• 【相馬玉野メガソーラー】山林大規模開発への懸念

     本誌2021年8、10月号で、相馬市玉野地区で進められているメガソーラー事業についてリポートした。事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 メガソーラー事業への反対運動:地元の懸念と説明会 玉野メガソーラー事業地(工事前) 玉野メガソーラー事業地(今年5月撮影)  同事業については、大きく以下の2点から、近隣住民や河川下流域の住民から反対の声が出ていた。 1つは、事業地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴うこと。近隣・下流域の住民からは「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が噴出していた。 もう1つは、計画立案者で事業用地の大部分を所有する人物が、2021年7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土石流災害」現場の所有者と同一人物であること。この人物は地権者というだけで、直接的には事業に関与しないようだが、近隣住民などからは「あのような問題人物が関係しているとすれば不安だ」との声があった。 こうした事情もあり、2021年7月と10月に地元住民や下流域の住民を対象とした説明会が行われた。主催者は「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の現場担当者を招いての説明会だった。 説明会で配布された資料によると、事業区域面積は約122㌶で、うち森林面積が約117㌶、開発行為にかかる森林面積が約82㌶、発電容量は約82メガ㍗、最大出力60メガ㍗、太陽光パネル設置枚数16万6964枚などと書かれていた。 当然、説明会では前述のような不安の声が上がり、事業者は「問題のないように事業を進める」、「保険に入り、災害の際はそれで対応する」と回答した。ただ、そうした説明に反対派の住民は納得せず、平行線をたどった。 メガソーラー事業の現状:山林開発の進行と地元の不安  それからしばらくして、昨年2月ごろに、地元住民から「われわれの訴えも虚しく工事がスタートした」との情報が寄せられた。その直後に現地を訪ねた際は分からなかったが、最近、あらためて現地を訪ねると、山林がかなり切り開かれている様子がうかがえた。 以前の説明会に出席していた事業者の現場担当者に進捗状況を尋ねたところ、「一度、社内で話を通さないと取材にはお答えできないので、そのうえで再度連絡します」とのことだったが、締め切りまでに連絡はなかった。 以前の説明会で、事業者は「調整池を設置して洪水・土砂災害などが起きないようにする」と話していたが、あらためて丸裸にされた山林を見ると、近隣・下流域の住民は不安を増大させているだろうと感じる。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 (2021年8月号) 相馬玉野メガソーラー計画への懸念 (2021年10月号) 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 (2021年11月号)

  • 相馬野馬追「日程変更」の障壁

    相馬野馬追「日程変更」の障壁

     相馬地方の伝統行事で国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程が見直されようとしている。現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、厳しい暑さで人馬への負担が大きく、観客や準備に携わる人も熱中症のリスクが高いとして、日程が大幅に変わる可能性が出ている。さらに、出場するための高額費用負担や女性の出場条件緩和といった課題もあり、参加騎馬武者が減少する野馬追は過渡期を迎えている。 〝酷暑開催〟に騎馬会員から賛否両論 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  300~400騎の騎馬武者が甲冑をまとい、太刀を帯し、先祖伝来の旗指物を風になびかせながら野原を疾走する。そんな時代絵巻のような光景が繰り広げられる相馬野馬追は、伝説によると今から1000年以上も昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(現在の千葉県北西部)に放した野馬を敵兵に見立て、軍事演習に応用したことが始まりとされる。捕らえた馬は神馬として氏神である妙見に奉納した(相馬野馬追公式ホームページより)。 今年も間もなく、野馬追の時期がやって来る。2020、21年は新型コロナウイルスの影響で神事中心の小規模な実施にとどまったが、昨年は3年ぶりに通常開催され、コロナ前の6割に当たる10万3400人が来場した。今年はコロナ感染が落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが5類に引き下げられたこともあり、昨年以上の観客数になることが予想される。 そんな野馬追の日程が今、大きな議論になりつつある。 現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、近年の猛暑で「人も馬もリスクが高い」「観客や準備に携わる人も大変」という声が以前から高まっていた。酷暑の中で甲冑をまとうのは辛いし、馬はもともと暑さが苦手。観客からも「日差しを遮る場所が全くない」と不満が漏れていた。昨年の野馬追では熱中症などの事例が21件あり、コロナ前の2019年も36件に上っていた。 こうした事態に「相馬野馬追執行委員会」(2月20日に任意団体から一般社団法人に移行、以下執行委員会と略)では、2月に開いた会合で副執行委員長の立谷秀清・相馬市長から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出された。これに執行委員長の門馬和夫・南相馬市長が「検討委員会を立ち上げて方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。 実はこれより前、南相馬市では昨年12月に五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行っていた。2019年度と22年度に出場した騎馬会員461人に質問書を発送し、今年1月、55%に当たる256人から回答を得た。 集計結果は3月に公表されたが、それによると、 質問=日程変更についてどのように思うか。 「賛成」135人(53%) 「反対」50人(19%) 「どちらでもない」71人(28%) 質問=(変更に「賛成」と答えた135人に)なぜ賛成と思うか。(以下複数回答) 「暑さによる人馬への体力的な負担が大きいため」127件 「全ての行事が休日または祝日の方がよいため」46件 「その他」14件 質問=何月が最適な日程と思うか。 「5月」116件 「7月」53件 「6月」「10月」40件 「9月」31件 質問=(変更に「反対」と答えた50人に)なぜ反対と思うか。 「頻繁に変更するものではない」33件 「現在の日程が『東北の夏祭りの先陣を切る、夏の伝統行事』と認知されているため」22件 「神社の祭礼のため、例大祭に合わせるべき」13件 「その他」7件 回答者の過半数が日程変更に賛成し、その理由に暑さを挙げる。新たな開催月は5月を望む回答が多い。逆に反対の人は2011年に現在の日程に変更したことを踏まえ、簡単に変えるべきではないとしている。 そもそも、野馬追の日程はどのようにして決められたのか。 中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代を通じて旧暦「五月中の申」の日に行われていた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。 その後、日程はどう変わっていったか『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」から抜粋する。 《明治6年(1873)の改暦を受け、翌7年(1874)には旧暦「五月中の申」の日にあたった7月2日をもって野馬追が行われるようになった。そして、翌8年(1875)からは日程が7月2日に正式に固定化され、その日を中心とした7月1日~3日の3日間行われるようになった。旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという。なお、明治37年(1904)以降には、7月11日~13日に変わっている》 日程を10日繰り延べたのは梅雨を避けるため。それから約半世紀が経過した昭和36年(1961)に7月16日~19日という4日間に変更されたが、変則日程は定着せず、5年後の昭和41年(1966)にはさらに1週間繰り延べて7月23日~25日となった。 《変更理由は、梅雨明けを待つこと、学校の夏季休暇を利用して、より多くの観覧者を見込んでのものであった。近代から幾度かあったこれらの日程変更は、いずれも野馬追を観光資源として意識したものといえよう》(同抜粋) その後、7月23日~25日という日程は40年以上続いたが、3日間とも平日に重なってしまうと出場が難しい騎馬武者も多く、観客数にも影響が出るため、2011年から7月最終土・日・月曜日に変更され、現在に至っている。 このように、7月開催は旧暦に基づく深い意味を帯びている半面、細かい日程は「梅雨を避ける」「騎馬武者を出場し易くする」「観客数を増やす」などの理由で変更されてきた歴史があるのだ。 難しい文化庁との調整 南相馬市が行ったアンケートの結果と情報開示請求で入手した「自由記述欄」  とはいえ、今回の日程変更は過去のものとは意味合いが異なる。これまで一貫して守ってきた「旧暦五月中の申の日」から大きく変えることを視野に入れているのだから、そう簡単に決断できるものではない。 ただ現実に目を向けると、騎馬武者、馬、観光客は酷暑に四苦八苦している。地球温暖化で、今後も気温上昇は避けられない。万が一、熱中症で命を落とす人が現れたら取り返しのつかないことになる。 本誌は前述・南相馬市が行ったアンケートの「自由記述欄」に、回答者(騎馬会員)がどのようなことを書いたのか確認するため、同市に情報開示請求を行った。 開示された自由記述欄には計142件の意見が書かれており、そのうち「暑さ」に関するものは2割に当たる28件に上った。主だった意見を掲載したのでご覧いただきたいが、人の命と健康を心配する意見だけでなく、馬への負担を指摘する意見も目立った。個人的には「馬に点滴をしながら頑張ってもらった」「乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので貸すのを渋っている」という意見に衝撃を受けた。ストレートに「動物虐待」と書いた回答者もいたが、点滴までして駆り出されている馬がいることを踏まえれば決して大袈裟ではない。 暑さに対する意見 ・日程変更は早急にすべき。今の時期では人馬に対して虐待行為だ。(70代男性)・中学生から鎧で出場するのは体力的に負担が大きい。(10代男性)・暑さで愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、昨年の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうで、今年の夏も暑いようなら出場しない方向で考えている。(20代男性)・各郷の陣屋の後ろに家族用のテントを張り、日陰をつくるなどの暑さ対策をしないと命に関わることも起こり得ると思う。(40代男性)・出場者や観光客の負担をなくすため、猛暑を避けての開催を希望する。(10代女性)・猛暑の中での開催は動物虐待だ。(60代男性)・乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので、馬を貸すのを渋っている。(70代男性) 費用負担に対する意見 ・馬を借りるのに20~40万円払っており、家族の負担も大変。現実的に新しく野馬追を始めようとしたら100万円近くかかる。(20代男性)・奨励金は20年以上変わっていないのに、馬代は数年前の倍以上になっている。道具なども傷むので、その都度修理すれば負担は大変だ。(40代男性)・馬を飼育する人への援助がない。馬を飼うと1頭40~50万円かかる。自馬でないと競馬や旗取りに出られない。馬が身近にいる環境をつくることが大事だ。(70代男性)・道具類を揃えるだけでも費用がかかるので、参加枠を設け、野馬追を体験してもらうのもありではないか。(30代男性)・乗馬の練習が有料なのは仕方がないが1回3000円前後の回数券を発行してほしい。(60代男性) 女性の出場条件緩和に対する意見 ・年齢制限をなくし、既婚者も出場できるようにすれば騎馬武者の数も多くなる。(70代男性)・流鏑馬の女性騎馬も認められている。昔のきまりを大事にしすぎて伝統がなくなるより、多少きまりが変わっても伝統を残す方が大事だと思う。(10代女性)・20歳を過ぎてからも野馬追に出場したいと思っている女性は多いはずだ。(10代女性)・男性より女性の方が出場意欲のある人は多い。私は4年出られるはずが3年しか出られなかった。毎日馬の世話と手入れもして、伝統を残すためにやっていたのに、運営の対応にがっかりさせられたことがある。もっと女性の意見に耳を傾けてほしい。(20代女性)  半面、意外だったのは前述のアンケート結果にあるように、日程変更に「反対」「どちらでもない」を合わせると計47%に上ったことだ。酷暑を考えれば「賛成」がもっと多くなると思われただけに、大差がつかなかった理由が気になる。 筆者は数人の騎馬会員に話を聞いたが、多くが日程変更に反対していた。その人たちが口を揃えて言ったのは「暑かろうが何だろうが、出たい人は出る」というものだった。 一方、自由記述欄を見ていくと、2011年に現在の日程に変更されたため「伝統を重んじる野馬追の日程をころころ変えるべきではない」という意見とともに、国重要無形民俗文化財に指定されていることから「(日程を変えると)指定が取り消しになるのではないか」と心配する意見も目に付いた。 野馬追は昭和27年(1952)、文化財保護法に基づき国の無形文化財に選定されたが、同29年(1954)の同法改正で選定解除となった。その後、同50年(1975)の同法改正で重要無形民俗文化財の指定制度が設けられ、翌年、相馬地方に派遣された文化庁調査官が野馬追の指定に向けた調査を行い、同53年(1978)に同文化財に指定された。 この指定が、日程変更に当たって障壁になるのだという。 2011年に現在の日程に変更された際、その協議に参加した南相馬市の関係者は当時を振り返る。 「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」 正式決定には、かなりの時間と労力が要ることが分かる。 さらに突っ込んだ話をしてくれたのは地元の研究者。 「地域が野馬追の『文化財としての価値』をどう保存していくのか、そのうえで、現在の日程では文化財としての価値を担保できないことが説明されないと、文化庁は日程変更を許可しないと思います」 研究者によると、暑さを理由に日程を大幅に変えるかどうかは2011年当時も出ていた話で、有識者からは「むやみに日程を変えるべきではないが、五月中の申の日になぞらえるなら5月開催も一つの案」との提案もあったという。しかし、執行委員会などは「騎馬武者の参加し易さ」と「観光客の集め易さ」を重視し、7月最終土・日・月曜日に決めた経緯がある。 「この時、文化庁は文化財としての価値の保存とは関係ない『騎馬武者の参加し易さ』と『観光客の集め易さ』が前面に出たことに難色を示した。最終的には『騎馬武者に参加してもらわないと文化財としての価値の保存が難しくなる』との理由付けで同庁から日程変更を許可されたが、国重要無形民俗文化財に指定されると、それくらい調整が難航するということです」(同) こうした状況を踏まえると、もし7月以外に開催することが決まったとしても実施されるのは数年先で、文化庁が許可しなければ実現しない可能性もある。 さらに研究者は、別の心配事として「野馬追2日目(相馬太田神社)と3日目(相馬小高神社)に執り行われる例大祭の日程を変えることができるのか」という点も挙げた。 ただ、相馬太田神社の佐藤左内宮司に確認すると「日程が変わればそれに合わせて例大祭も変えるだけ。これまでの日程変更でもそうしてきたと思います」と話し、難しいとは考えていない様子。むしろ佐藤宮司が心配していたのは、例大祭当日に行われる祭りの担い手が確保できるかどうかだった。 「カネの問題ではない」  「祭りでは神輿の担ぎ手が50人、旗持ちや準備をする人などが50人必要です。例年、地元企業の若手社員や中学・高校生、専門学校生に手伝ってもらっているが、子どもたちは夏休みだから参加できるので、これがもし7月以外の開催になったら100人確保できるのか。正直『自前で確保してほしい』と言われても無理。日程変更するなら祭りの支援も約束してくれないと困る」(同) 佐藤宮司は、詳しいアンケート結果は把握していなかったが「酷暑の中で行うのは人馬にとって負担」と日程変更に一定の理解を示しているようだった。 自らも騎馬武者として出場する岡﨑義典・南相馬市議(3期)は同市議会昨年9月定例会で、現在の日程では人馬だけでなく観光客も熱中症などのリスクが高いとして「開催時期について騎馬会などと協議すべきではないか」と質問している。 岡﨑義典・南相馬市議(南相馬市議会HPより)  「私は、絶対に日程を変えるべきと言っているのではない。出場者はこの日程でやると言われればどこだって出る。しかし観光客は別です。毎年、熱中症で手当てを受ける人は一定数おり『こんな暑い中で見るならもう来なくていい』という不満も聞いたことがある。時代の変遷に合わせ、より良い方向に変えるための話し合いはすべきです。あとは結果に従い、変更する・しないを決めればいい」(岡﨑議員) 賛否両論ある日程変更は、6月にも執行委員会内に検討委員会が設けられ、本格的な協議がスタートする見通しだが、前述・情報公開請求で入手した自由記述欄を見ていくと、暑さに関する意見のほか、出場するための高額費用負担と女性の出場条件緩和に触れている意見も目に付いた。具体的にどのような意見が寄せられていたかは別掲をご覧いただきたいが、野馬追は今、この三つが大きな課題になっていることがうかがえる。 高額費用負担については、金銭的な支援を求める声が少なくない。別掲にもあるように、野馬追に出場するにはかなりの出費を要するが、これに対し行政からは「出場奨励金」が支給されている。奨励金は執行委員会→各騎馬会→騎馬会員に支給され、金額は騎馬会によって若干差があるが、1人当たり10~12万円。 金銭的な支援があれば持ち出しが減るので、出場者は助かる。ただ本誌が取材した騎馬会員の多くは「カネの問題ではない」「初期投資はかかるかもしれないが、奨励金を数年もらえばペイする」「一部に派手な甲冑や馬具を揃える人がおり、見栄っ張り合戦になっていることが問題」と支援増に否定的だ。 前出・岡﨑議員も同様の意見だったが「ただし」と付け加える。 「馬の飼料代が高騰し、それが馬代(借り賃)に跳ね返っている。私が最初に出場した2014年は10~12万円だったが、昨年は30万円という人もいた。例年、乗馬クラブからは馬代の目安になる奨励金がいくらになるか市に問い合わせがあるが、馬代高騰の流れはますます進んでいくように感じる。しかし、だからと言って市が馬代を税金から負担するのは市民の理解を得にくい。であれば市内には通年で馬を飼育している人が多いので、飼料代の支援は緊急的に行ってもいいと思います。実際、もう飼料代を負担できないと馬を手放した人もいますからね」 年々減る参加騎馬武者 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  もう一つの女性の出場条件緩和については、本誌が取材した騎馬会員からも「現行の出場条件である『20歳までの未婚女性』は変えていいと思う」「男女平等やLGBTが当たり前の昨今、性別や年齢で出場を制限するのは時代に馴染まない」との意見が多く聞かれた。 野馬追に女性の参加が認められたのは昭和22年(1947)で、同59年には騎馬会に「未成年の未婚者で化粧をしてはならない」との条文ができたという。未成年や未婚が条件となったのは、月経や出産などが血を連想させ、不浄とされたためとみられる。 騎馬会員の中には女性の参加に難色を示す人もいるようだ。武家行事の野馬追は女性が参加できなかった歴史があり、その点を重んじる気持ちも分かるが、時代の変遷に合わせた変化は必要だろう。そもそも女性の出場条件を緩和したところで、女性の出場者が劇的に増えるとは思えない。むしろ別掲にあるように、男性より野馬追のことを思う女性がいるなら、柔軟な対応で出場の間口を広げるべきではないか。 野馬追はここに挙げた三つの課題のほか、参加騎馬武者の減少にも直面している。ピークは1995年の614人、震災・原発事故以降は400人前後で推移し、昨年は337人だった。 日程変更、金銭的な支援、女性の出場条件緩和が実行されれば参加騎馬武者が増えるかどうかは分からない。騎馬武者の数にとらわれるのではなく、歴史と伝統を継承していくことを大事にすべきという意見もある。数を維持したいがために闇雲に税金を投入したり、野馬追の意味を理解せず、単に「カネがあるので出たい」という意識の低い騎馬武者が増えるようでは本末転倒だ。  「野馬追はこれまで首長、執行委員会、騎馬会など上層部だけで物事を決めてきた。そういう意味では、今回のアンケートで騎馬会員の本音を聞こうとしたことは今まで見られなかった姿勢であり、評価できると思います」(ある騎馬会員) 過渡期を迎える野馬追を未来にどうつないでいくのか。三つの課題と合わせて考える必要がある。

