24)年には保勲会がモノクロ、木版画の複製品を若干部制作し、仁和寺などに寄贈した。  ただ、制作数が少なく事実を広く知ってもらうには至らなかったことから、絵巻の一部を新たに着色し、『錦の御旗』と改題して一般向けに刊行した。  今回のプロジェクトは、仁和寺に所蔵されていた絵巻(複製品)を超高精細スキャンによりデジタル化。『錦の御旗』や解説本の記述、専門家などの考証を参考に彩色し直して、原寸大で和紙に印刷するものだ。  デジタル彩色は「先端イメージング工学研究所」(京都市左京区)代表理事で、京都大学名誉教授の井手亜里さんが率いるプロジェクトチームが担当。10カ月かけて彩色を行い、ようやく完成した。 デジタル彩色のメリット  絵巻の撮影に同席し、一部の絵巻の解説文執筆も担当した朝川さんはこう説明する。  「超高精細デジタルスキャニング技術で撮影したことで、現物を何度も広げずに済み、画像を拡大してより細かい描写を読み解けるようになりました。保存・分析、両面でメリットがあったと思います。また、着色したことで、戊辰戦争の様子をイメージしやすくなり、幅広い方に興味を持っていただきやすくなったと思います」 仁和寺霊宝館で解説する朝川さん  完成したデジタル彩色絵巻は2022年12月3~8日まで「令和絵巻に見る仁和寺と戊辰戦争」特別展で一般公開される。デジタル彩色絵巻と元来の絵巻(複製)の比較展示のほか、デジタル彩色絵巻をタッチパネル式の画面で見ることができる。好きな場所を指定して拡大することで高精細な画像の閲覧が可能。またオリジナル映像を視聴するコーナーも設けられている。12月3日には、絵巻に合わせて講談師・神田京子さんが講談を行うライブも開かれた。 ジタル彩色された「戊辰戦争絵巻」の一部(上は「第二図会津藩伏見上陸」、下は「第十三図征討大將軍節刀拜受」=画像:先端イメージング工学研究所提供)  同プロジェクトは文化庁の「Livng History(生きた歴史体感プログラム)促進事業」に採択されている。文化庁は京都への移転準備を進めており、2023年3月27日にはいよいよ業務が開始される。移転の目的は東京一極集中の是正に加え、「文化の力による地方創生」、「地域の多様な文化の掘り起こし・磨き上げによる文化芸術の振興」というもの。デジタルの力を使い地方の寺院に眠る歴史的資料の価値を磨き上げる同プロジェクトは、象徴的な活動と言えよう。  一般公開は期間限定であり、福島から離れているので、気軽には行けないかもしれないが、仁和寺は何かと福島に縁のある場所。世界遺産の建物や所蔵物が展示されている霊宝館(期間限定公開)はもちろん、春は桜、秋は紅葉が美しい観光スポットでもある。機会があればぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。 仁和寺ホームページ 【エアトリ】で予約して仁和寺に旅行をする