• 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

    【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

     福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。  被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路  「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

    「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

    ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • トライアル伊達市進出の波紋

    【トライアル】伊達市進出の波紋

     3月下旬、伊達市保原町上保原に食品スーパーとディスカウントストアの複合店舗「スーパーセンタートライアル(TRIAL)伊達保原店」がオープンする。出店場所は県道4号福島保原線沿いで、相馬福島道路伊達中央インターチェンジの近く。 交通の利便性が良く、市内初進出店舗ということもあって、注目度は高い。周辺にはヨークベニマル保原店など商業施設が出店しており、競合は必至だ。 これだけ店舗が多いエリアだと、来店客以上にスタッフの確保も大変そうだが、トライアルでは時給1000~1200円(鮮魚部門)の条件で求人を出していた。ちなみにヨークベニマル保原店(パート、惣菜製造スタッフ)は時給858円(いずれも企業ホームページより)。 市内の事情通からは「小売店経験者がトライアルに流れている」とのウワサも聞こえる。オープン前から流通戦争が始まっている。 あわせて読みたい 【伊達市議会】物議を醸す【佐藤栄治】議員の言動 【伊達市】須田博行市長インタビュー

  • 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    本誌2月号で、浪江町の町営大平山霊園の改修工事が、同町請戸地区住民で組織される「大字請戸区」の負担で行われていたことを報じた。 請戸地区は災害危険区域に指定されており、同団体は将来的に解散する見通し。財産を清算する目的で、大平山霊園の改修と費用負担が総会で決められた。だが、総会に出席できなかった県外在住の住民から反発が相次ぎ、「町の工事を地縁団体が行うのは違和感がある」「一律に配分すべき」と主張していた。 同団体の代表者(区長)は本誌取材に応じようとしなかったが、2月号発売直後、同団体は住民にファクスで文書を送付した。 文書には《同団体の財産は準公金なので個人に配分できない》、《町民や区の住民から問題点が指摘されたため急遽工事は一時中断にし、次回の総会で再検討する》といった内容が書かれていた。 請戸地区の住民はこの文書について「各世帯への見舞金などは支給されており、準公金を理由に配分できないというのは違和感がある。町はなぜゴーサインを出したのか、大平山霊園を利用している請戸地区以外の住民の意向を確認しようと考えなかったのか、いろいろ疑問が残る。関係者には明確に説明してほしい」と述べた。 5月に行われる総会では大きな議論になりそうだ。 あわせて読みたい 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?  

  • 浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

    浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

     浪江町は帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除の動きが進む。3月に解除の判断が示されるが、本誌編集部には「解除後の医療福祉は大丈夫なのか」と心配の声が寄せられている。調べると、浪江町社会福祉協議会では本誌既報のパワハラ問題が解決していない。(小池航) 調査で指摘された自身のパワハラ  本誌昨年11月号「浪江町社協でパワハラと縁故採用が横行」という記事で、職員によるパワーハラスメントが蔓延している問題を取り上げた。被害者がうつ病を発症して退職を余儀なくされ、業務をカバーするため職員たちの負担が増加した。加害者は1人で会計を担当しており、替えが利かない立場を笠に着て、決裁を恣意的に拒否していた。こうした事態は専門家からガバナンス崩壊と指摘された。 浪江町社会福祉協議会の事務方トップである事務局長は、加害者を十分に指導せずパワハラを放置していた。自身は、親族や知人の血縁者を少なくとも4人採用。介護業界は人手不足とは言え、求められているのは介護士や看護師など福祉や医療の有資格者。事務局長が採用した職員たちは資格を持たず、即戦力とは言い難かった。職員や町民から「社協を私物化した縁故採用」と問題視されていた。 その事務局長が3月末付で退くというのだ。2月中旬を最後に出勤もしていない。 退任するのは鈴木幸治事務局長(69)。同社協の理事も兼ねる。鈴木事務局長は53歳ごろまで町職員を務めた後、町内の請戸漁港を拠点に漁師に転身。大震災・原発事故後の2013年から町議を1期務めた。鈴木事務局長によると、議員を辞めた後に本間茂行副町長(当時)に請われ、2019年から現職。現在2期4年目。 鈴木事務局長は昨年10月、筆者が同社協で起こっていたパワハラについて取材した際、「調査する」と明言していた。筆者は調査の進展を聞くため2月20日に同社協の事務所を訪ねた。鈴木事務局長との面談を求めたが、応対した職員から不在と伝えられた。代わりに理事会のトップを務める栃本勝雄会長が応じた。この時、筆者はまだ鈴木事務局長が辞めるとは知らされていなかった。 栃本会長は調査の進捗状況をこう説明した。 「弁護士と相談し、全職員にパワハラを見聞きしたかアンケートを実施したが、報告できるようなきちんとした結果はまだ出ていません。調査結果の報告、パワハラに関与したとされる職員への対応、社協内でのハラスメント対策をどうするかも含め、弁護士と相談しながら進めているところです」 ハラスメントは重大な人権侵害と厳しい目が向けられる昨今、一般企業や役所では規則を整え、調査でハラスメントによる加害行為が認定された職員は懲戒処分の対象になる流れにある。栃本会長によると、加害行為の疑いがある職員は在職中とのことだが、 「懲戒処分にするかどうかという話までは発展していません」(同) アンケートは昨年末までに実施した。同社協が依頼した弁護士に、職員が個別に回答を郵送、弁護士は個人が特定されない形にまとめた。公平性を担保するため、パワハラの舞台となった同社協はアンケートに関わる作業にはタッチしていないという。1月に入り、中間報告という形で結果が上層部に明かされた。全職員や理事会、評議会には知らせていないが、栃本会長は 「年度内には全職員に正式結果を知らせる予定です。理事会には正式結果と合わせて経過の報告も必要と考えています。ただ、現時点では正式結果がまとまっておらず、お答えできません」 ここまで質問に答えて、栃本会長は一息ついて言った。 「何せ私も吉田数博前町長(同社協前会長)から引き継いで昨年6月に就任したもので。ですから、会長に就くまでは内情を知らなかったんです」 筆者が「やはり詳しいのは長年勤めている鈴木事務局長ですかね」と聞くと、 「鈴木事務局長は休暇に入っています。任期満了を迎える3月末で辞める予定です」(同) 栃本会長によると、1月下旬に鈴木事務局長から「体調が思わしくないので、任期満了を迎える今期で辞めたい」と言われたという。事務所にあった私物も既に片付けており、再び出勤するかどうか分からないとのこと。 パワハラを放置した責任を取って辞めたということなのだろうか。栃本会長に問うと「私には分かりませんし、彼とはそのような話はしていません。任期満了となるから辞めるだけでしょ」。 鈴木事務局長はデイサービス利用者の送迎も担当していた。 「今はデイサービスの事業所に任せています。人手が必要なのに痛手ですよ。残った職員でカバーしながらやっています」(同) 公用車の私的使用も 参考画像 トヨタ「カローラクロス」(ハイブリット車・2WD)2022年12月のカタログより  体調不良で休んでいるというのが気になる。昨年11月号の取材時、パワハラを放置した責任があるのではないかと考え、鈴木事務局長に根掘り葉掘り質問した。あるいは記事により心身が病んでしまったのだろうか。後味が悪いので、事務局長が現在どうしているか複数の町関係者に問い合わせると意外な事実が分かった。 「同社協では『事務局長はどうしているか』と質問されたら『任期満了で辞める』と答えることになっているそうです。ですが実際の話は少し違います」(ある町関係者) 任期満了で退くのは事実だが、任期を迎える1カ月以上も前から、送迎の役目を投げ出してまで出勤しなくなったのは確かに不可解だ。取材で得られた情報を総合すると、鈴木事務局長は同社協にいづらくなり、嫌気が差して一足早く去ったというのが実情のようだ。 発端は、前述の同社協上層部に先行して伝えられたアンケート結果だった。 パワハラの加害者と疑われる職員から受けた被害が多数記述されていると思われたが、ふたを開けてみると、鈴木事務局長自身もセクハラ、パワハラ、モラハラの加害者という回答が相次いだのだ。「こんな人がいる職場では働けない。1日も早く辞めてほしい」と切実な訴えもあったという。 ハラスメントだけではなかった。同社協が職務に使っているSUVタイプの自動車「トヨタ カローラクロス」を鈴木事務局長が週末に私的利用しているという記述もあった。 同社協が第三者である弁護士にアンケートの集計を依頼し、結果は上層部しか知らないはずなのに、なぜこうも詳細に分かるのか。それは当の鈴木事務局長が自ら明かしたからだ。2月の最終出勤日に部署ごとに職員を集め、前述の自身に関わる内容を話したという。 ハラスメントの加害者のほとんどは組織の中で立場の強い者だ。加害行為を「指導」や「業務」と履き違え、本人は自覚がないことが往々にしてある。だが、被害者が苦痛と感じれば、それはハラスメントになるのが現代の常識。まずは被害者の話に耳を傾け、組織として事実かどうかを認定することが求められる。 昨年11月号の取材で鈴木事務局長は「パワハラがあると聞いてびっくりしている」「当事者同士の言葉遣い、受け取り方による」とパワハラから目をそらし、矮小化とも取れる発言をしていた。自分は関係ないと思っていただけに、今回のアンケート結果に愕然としただろう。部下から「1日も早く辞めてほしい」と言われては、任期満了を待たずに一刻も早く辞めたい気持ちになる。 不祥事追及がうやむやに  いずれにせよ、鈴木事務局長は同社協を去った。それでも、ある職員は同社協の行く末を懸念する。 「アンケート結果が出たタイミングで事務局長が辞めることで、あらゆる不祥事の責任を取ったとみなされ、問題がうやむやになってしまうのを恐れています。このままでは、パワハラを行っていた職員におとがめがないまま幕引きになってしまいます」 鈴木事務局長は決してパワハラと縁故採用の責任を取って辞めるわけではない。同社協が表向きの理由として知らせているように、任期満了を迎えるから辞めるのだ。既に出勤していないのも「体調が思わしくない」と栃本会長に申し出たためだ。 間もなく70歳のため、高齢で体力的に職務が務まらないなら仕方がない。ただ、栃本会長は「鈴木事務局長が担当していたデイサービス利用者の送迎を他の職員に頼んでいる」と漏らしており、急きょ出勤しなくなったことで、サービスの受益者である町民や同社協職員の業務に与えた影響はゼロではないだろう。 こうした中、町民と職員が関心を寄せるのが後任の事務局長だ。同社協は退職した町職員が事務局長に就くのが慣例だった。社協は、建前は民間の社会福祉法人だが、自治体の福祉事業の外注先という面があり、委託事業や補助金が主な収入源。浪江町社協の2021年度収支決算によると、事業活動による収入のうち、最も多くを占めるのが町や県からの「受託金収入」で1億5300万円(事業活動収入の約68%)。次が町の補助金などからなる「経常経費補助金収入」で4400万円(同約19%、金額は10万円以下を切り捨て)。 自治体の補助金で運営が成り立っている以上、社協と調整を円滑にするため自治体職員を派遣するのが通常で、現に浪江町でも町職員を1人出向させている。 栃本会長は「後任の事務局長は町役場と相談しながら決めます」と話す。同社協との実務を調整する町介護福祉課の松本幸夫課長は、後任の事務局長について、 「町長や副町長には同社協から報告が上がっていると思いますが、介護福祉課には伝わっていません。社会福祉行政に明るい人物も考えられるし、それ以外の人も含めて検討していると思います」 要するに、発表できる段階にはないということだ。 同社協は人材不足にも陥っているが、栃本会長は人材確保に向けた方針を次のように明かす。 「現場で実務を担う介護や医療の有資格者を募集しなければならないと思っています。地元のために一緒に働いてくれるだけで十分ありがたいのですが、半面、限られた人員で運営していく以上、採用するなら有資格者が望ましいです」 鈴木事務局長が行った無計画な縁故採用からの脱却が進みそうだ。 最後に、同社協の目指すべき未来を示した発言を紹介する。長文だが重要なのですべてを引用する。 《震災後、役場機能の移転に合わせて社協も転々としました。避難当時の混乱で職員が一人もいなかった時期もありました。一部地域の避難指示の解除を受け、2017(平成29)年4月に社協も町へ戻ることができました。現在は、浪江町と二本松市の事務所を拠点に、町民の様々な福祉サービスに取り組んでいます。 福祉における一番の課題は、これからの介護です。町内に居住する住民1600人のうち65歳以上の割合を示す高齢化率は約40%ですが、震災前に町に住んでいた人に限ると約70%と非常に高くなっています。自分の子どもや孫と離れて一人で暮らす方も多く、次第に介護が必要となってきています。2022(令和4)年には、町の地域スポーツセンターの向かいにデイサービス機能を備えた介護関連施設が完成する予定です。私たち社協は、オープンと同時に円滑にサービスを提供できる体制を整えていきたいと考えています。 原発事故の影響で散り散りになった町民にとっては、テーブルを囲み、お茶菓子を食べて語り合うだけでも、心の拠り所になるはずです。そんな交流の場を必要としている高齢者が町には数多くいます。浪江町民のために役場との連携をより深め、福祉政策の実現に取り組んでいきたいと思います》(『浪江町 震災・復興記録誌』2021年6月より) 発言の主は鈴木事務局長。筆者も同感だ。 あわせて読みたい 【浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」仙台高専5年生の高野結奈さん

    飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

  • 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

    【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

     田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐり、周辺住民が市を相手取り訴訟を起こしていた問題で、仙台高裁は2月14日、一審の福島地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却する判決を下した。 同発電所の事業者は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」で、市は同社に補助金を支出している。訴訟では、住民グループは「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当である」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、現在は白石高司市長)が事業者に、補助金17億5583万円を返還請求するよう求めていた。 住民グループの基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」といったことがある。そうした背景があり、反対運動を展開し、2019年9月に住民訴訟を起こすに至ったのである。 一審判決は昨年1月25日に言い渡され、住民側の請求は棄却された。その後、住民グループは同2月4日付で控訴し、3回の控訴審口頭弁論を経て判決が言い渡された。冒頭で述べたように、控訴審判決は、一審判決を支持し、住民側の控訴を棄却するというものだった。 その後、住民グループは会見を開き、代理人の坂本博之弁護士は次のように述べた。 「例えば、我々は『(市や事業者側が示した)HEPAフィルターの規格は放射性物質に対応したものではない』と主張したが、それに対して判決では『(放射性物質に対応した規格ではなくても)放射性物質を集塵できないとは言えない』とされており、そのほかにも『〇〇できないとは言えない』というような表現が多い。当初はきちんと審理してくれるかと思ったが、証拠・根拠がないのに、被告(市)・補助参加人(※事業者の田村バイオマスエナジーが補助参加人となっている)の説明を鵜呑みにしたいい加減な判決としか言いようがない」 住民グループ代表の久住秀司さんはこう話した。 「残念で悔しい判決だった。私は個人的に民事訴訟の経験がある。その時は、裁判所は証拠資料をしっかり確認して審理してくれた。ただ、行政を相手取った裁判となると、こんなにも違うのかと驚いた。平等な視点で進行してくれるものと思っていたが、そうではなく、司法・裁判所への信頼がなくなった」 報道陣から「上告するか」との質問が飛ぶと、坂本弁護士は「検討のうえで決めたい」と話した。 一方、市は判決から1週間後の時点で「判決文を精査中」とのこと。 住民グループの話を聞いていると、「○月×日に発電所のメンテナンスが入った」とか、「発電所の敷地内に焼却灰などが入ったフレコンバッグが置かれていたが、○日夜から翌日の朝にかけてどこかに搬出された」というように、発電所の動向を細かくチェックしている様子がうかがえた。裁判では訴えが棄却されたが、住民グループは「今後も継続して監視や放射線量の測定などを行っていきたい」との考えを示した。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 原発避難経験者がウクライナにカイロ支援

    原発避難経験者がウクライナにカイロ支援

     原発事故を受けて山形県米沢市に避難し、昨年7月に福島市内の自宅に戻った武田徹さん(82)。約11年に及んだ避難生活中は、放射能を恐れて原発の避難指示区域外から逃れた自主避難者の支援に精力的に取り組んだ。米沢市内の雇用促進住宅に入居していた自主避難者に、同住宅を監理する独立行政法人が退去を求めた「自主避難者追い出し訴訟」でも、武田さんは被告の一人として戦った。自身も避難生活を送りながら山形県内の母子避難者らを支え続けた武田さんの活動は本誌でも何度か紹介しているので、関連記事を参照していただきたい。 そんな武田さんが、ロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナの人々を支援しようと取り組んだ「使い捨てカイロを送る活動」は、さまざまなメディアで報じられるなど大きな話題を呼んだ。 ロシア軍の攻撃によりウクライナ各地では停電が発生。気温が氷点下になる中、多くの市民が暖房のない生活を強いられていることを知った武田さんは、仲間とカイロを送る活動を始めた。昨年12月、「ウクライナに『使い捨てカイロ』を送る会」を立ち上げ代表に就くと、山形駅前などで街頭宣伝を行い、年明けまでに約3万個のカイロが集まった。 その後、NHKが全国ニュースで取り上げると、受付期日の1月10日までに全国から約20万個のカイロが寄せられ、2月中旬までに31万個以上が集まった。中には、励ましの手紙や「現地への輸送料に」と現金を同封する人もいたという。 苦労したのは集まったカイロの仕分け作業だった。有効期限をチェックしながら箱詰めしていったが、国連が定める危険物に該当しないことが公的機関の試験で証明されたカイロでなければ海外に発送できないことが判明。箱詰めをやり直す一幕もあった。 それでも、山形・福島両県の市民団体などの協力を得て仕分け作業を終わらせ、陸送や一時保管は第一貨物(山形市)、現地への空輸は郵船ロジスティクス東北(同市)が快諾、高額の輸送料も負担してくれることになった。 第1便は1月23日、約3万5000個が空輸され、2月3日にキーウに到着。第2便は同月下旬、約3万5000個を空輸する予定で、残りは7月下旬に船便で発送、9月上旬に届けられる見通しという。 82歳と高齢の武田さんをここまで突き動かす原動力は何か。それは自らも避難生活を経験し、山形県の人たちに支援してもらったことへの感謝の気持ちだという。 「米沢での避難生活は冬の雪かきが本当に辛かった。でも、多くの地元の方々に物心両面から支援してもらい、本当にありがたかった。同時に、一たび事故を起こせばこれだけの被害を生み出す原発は動かすべきではないと思った。そういう苦労をした自分にとって、ウクライナの人たちが置かれている状況は他人事とは思えなかった」(武田さん) そんな気持ちから始まったカイロを送る活動を通じ、武田さんは「原発事故の時も思ったが、支援してくれる人が大勢いることに『日本人はまだまだ捨てたもんじゃない』と強く感じた」という。 「ウクライナに送るべきは武器じゃない。私たちのカイロをはじめ、多くの善意が困っているウクライナの人々に早く届いてほしいし、1日でも早く戦争が終わることを祈っています」(同) 自身が受けた恩を、他の困っている人に返していく武田さんの取り組みは今後も続いていく。

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

    【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 【和久田麻由子】NHK女子アナの結婚相手は会津出身・箱根ランナー【猪俣英希】

    【和久田麻由子】NHK女子アナの結婚相手は会津出身・箱根ランナー【猪俣英希】

    (2019年5月号より) 2019年3月、NHK朝のニュース「おはよう日本」で平日キャスターを務める和久田麻由子アナウンサー(30)が結婚していたことがスポーツ紙などで報じられた。 和久田アナは東大経済学部を卒業後、2011年にNHK入局。岡山放送局を経て2014年に「おはよう日本」の土日キャスターに抜擢、翌年、平日キャスターに昇格した。 NHKでも1、2を争う美人アナと言われ、とりわけオジサンたちから絶大な支持を誇る和久田アナ。そんな人気女子アナの結婚が報じられたのは3月6日だった。 報道によると①相手は一般男性、②2019年に入って婚姻届を提出、③結婚後も仕事は継続、④NHK広報局は「職員のプライベートに関してはお答えしていない」とコメント――というもので、これ以上の情報は一切扱われていない。 人気女子アナの突然の結婚にネット上では一時「相手の一般男性って誰だ?」と話題になったが、氏素性が明らかになることはなかった。 実は、和久田アナの結婚相手は福島県出身の、ちょっとした有名人なのだ。 猪俣英希さん(30)。この名前を聞いてピンと来た人は、かなりの駅伝ファンに違いない。猪俣さんは、いわゆる〝山登りの5区〟を走った箱根ランナーなのだ。 旧会津本郷町(現会津美里町)出身の猪俣さんは、会津高校時代は無名のランナーだったが、高校の先輩で早稲田大学出身、北京五輪マラソン代表の佐藤敦之さんに憧れ、同大学スポーツ科学部に進学した。 エンジの襷をまとって走りたい――そんな思いを胸に、全国から長距離エリートが推薦入学してくる中、猪俣さんは一般入試を経て体育会競走部に所属。入部当初の持ちタイムは下から数えた方が早かったが、厳しい練習を重ね地力を付けた。そして最終学年の4年生のとき、2011年1月2、3日に行われた第87回箱根駅伝で、当初5区を走る予定だった選手のエントリー変更に伴い猪俣さんが走ることになった。 この年のシーズン、早稲田大学は秋の出雲駅伝と全日本大学駅伝を制し、箱根で優勝すれば三冠達成の快挙がかかっていた。そこに立ちはだかったのが、同じく福島県(いわき市)出身で〝2代目山の神〟と称された柏原竜二さん(当時3年生)を擁する東洋大学だった。東洋は箱根2連覇中で、出雲と全日本は早稲田に及ばなかったが、箱根は東洋がやや有利とみられていた。 大会当日、先頭で5区をスタートした猪俣さんは、箱根の坂で柏原さんに抜かれたが、最小限の差で踏みとどまった。翌日、往路2位でスタートした早稲田は東洋を逆転。1位と2位の差はわずか21秒という優勝で、見事三冠を達成した。 猪俣さんは大学卒業後、三菱商事に入社し、船舶・宇宙航空事業本部船舶部に配属。現在はインドに勤務している。 猪俣さんのご家族とお付き合いがある男性によると「両親は、英希さんの結婚についてほとんど語っていないが、喜んでいるのは間違いありませんよ」という。 会津美里町の実家を訪ねると、お母さまが対応してくれた。 「(結婚は)本人たちが決めたことですから、親の私から言うことは特にありません。せっかく来ていただいたのにお話しできなくて、申し訳ありませんね」 和久田アナの結婚に愕然としていたオジサンたちも、お相手が優秀でイケメンの猪俣さんと分かれば納得いくはずだ。お幸せに。

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪(男性に性交強いた富岡町男性職員)