  • 観光地の評価を左右するトイレ事情

    (2022年8月号)  観光地の評価を左右するのが、誰もがお世話になるトイレだ。古く汚いトイレしかない場所では自ずと滞在時間が短くなるし、再訪する気も失せる。福島県の観光地のトイレ事情はどうなっているのか。観光客入込数が多いスポットに足を運び、独自調査をしてみた。 道の駅はどこもキレイ、最悪は「開成山公園」  県観光交流課が発表している2020年分の「福島県観光客入込状況」によると、観光客入込数が多かった観光地上位は別表の通り。 2020年の観光客入込数上位 順位 地名・施設名観光客入込数伸び率1磐梯高原161万人△ 14.62道の駅国見あつかしの郷137万人△ 10.73道の駅伊達の郷りょうぜん120万人△ 4.94道の駅あいづ 湯川・会津坂下104万人△ 13.05あづま総合運動公園100万人△ 39.96いわき・ら・ら・ミュウ97万人△ 33.97セデッテかしま81万人△ 37.38道の駅猪苗代80万人△ 16.29道の駅「安達」下り線78万人△ 12.610道の駅ばんだい73万人△ 21.811伊佐須美神社71万人△ 32.912道の駅「安達」上り線68万人△ 12.913喜多方市街65万人△ 39.114郡山カルチャーパーク61万人△ 55.815スパリゾートハワイアンズ60万人△ 63.316大内宿55万人36.117磐梯吾妻スカイライン54万人158.818はたけんぼ52万人△ 3.319ゴルフ場51万人△ 8.620磐梯熱海温泉51万人△ 36.3※△はマイナス  同年は新型コロナウイルスが感染拡大した年であり、特に1回目の緊急事態宣言が出された春先・大型連休では不要不急の外出を控える人が多かった。そのため、観光客入込数は3619万人(前年比35・8%減)と大幅に減少した。 磐梯吾妻スカイラインのみ伸びているのは、前年吾妻山の噴火警戒レベルが引き上げられ、全面通行止めが続いたため。 気になるのはそうした観光地のトイレ事情だ。 観光地に出かけるときは日常と異なる生活リズムとなるうえ、ご当地グルメやスイーツなどを飲食する機会も増えるため、腹を下して思いがけないタイミングでトイレに駆け込むことがある。そうした際、古い・汚い・臭いトイレだったときの落胆は大きい。 和式の個室しか空いていないときもテンションは下がる。「うちは和式でないとだめだ」という高齢者が多かったのは昔の話。「久しぶりに和式で用を足したら足の踏ん張りがきかなくて、後ろに転びそうになった。洋式に統一してほしい」という声が聞かれる。 逆に期待しないで入ったトイレが、温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)が整備された綺麗なトイレで、上機嫌になることもある。7月10日、国見町にオープンした「あつかし千年公園」は阿津賀志山防塁がある田園地帯に整備された公園(イベント広場、駐車場)だが、その一角に整備されたトイレが思いがけず最新のつくりで感動した(写真)。 あつかし千年公園のトイレ① あつかし千年公園のトイレ②  コンビニや飲食店、土産物店などのトイレは比較的きれいだが、ただで借りるわけにもいかないので、食事や買い物のついでに用を足す。むしろトイレを借りるため何かを買っている人も多いだろう。 その点、公衆トイレは〝無料〟で気軽に利用できるが、清潔度で疑問符が付くことも少なくない。 特定非営利法人・日本トイレ研究所(東京都)は2018年から2019年にかけて、外出時に利用したくなる「お気に入りトイレ」についてのインターネットアンケート調査を実施した(有効回答数226、複数回答あり)。その結果、最も重視するポイントとして挙げられたのは健常者、要配慮者(障害者や妊産婦など)ともに、「きれい・清潔」だった。 健常者と要配慮者で分かれたのが、手すりや温水洗浄便座、おむつ交換台、オストメイト(人工膀胱保有者)対応トイレといった「設備がある」という項目。健常者では24・2%だったのに対し、要配慮者は43・8%に上った。最近では女性トイレで生理用品を無料提供するサービスなども始まっており、トイレの設備の重要性に注目が集まっている。 同研究所代表理事の加藤篤さんはこのように語る。 「トイレに一番重要なのは『安心』だと考えています。きれい・清潔なのはもちろん、多様な人の利用を想定した設備が整っていて、誰もが安心して利用できるトイレが望ましい。例えば、トイレの入り口に段差があるだけでも、車いすの人や足が不自由な人は利用できないわけです。観光地においても、安心して使えるトイレがなければ、その場所を訪れる人は限られるし、『飲食や宿泊は控えてトイレを使わないようにしよう』と考えるので、滞在時間も自ずと短くなるでしょう。そういう意味では、観光の満足度を左右する存在がトイレだと言えます。『安心』という意味では、自然災害により停電や断水などが発生したとき、公衆衛生を保つ役割も観光地のトイレには求められています」 裏磐梯のトイレを点検 桧原湖畔の古びたトイレ  県内観光地のトイレは安心して利用できるのか。6月から7月にかけて、前出の観光客入込数が多い地点を中心に、県内の観光地や公園、公共施設などを回って、トイレの状況をチェックした。 チェックしたのは、男性トイレ個室の①便器の種類(和式、洋式、ウォシュレット)、②施設・設備の新しさ(3段階)、③清潔さ(3段階)。記者(42歳、男性)が、家族や友人などとプライベートで訪れた際に利用したいトイレかどうか、という視点でジャッジした。 県内トイレの本誌採点一覧 ‐場所名 自治体名便器の種類新しさ清潔さ➀福島交通飯坂線 飯坂温泉駅福島市洗浄23➁エスパル福島1階福島市洋式33③福島駅前公衆トイレ福島市洗浄22④浄土平公衆トイレ福島市洋32⑤県営あづま球場福島市洋33⑥あづま総合運動公園大駐車場福島市洋21⑦道の駅りょうぜん伊達市洗浄33⑧やながわ希望の杜公園伊達市和12⑨あつかし千年公園国見町洗浄33⑩観月台公園国見町和11⑪半田山自然公園入口桑折町洋22⑫JR郡山駅1階郡山市洋+和33⑬郡山カルチャーパークドリームランド郡山市洗浄13⑭開成山公園市役所側駐車場トイレ郡山市和11⑮開成山公園自由広場前トイレ郡山市洋+和21⑯道の駅「安達」上り二本松市洗浄+和22⑰小峰城白河市洋+和23⑱白河駅前駐輪場白河市洗浄33⑲JR新白河駅前白河市洋32⑳南湖公園菅生舘駐車場白河市洋22㉑はたけんぼ須賀川市洗浄23㉒裏磐梯物産館(北塩原村)北塩原村洗浄+和33㉓裏磐梯ビジターセンター北塩原村洋+和22㉔桧原湖南岸駐車場公衆便所北塩原村洋12㉕第一ゴールドハウス目黒 桧原湖店北塩原村洗浄23㉖第二ゴールドハウス目黒 磐梯店北塩原村洗浄12㉗桧原湖第2駐車場公衆トイレ北塩原村洋+和22㉘道の駅あつかしの郷国見町洗浄33㉙JR会津若松駅会津若松市洗浄23㉚鶴ヶ城西出丸トイレ会津若松市洋22㉛鶴ヶ城喫茶脇トイレ会津若松市洋22㉜JR喜多方駅喜多方市洋+和23㉝道の駅猪苗代猪苗代町洗浄33㉞世界のガラス館猪苗代店猪苗代町洗浄+和22㉟長浜公衆トイレ猪苗代町洗浄+和22㊱道の駅ばんだい磐梯町洗浄+和33㊲塔のへつり公衆トイレ下郷町洗浄22㊳道の駅下郷下郷町洗浄+和23㊴JR会津柳津駅柳津町洗浄33㊵JR会津宮下駅三島町洗浄33㊶三島町観光交流館からんころん三島町洋33㊷JR会津川口駅金山町洋23㊸会津川口駅前「みんなのトイレ」金山町洗浄33㊹道の駅番屋南会津町洋+和22㊺JR田島駅南会津町洗浄33㊻JR只見駅只見町洗浄33㊼道の駅尾瀬檜枝岐檜枝岐村洗浄33㊽ミニ尾瀬公園檜枝岐村洗浄22㊾道の駅ならは楢葉町洗浄33㊿道の駅そうま相馬市洗浄3151原釜尾浜海水浴場相馬市洋式2252セデッテかしま南相馬市洗浄3353JRいわき駅いわき市洋+和3354いわき・ら・ら・ミュウいわき市洗浄33※便器の種類は洋=洋式、和=和式、洗浄=温水洗浄便座。※「新しさ」の基準は以下の通り3=新しい施設・充実した設備で万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=古い施設・設備、暗い雰囲気で使いたくない※「清潔さ」の基準は以下の通り3=きれいな環境が維持されており、万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=汚れや臭い、ゴミ、故障便器が目立ち、使いたくない トイレ調査トピックス ○温水洗浄便座は多目的トイレに1台だけ設置し、男子トイレの方には洋式・和式しかないケースも多かった。設置費用節約のためか。○道の駅のトイレは清潔だが、調理場から出る油などの影響で、水回りから悪臭が漂うところも。○道の駅そうまは指定管理者が変更となり、改装中のためか、敷地内からごみ箱が撤去されており、トイレの中に空き缶が捨てられていた。  まず向かったのは、観光客入込数1位の磐梯高原(裏磐梯=北塩原村)。 最初に訪れた裏磐梯物産館は五色沼自然探勝路(約4㌔、徒歩約1時間20分)の出入り口に立地している。ハイキング客が多いトイレを覗くと、温水洗浄便座と和式が設けられていた。比較的新しく清潔感があるので使いやすそう。 探勝路のもう一つの出入り口、裏磐梯ビジターセンターの脇にもトイレが設けられている。こちらは屋外のトイレで、便座はいずれも和式。少し暗い雰囲気だが「ビジターセンター脇のトイレは24時間利用可能で、冬は暖房が付いているので、使い勝手がいい」(裏磐梯をよく訪れる男性)と評価する声もある。 2018年には同センター西側に、裏磐梯観光協会事務所などが入る五色沼入口観光プラザがオープンした。こちらのトイレはすべて温水洗浄便座で、多目的トイレも設けられているが、9時から17時までしか利用できないのが難点。 桧原湖畔には県が設置したトイレがあった。洋式で車いすも入れる広さがあったが、設備自体が古い。不気味な雰囲気が漂う。 同じ桧原湖畔に立地するドライブイン「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のトイレも古さを感じる造りだが、個室はすべて温水洗浄便座。これには正直驚かされた。 「ドライブインは団体客を受け入れることが多く、トイレを利用する方が多いので、快適に利用してもらえるように気を使っています」(同施設の関係者) このような施設がある一方で、本誌2018年8月号では、五色沼周辺の観光施設「レストハウス五色沼」が修学旅行生にトイレを貸さず、観光エージェントから県観光物産交流協会に対し〝問い合わせ〟が寄せられた件を取り上げた。当時の本誌取材に対し、同施設の関係者は「修学旅行生は全く買い物をしないのに、声もかけずぞろぞろと入ってきてトイレを使おうとする」と本音をこぼしていた。これも観光施設の本音だろう。観光施設にとって維持管理の負担は小さくない。そうした中で「どこまでトイレを貸し出すか」という問題に頭を悩ませている。 ただ、安心して利用できるトイレがある観光地は、拠点としても使いやすいので人が集まりやすくなり、再訪する人も増えるだろう。例えば、前出「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のように、温水洗浄便座を整備するのも一つの手段。〝おもてなし〟の視点で整備を進めていってはどうだろうか。 県内観光地をめぐると、温水洗浄便座が設置されているトイレは割とあったが、和式トイレと併設されているところ、もしくは多目的トイレにのみ温水洗浄便座が設置されており、男性トイレは洋式・和式というケースが多かった。そうしたトイレの場合、問題なのは、混雑していて和式しか空いていないときがあること。実際、ある道の駅のトイレを訪れた際、和式しか空いていないのを確認して踵を返した人がいた。和式なら利用したくない、と。 一般家庭用で和式から温水洗浄便座に改修する際の費用は約30万円。それほど高い金額ではないのだから、すべて温水洗浄便座に変えても問題ないように思えるが、なぜ普及が進まないのか。 ある観光施設の責任者は「高齢者の中には和式がいいという人もいるので、一部残している」と明かす。 過去の新聞・雑誌を探ったところ「第三者が座った後の洋式便座に座りたくない。和式は残してほしい」、「不特定多数の尻を洗った温水洗浄便座を使用するのに抵抗がある」という意見もあると報じられている。ごく少数派になりつつあるが、さまざまな理由から和式を希望する人がいるので、残しているわけ。 前出・日本トイレ研究所代表理事の加藤さんは「温水洗浄便座を広く整備すべき」という意見に釘を刺す。 「確かに温水洗浄便座の導入により快適にトイレを利用できる人が増えるのはいいことです。ただ、山の上など水がない場所のトイレに整備するのは現実的に難しいし、『設備さえ整えればいい』という考え方は危うい面があります。たとえ温水洗浄便座が整備されていても、掃除が行き届いていない不衛生なトイレは使いたくありませんよね? あくまで求められるのはきれい・清潔なトイレであり、空間や設備がバリアフリーであることが安心感を生み出すのです」 インバウンド需要が注目されたとき、象徴的な受け入れ施策として国が力を入れたのがトイレの洋式化だった。補助金メニューが設けられ、予算が付きやすくなり、全国各地で洋式化が進んだ。だが、むしろ重視すべきはその後の維持管理・運用であり、設備の有無を注目すべきでないと加藤さんは主張しているわけ。 ネックは維持管理費用 福島駅近くの公衆トイレ  複数の自治体に確認したところ、公衆トイレの維持管理は業者に委託すると、毎月数万円~10万円かかる。温水洗浄便座を導入すると、維持管理費用が跳ね上がるようで、郡山市公園緑地課の担当者は「開成山公園内のトイレ6カ所への温水洗浄便座導入を検討したことがあったが、改修費用もさることながら、維持管理費用に年間200万円かかることが分かり、断念しました」と語った。 別の自治体担当者は「不特定多数が利用する公衆便所なのでいたずらされて破損することもたまにある。そのときの改修費用も考えると、温水洗浄便座の全面的導入に二の足を踏む面もある」と述べた。 それならば、せめて県内を代表する観光地や道の駅だけでも温水洗浄便座を充実させるべきだ。 さまざまなトイレを回っていて意外だったのは、首都圏からの電車利用客にとっての玄関口となるJR福島駅、郡山駅、いわき駅は意外とトイレが少なく、温水洗浄便座も配置されていなかったこと。 福島市の市民からはこのような不満が聞かれた。 「駅前の飲食店で飲んだ後、バスで帰る前にトイレに寄りたいと思ったが、駅ビルは20時で閉まっており、どこにトイレがあるのかさっぱり分からず難儀しました。結局、駅の端っこの交番の脇にある市の公衆トイレを発見して、難を逃れましたが、夜間は近づいたときだけ照明が付くようになっており、遠目にはさっぱり分からなかった。観光客には全く優しくないと思いますよ」 コロナ禍前は、酔っぱらった男性がトイレまで我慢できず、福島駅の東西をつなぐ地下道「東西自由通路」で立ち小便をしていた――という恐ろしい話も聞いた。 福島市ではこうした状況を改善するため、7月31日、街なか広場北側のパセオ通り沿いに駐輪場や倉庫と併設する形で、24時間利用可能なトイレを整備した。総事業費は約1億4000万円。さらに、福島駅東口再開発の動向を見ながら、既存のトイレの改修も検討していく考えだ。 中心市街地のトイレ不足はどこも共通している。7月13、14日に喜多方市中心市街地の商店街で行われた「喜多方レトロ横丁」。3年ぶりの開催となり、多くの人でにぎわったが、公衆トイレなどが近くにないため、メーン会場に近いリオン・ドール喜多方仲町店のトイレには長蛇の列ができていた。 同イベントを主催した会津喜多方商工会議所の担当者は、「会場には3カ所の仮設トイレを設置したが、和式タイプということもあり、女性や若い世代には敬遠されがちです。一部の飲食店や土産店で頼んで借りることもできるだろうが、気軽に使いづらい。そのため、どうしてもリオン・ドールのトイレに集中したようです」と悩みを語った。結局、安心して利用できるトイレに集中するということだ。 不気味な開成山公園トイレ 開成山公園のトイレ  そういう意味で、県内のトイレを回ってみて「ここは安心して利用できない」と感じたのは郡山市の「開成山公園」だ。和式便所が多いうえ、壊れて使用できない便器もあった。 同公園内には人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター・ラッキーをモチーフにした「ラッキー公園inこおりやまし」が開園しているが、ここで用を足したいと考える人は少ないのではないか。 園内で自転車を止めて話し込んでいた2人の女性にトイレについて話を聞いたところ、年配女性は「清潔さはそれほど気にならないが、和式トイレだと足が痛くなるので、洋式にしてほしい」、中年女性は「園内のトイレで自ら命を絶った人がいるというウワサを聞いて、不気味なのでしばらく利用していない」と話した。 市によると、現在トイレのリニューアルも含めた「開成山公園等Park―PFI事業」の事業者公募中で、2023年度からの事業開始に向けて手続きが進められているという。 2021年、五輪競技の会場になったあづま総合運動公園のトイレは、温水洗浄便座を導入しているところがあったが、全般的に施設が古くて狭く、暗い雰囲気が漂う。 ちなみに、県内には汲み取り式トイレもあるのではないかと予想していたが、今回訪れた中では一つもなく、水洗化が進んていることを実感した。ただ、登山道にあるトイレなどはそういったところも多い。微生物を利用して排泄物を分解する「バイオトイレ」であれば悪臭は抑えられるので、状況が変わっている可能性もある。そうしたトイレ事情に関しては、稿を改めて取り上げたい。 時間の都合で回れなかった観光施設も多いが、総じて県内観光地のトイレは洋式化が進んでおり、温水洗浄便座も普及していると感じた。ただ、一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページによると、温水洗浄便座の一般世帯への普及率は80・3%。それを考えると、観光地においても、もっと積極的に普及に取り組んでもいいのではないか。 今後の課題は日本トイレ研究所の加藤氏が話していた通り、いかにすべての人が安心して使えるトイレを整備していくか、という点であり、そのための維持管理費用をどう確保していくかということになる。そこに関しては、いかに県や市町村がトイレの維持管理の重要性を理解し、観光客への〝おもてなし〟の意識を持って、「安心して利用できるトイレ」を作っていけるか、ということになろう。

  • 放火から更生できなかった福島駅切り付け男

    放火から更生できなかった福島駅切り付け男

    (政経東北2022年8月号)  2021年11月にJR福島駅西口で切り付け事件を起こし、殺人未遂などの罪に問われていた70歳の男に7月20日、懲役11年(求刑12年)が言い渡された。福島刑務所を出所してわずか4日での犯行だった。男は「保護観察所の職員に冷たい対応をされ、事件を起こすことで間接的に復讐を考えていた」と動機を話した。過去に放火事件を起こしており、重大事件の犯罪者ほど支援が受けられない現状がある。再犯傾向を強め、暴力が無防備な公共空間に向けられる悪循環が起こっている。 保護観察所に恨み なぜ無差別殺人へ 福島刑務所  男は住所不定、本籍山形県米沢市の高橋清被告。裁判では車椅子に乗り入廷した。耳には補聴器を付けていた。公判中、証言台に立つことを除いてはほとんどの間、目をつむりうつむいていた。7月11日の初公判で殺人未遂と銃刀法違反の罪状を記した起訴状が読み上げられると、裁判長の「間違いはありますか」との質問に「殺意を持ってというのが間違いです」と答えた。 被告は福島刑務所を出所してから4日目の2021年11月15日に、福島駅西口で両手に包丁を持ち、当時24歳の男性と83歳の女性を切り付けて殺そうとした。男性はよけたため右腕に全治13日の傷、女性は腹部に加療14日の刺し傷を負ったが一命をとりとめた。被告は無差別切り付けの動機を「大きな事件を起こして報道されることで、福島保護観察所の対応を世間に知らせたかったから」と話す。なぜ無関係の人を襲うに至ったのか。 被告には切り付け事件とは別に前科が4犯あった。そのうち3犯で計15年以上服役している。切り付け事件の動機につながるのは3犯目の放火の罪だ。 2009年6月4日午後7時半ごろ、高橋被告は居住していた福島市南沢又の2階建て木造アパートの一室でライターを使って新聞紙に火をつけ、段ボール箱に燃え移らせてアパートを全焼させた。ここには2犯目の刑期の仮釈放中に更生保護施設の世話を受けて入居していた。市内の協力雇用主の下で働いていたが、仮釈放期間満了後、会社を解雇されると思い込み「死ぬか刑務所に入るしかない」と考えて犯行に及んだ。自首するが、現住建造物等放火の罪に問われ、同年10月、求刑通り懲役8年を言い渡された。 2017年9月に刑期を終え、同月9日に福島刑務所を出所した。前科があり、住居がない65歳の新規就労は難しい。放火事件を担当した弁護士は、高橋被告に、出所後は生活保護を申請すること、受給までには時間がかかるので、その間は保護観察所の更生緊急保護を受けるようにアドバイスしていた。 更生緊急保護とは、刑務所満期釈放者や起訴猶予者などが、親族や公共機関から自立更生に必要な保護や援助が受けられず生活にひっ迫している場合に、本人の申し出に基づいて保護観察所が行う緊急の措置だ。生活が不安定になって再犯に及ぶのを防ぐ目的がある。 「保護観察所に行けば、生活保護受給までの間、面倒を見てもらえるだろうと先生に言われたので行きました」(裁判での高橋被告の発言)。 出所から2日後の2017年9月11日に福島保護観察所を訪ねた。刑務所から発行される前科や経歴を記載した保護カードを提出して「何とかお願いします」と頼んだ。保護施設への入所を望んだが、職員から「うちではだめなので役所に行ってください」と断られたという。理由は告げられなかったと話す。 福島保護観察所(法務省HPより)  職員から福島市役所までの地図を渡された。高橋被告は市役所で生活保護を申請すると「あなたは必ず受給できます」と言われたという。ただ、受給開始までは1カ月程度かかると聞かされた。 市役所の担当者から「住むアパートは自分で探しなさい」と言われたので不動産業者を訪ねたが、住所不定で保証人もいないので断 福島市役所 られた。野宿をし、市役所と不動産業者を行き来した。担当者から「共同生活の見込みが立ったので、それまでの1カ月間なんとか生活してください」と言われた。 出所直後1万2000円ほどあった所持金は半分になっていた。法テラスに相談に行くと、10万円まで借りられる緊急融資制度を教えてもらったが「どこで受けられるか分からなかったので行かなかった」。出所から6日目の同月14日深夜、市内のコンビニで店員にナイフを突き付け、金を要求。強盗未遂で捕まった。 被告「自分は死ねということか」 切り付け現場のJR福島駅西口  施設への入所を申請し拒否された時の心情を今回の裁判で弁護人に聞かれ、高橋被告は「自分に死ねということなのかと思った」と答えた。判決ではこの時の絶望感に「理解できないでもない」と言及している。だが前科が放火の場合、更生保護施設への入居は難しい。出所後、1日4合ほど飲酒し、保護観察所に行くまでの3日間で所持金1万2490円のうち半分の6474円を使っていたことも悪印象を与えた。検察側は今回の裁判で、被告の前科が放火だったこと、2017年の出所後に相当量の飲酒があったこと、数日間で所持金を無計画に使い更生の意欲が認められないことから、保護観察所が施設での生活になじまないと判断し、委託を行わなかったのは妥当と説明している。 強盗未遂の罪に問われた被告は同年11月に懲役4年(求刑5年)の判決を受けた。再び福島刑務所に収容され、出所後に「注目される事件を起こし保護観察所の対応を知らしめてやろう」と考えるようになった。服役中は信夫山の神社の放火を考えていたが、「複数人を傷つけなければ大事にはならない」と出所後に無差別殺人を計画した。 4犯目の刑務所生活4年間は出役拒否、作業拒否や建物等の損壊などで懲罰を計10回受けたため満期を過ごした。2021年11月12日に出所。保護観察所や役所には向かわず、全財産12万2343円を持ってその日のうちに市内のホームセンターで切り付けに使用した包丁を買った。福島駅西口のホテルに連泊し、犯行現場の下見や映画館に立ち寄るなどして過ごした。出所からわずか4日で犯行に及んだ。 なぜ無差別殺人なのか。被告は裁判で「保護観察所の職員を襲うことも考えたが警備員がいるからやめた。不審だと思われると入ることもできない」と話した。無防備な人をあえて狙ったということだ。当初は駅西口にあった入浴施設での切り付けを考えていたが既に閉店していたため断念。駅西口の花壇の縁に座って待ち合わせをしている人たちが「死んでも構わない標的」になった。 腹部を刺された80代の女性は「なんで私なんだろうと悔しい気持ちでいっぱいです」と取り調べに話している。20代の被害者男性は「事件後も公衆の場で目の前の人が予期しない動きをすると、事件を思い出し不安になります」と裁判で証言。精神的な傷は癒えずカウンセリングを受けているという。 被告が一方的に恨みを持っている福島保護観察所は事件をどう捉えているのか。見解を尋ねると畠山清寿企画調整課長は「訪問者の個人情報を保護する観点から、個別の事案には答えられない」と回答した。更生緊急保護については、一般論として「必ずしも本人の希望通りの保護が受けられるとは限らない」という。 更生緊急保護制度について研究している信州大学社会基盤研究所の石田咲子助教(刑事政策)は「重大事件を犯した人に対する更生支援の在り方が改めて浮き彫りになった事件です」と捉える。重大事件を起こした人物が、刑期を終えて出所してもその罪の内容から身元を保証する人が現れず居住先が見つからない。支援が受けられず、環境が悪化し更生意欲も湧かない。罪を犯してまた刑務所に戻るという流れだ。 「仮釈放者には、出所後も保護観察が義務付けられ法的な支援が受けられますが、満期出所者は出所時点で刑が終わったことになり、その後法的な支援を受けられる定めがありません。更生緊急保護は主にこのような満期出所者を対象としています。本人から保護観察所への希望があって初めて対象となります」(同) 保護観察所が直接行う更生緊急保護(自庁保護)の内容は、宿泊場所の供与や食事、衣料、宿泊場所までの旅費の給与・貸与、医療援助のほか「一時保護事業を営む者へのあっせん」などがある。それとは別に更生保護施設等への宿泊を伴う保護の委託(委託保護)もあり、こちらの方が支援の主流だ。2020年の更生緊急保護の実施人員数は、自庁保護総数で計5577人(うち「一時保護事業を営む者へのあっせん」が1847人で最大の約33%)、委託保護は4595人だった。 刑期を終えたら81歳  高橋被告は更生保護施設で生活する委託保護を希望したが断られた。全国には民間が運営する更生保護施設が約100カ所あるが、大半が住宅街に立地。地域での理解が必要なことから、周辺住民の不安に配慮して、放火や性犯罪の前科がある人や暴力団関係者の入所を認めていないところも多い。 「保護観察所が断った理由を高橋被告に教えなかった事情は分かりませんが、更生緊急保護の枠内で支援するよりは、市役所を通して福祉の方につなげることが適切と判断したのではないでしょうか。ただし被告が裁判で述べた通り、1カ月待てば受給できると決まっていたのであれば、あくまでつなぎという意味で金銭を提供する方法もあったのではないかと思います」(石田助教) ところが、高橋被告は生活保護受給までの生活を保護観察所に相談することなく自ら連絡を絶った。法テラスなど他の支援窓口も再訪はしていない。 「窓口に1人で赴き、支援内容を理解して自発的に動くことが困難な出所者もいます。保護観察所の予算の範囲ではできないし、法的な義務付けもないので職員に強制はできませんが、保護観察所が出所者に同行して役所とつないでいくというような、ある種『おせっかい』も大事なのではないでしょうか」(同) 前出の畠山課長も「支援窓口と出所者をつなぐために職員が同行する場合もあります」と話す。生活保護が受給されるまで、更生緊急保護に基づいて生活費を提供することもあるという。ただ、各地の保護観察所を渡り歩き、生活費をもらうだけで更生につながらない出所者も中にはいるようだ。 2009年の放火事件の裁判で検察官は「2度あることは3度ある。3度目に火をつけるのは、皆さんの家の隣近所かもしれません」(福島民友2009年10月9日付)と高橋被告への厳罰を訴えた。求刑通り懲役8年が科されたわけだが、出所後に支援にたどり着けなかったことから保護観察所を一方的に恨み、5度目の罪を犯した。今回の刑期を終える時、被告は81歳。年齢から6度目はないと思いたい。被告は「刑務所は自由がなく地獄」と語っている。それでも、自分の晩年は「地獄」で終わってもいいと思い、凶行に及んだのだろうか。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

  • 大量カメラで社員を〝監視〟する山口倉庫

    【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫

     郡山市の山口倉庫㈱で社員の退職が相次いでいるという。原因は大量の監視カメラ。社内の至る所に設置され、四六時中〝監視〟されている状況に、社員は気味の悪さを感じているようだ。決して働き易いとは言えない職場環境。経営者の見識が問われる。 「気味が悪い」と退職者続出!? 郡山市三穂田町にある山口倉庫の本社倉庫  山口倉庫は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫のほか、市内にある複数の自社倉庫で米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や土地建物の賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任。祖父の松雄氏が創業し、父の清一氏が2代目。広志氏は清一氏の二男に当たる。 2001年に建てられた本社倉庫の不動産登記簿を見ると、東邦銀行が極度額3億6000万円と同4億9200万円、大東銀行が同6億円の根抵当権を設定していたが、昨年までにすべて抹消されている。詳しい決算は不明だが、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後で、4000万円前後の利益を上げているというから堅実だ。 「数年前に一度、大きな赤字を出した。原因は、倉庫で預かっていた製品に不備が生じ、損害賠償を払ったため。そこに会社合併による株式消滅損が重なった」(事情通) 会社合併とはグループ会社内の動きを指す。山口氏は、山口倉庫のほかに㈱山口商店、山口不動産㈱、旭日商事㈲、東北林産工業㈱の社長を務めていたが、4社は2019年から今年初めにかけて山口倉庫に吸収合併された。一方で、20年に不動産業の山口アセットマネジメント㈱を設立し、社長に就いている。  そんな山口グループを率いる3代目をめぐり、本誌編集部に次のような情報が寄せられた。 〇山口倉庫の社内に大量の監視カメラが設置されている。 〇ただでさえ台数が多い中、最近も新しい監視カメラを複数導入した。 〇社員だけでなく、訪問客の様子も監視しているらしい。 〇山口氏は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様。 〇こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る。 個別労働紛争解決制度とは 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html  話は前後するが、筆者は山口氏に取材を申し込むため、4月中旬に山口倉庫を訪問したが、ほんの数分の滞在中、目の届く範囲内だけで玄関ホールの天井に1台、事務スペースの天井に4台のドーム型カメラが設置されているのを目撃した。事務スペースは更に奥まで続いており、そちらは目視できなかったため、監視カメラは更に設置されている可能性が高い。こうなると、他の部屋(応接室や会議室など)や倉庫内の設置の有無も当然気になる。 読者の皆さんには、出勤してから退勤するまで四六時中〝監視〟されている状況を思い浮かべてほしい。それが働き易い職場環境と言えるだろうか。あくまで個人の感想だが、少なくとも筆者は働きたくない。 もちろん、職種によっては常に監視が必要な仕事もあるだろう。しかし、倉庫業がそれに該当するかというと、顧客から預かっている製品の安全管理上、一定数の監視カメラは必要だが、事務スペースなどに複数設置する必要性は感じない。 山口広志氏とはどのような人物なのか。本誌は郡山市内の経済人や同業者などを当たったが「彼のことならよく知っている」という人には行き着かなかった。その過程で、ようやく山口倉庫の元社員を見つけることはできたものの「もう関わりたくない」と断られてしまった。在職中の苦い経験を呼び起こしたくない、ということか。 問題は、社員が気味の悪さを感じる職場環境を放置していいのか、ということだ。山口氏からすると「余計なお世話」かもしれないが、本誌は労使上、見過ごすべきではないと考え、二つの検証を試みる。 一つはハラスメントに当たるかどうか。 ハラスメントが「人に対する嫌がらせやいじめなどの迷惑行為」であることを考えると、該当するようにも思える。しかし、職場におけるパワハラ・セクハラ・マタハラは、厚生労働省が該当する条件を明示しており、大量の監視カメラが設置されている事実だけではハラスメントには該当しないようだ。 福島労働局雇用環境・均等室の担当者もこう話す。 「監視カメラの設置は法律では禁じられていない。社員の働きぶりを監視するのが目的と言われれば、あとは経営者の判断になる」 それでも、社員が「そういう職場環境は嫌なので改善してほしい」と求め、経営者が応じなかった場合、都道府県労働局では個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき①総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談、②都道府県労働局長による助言・指導、③紛争調整委員会によるあっせんという三つの紛争解決援助サービスを行っている。 要するに労使間の「民事上のトラブル」を、労働局が仲介役となって話し合いによる解決を目指す取り組み。それでも解決しなければ、あとは裁判で決着を図るしかない。 ちなみに、福島労働局が公表する令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争相談件数は5754件(前年度比マイナス2・0%)。相談内容の内訳は「いじめ・嫌がらせ」20・6%、「自己都合退職」15・7%、「解雇」9・5%、「労働条件引き下げ」6・5%、「退職勧奨」7・6%、「その他」40・1%となっている。 「その他」の項目には「雇用管理等」「その他労働条件」とあるから、仮に監視カメラの大量設置を相談した場合はここにカウントされることになるのだろう。 二つは、監視カメラで撮影した映像が個人情報に当たるかどうか。 経営者が職場に監視カメラを設置したとしても、それだけで「プライバシーの侵害」には当たらない。経営者には社員がきちんと働いているか指揮監督する必要性が認められており、そもそも職場は「働く場所」なので「プライバシーの保護」という概念が該当しにくいからだ(更衣室やトイレに監視カメラを設置すれば、プライバシーの侵害に当たることは言うまでもない)。 ただ、撮影された映像が個人を特定できる場合、その映像は個人情報に該当するため、個人情報保護法が適用される可能性がある。 気になるカメラの性能 社員の様子を常に監視!?(写真はイメージ)  個人情報保護法18条1項(利用目的による制限)は次のように定めている。 《個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない》 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者を指す。もし山口倉庫が、監視カメラで撮影した映像を事業に役立てる使い方をしていたら同事業者になる。一方、社員を指揮監視する目的で監視カメラを設置していれば同事業者には当たらない。同社のホームページを見ると同事業者であることを謳っていないので、監視カメラは純粋に社員の指揮監視が目的なのだろう。 しかし「本当に事業に役立てる使い方をしていないのか」「実は使っているのではないか」という疑いは、撮影されている社員の側からするとどこまでも残る。そうなると、社員個人が特定できる映像は同法によって保護されるべき、という考え方も成立するはず。 だからこそ経営者は、監視カメラの設置自体には違法性がないとはいえ、設置の目的や設置する場所、撮影した映像の利用範囲などを社員にきちんと説明することが大切になる。何の説明もなければ、後々トラブルに発展する恐れもある。 弁護士の見解  県北地方の弁護士に見解を尋ねたところ、このように回答した。 「監視カメラが大量に設置されているからといって、直ちに『ハラスメントに当たる』『個人情報保護法違反だ』とはならないと思う。ただ、監視カメラがどのくらいの性能を有しているかは気掛かりだ。単に社員を指揮監視するだけなら低い性能で十分なはずだが、ズームで社員の手元まで見えたり、音声まで拾える高い性能であれば、社員のスマホ画面をのぞき見したり、個人的な会話を盗み聞きすることもできてしまう。そうなると、プライバシーの侵害に当たる可能性がある」 前述した通り、筆者は山口倉庫を訪問し、居合わせた社員に▽監視カメラを大量設置する目的、▽社員に対する説明の有無、▽社員が相次いで退職しているのは事実か、▽今の御社が「社員にとって働き易い職場環境」と考えているか――等々を記した山口社長宛ての質問書を渡し、期限までの面会か文書回答を求めたが、4月24日現在、山口社長からは何の返答もない。 余談になるが「郡山の山口一族」と言えば、かつては別掲の勢力を誇り、今は子どもたちが各社を脈々と引き継いでいる。そうした中、山口広志氏は一族トップである故・清一氏の後を継いだ。その広志氏が、法的には問題ないかもしれないが、社会常識に照らして強い違和感を抱く経営をしているのは、一族にとって恥ずべきことと言えないか。 あわせて読みたい 元社員が明かす【山口倉庫】の「異様な職場」 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

  • 石川中元講師「男子生徒に性加害」の実態

    石川中元講師「男子生徒に性加害」の実態

     ジャニーズ事務所創業者による性加害に日本社会が注目している。かねてから被害告白はあったが、所属タレントを起用している大手マスコミは黙殺。海外メディアが報じ、元所属タレントが会見したことで無視できなくなった。少年たちへの性加害は芸能界だけではなく、福島県でも起こっていた。中学の男性音楽講師が男子児童・生徒40人余りに性的行為を強いて、一部が罪に問われている。 ジャニーズだけではない少年への性加害   4人の男子児童・生徒に対する強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)に問われているのは石川中学校で音楽講師をしていた西舘成矩被告(40)。事件は昨年10月に被害生徒が別の教員に相談して発覚した。 県教委が調査すると、男子児童・生徒少なくとも42人にわいせつな行為をしていた。同11月に懲戒免職となり、同12月に逮捕・起訴された。現在は保釈中で、福島地裁郡山支部で審理が続いている。今年6月に判決が下される予定だ。 西舘被告は、県教委に「ふざける中で生徒との距離間がつかめなくなった。わいせつやセクハラは女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話したという(昨年11月26日付福島民友より)。 西舘被告は、大学で社会科の教員免許を取得し、2007年4月から高校に社会科の講師として赴任していた。その後、大学に通い直し音楽の教員免許を取得。小中学校で音楽講師として働き始めた。罪に問われている性加害のうちで古いものは、20年10月、当時11歳の小学6年生男子Aに対するものだ。 西舘被告は音楽の授業中や休み時間に、Aの性器を服の上から撫でていた。欲求はエスカレートし、放課後、ピアノの練習中に音楽室で2人きりになった際にズボンとパンツを引き下ろし、性器を触った。インターネットで見つけた、自慰行為を教えるウェブサイトをAに見せて、やり方を教えるのを口実にしていたという。わいせつ行為はスマートフォンで撮影していた。Aは戸惑い、言葉を失った。親にも打ち明けられなかった。 西舘被告は「Aと同じように親や他の教員には言わないだろう」と考え、さらに別の子どもたちに手を掛けた。21年4月に石川中に赴任。音楽の授業や休み時間には「冗談半分」で男子生徒たちの性器を衣服の上から触った。罪に問われているだけでも、22年7~10月に少なくとも3人の男子生徒の性器を触るわいせつ行為をしている。犯行場所はいずれも音楽準備室で、やはりスマートフォンで動画に収めていた。  男子生徒Bには、片付けを手伝うように言って2人きりにした。「自慰行為はしたことはあるか」「陰毛は生えたか」。Bに迫り、ズボンとパンツを下ろさせて触る行為に及んだ。撮影した動画は自宅で再視聴し、西舘被告自身の自慰行為に使った。 動画拡散を恐れる被害者・保護者 男子生徒たちへの性加害が行われていた石川中学校。西舘被告は、音楽準備室で2人きりの状況をつくって犯行に及び、被害者には口止めをしていた。  性加害と動画撮影は不可分だ。元交際相手に復讐するために拡散する「リベンジポルノ」や売買目的でサイト、アプリを通じてネットにアップするなど目的はさまざま。一度ネットに流出してしまえば全世界に広がり、完全に消すことはできない。被害者、いや加害者の意図すら離れて流出・転売され、被害者は生きた心地がしない。犯罪組織の収益源となっているケースもある。そこでは子どもの性的虐待映像も取り引きされている。 「ネットに拡散してしまった動画は回収不可能と知りました。まさか自分の息子が被害者になり、動画を撮影されていたことに驚愕しています。息子の一生のトラウマになるのではと不安です」(検察官が読み上げたある生徒の保護者の供述調書) 西舘被告は供述で、子どもたちへの犯行を繰り返した理由をこう話している。 「自分を慕っていて、かわいらしく愛嬌があった。じゃれあうつもりで、嫌がる様子は見えなかった」 一方で「誰にも言わないでね」と口止めしていた。 性犯罪を繰り返す人間には認知のゆがみや依存症の傾向があり、更生には治療的プロセスが不可欠だ。西舘被告は保釈後に石川町内の実家に帰り、依存症解消のプログラムに通っている。県教委や検察の取り調べに対し「もう教壇には立たない」と表明。現在は実家の寺の業務を手伝っている。 6月9日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる審理では、検察側の論告求刑、弁護側の最終弁論が行われ、結審する予定。複数の被害者とは示談が成立している。次回の裁判には寺の総代会長が弁護側の証人として出廷し、情状酌量を求める。保護者だけでなく檀家も注目する事件だ。判決は、次回の審理が順調に進めば、同20日午後1時に言い渡される予定。 冒頭で述べたように、西舘被告は県教委に「わいせつやセクハラは女子にはやっていけないという意識はあったが男子にはなかった」と説明していた。誰に対しても許されることではない。歪んだ考えだ。 今回の事件では、男女の身体的性差が明確に分かれる、第二次性徴の過程にある子どもを性の対象と捉え、教師の立場を悪用して犯行に及んだ点を厳しく問わなければならない。この点は、ジャニーズ事務所で絶大な権力を誇った創業者の故・ジャニー喜多川氏と共通している。 密室が用意できた点もジャニーズの事件と同様、性加害行為を覆い隠した。ジャニー喜多川氏はそのための高級ホテルを契約していた。音楽講師だった西舘被告は石川中で、音楽室と準備室という自分が管理する場所を持ち、いずれもそこで犯行に及んでいた。 授業の準備の手伝いという名目なら生徒にも同僚にも怪しまれない。中学では国語や数学などの教員は複数いるが、音楽の教員は1校に付き1人だ。他の担当科目を持つ教員とは別に、自室を持っていることが多い。異変を察知するために、教員たちはクラス担任や担当教科の垣根を越えてコミュニケーションを活発にする必要がある。教員から児童・生徒への虐待行為だけでなく、同僚教員がハラスメント被害を受けているかどうかも発見できるだろう。 西舘被告による性加害は、教えていた小学校で2020年には始まっていた。被害を受けた子どもが自ら周囲の大人に打ち明けるのは困難だ。西舘被告を受け入れた学校では周囲の教員に異変を察する力が求められていたが、被害を防ぐことはできなかった。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

  • 【ベスト学院】「県立安積中専門校」を開校

    中学受験【ベスト学院】「県立安積中専門校」を開校

     ベスト学院(郡山市)は3月21日、「ベスト学院県立安積中専門校」を開校させた。 県立安積中学校(仮称)は、県教委が新たに県立安積高等学校内に設置する中高一貫校。開校は2025年度予定で、設置課程・学科は全日制普通科。生徒募集定員は60人で、通学区域は県下一円となっている。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業における課題研究を軸とした産学官連携や、地域との共創等を特色とする取り組み、文化活動を尊ぶ郡山市の立地を生かした教育を行う。また、教育の柱として、STEAM教育の推進を掲げ、創造性、表現力、課題解決力等を育成する、としている。 県立中学校の入学者選抜は、小学校で身につけた科目横断型の問題が出題される「適正検査1」と、与えられた条件のもとで自分の意見や感じられたことを分かりやすく適切に文章で表現する力が求められる「適正検査2」、その他「面接試験」「調査書」で行われている。 ベスト学院県立安積中専門校は入学者選抜に出題される「適正検査」に必要な力を学年ごとに指導していく。出題される問題傾向は科目の枠にとらわれず「計算処理能力」はもちろん、「資料・図を読み取る力」「読解力」「思考力」や「表現力」「探求心」等が求められる。知識を理解し、吸収する授業と演習を繰り返すことで確かな学力が身につき、県立安積中学校入学者選抜に特化した指導が受けられる専門校となっている。対象は県立安積中の一期生となる小5年生から小3年生まで。小3年生は算数と国語の2教科、小4・5年生は算数と国語の2教科に加え、理科と社会を加えた4教科コースから選択が可能。 授業は週あたり算数・国語は100分、理科・社会は50分で、従来の黒板を使用した専門講師の分析・指導による授業に加え、最新のAIを用い、一人ひとりの弱点発見と補強ができる「atama+」を活用し指導する。「得意」「苦手」「つまずき」などをAIが分析し、一人ひとりの「自分専用カリキュラム」で個別学習時間を設けることにより、つまずいた時間までさかのぼって学習できるため、最短最速で成績が上がるという。また、「県立安積中合格」という同じ目的を持った生徒が集まる環境のため、ライバルを意識できるほか、日々の授業を通して自分の学習や成績を客観的に見直すことも可能となる。 「ベスト学院は創設以来、3つの人づくりビジョンに基づいて運営しています。一つ目が子どもたちの夢達成のために全力を尽くす。二つ目が社会に貢献できる人材育成。三つ目が次世代の真のリーダー育成。これらが今後新たに開校する県立安積中高一貫校の目標と合致していると考えています。郡山市から、県内はもとより全国各地や世界中で活躍する人材を育成していきたいという思いから専門校を開校させていただきました。子どもたちの夢をしっかりと応援できるような、教育をしていきたいと考えています」(ベスト学院の担当者) ベスト学院は県内50教室以上を展開し、これまでも会津学鳳中学校等の入試での指導実績と分析力があり合格実績は抜群。高校受験だけではなく中学受験にも強い学習塾だ。 問い合わせは0120ー535ー010か、ベスト学院本部事務局☎024ー934ー3330まで。 県立安積中受験コース(ホームページ) 【受験料無料】学力確認テストに申し込む あわせて読みたい 【米アップル出身】藤井靖史さんに聞く「DXって何?」 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【アクアマリンふくしま】施設をリニューアルオープン

    【アクアマリンふくしま】施設をリニューアルオープン

     環境水族館「アクアマリンふくしま」(いわき市)の子ども体験館「アクアマリンえっぐ」が3月20日にリニューアルオープンし、多くの観光客が訪れている。  施設をリニューアルオープン  同施設は釣り場がある子ども向けの体験型施設で、楽しみながら自然の大切さや生物の多様性、命の尊さなどを学ぶことができる。今回のリニューアルでは、はく製タッチやものづくりワークショップ、生き物調査、オリジナルのぬり絵など、いろいろな体験ができるエリアへと生まれ変わった。新たに誕生した体験プログラムは次の通り。 「いろいろミュージアム」――いろいろなはく製にさわって生物の多様性を学ぶことができる。参加料100円ではく製クイズにもチャレンジできる。 「いろいろ工房」――水族館の生き物、海や森にある素材を使ったものづくりワークショップを随時開催。つくるものは時期によって変わる。 「いろいろアーティスト」――アクアマリンふくしまの展示をイメージした、個性豊かな生き物たちのぬり絵が楽しめる。 「すくすくキッズ」――絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりすることができる親子のくつろぎスペース。 これらリニューアルオープンと同じ3月20日には、館内の生き物解説を専門とする解説員「こんべえズ」がデビューした。ごんべえズはアクアマリンふくしまをより楽しんでもらうため「ごんべえズトーク」と題したさまざまな解説を行っている。 「ごんべえズ」のメンバー  例えば、潮目の海の大水槽の展示を解説してくれる「黒潮水槽の生き物たち編」は土日、「黒潮水槽のえさのじかん編」は毎日開催している(火曜は給餌がないため、解説内容は前記の生き物たち編になる)。所要時間は15分、参加費無料。また不定期開催の「さわって学ぶはく製編」では、さまざまな生き物のはく製について解説してくれる。開催時はアクアマリンえっぐ内に掲示される。 大水槽展示の解説の様子  ごんべえズの活動は裏側の解説だけにとどまらない。「ごんべえズガイド」と題して施設のバックヤードを紹介しており、特別ツアー「バックヤード水槽大公開コース」では魚を繁殖している水槽やデビュー前の生き物を飼育する水槽が並ぶ水生生物保全センターを中心に案内してくれる。どんな生き物に出会えるかは、その時のお楽しみだ。ちなみにアクアマリンボランティアが水族館の裏側を紹介してくれるバックヤードツアーも3月25日から復活した。各ツアーの開催日時は公式サイト等で確認していただきたい。 ごんべえズの皆川裕斗さんはこのように話している。 「さまざまな体験を通して生き物や海の魅力に気付いていただければうれしいです」 生き物を通じてさまざまな体験が楽しめるアクアマリンふくしまに足を運んでみてはいかがだろうか。問い合わせは☎0246ー73ー2525まで。 前売り券を購入する 電子チケット 【アソビュー】 コンビニチケット 【セブンチケット】 あわせて読みたい 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

  • 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

    郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

     郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

  • 【福島県ユーチューバー】車中泊×グルメで登録者数10万人【戦力外110kgおじさん】

    【櫻井・有吉THE夜会で紹介】車中泊×グルメで登録者数10万人【戦力外110kgおじさん】

     テレビ離れが進む昨今、ユーチューブの全世代の利用率は9割だ。本誌の読者層であるシニア世代も、パソコンやスマートフォンで毎日のようにユーチューブを見ている人は多いはず。数あるチャンネルの中には、県内で活動するユーチューバーも多数存在する。その中に、異色のジャンル「車中泊&グルメ」系で人気を誇る「戦力外110kgおじさん(43歳)」がいる。なぜ視聴者はこのチャンネルにハマるのか、本人へのインタビューをもとに、その謎に迫ってみたい。 【戦力外110kgおじさん】福島県内在住おじさんユーチューバーの素顔 https://www.youtube.com/watch?v=_SxScudMxQ8&t=23s  週末夜のキャンプ場。辺り一面、真っ暗の中、ポツンと明かりが灯る1台のプリウス。その車の後部座席で、一人焼肉をしながらチューハイ「ストロングゼロ」をキメる――。そんな様子をユーチューブに配信している男性がいる。男性の名は「戦力外110kgおじさん」(以下、戦力外さんと表記)。戦力外さんのユーチューブのチャンネル登録者数は10・5万人。1つの動画が配信されれば20万回再生するのは当たり前で、中にはミリオン(100万回再生)に届きそうな動画も複数ある。  「110kg」という名の通りの巨漢が、決して広いとは言えないセダンタイプのプリウスの後部座席で、好きなものをたらふく食べ、大酒を飲む。そんな動画がなぜ多くの人に見られ、そして見続けられるのか。  戦力外さんの動画はチャンネルを開設してすぐに〝バズった〟(人気が出た)わけではない。  戦力外さんがユーチューブに動画を配信し始めたのは2020年2月。当初は釣りの動画を配信していたが、再生回数は数十回程度で、チャンネル登録者数も伸びなかった。  浮上のきっかけとなったのは「顔出し」だった。   戦力外さんは「正直なところ、40代である自分らの世代ってネットで顔出しするなんて気が狂っているというか、抵抗があったんですよね」と話す。今の40代は、匿名性の高い「2ちゃんねる」などを見てきた世代であり、「インターネットでは絶対に顔を出すな」と言われてきた世代でもある。それでも、戦力外さんは再生回数を伸ばしたい一心で顔出しを決意した。  「顔出ししたら登録者が100人を超えたんですよ。ユーチューブには『チャンネル登録者数100人の壁』というのがあります。そこを自力で超えられると、収益化の条件である『チャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間』に近づくと言われています。大体の人はこの100人の壁を超えられず、やめてしまうみたいですね」  チャンネル登録者数100人に達するまで7カ月を要した戦力外さんだったが、そこから1000人になるまでは、わずか3カ月だった。  顔出しと前後して、現在の動画の原点となる「プリウスの快適車中泊キットを110kgおじさんがDIY」という動画を配信したことも追い風となった。  プリウスの後部座席で使う食卓テーブル兼ベッドを作る動画だ。プリウスは後部座席を倒してフラットにしても、普段座るときの足置きのスペースがぽっかり空いてしまう。寝袋を敷いて寝ていると、どうしても足の部分がはみ出てしまい快適に眠れない。それを解決するために作られたのがこの台だった(写真)。このときの動画が初めて再生回数1000回を超え、戦力外さんにとって初バズり動画となった。戦力外さんは「釣りではなく、車中泊に需要があるのか!」と気付き、動画の内容を車中泊系へと変更していく。 車内に設置された食卓テーブル兼ベッド  2度目のバズり動画は「車上生活者の休日シリーズ」。その後、このシリーズが戦力外さんの主力コンテンツとなっていく。 戦力外さんは「このシリーズの第1弾で、いきなり1万回再生いったんです」と言う。  「再生回数が伸びた理由は、当時チャンネル登録者数20万人のユーチューバーさんが動画にコメントをくれたからなんです」  コメントの内容は「あなたみたいな人が、もしかしたらユーチューブで成功するのかもしれませんね。収益化するまで是非続けてください。わたしも応援します」だった。  ユーチューブに限らずSNSではよく起こる現象だ。多くのフォロワーやファンを持つ配信者(発信者)が、無名ユーチューバーの動画を一言「面白い」と紹介しただけで、瞬く間にその動画が拡散されていく。これをきっかけに戦力外さんは、収益化の条件であるチャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間を達成した。 動画を通じて疑似体験  動画の冒頭は、戦力外さんが車中泊をする場所に向かう道中の運転席を映している。無言で運転する戦力外さんが映し出され、テロップでその日にあった出来事などが紹介される。動画の説明欄に「この動画は半分くらいフィクションです」とある通り、テロップの内容は現実世界で起きたことに、戦力外さんが少し〝アレンジ〟を加えたものとなっている。  名前にあるもう一つのテーマ「戦力外」。これは、戦力外さんが日々の生活において「社会に出ると全然自分が役に立たない」、「俺って会社や社会では戦力外だな」と、打ちひしがれた経験が基になっている。   視聴者のコメント欄を見ると「おっちゃん見てると他人事には思えないんだよな。職場のストレスはよく分かる! この動画を見てると頑張んなきゃって不思議と思える。おっちゃん頑張って!」などと書き込まれている。  「動画の前半部分によく出てくる職場での失敗エピソードは、視聴者が自分よりきつい環境にいる人を見て、自分はまだまだマシだなって安心したい思いがあると思います。社会の戦力外おじさんが、もがきながら、ささやかな楽しみを見つけて楽しんでいる姿を見てシンパシーを感じるのでしょうね」 取材に応じる戦力外さん  メーンである動画の後半部分は、戦力外さんが車中で一人、ひたすら飲み食いするシーンだ。これがまた「食べ物がとても美味しそうで、美味しそうに食べる」動画なのだ。  視聴者のコメント欄には「見てると幸せな気持ちになれる動画を、ありがとうございます!」、「毎回、元気いただいてます」などと寄せられている。  「自分の好きなユーチューバーを見ることによって、自分もキャンプした気持ちになる。健康上の理由で食べたいけど食べられない人にとっては、私の動画を見て食べた気になる。そうやって疑似体験したいのかもしれませんね」 動画の編集時間は5時間  戦力外さんは1979(昭和54)年生まれの43歳。出身は山形県だが、幼少期から30代半ばまで猪苗代町で過ごす。学生時代は漠然と「物書きになりたい」という夢を持っていた。専門学生時代にはサブカルチャー雑誌『BURST(バースト)』にハマり、石丸元章、見沢知廉、花村萬月など、破天荒だが自由を感じるライフスタイルに憧れた。何か行動に移すということはなかったが、創作活動をしたいという思いは学生時代から抱いていた。  高校卒業後、家業である川魚の養殖業に就き、6年半前に実家を出て中通りに引っ越すタイミングで、インフラ系の会社に転職した。20代に真剣に打ち込んだのはフルコンタクト空手という格闘技だった。しかし膝のじん帯を断裂し、選手生命を断たれてしまう。  人生の大きな目標を失い「もう一つ生きがいを見つけたい」と思い立った戦力外さんが表現活動の第一歩として始めたのが、LIVEコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」だった。しかし、ポコチャはリスナーと直接会話するスタイルで、高度なコミュニケーション能力が要求されるため数カ月で挫折してしまう。  戦力外さんは「誰かと直接コミュニケーションせず、自分のタイミングで動画を撮り、じっくり編集できる方がいいんじゃないか」と考え、ユーチューブを始めた。  平日は会社で働き、休日になると動画撮影のため出掛ける。撮り終わったら自宅に戻って編集する。1つの動画の編集作業は平均5時間を要するが、「スマホを使ってベッドに寝ころびながらリラックスして作業しているので、そんなに大変ではないですよ」。  台本は作らず、頭の中で動画の構成を練っている。仕事は車の移動時間が長いため、その時間を有効活用し、面白いワードが出てくるのをひたすら待つのだという。 「美しいマンネリ目指す」「理想は水戸黄門とか孤独のグルメ」  戦力外さんのチャンネルの視聴層は35~60歳までが多く、男女比では男性が9割を占める。  「理想は水戸黄門とか孤独のグルメなんです。視聴率トップは取れないけど、ずっと見てくれる人がいる。美しいマンネリっていうんですかね、そんな動画でありたいですね」  戦力外さんの動画が限られた層にしか見られていないと分かるエピソードがある。戦力外さんは自身のユーチューブチャンネルを母親に薦めたそうだが、母親が熱心に見るのは猫やフォークダンスの動画で、いくら薦めても自身の息子が配信している動画を全く見なかったという。戦力外さんは「興味がなければ肉親の動画でも見ないんですよ」と笑う。 プリウスと戦力外さん  ユーチューブはユーザー一人ひとりの趣味趣向に合った動画がトップ画面に表示されるような仕組みになっており、普段見ないジャンルの動画はそもそも表示もされない。これはユーチューブに限ったことではなく、買収騒動で話題のツイッターなどのSNS、ゾゾタウンなどの通販サイトも同様だ。  ただ、世の中の〝おじさん〟しか見ないニッチな動画を配信しているはずが、最近は少しずつファン層が拡大している様子。北海道に撮影に行った際、チャンネル登録しているファンの女性と奇跡的に出会い、お付き合いするまでに至ったという。  声をかけられる機会も増え、特にキャンピングカーで旅をしているシニア世代の夫婦からが多いようだ。 専業ユーチューバーへ  戦力外さんは6年半勤めた会社を辞め、12月から専業ユーチューバーとして活動を始めた。  「収入は不安定ですし、専業としてやっていくのに不安はありましたが、これからは創作活動一本で食っていくんだと決めました」  ユーチューブでの収入は「サラリーマンの月収の2倍くらい」だという。再生回数の変動などにより月の収入が100万円の時もあれば10万円の時もあるような世界だが、ユーチューブで最も広告収入を得やすいのは3月と12月なので、そのタイミングで退職を決意した。  ユーチューブは再生数によって広告収入が決まる。その単価についてはユーチューブの規約で公言しないよう定められている。戦力外さんも明かそうとしなかった。  しかし、さまざまなユーチューバーの書籍の情報によると、現在、ユーチューブの広告収入単価は1再生あたり0・05~0・7円と言われている。トップクラスの人気ユーチューバーは、1つの動画につき、サラリーマンの平均年収の3~4倍の広告収入が入る計算となる。  とは言っても、そこまで稼げるのはほんの一握りで、急に動画が見られなくなることだってあるのだ。  ただ、戦力外さんは「ユーチューブはプライベートすべてがネタになる」と前向きに捉える。  「仮にユーチューブで稼げなくなり、アルバイトをすることになっても、それを動画にすればいい。いいことも悪いこともネタにできるのがユーチューブなんです」  専業ユーチューバーになれば撮影回数を増やせるし、動画を配信する本数も増える。海外向けのチャンネル開設も目論んでいる。  「私のチャンネルは日本語のテロップを入れているので日本人しか見ません。次は世界に向けて、言葉なしでも伝わるような動画も作っていければと思っています」  戦力外さんは、テロップ無しに加え、ユーモアもプラスアルファしていきたいと考えている。  「チャップリンやミスタービーンみたいなコミカルな動きを入れていけば面白いかなと思っています」  一度見たら見続けてしまう中毒性。これがユーチューブの性質であり、作り手はそこを目指して動画を作成する。  「好きなことで、生きていく」  これはユーチューブのキャッチフレーズだが、専業ユーチューバーとして生き残っていくためには、そうも言っていられない。戦力外さんは「自分が好きなものも大事ですが、それ以上に、視聴者が求めているものを常に考え、再生回数が落ちないように維持していかなければなりません」と漏らす。  「死ぬ時、『なんであの時に専業ユーチューバーにならなかったんだ』と思いたくないんです。やった後悔よりもやらない後悔の方が悔いが残るって言うじゃないですか」  そう笑って話す戦力外さん。この先、どのようなチャンネルや動画を作り、ファンを拡大していくのか。〝おじさんユーチューバー〟の挑戦は始まったばかりだ。 追記【TBS 櫻井・有吉THE夜会で紹介】(2023年5月23日放送分)戦力外さんが紹介される! チュートリアル・徳井義実さんが、おすすめのユーチューブチャンネルを紹介するコーナーで戦力外さんを紹介!タイトルは「なぜか見てしまう!脱サラ親父の哀愁車内メシ」。23分30秒頃から。 Paravi(パラビ)で視聴する あわせて読みたい 鏡田辰也アナウンサー「独立後も福島で喋り続ける」