    【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故【郡山市大平町の事故現場】

    【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故

    専門家が指摘する危険地点の特徴  1月2日夜、郡山市大平町の交差点で軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上。家族4人が死亡する事故が発生した。悲惨な事故の背景を探る。(志賀)  報道によると、事故は1月2日20時10分ごろ、郡山市大平町の信号・標識がない交差点で発生した。東進する軽乗用車と南進する乗用車が衝突し、軽乗用車は衝撃で走行車線の反対側に横転、縁石に乗り上げた。そのまま炎上し、乗っていた4人は全員死亡。横転した衝撃で火花が発生し、損傷した車体から漏れ出たガソリンに引火したためとみられる。  軽乗用車に乗っていたのは、所有者である橋本美和さん(39)と夫の貢さん(41)、長男の啓吾さん(20)、長女の華奈さん(16)。事故現場に近い大平町簓田地区に自宅があり、市内の飲食店から帰宅途中だった。 乗用車を運転していた福島市在住の高橋俊容疑者(25)は自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで同4日に送検された。現行犯逮捕時は同法違反(過失運転致傷)だったが、容疑を切り替えた。 この間の捜査で高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」、「交差点ではなく単線道路と思った」、「暗い道で初めて通った。目の前を物体が横切り、その後衝撃を感じた」、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」などと供述している。 軽乗用車が走っていたのは、郡山東部ニュータウン西側と県道297号斎藤下行合線をつなぐ「市道緑ヶ丘西三丁目前田線」。「JR郡山駅へと向かう際の〝抜け道〟」(地元住民)として使われている。 乗用車が走っていたのは、東部ニュータウン北側から坂道を降りて同市道と交差する「市道川端緑ヶ丘西四丁目線」。交差点では軽乗用者側が優先道路だった。  もっとも、そのことを示す白線はほとんど消えて見えなくなっていた。1月6日に行われた市や地元町内会などによる緊急現場点検では、参加者から「坂道カーブや田んぼの法面で対向車を確認しづらい」、「標識が何もないので夜だと一時停止しない車もあるのでは」などの意見が出た。大平町第1町内会の伊藤好弘会長は「交通量が少なく下り坂もあるのでスピードを出す車をよく見かける」とコメントしている(朝日新聞1月7日付)。 1月上旬の夜、乗用車と同じルートを実際に走ってみた。すると軽乗用車のルートを走る車が坂道カーブや田んぼの法面に遮られて見えなくなり、どこを走っているのか距離感を掴みづらかった。交差点もどれぐらい先にあるのか分かりづらく、減速しながら降りていくと、突然目の前に交差点が現れる印象を受けた。 地域交通政策に詳しい福島大教育研究院の吉田樹准教授は事故の背景を次のように分析する。 「乗用車の運転手は初めて通る道ということで、真っすぐ走ることに気を取られ、横から来る車に気付くのが遅れたのだと思います。さらに軽自動車が転倒し、発火してしまうという不運が重なった。車高が高い軽自動車が横から突っ込まれると、転倒しやすくなります」 地元住民の声を聞いていると、「あの場所がそんなに危険な場所かな」と首を傾げる人もいた。 「事故現場は見通しのいい交差点で、交通量も少ない。夜間でライトも点灯しているのならば、どうしたって目に入るはず。普通に運転していれば事故にはならないはずで、道路環境が原因の〝起こるべくして起きた事故〟とは感じません」 こうした声に対し、吉田准教授は「地元住民と初めて通る人で危険認識度にギャップがある場所が最も危ない。地元住民が『慣れた道だから大丈夫だろう』と〝だろう運転〟しがちな場所を、変則的な動きをする人が通行すれば、事故につながる可能性がぐっと上がるからです」と警鐘を鳴らす。 今回の事故に関しては、軽乗用車、乗用車が具体的にどう判断して動いたか明らかになっていないが、そうした面からも検証する必要があろう。 なお、高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」と供述したとのことだが、乗用車側の道路の先は、墓地や旧集落への入り口があるだけの袋小路のような場所。その先に知人の家があったのか、それとも道に迷っていたのか、はたまたまだ表に出ていない〝特別な事情〟があったのか。こちらも真相解明が待たれる。 道路管理の重要性  今回の事故を受けて、地元の大平第1町内会は道路管理者の市に対し対策強化を要望し、早速カーブミラーが設置された。さらに県警とも連携し、交差点の南北に一時停止標識が取り付けられ、優先道路の白線、車道と路肩を分ける外側線も引き直した。 1月17日付の福島民報によると、市が市道の総点検を実施したところ、同16日までに県市道合わせて約200カ所が危険個所とされた。交差点でどちらが優先道路か分かりにくい、出会い頭に衝突する可能性がある、速度が出やすい個所が該当する。市は国土交通省郡山国道事務所と県県中建設事務所にも交差点の点検を要望している。  県道路管理課では方部ごとに県道・3桁国道の道路パトロールを日常的に実施し、白線などが消えかかっている個所は毎年春にまとめて引き直している。ただし、「大型車がよく通る道路や冬季に除雪が行われる路線は劣化が早く、平均7、8年は持つと言われるところが4、5年目で消えかかったりする」(吉田准教授)事情もある。日常的にチェックする仕組みが必要だろう。 県警本部交通規制課が公表している報告書では「人口減少による税収減少などで財政不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少すると想定される」と述べており、交通安全対策を実施するうえで財源確保がポイントになるとしている。 吉田准教授はこう語る。 「道路予算というと新しい道路の整備費用ばかり注目されがちだが、道路管理費用も重要であり、今後どうするか今回の事故をきっかけに考える必要があります」 県警交通規制課によると、昨年の交通事故死者数は47人で現行の統計になった1948(昭和23)年以降で最少だった。車の性能向上や道路状況の改善、人口減少、安全意識の徹底が背景にあるが、そのうち交差点で亡くなったのは19人で、前年から増えている。 「基本的に交差点は事故が起こりやすい場所。ドライバーは注意しながら走る必要があるし、県警としても広報活動などを通して、交通安全意識を高めていきます」(平子誠調査官・次席) 県内には今回の事故現場と似たような道路環境の場所も多く、他人事ではないと感じた人も多いだろう。予算や優先順位もあるので、すべての交差点に要望通り信号・標識・カーブミラーが設置されるわけではない。ただ、住民を交えて「危険個所マップ」を作るなど、安全意識を高める方法はある。悲惨な事故を教訓に再発防止策を講じるべきだ。 吉田 樹YOSHIDA Itsuki 福島大学経済経営学類准教授・博士(都市科学) http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_028.html あわせて読みたい 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【福島刑務所】受刑者に期限切れ防塵マスク

     昨年3月に福島刑務所(福島市)で、当時60歳の男性受刑者が同室者3人から集団暴行を受け死亡した。傷害罪に問われている主犯の小林久被告に2月3日、判決が言い渡される予定(本稿執筆は1月下旬)。事件時、刑務官が異変を放置していたことが内部文書で明らかになったが、問題は他にもある。刑務作業に使う防塵マスクを使用期限が切れたまま使わせていたのだ。元受刑者が体験を語った。 目に余る福島刑務所の人権侵害  本誌は昨年11月号で、開示請求で手に入れた公文書を基に、死亡した男性受刑者が同室者の男3人から集団暴行を受けていたにもかかわらず、刑務官が異変を放置していた問題を報じた。3人は傷害致死ではなく傷害の罪に問われた。従犯の佐々木潤受刑者、菊池巧受刑者には昨年10月に懲役1年が言い渡された。  この事件は、被害者の男性受刑者が死亡したことで報道され、裁判にもなり公に知れ渡った。だが、社会から隔絶された刑務所は、問題行動が起きても外部の目が入りにくく、ブラックボックスとなっている。 問題行動は受刑者だけが起こすわけではない。名古屋刑務所では多数の刑務官が受刑者を暴行していたことが分かっている。 福島刑務所では、刑務作業で生じる粉塵を吸い込むのを防ぐためのマスクが交換されず、使用期限を大幅に超えた使用を強いられていた。 受刑者同士の暴行や刑務官による残虐行為に比べれば「小さな問題」かもしれない。だが見過ごせば、今回の集団暴行死のような、より大きな事件につながりかねない。期限切れ防塵マスク問題について、薬物犯罪で懲役刑を受け、福島刑務所に2021年12月から22年10月まで入所していた40代の男性がつけていた日記を開きながら振り返る。 「新型コロナの観察期間を終え、2022年1月12日から刑務所内の木工工場に配役になりました。私は木製のおもちゃを作るために、木の表面を電動式の紙やすりを使って磨く作業を担当しました。細かい木の粉を口や鼻から吸い込むのを防ぐために、防塵マスクを着用します。14日から使わされたマスクには使用期限が確か『13時間』と書いてありました。しかし、作業を監督する刑務官からは何の説明もなく、少なくとも3カ月は使わされました。一度も交換されることはありませんでした」(男性) 男性によると、使用していたのは興研社製。筆者がネットで検索した画像を示して、同じ物はどれか聞くと、「ハイラックマスク550」(使用限度12時間)が似ているという。 刑務作業は昼休憩1時間を含めて平日の午前8時から午後5時。防塵マスクが必要となる細かい木くずが出る作業は、そのうち2~3時間だった。少なく見積もっても約1週間で使用期限を迎えるが、男性は約3カ月間の使用を強いられたという。自分よりも先に木工作業に従事していた受刑者にマスクが交換されているか聞いたが、「全然交換してくれないよ」と言った。 男性の日記には、2022年1月14日の作業から防塵マスクを使い始めたと書いてある。使用期限を超えて使わされていたこととの因果関係は不明だが、口元に湿疹ができ、気分が悪くなった。しかし、交換の指示は一向に出ない。男性は2月16日に工場担当の刑務官B氏に交換を申し出た。B氏は男性にとって、刑務所に何かを申し出る際の窓口になる身近な刑務官だった。見た目は30代に映った。 男性は内省のために毎日の出来事をノートに欠かさず書いていた。以下はその抜粋。×  ×  ×  × 2月16日 工場でマスクの交換を願い出るも断られる。(A=私、B=担当) 還房(筆者注:個人の居室に帰ること)してから、A どのくらいの日数で交換してもらえるのか?B 特に期間で決めてない。作業内容によって頻度が違うから。A メンドクサイことを言うようですが、マスクに使用限度13時間と書いてあります。因果関係は分からないが、吹き出物がひどい。実際、使っていて汚いので、定期的に交換してほしい。B メンドクサイことを言うな。ダメだ。A まだ分からないが、苦情の申し出をする場合、施設長に対してでよいのか。相談する順番として、まずオヤジ(筆者注:刑務官のこと)に相談しました。B 自分で(生活のしおりを)読め。×  ×  ×  × 男性は改善要求や抗議ではなく、あくまでマスク交換はどこに申し出ればいいかと手続きを聞いた。B氏は答えず、受刑者に渡される刑務所での暮らしや手続きをまとめた冊子に目を通すよう言った。 1回目の交換拒否から1カ月後の3月16日、福島県沖を大地震が襲い、刑務作業は休みとなった。刑務所内では新型コロナが流行していた。不安を感じた男性は翌17日、巡回に来た夜勤の刑務官に自身の体調の報告と、B氏にマスク交換を申し出る手続きについて相談したいと伝えた。 B氏が来て「今の状況を分かっているのか。夜勤者に面倒をかけるな」と言った。理由を話すと「それはお前の主観だろ」と言われたので「主観以外に何を言えばいいんですか」と大声で言い返した。口論になった。 大声を出した時点で反抗的と見なされ、懲罰を受ける可能性がある。男性は申し出すら受け付けてもらえないのは理不尽だと思ったので、問題があることを周りの受刑者に聞こえるようにあえて大声を出した。 「相談に値しない」とされた願い  翌日の刑務作業からペナルティーを科された。木工作業は50人くらいがいる部屋で、学校の教室のように受刑者が作業席に座り、前を一斉に向いて作業する。教壇に当たる位置にはB氏がいる。男性はそれまで後ろから2番目の席だったが、口論の翌日、前から2番目に変えられた。B氏の目の前だ。 4月の4日か5日に「相談願」を処遇首席宛てに出した。「刑務所内に法的な相談をする相手がいないので全く分からない。外部機関も含めてどこに相談したらいいか」という趣旨のことを書いた。受刑者のあらゆる申し出は書面で行われ、願箋と呼ばれる。 同6日に作業場でB氏に呼び出され、「相談に値しない」と言われた。B氏には水際で何度も申し出を拒否され、不信感を持っていたので「誰からの返答ですか」と聞くと「幹部だ」と言う。 男性は作業席に着いた。離席の許可を得て、再び前にいるB氏のもとへ行った。男性 幹部というのは誰ですか。B氏 知らん。男性 願箋には処遇首席宛てで書いたので、それは処遇首席の返答と解してよろしいですね。B氏 騒ぐんじゃねえ。 B氏は責任者について明確に答えようとしなかった。男性は思わずにらみつけた。B氏は「なんだ、その態度は!」と10回ほど言い、担当部署に電話をかけた。すると処遇課から別の刑務官2人が来て、男性は連行された。刑務官をにらみつけた行為が「反則事項」とされた。居住場所を調査棟に移され、2~3週間取り調べを受けた。 取り調べを受ける以外の時間は、これまでの木工作業から、独房の床の上にあぐらか正座で座り、新聞紙を数ミ  リ単位にちぎる作業に変わった。「白河だるまに使う」と聞かされた。 男性は別の刑務所にいた時、受刑者から正方形の木の板にひたすら紙やすりをかける作業があったと聞いた。コップを置くコースターになるらしい。「らしい」というのは、果たして極限まで人力で磨き上げる必要があるのか疑問で、完成品が出回っているかどうか確証がないからだ。 産業が高度化し、懲役囚に回す手作業は減っているという。刑務所には「虚無に襲われる作業」というのが存在しているようだ。 刑務所内の懲罰委員会で、男性に15日間の懲罰が言い渡された。新聞紙をちぎる作業はなくなったが、代わりに、床に座って「何もしないこと」を科された。男性は「さすがに精神的にこたえた」と振り返る。 懲罰期間が終わると、白河だるまを手で形作る作業に回された。周りは高齢者ばかりで、作業自体は大変ではなかった。防塵マスクを付けることもなくなった。 「B氏をにらみつけたことは確かです。懲罰になったのは仕方ないと今でも思っています。ただ、使用期限を超えた防塵マスクをずっと使わされたのは明らかにおかしい。受刑者だからないがしろに扱っていいという問題ではない」(男性) 刑務官「よっぽど国はバカなんだな」  B氏には公務員としての自覚がないのでは、と疑問に思うこともあった。新型コロナ対策として、政府が行った住民税非課税世帯対象の臨時特別給付金10万円をめぐってのことだ。給付金は住民基本台帳に基づいて支給された。受刑者も、刑務所が収容前の住所の自治体に「在所証明書」を発行すれば受給できた。ただし、刑務所があえて知らせることはなく、受刑者たちの口コミで広がった。 男性は前述の懲罰を受ける前、B氏に在所証明書の発行を求めたが、答えは「やり方を知らん」の一点張りだった。男性が知っているだけでも2、3人が、こうしたB氏の対応により臨時特別給付金を受給できなかった。 公務員として不適切な言動もあった。「お前ら、刑務所で税金使って3食飯食って、その上給付金もらって心が痛まないのか」。男性に対しては「生活保護もらって国に申し訳ないのか」とも言った。男性が「利用できる制度は利用しようという考えです」と答えると、「よっぽど国はバカなんだな」と言い放った。 「刑務所に入っている人たちが臨時特別給付金をもらうのはおかしいと思う人が多いのも事実でしょう。ただ、制度の適切な運用を求めているのに、やり方すら教えないのは問題。はっきり言って、公務員の言動ではありません」(男性) 懲罰が解けた後は、担当する刑務官がB氏から別の人に代わり、受給に必要な書類を発行してもらうことができた。刑務官によって対応が違う一貫性のなさも、男性には「福島刑務所は組織としてのガバナンスが機能していない」と映った。 本誌は福島刑務所の五十嵐定一所長宛てに質問状を送り、 ①期限切れ防塵マスクの使用を受刑者に強いたこと。 ②受刑者の申し出を聞き入れず、新型コロナの給付金のための手続きをB氏が怠ったこと。 ③受刑者による集団暴行死事件ついて、五十嵐所長は「刑務官が放置していた」との趣旨を文書に記したが、「刑務官が異変を放置していた」という解釈でいいか。 などについて聞いた。 後日、庶務課から電話で回答が寄せられた。 「個別の事案には答えられない」とした上で、①、②については「刑務所としては適切に運用していると認識している」と言う。「一部で認識から外れる運用がされていたということか」と筆者が尋ねると、「被収容者のプライバシーに関わるので個別の事案に答えることはできない」。男性本人から記事にする承諾を得て取材しているのだが……。 ③の五十嵐所長が「刑務官が放置した」と記した文書については、  「見て見ぬふりという意味の『放置』ではなく、結果として被収容者が死亡したことを受けての注意喚起のために出した文書だ」と言う。裁判では、暴行を受けていた受刑者が刑務官に転室を訴えても「部屋がない」と断られたとの証言がある(表参照)。「異変の見て見ぬふり」に当たるのではないか。 更生の途上にて思うこと  男性は2022年10月に刑務所を出所後、首都圏で行政の支援を得て資格を取り、住居も確保して定職に就いている。有罪判決が下される前、拘置所にいた時から支援団体とコンタクトを取り、出所後の手筈を整えていた。 「何度も刑務所のお世話になっています。40代になってもこのままではまずいと考え、正業に就くことを目指しました。決して刑務所の矯正教育のおかげではないと言いたい」(男性) だが、刑務所での生活がなければ正業に就こうと思わなかったのも確かだ。 「懲役を受けて良かったことは、自分の人生を考える時間ができたことです。B氏から理不尽な扱いを受け、出所後すぐは怒りが収まらず、健康被害に対する損害賠償を求めて国を提訴しようとも考えました。ですが出所後は資格取得や職探し、日常生活などで忙しく、考える暇もなくなっていた。今は、訴えようと思うほどの怒りはない。これでいいんだと思います」(同) 男性が取材に応じたのは、「刑務所での暮らしが過去のものとなる中、あの時受けた理不尽な気持ちを何らかの形にしたかったから」だという。福島刑務所には、裁判にならないからと放置していい問題ではないことを指摘したい。刑務官の教育に努め、受刑者の人権をないがしろにしない対応に改める責任がある。 あわせて読みたい 【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

  • なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    福島大学の学生が語る投票率アップのヒント  若者の投票率が低迷を続けている。昨年10月に行われた福島県知事選挙は10代から30代の有権者の投票率がいずれも3割に満たなかった。その中でも最低は20代の21・35%。なぜ若者は選挙に行かないのか。どうすれば投票率を上げられるのか。若者への選挙啓発を中心に活動する福島大学の学生団体「福大Vote(ボート)プロジェクト」(以下、福大Voteと表記)に所属する学生に話を聞いた。(佐藤大) 若者の投票率がほかの世代と比べてどれだけ低いのか  昨年10月に行われた福島県知事選挙の投票率は42・58%だった。一方、年代別投票率はグラフの通り。 福島県,令和4年10月30日執行 福島県知事選挙 年代別投票率https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/543772.pdf  最も高いのは70代の59・52%、最も低かったのは20代で前回より1・77ポイント低い21・35%、次いで10代が同4・52ポイント低い26・22%、30代が同1・47ポイント低い28・68%と、若い世代がいずれも3割に満たない結果となった。 若者の投票率が低い原因にはどんなことがあるのか 【①社会と接する機会】  東京都が行った「選挙に関する啓発事業アンケート結果」(2018年)によると、若年層の投票率が低い背景について「政治を身近に感じられないから」(70・7%)が最も高く、以下「選挙結果で生活が変わらないと考えているから」(69・7%)、「政治や社会情勢に関する知識が不十分だから」(46・4%)と続いている。 東京都,選挙に関する啓発事業アンケート結果,2018https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/29/01_07.html(若年層の投票率が低い背景)  「政治を身近に感じられない」のはなぜか。その原因を探るため、若者への選挙啓発を目的に、2016年に福島大学の学生有志で結成された福大Voteのメンバーに生の声を聞いた。 福大Voteは設立当初、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることを受けて、大学や福島市選挙管理委員会に働きかけ、学内の図書館に期日前投票所を設置することに尽力した。現在のメンバーは7人で、若者に向けた選挙啓発を中心に活動している。 代表の関谷康太さんは「そもそも友達同士で政治や選挙が話題に上がらない」と話す。 「政治の話はタブーという雰囲気がありますね。あとは普通に生活していると、自分のことで精一杯というか……。大人になってから政治が及ぼす影響を考えるようになるのかもしれません」(関谷さん) 若者は他の年代と比べて社会との接点が少ない。人は年を重ね、会社に入ったり、家族を持ったりすることで社会、地域、教育といった問題を自分事として捉え始める。 東京都主税局の「租税に対する国民意識」(2017年)によると、中間層の税負担について、日本は「あまりに高すぎる」「高すぎる」と回答した人の割合が60%を超えている。また、回答者の60%以上が官公庁からの情報発信が不十分としており、情報提供の充実を求めている。 東京都主税局,租税に対する国民意識と税への理解を深める取組,2017https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc29_s1/15-1.pdf(6ページ)  福島県の「少子化・子育てに関する県民意識調査」(2019年)によると、子育て環境の整備や少子化対策で期待することは「児童・児童扶養手当拡充、医療費助成、保育料等軽減等、子育て世帯への経済的な支援」(44・7%)が最も高い。 福島県,少子化・子育てに関する県民意識調査,2019https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/344247.pdf(9ページ)  払う金は少なくしたい、でも、もらえる金は多くしたい、という本音が透けて見える。 社会人になって初めて気付く社会保険料のインパクト……。新卒1年目、しゃかりきに働いてやっと掴んだ1万円の昇給……その金が住民税でチャラになってしまう虚しさ……所得税も地味に負担となる……。 「税金が高すぎる」――こんな叫びが、結果として政治に関心を持つきっかけになるということだろう。 【②住民票問題】  山形県出身の井上桜さんは「福大周辺に住んでいますが、山形から福島に住民票を移していないので投票には行きませんでした」と話す。 「私が通う行政政策学類は多少なりとも政治に興味があって入っている人が少なくない。なので実家暮らしで住民票がある人は『投票に行った』とよく聞きますね」(井上さん) 井上さんが福大Voteに入ったきっかけは大学の受験科目「政治・経済」を深く勉強していく中で政治に興味を持ったからだという。入学前からサークルを調べ、自らSNSでダイレクトメッセージを送って福大Voteに入った。そこまで政治に興味がある彼女ですら選挙に行かなかった(行けなかった)のだ。 総務省が行った「18歳選挙権に関する意識調査」(2016年)によると、投票に行かなかった理由として「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」が最も多く、年齢別では18歳(15・6%)よりも19歳(27・5%)の割合が高い。 総務省,18歳選挙権に関する意識調査の概要,2016https://www.soumu.go.jp/main_content/000456090.pdf(2ページ)  選挙は通常、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家から移さないため、帰省のタイミングで選挙がない限り進学先では投票できない。 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。 実際、福島県知事選挙の投票率を詳細に見ていくと、18歳は34・21%だったが、19歳は17・83%と最も低かった。 【③なじみの薄い選挙】  読書が好きで、もともと政治に関心が高い山本雅博さんは「政治は面白いのに、面白さに気付いてない」と話す。 「周りを見てみると、政治に関心がないし、あまり知識がない印象です。それでも僕が友人に熱心に語りかけると、『投票行ったよ』と言ってくれる人もいる。もっと政治を話す場があれば選挙に行くきっかけになるだろうし『誰々は選挙に行ったみたいだ』という話が広まればさらに選挙に行く人は増えると思います」(山本さん) 福大Voteは県選管の協力を得て、知事選前の10月27・28日、投票率アップにつなげようと、大学図書館の一角で学生が選挙や政治について気軽に話すことができる「選挙カフェ」を開いた。テーマを決めて議論し、訪れた学生と意見を交わした。 市町村の選管も、若者の投票率向上のためさまざまな取り組みを行っている。 須賀川市選管ではバス車内で投票ができる移動期日前投票所を市内の高校に初めて開設するなど、若者が投票しやすい工夫を凝らした。 福島市選管では市内の中学校で選挙への理解を促す出前授業を開き、生徒が模擬投票を体験した。 決定に関わる取り組みを子どものころに経験し、積極的に物事に関わる姿勢(若者の主権者意識)が醸成されれば、民主主義の基盤を早くから意識できる。 投票率を上げるためにはどうすればいいのか 【①情報】  各選管は移動期日前投票所の設置や模擬投票の実施など若者の投票率向上に躍起だが、冒頭に示した投票率の通り結果は伴っていない。 若者の投票率を上げる方策はあるのか。 前出・渋谷さんは次のように指摘する。 「若者の目に留まりやすいSNSなどを活用し、社会に関心を持ってもらうような啓蒙活動を多面的にアプローチすることが必須なんじゃないかなと思います」 例えば、知事選の候補者だった内堀雅雄氏と草野芳明氏は若者からすると、言ってしまえばどちらも〝知らないおじさん〟でしかない。 東京都知事選挙は22人が立候補し、テレビで見たことがある馴染みの候補者が何人もいた。宮崎県知事選挙はタレントの東国原英夫氏が立候補するなど、地方の選挙でも有名人が立候補することは珍しくなくなった。 もちろん知名度があればいいというわけではないが、話題性は高くなるので、結果的に有権者は候補者の素性や公約を知る機会が増える。 新聞・テレビ離れが進み、若者が候補者の情報をキャッチする機会は減り続けている。一方、スマートフォンが普及し、アプリが多様化する中、若者は求める情報を自らキャッチしにいくのが当たり前になっている。 若者が普段使っているアプリ―ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトック―挙げたらきりがないが、各選管は予算をかけて多方面で周知を図る必要があるだろう。 【②選挙に出よう】  日本財団ジャーナルが行った意識調査(2021年)によると、「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人にその理由を尋ねたところ「投票したい候補者・政党がいないから」が最も多く22%だった。 日本財団ジャーナル,意識調査,2021 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63822  本誌で連載しているライター、畠山理仁氏の「選挙古今東西」(昨年6月号)を引用する。 私はかねてから「選挙に行こう」ではなく「選挙に出よう」と呼びかけてきた。選挙に出る人が増えれば選択肢が増える。選択肢が増えれば投票に行く人も増える。つまり、自分の1票を実感できるチャンスが増える。候補者が増えて適正な競争が行われれば、政治業界全体のレベルも上がる。多様な候補者が立候補することで「今、政治には何が求められているか」も可視化される。誰にとっても不都合はない。  (中略)  もう一つの問題は「立候補のしかた」を学校で教えないことだ。そのため、どうやって立候補したらいいのかわからない人が多くいる。  安心してほしい。私たちの社会は、そんな時のために働いてくれる人たちをちゃんと用意している。役所にある選挙管理委員会(選管)の人たちだ。そこをたずねて「立候補したい」と伝えれば、懇切丁寧に立候補までサポートしてくれる。  選挙の約1カ月前には、各地の選管で「立候補予定者事前説明会」が開かれる。一度出席してみれば、すべての候補者がとても複雑な手続きや高いハードルを超えて立候補していることがわかる。会場を出るころには候補者への敬意を抱くこと間違いなしだ。ぜひ、自分の権利を確認するためにも訪ねてみてほしい。  参議院議員と都道府県知事の被選挙権は満30歳以上だが、衆議院議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議員は満25歳以上だ。供託金などの費用が最大のネックではあるが、20代がもっと当事者意識を持っていいはずだ。 【③与野党への考え】  福大Voteの3人に「政党についてどう考えているか」を聞いた。 「特定の支持政党は無いですね。ただ、野党には頼れないので、結局与党に投票することが多いです」(関谷さん) 「私も与党野党どちらを支持するとかはないです。政治全体を見て判断したいですね」(井上さん) 「根本に政権交代してほしいという思いがあるので、野党の国民民主党を支持していたことはあります。ただ結局、政治は多数決で、数が必要という要素があるので、今はどこがどうというのはありません」(山本さん) 本誌主幹・奥平はたびたび「政府与党の傲慢さと野党のだらしなさ」を指摘している。投票しようにも、推したい政党・候補者がいなければ選挙離れは進む一方だ。 左から井上桜さん、関谷康太さん、山本雅博さん 投票しないことのデメリットは何か  福大Voteの3人に「政治に求めるもの」を聞いた。 「若い世代の支援をもうちょっと増やしてほしいです。あとは地方創生、教育格差の是正です。生まれた家庭環境によって教育機会に違いがあるのはおかしいと思います」(関谷さん) 「大学周辺に買い物ができる場所がないんです。スーパーが1軒でもあれば……。電車やバスの本数ももっと増やしてほしいですね」(井上さん) 「防衛費はGDPの何%ということではなく、必要なものを精査して調達することが重要だと思いますし、それに合わせた予算を組むべきです。防衛省の情報が分かりにくいので、国防上明かせない情報があったとしても『こういう戦略で国を守っていく』と分かりやすく説明してほしいです」(山本さん) 3人はまだ学生なのに、それぞれしっかりした考えを持っている。ここまで意識が高ければ、黙っていても選挙に行くだろう。問題は、政治に全く興味がない人へのアプローチだ。 人が行動する動機は2種類しかない。「快楽を得たい」か「痛みを避けたい」かのどちらかだ。 政治に興味がない人に、選挙に行くメリットを説いても響かない。快楽を得るほどの成果も生まれない。それであれば、痛みを避けるパターンで訴えていくしかない。 再び畠山氏の「選挙古今東西」(2020年4月号)を引用する。  選挙は積極的に参加したほうが絶対に「得」だ。参加しなければ「損」をすると言っても過言ではない。  今、日本人は収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している。これは「国民負担率」という数字で表されるが、令和2年度の見通しは44・6%。このお金の使い道を決めていくのが政治家だ。  幸いなことに、日本は独裁国家ではない。民主主義国家だから、有権者は自分たちの代表である政治家を選挙で選ぶことができる。18歳以上で日本国籍を有していれば、性別や学歴、収入や職業的地位に関係なく、誰もが同じ力の「1票」を持っている。実はこれはスゴイことだ。  もっとわかりやすく言う。  「無収入の人も年収1億円の人も平社員も社長も同じ1票しかない」  それを誰に投じるかは有権者次第であり、1票でも多くの票を得た候補が当選する。これがルールだ。  つまり、選挙に積極的に関わらないでスルーしていると、自分の理想とは違う社会がやってくる可能性がある。考えようによっては、かなりヤバイ。自分の収入の約4割をドブに捨てることにもなりかねない。  今は国政選挙でも投票率5割を切る時代だ。地方選挙ではもっと低いこともある。つまり、「確実に選挙に行く人たち」の力が相対的に大きくなっている。貴重な1票を捨てている人は、あっという間に社会から切り捨てられる存在になるだろう。  政治に参加せず、「収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している」現状を放置すれば、それが5割、6割と高くなっていくのは目に見えている。痛みを避けたければ、まずは選挙に行くしかない。

  • 谷賢一氏の画像

    【谷賢一氏】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

     飯舘村出身の俳優・大内彩加さん(29)が、所属する劇団の主宰者、谷賢一氏(40)から性行為を強要されたとして損害賠償を求めて提訴している。谷氏は「事実無根」と法廷で争う方針だが姿を見せず「無実」の説明もしていない。谷氏は原発事故後に帰還が進む双葉町に単身移住。浜通りを拠点に演劇の上演や指導を計画していた。大内さんは、「劇団員にしてきたように福島でも性暴力を起こすのではないか」と恐れ、被害公表に踏み切った。(小池航) 【大内彩加】飯舘村出身女優が語る性被害告発の真相  谷氏から性被害を受けたと大内さんがネットで公表したのは昨年12月15日。翌16日からは谷氏の新作劇が南相馬市で上演される予定だったが、被害の告発を重く見た主催者は中止を決定。谷氏は自身のブログで、大内さんの主張は「事実無根および悪意のある誇張」とし、司法の場で争う方針を示している。 谷賢一氏はどのような人物か。本人のブログなどによると、郡山市生まれで、小学校入学前までを石川町で過ごし、千葉県柏市で育った。明治大学で演劇学を専攻し、英国に留学。2005年に劇団「DULL-COLORED POP(ダルカラードポップ)」を旗揚げした。大内さんが所属しているのがこの劇団だ。 自身のルーツが福島県で、父親は技術者として東京電力福島第一原発で働いていたという縁。さらに、原発の在り方に疑問を抱いていたことから、作品化を目指して2016年夏から取材を始めた。事故を起こした福島第一原発がある双葉町などを訪れ、2年の執筆と稽古を重ねて福島県と原発の歴史をテーマにした一連の舞台「福島三部作」に仕上げた。 作品は2019年に東京や大阪、いわき市で一挙上演。連日満員で、小劇場作品としては異例の1万人を動員した。その戯曲は20年に鶴屋南北戯曲賞と岸田國士戯曲賞を同時受賞した。谷氏が昨年10月に双葉町に移住したのは、何度も訪れるうちに愛着が湧き、放っておけなくなったからという。 性被害を受けた大内彩加さんは、飯舘村出身。南相馬市の原町高校2年生の時に東日本大震災・原発事故を経験した。放送部に所属し、避難先の群馬県の高校では朗読の全国大会に出場。卒業後は上京して芝居を学び、イベントの司会や舞台で活躍してきた。2015年からは故郷・飯館村をPRする「までい大使」を務めている。 大内彩加さん。「匿名では揉み消される」と、顔を出し実名で告発した。  大内さんが東京で活動しているころ、谷氏が福島三部作に出演する俳優を募集していると知った。故郷を離れても芝居を通して何かしら福島と関わりたいと思っていた大内さんはオーディションを受けた。 結果は合格。谷氏からは「いつか平田オリザさんと浜通りで演劇祭をやるからお前も手伝うんだぞ」と言われた。平田氏は、劇団「青年団」を主宰する劇作家・演出家だ。震災前からいわき市の高校で演劇指導をしてきた縁で、県立ふたば未来学園(広野町)でも講師を務めた。谷氏は青年団演出部に所属していた(今回の告発を受けて退団)。大内さんは、故郷の浜通りで著名な演劇人の関わるイベントに携わることを夢見た。 三部作の上演に向けて、谷氏が主宰する劇団での稽古が始まった。2018年6月、大内さんが都内で稽古に参加した時だ。谷氏が女性俳優の尻をやたらと触り、抱きついていた。周囲の劇団員は止めないし、何も言わなかった。 間もなく自分が標的になった。休憩に入ると、谷氏は大内さんに肩を揉むように言ってきた。従うと、谷氏は手を伸ばして大内さんの胸を触ってきたという。谷氏はその後もことあるごとに体を触ってきた。大内さんが言葉で拒絶しても、谷氏はやめなかった。 大内さんは「我慢すれば済むこと。三部作に関わるチャンスを逃したくない」と不快感を押し殺した。しかし、被害はエスカレートする。稽古終わりのある夜、谷氏は東京・池袋駅のホームで大内さんを羽交い絞めして服の上から胸を触ってきた。周りには人が大勢いた。大内さんは身長169㌢、谷氏は185㌢という体格差もあり抵抗できなかった。 「俺はお前の家に行く」  同年7月26日は都内で福島三部作の先行上演があった日だ。この日大内さんは谷氏から性被害を受ける。終演後の夜、大内さん、谷氏、出演した俳優たちの計5人で駒場東大前駅近くで飲んだ。男性俳優2人と女性俳優1人が先に帰った。谷氏と大内さんだけが残された。 谷氏は大内さんを羽交い絞めにして、服の中に手を入れて胸を揉んできたという。何度も抵抗したが、力の差は歴然だった。谷氏は「終電を逃したのでお前の家に行っていいか」と聞いてきた。大内さんは1人でホテルに泊まるか、自宅に帰ってほしいと頼んだが、谷氏は「妻には連絡した。俺はお前の家に行く」。タクシーに押し込まれ、自分の家に行かざるを得なくなった。 当時住んでいた家は1LDK。大内さんは、酒に酔っていた谷氏をベッドに寝かし、自分は床やリビングに逃げようとしたが抵抗はむなしかった。 翌日、大内さんは前日夜に飲み会に同席していた女性俳優にLINEでメッセージを送った(図)。動揺と谷氏への嫌悪感が見て取れる。 性被害を受けた翌日の2018年7月27日に、大内さんが女性俳優とやりとりしたLINEの画像。セクハラの証拠となる他のLINE画像は、昨年12月24日配信の「NEWSポストセブン」が公開している。  「彼女も谷からパワーハラスメントを受けていました。2人で傷をなめ合うことしかできなかった」(大内さん) 正式に劇団に籍を置いてからも被害は続いた。大内さんに交際相手がいると知れ渡る2021年3月まで谷氏は胸や尻を触る行為をやめず、LINEではセクハラメッセージを送り続けた。 大内さんは何もしなかったわけではない。劇団内で解決しようと、古参の劇団員にレイプ被害を打ち明けた。だが、答えは 「大内よりも酷い目に遭ったやつはいっぱいいたからな。それで辞めていった女の子はたくさんいたよ」 谷氏の振る舞いは、古参劇団員も目撃しているはずだった。 「性暴力は、この劇団では当たり前のことなんだ、誰も助けてくれないんだと絶望しました」(大内さん) 2022年春頃、大内さんは稽古中も、街中で1人でいる時も訳もなく涙が出てきた。何を食べても味を感じないし、芝居を見ても本を読んでも頭に入ってこない。歩けずに過呼吸になったこともあった。間もなく舞台から離れた。 同年5月ごろ、谷氏は劇団内でハラスメント防止講習を行い、「ハラスメントを許さないという姿勢を外部に表明しよう」と提案した。「劇団内でハラスメントがあったから対策をするんですよね」。谷氏のこれまでの所業を暗にとがめる劇団員の質問に、谷氏は「してきたわけではない」と否定。ただ「決して品行方正な劇団ではないが、何も言わずには済まないだろう」と言った。大内さんは傍で聞いていた。 心身は限界だった。心療内科で同年6月にうつ病と診断された。「私はいつもの状態ではなかったんだ」。病名を与えられて初めて、自分を客観的に眺めることができた。 「死を選んだら谷に殺されたのと同じだよ」  被害に向き合うと、あの日の光景がフラッシュバックする。苦痛から逃れるために「死にたい」と思う希死念慮にさいなまれた。 劇団から距離を置いたことで、少しずつだが被害を友人たちに打ち明けられるようになった。年上のある女性俳優は大内さんにこう言った。 「いま死を選んだら『自殺』ではなく『他殺』だよ。谷に殺されたのと同じ。彩加ちゃんは毎日眠れなくて、苦しくて、辛い思いを何度もしてきたんでしょ。それなら谷にも同じ気持ちを味わわせなきゃ。裁判でも何でもいいから形にして社会に訴えて、これ以上被害者を出さないこと。そうしないと彩加ちゃんはきっとこれからも苦しみ続けるよ」 原町高校時代の友人は、普段の温厚さからは想像できない怒りようだった。 「谷には早く福島から出て行ってほしい。こんなこと、あってはいけない」。そして、「彩加は全然悪くない」と言ってくれた。 「私は怒っていいんだ」。我慢することばかりで、自分の感情にふたをしていた。友人たちが自分の身に起こったことのように憤ってくれたことで、大内さんは怒りの感情を少しずつ取り戻していった。 性被害を告白できるまでには4年かかった。弁護士からは、刑事告訴するには時間が経っているため立証が難しく、時効も高い壁になるだろうと言われた。民事で損害賠償を求める選択しかなかった。 提訴は2022年11月24日付。判断を法廷に託したのは、演劇界で性暴力、パワハラなどあらゆるハラスメントが横行している現状を見過ごされないように広く訴えるためだ。 同年9月には、別の劇団の男性が自死したと聞いた。ハラスメントとの因果関係は不明だが、主宰者から何らかの被害を受けて退団したという話は耳にしていた。 「男性が亡くなったと聞いた時、なんでもっと早く私自身の被害を明らかにしなかったんだろうと悔やみました。同じ境遇の人が他にもいると彼が知っていたら、『自分だけじゃない』と自死を踏みとどまったかもしれない。提訴しなければならないと決意したのは、彼の死を知ったからです」(大内さん) 「性暴力は福島県でも起こりうる」  提訴は、谷氏の所業を福島県民に知らせ、移住先での新たな被害を防ぐ狙いもあった。性暴力は稽古場や谷氏が酒に酔った際に起きている。谷氏は双葉町で一人暮らしをしていた。移住先では自宅で稽古を付け、酒宴を開くこともあると知り、「劇団員にしてきたことが福島でも起こりうる」と大内さんは恐れた。 大内さんは東京地裁で1月16日に開かれた裁判の第1回期日に出廷し、閉廷後に記者団の取材に応じた。法廷に谷氏の姿はなかった。 本誌は谷氏にメールで質問状を送り取材を依頼した。「訴訟代理人を通してほしい」とのことだったので、谷氏の弁護士に質問状を郵送したが、期限までに返答はなかった。 谷氏は福島県で何をしようとしていたのか。公開資料を読み解く。 谷氏は昨年9月16日に「一般社団法人ENGEKI BASE」を設立している。法人登記簿によると、主たる事務所はJR双葉駅西側に隣接する帰還者用の住宅。谷氏の新居だ。代表理事に谷賢一、他の理事に大原研二、山口ひろみの名がある。大原氏は南相馬市出身の俳優で、福島三部作では大内さんと一緒に方言指導を務めた。被害告発後には、谷氏が主宰する劇団を退団したと発表している。 同法人は演劇を主とした文化芸術の発信・交流による福島県の地域活性を事業目的とし、「演劇・舞踊などの舞台芸術作品の創作・発信」「アーティストの招聘」「演劇事業の制作」を掲げている。現在、ホームページが閲覧できず、谷氏の回答も得られていないため全容を知ることはできないが、谷氏はこの法人を軸に福島県での活動を描いていたようだ。 実際、1月20~22日に富岡町で開かれた「富岡演劇祭」(NPO法人富岡町3・11を語る会主催)では、当初協力団体に名を連ね、谷氏はシンポジウムで前出・平田オリザ氏と対談する予定だった。テーマも「演劇は町をゲンキにできるか?」。双葉町へ移住した谷氏あっての企画だ。しかし、大内さんの被害告発を受け、主催者は谷氏との断絶を宣言し、シンポの「代打」には文化庁次長や富岡町職員ら3人を当てた。谷氏が所属していた劇団青年団主宰の平田氏も登壇したが、本来の対談相手がいなくなったことに言及する者は誰もいなかった。 谷氏の「裏の顔」は演劇界以外には知られていなかったので、内情に疎い県民が「被災地を応援してくれている」ともてはやしていたのは仕方がない。問題は、谷氏とまるで関係がなかったかのように取り繕うことだ。 最たる例が地元紙だ。帰還地域に移住した著名人だったこともあり、初めは「再起した双葉から、新たな物語が始まろうとしている」(22年10月9日付福島民友)などと盛んにPRした。ところが大内さんが性被害を公表すると、福島民報も福島民友もばつの悪さからか関連記事は共同通信の配信で済ませている。独自取材をする気配はない。メディアが報じるのに及び腰のため、ネットでは憶測を呼び、当事者はバッシングなどの二次被害を受けている状況だ。 谷氏は口を閉ざすが、大内さんはあらゆるメディアの取材に応じる方針だ。だが、地元メディアは積極的に取り上げようとしない。福島県出身の被害者の真意が県民に伝わらないのは、この県の悲劇である。 その後 https://twitter.com/o_saika/status/1630131447188303873 https://twitter.com/seikeitohoku/status/1635965899386793984 https://twitter.com/seikeitohoku/status/1635966118958620672 あわせて読みたい 女優・大内彩加さんが語る性被害告発のその後「谷賢一を止めるには裁判しかない」 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】

  • いわきFCマスコットキャラクターハーマー&ドリー

    【いわきFCを勝手に評価】レノファ山口戦(2023/3/5)