  • 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった【芳賀小児童クラブ】

    郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

    (2022年9月号)  郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール   一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見  周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満  取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。 あわせて読みたい 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

  • 【いわき市常磐白鳥町】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

    【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

    (2022年10月号)  オグリキャップ、トウカイテイオー、テイエムオペラオーなど、競馬史に残る名馬が、現役時代に入所していた競走馬用の温浴・リハビリ施設がいわき市にある。〝競馬ファンの聖地〟ともなっている同施設に足を運んだ。 【いわき市常磐白鳥町】JRA競走馬リハビリテーションセンター  いわき湯本温泉は古くから湯治の名所として栄えてきた温泉地で、有馬温泉(兵庫県神戸市)、道後温泉(愛媛県松山市)と並ぶ日本三大古泉だ。全国的に珍しい泉質で、その効能から「美人の湯」、「心臓の湯」、「熱の湯」とも呼ばれる。 そんな同温泉の温泉街の西側に、競走馬専用の温泉を備えたリハビリ施設があることをご存じだろうか。 1963(昭和38)年にJRA競走馬保健研究所常磐支所として開所した「競走馬リハビリテーションセンター」(小平和道所長)だ。屈腱炎・骨折など脚部に疾患を抱える現役競走馬を受け入れ、レース復帰に向けたリハビリの支援を行っている。 広大な敷地の中には、ダートコースの調教馬場(1周400㍍)をはじめ、脚部に負担をかけず心肺機能を高められるスイミングプール(1周40㍍、深さ3㍍)やウオータートレッドミルなどの設備が設けられている。 馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる  療養馬の回復状況に合わせてメニューが組まれ、朝8時から獣医師立ち合いのもと、各施設でリハビリが行われる。取材時の7月中旬現在、16頭の馬が入厩していた。馬房は40馬分あるものの、「人手不足で所属している厩務員に限りがあるので、現在はフルでは受け入れていない。そのため、順番待ちになることもある」(広報担当者)という。  13時30分からスイミングプールでの調教が始まると、フェンス越しに見学に訪れた競馬ファンや子ども連れが集まってきた。楽し気に泳ぐ姿をイメージしていたが、近くで見ると、「ブルルッ」と鼻を鳴らしながら必死の表情で泳いでいた。厩務員は手綱を引いているほか、さまざまな道具を駆使して歩みを止めないようにしている。療養馬にとってはハードなリハビリの一環なのだろう。 プールで泳ぐ療養馬 フェンス外から見守る競馬ファン  初めてプールに入るという馬に至っては、厩務員が押しても引いても10分以上その場から動こうとしなかった(もっとも、厩務員にとってこの行動は想定の範囲内で、この日は、水に慣れさせるのが目的だったようだ)。写真やほのぼのニュースの映像で抱いていた涼やかなイメージとのギャップに驚かされた。  リハビリ終了後には、38~40度の足湯と打たせ湯で疲労を解消する。リハビリにより溜まったストレスを解消する効果もあるという。温泉でリラックスできるのは馬も人間も同じということだろう。 足湯と打たせ湯の温泉でリラックス  慣れた手付きで馬を連れて回る厩務員はいずれも若く、女性の姿が目立った。競馬業界への就職を目指してここで勤めている人が多いという。 リハビリ支えるスタッフ 馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん  スタッフの一人に声をかけたところ、同センターに常駐する装蹄師・兒玉聡太さん(32)だった。 装蹄師とは馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を打つ技術者のこと。体重400~500㌔の体で走るサラブレッドの脚には大きな負荷がかかっている。蹄が摩耗したり割れて変形すれば、パフォーマンスが下がるばかりか、ケガのリスクも高まる。そのため、その馬の蹄の形に合わせた蹄鉄を打ち、保護する必要がある。 蹄鉄はアルミニウム合金製で、摩耗するため、3週間に1度のペースで打ち変えているという。 兒玉さんは胴体の下に潜り込み、脚を上げさせて蹄を削る。蹄の形に合わせて蹄鉄を叩いて微調整し、釘で打ち付ける。テンポ良く進めているが、確かな技術と経験がないとできない仕事だ。こうした関係者のサポートにより競馬は成り立っているということだ。 2021年、競走馬を擬人化したキャラクターを育ててレースで競わせるスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒット。ゲームから競馬に関心を持つ新規ファンが増え、競馬ブームにつながった。「競馬への注目度が高まるのはうれしい。当センターにもぜひ多くの人に見学に来てほしい」と広報担当者は語る。 震災・原発事故、令和元年東日本台風など、災害により大きな被害を受けながら、復興を遂げているいわき市。そんな同市に同センターが設けられ、療養馬が再起を目指してリハビリに励んでいるのも運命的なものを感じる。 秋になると中央競馬が盛り上がるシーズンが到来する。福島市の福島競馬場では、第3回福島競馬が11月5日から20日まで延べ6日間の日程で行われる。 同センターは朝8時から17時まで見学を受け付けている(日曜日は休み、プール見学は夏季平日のみ、改修工事のため、完全閉鎖の時期あり)。秋の福島競馬に合わせて聖地を〝巡礼〟するのも、競馬文化の楽しみ方の一つと言える。 あわせて読みたい 【アクアマリンふくしま】施設をリニューアルオープン

  • セクハラの舞台となった陸自郡山

    セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

    (2022年10月号)  陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会  性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

  • 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    (2022年10月号)  郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人  ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。 あわせて読みたい 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

  • 檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    (2022年10月号)  須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈  須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟  一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力  工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」  本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。

  • 土壌汚染の矮小化を図る昭和電工

    【第5弾】土壌汚染の矮小化を図る昭和電工【喜多方市】

     土壌・地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所が、土壌汚染対策法に基づき敷地内の土壌汚染原因とみなしている8物質のうち、4物質しか住民に報告していないことが分かった。同社が県に提出した文書と住民への説明の食い違いから判明。「住民に知らせなかったということか」という本誌の問いに同社は明確に答えていない。住民に知らせなかった4物質は、事業所敷地内でも周辺でも未検出か基準値内に収まり、深刻な汚染には発展していないが、住民は「隠蔽を図ったのではないか」と不信感を強めている。 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。 住民にひた隠しにした4種類の有害物質 汚染を除去する工事が進められている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所  喜多方事業所の敷地内で土壌汚染を引き起こしているとみなされている有害物質は表で示した8物質。シアン、ヒ素、フッ素、ホウ素は2020年に計測し、基準値を超える汚染が判明。残りの六価クロム、水銀、セレン、鉛は、実際の分析では基準値超過はみられないが、使用履歴や過去の調査からいまだに汚染の恐れがある。敷地は土壌汚染対策法上、この8物質により「土壌汚染されている」とみなされており、土地の変更を伴う工事が制限される。 昭和電工喜多方事業所敷地内で土壌汚染の恐れがある8物質 基準値を超過基準値を下回るor未検出シアン六価クロムヒ素水銀フッ素セレンホウ素鉛  ここで土壌汚染対策法の説明が必要になる。同法が成立したのは2002年。工場跡地の再開発などに伴い、重金属や有機化合物などによる土壌汚染が判明する事例が増えてきたことを背景に、汚染を把握・防止して健康被害を防ぐために制定された。汚染が判明した場合、その土地の所有者は汚染状況を都道府県に届け出なければならない。 汚染が分かった土地の所有者には調査義務が生じ、期限までに調査結果を都道府県に報告する必要がある。昭和電工喜多方事業所の場合、2020年に同社が行った調査で汚染が判明し、同11月に公表。公害対策のため、大規模な遮水壁工事や汚染土壌の運搬などを迫られた。 土壌汚染調査は、土地の所有者が環境省から指定を受けた「指定調査機関」に依頼して行う。喜多方事業所の場合、土地調査に関するコンサルティング大手の国際航業㈱(東京都新宿区)に依頼している。 土壌汚染対策法が定める特定有害物質は、揮発性有機化合物からなる第一種(11種類)、重金属などからなる第二種(9種類)、農薬などからなる第三種(5種類)に分かれる。全部で25種類になる。 喜多方事業所で土壌汚染が認められる8物質は全て重金属由来のものだ。戦中から約40年間、アルミニウム製錬工場として稼働しており、その過程で発生した有害物質を敷地内に埋めていたことで汚染が発生している。工場の生産工程で使用していたジクロロメタン、ベンゼンの有機化合物は、2020年にそれぞれ敷地内で計測したが、いずれも不検出だった。 基準に適合していない場合は、土地の所有者は「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定するよう都道府県に申請する。都道府県は周辺の地下水までの波及を把握し、住民が生活に利用して健康被害のおそれがある時は要措置区域に指定、汚染の除去を指示し、土地の所有者は期限までに必要な措置を講じなければならない。 健康被害のおそれがない場合は、制限の少ない形質変更時要届出区域の指定のみで済み、工事などで土地に変化がある際に計画を届け出すればよい。 公文書で判明  喜多方事業所は所有地の一部をケミコン東日本マテリアル㈱に貸している。届け出は同事業所が使用している土地と貸している土地に分けて申請され、全敷地が要措置区域と形質変更時要届出区域に重複して指定されている。汚染公表の2020年11月から5カ月後の21年4月に県から指定を受けた後、汚染除去の工事が始まった。有害物質が流れ込んだ地下水が敷地外に拡散しないよう敷地を遮水壁で覆い、地下水を汲み上げる方法だ。地下水は有害物質を除去し、薄めたうえで喜多方市の下水道や会津北部土地改良区が管理する用水路に流している。汚染土壌の運搬も進めている。 喜多方事業所以外にも汚染された土地はある。都道府県は指定した土壌汚染区域の範囲を台帳に記して公開しなければならず、福島県では台帳の概要をホームページで公表している。詳細を知りたければ、県庁や土壌汚染対象地を管轄する各振興局で台帳を閲覧できる。 筆者が喜多方事業所による「有害物質のひた隠し」に気づいたのは、この台帳を見たからだった。県に提出した文書では、冒頭に述べた8種類の有害物質で土壌汚染されていることを認めているが、住民には、「汚染が見つかったのは4物質」と事実の一部のみを説明し、残り4物質については汚染の恐れがあることを伏せていたのだ。 「要措置区域台帳」を見ると、生産工程での使用や過去の調査の結果、汚染の恐れがあるとみなされたのは重金属由来の有害物質(第二種特定有害物質)のうち前述の8種類。試料採取等調査結果の欄は全て「調査省略」とある。しかし、結果は土壌溶出量、土壌含有量とも基準は「不適合」だった。 調査省略なのに基準不適合とはどういうことか。それは、「土壌汚染状況調査の対象地における土壌の特定有害物質による汚染のおそれを推定するために有効な情報の把握を行わなかったときは、全ての特定有害物質について第二溶出量基準及び土壌含有量基準に適合しない汚染状態にある土地とみなす」(土壌汚染対策法規則第11条2項)との規定に基づく。喜多方事業所は、調査を省略したことで「汚染状態にある」とみなしているわけだ。 さらに規則では、汚染のおそれのある物質を使用履歴などを調べ特定した場合はその物質の種類を都道府県に申請し、確定の通知を受けた物質のみを汚染状態にあるとみなすことができる。試料採取の調査を省略する場合は、本来は前述の規定に従い、土壌汚染対策法で定めた全25物質により汚染されていると認めなければならないのだが、喜多方事業所は工場での使用履歴や過去の調査から汚染の原因物質を特定したため、書類上は8物質のみによる汚染で済んだということだ。 台帳には、喜多方事業所が調査を省略した理由は「措置の実施を優先するため」とある。時間をかけて調査するよりも、汚染状態にあることを受け入れて本来の目的である公害対策を優先するという意味だ。 ある周辺住民は、 「8物質による土壌汚染が認められているなんて初めて聞きました。住民に知らされているのは、そのうちフッ素などの4物質だけです。これら4物質は土壌を計測した結果、実際に基準値超えが出たにすぎません。私たちが知らされた4物質以外に六価クロム、水銀、セレン、鉛があるとは聞いていません」 と話す。 「住民軽視の表れ」  喜多方事業所にも住民に説明したかどうか確認しなければなるまい。同社は「書面でしか質問を受け付けない」というので、今回も期限を設けてファクスで質問状を送った。有害物質8種類に関する質問は以下の3項目。 ①8物質で土壌汚染されていると自社でみなしている、という認識でいいのか。 ②六価クロム、水銀、セレン、鉛について、土壌や水質における基準値超過があったか。 ③「土壌汚染対策法上は事業所敷地内が六価クロム、水銀、セレン、鉛による土壌汚染状態にある」という事実を住民に伝えなかったという認識でいいのか。 「事実」は県の公文書から判明している。喜多方事業所には本誌の認識に異議や反論がないか尋ねたつもりだったが、返答は「内容が関連しますのでまとめて回答させて頂きます」。筆者は総花的な答えを覚悟した。以下が回答だ。 「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり、土壌汚染対策法に定められている土壌汚染状況調査の方法により、有害物質について使用履歴の確認および既往調査の記録の確認を行い、当該8物質を汚染のおそれのある物質として特定しております」 土壌汚染対策法上、喜多方事業所が取った手続きを述べているに過ぎず、質問に正面から答えていない。①の有害物質8種類については「汚染のおそれのある物質」と認めている。ただし、同法施行規則に従うと「汚染状態にあるものとみなされる」の表現が正しい。 ②の4有害物質については、これまで土壌や地下水を計測して基準値を超えたわけではないため、喜多方事業所は汚染原因として住民には知らせてこなかった。筆者が2022年9月時点までに同社が県に提出した文書を確認したところ、同社はこの4物質について汚染状況を計測・監視しているが、基準値超過はなかった。問題のない回答まで避けるということは、同社はもはや自社に都合の良い悪いにかかわらず何も情報を出すつもりがないのだろう。 ③については、「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり」で済ませ、本誌の「住民に伝えたか伝えていないか」との問いに対する明言を避けている。前出の住民の話からするに、「有害物質8種類で土壌汚染の恐れがある」という事実は伝わっていない可能性が高い。 本誌はさらに、「住民に伝えなかった」という認識に反する事実があれば、住民への説明資料と伝えた日時を示して教えてほしいと畳みかけたが、回答は 「個別地区に向けた説明会の質疑応答を含め多岐にわたりますのでその日時や資料については回答を控えさせていただきます」 「伝えた」と明言しない点、「伝えなかった」という認識に反する根拠を提示しない点から、喜多方事業所が土壌汚染の恐れがある有害物質の種類を住民に少なく報告し、汚染を矮小化している可能性が高い。  法律の定めに従い、県には汚染の恐れがある物質を全て知らせている一方、敷地周辺に波及した地下水汚染により実害を被っている周辺住民にはひた隠しにしてきたことを「ダブルスタンダードで、住民軽視の表れだ」と前出の住民は憤る。 しかし、住民軽視は今に始まったことではない。開示請求で得た情報をもとに取材を進めると、より深刻な事実をひた隠しにしていることが分かった。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】 【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工

  • 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦【石川町母畑字湯前の「ホテル下の湯」】

    【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

     3月6日午後6時40分ごろ、石川町母畑字湯前の「ホテル下の湯」で火を出し、約6時間半後に消し止められた。同ホテルは数年前から休業していた。 母畑温泉の火事と言えば、ちょうど1年前、十数年前に閉館した廃旅館「神泉閣」で不審火が発生したことを本誌昨年4月号でリポートしたが、ホテル下の湯は日中、経営者がおり、鍵もかかっていたため不審火ではなさそう。 鎮火の翌日(8日)、現場を訪れると、一帯には焼け焦げた臭いが充満していた。作業をしていた消防署員によると「出火原因は不明。いくつか思い当たる箇所はあるが、これが原因とは現時点で断定できない」。ただ、消防署員たちはコンセントや電源プラグの状況を念入りに調べており、その辺りが「思い当たる箇所」なのかもしれない。 同ホテルは㈲ホテル下の湯(資本金1000万円、永沼幸三郎社長)が経営。登記簿謄本によると、敷地内には3階建ての旅館、5階建ての集会所・ホテル、2階建ての居宅、2階建ての共同住宅が建っていた。焼け跡を見る限りはどれがどの建物か判然としなかったが、複数の建物が密集していることは分かった。 現場にいた永沼社長に話を聞くことができた。 「この2日間、第一発見時の様子や出火時間など、同じことを十数回も聞かれてウンザリしているよ」(永沼社長) 取材途中にはお見舞いを持って訪れる人もいたが、永沼社長は「気持ちだけで十分。(お見舞いは)いらないよ」と丁重に断っていた。 「鎮火直後から友人・知人が何十人も来ているが(お見舞いは)全て断っている。塩田金次郎町長も来てくれたが、同じく断ったよ。気持ちだけ受け取れば十分だからね」(同) 建物は最も古い箇所で築60年になり、もともと老朽化していたが、そこに令和元年東日本台風の水害が襲った。同ホテルは北須川のすぐ横に建ち、1階が床上浸水したが、建築士による被災状況調査では損害割合20%未満で「半壊には当たらない」と診断された。 満足な補償が見込めない中、永沼社長は国のグループ補助金を使って立て直しを図ろうと考え、2億7000万円の交付を求める申請書を提出した。しかし、県から「既に公募期間を終えている」などの理由で申請書を受け付けてもらえなかった。 そうこうしているうちに新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、営業再開できないまま今日に至っていた。今回の火事は、そうした中で発生したわけ。 「もっとさかのぼれば、12年前には震災と原発事故が起こり、客足が途絶えた。東京電力からは営業損害として賠償金300万円を受け取ったが、それだって逸失利益を考えると十分ではなかった」(同) 永沼社長は客にアンケート調査を行い、原発事故の影響を数値化。それを基に東電と交渉したが、それ以上の賠償は受けられなかった。 原発事故、台風水害、新型コロナウイルス、火事の四重苦に見舞われた同ホテルは今後どうなるのか。 「これから固定資産税について町と相談する予定だが、焼けた建物を解体するには億単位のカネがかかるので、簡単には決断できない。かといって、解体して営業再開するのも難しい。今後どうするかは、すぐには判断できないな」(同) 火事とそれに伴う解体は〝余計な災難〟だったが、似たような境遇に置かれているホテル・旅館は少なくないはずだ。

  • 春のふくしまを巡る

    春のふくしまを巡る

    いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市) あわせて読みたい ふくしま書棚百景 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

  • ふくしま書棚百景

    本が好きな人間にとって、書棚に多くの本が並べられている光景は憧れであり、読書欲を刺激されるもの。〝読書の秋〟に合わせて、県内の読書家の自宅、書店、古書店を訪問し、さまざまな書棚を見せてもらった。 深瀬幸一さん(福島市在住) 元高校教諭(国語)で、定年退職後も教壇に立つ。好きな本はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』。「人間の深さを描いた作品。5回は読みました」(深瀬さん)。上の写真は深瀬さんの実家の書棚で、隣接する自宅にも書棚がある。著書『るつぼの中の国語教師』。 石川屋(田村市常葉町) 海外の作家の希少な絵本も取り扱っている 東北でも数少ない絵本専門の書店。壁面に設けられた書棚に国内外の約2000冊の絵本が並ぶ。石井修一代表はすべての絵本の中身を把握しており、来店客から相談を受けることも多いとか。2014年に全面改装後は県外からも絵本ファンが足を運ぶ。 石川屋のホームページ 田村市常葉町常葉字中町36番地☎︎0247(77)2001営業時間9時〜18時30分 八木沼笙子さん(福島市在住) 長年編集業に携わっており、文学・美術など幅広い分野の書籍を所蔵する。「引っ越しや火災で好きだった本を一部消失してしまいました。さらに福島県沖地震で本棚が壊れたので、自宅内に分散して置いています」(八木沼さん)。日本文学の初版本の復刻版(写真右)は大量に譲り受けたもの。聖書や昭和史に関する大判の図説(写真下)は執筆の下調べに使う。 八木沼笙子 油絵・デッサン教室のホームページ スモールタウントーク(郡山市) サブカルチャー関連の書籍や雑誌、写真集などをそろえる古書店。郡山市出身・在住で、映画、写真、雑誌文化など幅広い分野に関心を持つ黒田真市さんが2009年に開店。住宅地の中にあり、まるで学生時代、友人の部屋に遊びに来たような雰囲気を味わえる。 郡山市安積町荒井字荒井12☎︎090(5848)1490営業時間12時〜19時30分

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

    郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市  また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 【相馬玉野メガソーラー】山林大規模開発への懸念

     本誌2021年8、10月号で、相馬市玉野地区で進められているメガソーラー事業についてリポートした。事業者は「GSSGソーラージャパンホールディングス2」という会社で、アメリカ・コロラド州に拠点を置く太陽光発電事業者「GSSG Solar」の日本法人。 メガソーラー事業への反対運動:地元の懸念と説明会 玉野メガソーラー事業地(工事前) 玉野メガソーラー事業地(今年5月撮影)  同事業については、大きく以下の2点から、近隣住民や河川下流域の住民から反対の声が出ていた。 1つは、事業地は主に山林のため、発電所建設(太陽光パネル設置)に当たっては大規模な林地開発を伴うこと。近隣・下流域の住民からは「大規模開発により、山の保水力が失われてしまう。近年は、各地で洪水・土砂災害などが頻発しており、周辺・下流域でそうした災害が起きるのではないか」といった不安が噴出していた。 もう1つは、計画立案者で事業用地の大部分を所有する人物が、2021年7月に発生した静岡県熱海市の「伊豆山土石流災害」現場の所有者と同一人物であること。この人物は地権者というだけで、直接的には事業に関与しないようだが、近隣住民などからは「あのような問題人物が関係しているとすれば不安だ」との声があった。 こうした事情もあり、2021年7月と10月に地元住民や下流域の住民を対象とした説明会が行われた。主催者は「相馬市民の会」という住民団体で、事業者の現場担当者を招いての説明会だった。 説明会で配布された資料によると、事業区域面積は約122㌶で、うち森林面積が約117㌶、開発行為にかかる森林面積が約82㌶、発電容量は約82メガ㍗、最大出力60メガ㍗、太陽光パネル設置枚数16万6964枚などと書かれていた。 当然、説明会では前述のような不安の声が上がり、事業者は「問題のないように事業を進める」、「保険に入り、災害の際はそれで対応する」と回答した。ただ、そうした説明に反対派の住民は納得せず、平行線をたどった。 メガソーラー事業の現状:山林開発の進行と地元の不安  それからしばらくして、昨年2月ごろに、地元住民から「われわれの訴えも虚しく工事がスタートした」との情報が寄せられた。その直後に現地を訪ねた際は分からなかったが、最近、あらためて現地を訪ねると、山林がかなり切り開かれている様子がうかがえた。 以前の説明会に出席していた事業者の現場担当者に進捗状況を尋ねたところ、「一度、社内で話を通さないと取材にはお答えできないので、そのうえで再度連絡します」とのことだったが、締め切りまでに連絡はなかった。 以前の説明会で、事業者は「調整池を設置して洪水・土砂災害などが起きないようにする」と話していたが、あらためて丸裸にされた山林を見ると、近隣・下流域の住民は不安を増大させているだろうと感じる。 あわせて読みたい 不安材料多い相馬玉野メガソーラー計画 (2021年8月号) 相馬玉野メガソーラー計画への懸念 (2021年10月号) 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 (2021年11月号)

  • 相馬野馬追「日程変更」の障壁

     相馬地方の伝統行事で国重要無形民俗文化財「相馬野馬追」の日程が見直されようとしている。現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、厳しい暑さで人馬への負担が大きく、観客や準備に携わる人も熱中症のリスクが高いとして、日程が大幅に変わる可能性が出ている。さらに、出場するための高額費用負担や女性の出場条件緩和といった課題もあり、参加騎馬武者が減少する野馬追は過渡期を迎えている。 〝酷暑開催〟に騎馬会員から賛否両論 勇壮な神旗争奪戦(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2013年撮影)  300~400騎の騎馬武者が甲冑をまとい、太刀を帯し、先祖伝来の旗指物を風になびかせながら野原を疾走する。そんな時代絵巻のような光景が繰り広げられる相馬野馬追は、伝説によると今から1000年以上も昔、相馬氏の遠祖とされる平将門が下総国小金ヶ原(現在の千葉県北西部)に放した野馬を敵兵に見立て、軍事演習に応用したことが始まりとされる。捕らえた馬は神馬として氏神である妙見に奉納した(相馬野馬追公式ホームページより)。 今年も間もなく、野馬追の時期がやって来る。2020、21年は新型コロナウイルスの影響で神事中心の小規模な実施にとどまったが、昨年は3年ぶりに通常開催され、コロナ前の6割に当たる10万3400人が来場した。今年はコロナ感染が落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが5類に引き下げられたこともあり、昨年以上の観客数になることが予想される。 そんな野馬追の日程が今、大きな議論になりつつある。 現在は7月最終土・日・月曜日に行われているが、近年の猛暑で「人も馬もリスクが高い」「観客や準備に携わる人も大変」という声が以前から高まっていた。酷暑の中で甲冑をまとうのは辛いし、馬はもともと暑さが苦手。観客からも「日差しを遮る場所が全くない」と不満が漏れていた。昨年の野馬追では熱中症などの事例が21件あり、コロナ前の2019年も36件に上っていた。 こうした事態に「相馬野馬追執行委員会」(2月20日に任意団体から一般社団法人に移行、以下執行委員会と略)では、2月に開いた会合で副執行委員長の立谷秀清・相馬市長から「涼しい時期に開催可能か検討すべき」という提言が出された。これに執行委員長の門馬和夫・南相馬市長が「検討委員会を立ち上げて方向性を決めたい」と応じ、出席委員から承認された。 実はこれより前、南相馬市では昨年12月に五郷騎馬会(旧相馬藩領の当時の行政区である五つの郷=宇多郷、北郷、中ノ郷、小高郷、標葉郷=の各騎馬会)を対象にアンケートを行っていた。2019年度と22年度に出場した騎馬会員461人に質問書を発送し、今年1月、55%に当たる256人から回答を得た。 集計結果は3月に公表されたが、それによると、 質問=日程変更についてどのように思うか。 「賛成」135人(53%) 「反対」50人(19%) 「どちらでもない」71人(28%) 質問=(変更に「賛成」と答えた135人に)なぜ賛成と思うか。(以下複数回答) 「暑さによる人馬への体力的な負担が大きいため」127件 「全ての行事が休日または祝日の方がよいため」46件 「その他」14件 質問=何月が最適な日程と思うか。 「5月」116件 「7月」53件 「6月」「10月」40件 「9月」31件 質問=(変更に「反対」と答えた50人に)なぜ反対と思うか。 「頻繁に変更するものではない」33件 「現在の日程が『東北の夏祭りの先陣を切る、夏の伝統行事』と認知されているため」22件 「神社の祭礼のため、例大祭に合わせるべき」13件 「その他」7件 回答者の過半数が日程変更に賛成し、その理由に暑さを挙げる。新たな開催月は5月を望む回答が多い。逆に反対の人は2011年に現在の日程に変更したことを踏まえ、簡単に変えるべきではないとしている。 そもそも、野馬追の日程はどのようにして決められたのか。 中村藩主相馬家の武家行事として執行されていた野馬追は、江戸時代を通じて旧暦「五月中の申」の日に行われていた。現代の暦に直すと6月下旬から7月上旬になる。 その後、日程はどう変わっていったか『原町市史 第2巻』の「通史編Ⅱ『近代・現代』」から抜粋する。 《明治6年(1873)の改暦を受け、翌7年(1874)には旧暦「五月中の申」の日にあたった7月2日をもって野馬追が行われるようになった。そして、翌8年(1875)からは日程が7月2日に正式に固定化され、その日を中心とした7月1日~3日の3日間行われるようになった。旧暦五月中の申とは、旧暦五月の2回目の申の日を指し、藩主相馬家では、この日を中心に3日間の野馬追行事を執行する習わしであった。旧暦五月は「午の月」ともいい、猿(申)が馬(午)の守り神とされることに加え、中の申の日が妙見の縁日だったことから、この日が選ばれたという。なお、明治37年(1904)以降には、7月11日~13日に変わっている》 日程を10日繰り延べたのは梅雨を避けるため。それから約半世紀が経過した昭和36年(1961)に7月16日~19日という4日間に変更されたが、変則日程は定着せず、5年後の昭和41年(1966)にはさらに1週間繰り延べて7月23日~25日となった。 《変更理由は、梅雨明けを待つこと、学校の夏季休暇を利用して、より多くの観覧者を見込んでのものであった。近代から幾度かあったこれらの日程変更は、いずれも野馬追を観光資源として意識したものといえよう》(同抜粋) その後、7月23日~25日という日程は40年以上続いたが、3日間とも平日に重なってしまうと出場が難しい騎馬武者も多く、観客数にも影響が出るため、2011年から7月最終土・日・月曜日に変更され、現在に至っている。 このように、7月開催は旧暦に基づく深い意味を帯びている半面、細かい日程は「梅雨を避ける」「騎馬武者を出場し易くする」「観客数を増やす」などの理由で変更されてきた歴史があるのだ。 難しい文化庁との調整 南相馬市が行ったアンケートの結果と情報開示請求で入手した「自由記述欄」  とはいえ、今回の日程変更は過去のものとは意味合いが異なる。これまで一貫して守ってきた「旧暦五月中の申の日」から大きく変えることを視野に入れているのだから、そう簡単に決断できるものではない。 ただ現実に目を向けると、騎馬武者、馬、観光客は酷暑に四苦八苦している。地球温暖化で、今後も気温上昇は避けられない。万が一、熱中症で命を落とす人が現れたら取り返しのつかないことになる。 本誌は前述・南相馬市が行ったアンケートの「自由記述欄」に、回答者(騎馬会員)がどのようなことを書いたのか確認するため、同市に情報開示請求を行った。 開示された自由記述欄には計142件の意見が書かれており、そのうち「暑さ」に関するものは2割に当たる28件に上った。主だった意見を掲載したのでご覧いただきたいが、人の命と健康を心配する意見だけでなく、馬への負担を指摘する意見も目立った。個人的には「馬に点滴をしながら頑張ってもらった」「乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので貸すのを渋っている」という意見に衝撃を受けた。ストレートに「動物虐待」と書いた回答者もいたが、点滴までして駆り出されている馬がいることを踏まえれば決して大袈裟ではない。 暑さに対する意見 ・日程変更は早急にすべき。今の時期では人馬に対して虐待行為だ。(70代男性)・中学生から鎧で出場するのは体力的に負担が大きい。(10代男性)・暑さで愛馬が辛い思いをしている。10歳を超え体力も心配になり、昨年の野馬追も点滴をしながら頑張ってもらった。かわいそうで、今年の夏も暑いようなら出場しない方向で考えている。(20代男性)・各郷の陣屋の後ろに家族用のテントを張り、日陰をつくるなどの暑さ対策をしないと命に関わることも起こり得ると思う。(40代男性)・出場者や観光客の負担をなくすため、猛暑を避けての開催を希望する。(10代女性)・猛暑の中での開催は動物虐待だ。(60代男性)・乗馬クラブでは出場者に馬を貸すと暑さで10~20日休養させる必要があるので、馬を貸すのを渋っている。(70代男性) 費用負担に対する意見 ・馬を借りるのに20~40万円払っており、家族の負担も大変。現実的に新しく野馬追を始めようとしたら100万円近くかかる。(20代男性)・奨励金は20年以上変わっていないのに、馬代は数年前の倍以上になっている。道具なども傷むので、その都度修理すれば負担は大変だ。(40代男性)・馬を飼育する人への援助がない。馬を飼うと1頭40~50万円かかる。自馬でないと競馬や旗取りに出られない。馬が身近にいる環境をつくることが大事だ。(70代男性)・道具類を揃えるだけでも費用がかかるので、参加枠を設け、野馬追を体験してもらうのもありではないか。(30代男性)・乗馬の練習が有料なのは仕方がないが1回3000円前後の回数券を発行してほしい。(60代男性) 女性の出場条件緩和に対する意見 ・年齢制限をなくし、既婚者も出場できるようにすれば騎馬武者の数も多くなる。(70代男性)・流鏑馬の女性騎馬も認められている。昔のきまりを大事にしすぎて伝統がなくなるより、多少きまりが変わっても伝統を残す方が大事だと思う。(10代女性)・20歳を過ぎてからも野馬追に出場したいと思っている女性は多いはずだ。(10代女性)・男性より女性の方が出場意欲のある人は多い。私は4年出られるはずが3年しか出られなかった。毎日馬の世話と手入れもして、伝統を残すためにやっていたのに、運営の対応にがっかりさせられたことがある。もっと女性の意見に耳を傾けてほしい。(20代女性)  半面、意外だったのは前述のアンケート結果にあるように、日程変更に「反対」「どちらでもない」を合わせると計47%に上ったことだ。酷暑を考えれば「賛成」がもっと多くなると思われただけに、大差がつかなかった理由が気になる。 筆者は数人の騎馬会員に話を聞いたが、多くが日程変更に反対していた。その人たちが口を揃えて言ったのは「暑かろうが何だろうが、出たい人は出る」というものだった。 一方、自由記述欄を見ていくと、2011年に現在の日程に変更されたため「伝統を重んじる野馬追の日程をころころ変えるべきではない」という意見とともに、国重要無形民俗文化財に指定されていることから「(日程を変えると)指定が取り消しになるのではないか」と心配する意見も目に付いた。 野馬追は昭和27年(1952)、文化財保護法に基づき国の無形文化財に選定されたが、同29年(1954)の同法改正で選定解除となった。その後、同50年(1975)の同法改正で重要無形民俗文化財の指定制度が設けられ、翌年、相馬地方に派遣された文化庁調査官が野馬追の指定に向けた調査を行い、同53年(1978)に同文化財に指定された。 この指定が、日程変更に当たって障壁になるのだという。 2011年に現在の日程に変更された際、その協議に参加した南相馬市の関係者は当時を振り返る。 「日程変更は文化庁が許可しなければ実現しないし、簡単には許可してくれない。2011年の日程変更では執行委員会などで協議して(現在の7月最終土・日・月曜日に)決めた後、県教委も交えてさらに協議した。その内容を同庁に上げ、同庁内の調査・手続きを経てようやく決まったのです」 正式決定には、かなりの時間と労力が要ることが分かる。 さらに突っ込んだ話をしてくれたのは地元の研究者。 「地域が野馬追の『文化財としての価値』をどう保存していくのか、そのうえで、現在の日程では文化財としての価値を担保できないことが説明されないと、文化庁は日程変更を許可しないと思います」 研究者によると、暑さを理由に日程を大幅に変えるかどうかは2011年当時も出ていた話で、有識者からは「むやみに日程を変えるべきではないが、五月中の申の日になぞらえるなら5月開催も一つの案」との提案もあったという。しかし、執行委員会などは「騎馬武者の参加し易さ」と「観光客の集め易さ」を重視し、7月最終土・日・月曜日に決めた経緯がある。 「この時、文化庁は文化財としての価値の保存とは関係ない『騎馬武者の参加し易さ』と『観光客の集め易さ』が前面に出たことに難色を示した。最終的には『騎馬武者に参加してもらわないと文化財としての価値の保存が難しくなる』との理由付けで同庁から日程変更を許可されたが、国重要無形民俗文化財に指定されると、それくらい調整が難航するということです」(同) こうした状況を踏まえると、もし7月以外に開催することが決まったとしても実施されるのは数年先で、文化庁が許可しなければ実現しない可能性もある。 さらに研究者は、別の心配事として「野馬追2日目(相馬太田神社)と3日目(相馬小高神社)に執り行われる例大祭の日程を変えることができるのか」という点も挙げた。 ただ、相馬太田神社の佐藤左内宮司に確認すると「日程が変わればそれに合わせて例大祭も変えるだけ。これまでの日程変更でもそうしてきたと思います」と話し、難しいとは考えていない様子。むしろ佐藤宮司が心配していたのは、例大祭当日に行われる祭りの担い手が確保できるかどうかだった。 「カネの問題ではない」  「祭りでは神輿の担ぎ手が50人、旗持ちや準備をする人などが50人必要です。例年、地元企業の若手社員や中学・高校生、専門学校生に手伝ってもらっているが、子どもたちは夏休みだから参加できるので、これがもし7月以外の開催になったら100人確保できるのか。正直『自前で確保してほしい』と言われても無理。日程変更するなら祭りの支援も約束してくれないと困る」(同) 佐藤宮司は、詳しいアンケート結果は把握していなかったが「酷暑の中で行うのは人馬にとって負担」と日程変更に一定の理解を示しているようだった。 自らも騎馬武者として出場する岡﨑義典・南相馬市議(3期)は同市議会昨年9月定例会で、現在の日程では人馬だけでなく観光客も熱中症などのリスクが高いとして「開催時期について騎馬会などと協議すべきではないか」と質問している。 岡﨑義典・南相馬市議(南相馬市議会HPより)  「私は、絶対に日程を変えるべきと言っているのではない。出場者はこの日程でやると言われればどこだって出る。しかし観光客は別です。毎年、熱中症で手当てを受ける人は一定数おり『こんな暑い中で見るならもう来なくていい』という不満も聞いたことがある。時代の変遷に合わせ、より良い方向に変えるための話し合いはすべきです。あとは結果に従い、変更する・しないを決めればいい」(岡﨑議員) 賛否両論ある日程変更は、6月にも執行委員会内に検討委員会が設けられ、本格的な協議がスタートする見通しだが、前述・情報公開請求で入手した自由記述欄を見ていくと、暑さに関する意見のほか、出場するための高額費用負担と女性の出場条件緩和に触れている意見も目に付いた。具体的にどのような意見が寄せられていたかは別掲をご覧いただきたいが、野馬追は今、この三つが大きな課題になっていることがうかがえる。 高額費用負担については、金銭的な支援を求める声が少なくない。別掲にもあるように、野馬追に出場するにはかなりの出費を要するが、これに対し行政からは「出場奨励金」が支給されている。奨励金は執行委員会→各騎馬会→騎馬会員に支給され、金額は騎馬会によって若干差があるが、1人当たり10~12万円。 金銭的な支援があれば持ち出しが減るので、出場者は助かる。ただ本誌が取材した騎馬会員の多くは「カネの問題ではない」「初期投資はかかるかもしれないが、奨励金を数年もらえばペイする」「一部に派手な甲冑や馬具を揃える人がおり、見栄っ張り合戦になっていることが問題」と支援増に否定的だ。 前出・岡﨑議員も同様の意見だったが「ただし」と付け加える。 「馬の飼料代が高騰し、それが馬代(借り賃)に跳ね返っている。私が最初に出場した2014年は10~12万円だったが、昨年は30万円という人もいた。例年、乗馬クラブからは馬代の目安になる奨励金がいくらになるか市に問い合わせがあるが、馬代高騰の流れはますます進んでいくように感じる。しかし、だからと言って市が馬代を税金から負担するのは市民の理解を得にくい。であれば市内には通年で馬を飼育している人が多いので、飼料代の支援は緊急的に行ってもいいと思います。実際、もう飼料代を負担できないと馬を手放した人もいますからね」 年々減る参加騎馬武者 騎馬の列が市街地に繰り出す「お行列」(本誌昨年7月号掲載、相馬野馬追執行委員会事務局提供、2015年撮影)  もう一つの女性の出場条件緩和については、本誌が取材した騎馬会員からも「現行の出場条件である『20歳までの未婚女性』は変えていいと思う」「男女平等やLGBTが当たり前の昨今、性別や年齢で出場を制限するのは時代に馴染まない」との意見が多く聞かれた。 野馬追に女性の参加が認められたのは昭和22年(1947)で、同59年には騎馬会に「未成年の未婚者で化粧をしてはならない」との条文ができたという。未成年や未婚が条件となったのは、月経や出産などが血を連想させ、不浄とされたためとみられる。 騎馬会員の中には女性の参加に難色を示す人もいるようだ。武家行事の野馬追は女性が参加できなかった歴史があり、その点を重んじる気持ちも分かるが、時代の変遷に合わせた変化は必要だろう。そもそも女性の出場条件を緩和したところで、女性の出場者が劇的に増えるとは思えない。むしろ別掲にあるように、男性より野馬追のことを思う女性がいるなら、柔軟な対応で出場の間口を広げるべきではないか。 野馬追はここに挙げた三つの課題のほか、参加騎馬武者の減少にも直面している。ピークは1995年の614人、震災・原発事故以降は400人前後で推移し、昨年は337人だった。 日程変更、金銭的な支援、女性の出場条件緩和が実行されれば参加騎馬武者が増えるかどうかは分からない。騎馬武者の数にとらわれるのではなく、歴史と伝統を継承していくことを大事にすべきという意見もある。数を維持したいがために闇雲に税金を投入したり、野馬追の意味を理解せず、単に「カネがあるので出たい」という意識の低い騎馬武者が増えるようでは本末転倒だ。  「野馬追はこれまで首長、執行委員会、騎馬会など上層部だけで物事を決めてきた。そういう意味では、今回のアンケートで騎馬会員の本音を聞こうとしたことは今まで見られなかった姿勢であり、評価できると思います」(ある騎馬会員) 過渡期を迎える野馬追を未来にどうつないでいくのか。三つの課題と合わせて考える必要がある。

  • 観光地の評価を左右するトイレ事情

    (2022年8月号)  観光地の評価を左右するのが、誰もがお世話になるトイレだ。古く汚いトイレしかない場所では自ずと滞在時間が短くなるし、再訪する気も失せる。福島県の観光地のトイレ事情はどうなっているのか。観光客入込数が多いスポットに足を運び、独自調査をしてみた。 道の駅はどこもキレイ、最悪は「開成山公園」  県観光交流課が発表している2020年分の「福島県観光客入込状況」によると、観光客入込数が多かった観光地上位は別表の通り。 2020年の観光客入込数上位 順位 地名・施設名観光客入込数伸び率1磐梯高原161万人△ 14.62道の駅国見あつかしの郷137万人△ 10.73道の駅伊達の郷りょうぜん120万人△ 4.94道の駅あいづ 湯川・会津坂下104万人△ 13.05あづま総合運動公園100万人△ 39.96いわき・ら・ら・ミュウ97万人△ 33.97セデッテかしま81万人△ 37.38道の駅猪苗代80万人△ 16.29道の駅「安達」下り線78万人△ 12.610道の駅ばんだい73万人△ 21.811伊佐須美神社71万人△ 32.912道の駅「安達」上り線68万人△ 12.913喜多方市街65万人△ 39.114郡山カルチャーパーク61万人△ 55.815スパリゾートハワイアンズ60万人△ 63.316大内宿55万人36.117磐梯吾妻スカイライン54万人158.818はたけんぼ52万人△ 3.319ゴルフ場51万人△ 8.620磐梯熱海温泉51万人△ 36.3※△はマイナス  同年は新型コロナウイルスが感染拡大した年であり、特に1回目の緊急事態宣言が出された春先・大型連休では不要不急の外出を控える人が多かった。そのため、観光客入込数は3619万人(前年比35・8%減)と大幅に減少した。 磐梯吾妻スカイラインのみ伸びているのは、前年吾妻山の噴火警戒レベルが引き上げられ、全面通行止めが続いたため。 気になるのはそうした観光地のトイレ事情だ。 観光地に出かけるときは日常と異なる生活リズムとなるうえ、ご当地グルメやスイーツなどを飲食する機会も増えるため、腹を下して思いがけないタイミングでトイレに駆け込むことがある。そうした際、古い・汚い・臭いトイレだったときの落胆は大きい。 和式の個室しか空いていないときもテンションは下がる。「うちは和式でないとだめだ」という高齢者が多かったのは昔の話。「久しぶりに和式で用を足したら足の踏ん張りがきかなくて、後ろに転びそうになった。洋式に統一してほしい」という声が聞かれる。 逆に期待しないで入ったトイレが、温水洗浄便座(いわゆるウォシュレット)が整備された綺麗なトイレで、上機嫌になることもある。7月10日、国見町にオープンした「あつかし千年公園」は阿津賀志山防塁がある田園地帯に整備された公園(イベント広場、駐車場)だが、その一角に整備されたトイレが思いがけず最新のつくりで感動した(写真)。 あつかし千年公園のトイレ① あつかし千年公園のトイレ②  コンビニや飲食店、土産物店などのトイレは比較的きれいだが、ただで借りるわけにもいかないので、食事や買い物のついでに用を足す。むしろトイレを借りるため何かを買っている人も多いだろう。 その点、公衆トイレは〝無料〟で気軽に利用できるが、清潔度で疑問符が付くことも少なくない。 特定非営利法人・日本トイレ研究所(東京都)は2018年から2019年にかけて、外出時に利用したくなる「お気に入りトイレ」についてのインターネットアンケート調査を実施した(有効回答数226、複数回答あり)。その結果、最も重視するポイントとして挙げられたのは健常者、要配慮者(障害者や妊産婦など)ともに、「きれい・清潔」だった。 健常者と要配慮者で分かれたのが、手すりや温水洗浄便座、おむつ交換台、オストメイト(人工膀胱保有者)対応トイレといった「設備がある」という項目。健常者では24・2%だったのに対し、要配慮者は43・8%に上った。最近では女性トイレで生理用品を無料提供するサービスなども始まっており、トイレの設備の重要性に注目が集まっている。 同研究所代表理事の加藤篤さんはこのように語る。 「トイレに一番重要なのは『安心』だと考えています。きれい・清潔なのはもちろん、多様な人の利用を想定した設備が整っていて、誰もが安心して利用できるトイレが望ましい。例えば、トイレの入り口に段差があるだけでも、車いすの人や足が不自由な人は利用できないわけです。観光地においても、安心して使えるトイレがなければ、その場所を訪れる人は限られるし、『飲食や宿泊は控えてトイレを使わないようにしよう』と考えるので、滞在時間も自ずと短くなるでしょう。そういう意味では、観光の満足度を左右する存在がトイレだと言えます。『安心』という意味では、自然災害により停電や断水などが発生したとき、公衆衛生を保つ役割も観光地のトイレには求められています」 裏磐梯のトイレを点検 桧原湖畔の古びたトイレ  県内観光地のトイレは安心して利用できるのか。6月から7月にかけて、前出の観光客入込数が多い地点を中心に、県内の観光地や公園、公共施設などを回って、トイレの状況をチェックした。 チェックしたのは、男性トイレ個室の①便器の種類(和式、洋式、ウォシュレット)、②施設・設備の新しさ(3段階)、③清潔さ(3段階)。記者(42歳、男性)が、家族や友人などとプライベートで訪れた際に利用したいトイレかどうか、という視点でジャッジした。 県内トイレの本誌採点一覧 ‐場所名 自治体名便器の種類新しさ清潔さ➀福島交通飯坂線 飯坂温泉駅福島市洗浄23➁エスパル福島1階福島市洋式33③福島駅前公衆トイレ福島市洗浄22④浄土平公衆トイレ福島市洋32⑤県営あづま球場福島市洋33⑥あづま総合運動公園大駐車場福島市洋21⑦道の駅りょうぜん伊達市洗浄33⑧やながわ希望の杜公園伊達市和12⑨あつかし千年公園国見町洗浄33⑩観月台公園国見町和11⑪半田山自然公園入口桑折町洋22⑫JR郡山駅1階郡山市洋+和33⑬郡山カルチャーパークドリームランド郡山市洗浄13⑭開成山公園市役所側駐車場トイレ郡山市和11⑮開成山公園自由広場前トイレ郡山市洋+和21⑯道の駅「安達」上り二本松市洗浄+和22⑰小峰城白河市洋+和23⑱白河駅前駐輪場白河市洗浄33⑲JR新白河駅前白河市洋32⑳南湖公園菅生舘駐車場白河市洋22㉑はたけんぼ須賀川市洗浄23㉒裏磐梯物産館(北塩原村)北塩原村洗浄+和33㉓裏磐梯ビジターセンター北塩原村洋+和22㉔桧原湖南岸駐車場公衆便所北塩原村洋12㉕第一ゴールドハウス目黒 桧原湖店北塩原村洗浄23㉖第二ゴールドハウス目黒 磐梯店北塩原村洗浄12㉗桧原湖第2駐車場公衆トイレ北塩原村洋+和22㉘道の駅あつかしの郷国見町洗浄33㉙JR会津若松駅会津若松市洗浄23㉚鶴ヶ城西出丸トイレ会津若松市洋22㉛鶴ヶ城喫茶脇トイレ会津若松市洋22㉜JR喜多方駅喜多方市洋+和23㉝道の駅猪苗代猪苗代町洗浄33㉞世界のガラス館猪苗代店猪苗代町洗浄+和22㉟長浜公衆トイレ猪苗代町洗浄+和22㊱道の駅ばんだい磐梯町洗浄+和33㊲塔のへつり公衆トイレ下郷町洗浄22㊳道の駅下郷下郷町洗浄+和23㊴JR会津柳津駅柳津町洗浄33㊵JR会津宮下駅三島町洗浄33㊶三島町観光交流館からんころん三島町洋33㊷JR会津川口駅金山町洋23㊸会津川口駅前「みんなのトイレ」金山町洗浄33㊹道の駅番屋南会津町洋+和22㊺JR田島駅南会津町洗浄33㊻JR只見駅只見町洗浄33㊼道の駅尾瀬檜枝岐檜枝岐村洗浄33㊽ミニ尾瀬公園檜枝岐村洗浄22㊾道の駅ならは楢葉町洗浄33㊿道の駅そうま相馬市洗浄3151原釜尾浜海水浴場相馬市洋式2252セデッテかしま南相馬市洗浄3353JRいわき駅いわき市洋+和3354いわき・ら・ら・ミュウいわき市洗浄33※便器の種類は洋=洋式、和=和式、洗浄=温水洗浄便座。※「新しさ」の基準は以下の通り3=新しい施設・充実した設備で万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=古い施設・設備、暗い雰囲気で使いたくない※「清潔さ」の基準は以下の通り3=きれいな環境が維持されており、万人におすすめ!2=問題なく利用できる1=汚れや臭い、ゴミ、故障便器が目立ち、使いたくない トイレ調査トピックス ○温水洗浄便座は多目的トイレに1台だけ設置し、男子トイレの方には洋式・和式しかないケースも多かった。設置費用節約のためか。○道の駅のトイレは清潔だが、調理場から出る油などの影響で、水回りから悪臭が漂うところも。○道の駅そうまは指定管理者が変更となり、改装中のためか、敷地内からごみ箱が撤去されており、トイレの中に空き缶が捨てられていた。  まず向かったのは、観光客入込数1位の磐梯高原(裏磐梯=北塩原村)。 最初に訪れた裏磐梯物産館は五色沼自然探勝路(約4㌔、徒歩約1時間20分)の出入り口に立地している。ハイキング客が多いトイレを覗くと、温水洗浄便座と和式が設けられていた。比較的新しく清潔感があるので使いやすそう。 探勝路のもう一つの出入り口、裏磐梯ビジターセンターの脇にもトイレが設けられている。こちらは屋外のトイレで、便座はいずれも和式。少し暗い雰囲気だが「ビジターセンター脇のトイレは24時間利用可能で、冬は暖房が付いているので、使い勝手がいい」(裏磐梯をよく訪れる男性)と評価する声もある。 2018年には同センター西側に、裏磐梯観光協会事務所などが入る五色沼入口観光プラザがオープンした。こちらのトイレはすべて温水洗浄便座で、多目的トイレも設けられているが、9時から17時までしか利用できないのが難点。 桧原湖畔には県が設置したトイレがあった。洋式で車いすも入れる広さがあったが、設備自体が古い。不気味な雰囲気が漂う。 同じ桧原湖畔に立地するドライブイン「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のトイレも古さを感じる造りだが、個室はすべて温水洗浄便座。これには正直驚かされた。 「ドライブインは団体客を受け入れることが多く、トイレを利用する方が多いので、快適に利用してもらえるように気を使っています」(同施設の関係者) このような施設がある一方で、本誌2018年8月号では、五色沼周辺の観光施設「レストハウス五色沼」が修学旅行生にトイレを貸さず、観光エージェントから県観光物産交流協会に対し〝問い合わせ〟が寄せられた件を取り上げた。当時の本誌取材に対し、同施設の関係者は「修学旅行生は全く買い物をしないのに、声もかけずぞろぞろと入ってきてトイレを使おうとする」と本音をこぼしていた。これも観光施設の本音だろう。観光施設にとって維持管理の負担は小さくない。そうした中で「どこまでトイレを貸し出すか」という問題に頭を悩ませている。 ただ、安心して利用できるトイレがある観光地は、拠点としても使いやすいので人が集まりやすくなり、再訪する人も増えるだろう。例えば、前出「第一ゴールドハウス目黒桧原湖店」のように、温水洗浄便座を整備するのも一つの手段。〝おもてなし〟の視点で整備を進めていってはどうだろうか。 県内観光地をめぐると、温水洗浄便座が設置されているトイレは割とあったが、和式トイレと併設されているところ、もしくは多目的トイレにのみ温水洗浄便座が設置されており、男性トイレは洋式・和式というケースが多かった。そうしたトイレの場合、問題なのは、混雑していて和式しか空いていないときがあること。実際、ある道の駅のトイレを訪れた際、和式しか空いていないのを確認して踵を返した人がいた。和式なら利用したくない、と。 一般家庭用で和式から温水洗浄便座に改修する際の費用は約30万円。それほど高い金額ではないのだから、すべて温水洗浄便座に変えても問題ないように思えるが、なぜ普及が進まないのか。 ある観光施設の責任者は「高齢者の中には和式がいいという人もいるので、一部残している」と明かす。 過去の新聞・雑誌を探ったところ「第三者が座った後の洋式便座に座りたくない。和式は残してほしい」、「不特定多数の尻を洗った温水洗浄便座を使用するのに抵抗がある」という意見もあると報じられている。ごく少数派になりつつあるが、さまざまな理由から和式を希望する人がいるので、残しているわけ。 前出・日本トイレ研究所代表理事の加藤さんは「温水洗浄便座を広く整備すべき」という意見に釘を刺す。 「確かに温水洗浄便座の導入により快適にトイレを利用できる人が増えるのはいいことです。ただ、山の上など水がない場所のトイレに整備するのは現実的に難しいし、『設備さえ整えればいい』という考え方は危うい面があります。たとえ温水洗浄便座が整備されていても、掃除が行き届いていない不衛生なトイレは使いたくありませんよね? あくまで求められるのはきれい・清潔なトイレであり、空間や設備がバリアフリーであることが安心感を生み出すのです」 インバウンド需要が注目されたとき、象徴的な受け入れ施策として国が力を入れたのがトイレの洋式化だった。補助金メニューが設けられ、予算が付きやすくなり、全国各地で洋式化が進んだ。だが、むしろ重視すべきはその後の維持管理・運用であり、設備の有無を注目すべきでないと加藤さんは主張しているわけ。 ネックは維持管理費用 福島駅近くの公衆トイレ  複数の自治体に確認したところ、公衆トイレの維持管理は業者に委託すると、毎月数万円~10万円かかる。温水洗浄便座を導入すると、維持管理費用が跳ね上がるようで、郡山市公園緑地課の担当者は「開成山公園内のトイレ6カ所への温水洗浄便座導入を検討したことがあったが、改修費用もさることながら、維持管理費用に年間200万円かかることが分かり、断念しました」と語った。 別の自治体担当者は「不特定多数が利用する公衆便所なのでいたずらされて破損することもたまにある。そのときの改修費用も考えると、温水洗浄便座の全面的導入に二の足を踏む面もある」と述べた。 それならば、せめて県内を代表する観光地や道の駅だけでも温水洗浄便座を充実させるべきだ。 さまざまなトイレを回っていて意外だったのは、首都圏からの電車利用客にとっての玄関口となるJR福島駅、郡山駅、いわき駅は意外とトイレが少なく、温水洗浄便座も配置されていなかったこと。 福島市の市民からはこのような不満が聞かれた。 「駅前の飲食店で飲んだ後、バスで帰る前にトイレに寄りたいと思ったが、駅ビルは20時で閉まっており、どこにトイレがあるのかさっぱり分からず難儀しました。結局、駅の端っこの交番の脇にある市の公衆トイレを発見して、難を逃れましたが、夜間は近づいたときだけ照明が付くようになっており、遠目にはさっぱり分からなかった。観光客には全く優しくないと思いますよ」 コロナ禍前は、酔っぱらった男性がトイレまで我慢できず、福島駅の東西をつなぐ地下道「東西自由通路」で立ち小便をしていた――という恐ろしい話も聞いた。 福島市ではこうした状況を改善するため、7月31日、街なか広場北側のパセオ通り沿いに駐輪場や倉庫と併設する形で、24時間利用可能なトイレを整備した。総事業費は約1億4000万円。さらに、福島駅東口再開発の動向を見ながら、既存のトイレの改修も検討していく考えだ。 中心市街地のトイレ不足はどこも共通している。7月13、14日に喜多方市中心市街地の商店街で行われた「喜多方レトロ横丁」。3年ぶりの開催となり、多くの人でにぎわったが、公衆トイレなどが近くにないため、メーン会場に近いリオン・ドール喜多方仲町店のトイレには長蛇の列ができていた。 同イベントを主催した会津喜多方商工会議所の担当者は、「会場には3カ所の仮設トイレを設置したが、和式タイプということもあり、女性や若い世代には敬遠されがちです。一部の飲食店や土産店で頼んで借りることもできるだろうが、気軽に使いづらい。そのため、どうしてもリオン・ドールのトイレに集中したようです」と悩みを語った。結局、安心して利用できるトイレに集中するということだ。 不気味な開成山公園トイレ 開成山公園のトイレ  そういう意味で、県内のトイレを回ってみて「ここは安心して利用できない」と感じたのは郡山市の「開成山公園」だ。和式便所が多いうえ、壊れて使用できない便器もあった。 同公園内には人気ゲーム「ポケットモンスター」のキャラクター・ラッキーをモチーフにした「ラッキー公園inこおりやまし」が開園しているが、ここで用を足したいと考える人は少ないのではないか。 園内で自転車を止めて話し込んでいた2人の女性にトイレについて話を聞いたところ、年配女性は「清潔さはそれほど気にならないが、和式トイレだと足が痛くなるので、洋式にしてほしい」、中年女性は「園内のトイレで自ら命を絶った人がいるというウワサを聞いて、不気味なのでしばらく利用していない」と話した。 市によると、現在トイレのリニューアルも含めた「開成山公園等Park―PFI事業」の事業者公募中で、2023年度からの事業開始に向けて手続きが進められているという。 2021年、五輪競技の会場になったあづま総合運動公園のトイレは、温水洗浄便座を導入しているところがあったが、全般的に施設が古くて狭く、暗い雰囲気が漂う。 ちなみに、県内には汲み取り式トイレもあるのではないかと予想していたが、今回訪れた中では一つもなく、水洗化が進んていることを実感した。ただ、登山道にあるトイレなどはそういったところも多い。微生物を利用して排泄物を分解する「バイオトイレ」であれば悪臭は抑えられるので、状況が変わっている可能性もある。そうしたトイレ事情に関しては、稿を改めて取り上げたい。 時間の都合で回れなかった観光施設も多いが、総じて県内観光地のトイレは洋式化が進んでおり、温水洗浄便座も普及していると感じた。ただ、一般社団法人日本レストルーム工業会のホームページによると、温水洗浄便座の一般世帯への普及率は80・3%。それを考えると、観光地においても、もっと積極的に普及に取り組んでもいいのではないか。 今後の課題は日本トイレ研究所の加藤氏が話していた通り、いかにすべての人が安心して使えるトイレを整備していくか、という点であり、そのための維持管理費用をどう確保していくかということになる。そこに関しては、いかに県や市町村がトイレの維持管理の重要性を理解し、観光客への〝おもてなし〟の意識を持って、「安心して利用できるトイレ」を作っていけるか、ということになろう。