    サッカーを見ることが好きな筆者が、勝手にいわきFCを評価するWEB限定企画。 いわきFCを生観戦するのは今回で2回目だ。 初めて「いわきグリーンスタジアム」に行ったので、サッカー専用スタジアムだということを初めて知った。 サッカー専用スタジアムの素晴らしいところは、なんといっても「選手との距離」が近いこと。J2は有名な選手がたくさんいるので、選手を間近に見れるのは嬉しい! 【いわきFCを勝手に評価】レノファ山口戦(2023/3/5) 【結果】 いわきFC 0ー1 レノファ山口 フォーメーションは4-4-2。割と4-3-3が主流な現代サッカーにおいては珍しいのかもしれない。 筆者が最近見ている4-4-2と言えば、久保建英選手がいるレアルソシエダ。前線でしっかりポストプレーしてくれるセルロートとテクニックのある久保選手のツートップが魅力だ。つまりトップの2人がかなり重要だということだ。 ソシエダは最近オヤルサバルが復帰して、4-3-3になって勝てなくなった。(ダビドシウバがいなかったのも大きいのかもしれないが、、、) 【いわきFCを勝手に評価】選手別 https://www.tiktok.com/@seikeitohoku/video/7206906900082855169 GK 31 鹿野 修平 選手 6.0特に印象にないということは無難だったということだろう。DF 35 江川 慶城 選手 6.5声掛けを積極的に行っていたので、チームの中ではモチベーターの役割を担っているのかもしれない。ガッツが感じられて好印象だった。DF 4 家泉 怜依 選手 6.0両センターバックは無難だった。特に減点なし。失点シーンは誰の責任もない。DF 3 遠藤 凌 選手 6.0両センターバックは無難だった。特に減点なし。DF 2 石田 侑資 選手 6.5右サイドからの攻撃で、効果的なオーバーラップ、正確なクロス、縦へのドリブル、すべてよかった。嵯峨選手とのコンビネーションも素晴らしい。ケガで前半のみで交代。後半も見たかった。 一緒に観戦したサッカーオタク曰く、徳島から市立船橋高校に進学した際、外がうるさくて眠れなかったという逸話を持っている。出身の徳島県吉野川市はそんなに田舎なのだろうか。MF 8 嵯峨 理久 選手 7.0いわきFCで一番よかった。縦への推進力があり、いわきFCの要なのは間違いない。ドリブルできる、トラップも一級品。クロスの精度も高く、多くのチャンスを演出していた。28分の谷村選手へのパス、56分のアーリークロス、ともにアシスト級だった。おそらくJ1でも通じる。 さすが青森山田高校出身。MF 6 宮本 英治 選手 6.0無難にゲームコントロールできていた。こぼれ球への対応もできていた。75分のシュートチャンスは決めたいところだが、いいところに顔を出していた。MF 24 山下 優人 選手 6.0無難にゲームコントロールできていたが、あまり印象にない。MF 14 山口 大輝 選手 6.011分、神トラップからのシュートは決めたいところ。ただあのトラップを観れるだけでも金を払う価値はある。FW 17 谷村 海那 選手 5.016分の決定機は、給料をもらっている以上、絶対にはずしてはいけない。相手ディフェンスがゴールに向かってきていたので、シュートが簡単ではないことは理解しているが、、、28分のチャンスも決めたいところ。J2では少ないチャンスをどれだけものにするかが勝敗を分ける。FW 11 有田 稜 選手 5.516分の谷村選手の決定機は、有田選手のプレスから生まれたチャンス。他のチャンスにも顔を出していた。ただ前線でのポストプレーはもう少し改善が必要な印象。谷村選手、有田選手、ともに前半はリヴァプールを思わせるゲーゲンプレスを敢行して相手ディフェンスを困らせていたが、さすがに後半になるとプレスの強度が落ちた。90分走り切るのは無理がある。 杉山 伶央 選手 6.0左足の精度があったように感じる。あまり印象にない。 永井 颯太 選手 6.5先発で使ってもいい出来だった。トラップもうまいし、足も速い。75分の突破は素晴らしかった。ただ、先発で使われないのには何か理由があるのだろう。 近藤 慶一 選手 採点なし 加瀬 直輝 選手 採点なし レノファ山口を勝手に総評 タレント力が違いすぎた。 アギーレジャパンに召集された皆川佑介選手、説明不要の山瀬 功治選手、リオデジャネイロオリンピックで日本代表だった矢島慎也選手、J1にいたときの横浜FCで活躍した佐藤謙介選手、あと身長が10センチ大きければ代表レベルの関憲太郎選手などなど。 得点シーンは皆川選手のごっつぁんゴールだったが、「あの位置にいる」という能力こそが、長年サッカーで飯を食ってきた証だ。 そんなレノファ山口でもJ2では中堅クラブ。おそらく順位も真ん中あたりに落ち着くはず。 いわきFCは、J3降格候補の藤枝に負け、中堅の水戸に引き分け、中堅の山口に負けた。 この結果が何を意味するか。これからJ1級の清水エスパルスやジュビロ磐田と戦うとどうなるのか。楽しみに見てみたい。 【いわきFCを勝手に評価】総評 ダゾーンでハイライトを見たが、改めて思ったのは前線の迫力がJ2では大事なのではないかということ。予算が限られているのでガンガン点を取れる外国人選手を雇うのは容易なことではないが、FC町田ゼルビアがおそらく上位常連になる理由は前線に迫力差があるかどうか。 ミニ情報 スタジアムグルメ「スタグル」はかなり充実していた。何も食べなかったが美味しそうだった。かなりレベル高い方。 いわきFCマスコットキャラクター「ハーマー&ドリー」 フルコーラスの踊りを披露。かなりファンになった。

  • 「矢祭町刀剣展示会」開催-矢祭町・矢祭町教育委員会

    「矢祭町刀剣展示会」開催-矢祭町・矢祭町教育委員会

     矢祭町のユーパル矢祭にて、1月28・29日の2日間にわたり「矢祭町刀剣展示会」が開催された。今回で3回目の開催となり、会場には老若男女問わず多くの来場者が訪れ賑わいを見せていた。 ここ数年はオンラインゲーム『刀剣乱舞―ONLINE―』の人気を皮切りに、若い女性を中心に日本刀が社会的ブームとなっており、美術工芸品としての日本刀にも注目が集まっている。 展示会は、矢祭町文化記念事業の一環として企画され、主催は町と教育委員会で、郡山市新誠会と白河市歴史文化協会の協力で開催された。 場内では県内で作られた刀を中心に約45振りが展示された。ガラスケース等で隔てず、間近でじっくり鑑賞できるのが最大の魅力。 新選組局長・近藤勇の愛刀「会津虎徹 陸奥大掾三善長道」や副長・土方歳三の「会津十一代和泉守兼定」といった歴史上の偉人の愛刀に加え、重要美術品「古伯耆貞綱」などが展示された。貴重な刀を前に多くの来場者がその光景を写真に収めていた。 土方歳三の「会津十一代和泉守兼定」  そのほか、居合抜刀道演舞も披露された。 居合抜刀道演舞  今回の開催を振り返って、佐川正一郎町長は、「おかげさまで、今回の入場者数は過去最高の300人超を記録し、県内外から老若男女問わず幅広い世代の方々に来場していただき感謝しています。日本のものづくりの原点を刀から学ぶことができますし、文化や伝統の継承という意味でも、こうして間近に触れられる機会は貴重ですので、今後も刀剣をはじめ、絵画などを通して文化振興を図っていきたいと思います」と話した。

  • 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影)

    【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

     福島市在住のアマチュアカメラマン・渡部良寛さん(63)は鉄道写真を中心に、県内の絶景を撮影し続けている。 桜に紅葉、雪景色。その美しさから、福島県宅地建物取引業協会(宅建協会)の広報誌の表紙に採用されていたほか、JR福島駅の駅ビル「S-PAL(エスパル福島)」1階でも常設展示されている。 渡部さんの作品群の中から、思わず心を奪われる県内の〝感動絶景〟を紹介してもらった。 観音寺川の桜並木(猪苗代町、2021年撮影) 水郡線の脇で咲き誇る「戸津辺の桜」(矢祭町、2014年撮影) 二本松の提灯祭り(二本松市、2014年撮影) 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影) 二井屋公園に咲くポピー(伊達市、2016年撮影) ハート形に見えるため、「ハートレイク」とも呼ばれている半田沼(桑折町、2017年撮影) 只見川沿いの大志集落(金山町、2020年撮影) 国の重要無形民族文化財「サイノカミ」が再現され、花火も打ち上げられた「雪と火のまつり」(三島町、2020年撮影) 波立海岸沿いのJR常磐線を走るE657系「特急ひたち」(いわき市、2022年撮影) あわせて読みたい 春のふくしまを巡る ふくしま書棚百景

  • 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

     福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。  被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路  「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【鏡石町】遊水地で発生するポツンと一軒家

     国が鏡石町、玉川村、矢吹町で進めている阿武隈川遊水地計画。対象地域の住民は全面移転を余儀なくされるため、さまざまな不安が渦巻く。このため、鏡石町議会では「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げ、同事業の調査・研究を行っている。今年2月には同計画対象地域の隣接地の住民から議会に陳情書が提出され、同委員会で審議された。 取り残される世帯が議会に「陳情」  令和元年東日本台風被害を受け、国は「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を進めており、遊水地計画はその一環として整備されるもの。鏡石町、玉川村、矢吹町の3町村にまたがり、総面積は約350㌶、貯水量は1500万から2000万立方㍍。用地は全面買収し、対象地の9割ほどが農地、1割弱が宅地となっている。それらの住民は移転を余儀なくされる。計約150戸が対象で、内訳は鏡石町と玉川村が60〜70戸、矢吹町が約20戸。 住民からしたら、もうそこに住めないだけでなく、営農ができなくなるわけだから、「補償はどのくらいなのか」、「暮らしや生業はどうなるのか」といった不安がある。 中には、以前の本誌取材に「補償だけして『あとは自分で生活再建・営農再開してください』という形では納得できない。もし、そうなったら〝抵抗〟(立ち退き拒否)することも考えなければならない」と話す人もいたほど。 そのため、鏡石町議会では遊水地計画の調査・研究をしたり、国や町執行部に提言をしていくことを目的に、昨年6月に「鏡石町成田地区遊水地整備事業調査特別委員会」を立ち上げた。委員は議長を除く全議員で、委員長には計画地の成田地区に住所がある吉田孝司議員が就いた。 3月10日に開かれた同委員会では、2月16日に計画対象区域の隣接地の住民から議会に出された陳情書について審議された。 陳情者は滝口孝行さんで、陳情内容はこうだ。 ○滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にある。洪水の危険性があるにもかかわらず、遊水地の事業範囲から除外されており、遊水池整備後も水害の心配が残る。 ○遊水地ができれば、自宅の目の前に高い塀(堤防=計画では最大6㍍)ができ、これまでの美しい田園風景が損なわれる。そのような場所で生活しなければならないのは大きなストレスになる。 こうした事情から、事業範囲を変更してほしい、すなわち「自分のところも計画地に加えるなどの対応をしてほしい」というのが陳情の趣旨である。 写真は同委員会の資料に本誌が注釈を加えたもの。  遊水地の対象地域のうち、真ん中よりやや上の左側が住宅密集地となっており、そこから100㍍ほど離れたところに滝口さんの自宅がある。これまでは「集落からちょっと離れた家」だったが、遊水地内の住宅が全面移転すると、〝ポツンと一軒家〟になってしまう。 加えて、遊水地は周囲堤で囲われるため、自宅の目の前に大きな壁ができることになる。「これまでの田園風景から一変し、そんなところで生活していたら、頭がおかしくなってしまいそう」というのが滝口さんの思いだ。 しかも、滝口さんの自宅は阿武隈川の支流である鈴川と諏訪池川が合流する地点の付近(内側)にあり、常に水害の危険がある。 国は追加の考えナシ 鏡石町成田地区  3月10日の委員会に参考人として出席した滝口さんの説明によると、令和元年東日本台風時の被害は「床下浸水だった」とのこと。 ただ、議員からは「『昭和61(1986)年8・5水害』の時は床下浸水だったところが、今回の水害ではほとんどが床上浸水だった。水害の規模はどんどん大きくなっているから、(滝口さんの自宅が)今回は床下浸水だったからといって、今後も安全とは限らない」として、滝口さんを救済すべきとの意見が出た。 遊水地の計画地である成田地区に自宅があり、同委員会委員長の吉田議員によると、「成田地区では以前からこの件が問題になっていた」という。すなわち、「滝口さんだけが取り残されるような形になるが、それでいいのか」ということが問題視されていたということだ。 実際、吉田議員は昨年10月21日に開かれた同委員会で、滝口さんの自宅の状況を説明し、「当人がどう考えているかを考慮しなければならない」と述べていた。 ただ、その時点では「直接、滝口さんの意向を聞きに行こうとしたところ、稲刈りなどの農繁期で忙しいため、すぐには難しいと言われ、いま(委員会開催時の昨年10月21日時点で)はまだ話を聞けていない」とのことだったが、「滝口さんのことも考える必要があると思っています」と述べていた。 その後、滝口さんから今回の陳情書が提出されたわけ。 実は、昨年10月21日の委員会には国土交通省福島河川国道事務所の担当者が出席していた。その際、滝口さんが取り残される問題に話が及んだが、福島河川国道事務所の担当者は「同地(滝口さんの自宅敷地)を計画地に追加する考えはない」と答弁していた。 1人の陳情では弱い 木賊正男町長  そうした経過もあってか、滝口さんの陳情の審議に当たっては、議員から「滝口さん1人(個人)の陳情では国の意向は変えられない。成田地区全体でこの件を問題視しているのであれば、成田地区の総意としてこういう意見がある、といった形にできないか」との意見が出た。 見解を求められた木賊正男町長は次のように答弁した。 「昨年6月の町長就任以降、説明会等での対象地域の皆さんの要望や、国との協議の中で、1世帯(滝口さん)だけが残るのは、町としても避けなければならないと考えていた。どんな手立てがあるのか検討していきたい」 最終的には、町として、あらためて成田行政区や今回の遊水地計画を受けて結成された地元協議会の意向を聞く、ということが確認され、滝口さんの陳情は継続審査とされた。 委員会後、滝口さんに話を聞くと次のように述べた。 「基本的には、陳情書(委員会で説明したこと)の通りで、私自身はそういったいろいろな不安を抱えているということです」 当然、国としては必要以上の用地を買い上げる理由はない。しかし、水害のリスクが残る場所で、1軒だけが取り残されるような形になるわけだから、町として何ができるかを考えていく必要があろう。 もう1つ付け加えると、原発事故の区域分けの際も感じたが、「机上の線引き」が対象住民の分断を招いたり、大きなストレスを与えることを国は認識すべきだ。

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • ハラスメントを放置する三保二本松市長

     本誌2、3月号で報じた二本松市役所のハラスメント問題。同市議会3月定例会では、加藤達也議員(3期、無会派)が執行部の姿勢を厳しく追及したが、斎藤源次郎副市長の答弁からは危機意識が感じられなかった。それどころか加藤議員の質問で分かったのは、これまで再三、議会でハラスメント問題が取り上げられてきたのに、執行部が同じ答弁に終始してきたことだった。これでは、ハラスメントを根絶する気がないと言われても仕方あるまい。(佐藤仁) 機能不全の内規を改善しない斎藤副市長 斎藤副市長  本誌2月号では、荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で歴代の観光課長2氏が2年連続で短期間のうちに異動し同課長ポストが空席になっていること、3月号では、本誌取材がきっかけで2月号発売直前に荒木氏が年度途中に突然退職したこと等々を報じた。 詳細は両記事を参照していただきたいが、荒木氏のハラスメントは市役所内では周知の事実で、議員も定例会等で執行部の姿勢を質したいと考えていたが、被害者の観光課長らが「大ごとにしてほしくない」という意向だったため、質問したくてもできずにいた事情があった。 しかし、本誌記事で問題が公になり、3月定例会では加藤達也議員が執行部の姿勢を厳しく追及した。その発言は、直接の被害者や荒木氏の言動を苦々しく思っていた職員にとって胸のすく内容だったが、執行部の答弁からは本気でハラスメントを根絶しようとする熱意が感じられなかった。 問題点を指摘する前に、3月6日に行われた加藤議員の一般質問と執行部の答弁を書き起こしたい。   ×  ×  ×  × 加藤議員 2月4日発売の月刊誌に掲載された「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」という記事について3点お尋ねします。一つ目に、記事に書かれているハラスメントはあったのか。二つ目に、苦情処理委員会の委員長を務める副市長の見解と、今後の職員への指導・対応について。三つ目に、ハラスメントのウワサが絶えない要因はどこにあると考えているのか。 中村哲生総務部長 記事には職員個人の氏名が掲載され、また氏名の掲載はなくても容易に個人を特定できるため、人事管理上さらには職員のプライバシー保護・秘密保護の観点から、事実の有無等についてお答えすることはできません。 斎藤源次郎副市長 記事に対する私の見解を述べるのは差し控えさせていただきます。今後の職員への指導・対応は、ハラスメント根絶のため関係規定に基づき適切に取り組んでいきます。ハラスメントのウワサが絶えない要因は、ウワサの有無に関係なく今後ともハラスメント根絶と職員が快適に働くことのできる職場環境を確保するため、関係規定に則り人事担当が把握した事実に基づいて適切に対応していきます。 加藤議員 私がハラスメントに関する質問をするのは平成30年からこれで4回目ですが、副市長の答弁は毎回同じで、それが結果に結び付いていない。私は、実際にハラスメントがあったのに、なかったかのように対処している執行部の姿に気持ち悪さを感じています。 私の目の前にいる全ての執行部の皆さんに申し上げます。私は市役所を心配する市民の声を受けて質問しています。1月31日の地元紙に、2月3日付で前産業部長が退職し、2月4日付で現産業部長と観光課長が就任するという記事が掲載されました。年度途中で市の中心的部長が退職することに、私も含め多くの市民がなぜ?と心配していたところ、2月4日発売の月刊誌に「二本松市役所に蔓延する深刻なハラスメント」というショッキングな見出しの記事が掲載されました。それを読むと、まさに退職された元部長のハラスメントに関する内容で、驚くと同時に残念な気持ちになりました。 記事が本当だとするなら、周りにいる職員、特に私の目の前にいる幹部職員の皆さんはそのような行為を止められなかったのでしょうか。全員が見て見ぬふりをしていたのでしょうか。この市役所はハラスメントを容認する職場なのでしょうか。市役所には本当に職員を守る体制があるのでしょうか。 そこでお尋ねします。市は職員に対し定期的なアンケート調査などによるチェックを行っているのか。また、ハラスメントの事実があった場合、どう対応しているのか。 繰り返し問題提起 加藤達也議員  中村総務部長 ハラスメント防止に関する規定に基づき、総務部人事行政課でハラスメントによる直接の被害者等から苦情相談を随時受け付けています。また、毎年定期的に行っている人事・組織に関する職員の意向調査や、労働安全衛生法に基づくストレスチェック等によりハラスメントの有無を確認しています。 ハラスメントがあった場合の対応は、人事行政課で複数の職員により事実関係の調査・確認を行い、事案の内容や状況から判断して必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼します。調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあります。また、苦情の申し出や調査等に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないとも規定されています。 加藤議員 苦情処理委員会は平成31年に設置されましたが、全くもって機能していないと思います。私が言いたいのは、誰が悪いとか正しいとかではなく、組織としてハラスメントを容認する体制になっているのではないかということです。幹部職員の皆さんがきちんと声を上げないと、また同じ問題が繰り返されると思います。 いくら三保市長が「魅力ある市役所」と言ったところで現場はそうなっていません。これからは部長、課長、係長、職員みんなで思いを共有し、ハラスメントを許さない、撲滅する組織をつくっていくべきです。それでも自分たちで解決できなければ、第三者委員会を立ち上げるなどしないと、いつまで経っても同じことが繰り返されてしまいます。 加害者に対する教育的指導は市長と副市長が取り組むべきです。市長と副市長には職務怠慢とまでは言いませんが、しっかりと対応していただきたいんです。そして、被害者に対しては心のケアをしていかなければなりません。市長にはここで約束してほしい。市長は常々「ハラスメントはあってはならない」と言っているのだから、今後このようなことがないよう厳正に対処する、と。市長! お願いします! 斎藤副市長 職員に対する指導なので私からお答えします。加藤議員が指摘するように、ハラスメントはあってはならず、根絶に努めていかなければなりません。その中で、市長も私も庁議等で何度か言ってきましたが、業務を職員・担当者任せにせず組織として進めること、そして課内会議を形骸化させないこと、言い換えると職員一人ひとりの業務の進捗状況と、そこで起きている課題を組織としてきちんと共有できていれば、私はハラスメントには至らないと思っています。一方、ハラスメントは受けた側がどう感じるかが大切なので、職員一人ひとりが自分の言動が強権的になっていないか注意することも必要と考えています。 加藤議員 副市長が言うように、ハラスメントは受ける側、する側で認識が異なります。そこをしっかり指導していくのが市長と副市長の仕事だと思います。二本松市役所からハラスメントを撲滅するよう努力していただきたい。   ×  ×  ×  × 驚いたことに、加藤議員は今回も含めて計4回もハラスメントに関する質問をしてきたというのだ。 1回目は2018年12月定例会。加藤議員は「同年11月発行の雑誌に市役所内で職場アンケートが行われた結果、パワハラについての意見が多数あったと書かれていた。『二本松市から発信される真偽不明のパワハラ情報』という記事も載っていた。これらは事実なのか。もし事実でなければ、雑誌社に抗議するなり訴えるべきだ」と質問。これに対し当時の三浦一弘総務部長は「記事は把握しているが、内容が事実かどうかは把握できていない。報道内容について市が何かしらの対応をするのが果たしていいのかという考え方もあるので、現時点では相手方への接触等は行っていない」などと答弁した。 斎藤副市長も続けてこのように答えていた。 「ハラスメント行為を許さない職場環境づくりや、職員の意識啓発が大事なので、今後とも継続的に実施していきたい」 2回目は2019年3月定例会。前回定例会の三浦部長の答弁に納得がいかなかったため、加藤議員はあらためて質問した。 「12月定例会で三浦部長は『ここ数年、ハラスメントの相談窓口である人事行政課に相談等の申し出はない』と答えていたが、本当なのか」 これに対し、三浦部長が「具体的な相談件数はない。また、ハラスメントは程度や受け止め方に差があるため、明確に何件と答えるのは難しい」と答えると、加藤議員は次のように畳みかけた。 「私に入っている情報とはかけ離れている部分がある。私は、人事行政課には相談できる状況にないと思っている。職員はあさかストレスケアセンターに被害相談をしていると聞いている」 あさかストレスケアセンター(郡山市)とはメンタルヘルスのカウンセリングなどを行う民間企業。 要するに、市の相談体制は機能していないと指摘したわけだが、三浦部長は「人事担当部局を通さず直接あさかストレスケアセンターに相談してもいい制度になっており、その部分については詳しく把握していない」と答弁。ハラスメントを受けた職員が、内部(人事行政課)ではなく外部(あさかストレスケアセンター)に相談している実態を深刻に受け止める様子は見られなかった。そもそも、職員の心的問題に関する相談を〝外注〟している時点で、ハラスメントを組織の問題ではなく個人の問題と扱っていた証拠だ。 対策が進まないワケ  斎藤副市長の答弁からも危機意識は感じられない。 「ハラスメントの撲滅、職場環境の改善のためにも(苦情処理委員会の)委員長としてさらに対策を進めていきたい」 この時点で、市役所の相談体制が全く機能していないことに気付き、見直す作業が必要だったのだろう。 3回目は2021年6月定例会。一般社団法人「にほんまつDMO」で起きた事務局長のパワハラについて質問している。この問題は本誌同年8月号でリポートしており、詳細は割愛するが、この事務局長というのが総務部長を定年退職した前出・三浦氏だったから、加藤議員の質問に対する当時の答弁がどこか噛み合っていなかったのも当然だった。 この時は市役所外の問題ということもあり、斎藤副市長は答弁に立たなかった。 こうしたやりとりを経て、4回目に行われたのが冒頭の一般質問というわけ。斎藤副市長の1、2回目の答弁と今回の答弁を比べれば、4年以上経っても何ら変わっていないことが一目瞭然だ。 当時から「対応する」と言いながら結局対応してこなかったことが、荒木氏によるハラスメントにつながり、多くの被害者を生むことになった。挙げ句、荒木氏は処分を免れ、まんまと依願退職し、退職金を満額受け取ることができたのだから、職場環境の改善に本気で取り組んでこなかった三保市長、斎藤副市長は厳しく批判されてしかるべきだ。 「そもそも三保市長自身がハラスメント気質で、斎藤副市長や荒木氏らはイエスマンなので、議会で繰り返し質問されてもハラスメント対策が進むはずがないんです。『ハラスメントはあってはならない』と彼らが言うたびに、職員たちは嫌悪感を覚えています」(ある市職員) 総務省が昨年1月に発表した「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」によると、都道府県と指定都市(20団体)は2021年6月1日現在①パワハラ、②セクハラ、③妊娠・出産・育児・介護に関するハラスメントの全てで防止措置を完全に講じている。しかし、市区町村(1721団体)の履行状況は高くて7割と、ハラスメントの防止措置はまだまだ浸透していない実態がある(別表参照)。  ただ都道府県と指定都市も、前回調査(2020年6月1日現在)では全てで防止措置が講じられていたわけではなく、1年後の今回調査で達成したことが判明。一方、市区町村も前回調査と比べれば今回調査の方が高い数値を示しており、防止措置の導入が急速に進んでいることが分かる。今の時代は、それだけ「ハラスメントは許さない」という考え方が常識になっているわけ。 二本松市は、執行部が答弁しているようにハラスメント防止に関する規定や苦情処理委員会が設けられているから、総務省調査に照らし合わせれば「防止措置が講じられている」ことになるのだろう。しかし、防止措置があっても、まともに機能していなければ何の意味もない。今後、同市に求められるのは、荒木氏のような上司を跋扈させないこと、2人の観光課長のような被害者を生み出さないこと、そのためにも真に防止措置を働かせることだ。 明らかな指導力不足 二本松市役所  一連のハラスメント取材を締めくくるに当たり、斎藤副市長に取材を申し込んだところ、 「今は3月定例会の会期中で日程が取れない。ハラスメント対策については、副市長が(加藤)議員の一般質問に真摯に答えている。これまでもマニュアルや規定に基づいて対応してきたが、引き続き適切に対応していくだけです」(市秘書政策課) という答えが返ってきた。苦情処理委員長を務める斎藤副市長に直接会って、機能不全な対策を早急に改善すべきと進言したかったが、取材を避けられた格好。 三保市長は常々「職員が働きやすい職場環境を目指す」と口にしているが、それが虚しく聞こえるのは筆者だけだろうか。 最後に、一般質問を行った前出・加藤議員のコメントを記してこの稿を閉じたい。 「大前提として言えるのは、市役所内にハラスメントがあるかないかを把握し、適切に対処すれば加害者も被害者も生まれないということです。荒木部長をめぐっては、早い段階で適切な指導・教育をしていれば辞表を出すような結果にはならず、部下も苦しまずに済んだはずで、三保市長、斎藤副市長の指導力不足は明白です。商工業、農業、観光を束ねる産業部は市役所の基軸で、同部署の人事は極力経験者を配置するなどの配慮が必要だが、今回のハラスメント問題を見ると人事的ミスも大きく影響したように感じます」 あわせて読みたい 2023年2月号 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 2023年3月号 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