  • 放火から更生できなかった福島駅切り付け男

    (政経東北2022年8月号)  2021年11月にJR福島駅西口で切り付け事件を起こし、殺人未遂などの罪に問われていた70歳の男に7月20日、懲役11年(求刑12年)が言い渡された。福島刑務所を出所してわずか4日での犯行だった。男は「保護観察所の職員に冷たい対応をされ、事件を起こすことで間接的に復讐を考えていた」と動機を話した。過去に放火事件を起こしており、重大事件の犯罪者ほど支援が受けられない現状がある。再犯傾向を強め、暴力が無防備な公共空間に向けられる悪循環が起こっている。 保護観察所に恨み なぜ無差別殺人へ 福島刑務所  男は住所不定、本籍山形県米沢市の高橋清被告。裁判では車椅子に乗り入廷した。耳には補聴器を付けていた。公判中、証言台に立つことを除いてはほとんどの間、目をつむりうつむいていた。7月11日の初公判で殺人未遂と銃刀法違反の罪状を記した起訴状が読み上げられると、裁判長の「間違いはありますか」との質問に「殺意を持ってというのが間違いです」と答えた。 被告は福島刑務所を出所してから4日目の2021年11月15日に、福島駅西口で両手に包丁を持ち、当時24歳の男性と83歳の女性を切り付けて殺そうとした。男性はよけたため右腕に全治13日の傷、女性は腹部に加療14日の刺し傷を負ったが一命をとりとめた。被告は無差別切り付けの動機を「大きな事件を起こして報道されることで、福島保護観察所の対応を世間に知らせたかったから」と話す。なぜ無関係の人を襲うに至ったのか。 被告には切り付け事件とは別に前科が4犯あった。そのうち3犯で計15年以上服役している。切り付け事件の動機につながるのは3犯目の放火の罪だ。 2009年6月4日午後7時半ごろ、高橋被告は居住していた福島市南沢又の2階建て木造アパートの一室でライターを使って新聞紙に火をつけ、段ボール箱に燃え移らせてアパートを全焼させた。ここには2犯目の刑期の仮釈放中に更生保護施設の世話を受けて入居していた。市内の協力雇用主の下で働いていたが、仮釈放期間満了後、会社を解雇されると思い込み「死ぬか刑務所に入るしかない」と考えて犯行に及んだ。自首するが、現住建造物等放火の罪に問われ、同年10月、求刑通り懲役8年を言い渡された。 2017年9月に刑期を終え、同月9日に福島刑務所を出所した。前科があり、住居がない65歳の新規就労は難しい。放火事件を担当した弁護士は、高橋被告に、出所後は生活保護を申請すること、受給までには時間がかかるので、その間は保護観察所の更生緊急保護を受けるようにアドバイスしていた。 更生緊急保護とは、刑務所満期釈放者や起訴猶予者などが、親族や公共機関から自立更生に必要な保護や援助が受けられず生活にひっ迫している場合に、本人の申し出に基づいて保護観察所が行う緊急の措置だ。生活が不安定になって再犯に及ぶのを防ぐ目的がある。 「保護観察所に行けば、生活保護受給までの間、面倒を見てもらえるだろうと先生に言われたので行きました」(裁判での高橋被告の発言)。 出所から2日後の2017年9月11日に福島保護観察所を訪ねた。刑務所から発行される前科や経歴を記載した保護カードを提出して「何とかお願いします」と頼んだ。保護施設への入所を望んだが、職員から「うちではだめなので役所に行ってください」と断られたという。理由は告げられなかったと話す。 福島保護観察所(法務省HPより)  職員から福島市役所までの地図を渡された。高橋被告は市役所で生活保護を申請すると「あなたは必ず受給できます」と言われたという。ただ、受給開始までは1カ月程度かかると聞かされた。 市役所の担当者から「住むアパートは自分で探しなさい」と言われたので不動産業者を訪ねたが、住所不定で保証人もいないので断 福島市役所 られた。野宿をし、市役所と不動産業者を行き来した。担当者から「共同生活の見込みが立ったので、それまでの1カ月間なんとか生活してください」と言われた。 出所直後1万2000円ほどあった所持金は半分になっていた。法テラスに相談に行くと、10万円まで借りられる緊急融資制度を教えてもらったが「どこで受けられるか分からなかったので行かなかった」。出所から6日目の同月14日深夜、市内のコンビニで店員にナイフを突き付け、金を要求。強盗未遂で捕まった。 被告「自分は死ねということか」 切り付け現場のJR福島駅西口  施設への入所を申請し拒否された時の心情を今回の裁判で弁護人に聞かれ、高橋被告は「自分に死ねということなのかと思った」と答えた。判決ではこの時の絶望感に「理解できないでもない」と言及している。だが前科が放火の場合、更生保護施設への入居は難しい。出所後、1日4合ほど飲酒し、保護観察所に行くまでの3日間で所持金1万2490円のうち半分の6474円を使っていたことも悪印象を与えた。検察側は今回の裁判で、被告の前科が放火だったこと、2017年の出所後に相当量の飲酒があったこと、数日間で所持金を無計画に使い更生の意欲が認められないことから、保護観察所が施設での生活になじまないと判断し、委託を行わなかったのは妥当と説明している。 強盗未遂の罪に問われた被告は同年11月に懲役4年(求刑5年)の判決を受けた。再び福島刑務所に収容され、出所後に「注目される事件を起こし保護観察所の対応を知らしめてやろう」と考えるようになった。服役中は信夫山の神社の放火を考えていたが、「複数人を傷つけなければ大事にはならない」と出所後に無差別殺人を計画した。 4犯目の刑務所生活4年間は出役拒否、作業拒否や建物等の損壊などで懲罰を計10回受けたため満期を過ごした。2021年11月12日に出所。保護観察所や役所には向かわず、全財産12万2343円を持ってその日のうちに市内のホームセンターで切り付けに使用した包丁を買った。福島駅西口のホテルに連泊し、犯行現場の下見や映画館に立ち寄るなどして過ごした。出所からわずか4日で犯行に及んだ。 なぜ無差別殺人なのか。被告は裁判で「保護観察所の職員を襲うことも考えたが警備員がいるからやめた。不審だと思われると入ることもできない」と話した。無防備な人をあえて狙ったということだ。当初は駅西口にあった入浴施設での切り付けを考えていたが既に閉店していたため断念。駅西口の花壇の縁に座って待ち合わせをしている人たちが「死んでも構わない標的」になった。 腹部を刺された80代の女性は「なんで私なんだろうと悔しい気持ちでいっぱいです」と取り調べに話している。20代の被害者男性は「事件後も公衆の場で目の前の人が予期しない動きをすると、事件を思い出し不安になります」と裁判で証言。精神的な傷は癒えずカウンセリングを受けているという。 被告が一方的に恨みを持っている福島保護観察所は事件をどう捉えているのか。見解を尋ねると畠山清寿企画調整課長は「訪問者の個人情報を保護する観点から、個別の事案には答えられない」と回答した。更生緊急保護については、一般論として「必ずしも本人の希望通りの保護が受けられるとは限らない」という。 更生緊急保護制度について研究している信州大学社会基盤研究所の石田咲子助教(刑事政策)は「重大事件を犯した人に対する更生支援の在り方が改めて浮き彫りになった事件です」と捉える。重大事件を起こした人物が、刑期を終えて出所してもその罪の内容から身元を保証する人が現れず居住先が見つからない。支援が受けられず、環境が悪化し更生意欲も湧かない。罪を犯してまた刑務所に戻るという流れだ。 「仮釈放者には、出所後も保護観察が義務付けられ法的な支援が受けられますが、満期出所者は出所時点で刑が終わったことになり、その後法的な支援を受けられる定めがありません。更生緊急保護は主にこのような満期出所者を対象としています。本人から保護観察所への希望があって初めて対象となります」(同) 保護観察所が直接行う更生緊急保護(自庁保護)の内容は、宿泊場所の供与や食事、衣料、宿泊場所までの旅費の給与・貸与、医療援助のほか「一時保護事業を営む者へのあっせん」などがある。それとは別に更生保護施設等への宿泊を伴う保護の委託(委託保護)もあり、こちらの方が支援の主流だ。2020年の更生緊急保護の実施人員数は、自庁保護総数で計5577人(うち「一時保護事業を営む者へのあっせん」が1847人で最大の約33%)、委託保護は4595人だった。 刑期を終えたら81歳  高橋被告は更生保護施設で生活する委託保護を希望したが断られた。全国には民間が運営する更生保護施設が約100カ所あるが、大半が住宅街に立地。地域での理解が必要なことから、周辺住民の不安に配慮して、放火や性犯罪の前科がある人や暴力団関係者の入所を認めていないところも多い。 「保護観察所が断った理由を高橋被告に教えなかった事情は分かりませんが、更生緊急保護の枠内で支援するよりは、市役所を通して福祉の方につなげることが適切と判断したのではないでしょうか。ただし被告が裁判で述べた通り、1カ月待てば受給できると決まっていたのであれば、あくまでつなぎという意味で金銭を提供する方法もあったのではないかと思います」(石田助教) ところが、高橋被告は生活保護受給までの生活を保護観察所に相談することなく自ら連絡を絶った。法テラスなど他の支援窓口も再訪はしていない。 「窓口に1人で赴き、支援内容を理解して自発的に動くことが困難な出所者もいます。保護観察所の予算の範囲ではできないし、法的な義務付けもないので職員に強制はできませんが、保護観察所が出所者に同行して役所とつないでいくというような、ある種『おせっかい』も大事なのではないでしょうか」(同) 前出の畠山課長も「支援窓口と出所者をつなぐために職員が同行する場合もあります」と話す。生活保護が受給されるまで、更生緊急保護に基づいて生活費を提供することもあるという。ただ、各地の保護観察所を渡り歩き、生活費をもらうだけで更生につながらない出所者も中にはいるようだ。 2009年の放火事件の裁判で検察官は「2度あることは3度ある。3度目に火をつけるのは、皆さんの家の隣近所かもしれません」(福島民友2009年10月9日付)と高橋被告への厳罰を訴えた。求刑通り懲役8年が科されたわけだが、出所後に支援にたどり着けなかったことから保護観察所を一方的に恨み、5度目の罪を犯した。今回の刑期を終える時、被告は81歳。年齢から6度目はないと思いたい。被告は「刑務所は自由がなく地獄」と語っている。それでも、自分の晩年は「地獄」で終わってもいいと思い、凶行に及んだのだろうか。 あわせて読みたい 【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人 【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

  • 【郡山市】大量カメラで社員を「監視」する山口倉庫

     郡山市の山口倉庫㈱で社員の退職が相次いでいるという。原因は大量の監視カメラ。社内の至る所に設置され、四六時中〝監視〟されている状況に、社員は気味の悪さを感じているようだ。決して働き易いとは言えない職場環境。経営者の見識が問われる。 「気味が悪い」と退職者続出!? 郡山市三穂田町にある山口倉庫の本社倉庫  山口倉庫は1967年設立。資本金1000万円。郡山市三穂田町の東北自動車道郡山南IC近くに建つ本社倉庫のほか、市内にある複数の自社倉庫で米や一般貨物の保管・管理を行っている。駐車場経営や土地建物の賃貸なども手がける。 現社長の山口広志氏は2000年に就任。祖父の松雄氏が創業し、父の清一氏が2代目。広志氏は清一氏の二男に当たる。 2001年に建てられた本社倉庫の不動産登記簿を見ると、東邦銀行が極度額3億6000万円と同4億9200万円、大東銀行が同6億円の根抵当権を設定していたが、昨年までにすべて抹消されている。詳しい決算は不明だが、ある筋によれば年間の売り上げは2億5000万円前後で、4000万円前後の利益を上げているというから堅実だ。 「数年前に一度、大きな赤字を出した。原因は、倉庫で預かっていた製品に不備が生じ、損害賠償を払ったため。そこに会社合併による株式消滅損が重なった」(事情通) 会社合併とはグループ会社内の動きを指す。山口氏は、山口倉庫のほかに㈱山口商店、山口不動産㈱、旭日商事㈲、東北林産工業㈱の社長を務めていたが、4社は2019年から今年初めにかけて山口倉庫に吸収合併された。一方で、20年に不動産業の山口アセットマネジメント㈱を設立し、社長に就いている。  そんな山口グループを率いる3代目をめぐり、本誌編集部に次のような情報が寄せられた。 〇山口倉庫の社内に大量の監視カメラが設置されている。 〇ただでさえ台数が多い中、最近も新しい監視カメラを複数導入した。 〇社員だけでなく、訪問客の様子も監視しているらしい。 〇山口氏は自宅から、監視カメラで撮った映像や音声をチェックしている模様。 〇こうした職場環境に気味の悪さを感じた社員が次々と退職し、その人数はここ4、5年で十数人に上る。 個別労働紛争解決制度とは 個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html  話は前後するが、筆者は山口氏に取材を申し込むため、4月中旬に山口倉庫を訪問したが、ほんの数分の滞在中、目の届く範囲内だけで玄関ホールの天井に1台、事務スペースの天井に4台のドーム型カメラが設置されているのを目撃した。事務スペースは更に奥まで続いており、そちらは目視できなかったため、監視カメラは更に設置されている可能性が高い。こうなると、他の部屋(応接室や会議室など)や倉庫内の設置の有無も当然気になる。 読者の皆さんには、出勤してから退勤するまで四六時中〝監視〟されている状況を思い浮かべてほしい。それが働き易い職場環境と言えるだろうか。あくまで個人の感想だが、少なくとも筆者は働きたくない。 もちろん、職種によっては常に監視が必要な仕事もあるだろう。しかし、倉庫業がそれに該当するかというと、顧客から預かっている製品の安全管理上、一定数の監視カメラは必要だが、事務スペースなどに複数設置する必要性は感じない。 山口広志氏とはどのような人物なのか。本誌は郡山市内の経済人や同業者などを当たったが「彼のことならよく知っている」という人には行き着かなかった。その過程で、ようやく山口倉庫の元社員を見つけることはできたものの「もう関わりたくない」と断られてしまった。在職中の苦い経験を呼び起こしたくない、ということか。 問題は、社員が気味の悪さを感じる職場環境を放置していいのか、ということだ。山口氏からすると「余計なお世話」かもしれないが、本誌は労使上、見過ごすべきではないと考え、二つの検証を試みる。 一つはハラスメントに当たるかどうか。 ハラスメントが「人に対する嫌がらせやいじめなどの迷惑行為」であることを考えると、該当するようにも思える。しかし、職場におけるパワハラ・セクハラ・マタハラは、厚生労働省が該当する条件を明示しており、大量の監視カメラが設置されている事実だけではハラスメントには該当しないようだ。 福島労働局雇用環境・均等室の担当者もこう話す。 「監視カメラの設置は法律では禁じられていない。社員の働きぶりを監視するのが目的と言われれば、あとは経営者の判断になる」 それでも、社員が「そういう職場環境は嫌なので改善してほしい」と求め、経営者が応じなかった場合、都道府県労働局では個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき①総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談、②都道府県労働局長による助言・指導、③紛争調整委員会によるあっせんという三つの紛争解決援助サービスを行っている。 要するに労使間の「民事上のトラブル」を、労働局が仲介役となって話し合いによる解決を目指す取り組み。それでも解決しなければ、あとは裁判で決着を図るしかない。 ちなみに、福島労働局が公表する令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況によると、民事上の個別労働紛争相談件数は5754件(前年度比マイナス2・0%)。相談内容の内訳は「いじめ・嫌がらせ」20・6%、「自己都合退職」15・7%、「解雇」9・5%、「労働条件引き下げ」6・5%、「退職勧奨」7・6%、「その他」40・1%となっている。 「その他」の項目には「雇用管理等」「その他労働条件」とあるから、仮に監視カメラの大量設置を相談した場合はここにカウントされることになるのだろう。 二つは、監視カメラで撮影した映像が個人情報に当たるかどうか。 経営者が職場に監視カメラを設置したとしても、それだけで「プライバシーの侵害」には当たらない。経営者には社員がきちんと働いているか指揮監督する必要性が認められており、そもそも職場は「働く場所」なので「プライバシーの保護」という概念が該当しにくいからだ(更衣室やトイレに監視カメラを設置すれば、プライバシーの侵害に当たることは言うまでもない)。 ただ、撮影された映像が個人を特定できる場合、その映像は個人情報に該当するため、個人情報保護法が適用される可能性がある。 気になるカメラの性能 社員の様子を常に監視!?(写真はイメージ)  個人情報保護法18条1項(利用目的による制限)は次のように定めている。 《個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない》 個人情報取扱事業者とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者を指す。もし山口倉庫が、監視カメラで撮影した映像を事業に役立てる使い方をしていたら同事業者になる。一方、社員を指揮監視する目的で監視カメラを設置していれば同事業者には当たらない。同社のホームページを見ると同事業者であることを謳っていないので、監視カメラは純粋に社員の指揮監視が目的なのだろう。 しかし「本当に事業に役立てる使い方をしていないのか」「実は使っているのではないか」という疑いは、撮影されている社員の側からするとどこまでも残る。そうなると、社員個人が特定できる映像は同法によって保護されるべき、という考え方も成立するはず。 だからこそ経営者は、監視カメラの設置自体には違法性がないとはいえ、設置の目的や設置する場所、撮影した映像の利用範囲などを社員にきちんと説明することが大切になる。何の説明もなければ、後々トラブルに発展する恐れもある。 弁護士の見解  県北地方の弁護士に見解を尋ねたところ、このように回答した。 「監視カメラが大量に設置されているからといって、直ちに『ハラスメントに当たる』『個人情報保護法違反だ』とはならないと思う。ただ、監視カメラがどのくらいの性能を有しているかは気掛かりだ。単に社員を指揮監視するだけなら低い性能で十分なはずだが、ズームで社員の手元まで見えたり、音声まで拾える高い性能であれば、社員のスマホ画面をのぞき見したり、個人的な会話を盗み聞きすることもできてしまう。そうなると、プライバシーの侵害に当たる可能性がある」 前述した通り、筆者は山口倉庫を訪問し、居合わせた社員に▽監視カメラを大量設置する目的、▽社員に対する説明の有無、▽社員が相次いで退職しているのは事実か、▽今の御社が「社員にとって働き易い職場環境」と考えているか――等々を記した山口社長宛ての質問書を渡し、期限までの面会か文書回答を求めたが、4月24日現在、山口社長からは何の返答もない。 余談になるが「郡山の山口一族」と言えば、かつては別掲の勢力を誇り、今は子どもたちが各社を脈々と引き継いでいる。そうした中、山口広志氏は一族トップである故・清一氏の後を継いだ。その広志氏が、法的には問題ないかもしれないが、社会常識に照らして強い違和感を抱く経営をしているのは、一族にとって恥ずべきことと言えないか。 あわせて読みたい 元社員が明かす【山口倉庫】の「異様な職場」 【福島国際研究教育機構】職員が2日で「出勤断念」 二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

  • 石川中元講師「男子生徒に性加害」の実態

     ジャニーズ事務所創業者による性加害に日本社会が注目している。かねてから被害告白はあったが、所属タレントを起用している大手マスコミは黙殺。海外メディアが報じ、元所属タレントが会見したことで無視できなくなった。少年たちへの性加害は芸能界だけではなく、福島県でも起こっていた。中学の男性音楽講師が男子児童・生徒40人余りに性的行為を強いて、一部が罪に問われている。 ジャニーズだけではない少年への性加害   4人の男子児童・生徒に対する強制わいせつと児童買春・ポルノ禁止法違反(製造)に問われているのは石川中学校で音楽講師をしていた西舘成矩被告(40)。事件は昨年10月に被害生徒が別の教員に相談して発覚した。 県教委が調査すると、男子児童・生徒少なくとも42人にわいせつな行為をしていた。同11月に懲戒免職となり、同12月に逮捕・起訴された。現在は保釈中で、福島地裁郡山支部で審理が続いている。今年6月に判決が下される予定だ。 西舘被告は、県教委に「ふざける中で生徒との距離間がつかめなくなった。わいせつやセクハラは女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話したという(昨年11月26日付福島民友より)。 西舘被告は、大学で社会科の教員免許を取得し、2007年4月から高校に社会科の講師として赴任していた。その後、大学に通い直し音楽の教員免許を取得。小中学校で音楽講師として働き始めた。罪に問われている性加害のうちで古いものは、20年10月、当時11歳の小学6年生男子Aに対するものだ。 西舘被告は音楽の授業中や休み時間に、Aの性器を服の上から撫でていた。欲求はエスカレートし、放課後、ピアノの練習中に音楽室で2人きりになった際にズボンとパンツを引き下ろし、性器を触った。インターネットで見つけた、自慰行為を教えるウェブサイトをAに見せて、やり方を教えるのを口実にしていたという。わいせつ行為はスマートフォンで撮影していた。Aは戸惑い、言葉を失った。親にも打ち明けられなかった。 西舘被告は「Aと同じように親や他の教員には言わないだろう」と考え、さらに別の子どもたちに手を掛けた。21年4月に石川中に赴任。音楽の授業や休み時間には「冗談半分」で男子生徒たちの性器を衣服の上から触った。罪に問われているだけでも、22年7~10月に少なくとも3人の男子生徒の性器を触るわいせつ行為をしている。犯行場所はいずれも音楽準備室で、やはりスマートフォンで動画に収めていた。  男子生徒Bには、片付けを手伝うように言って2人きりにした。「自慰行為はしたことはあるか」「陰毛は生えたか」。Bに迫り、ズボンとパンツを下ろさせて触る行為に及んだ。撮影した動画は自宅で再視聴し、西舘被告自身の自慰行為に使った。 動画拡散を恐れる被害者・保護者 男子生徒たちへの性加害が行われていた石川中学校。西舘被告は、音楽準備室で2人きりの状況をつくって犯行に及び、被害者には口止めをしていた。  性加害と動画撮影は不可分だ。元交際相手に復讐するために拡散する「リベンジポルノ」や売買目的でサイト、アプリを通じてネットにアップするなど目的はさまざま。一度ネットに流出してしまえば全世界に広がり、完全に消すことはできない。被害者、いや加害者の意図すら離れて流出・転売され、被害者は生きた心地がしない。犯罪組織の収益源となっているケースもある。そこでは子どもの性的虐待映像も取り引きされている。 「ネットに拡散してしまった動画は回収不可能と知りました。まさか自分の息子が被害者になり、動画を撮影されていたことに驚愕しています。息子の一生のトラウマになるのではと不安です」(検察官が読み上げたある生徒の保護者の供述調書) 西舘被告は供述で、子どもたちへの犯行を繰り返した理由をこう話している。 「自分を慕っていて、かわいらしく愛嬌があった。じゃれあうつもりで、嫌がる様子は見えなかった」 一方で「誰にも言わないでね」と口止めしていた。 性犯罪を繰り返す人間には認知のゆがみや依存症の傾向があり、更生には治療的プロセスが不可欠だ。西舘被告は保釈後に石川町内の実家に帰り、依存症解消のプログラムに通っている。県教委や検察の取り調べに対し「もう教壇には立たない」と表明。現在は実家の寺の業務を手伝っている。 6月9日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる審理では、検察側の論告求刑、弁護側の最終弁論が行われ、結審する予定。複数の被害者とは示談が成立している。次回の裁判には寺の総代会長が弁護側の証人として出廷し、情状酌量を求める。保護者だけでなく檀家も注目する事件だ。判決は、次回の審理が順調に進めば、同20日午後1時に言い渡される予定。 冒頭で述べたように、西舘被告は県教委に「わいせつやセクハラは女子にはやっていけないという意識はあったが男子にはなかった」と説明していた。誰に対しても許されることではない。歪んだ考えだ。 今回の事件では、男女の身体的性差が明確に分かれる、第二次性徴の過程にある子どもを性の対象と捉え、教師の立場を悪用して犯行に及んだ点を厳しく問わなければならない。この点は、ジャニーズ事務所で絶大な権力を誇った創業者の故・ジャニー喜多川氏と共通している。 密室が用意できた点もジャニーズの事件と同様、性加害行為を覆い隠した。ジャニー喜多川氏はそのための高級ホテルを契約していた。音楽講師だった西舘被告は石川中で、音楽室と準備室という自分が管理する場所を持ち、いずれもそこで犯行に及んでいた。 授業の準備の手伝いという名目なら生徒にも同僚にも怪しまれない。中学では国語や数学などの教員は複数いるが、音楽の教員は1校に付き1人だ。他の担当科目を持つ教員とは別に、自室を持っていることが多い。異変を察知するために、教員たちはクラス担任や担当教科の垣根を越えてコミュニケーションを活発にする必要がある。教員から児童・生徒への虐待行為だけでなく、同僚教員がハラスメント被害を受けているかどうかも発見できるだろう。 西舘被告による性加害は、教えていた小学校で2020年には始まっていた。被害を受けた子どもが自ら周囲の大人に打ち明けるのは困難だ。西舘被告を受け入れた学校では周囲の教員に異変を察する力が求められていたが、被害を防ぐことはできなかった。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

  • 中学受験【ベスト学院】「県立安積中専門校」を開校

     ベスト学院(郡山市)は3月21日、「ベスト学院県立安積中専門校」を開校させた。 県立安積中学校(仮称)は、県教委が新たに県立安積高等学校内に設置する中高一貫校。開校は2025年度予定で、設置課程・学科は全日制普通科。生徒募集定員は60人で、通学区域は県下一円となっている。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)事業における課題研究を軸とした産学官連携や、地域との共創等を特色とする取り組み、文化活動を尊ぶ郡山市の立地を生かした教育を行う。また、教育の柱として、STEAM教育の推進を掲げ、創造性、表現力、課題解決力等を育成する、としている。 県立中学校の入学者選抜は、小学校で身につけた科目横断型の問題が出題される「適正検査1」と、与えられた条件のもとで自分の意見や感じられたことを分かりやすく適切に文章で表現する力が求められる「適正検査2」、その他「面接試験」「調査書」で行われている。 ベスト学院県立安積中専門校は入学者選抜に出題される「適正検査」に必要な力を学年ごとに指導していく。出題される問題傾向は科目の枠にとらわれず「計算処理能力」はもちろん、「資料・図を読み取る力」「読解力」「思考力」や「表現力」「探求心」等が求められる。知識を理解し、吸収する授業と演習を繰り返すことで確かな学力が身につき、県立安積中学校入学者選抜に特化した指導が受けられる専門校となっている。対象は県立安積中の一期生となる小5年生から小3年生まで。小3年生は算数と国語の2教科、小4・5年生は算数と国語の2教科に加え、理科と社会を加えた4教科コースから選択が可能。 授業は週あたり算数・国語は100分、理科・社会は50分で、従来の黒板を使用した専門講師の分析・指導による授業に加え、最新のAIを用い、一人ひとりの弱点発見と補強ができる「atama+」を活用し指導する。「得意」「苦手」「つまずき」などをAIが分析し、一人ひとりの「自分専用カリキュラム」で個別学習時間を設けることにより、つまずいた時間までさかのぼって学習できるため、最短最速で成績が上がるという。また、「県立安積中合格」という同じ目的を持った生徒が集まる環境のため、ライバルを意識できるほか、日々の授業を通して自分の学習や成績を客観的に見直すことも可能となる。 「ベスト学院は創設以来、3つの人づくりビジョンに基づいて運営しています。一つ目が子どもたちの夢達成のために全力を尽くす。二つ目が社会に貢献できる人材育成。三つ目が次世代の真のリーダー育成。これらが今後新たに開校する県立安積中高一貫校の目標と合致していると考えています。郡山市から、県内はもとより全国各地や世界中で活躍する人材を育成していきたいという思いから専門校を開校させていただきました。子どもたちの夢をしっかりと応援できるような、教育をしていきたいと考えています」(ベスト学院の担当者) ベスト学院は県内50教室以上を展開し、これまでも会津学鳳中学校等の入試での指導実績と分析力があり合格実績は抜群。高校受験だけではなく中学受験にも強い学習塾だ。 問い合わせは0120ー535ー010か、ベスト学院本部事務局☎024ー934ー3330まで。 県立安積中受験コース(ホームページ) 【受験料無料】学力確認テストに申し込む あわせて読みたい 【米アップル出身】藤井靖史さんに聞く「DXって何?」 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【アクアマリンふくしま】施設をリニューアルオープン

     環境水族館「アクアマリンふくしま」(いわき市)の子ども体験館「アクアマリンえっぐ」が3月20日にリニューアルオープンし、多くの観光客が訪れている。  施設をリニューアルオープン  同施設は釣り場がある子ども向けの体験型施設で、楽しみながら自然の大切さや生物の多様性、命の尊さなどを学ぶことができる。今回のリニューアルでは、はく製タッチやものづくりワークショップ、生き物調査、オリジナルのぬり絵など、いろいろな体験ができるエリアへと生まれ変わった。新たに誕生した体験プログラムは次の通り。 「いろいろミュージアム」――いろいろなはく製にさわって生物の多様性を学ぶことができる。参加料100円ではく製クイズにもチャレンジできる。 「いろいろ工房」――水族館の生き物、海や森にある素材を使ったものづくりワークショップを随時開催。つくるものは時期によって変わる。 「いろいろアーティスト」――アクアマリンふくしまの展示をイメージした、個性豊かな生き物たちのぬり絵が楽しめる。 「すくすくキッズ」――絵本を読んだり、おもちゃで遊んだりすることができる親子のくつろぎスペース。 これらリニューアルオープンと同じ3月20日には、館内の生き物解説を専門とする解説員「こんべえズ」がデビューした。ごんべえズはアクアマリンふくしまをより楽しんでもらうため「ごんべえズトーク」と題したさまざまな解説を行っている。 「ごんべえズ」のメンバー  例えば、潮目の海の大水槽の展示を解説してくれる「黒潮水槽の生き物たち編」は土日、「黒潮水槽のえさのじかん編」は毎日開催している(火曜は給餌がないため、解説内容は前記の生き物たち編になる)。所要時間は15分、参加費無料。また不定期開催の「さわって学ぶはく製編」では、さまざまな生き物のはく製について解説してくれる。開催時はアクアマリンえっぐ内に掲示される。 大水槽展示の解説の様子  ごんべえズの活動は裏側の解説だけにとどまらない。「ごんべえズガイド」と題して施設のバックヤードを紹介しており、特別ツアー「バックヤード水槽大公開コース」では魚を繁殖している水槽やデビュー前の生き物を飼育する水槽が並ぶ水生生物保全センターを中心に案内してくれる。どんな生き物に出会えるかは、その時のお楽しみだ。ちなみにアクアマリンボランティアが水族館の裏側を紹介してくれるバックヤードツアーも3月25日から復活した。各ツアーの開催日時は公式サイト等で確認していただきたい。 ごんべえズの皆川裕斗さんはこのように話している。 「さまざまな体験を通して生き物や海の魅力に気付いていただければうれしいです」 生き物を通じてさまざまな体験が楽しめるアクアマリンふくしまに足を運んでみてはいかがだろうか。問い合わせは☎0246ー73ー2525まで。 前売り券を購入する 電子チケット 【アソビュー】 コンビニチケット 【セブンチケット】 あわせて読みたい 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

  • 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年

     郡山市大平町の市道交差点で発生した一家4人死亡事故で、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた福島市泉の会社員高橋俊被告(25)に対し、地裁郡山支部は4月10日、禁錮3年(求刑禁錮3年6カ月)の判決を言い渡した。 裁判では、初めて通る道路にもかかわらず、助手席に置いたスマホに知人女性から連絡があるかどうか、気にしながら運転していたことが分かった。交差点に一時停止の標識などが設置されておらず、停止線も消えかかっていたのを踏まえ、小野寺健太裁判官は「過失の程度は重大であったとまでは言えないが、結果の重大性も考慮すれば、執行猶予を付けることは相当ではない」とした。 記者は夜、実際に現場を走ったが、坂道で加速するのに見通しが悪く、減速しながら慎重に降りた。判決によると高橋被告は約60㌔で交差点に入ったというから、漫然と運転した結果が悲劇を生み出したと言える。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

  • 【櫻井・有吉THE夜会で紹介】車中泊×グルメで登録者数10万人【戦力外110kgおじさん】

     テレビ離れが進む昨今、ユーチューブの全世代の利用率は9割だ。本誌の読者層であるシニア世代も、パソコンやスマートフォンで毎日のようにユーチューブを見ている人は多いはず。数あるチャンネルの中には、県内で活動するユーチューバーも多数存在する。その中に、異色のジャンル「車中泊&グルメ」系で人気を誇る「戦力外110kgおじさん(43歳)」がいる。なぜ視聴者はこのチャンネルにハマるのか、本人へのインタビューをもとに、その謎に迫ってみたい。 【戦力外110kgおじさん】福島県内在住おじさんユーチューバーの素顔 https://www.youtube.com/watch?v=_SxScudMxQ8&t=23s  週末夜のキャンプ場。辺り一面、真っ暗の中、ポツンと明かりが灯る1台のプリウス。その車の後部座席で、一人焼肉をしながらチューハイ「ストロングゼロ」をキメる――。そんな様子をユーチューブに配信している男性がいる。男性の名は「戦力外110kgおじさん」(以下、戦力外さんと表記)。戦力外さんのユーチューブのチャンネル登録者数は10・5万人。1つの動画が配信されれば20万回再生するのは当たり前で、中にはミリオン(100万回再生)に届きそうな動画も複数ある。  「110kg」という名の通りの巨漢が、決して広いとは言えないセダンタイプのプリウスの後部座席で、好きなものをたらふく食べ、大酒を飲む。そんな動画がなぜ多くの人に見られ、そして見続けられるのか。  戦力外さんの動画はチャンネルを開設してすぐに〝バズった〟(人気が出た)わけではない。  戦力外さんがユーチューブに動画を配信し始めたのは2020年2月。当初は釣りの動画を配信していたが、再生回数は数十回程度で、チャンネル登録者数も伸びなかった。  浮上のきっかけとなったのは「顔出し」だった。   戦力外さんは「正直なところ、40代である自分らの世代ってネットで顔出しするなんて気が狂っているというか、抵抗があったんですよね」と話す。今の40代は、匿名性の高い「2ちゃんねる」などを見てきた世代であり、「インターネットでは絶対に顔を出すな」と言われてきた世代でもある。それでも、戦力外さんは再生回数を伸ばしたい一心で顔出しを決意した。  「顔出ししたら登録者が100人を超えたんですよ。ユーチューブには『チャンネル登録者数100人の壁』というのがあります。そこを自力で超えられると、収益化の条件である『チャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間』に近づくと言われています。大体の人はこの100人の壁を超えられず、やめてしまうみたいですね」  チャンネル登録者数100人に達するまで7カ月を要した戦力外さんだったが、そこから1000人になるまでは、わずか3カ月だった。  顔出しと前後して、現在の動画の原点となる「プリウスの快適車中泊キットを110kgおじさんがDIY」という動画を配信したことも追い風となった。  プリウスの後部座席で使う食卓テーブル兼ベッドを作る動画だ。プリウスは後部座席を倒してフラットにしても、普段座るときの足置きのスペースがぽっかり空いてしまう。寝袋を敷いて寝ていると、どうしても足の部分がはみ出てしまい快適に眠れない。それを解決するために作られたのがこの台だった(写真)。このときの動画が初めて再生回数1000回を超え、戦力外さんにとって初バズり動画となった。戦力外さんは「釣りではなく、車中泊に需要があるのか!」と気付き、動画の内容を車中泊系へと変更していく。 車内に設置された食卓テーブル兼ベッド  2度目のバズり動画は「車上生活者の休日シリーズ」。その後、このシリーズが戦力外さんの主力コンテンツとなっていく。 戦力外さんは「このシリーズの第1弾で、いきなり1万回再生いったんです」と言う。  「再生回数が伸びた理由は、当時チャンネル登録者数20万人のユーチューバーさんが動画にコメントをくれたからなんです」  コメントの内容は「あなたみたいな人が、もしかしたらユーチューブで成功するのかもしれませんね。収益化するまで是非続けてください。わたしも応援します」だった。  ユーチューブに限らずSNSではよく起こる現象だ。多くのフォロワーやファンを持つ配信者(発信者)が、無名ユーチューバーの動画を一言「面白い」と紹介しただけで、瞬く間にその動画が拡散されていく。これをきっかけに戦力外さんは、収益化の条件であるチャンネル登録者数1000人・総再生時間4000時間を達成した。 動画を通じて疑似体験  動画の冒頭は、戦力外さんが車中泊をする場所に向かう道中の運転席を映している。無言で運転する戦力外さんが映し出され、テロップでその日にあった出来事などが紹介される。動画の説明欄に「この動画は半分くらいフィクションです」とある通り、テロップの内容は現実世界で起きたことに、戦力外さんが少し〝アレンジ〟を加えたものとなっている。  名前にあるもう一つのテーマ「戦力外」。これは、戦力外さんが日々の生活において「社会に出ると全然自分が役に立たない」、「俺って会社や社会では戦力外だな」と、打ちひしがれた経験が基になっている。   視聴者のコメント欄を見ると「おっちゃん見てると他人事には思えないんだよな。職場のストレスはよく分かる! この動画を見てると頑張んなきゃって不思議と思える。おっちゃん頑張って!」などと書き込まれている。  「動画の前半部分によく出てくる職場での失敗エピソードは、視聴者が自分よりきつい環境にいる人を見て、自分はまだまだマシだなって安心したい思いがあると思います。社会の戦力外おじさんが、もがきながら、ささやかな楽しみを見つけて楽しんでいる姿を見てシンパシーを感じるのでしょうね」 取材に応じる戦力外さん  メーンである動画の後半部分は、戦力外さんが車中で一人、ひたすら飲み食いするシーンだ。これがまた「食べ物がとても美味しそうで、美味しそうに食べる」動画なのだ。  視聴者のコメント欄には「見てると幸せな気持ちになれる動画を、ありがとうございます!」、「毎回、元気いただいてます」などと寄せられている。  「自分の好きなユーチューバーを見ることによって、自分もキャンプした気持ちになる。健康上の理由で食べたいけど食べられない人にとっては、私の動画を見て食べた気になる。そうやって疑似体験したいのかもしれませんね」 動画の編集時間は5時間  戦力外さんは1979(昭和54)年生まれの43歳。出身は山形県だが、幼少期から30代半ばまで猪苗代町で過ごす。学生時代は漠然と「物書きになりたい」という夢を持っていた。専門学生時代にはサブカルチャー雑誌『BURST(バースト)』にハマり、石丸元章、見沢知廉、花村萬月など、破天荒だが自由を感じるライフスタイルに憧れた。何か行動に移すということはなかったが、創作活動をしたいという思いは学生時代から抱いていた。  高校卒業後、家業である川魚の養殖業に就き、6年半前に実家を出て中通りに引っ越すタイミングで、インフラ系の会社に転職した。20代に真剣に打ち込んだのはフルコンタクト空手という格闘技だった。しかし膝のじん帯を断裂し、選手生命を断たれてしまう。  人生の大きな目標を失い「もう一つ生きがいを見つけたい」と思い立った戦力外さんが表現活動の第一歩として始めたのが、LIVEコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」だった。しかし、ポコチャはリスナーと直接会話するスタイルで、高度なコミュニケーション能力が要求されるため数カ月で挫折してしまう。  戦力外さんは「誰かと直接コミュニケーションせず、自分のタイミングで動画を撮り、じっくり編集できる方がいいんじゃないか」と考え、ユーチューブを始めた。  平日は会社で働き、休日になると動画撮影のため出掛ける。撮り終わったら自宅に戻って編集する。1つの動画の編集作業は平均5時間を要するが、「スマホを使ってベッドに寝ころびながらリラックスして作業しているので、そんなに大変ではないですよ」。  台本は作らず、頭の中で動画の構成を練っている。仕事は車の移動時間が長いため、その時間を有効活用し、面白いワードが出てくるのをひたすら待つのだという。 「美しいマンネリ目指す」「理想は水戸黄門とか孤独のグルメ」  戦力外さんのチャンネルの視聴層は35~60歳までが多く、男女比では男性が9割を占める。  「理想は水戸黄門とか孤独のグルメなんです。視聴率トップは取れないけど、ずっと見てくれる人がいる。美しいマンネリっていうんですかね、そんな動画でありたいですね」  戦力外さんの動画が限られた層にしか見られていないと分かるエピソードがある。戦力外さんは自身のユーチューブチャンネルを母親に薦めたそうだが、母親が熱心に見るのは猫やフォークダンスの動画で、いくら薦めても自身の息子が配信している動画を全く見なかったという。戦力外さんは「興味がなければ肉親の動画でも見ないんですよ」と笑う。 プリウスと戦力外さん  ユーチューブはユーザー一人ひとりの趣味趣向に合った動画がトップ画面に表示されるような仕組みになっており、普段見ないジャンルの動画はそもそも表示もされない。これはユーチューブに限ったことではなく、買収騒動で話題のツイッターなどのSNS、ゾゾタウンなどの通販サイトも同様だ。  ただ、世の中の〝おじさん〟しか見ないニッチな動画を配信しているはずが、最近は少しずつファン層が拡大している様子。北海道に撮影に行った際、チャンネル登録しているファンの女性と奇跡的に出会い、お付き合いするまでに至ったという。  声をかけられる機会も増え、特にキャンピングカーで旅をしているシニア世代の夫婦からが多いようだ。 専業ユーチューバーへ  戦力外さんは6年半勤めた会社を辞め、12月から専業ユーチューバーとして活動を始めた。  「収入は不安定ですし、専業としてやっていくのに不安はありましたが、これからは創作活動一本で食っていくんだと決めました」  ユーチューブでの収入は「サラリーマンの月収の2倍くらい」だという。再生回数の変動などにより月の収入が100万円の時もあれば10万円の時もあるような世界だが、ユーチューブで最も広告収入を得やすいのは3月と12月なので、そのタイミングで退職を決意した。  ユーチューブは再生数によって広告収入が決まる。その単価についてはユーチューブの規約で公言しないよう定められている。戦力外さんも明かそうとしなかった。  しかし、さまざまなユーチューバーの書籍の情報によると、現在、ユーチューブの広告収入単価は1再生あたり0・05~0・7円と言われている。トップクラスの人気ユーチューバーは、1つの動画につき、サラリーマンの平均年収の3~4倍の広告収入が入る計算となる。  とは言っても、そこまで稼げるのはほんの一握りで、急に動画が見られなくなることだってあるのだ。  ただ、戦力外さんは「ユーチューブはプライベートすべてがネタになる」と前向きに捉える。  「仮にユーチューブで稼げなくなり、アルバイトをすることになっても、それを動画にすればいい。いいことも悪いこともネタにできるのがユーチューブなんです」  専業ユーチューバーになれば撮影回数を増やせるし、動画を配信する本数も増える。海外向けのチャンネル開設も目論んでいる。  「私のチャンネルは日本語のテロップを入れているので日本人しか見ません。次は世界に向けて、言葉なしでも伝わるような動画も作っていければと思っています」  戦力外さんは、テロップ無しに加え、ユーモアもプラスアルファしていきたいと考えている。  「チャップリンやミスタービーンみたいなコミカルな動きを入れていけば面白いかなと思っています」  一度見たら見続けてしまう中毒性。これがユーチューブの性質であり、作り手はそこを目指して動画を作成する。  「好きなことで、生きていく」  これはユーチューブのキャッチフレーズだが、専業ユーチューバーとして生き残っていくためには、そうも言っていられない。戦力外さんは「自分が好きなものも大事ですが、それ以上に、視聴者が求めているものを常に考え、再生回数が落ちないように維持していかなければなりません」と漏らす。  「死ぬ時、『なんであの時に専業ユーチューバーにならなかったんだ』と思いたくないんです。やった後悔よりもやらない後悔の方が悔いが残るって言うじゃないですか」  そう笑って話す戦力外さん。この先、どのようなチャンネルや動画を作り、ファンを拡大していくのか。〝おじさんユーチューバー〟の挑戦は始まったばかりだ。 追記【TBS 櫻井・有吉THE夜会で紹介】(2023年5月23日放送分)戦力外さんが紹介される! チュートリアル・徳井義実さんが、おすすめのユーチューブチャンネルを紹介するコーナーで戦力外さんを紹介!タイトルは「なぜか見てしまう!脱サラ親父の哀愁車内メシ」。23分30秒頃から。 Paravi(パラビ)で視聴する あわせて読みたい 鏡田辰也アナウンサー「独立後も福島で喋り続ける」