  • 【トライアル】伊達市進出の波紋

     3月下旬、伊達市保原町上保原に食品スーパーとディスカウントストアの複合店舗「スーパーセンタートライアル(TRIAL)伊達保原店」がオープンする。出店場所は県道4号福島保原線沿いで、相馬福島道路伊達中央インターチェンジの近く。 交通の利便性が良く、市内初進出店舗ということもあって、注目度は高い。周辺にはヨークベニマル保原店など商業施設が出店しており、競合は必至だ。 これだけ店舗が多いエリアだと、来店客以上にスタッフの確保も大変そうだが、トライアルでは時給1000~1200円(鮮魚部門)の条件で求人を出していた。ちなみにヨークベニマル保原店(パート、惣菜製造スタッフ)は時給858円(いずれも企業ホームページより)。 市内の事情通からは「小売店経験者がトライアルに流れている」とのウワサも聞こえる。オープン前から流通戦争が始まっている。 あわせて読みたい 【伊達市議会】物議を醸す【佐藤栄治】議員の言動 【伊達市】須田博行市長インタビュー

  • 浪江・霊園改修問題で地縁団体が文書送付

    本誌2月号で、浪江町の町営大平山霊園の改修工事が、同町請戸地区住民で組織される「大字請戸区」の負担で行われていたことを報じた。 請戸地区は災害危険区域に指定されており、同団体は将来的に解散する見通し。財産を清算する目的で、大平山霊園の改修と費用負担が総会で決められた。だが、総会に出席できなかった県外在住の住民から反発が相次ぎ、「町の工事を地縁団体が行うのは違和感がある」「一律に配分すべき」と主張していた。 同団体の代表者(区長)は本誌取材に応じようとしなかったが、2月号発売直後、同団体は住民にファクスで文書を送付した。 文書には《同団体の財産は準公金なので個人に配分できない》、《町民や区の住民から問題点が指摘されたため急遽工事は一時中断にし、次回の総会で再検討する》といった内容が書かれていた。 請戸地区の住民はこの文書について「各世帯への見舞金などは支給されており、準公金を理由に配分できないというのは違和感がある。町はなぜゴーサインを出したのか、大平山霊園を利用している請戸地区以外の住民の意向を確認しようと考えなかったのか、いろいろ疑問が残る。関係者には明確に説明してほしい」と述べた。 5月に行われる総会では大きな議論になりそうだ。 あわせて読みたい 【浪江町営】大平山霊園を地縁団体が改修!?  

  • 浪江町社会福祉協議会で事務局長が突然退任

     浪江町は帰還困難区域のうち、特定復興再生拠点区域(復興拠点)の避難指示解除の動きが進む。3月に解除の判断が示されるが、本誌編集部には「解除後の医療福祉は大丈夫なのか」と心配の声が寄せられている。調べると、浪江町社会福祉協議会では本誌既報のパワハラ問題が解決していない。(小池航) 調査で指摘された自身のパワハラ  本誌昨年11月号「浪江町社協でパワハラと縁故採用が横行」という記事で、職員によるパワーハラスメントが蔓延している問題を取り上げた。被害者がうつ病を発症して退職を余儀なくされ、業務をカバーするため職員たちの負担が増加した。加害者は1人で会計を担当しており、替えが利かない立場を笠に着て、決裁を恣意的に拒否していた。こうした事態は専門家からガバナンス崩壊と指摘された。 浪江町社会福祉協議会の事務方トップである事務局長は、加害者を十分に指導せずパワハラを放置していた。自身は、親族や知人の血縁者を少なくとも4人採用。介護業界は人手不足とは言え、求められているのは介護士や看護師など福祉や医療の有資格者。事務局長が採用した職員たちは資格を持たず、即戦力とは言い難かった。職員や町民から「社協を私物化した縁故採用」と問題視されていた。 その事務局長が3月末付で退くというのだ。2月中旬を最後に出勤もしていない。 退任するのは鈴木幸治事務局長(69)。同社協の理事も兼ねる。鈴木事務局長は53歳ごろまで町職員を務めた後、町内の請戸漁港を拠点に漁師に転身。大震災・原発事故後の2013年から町議を1期務めた。鈴木事務局長によると、議員を辞めた後に本間茂行副町長(当時)に請われ、2019年から現職。現在2期4年目。 鈴木事務局長は昨年10月、筆者が同社協で起こっていたパワハラについて取材した際、「調査する」と明言していた。筆者は調査の進展を聞くため2月20日に同社協の事務所を訪ねた。鈴木事務局長との面談を求めたが、応対した職員から不在と伝えられた。代わりに理事会のトップを務める栃本勝雄会長が応じた。この時、筆者はまだ鈴木事務局長が辞めるとは知らされていなかった。 栃本会長は調査の進捗状況をこう説明した。 「弁護士と相談し、全職員にパワハラを見聞きしたかアンケートを実施したが、報告できるようなきちんとした結果はまだ出ていません。調査結果の報告、パワハラに関与したとされる職員への対応、社協内でのハラスメント対策をどうするかも含め、弁護士と相談しながら進めているところです」 ハラスメントは重大な人権侵害と厳しい目が向けられる昨今、一般企業や役所では規則を整え、調査でハラスメントによる加害行為が認定された職員は懲戒処分の対象になる流れにある。栃本会長によると、加害行為の疑いがある職員は在職中とのことだが、 「懲戒処分にするかどうかという話までは発展していません」(同) アンケートは昨年末までに実施した。同社協が依頼した弁護士に、職員が個別に回答を郵送、弁護士は個人が特定されない形にまとめた。公平性を担保するため、パワハラの舞台となった同社協はアンケートに関わる作業にはタッチしていないという。1月に入り、中間報告という形で結果が上層部に明かされた。全職員や理事会、評議会には知らせていないが、栃本会長は 「年度内には全職員に正式結果を知らせる予定です。理事会には正式結果と合わせて経過の報告も必要と考えています。ただ、現時点では正式結果がまとまっておらず、お答えできません」 ここまで質問に答えて、栃本会長は一息ついて言った。 「何せ私も吉田数博前町長(同社協前会長)から引き継いで昨年6月に就任したもので。ですから、会長に就くまでは内情を知らなかったんです」 筆者が「やはり詳しいのは長年勤めている鈴木事務局長ですかね」と聞くと、 「鈴木事務局長は休暇に入っています。任期満了を迎える3月末で辞める予定です」(同) 栃本会長によると、1月下旬に鈴木事務局長から「体調が思わしくないので、任期満了を迎える今期で辞めたい」と言われたという。事務所にあった私物も既に片付けており、再び出勤するかどうか分からないとのこと。 パワハラを放置した責任を取って辞めたということなのだろうか。栃本会長に問うと「私には分かりませんし、彼とはそのような話はしていません。任期満了となるから辞めるだけでしょ」。 鈴木事務局長はデイサービス利用者の送迎も担当していた。 「今はデイサービスの事業所に任せています。人手が必要なのに痛手ですよ。残った職員でカバーしながらやっています」(同) 公用車の私的使用も 参考画像 トヨタ「カローラクロス」(ハイブリット車・2WD)2022年12月のカタログより  体調不良で休んでいるというのが気になる。昨年11月号の取材時、パワハラを放置した責任があるのではないかと考え、鈴木事務局長に根掘り葉掘り質問した。あるいは記事により心身が病んでしまったのだろうか。後味が悪いので、事務局長が現在どうしているか複数の町関係者に問い合わせると意外な事実が分かった。 「同社協では『事務局長はどうしているか』と質問されたら『任期満了で辞める』と答えることになっているそうです。ですが実際の話は少し違います」(ある町関係者) 任期満了で退くのは事実だが、任期を迎える1カ月以上も前から、送迎の役目を投げ出してまで出勤しなくなったのは確かに不可解だ。取材で得られた情報を総合すると、鈴木事務局長は同社協にいづらくなり、嫌気が差して一足早く去ったというのが実情のようだ。 発端は、前述の同社協上層部に先行して伝えられたアンケート結果だった。 パワハラの加害者と疑われる職員から受けた被害が多数記述されていると思われたが、ふたを開けてみると、鈴木事務局長自身もセクハラ、パワハラ、モラハラの加害者という回答が相次いだのだ。「こんな人がいる職場では働けない。1日も早く辞めてほしい」と切実な訴えもあったという。 ハラスメントだけではなかった。同社協が職務に使っているSUVタイプの自動車「トヨタ カローラクロス」を鈴木事務局長が週末に私的利用しているという記述もあった。 同社協が第三者である弁護士にアンケートの集計を依頼し、結果は上層部しか知らないはずなのに、なぜこうも詳細に分かるのか。それは当の鈴木事務局長が自ら明かしたからだ。2月の最終出勤日に部署ごとに職員を集め、前述の自身に関わる内容を話したという。 ハラスメントの加害者のほとんどは組織の中で立場の強い者だ。加害行為を「指導」や「業務」と履き違え、本人は自覚がないことが往々にしてある。だが、被害者が苦痛と感じれば、それはハラスメントになるのが現代の常識。まずは被害者の話に耳を傾け、組織として事実かどうかを認定することが求められる。 昨年11月号の取材で鈴木事務局長は「パワハラがあると聞いてびっくりしている」「当事者同士の言葉遣い、受け取り方による」とパワハラから目をそらし、矮小化とも取れる発言をしていた。自分は関係ないと思っていただけに、今回のアンケート結果に愕然としただろう。部下から「1日も早く辞めてほしい」と言われては、任期満了を待たずに一刻も早く辞めたい気持ちになる。 不祥事追及がうやむやに  いずれにせよ、鈴木事務局長は同社協を去った。それでも、ある職員は同社協の行く末を懸念する。 「アンケート結果が出たタイミングで事務局長が辞めることで、あらゆる不祥事の責任を取ったとみなされ、問題がうやむやになってしまうのを恐れています。このままでは、パワハラを行っていた職員におとがめがないまま幕引きになってしまいます」 鈴木事務局長は決してパワハラと縁故採用の責任を取って辞めるわけではない。同社協が表向きの理由として知らせているように、任期満了を迎えるから辞めるのだ。既に出勤していないのも「体調が思わしくない」と栃本会長に申し出たためだ。 間もなく70歳のため、高齢で体力的に職務が務まらないなら仕方がない。ただ、栃本会長は「鈴木事務局長が担当していたデイサービス利用者の送迎を他の職員に頼んでいる」と漏らしており、急きょ出勤しなくなったことで、サービスの受益者である町民や同社協職員の業務に与えた影響はゼロではないだろう。 こうした中、町民と職員が関心を寄せるのが後任の事務局長だ。同社協は退職した町職員が事務局長に就くのが慣例だった。社協は、建前は民間の社会福祉法人だが、自治体の福祉事業の外注先という面があり、委託事業や補助金が主な収入源。浪江町社協の2021年度収支決算によると、事業活動による収入のうち、最も多くを占めるのが町や県からの「受託金収入」で1億5300万円(事業活動収入の約68%)。次が町の補助金などからなる「経常経費補助金収入」で4400万円(同約19%、金額は10万円以下を切り捨て)。 自治体の補助金で運営が成り立っている以上、社協と調整を円滑にするため自治体職員を派遣するのが通常で、現に浪江町でも町職員を1人出向させている。 栃本会長は「後任の事務局長は町役場と相談しながら決めます」と話す。同社協との実務を調整する町介護福祉課の松本幸夫課長は、後任の事務局長について、 「町長や副町長には同社協から報告が上がっていると思いますが、介護福祉課には伝わっていません。社会福祉行政に明るい人物も考えられるし、それ以外の人も含めて検討していると思います」 要するに、発表できる段階にはないということだ。 同社協は人材不足にも陥っているが、栃本会長は人材確保に向けた方針を次のように明かす。 「現場で実務を担う介護や医療の有資格者を募集しなければならないと思っています。地元のために一緒に働いてくれるだけで十分ありがたいのですが、半面、限られた人員で運営していく以上、採用するなら有資格者が望ましいです」 鈴木事務局長が行った無計画な縁故採用からの脱却が進みそうだ。 最後に、同社協の目指すべき未来を示した発言を紹介する。長文だが重要なのですべてを引用する。 《震災後、役場機能の移転に合わせて社協も転々としました。避難当時の混乱で職員が一人もいなかった時期もありました。一部地域の避難指示の解除を受け、2017(平成29)年4月に社協も町へ戻ることができました。現在は、浪江町と二本松市の事務所を拠点に、町民の様々な福祉サービスに取り組んでいます。 福祉における一番の課題は、これからの介護です。町内に居住する住民1600人のうち65歳以上の割合を示す高齢化率は約40%ですが、震災前に町に住んでいた人に限ると約70%と非常に高くなっています。自分の子どもや孫と離れて一人で暮らす方も多く、次第に介護が必要となってきています。2022(令和4)年には、町の地域スポーツセンターの向かいにデイサービス機能を備えた介護関連施設が完成する予定です。私たち社協は、オープンと同時に円滑にサービスを提供できる体制を整えていきたいと考えています。 原発事故の影響で散り散りになった町民にとっては、テーブルを囲み、お茶菓子を食べて語り合うだけでも、心の拠り所になるはずです。そんな交流の場を必要としている高齢者が町には数多くいます。浪江町民のために役場との連携をより深め、福祉政策の実現に取り組んでいきたいと思います》(『浪江町 震災・復興記録誌』2021年6月より) 発言の主は鈴木事務局長。筆者も同感だ。 あわせて読みたい 【浪江町社会福祉協議会】パワハラと縁故採用が横行

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

  • 【田村バイオマス訴訟】控訴審判決に落胆する住民

     田村市大越町に建設されたバイオマス発電所をめぐり、周辺住民が市を相手取り訴訟を起こしていた問題で、仙台高裁は2月14日、一審の福島地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却する判決を下した。 同発電所の事業者は、国内他所でバイオマス発電の実績がある「タケエイ」の子会社「田村バイオマスエナジー」で、市は同社に補助金を支出している。訴訟では、住民グループは「事業者はバグフィルターとHEPAフィルターの二重の安全対策を講じると説明しているが、安全確保の面でのHEPAフィルター設置には疑問がある。ゆえに、事業者が説明する『安全対策』には虚偽があり、虚偽の説明に基づく補助金支出は不当である」として、市(訴訟提起時は本田仁一前市長、現在は白石高司市長)が事業者に、補助金17億5583万円を返還請求するよう求めていた。 住民グループの基本姿勢は「除染目的のバイオマス発電事業に反対」というもので、バイオマス発電のプラントは基本的には焼却炉と一緒のため、「除染されていない県内の森林から切り出した燃料を使えば放射能の拡散につながる」といったことがある。そうした背景があり、反対運動を展開し、2019年9月に住民訴訟を起こすに至ったのである。 一審判決は昨年1月25日に言い渡され、住民側の請求は棄却された。その後、住民グループは同2月4日付で控訴し、3回の控訴審口頭弁論を経て判決が言い渡された。冒頭で述べたように、控訴審判決は、一審判決を支持し、住民側の控訴を棄却するというものだった。 その後、住民グループは会見を開き、代理人の坂本博之弁護士は次のように述べた。 「例えば、我々は『(市や事業者側が示した)HEPAフィルターの規格は放射性物質に対応したものではない』と主張したが、それに対して判決では『(放射性物質に対応した規格ではなくても)放射性物質を集塵できないとは言えない』とされており、そのほかにも『〇〇できないとは言えない』というような表現が多い。当初はきちんと審理してくれるかと思ったが、証拠・根拠がないのに、被告(市)・補助参加人(※事業者の田村バイオマスエナジーが補助参加人となっている)の説明を鵜呑みにしたいい加減な判決としか言いようがない」 住民グループ代表の久住秀司さんはこう話した。 「残念で悔しい判決だった。私は個人的に民事訴訟の経験がある。その時は、裁判所は証拠資料をしっかり確認して審理してくれた。ただ、行政を相手取った裁判となると、こんなにも違うのかと驚いた。平等な視点で進行してくれるものと思っていたが、そうではなく、司法・裁判所への信頼がなくなった」 報道陣から「上告するか」との質問が飛ぶと、坂本弁護士は「検討のうえで決めたい」と話した。 一方、市は判決から1週間後の時点で「判決文を精査中」とのこと。 住民グループの話を聞いていると、「○月×日に発電所のメンテナンスが入った」とか、「発電所の敷地内に焼却灰などが入ったフレコンバッグが置かれていたが、○日夜から翌日の朝にかけてどこかに搬出された」というように、発電所の動向を細かくチェックしている様子がうかがえた。裁判では訴えが棄却されたが、住民グループは「今後も継続して監視や放射線量の測定などを行っていきたい」との考えを示した。 あわせて読みたい 田村バイオマス訴訟の控訴審が結審 【梁川・バイオマス計画】住民の「募金活動」に圧力!?

  • 原発避難経験者がウクライナにカイロ支援

     原発事故を受けて山形県米沢市に避難し、昨年7月に福島市内の自宅に戻った武田徹さん(82)。約11年に及んだ避難生活中は、放射能を恐れて原発の避難指示区域外から逃れた自主避難者の支援に精力的に取り組んだ。米沢市内の雇用促進住宅に入居していた自主避難者に、同住宅を監理する独立行政法人が退去を求めた「自主避難者追い出し訴訟」でも、武田さんは被告の一人として戦った。自身も避難生活を送りながら山形県内の母子避難者らを支え続けた武田さんの活動は本誌でも何度か紹介しているので、関連記事を参照していただきたい。 そんな武田さんが、ロシアの軍事侵攻に苦しむウクライナの人々を支援しようと取り組んだ「使い捨てカイロを送る活動」は、さまざまなメディアで報じられるなど大きな話題を呼んだ。 ロシア軍の攻撃によりウクライナ各地では停電が発生。気温が氷点下になる中、多くの市民が暖房のない生活を強いられていることを知った武田さんは、仲間とカイロを送る活動を始めた。昨年12月、「ウクライナに『使い捨てカイロ』を送る会」を立ち上げ代表に就くと、山形駅前などで街頭宣伝を行い、年明けまでに約3万個のカイロが集まった。 その後、NHKが全国ニュースで取り上げると、受付期日の1月10日までに全国から約20万個のカイロが寄せられ、2月中旬までに31万個以上が集まった。中には、励ましの手紙や「現地への輸送料に」と現金を同封する人もいたという。 苦労したのは集まったカイロの仕分け作業だった。有効期限をチェックしながら箱詰めしていったが、国連が定める危険物に該当しないことが公的機関の試験で証明されたカイロでなければ海外に発送できないことが判明。箱詰めをやり直す一幕もあった。 それでも、山形・福島両県の市民団体などの協力を得て仕分け作業を終わらせ、陸送や一時保管は第一貨物(山形市)、現地への空輸は郵船ロジスティクス東北(同市)が快諾、高額の輸送料も負担してくれることになった。 第1便は1月23日、約3万5000個が空輸され、2月3日にキーウに到着。第2便は同月下旬、約3万5000個を空輸する予定で、残りは7月下旬に船便で発送、9月上旬に届けられる見通しという。 82歳と高齢の武田さんをここまで突き動かす原動力は何か。それは自らも避難生活を経験し、山形県の人たちに支援してもらったことへの感謝の気持ちだという。 「米沢での避難生活は冬の雪かきが本当に辛かった。でも、多くの地元の方々に物心両面から支援してもらい、本当にありがたかった。同時に、一たび事故を起こせばこれだけの被害を生み出す原発は動かすべきではないと思った。そういう苦労をした自分にとって、ウクライナの人たちが置かれている状況は他人事とは思えなかった」(武田さん) そんな気持ちから始まったカイロを送る活動を通じ、武田さんは「原発事故の時も思ったが、支援してくれる人が大勢いることに『日本人はまだまだ捨てたもんじゃない』と強く感じた」という。 「ウクライナに送るべきは武器じゃない。私たちのカイロをはじめ、多くの善意が困っているウクライナの人々に早く届いてほしいし、1日でも早く戦争が終わることを祈っています」(同) 自身が受けた恩を、他の困っている人に返していく武田さんの取り組みは今後も続いていく。

  • 【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

     本誌2月号に「二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ」という記事を掲載したが、その中で問題視した産業部長が筆者の電話取材を受けた直後に辞表を提出、2月号発売直前に退職した。記事ではその経緯に触れることができなかったため、続報する。(佐藤仁) 失敗を許さない市役所内の空気 三保恵一二本松市長  2月号では①荒木光義産業部長によるハラスメントが原因で、歴代の観光課長A氏とB氏が2年連続で短期間のうちに異動し、同課長ポストが空席になっている、②ハラスメントの原因の一つに、昨年4月にオープンした市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下城報館と表記)の低迷がある、③三保恵一市長が城報館低迷の責任を観光課長に押し付けるなど、三保市長にもハラスメントを行っていた形跡がある――等々を報じた。 ハラスメントの詳細は2月号を参照していただきたいが、そんな荒木氏について1月31日付の福島民報が次のように伝えた。 《二本松市は2月3日付、4日付の人事異動を30日、内示した。現職の荒木光義産業部長が退職し、後任として産業部長・農業振興課長事務取扱に石井栄作産業部参事兼農業振興課長が就く》 荒木氏が年度途中に退職するというのだ。同人事では、空席の観光課長に土木課主幹兼監理係長の河原隆氏が就くことも内示された。 筆者は記事執筆に当たり荒木氏に取材を申し込んだが、その時のやりとりを2月号にこう書いている。 《筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者と認識していない様子が垣間見えた》 記事化はしていないが、それ以外のやりとりでは、荒木氏が「一方的に書かれるのは困る」と言うので、筆者は「そう言うなら尚更、あなたの見解を聞きたい。本誌はあなたが言う『一方的になること』を避けるために取材を申し込んでいる」と返答。しかし、荒木氏は「うーん」と言うばかりで取材に応じようとしなかった。さらに「これだけは言っておくが、私は部下に大声を出したりしたことはない」とも述べていた。 ちなみに、荒木氏からは「これは記事になるのか」と逆質問されたので、筆者は「もちろん、その方向で検討している」と答えている。 その後、脱稿―校了したのが1月27日、市役所関係者から「荒木氏が辞表を出した」と連絡が入ったのが同30日だったため、記事の書き直しは間に合わなかった次第。 連絡を受けた後、すぐに人事行政課に問い合わせると、荒木氏の退職理由は「一身上の都合」、退職願が出されたのは「先々週」と言う。先々週とは1月16~20日の週を指しているが、正確な日付は「こちらでも把握できていない部分があり、答えるのは難しい」とのことだった。 実は、筆者が荒木氏に取材を申し込んだのは1月18日で、午前中に観光課に電話をかけたが「荒木部長は打ち合わせ中で、夕方にならないとコンタクトが取れない」と言われたため、17時過ぎに再度電話し、荒木氏と前記会話をした経緯があった。 「荒木氏は政経東北さんから電話があった直後から、自席と4階(市長室)を頻繁に行き来していたそうです。三保市長と対応を協議していたんでしょうね」(市役所関係者) 時系列だけ見ると、荒木氏は筆者の取材に驚き、記事になることを恐れ、慌てて依願退職した印象を受ける。ハラスメントが公になり、そのことで処分を科されれば経歴に傷が付き、退職金にも影響が及ぶ可能性がある。だから、処分を科される前に退職金を満額受け取ることを決断したのかもしれない。 一方、別の見方をするのはある市職員だ。 「荒木氏のハラスメントが公になれば三保市長の任命責任が問われ、3月定例会で厳しく追及される恐れがある。それを避けるため、三保市長が定例会前に荒木氏を辞めさせたのではないか」 この市職員は「辞めさせる代わりに、三保市長のツテで次の勤め先を紹介した可能性もある」と、勤め先の実名を根拠を示しながら挙げていたが、ここでは伏せる。 余談になるが、三保市長らは「政経東北の取材を受けた職員は誰か」と市役所内で〝犯人探し〟をしているという。確かに市の情報をマスコミに漏らすのは公務員として問題かもしれないが、内部(市役所)で問題を解決できないから外部(本誌)に助けを求めた、という視点に立てば〝犯人探し〟をする前に何をしなければならないかは明白だ。 実際、荒木氏からハラスメントを受けた職員たちは前出・人事行政課に相談している。しかし同課の担当者は「自分たちは昔、別の部長からもっと酷いハラスメントを受けた。それに比べたらマシだ」と真摯に対応しようとしなかった。 相談窓口が全く頼りにならないのだから、外部に助けを求めるのはやむを得ない。三保市長には〝犯人探し〟をする前に、自浄作用が働いていない体制を早急に改めるべきと申し上げたい。 専門家も「異例」と指摘 立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授  それはそれとして、ハラスメントの被害者であるA氏とB氏は支所に異動させられ、しかもB氏は課長から主幹に降格という仕打ちを受けているのに、加害者である荒木氏は処分を免れ、退職金を無事に受け取っていたとすれば〝逃げ得〟と言うほかない。 さらに追加取材で分かったのは、観光課長2人の前には商工課長も1年で異動していたことだ(産業部は農業振興、商工、観光の3課で構成されている)。荒木部長のハラスメントに当時の部下たちは「耐えられるのか」と心配したそうだが、案の定早期の配置換えとなったわけ。 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授はこのように話す。 「(荒木氏のように)パワハラで処分を受ける前に辞める例はほとんどないと思います。パワハラは客観的な証拠が必要で、立証が難しい。部下への指導とパワハラとの境界線も曖昧です。ですから、パワハラ当事者には自覚がなく居座ってしまい、上司に当たる人もパワハラ横行時代に育ってきたので見過ごしがちになるのです」 それでも、荒木氏は逃げるように退職したのだから、自分でハラスメントをしていた自覚が「あった」ということだろう。 ちなみに、昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する市の対応を質問しているが、中村哲生総務部長は次のように答弁している。 「本市では平成31年4月1日に職員のハラスメント防止に関する規定を施行し、パワハラのほかセクハラ、妊娠、出産、育児、介護に関するハラスメント等、ハラスメント全般の防止および排除に努めている。ハラスメントによる直接の被害者、またはそれ以外の職員から苦情・相談が寄せられた場合、相談窓口である人事行政課において複数の職員により事実関係の調査および確認を行い、事案の内容や状況から判断し、必要がある場合は副市長、職員団体推薦の職員2名、その他必要な職員により構成する苦情処理委員会にその処理を依頼することとしている。相談窓口の職員、または苦情処理委員会による事実関係の調査の結果、ハラスメントの事実が確認された場合、加害者は懲戒処分に付されることがあり、またハラスメントに対する苦情の申し出、調査その他のハラスメントに対する職員の対応に起因して当該職員が不利益を受けることがないよう配慮しなければならないと規定されている」 答弁に出てくる人事行政課が本来の役目を果たしていない時点で、この規定は成り立っていない。議会という公の場で明言した以上、今後はその通りに対応し、ハラスメントの防止・排除に努めていただきたい。 気になるのは、荒木氏の後任である前述・石井栄作部長の評判だ。 「旧東和町出身で仕事のできる人物。部下へのケアも適切だ。私は、荒木氏の後任は石井氏が適任と思っていたが、その通りになってホッとしている」(前出・市職員) ただ、懸念材料もあるという。 「荒木氏は三保市長に忖度し、無茶苦茶な指示が来ても『上(三保市長)が言うんだからやれ』と部下に命じていた。三保市長はそれで気分がよかったかもしれないが、今後、石井部長が『こうした方がいいのではないですか』と進言した時、部下はその通りと思っても、三保市長が素直に聞き入れるかどうか。もし石井氏の進言にヘソを曲げ、妙な人事をしたら、それこそ新たなハラスメントになりかねない」(同) 求められる上司の姿勢 「にほんまつ城報館」2階部分から伸びる渡り廊下  そういう意味では今後、部下の進言も聞き入れて解決しなければならないのが、低迷する城報館の立て直しだろう。 2月号でも触れたように、昨年4月にオープンした城報館は1階が歴史館、2階が観光情報案内となっているが、お土産売り場や飲食コーナーがない。新野洋元市長時代に立てた計画には物産機能や免税カウンターなどを設ける案が盛り込まれていたが、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと城報館は今の形に変更された。 今の城報館は、歴史好きの人はリピーターになるかもしれないが、それ以外の人はもう一度行ってみたいとは思わないだろう。そういう人たちを引き付けるには、せめてお土産売り場と飲食コーナーが必要だったのでないか。 市内の事情通によると、城報館の2階には空きスペースがあるのでお土産売り場は開設可能だが、飲食コーナーは水道やキッチンの機能が不十分なため開設が難しく、補助金を使って建設したこともあって改築もできないという。 「だったら、市内には老舗和菓子店があるのだから、城報館に来なければ食べられない和のスイーツを開発してもらってはどうか。また、コーヒーやお茶なら出せるのだから、厳選した豆や茶葉を用意し、水は安達太良の水を使うなど、いくらでも工夫はできると思う」(事情通) 飲食コーナーの開設が難しければキッチンカーを呼ぶのもいい。 「週末に城報館でイベントを企画し、それに合わせて数台のキッチンカーを呼べば飲食コーナーがない不利を跳ね返せるのではないか。今は地元産品を使った商品を扱うユニークなキッチンカーが多いから、それが数台並ぶだけでお客さんに喜ばれると思う」(同) 問題は、こうした案を市職員が実践するか、さらに言うと、三保市長がゴーサインを出すかだろう。 「市役所には『失敗すると上(三保市長)に怒られる』という空気が強く漂っている。だから職員は、良いアイデアがあっても『怒られるくらいなら、やらない方がマシ』と実践に移そうとしない。結果、職員はやる気をなくす悪循環に陥っているのです」(同) こうした空気を改めないと、城報館の立て直しに向けたアイデアも出てこないのではないか。 職員が快適に働ける職場環境を実現するにはハラスメントの防止・排除が必須だが、それと同時に、上司が部下の話を聞き「失敗しても責任は自分が取る」という気概を示さなければ、職員は仕事へのやりがいを見いだせない。 最後に。観光振興を担う「にほんまつDMO」が4月から城報館2階に事務所を移転するが、ここが本来期待された役割を果たせるかも今後注視していく必要がある。 あわせて読みたい 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ 最新号の4月号で続報「パワハラを放置する三保二本松市長」を読めます↓ https://www.seikeitohoku.com/seikeitohoku-2023-4/

  • 【和久田麻由子】NHK女子アナの結婚相手は会津出身・箱根ランナー【猪俣英希】

    (2019年5月号より) 2019年3月、NHK朝のニュース「おはよう日本」で平日キャスターを務める和久田麻由子アナウンサー(30)が結婚していたことがスポーツ紙などで報じられた。 和久田アナは東大経済学部を卒業後、2011年にNHK入局。岡山放送局を経て2014年に「おはよう日本」の土日キャスターに抜擢、翌年、平日キャスターに昇格した。 NHKでも1、2を争う美人アナと言われ、とりわけオジサンたちから絶大な支持を誇る和久田アナ。そんな人気女子アナの結婚が報じられたのは3月6日だった。 報道によると①相手は一般男性、②2019年に入って婚姻届を提出、③結婚後も仕事は継続、④NHK広報局は「職員のプライベートに関してはお答えしていない」とコメント――というもので、これ以上の情報は一切扱われていない。 人気女子アナの突然の結婚にネット上では一時「相手の一般男性って誰だ?」と話題になったが、氏素性が明らかになることはなかった。 実は、和久田アナの結婚相手は福島県出身の、ちょっとした有名人なのだ。 猪俣英希さん(30)。この名前を聞いてピンと来た人は、かなりの駅伝ファンに違いない。猪俣さんは、いわゆる〝山登りの5区〟を走った箱根ランナーなのだ。 旧会津本郷町(現会津美里町)出身の猪俣さんは、会津高校時代は無名のランナーだったが、高校の先輩で早稲田大学出身、北京五輪マラソン代表の佐藤敦之さんに憧れ、同大学スポーツ科学部に進学した。 エンジの襷をまとって走りたい――そんな思いを胸に、全国から長距離エリートが推薦入学してくる中、猪俣さんは一般入試を経て体育会競走部に所属。入部当初の持ちタイムは下から数えた方が早かったが、厳しい練習を重ね地力を付けた。そして最終学年の4年生のとき、2011年1月2、3日に行われた第87回箱根駅伝で、当初5区を走る予定だった選手のエントリー変更に伴い猪俣さんが走ることになった。 この年のシーズン、早稲田大学は秋の出雲駅伝と全日本大学駅伝を制し、箱根で優勝すれば三冠達成の快挙がかかっていた。そこに立ちはだかったのが、同じく福島県(いわき市)出身で〝2代目山の神〟と称された柏原竜二さん(当時3年生)を擁する東洋大学だった。東洋は箱根2連覇中で、出雲と全日本は早稲田に及ばなかったが、箱根は東洋がやや有利とみられていた。 大会当日、先頭で5区をスタートした猪俣さんは、箱根の坂で柏原さんに抜かれたが、最小限の差で踏みとどまった。翌日、往路2位でスタートした早稲田は東洋を逆転。1位と2位の差はわずか21秒という優勝で、見事三冠を達成した。 猪俣さんは大学卒業後、三菱商事に入社し、船舶・宇宙航空事業本部船舶部に配属。現在はインドに勤務している。 猪俣さんのご家族とお付き合いがある男性によると「両親は、英希さんの結婚についてほとんど語っていないが、喜んでいるのは間違いありませんよ」という。 会津美里町の実家を訪ねると、お母さまが対応してくれた。 「(結婚は)本人たちが決めたことですから、親の私から言うことは特にありません。せっかく来ていただいたのにお話しできなくて、申し訳ありませんね」 和久田アナの結婚に愕然としていたオジサンたちも、お相手が優秀でイケメンの猪俣さんと分かれば納得いくはずだ。お幸せに。

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故

    専門家が指摘する危険地点の特徴  1月2日夜、郡山市大平町の交差点で軽乗用車と乗用車が出合い頭に衝突し、軽乗用車が横転・炎上。家族4人が死亡する事故が発生した。悲惨な事故の背景を探る。(志賀)  報道によると、事故は1月2日20時10分ごろ、郡山市大平町の信号・標識がない交差点で発生した。東進する軽乗用車と南進する乗用車が衝突し、軽乗用車は衝撃で走行車線の反対側に横転、縁石に乗り上げた。そのまま炎上し、乗っていた4人は全員死亡。横転した衝撃で火花が発生し、損傷した車体から漏れ出たガソリンに引火したためとみられる。  軽乗用車に乗っていたのは、所有者である橋本美和さん(39)と夫の貢さん(41)、長男の啓吾さん(20)、長女の華奈さん(16)。事故現場に近い大平町簓田地区に自宅があり、市内の飲食店から帰宅途中だった。 乗用車を運転していた福島市在住の高橋俊容疑者(25)は自動車運転処罰法違反(過失致死)の疑いで同4日に送検された。現行犯逮捕時は同法違反(過失運転致傷)だったが、容疑を切り替えた。 この間の捜査で高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」、「交差点ではなく単線道路と思った」、「暗い道で初めて通った。目の前を物体が横切り、その後衝撃を感じた」、「ブレーキをかけたが間に合わなかった」などと供述している。 軽乗用車が走っていたのは、郡山東部ニュータウン西側と県道297号斎藤下行合線をつなぐ「市道緑ヶ丘西三丁目前田線」。「JR郡山駅へと向かう際の〝抜け道〟」(地元住民)として使われている。 乗用車が走っていたのは、東部ニュータウン北側から坂道を降りて同市道と交差する「市道川端緑ヶ丘西四丁目線」。交差点では軽乗用者側が優先道路だった。  もっとも、そのことを示す白線はほとんど消えて見えなくなっていた。1月6日に行われた市や地元町内会などによる緊急現場点検では、参加者から「坂道カーブや田んぼの法面で対向車を確認しづらい」、「標識が何もないので夜だと一時停止しない車もあるのでは」などの意見が出た。大平町第1町内会の伊藤好弘会長は「交通量が少なく下り坂もあるのでスピードを出す車をよく見かける」とコメントしている(朝日新聞1月7日付)。 1月上旬の夜、乗用車と同じルートを実際に走ってみた。すると軽乗用車のルートを走る車が坂道カーブや田んぼの法面に遮られて見えなくなり、どこを走っているのか距離感を掴みづらかった。交差点もどれぐらい先にあるのか分かりづらく、減速しながら降りていくと、突然目の前に交差点が現れる印象を受けた。 地域交通政策に詳しい福島大教育研究院の吉田樹准教授は事故の背景を次のように分析する。 「乗用車の運転手は初めて通る道ということで、真っすぐ走ることに気を取られ、横から来る車に気付くのが遅れたのだと思います。さらに軽自動車が転倒し、発火してしまうという不運が重なった。車高が高い軽自動車が横から突っ込まれると、転倒しやすくなります」 地元住民の声を聞いていると、「あの場所がそんなに危険な場所かな」と首を傾げる人もいた。 「事故現場は見通しのいい交差点で、交通量も少ない。夜間でライトも点灯しているのならば、どうしたって目に入るはず。普通に運転していれば事故にはならないはずで、道路環境が原因の〝起こるべくして起きた事故〟とは感じません」 こうした声に対し、吉田准教授は「地元住民と初めて通る人で危険認識度にギャップがある場所が最も危ない。地元住民が『慣れた道だから大丈夫だろう』と〝だろう運転〟しがちな場所を、変則的な動きをする人が通行すれば、事故につながる可能性がぐっと上がるからです」と警鐘を鳴らす。 今回の事故に関しては、軽乗用車、乗用車が具体的にどう判断して動いたか明らかになっていないが、そうした面からも検証する必要があろう。 なお、高橋容疑者は「知人の所に向かっていた」と供述したとのことだが、乗用車側の道路の先は、墓地や旧集落への入り口があるだけの袋小路のような場所。その先に知人の家があったのか、それとも道に迷っていたのか、はたまたまだ表に出ていない〝特別な事情〟があったのか。こちらも真相解明が待たれる。 道路管理の重要性  今回の事故を受けて、地元の大平第1町内会は道路管理者の市に対し対策強化を要望し、早速カーブミラーが設置された。さらに県警とも連携し、交差点の南北に一時停止標識が取り付けられ、優先道路の白線、車道と路肩を分ける外側線も引き直した。 1月17日付の福島民報によると、市が市道の総点検を実施したところ、同16日までに県市道合わせて約200カ所が危険個所とされた。交差点でどちらが優先道路か分かりにくい、出会い頭に衝突する可能性がある、速度が出やすい個所が該当する。市は国土交通省郡山国道事務所と県県中建設事務所にも交差点の点検を要望している。  県道路管理課では方部ごとに県道・3桁国道の道路パトロールを日常的に実施し、白線などが消えかかっている個所は毎年春にまとめて引き直している。ただし、「大型車がよく通る道路や冬季に除雪が行われる路線は劣化が早く、平均7、8年は持つと言われるところが4、5年目で消えかかったりする」(吉田准教授)事情もある。日常的にチェックする仕組みが必要だろう。 県警本部交通規制課が公表している報告書では「人口減少による税収減少などで財政不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少すると想定される」と述べており、交通安全対策を実施するうえで財源確保がポイントになるとしている。 吉田准教授はこう語る。 「道路予算というと新しい道路の整備費用ばかり注目されがちだが、道路管理費用も重要であり、今後どうするか今回の事故をきっかけに考える必要があります」 県警交通規制課によると、昨年の交通事故死者数は47人で現行の統計になった1948(昭和23)年以降で最少だった。車の性能向上や道路状況の改善、人口減少、安全意識の徹底が背景にあるが、そのうち交差点で亡くなったのは19人で、前年から増えている。 「基本的に交差点は事故が起こりやすい場所。ドライバーは注意しながら走る必要があるし、県警としても広報活動などを通して、交通安全意識を高めていきます」(平子誠調査官・次席) 県内には今回の事故現場と似たような道路環境の場所も多く、他人事ではないと感じた人も多いだろう。予算や優先順位もあるので、すべての交差点に要望通り信号・標識・カーブミラーが設置されるわけではない。ただ、住民を交えて「危険個所マップ」を作るなど、安全意識を高める方法はある。悲惨な事故を教訓に再発防止策を講じるべきだ。 吉田 樹YOSHIDA Itsuki 福島大学経済経営学類准教授・博士(都市科学) http://gakujyutu.net.fukushima-u.ac.jp/015_seeds/seeds_028.html あわせて読みたい 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【福島刑務所】受刑者に期限切れ防塵マスク

     昨年3月に福島刑務所(福島市)で、当時60歳の男性受刑者が同室者3人から集団暴行を受け死亡した。傷害罪に問われている主犯の小林久被告に2月3日、判決が言い渡される予定(本稿執筆は1月下旬)。事件時、刑務官が異変を放置していたことが内部文書で明らかになったが、問題は他にもある。刑務作業に使う防塵マスクを使用期限が切れたまま使わせていたのだ。元受刑者が体験を語った。 目に余る福島刑務所の人権侵害  本誌は昨年11月号で、開示請求で手に入れた公文書を基に、死亡した男性受刑者が同室者の男3人から集団暴行を受けていたにもかかわらず、刑務官が異変を放置していた問題を報じた。3人は傷害致死ではなく傷害の罪に問われた。従犯の佐々木潤受刑者、菊池巧受刑者には昨年10月に懲役1年が言い渡された。  この事件は、被害者の男性受刑者が死亡したことで報道され、裁判にもなり公に知れ渡った。だが、社会から隔絶された刑務所は、問題行動が起きても外部の目が入りにくく、ブラックボックスとなっている。 問題行動は受刑者だけが起こすわけではない。名古屋刑務所では多数の刑務官が受刑者を暴行していたことが分かっている。 福島刑務所では、刑務作業で生じる粉塵を吸い込むのを防ぐためのマスクが交換されず、使用期限を大幅に超えた使用を強いられていた。 受刑者同士の暴行や刑務官による残虐行為に比べれば「小さな問題」かもしれない。だが見過ごせば、今回の集団暴行死のような、より大きな事件につながりかねない。期限切れ防塵マスク問題について、薬物犯罪で懲役刑を受け、福島刑務所に2021年12月から22年10月まで入所していた40代の男性がつけていた日記を開きながら振り返る。 「新型コロナの観察期間を終え、2022年1月12日から刑務所内の木工工場に配役になりました。私は木製のおもちゃを作るために、木の表面を電動式の紙やすりを使って磨く作業を担当しました。細かい木の粉を口や鼻から吸い込むのを防ぐために、防塵マスクを着用します。14日から使わされたマスクには使用期限が確か『13時間』と書いてありました。しかし、作業を監督する刑務官からは何の説明もなく、少なくとも3カ月は使わされました。一度も交換されることはありませんでした」(男性) 男性によると、使用していたのは興研社製。筆者がネットで検索した画像を示して、同じ物はどれか聞くと、「ハイラックマスク550」(使用限度12時間)が似ているという。 刑務作業は昼休憩1時間を含めて平日の午前8時から午後5時。防塵マスクが必要となる細かい木くずが出る作業は、そのうち2~3時間だった。少なく見積もっても約1週間で使用期限を迎えるが、男性は約3カ月間の使用を強いられたという。自分よりも先に木工作業に従事していた受刑者にマスクが交換されているか聞いたが、「全然交換してくれないよ」と言った。 男性の日記には、2022年1月14日の作業から防塵マスクを使い始めたと書いてある。使用期限を超えて使わされていたこととの因果関係は不明だが、口元に湿疹ができ、気分が悪くなった。しかし、交換の指示は一向に出ない。男性は2月16日に工場担当の刑務官B氏に交換を申し出た。B氏は男性にとって、刑務所に何かを申し出る際の窓口になる身近な刑務官だった。見た目は30代に映った。 男性は内省のために毎日の出来事をノートに欠かさず書いていた。以下はその抜粋。×  ×  ×  × 2月16日 工場でマスクの交換を願い出るも断られる。(A=私、B=担当) 還房(筆者注:個人の居室に帰ること)してから、A どのくらいの日数で交換してもらえるのか?B 特に期間で決めてない。作業内容によって頻度が違うから。A メンドクサイことを言うようですが、マスクに使用限度13時間と書いてあります。因果関係は分からないが、吹き出物がひどい。実際、使っていて汚いので、定期的に交換してほしい。B メンドクサイことを言うな。ダメだ。A まだ分からないが、苦情の申し出をする場合、施設長に対してでよいのか。相談する順番として、まずオヤジ(筆者注:刑務官のこと)に相談しました。B 自分で(生活のしおりを)読め。×  ×  ×  × 男性は改善要求や抗議ではなく、あくまでマスク交換はどこに申し出ればいいかと手続きを聞いた。B氏は答えず、受刑者に渡される刑務所での暮らしや手続きをまとめた冊子に目を通すよう言った。 1回目の交換拒否から1カ月後の3月16日、福島県沖を大地震が襲い、刑務作業は休みとなった。刑務所内では新型コロナが流行していた。不安を感じた男性は翌17日、巡回に来た夜勤の刑務官に自身の体調の報告と、B氏にマスク交換を申し出る手続きについて相談したいと伝えた。 B氏が来て「今の状況を分かっているのか。夜勤者に面倒をかけるな」と言った。理由を話すと「それはお前の主観だろ」と言われたので「主観以外に何を言えばいいんですか」と大声で言い返した。口論になった。 大声を出した時点で反抗的と見なされ、懲罰を受ける可能性がある。男性は申し出すら受け付けてもらえないのは理不尽だと思ったので、問題があることを周りの受刑者に聞こえるようにあえて大声を出した。 「相談に値しない」とされた願い  翌日の刑務作業からペナルティーを科された。木工作業は50人くらいがいる部屋で、学校の教室のように受刑者が作業席に座り、前を一斉に向いて作業する。教壇に当たる位置にはB氏がいる。男性はそれまで後ろから2番目の席だったが、口論の翌日、前から2番目に変えられた。B氏の目の前だ。 4月の4日か5日に「相談願」を処遇首席宛てに出した。「刑務所内に法的な相談をする相手がいないので全く分からない。外部機関も含めてどこに相談したらいいか」という趣旨のことを書いた。受刑者のあらゆる申し出は書面で行われ、願箋と呼ばれる。 同6日に作業場でB氏に呼び出され、「相談に値しない」と言われた。B氏には水際で何度も申し出を拒否され、不信感を持っていたので「誰からの返答ですか」と聞くと「幹部だ」と言う。 男性は作業席に着いた。離席の許可を得て、再び前にいるB氏のもとへ行った。男性 幹部というのは誰ですか。B氏 知らん。男性 願箋には処遇首席宛てで書いたので、それは処遇首席の返答と解してよろしいですね。B氏 騒ぐんじゃねえ。 B氏は責任者について明確に答えようとしなかった。男性は思わずにらみつけた。B氏は「なんだ、その態度は!」と10回ほど言い、担当部署に電話をかけた。すると処遇課から別の刑務官2人が来て、男性は連行された。刑務官をにらみつけた行為が「反則事項」とされた。居住場所を調査棟に移され、2~3週間取り調べを受けた。 取り調べを受ける以外の時間は、これまでの木工作業から、独房の床の上にあぐらか正座で座り、新聞紙を数ミ  リ単位にちぎる作業に変わった。「白河だるまに使う」と聞かされた。 男性は別の刑務所にいた時、受刑者から正方形の木の板にひたすら紙やすりをかける作業があったと聞いた。コップを置くコースターになるらしい。「らしい」というのは、果たして極限まで人力で磨き上げる必要があるのか疑問で、完成品が出回っているかどうか確証がないからだ。 産業が高度化し、懲役囚に回す手作業は減っているという。刑務所には「虚無に襲われる作業」というのが存在しているようだ。 刑務所内の懲罰委員会で、男性に15日間の懲罰が言い渡された。新聞紙をちぎる作業はなくなったが、代わりに、床に座って「何もしないこと」を科された。男性は「さすがに精神的にこたえた」と振り返る。 懲罰期間が終わると、白河だるまを手で形作る作業に回された。周りは高齢者ばかりで、作業自体は大変ではなかった。防塵マスクを付けることもなくなった。 「B氏をにらみつけたことは確かです。懲罰になったのは仕方ないと今でも思っています。ただ、使用期限を超えた防塵マスクをずっと使わされたのは明らかにおかしい。受刑者だからないがしろに扱っていいという問題ではない」(男性) 刑務官「よっぽど国はバカなんだな」  B氏には公務員としての自覚がないのでは、と疑問に思うこともあった。新型コロナ対策として、政府が行った住民税非課税世帯対象の臨時特別給付金10万円をめぐってのことだ。給付金は住民基本台帳に基づいて支給された。受刑者も、刑務所が収容前の住所の自治体に「在所証明書」を発行すれば受給できた。ただし、刑務所があえて知らせることはなく、受刑者たちの口コミで広がった。 男性は前述の懲罰を受ける前、B氏に在所証明書の発行を求めたが、答えは「やり方を知らん」の一点張りだった。男性が知っているだけでも2、3人が、こうしたB氏の対応により臨時特別給付金を受給できなかった。 公務員として不適切な言動もあった。「お前ら、刑務所で税金使って3食飯食って、その上給付金もらって心が痛まないのか」。男性に対しては「生活保護もらって国に申し訳ないのか」とも言った。男性が「利用できる制度は利用しようという考えです」と答えると、「よっぽど国はバカなんだな」と言い放った。 「刑務所に入っている人たちが臨時特別給付金をもらうのはおかしいと思う人が多いのも事実でしょう。ただ、制度の適切な運用を求めているのに、やり方すら教えないのは問題。はっきり言って、公務員の言動ではありません」(男性) 懲罰が解けた後は、担当する刑務官がB氏から別の人に代わり、受給に必要な書類を発行してもらうことができた。刑務官によって対応が違う一貫性のなさも、男性には「福島刑務所は組織としてのガバナンスが機能していない」と映った。 本誌は福島刑務所の五十嵐定一所長宛てに質問状を送り、 ①期限切れ防塵マスクの使用を受刑者に強いたこと。 ②受刑者の申し出を聞き入れず、新型コロナの給付金のための手続きをB氏が怠ったこと。 ③受刑者による集団暴行死事件ついて、五十嵐所長は「刑務官が放置していた」との趣旨を文書に記したが、「刑務官が異変を放置していた」という解釈でいいか。 などについて聞いた。 後日、庶務課から電話で回答が寄せられた。 「個別の事案には答えられない」とした上で、①、②については「刑務所としては適切に運用していると認識している」と言う。「一部で認識から外れる運用がされていたということか」と筆者が尋ねると、「被収容者のプライバシーに関わるので個別の事案に答えることはできない」。男性本人から記事にする承諾を得て取材しているのだが……。 ③の五十嵐所長が「刑務官が放置した」と記した文書については、  「見て見ぬふりという意味の『放置』ではなく、結果として被収容者が死亡したことを受けての注意喚起のために出した文書だ」と言う。裁判では、暴行を受けていた受刑者が刑務官に転室を訴えても「部屋がない」と断られたとの証言がある(表参照)。「異変の見て見ぬふり」に当たるのではないか。 更生の途上にて思うこと  男性は2022年10月に刑務所を出所後、首都圏で行政の支援を得て資格を取り、住居も確保して定職に就いている。有罪判決が下される前、拘置所にいた時から支援団体とコンタクトを取り、出所後の手筈を整えていた。 「何度も刑務所のお世話になっています。40代になってもこのままではまずいと考え、正業に就くことを目指しました。決して刑務所の矯正教育のおかげではないと言いたい」(男性) だが、刑務所での生活がなければ正業に就こうと思わなかったのも確かだ。 「懲役を受けて良かったことは、自分の人生を考える時間ができたことです。B氏から理不尽な扱いを受け、出所後すぐは怒りが収まらず、健康被害に対する損害賠償を求めて国を提訴しようとも考えました。ですが出所後は資格取得や職探し、日常生活などで忙しく、考える暇もなくなっていた。今は、訴えようと思うほどの怒りはない。これでいいんだと思います」(同) 男性が取材に応じたのは、「刑務所での暮らしが過去のものとなる中、あの時受けた理不尽な気持ちを何らかの形にしたかったから」だという。福島刑務所には、裁判にならないからと放置していい問題ではないことを指摘したい。刑務官の教育に努め、受刑者の人権をないがしろにしない対応に改める責任がある。 あわせて読みたい 【福島刑務所】集団暴行死事件を追う

  • なぜ若者は選挙に行かないのか【福島大学】

    福島大学の学生が語る投票率アップのヒント  若者の投票率が低迷を続けている。昨年10月に行われた福島県知事選挙は10代から30代の有権者の投票率がいずれも3割に満たなかった。その中でも最低は20代の21・35%。なぜ若者は選挙に行かないのか。どうすれば投票率を上げられるのか。若者への選挙啓発を中心に活動する福島大学の学生団体「福大Vote(ボート)プロジェクト」(以下、福大Voteと表記)に所属する学生に話を聞いた。(佐藤大) 若者の投票率がほかの世代と比べてどれだけ低いのか  昨年10月に行われた福島県知事選挙の投票率は42・58%だった。一方、年代別投票率はグラフの通り。 福島県,令和4年10月30日執行 福島県知事選挙 年代別投票率https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/543772.pdf  最も高いのは70代の59・52%、最も低かったのは20代で前回より1・77ポイント低い21・35%、次いで10代が同4・52ポイント低い26・22%、30代が同1・47ポイント低い28・68%と、若い世代がいずれも3割に満たない結果となった。 若者の投票率が低い原因にはどんなことがあるのか 【①社会と接する機会】  東京都が行った「選挙に関する啓発事業アンケート結果」(2018年)によると、若年層の投票率が低い背景について「政治を身近に感じられないから」(70・7%)が最も高く、以下「選挙結果で生活が変わらないと考えているから」(69・7%)、「政治や社会情勢に関する知識が不十分だから」(46・4%)と続いている。 東京都,選挙に関する啓発事業アンケート結果,2018https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/10/29/01_07.html(若年層の投票率が低い背景)  「政治を身近に感じられない」のはなぜか。その原因を探るため、若者への選挙啓発を目的に、2016年に福島大学の学生有志で結成された福大Voteのメンバーに生の声を聞いた。 福大Voteは設立当初、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることを受けて、大学や福島市選挙管理委員会に働きかけ、学内の図書館に期日前投票所を設置することに尽力した。現在のメンバーは7人で、若者に向けた選挙啓発を中心に活動している。 代表の関谷康太さんは「そもそも友達同士で政治や選挙が話題に上がらない」と話す。 「政治の話はタブーという雰囲気がありますね。あとは普通に生活していると、自分のことで精一杯というか……。大人になってから政治が及ぼす影響を考えるようになるのかもしれません」(関谷さん) 若者は他の年代と比べて社会との接点が少ない。人は年を重ね、会社に入ったり、家族を持ったりすることで社会、地域、教育といった問題を自分事として捉え始める。 東京都主税局の「租税に対する国民意識」(2017年)によると、中間層の税負担について、日本は「あまりに高すぎる」「高すぎる」と回答した人の割合が60%を超えている。また、回答者の60%以上が官公庁からの情報発信が不十分としており、情報提供の充実を求めている。 東京都主税局,租税に対する国民意識と税への理解を深める取組,2017https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/tzc29_s1/15-1.pdf(6ページ)  福島県の「少子化・子育てに関する県民意識調査」(2019年)によると、子育て環境の整備や少子化対策で期待することは「児童・児童扶養手当拡充、医療費助成、保育料等軽減等、子育て世帯への経済的な支援」(44・7%)が最も高い。 福島県,少子化・子育てに関する県民意識調査,2019https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/344247.pdf(9ページ)  払う金は少なくしたい、でも、もらえる金は多くしたい、という本音が透けて見える。 社会人になって初めて気付く社会保険料のインパクト……。新卒1年目、しゃかりきに働いてやっと掴んだ1万円の昇給……その金が住民税でチャラになってしまう虚しさ……所得税も地味に負担となる……。 「税金が高すぎる」――こんな叫びが、結果として政治に関心を持つきっかけになるということだろう。 【②住民票問題】  山形県出身の井上桜さんは「福大周辺に住んでいますが、山形から福島に住民票を移していないので投票には行きませんでした」と話す。 「私が通う行政政策学類は多少なりとも政治に興味があって入っている人が少なくない。なので実家暮らしで住民票がある人は『投票に行った』とよく聞きますね」(井上さん) 井上さんが福大Voteに入ったきっかけは大学の受験科目「政治・経済」を深く勉強していく中で政治に興味を持ったからだという。入学前からサークルを調べ、自らSNSでダイレクトメッセージを送って福大Voteに入った。そこまで政治に興味がある彼女ですら選挙に行かなかった(行けなかった)のだ。 総務省が行った「18歳選挙権に関する意識調査」(2016年)によると、投票に行かなかった理由として「今住んでいる市区町村で投票することができなかったから」が最も多く、年齢別では18歳(15・6%)よりも19歳(27・5%)の割合が高い。 総務省,18歳選挙権に関する意識調査の概要,2016https://www.soumu.go.jp/main_content/000456090.pdf(2ページ)  選挙は通常、住民票に登録された住所に投票所入場券が送付される。高校を卒業して県外の大学に進学した学生の多くは、住民票を実家から移さないため、帰省のタイミングで選挙がない限り進学先では投票できない。 不在者投票といった救済制度はあるが、選挙管理委員会への書類請求や投票用紙の郵送が必要で、手続きが煩わしい。 実際、福島県知事選挙の投票率を詳細に見ていくと、18歳は34・21%だったが、19歳は17・83%と最も低かった。 【③なじみの薄い選挙】  読書が好きで、もともと政治に関心が高い山本雅博さんは「政治は面白いのに、面白さに気付いてない」と話す。 「周りを見てみると、政治に関心がないし、あまり知識がない印象です。それでも僕が友人に熱心に語りかけると、『投票行ったよ』と言ってくれる人もいる。もっと政治を話す場があれば選挙に行くきっかけになるだろうし『誰々は選挙に行ったみたいだ』という話が広まればさらに選挙に行く人は増えると思います」(山本さん) 福大Voteは県選管の協力を得て、知事選前の10月27・28日、投票率アップにつなげようと、大学図書館の一角で学生が選挙や政治について気軽に話すことができる「選挙カフェ」を開いた。テーマを決めて議論し、訪れた学生と意見を交わした。 市町村の選管も、若者の投票率向上のためさまざまな取り組みを行っている。 須賀川市選管ではバス車内で投票ができる移動期日前投票所を市内の高校に初めて開設するなど、若者が投票しやすい工夫を凝らした。 福島市選管では市内の中学校で選挙への理解を促す出前授業を開き、生徒が模擬投票を体験した。 決定に関わる取り組みを子どものころに経験し、積極的に物事に関わる姿勢(若者の主権者意識)が醸成されれば、民主主義の基盤を早くから意識できる。 投票率を上げるためにはどうすればいいのか 【①情報】  各選管は移動期日前投票所の設置や模擬投票の実施など若者の投票率向上に躍起だが、冒頭に示した投票率の通り結果は伴っていない。 若者の投票率を上げる方策はあるのか。 前出・渋谷さんは次のように指摘する。 「若者の目に留まりやすいSNSなどを活用し、社会に関心を持ってもらうような啓蒙活動を多面的にアプローチすることが必須なんじゃないかなと思います」 例えば、知事選の候補者だった内堀雅雄氏と草野芳明氏は若者からすると、言ってしまえばどちらも〝知らないおじさん〟でしかない。 東京都知事選挙は22人が立候補し、テレビで見たことがある馴染みの候補者が何人もいた。宮崎県知事選挙はタレントの東国原英夫氏が立候補するなど、地方の選挙でも有名人が立候補することは珍しくなくなった。 もちろん知名度があればいいというわけではないが、話題性は高くなるので、結果的に有権者は候補者の素性や公約を知る機会が増える。 新聞・テレビ離れが進み、若者が候補者の情報をキャッチする機会は減り続けている。一方、スマートフォンが普及し、アプリが多様化する中、若者は求める情報を自らキャッチしにいくのが当たり前になっている。 若者が普段使っているアプリ―ユーチューブ、ツイッター、インスタグラム、ティックトック―挙げたらきりがないが、各選管は予算をかけて多方面で周知を図る必要があるだろう。 【②選挙に出よう】  日本財団ジャーナルが行った意識調査(2021年)によると、「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人にその理由を尋ねたところ「投票したい候補者・政党がいないから」が最も多く22%だった。 日本財団ジャーナル,意識調査,2021 https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2021/63822  本誌で連載しているライター、畠山理仁氏の「選挙古今東西」(昨年6月号)を引用する。 私はかねてから「選挙に行こう」ではなく「選挙に出よう」と呼びかけてきた。選挙に出る人が増えれば選択肢が増える。選択肢が増えれば投票に行く人も増える。つまり、自分の1票を実感できるチャンスが増える。候補者が増えて適正な競争が行われれば、政治業界全体のレベルも上がる。多様な候補者が立候補することで「今、政治には何が求められているか」も可視化される。誰にとっても不都合はない。  (中略)  もう一つの問題は「立候補のしかた」を学校で教えないことだ。そのため、どうやって立候補したらいいのかわからない人が多くいる。  安心してほしい。私たちの社会は、そんな時のために働いてくれる人たちをちゃんと用意している。役所にある選挙管理委員会(選管)の人たちだ。そこをたずねて「立候補したい」と伝えれば、懇切丁寧に立候補までサポートしてくれる。  選挙の約1カ月前には、各地の選管で「立候補予定者事前説明会」が開かれる。一度出席してみれば、すべての候補者がとても複雑な手続きや高いハードルを超えて立候補していることがわかる。会場を出るころには候補者への敬意を抱くこと間違いなしだ。ぜひ、自分の権利を確認するためにも訪ねてみてほしい。  参議院議員と都道府県知事の被選挙権は満30歳以上だが、衆議院議員、県議会議員、市町村長、市町村議会議員は満25歳以上だ。供託金などの費用が最大のネックではあるが、20代がもっと当事者意識を持っていいはずだ。 【③与野党への考え】  福大Voteの3人に「政党についてどう考えているか」を聞いた。 「特定の支持政党は無いですね。ただ、野党には頼れないので、結局与党に投票することが多いです」(関谷さん) 「私も与党野党どちらを支持するとかはないです。政治全体を見て判断したいですね」(井上さん) 「根本に政権交代してほしいという思いがあるので、野党の国民民主党を支持していたことはあります。ただ結局、政治は多数決で、数が必要という要素があるので、今はどこがどうというのはありません」(山本さん) 本誌主幹・奥平はたびたび「政府与党の傲慢さと野党のだらしなさ」を指摘している。投票しようにも、推したい政党・候補者がいなければ選挙離れは進む一方だ。 左から井上桜さん、関谷康太さん、山本雅博さん 投票しないことのデメリットは何か  福大Voteの3人に「政治に求めるもの」を聞いた。 「若い世代の支援をもうちょっと増やしてほしいです。あとは地方創生、教育格差の是正です。生まれた家庭環境によって教育機会に違いがあるのはおかしいと思います」(関谷さん) 「大学周辺に買い物ができる場所がないんです。スーパーが1軒でもあれば……。電車やバスの本数ももっと増やしてほしいですね」(井上さん) 「防衛費はGDPの何%ということではなく、必要なものを精査して調達することが重要だと思いますし、それに合わせた予算を組むべきです。防衛省の情報が分かりにくいので、国防上明かせない情報があったとしても『こういう戦略で国を守っていく』と分かりやすく説明してほしいです」(山本さん) 3人はまだ学生なのに、それぞれしっかりした考えを持っている。ここまで意識が高ければ、黙っていても選挙に行くだろう。問題は、政治に全く興味がない人へのアプローチだ。 人が行動する動機は2種類しかない。「快楽を得たい」か「痛みを避けたい」かのどちらかだ。 政治に興味がない人に、選挙に行くメリットを説いても響かない。快楽を得るほどの成果も生まれない。それであれば、痛みを避けるパターンで訴えていくしかない。 再び畠山氏の「選挙古今東西」(2020年4月号)を引用する。  選挙は積極的に参加したほうが絶対に「得」だ。参加しなければ「損」をすると言っても過言ではない。  今、日本人は収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している。これは「国民負担率」という数字で表されるが、令和2年度の見通しは44・6%。このお金の使い道を決めていくのが政治家だ。  幸いなことに、日本は独裁国家ではない。民主主義国家だから、有権者は自分たちの代表である政治家を選挙で選ぶことができる。18歳以上で日本国籍を有していれば、性別や学歴、収入や職業的地位に関係なく、誰もが同じ力の「1票」を持っている。実はこれはスゴイことだ。  もっとわかりやすく言う。  「無収入の人も年収1億円の人も平社員も社長も同じ1票しかない」  それを誰に投じるかは有権者次第であり、1票でも多くの票を得た候補が当選する。これがルールだ。  つまり、選挙に積極的に関わらないでスルーしていると、自分の理想とは違う社会がやってくる可能性がある。考えようによっては、かなりヤバイ。自分の収入の約4割をドブに捨てることにもなりかねない。  今は国政選挙でも投票率5割を切る時代だ。地方選挙ではもっと低いこともある。つまり、「確実に選挙に行く人たち」の力が相対的に大きくなっている。貴重な1票を捨てている人は、あっという間に社会から切り捨てられる存在になるだろう。  政治に参加せず、「収入の4割以上を税金や社会保障費として負担している」現状を放置すれば、それが5割、6割と高くなっていくのは目に見えている。痛みを避けたければ、まずは選挙に行くしかない。

  • 【谷賢一氏】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

     飯舘村出身の俳優・大内彩加さん(29)が、所属する劇団の主宰者、谷賢一氏(40)から性行為を強要されたとして損害賠償を求めて提訴している。谷氏は「事実無根」と法廷で争う方針だが姿を見せず「無実」の説明もしていない。谷氏は原発事故後に帰還が進む双葉町に単身移住。浜通りを拠点に演劇の上演や指導を計画していた。大内さんは、「劇団員にしてきたように福島でも性暴力を起こすのではないか」と恐れ、被害公表に踏み切った。(小池航) 【大内彩加】飯舘村出身女優が語る性被害告発の真相  谷氏から性被害を受けたと大内さんがネットで公表したのは昨年12月15日。翌16日からは谷氏の新作劇が南相馬市で上演される予定だったが、被害の告発を重く見た主催者は中止を決定。谷氏は自身のブログで、大内さんの主張は「事実無根および悪意のある誇張」とし、司法の場で争う方針を示している。 谷賢一氏はどのような人物か。本人のブログなどによると、郡山市生まれで、小学校入学前までを石川町で過ごし、千葉県柏市で育った。明治大学で演劇学を専攻し、英国に留学。2005年に劇団「DULL-COLORED POP(ダルカラードポップ)」を旗揚げした。大内さんが所属しているのがこの劇団だ。 自身のルーツが福島県で、父親は技術者として東京電力福島第一原発で働いていたという縁。さらに、原発の在り方に疑問を抱いていたことから、作品化を目指して2016年夏から取材を始めた。事故を起こした福島第一原発がある双葉町などを訪れ、2年の執筆と稽古を重ねて福島県と原発の歴史をテーマにした一連の舞台「福島三部作」に仕上げた。 作品は2019年に東京や大阪、いわき市で一挙上演。連日満員で、小劇場作品としては異例の1万人を動員した。その戯曲は20年に鶴屋南北戯曲賞と岸田國士戯曲賞を同時受賞した。谷氏が昨年10月に双葉町に移住したのは、何度も訪れるうちに愛着が湧き、放っておけなくなったからという。 性被害を受けた大内彩加さんは、飯舘村出身。南相馬市の原町高校2年生の時に東日本大震災・原発事故を経験した。放送部に所属し、避難先の群馬県の高校では朗読の全国大会に出場。卒業後は上京して芝居を学び、イベントの司会や舞台で活躍してきた。2015年からは故郷・飯館村をPRする「までい大使」を務めている。 大内彩加さん。「匿名では揉み消される」と、顔を出し実名で告発した。  大内さんが東京で活動しているころ、谷氏が福島三部作に出演する俳優を募集していると知った。故郷を離れても芝居を通して何かしら福島と関わりたいと思っていた大内さんはオーディションを受けた。 結果は合格。谷氏からは「いつか平田オリザさんと浜通りで演劇祭をやるからお前も手伝うんだぞ」と言われた。平田氏は、劇団「青年団」を主宰する劇作家・演出家だ。震災前からいわき市の高校で演劇指導をしてきた縁で、県立ふたば未来学園(広野町)でも講師を務めた。谷氏は青年団演出部に所属していた(今回の告発を受けて退団)。大内さんは、故郷の浜通りで著名な演劇人の関わるイベントに携わることを夢見た。 三部作の上演に向けて、谷氏が主宰する劇団での稽古が始まった。2018年6月、大内さんが都内で稽古に参加した時だ。谷氏が女性俳優の尻をやたらと触り、抱きついていた。周囲の劇団員は止めないし、何も言わなかった。 間もなく自分が標的になった。休憩に入ると、谷氏は大内さんに肩を揉むように言ってきた。従うと、谷氏は手を伸ばして大内さんの胸を触ってきたという。谷氏はその後もことあるごとに体を触ってきた。大内さんが言葉で拒絶しても、谷氏はやめなかった。 大内さんは「我慢すれば済むこと。三部作に関わるチャンスを逃したくない」と不快感を押し殺した。しかし、被害はエスカレートする。稽古終わりのある夜、谷氏は東京・池袋駅のホームで大内さんを羽交い絞めして服の上から胸を触ってきた。周りには人が大勢いた。大内さんは身長169㌢、谷氏は185㌢という体格差もあり抵抗できなかった。 「俺はお前の家に行く」  同年7月26日は都内で福島三部作の先行上演があった日だ。この日大内さんは谷氏から性被害を受ける。終演後の夜、大内さん、谷氏、出演した俳優たちの計5人で駒場東大前駅近くで飲んだ。男性俳優2人と女性俳優1人が先に帰った。谷氏と大内さんだけが残された。 谷氏は大内さんを羽交い絞めにして、服の中に手を入れて胸を揉んできたという。何度も抵抗したが、力の差は歴然だった。谷氏は「終電を逃したのでお前の家に行っていいか」と聞いてきた。大内さんは1人でホテルに泊まるか、自宅に帰ってほしいと頼んだが、谷氏は「妻には連絡した。俺はお前の家に行く」。タクシーに押し込まれ、自分の家に行かざるを得なくなった。 当時住んでいた家は1LDK。大内さんは、酒に酔っていた谷氏をベッドに寝かし、自分は床やリビングに逃げようとしたが抵抗はむなしかった。 翌日、大内さんは前日夜に飲み会に同席していた女性俳優にLINEでメッセージを送った(図)。動揺と谷氏への嫌悪感が見て取れる。 性被害を受けた翌日の2018年7月27日に、大内さんが女性俳優とやりとりしたLINEの画像。セクハラの証拠となる他のLINE画像は、昨年12月24日配信の「NEWSポストセブン」が公開している。  「彼女も谷からパワーハラスメントを受けていました。2人で傷をなめ合うことしかできなかった」(大内さん) 正式に劇団に籍を置いてからも被害は続いた。大内さんに交際相手がいると知れ渡る2021年3月まで谷氏は胸や尻を触る行為をやめず、LINEではセクハラメッセージを送り続けた。 大内さんは何もしなかったわけではない。劇団内で解決しようと、古参の劇団員にレイプ被害を打ち明けた。だが、答えは 「大内よりも酷い目に遭ったやつはいっぱいいたからな。それで辞めていった女の子はたくさんいたよ」 谷氏の振る舞いは、古参劇団員も目撃しているはずだった。 「性暴力は、この劇団では当たり前のことなんだ、誰も助けてくれないんだと絶望しました」(大内さん) 2022年春頃、大内さんは稽古中も、街中で1人でいる時も訳もなく涙が出てきた。何を食べても味を感じないし、芝居を見ても本を読んでも頭に入ってこない。歩けずに過呼吸になったこともあった。間もなく舞台から離れた。 同年5月ごろ、谷氏は劇団内でハラスメント防止講習を行い、「ハラスメントを許さないという姿勢を外部に表明しよう」と提案した。「劇団内でハラスメントがあったから対策をするんですよね」。谷氏のこれまでの所業を暗にとがめる劇団員の質問に、谷氏は「してきたわけではない」と否定。ただ「決して品行方正な劇団ではないが、何も言わずには済まないだろう」と言った。大内さんは傍で聞いていた。 心身は限界だった。心療内科で同年6月にうつ病と診断された。「私はいつもの状態ではなかったんだ」。病名を与えられて初めて、自分を客観的に眺めることができた。 「死を選んだら谷に殺されたのと同じだよ」  被害に向き合うと、あの日の光景がフラッシュバックする。苦痛から逃れるために「死にたい」と思う希死念慮にさいなまれた。 劇団から距離を置いたことで、少しずつだが被害を友人たちに打ち明けられるようになった。年上のある女性俳優は大内さんにこう言った。 「いま死を選んだら『自殺』ではなく『他殺』だよ。谷に殺されたのと同じ。彩加ちゃんは毎日眠れなくて、苦しくて、辛い思いを何度もしてきたんでしょ。それなら谷にも同じ気持ちを味わわせなきゃ。裁判でも何でもいいから形にして社会に訴えて、これ以上被害者を出さないこと。そうしないと彩加ちゃんはきっとこれからも苦しみ続けるよ」 原町高校時代の友人は、普段の温厚さからは想像できない怒りようだった。 「谷には早く福島から出て行ってほしい。こんなこと、あってはいけない」。そして、「彩加は全然悪くない」と言ってくれた。 「私は怒っていいんだ」。我慢することばかりで、自分の感情にふたをしていた。友人たちが自分の身に起こったことのように憤ってくれたことで、大内さんは怒りの感情を少しずつ取り戻していった。 性被害を告白できるまでには4年かかった。弁護士からは、刑事告訴するには時間が経っているため立証が難しく、時効も高い壁になるだろうと言われた。民事で損害賠償を求める選択しかなかった。 提訴は2022年11月24日付。判断を法廷に託したのは、演劇界で性暴力、パワハラなどあらゆるハラスメントが横行している現状を見過ごされないように広く訴えるためだ。 同年9月には、別の劇団の男性が自死したと聞いた。ハラスメントとの因果関係は不明だが、主宰者から何らかの被害を受けて退団したという話は耳にしていた。 「男性が亡くなったと聞いた時、なんでもっと早く私自身の被害を明らかにしなかったんだろうと悔やみました。同じ境遇の人が他にもいると彼が知っていたら、『自分だけじゃない』と自死を踏みとどまったかもしれない。提訴しなければならないと決意したのは、彼の死を知ったからです」(大内さん) 「性暴力は福島県でも起こりうる」  提訴は、谷氏の所業を福島県民に知らせ、移住先での新たな被害を防ぐ狙いもあった。性暴力は稽古場や谷氏が酒に酔った際に起きている。谷氏は双葉町で一人暮らしをしていた。移住先では自宅で稽古を付け、酒宴を開くこともあると知り、「劇団員にしてきたことが福島でも起こりうる」と大内さんは恐れた。 大内さんは東京地裁で1月16日に開かれた裁判の第1回期日に出廷し、閉廷後に記者団の取材に応じた。法廷に谷氏の姿はなかった。 本誌は谷氏にメールで質問状を送り取材を依頼した。「訴訟代理人を通してほしい」とのことだったので、谷氏の弁護士に質問状を郵送したが、期限までに返答はなかった。 谷氏は福島県で何をしようとしていたのか。公開資料を読み解く。 谷氏は昨年9月16日に「一般社団法人ENGEKI BASE」を設立している。法人登記簿によると、主たる事務所はJR双葉駅西側に隣接する帰還者用の住宅。谷氏の新居だ。代表理事に谷賢一、他の理事に大原研二、山口ひろみの名がある。大原氏は南相馬市出身の俳優で、福島三部作では大内さんと一緒に方言指導を務めた。被害告発後には、谷氏が主宰する劇団を退団したと発表している。 同法人は演劇を主とした文化芸術の発信・交流による福島県の地域活性を事業目的とし、「演劇・舞踊などの舞台芸術作品の創作・発信」「アーティストの招聘」「演劇事業の制作」を掲げている。現在、ホームページが閲覧できず、谷氏の回答も得られていないため全容を知ることはできないが、谷氏はこの法人を軸に福島県での活動を描いていたようだ。 実際、1月20~22日に富岡町で開かれた「富岡演劇祭」(NPO法人富岡町3・11を語る会主催)では、当初協力団体に名を連ね、谷氏はシンポジウムで前出・平田オリザ氏と対談する予定だった。テーマも「演劇は町をゲンキにできるか?」。双葉町へ移住した谷氏あっての企画だ。しかし、大内さんの被害告発を受け、主催者は谷氏との断絶を宣言し、シンポの「代打」には文化庁次長や富岡町職員ら3人を当てた。谷氏が所属していた劇団青年団主宰の平田氏も登壇したが、本来の対談相手がいなくなったことに言及する者は誰もいなかった。 谷氏の「裏の顔」は演劇界以外には知られていなかったので、内情に疎い県民が「被災地を応援してくれている」ともてはやしていたのは仕方がない。問題は、谷氏とまるで関係がなかったかのように取り繕うことだ。 最たる例が地元紙だ。帰還地域に移住した著名人だったこともあり、初めは「再起した双葉から、新たな物語が始まろうとしている」(22年10月9日付福島民友)などと盛んにPRした。ところが大内さんが性被害を公表すると、福島民報も福島民友もばつの悪さからか関連記事は共同通信の配信で済ませている。独自取材をする気配はない。メディアが報じるのに及び腰のため、ネットでは憶測を呼び、当事者はバッシングなどの二次被害を受けている状況だ。 谷氏は口を閉ざすが、大内さんはあらゆるメディアの取材に応じる方針だ。だが、地元メディアは積極的に取り上げようとしない。福島県出身の被害者の真意が県民に伝わらないのは、この県の悲劇である。 その後 https://twitter.com/o_saika/status/1630131447188303873 https://twitter.com/seikeitohoku/status/1635965899386793984 https://twitter.com/seikeitohoku/status/1635966118958620672 あわせて読みたい 女優・大内彩加さんが語る性被害告発のその後「谷賢一を止めるには裁判しかない」 セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】

  • 【いわきFCを勝手に評価】レノファ山口戦(2023/3/5)

    サッカーを見ることが好きな筆者が、勝手にいわきFCを評価するWEB限定企画。 いわきFCを生観戦するのは今回で2回目だ。 初めて「いわきグリーンスタジアム」に行ったので、サッカー専用スタジアムだということを初めて知った。 サッカー専用スタジアムの素晴らしいところは、なんといっても「選手との距離」が近いこと。J2は有名な選手がたくさんいるので、選手を間近に見れるのは嬉しい! 【いわきFCを勝手に評価】レノファ山口戦(2023/3/5) 【結果】 いわきFC 0ー1 レノファ山口 フォーメーションは4-4-2。割と4-3-3が主流な現代サッカーにおいては珍しいのかもしれない。 筆者が最近見ている4-4-2と言えば、久保建英選手がいるレアルソシエダ。前線でしっかりポストプレーしてくれるセルロートとテクニックのある久保選手のツートップが魅力だ。つまりトップの2人がかなり重要だということだ。 ソシエダは最近オヤルサバルが復帰して、4-3-3になって勝てなくなった。(ダビドシウバがいなかったのも大きいのかもしれないが、、、) 【いわきFCを勝手に評価】選手別 https://www.tiktok.com/@seikeitohoku/video/7206906900082855169 GK 31 鹿野 修平 選手 6.0特に印象にないということは無難だったということだろう。DF 35 江川 慶城 選手 6.5声掛けを積極的に行っていたので、チームの中ではモチベーターの役割を担っているのかもしれない。ガッツが感じられて好印象だった。DF 4 家泉 怜依 選手 6.0両センターバックは無難だった。特に減点なし。失点シーンは誰の責任もない。DF 3 遠藤 凌 選手 6.0両センターバックは無難だった。特に減点なし。DF 2 石田 侑資 選手 6.5右サイドからの攻撃で、効果的なオーバーラップ、正確なクロス、縦へのドリブル、すべてよかった。嵯峨選手とのコンビネーションも素晴らしい。ケガで前半のみで交代。後半も見たかった。 一緒に観戦したサッカーオタク曰く、徳島から市立船橋高校に進学した際、外がうるさくて眠れなかったという逸話を持っている。出身の徳島県吉野川市はそんなに田舎なのだろうか。MF 8 嵯峨 理久 選手 7.0いわきFCで一番よかった。縦への推進力があり、いわきFCの要なのは間違いない。ドリブルできる、トラップも一級品。クロスの精度も高く、多くのチャンスを演出していた。28分の谷村選手へのパス、56分のアーリークロス、ともにアシスト級だった。おそらくJ1でも通じる。 さすが青森山田高校出身。MF 6 宮本 英治 選手 6.0無難にゲームコントロールできていた。こぼれ球への対応もできていた。75分のシュートチャンスは決めたいところだが、いいところに顔を出していた。MF 24 山下 優人 選手 6.0無難にゲームコントロールできていたが、あまり印象にない。MF 14 山口 大輝 選手 6.011分、神トラップからのシュートは決めたいところ。ただあのトラップを観れるだけでも金を払う価値はある。FW 17 谷村 海那 選手 5.016分の決定機は、給料をもらっている以上、絶対にはずしてはいけない。相手ディフェンスがゴールに向かってきていたので、シュートが簡単ではないことは理解しているが、、、28分のチャンスも決めたいところ。J2では少ないチャンスをどれだけものにするかが勝敗を分ける。FW 11 有田 稜 選手 5.516分の谷村選手の決定機は、有田選手のプレスから生まれたチャンス。他のチャンスにも顔を出していた。ただ前線でのポストプレーはもう少し改善が必要な印象。谷村選手、有田選手、ともに前半はリヴァプールを思わせるゲーゲンプレスを敢行して相手ディフェンスを困らせていたが、さすがに後半になるとプレスの強度が落ちた。90分走り切るのは無理がある。 杉山 伶央 選手 6.0左足の精度があったように感じる。あまり印象にない。 永井 颯太 選手 6.5先発で使ってもいい出来だった。トラップもうまいし、足も速い。75分の突破は素晴らしかった。ただ、先発で使われないのには何か理由があるのだろう。 近藤 慶一 選手 採点なし 加瀬 直輝 選手 採点なし レノファ山口を勝手に総評 タレント力が違いすぎた。 アギーレジャパンに召集された皆川佑介選手、説明不要の山瀬 功治選手、リオデジャネイロオリンピックで日本代表だった矢島慎也選手、J1にいたときの横浜FCで活躍した佐藤謙介選手、あと身長が10センチ大きければ代表レベルの関憲太郎選手などなど。 得点シーンは皆川選手のごっつぁんゴールだったが、「あの位置にいる」という能力こそが、長年サッカーで飯を食ってきた証だ。 そんなレノファ山口でもJ2では中堅クラブ。おそらく順位も真ん中あたりに落ち着くはず。 いわきFCは、J3降格候補の藤枝に負け、中堅の水戸に引き分け、中堅の山口に負けた。 この結果が何を意味するか。これからJ1級の清水エスパルスやジュビロ磐田と戦うとどうなるのか。楽しみに見てみたい。 【いわきFCを勝手に評価】総評 ダゾーンでハイライトを見たが、改めて思ったのは前線の迫力がJ2では大事なのではないかということ。予算が限られているのでガンガン点を取れる外国人選手を雇うのは容易なことではないが、FC町田ゼルビアがおそらく上位常連になる理由は前線に迫力差があるかどうか。 ミニ情報 スタジアムグルメ「スタグル」はかなり充実していた。何も食べなかったが美味しそうだった。かなりレベル高い方。 いわきFCマスコットキャラクター「ハーマー&ドリー」 フルコーラスの踊りを披露。かなりファンになった。

  • 「矢祭町刀剣展示会」開催-矢祭町・矢祭町教育委員会

     矢祭町のユーパル矢祭にて、1月28・29日の2日間にわたり「矢祭町刀剣展示会」が開催された。今回で3回目の開催となり、会場には老若男女問わず多くの来場者が訪れ賑わいを見せていた。 ここ数年はオンラインゲーム『刀剣乱舞―ONLINE―』の人気を皮切りに、若い女性を中心に日本刀が社会的ブームとなっており、美術工芸品としての日本刀にも注目が集まっている。 展示会は、矢祭町文化記念事業の一環として企画され、主催は町と教育委員会で、郡山市新誠会と白河市歴史文化協会の協力で開催された。 場内では県内で作られた刀を中心に約45振りが展示された。ガラスケース等で隔てず、間近でじっくり鑑賞できるのが最大の魅力。 新選組局長・近藤勇の愛刀「会津虎徹 陸奥大掾三善長道」や副長・土方歳三の「会津十一代和泉守兼定」といった歴史上の偉人の愛刀に加え、重要美術品「古伯耆貞綱」などが展示された。貴重な刀を前に多くの来場者がその光景を写真に収めていた。 土方歳三の「会津十一代和泉守兼定」  そのほか、居合抜刀道演舞も披露された。 居合抜刀道演舞  今回の開催を振り返って、佐川正一郎町長は、「おかげさまで、今回の入場者数は過去最高の300人超を記録し、県内外から老若男女問わず幅広い世代の方々に来場していただき感謝しています。日本のものづくりの原点を刀から学ぶことができますし、文化や伝統の継承という意味でも、こうして間近に触れられる機会は貴重ですので、今後も刀剣をはじめ、絵画などを通して文化振興を図っていきたいと思います」と話した。

  • 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

     福島市在住のアマチュアカメラマン・渡部良寛さん(63)は鉄道写真を中心に、県内の絶景を撮影し続けている。 桜に紅葉、雪景色。その美しさから、福島県宅地建物取引業協会(宅建協会)の広報誌の表紙に採用されていたほか、JR福島駅の駅ビル「S-PAL(エスパル福島)」1階でも常設展示されている。 渡部さんの作品群の中から、思わず心を奪われる県内の〝感動絶景〟を紹介してもらった。 観音寺川の桜並木(猪苗代町、2021年撮影) 水郡線の脇で咲き誇る「戸津辺の桜」(矢祭町、2014年撮影) 二本松の提灯祭り(二本松市、2014年撮影) 鶴ヶ城で打ち上げられたスカイランタン(会津若松市、2021年撮影) 二井屋公園に咲くポピー(伊達市、2016年撮影) ハート形に見えるため、「ハートレイク」とも呼ばれている半田沼(桑折町、2017年撮影) 只見川沿いの大志集落(金山町、2020年撮影) 国の重要無形民族文化財「サイノカミ」が再現され、花火も打ち上げられた「雪と火のまつり」(三島町、2020年撮影) 波立海岸沿いのJR常磐線を走るE657系「特急ひたち」(いわき市、2022年撮影) あわせて読みたい 春のふくしまを巡る ふくしま書棚百景