  • 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

    (2022年9月号)  郡山市内の放課後児童クラブ支援員が保護者会費を横領した――。編集部宛てにこんな告発メールが届いたことを8月号で紹介したところ、記事脱稿後に市が記者会見を開き、概ね事実だったことが分かった。子どもたちの〝おやつ代〟として使われるべき金を生活費として使い込んでおり、同業者や保護者からは怒りの声が聞かれる。 公式発表前に届いた内部告発メール   一連の経緯は本誌8月号「郡山市民が呆れるアノ話題 学童保育支援員に横領疑惑が浮上」という記事で紹介した。 7月上旬、編集部宛てに以下のような内容のメールが寄せられた。 《芳賀小児童クラブで2年前ぐらいから、会計を務める主任支援員が保護者会費(保護者が支払うおやつ代などの運営費)を着服している。その額は100万円以上。市の子ども政策課は事実を把握しているが、公表しておらず、なかったことにしようとしている》 芳賀小児童クラブは放課後の間、児童を預かる放課後児童クラブ(学童保育とも呼ばれる)の一つ。同小学校の校庭に建てられた施設に開設されており、児童は勉強(宿題)や運動、遊びをして過ごしている。 子どもたちの〝先生役〟となるのは「放課後児童支援員(以下、支援員と表記)」という資格を持つ職員。同市の放課後児童クラブは公設公営なので、いずれも市職員(会計年度任用職員)だ。 保護者会費とは、市に支払う利用料金とは別に支払う料金で、おやつなどの購入に使われる。同クラブは100人弱の児童が利用。毎月1人2300円の保護者会費を支払っており、会計担当の支援員が現金で預かる形になっていた。メールの内容が事実だとすれば、市職員がその金を横領していたことになる。 7月下旬、放課後児童クラブを管轄する市こども政策課にメールの内容について問い合わせると、担当者は「その放課後児童クラブに関しては現在調査中であり、事実関係や当該支援員の扱いも含めて、いまはお話しできません、ただ、調査が終わった段階で、然るべき形で発表しようとは考えています」と話した。内部で何らかのトラブルが起きていたことを認めたわけ。 同クラブに直接足を運んだが、「私どもも詳しい事情は分からない。コメントは控えさせていただきます」(当日勤務していた支援員)と話すのみだった。 いずれにしても、これだけ内情を知っているということは、差出人は同クラブを利用する保護者か、同市の職員・支援員だろう。ただ、確証が得られなかったため、8月号記事では学校名を伏せ、「疑惑」として紹介する形に留めた。 そうしたところ、記事脱稿後の8月2日、市が「放課後児童クラブ保護者会費(運営費)を横領した会計年度任用職員の懲戒処分について」という内容の記者会見を開いた。総合的に判断して同クラブで起きた案件と思われ、公益性もあると判断したので、本稿では実名で表記する。 市によると、横領したのは2009年から支援員として働いていた50代女性。20年度から22年度にかけて、保護者会費の一部239万4069円を横領。その事実を隠蔽するため、20、21年度の収支決算書を偽造していた。 横領期間は2020年8月から22年5月までの22カ月間。横領額の内訳は20年度68万1160円、21年度138万4000円、22年度32万8909円。 市こども政策課によると、保護者会の規約では「会計(=保護者)は担当支援員(=市職員)と相互協力のもと、円滑な運営を遂行する」と規定されており、市も「職員は2人以上が担当する」と指導していた。 ところが、芳賀小児童クラブに関しては、同支援員が一人で会計を担当。保護者から預かった会費は口座に入金せず金庫で管理し、収支決算書で帳尻合わせをしていた。保護者会で会計監査も行われていたそうだが、会計監査担当者に帳簿と領収書を一部分だけ突き合わせさせ、金額が合っていると信じ込ませる形で切り抜けていた。 239万円横領の理由 8月2日に行われた記者会見  周囲が異変に気付いたのは2022年5月。同クラブの別の支援員から「おやつ代を立て替えた際の清算が遅くて困っている」と相談を受けた同課の職員が事務指導を行っている中で、保護者会費が通帳に記帳されていないことが発覚。関係書類を提出させたところ、毎月ほぼ一定であるはずの保護者会費の収入額がなぜか月によって開きがあった。 同課の職員が6月14日、会計担当だった同支援員に事情聴取したところ、横領と書類偽造を認めた。 同課の聞き取り調査に対し、同支援員は「父が所有する事業用倉庫内の機械等を撤去する必要があり、その費用(約70万円)を工面するため、『一時的に借りよう』と思い一部を横領してしまった。その後も自分の生活が苦しかったこともあり、生活費に充てるため、横領を繰り返してしまった」と語ったという。 前述の通り、保護者会費はすべて現金で支払われ、金庫で管理されていた。すなわち1000円札や100円玉などを金庫からそのまま持ち出し、使っていたことになる。「生活費に充てるため」と語っていたというが、「ちょっと拝借する」程度で年間140万円にはなるまい。完全に感覚が麻痺してしまっていたのだろう。会見では記者から宗教団体などの関与を疑う質問もあった。 冒頭のメールには「全額回収のめどが立たないので市こども政策課としても公表できないようだ。このまま隠蔽するのではないか」とも書かれていたが、結局、同支援員は全額を返済した。同課は6月14日に事件が発覚してから1カ月以上公表しなかった理由について、「同支援員に返還の意思があり、そちらを優先したため」と明かした。 その一方で、同支援員は8月2日付で懲戒免職になった。本来、業務上横領罪に問われる案件だが、市では横領分が全額返済されたことから刑事告訴は行わない方針。そうした条件で示談にしたということだろう。 8月1日には保護者向けの説明会が開かれ、横領期間に利用していた児童の在籍期間に応じて返金する方針が伝えられた。対象となる保護者は延べ124人。 おやつ代として支払われていた保護者会費を横領していたということは、その分子どもたちへのおやつをケチっていたと考えられる。県内で活動する支援員はこう語る。 「保護者会費2300円ということは、1カ月に23日利用するとして、1日100円使う計算なのでしょう。うちのクラブでは大袋の菓子をみんなで分けて1日60円程度で済ませ、浮いた分で誕生日やイベント時に振る舞うケーキを買うなど、メリハリを付けている。問題の支援員はそうしたやりくりをせず、ひたすら安く済ませて横領分を捻出していたのかもしれません」 保護者会費は単純計算で年間1人当たり2万7600円、100人分で276万円。その中から最大138万円横領(2021年度)していたということは、おやつ代1日50円の計算で運営していたことになる。一緒に勤務していた支援員は気付かなかったのか。それとも会計を務める支援員だから何も言えなかったのか。同課は実名を伏せ、詳細も明かしていないので真相は分からないが、〝どんぶり勘定〟であったことがうかがえるし、市のチェック体制にも問題があったと言わざるを得ない。 8月上旬、同クラブ周辺で、児童を迎えに来た父親に声をかけたところ、「最悪ですよね。自分たちが預けていた金を勝手に使われていたわけですから」と述べた。 ほかにも複数の保護者に声をかけたが、「詳しく分からない」、「時間がない」と明言を避け足早に帰っていく人が多かった。「仕事と子育てを両立するのに忙しい中で、放課後児童クラブの内情まで把握できないし、余計なトラブルに巻き込まないでくれ」というのが本音かもしれない。市のチェック体制の甘さと保護者の〝無関心〟の間で、約2年にわたる横領が見過ごされてきたのだろう。 放課後児童クラブへの不満  取材の中では、同市の放課後児童クラブへの不満の声も聞かれた。 「子どもが利用し始めた当初、放課後をただ遊んで過ごしていることが分かり、『せめて宿題を終えてから遊べよ』と叱ったことがある。放課後の間、預かってもらうのはとてもありがたいが、それ以上のことは期待できないのだな、と実感しました」(2021年まで市内の放課後児童クラブを利用していた保護者) 放課後児童クラブにおいては、支援員の資格を持たない職員も「補助員」として働いている。ただ、支援員事情に詳しい関係者によると「現在人手不足なので、基本的には誰でもなれる状況。地域の高齢者などが務めることも多いが、親族や顔見知りの児童に甘い対応を見せて、不満が生まれることもある」。 2021年3月号では「郡山市の児童クラブで支援員が体罰!?」という記事を掲載した。「放課後児童クラブに通う長男が支援員から体罰を受けた」という投書の内容を検証したもので、支援員にそのつもりはなかったものの、誤解を招きかねない言動が確認されたという。 同市の放課後児童クラブの利用料金は1カ月4800円(生活保護受給世帯など条件によって軽減措置あり)。保護者会費2300円と合わせると約7100円に上る。「その金額で放課後の間預かってくれるなら十分だ」という保護者もいるが、その一方で「物足りない」、「割に合わない」と不満を抱く保護者もいるということだ。 同市の放課後児童クラブは市内50校に81クラブ設置されており、各クラブでは5~10人の支援員が勤務している。その大半は誠実に働いているが、今回のような不祥事が発覚すれば、保護者からの信頼をさらに失うことになる。 前出・県内で活動する支援員は次のように憤る。 「私たちは子どもたちから〝先生〟と呼ばれる立場にある。その立場の人間が『子どもたちの健全な育成のために』と保護者からもらったおやつ代(保護者会費)を横領する……これは、目の前の子どもより自分の生活費を優先したということであり、到底許されることではありません」 テレビや新聞での扱いは小さく、詳細が分かっていないことも多いが、市は今回の事件を重く受け止め、再発防止策を徹底しなければならない。前出のメールの差出人は、それが期待できないと懸念したから、本誌に〝内部告発〟したのだろう。 市では保護者会役員と支援員の役割を明確化して監査を行うとともに、コンプライアンス研修などを実施し再発防止に努める考えだ。しかし、そうした対応だけでは不十分だ。会計のダブルチェックの徹底、提供されるおやつのSNSでの公開など、保護者会費の使途をできる限り透明化し、「これなら横領できそうだ」という悪意が入り込めないような体制構築が求められる。 あわせて読みたい 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

  • 【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

    (2022年10月号)  オグリキャップ、トウカイテイオー、テイエムオペラオーなど、競馬史に残る名馬が、現役時代に入所していた競走馬用の温浴・リハビリ施設がいわき市にある。〝競馬ファンの聖地〟ともなっている同施設に足を運んだ。 【いわき市常磐白鳥町】JRA競走馬リハビリテーションセンター  いわき湯本温泉は古くから湯治の名所として栄えてきた温泉地で、有馬温泉(兵庫県神戸市)、道後温泉(愛媛県松山市)と並ぶ日本三大古泉だ。全国的に珍しい泉質で、その効能から「美人の湯」、「心臓の湯」、「熱の湯」とも呼ばれる。 そんな同温泉の温泉街の西側に、競走馬専用の温泉を備えたリハビリ施設があることをご存じだろうか。 1963(昭和38)年にJRA競走馬保健研究所常磐支所として開所した「競走馬リハビリテーションセンター」(小平和道所長)だ。屈腱炎・骨折など脚部に疾患を抱える現役競走馬を受け入れ、レース復帰に向けたリハビリの支援を行っている。 広大な敷地の中には、ダートコースの調教馬場(1周400㍍)をはじめ、脚部に負担をかけず心肺機能を高められるスイミングプール(1周40㍍、深さ3㍍)やウオータートレッドミルなどの設備が設けられている。 馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる  療養馬の回復状況に合わせてメニューが組まれ、朝8時から獣医師立ち合いのもと、各施設でリハビリが行われる。取材時の7月中旬現在、16頭の馬が入厩していた。馬房は40馬分あるものの、「人手不足で所属している厩務員に限りがあるので、現在はフルでは受け入れていない。そのため、順番待ちになることもある」(広報担当者)という。  13時30分からスイミングプールでの調教が始まると、フェンス越しに見学に訪れた競馬ファンや子ども連れが集まってきた。楽し気に泳ぐ姿をイメージしていたが、近くで見ると、「ブルルッ」と鼻を鳴らしながら必死の表情で泳いでいた。厩務員は手綱を引いているほか、さまざまな道具を駆使して歩みを止めないようにしている。療養馬にとってはハードなリハビリの一環なのだろう。 プールで泳ぐ療養馬 フェンス外から見守る競馬ファン  初めてプールに入るという馬に至っては、厩務員が押しても引いても10分以上その場から動こうとしなかった(もっとも、厩務員にとってこの行動は想定の範囲内で、この日は、水に慣れさせるのが目的だったようだ)。写真やほのぼのニュースの映像で抱いていた涼やかなイメージとのギャップに驚かされた。  リハビリ終了後には、38~40度の足湯と打たせ湯で疲労を解消する。リハビリにより溜まったストレスを解消する効果もあるという。温泉でリラックスできるのは馬も人間も同じということだろう。 足湯と打たせ湯の温泉でリラックス  慣れた手付きで馬を連れて回る厩務員はいずれも若く、女性の姿が目立った。競馬業界への就職を目指してここで勤めている人が多いという。 リハビリ支えるスタッフ 馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん  スタッフの一人に声をかけたところ、同センターに常駐する装蹄師・兒玉聡太さん(32)だった。 装蹄師とは馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を打つ技術者のこと。体重400~500㌔の体で走るサラブレッドの脚には大きな負荷がかかっている。蹄が摩耗したり割れて変形すれば、パフォーマンスが下がるばかりか、ケガのリスクも高まる。そのため、その馬の蹄の形に合わせた蹄鉄を打ち、保護する必要がある。 蹄鉄はアルミニウム合金製で、摩耗するため、3週間に1度のペースで打ち変えているという。 兒玉さんは胴体の下に潜り込み、脚を上げさせて蹄を削る。蹄の形に合わせて蹄鉄を叩いて微調整し、釘で打ち付ける。テンポ良く進めているが、確かな技術と経験がないとできない仕事だ。こうした関係者のサポートにより競馬は成り立っているということだ。 2021年、競走馬を擬人化したキャラクターを育ててレースで競わせるスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒット。ゲームから競馬に関心を持つ新規ファンが増え、競馬ブームにつながった。「競馬への注目度が高まるのはうれしい。当センターにもぜひ多くの人に見学に来てほしい」と広報担当者は語る。 震災・原発事故、令和元年東日本台風など、災害により大きな被害を受けながら、復興を遂げているいわき市。そんな同市に同センターが設けられ、療養馬が再起を目指してリハビリに励んでいるのも運命的なものを感じる。 秋になると中央競馬が盛り上がるシーズンが到来する。福島市の福島競馬場では、第3回福島競馬が11月5日から20日まで延べ6日間の日程で行われる。 同センターは朝8時から17時まで見学を受け付けている(日曜日は休み、プール見学は夏季平日のみ、改修工事のため、完全閉鎖の時期あり)。秋の福島競馬に合わせて聖地を〝巡礼〟するのも、競馬文化の楽しみ方の一つと言える。 あわせて読みたい 【アクアマリンふくしま】施設をリニューアルオープン

  • セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】

    (2022年10月号)  陸上自衛隊郡山駐屯地に所属時、複数の男性隊員から性被害を受けていた元自衛官の五ノ井里奈さん(22)が8月31日、第三者委員会による公正な調査を求める要望書と約10万人の署名簿を防衛省に提出した。マスコミが一斉に報じ、大きな注目を集めることに。自衛隊の女性差別・パワハラ体質にメスが入るか。 「市民感覚」が試される検察審査会  性被害の後に退職した五ノ井さんは、6月からネットを通じて被害を訴えていた。経緯は、本誌8月号「陸自郡山駐屯地で『集団セクハラ』 元自衛官の女性が決意の実名告発」で詳述している。 五ノ井さんは、自衛隊内の捜査権限を持つ警務隊に強制わいせつ事件として被害届を出した。男性隊員3人が書類送検され、検察庁は今年5月31日付で嫌疑不十分で不起訴にしていた。河北新報9月1日付によると、五ノ井さんは検察官から「首を押さえる行為に関する証言はあったが、わいせつの証言は得られなかった」と説明されたという。加害者は、暴行は認めたが、五ノ井さんが尊厳を奪われたと最も問題視している性被害については認めなかったということだ。 五ノ井さんは7月27日に都内で開いた記者会見で、「中隊内で隠ぺいや口裏合わせが行われていると、内部の隊員から聞いたので、ちゃんと第三者委員会を立ち上げ、公正な再調査をしてほしい」(『AERAdot.』7月27日配信)と組織を守るためにもみ消しが行われていることを指摘している。自浄作用は期待できない。 世論を受けてトップが動いた。9月6日には、浜田靖一防衛相が全自衛隊を対象とした「特別防衛監察」の実施を表明。担当する防衛監察本部は防衛相直属の機関で、独立した立場で調査・報告を行う。 郡山検察審査会は、検察が加害者3人を不起訴にしたことを審査員過半数の意見を得て「不当」と議決。議決書では、五ノ井さんの供述が唯一の証拠と指摘したうえで、不起訴の場合「被害者に泣き寝入りを強いる以上、被害者供述の信用性の判断をより慎重に行う必要がある」(福島民報9月10日付)とした。審査員11人は管内の有権者から選ばれる。県民の良識が少しでも反映される形。検察は再捜査し、起訴の可否を決める。不起訴の場合、審査会は強制的に起訴すべきかどうかを決めるが、決定には11人中8人以上の賛成が必要で、より市民感覚が試される。 五ノ井さんは宮城県東松島市出身。小学校4年生の時に東日本大震災を経験し、救援活動する女性自衛官に憧れた。中学では柔道で宮城県大会を制した実力者だ。泣き寝入りせず被害を実名告発したことからも心身ともに強靭で、自衛隊が理想とする人物だろう。それが組織に潰された。 女性差別とパワハラ体質は自衛隊全体の問題ではあるが、集団セクハラが常習化していた部隊を受け入れている県民の関心事は、「郡山駐屯地に固有の問題はなかったのか」ということだ。まずは、政府が早急に五ノ井さんの被害の救済を。真相解明は、刑事裁判という公開の場で行われるべきだ。 声をあげてposted with ヨメレバ五ノ井 里奈 小学館 2023年05月10日頃 楽天ブックス楽天koboAmazonKindle あわせて読みたい 生業訴訟を牽引した弁護士の「裏の顔」【馬奈木厳太郎】 【谷賢一】地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」【性被害】

  • 郡山市【ヒューマニティー保育園】人気保育所が660万円不正受給

    (2022年10月号)  郡山市の認可保育所「ヒューマニティー保育園」が委託費を不正受給していたとして、新規園児受け入れ半年間停止の行政処分を受けた。不正受領していた金額は約660万円に上り、市は返還を求めている。 〝投書攻撃〟を受けていた運営法人  ヒューマニティー保育園を運営しているのは一般社団法人ヒューマニティー幼保学園(瓜生麻美代表理事)。子どもの能力を開花させる教育法として話題になった「ヨコミネ式」を導入して人気を集めており、認可外保育所や学習塾なども運営する。 私立の認可保育所には市から委託費(運営費用)が支払われているが、同保育所では、非常勤の所長を常勤勤務として市に報告。加算分の受給要件を満たしていないにもかかわらず、2019年9月から21年3月にかけて、委託費659万8280円を不正に受給していた。 さらに昨年12月22日に行われた定期施設監査において、在籍していない保育士1人を「勤務していた」と偽って市に報告。虚偽の出勤簿や履歴書などを作成して提出していた。併せて同法人が運営する認可外保育施設などで使用する中古車2台(計65万円)を、同保育所の委託費で購入していたことも判明。市は同保育所への9月・10月分委託費から不正分を差し引く考え。 市は「昨年12月の定期施設監査の書類が偽造されていた」と外部から通報を受け、1月に特別監査を実施。この間、書類精査や関係者の聴取を行ってきた。市の聴き取りに対し、同保育所の関係者は「当初から不正の認識はあった。運営会社の指示を受けて行った」(NHKニュース)と語っていたというから、組織ぐるみだった可能性が高い。 同法人に関しては、匿名投書が連続で送られてきたとして、本誌2013年11月号で取り上げたことがある。内容はいずれも「保護者に説明がないまま新保育園建設が進められている」という不満を綴ったもので、「保育士の人数など、法律を無視した運営がなされている」など運営の怪しさを指摘する記述もあった。 当時の本誌取材に対し、園長代理を務めていた瓜生氏は「保護者にはきちんと説明しており、法律違反の点もない」、「(同法人の運営が)まるで不安要素だらけのように書かれているのは悪意を感じますね」と話し、「投書は外部から見たイメージだけで意図的に悪く書かれている。これ以上続くようであれば、差出人に対し法的手段を取ることも考えています」と息巻いていた。 同市保育課の担当者も「(当時、同法人が運営していたのは認可外保育所のみだったので)投書で苦情を言われても市としては対応しようがない」というスタンスだった。 だが結果的に、保育士の数を偽っていると指摘していた〝投書攻撃〟は事実だったことになる。 不正受給の件について、あらためて同法人に問い合わせたが、担当者はどの質問にも「市に報告し、この間報道されたことがすべてです」と答えるのみだった。記者が「2013年の取材当時も実は内部で不正が行われていたのではないか」と尋ねると「あの時点では間違いなく不正行為はしていなかった」と述べた。市は同法人が返金の意思を示していることから刑事告訴しない方針。不正受給の動機は分からずじまいだ。 9月下旬、同保育所を訪ねると静まり返っていた。新規園児受け入れ停止期間は来年3月末まで。保護者の反応は聞けなかったが、悪質な不正受給の実態を知って、退園する動きが出てきても不思議ではない。 あわせて読みたい 郡山市【芳賀小】学童支援員横領は事実だった

  • 檀信徒から不正を疑われた【須賀川市】無量寺

    (2022年10月号)  須賀川市の「無量寺」(小山宗賢住職)で、檀信徒が屋根葺き替え工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたところ、寺側が拒否したため、檀信徒から「何らかの不正があったのではないか」と疑われる事態に発展している。宗教法人の財産は公開が原則のはず。騒動を追った。 住職と役員の隠蔽体質が露呈  須賀川市雨田字宮ノ前にある無量寺は天台宗で、法人登記簿によると設立は1953(昭和28)年、基本財産は総額348万6000円。代表役員(住職)の小山宗賢氏は2008(平成20)年に就任した。檀信徒数は約420。 そんな無量寺では4年前、老朽化していた本堂屋根の葺き替え工事を行っていた。責任役員2名と総代1名を正副委員長とし、檀信徒二十数人や小山住職などを委員とする「本堂屋根葺き替え建設委員会」(佐藤和良委員長。以下、建設委員会と略)を設立。工事に関する協議は同委員会のもとで行われた。 その結果、①設計監理は土田建築設計事務所(須賀川市)、②施工は大柿建業(同)、③工事資金は1836万円、④工期は2018年10月から19年3月末等々が決まった。 工事資金計画表によると、1836万円の内訳は檀家からの寄付が1059万円、無量寺特別会計からの充当が707万円、金融機関からの借り入れが70万円。ここから大柿建業に約1720万円、土田建築設計事務所に約56万円、残りを会議費、雑費、予備費に充てる計画だった。 その後、葺き替え工事が始まり、予定より3カ月早い2018年12月末に工事は終了。19年1月に建設委員会による立ち会い検査を経て引き渡しが行われた。 竣工を受け、建設委員会が檀信徒に宛てた報告文書には次のように書かれている。 《檀信徒の皆様には何かと出費の多き折りにも関わらず、多くのご寄付をいただきました。(中略)土田建築設計事務所には契約の回数以上に現場に足を運んでいただき、きめ細かい指導・監理をしていただき、工事をスムーズに進めることが出来ました。大柿建業は、設計事務所が称賛するほど丁寧で誠実な仕事ぶりでした。さらに、当初の想定よりも屋根下の腐食が酷く、野地板・垂木に加えて、その下の根太も交換しなければならない個所もありました。この想定外の修復に関しては別途支払いの契約でしたが、大柿建業では追加料金(約26万円)の請求をせず、ご寄付として入札代金内で対処していただきました》 収支決算報告書によると、当初予定より寄付が多く集まったため金融機関から借り入れする必要がなくなり、収入総額は約1812万円。これに対し、支出総額は約1781万円で、差し引き31万円が特別会計に戻された。同報告書には「2019年3月5日に監査を行ったところ適正だった」とする監事2名の印鑑も押されていた。 一見すると、何の問題もなく工事は完了し、決算報告も終えたように映る。しかし、檀信徒の関根兼男さんは工事が始まった直後から、さまざまな疑問を呈していた。 「工事を見ていておかしいと思うことが度々あり、その都度、建設委員会の佐藤委員長や小山住職、土田建築設計事務所に質問をぶつけていた。しかし『あなたには関係ない』と取り合ってもらえなかった。私は檀信徒で工事資金も寄付しているので関係なくはない。にもかかわらず工事中の寺に入って写真を撮っていたら、建設委員会の生田目進副委員長に『不法侵入で警察を呼ぶぞ』とまで言われた」(関根さん) まるで“邪魔者扱い”されていた関根さん。実は、関根さんは大工で、建設委員会が2018年8月に行った施工者を決める入札に参加し約1840万円で札入れしたが、前出・大柿建業より高かったため工事を受注できなかった経緯がある。 「受注はできなかったが、檀信徒としてだけでなく、大工としても工事の進め方に関心があったので現場に足を運んでいただけ。そしたらおかしいと感じる場面を度々見掛けたので、これは建設委員会や小山住職に言うしかないと思って」(同) 具体的には▽足場と落下防止ネットは間違いなく取り付けられていたか、▽腐ったり痛んだりしていた垂木、野地板、広木舞は交換されたのか、▽塗料は当初指定のものが使われたのか――など。つまり、関根さんの目には工事が適正に行われていないと映ったわけだが、これらを適正に行うと、例えば金額は100万円かかるのに、仮に▽足場と落下防止ネットがきちんと取り付けられていなかった、▽垂木、野地板、広木舞が交換されていなかった、▽指定とは別の塗料が使われていた――とすれば80万円で収まり、予算は決算報告より余った(使われなかった)可能性があるというのだ。そうなると、余った金はどこにいったのかという問題も浮上してくる。 関根さんは入札前に建設委員会から渡された見積書に、工事項目ごとに細かく金額を書き込んで札入れしたが、 「その工事項目と実際に行われている工事が違っていた。例えば見積書の塗装工事欄は『オスモカラーを使え』となっていたので、それに沿った金額を書いて札入れしたのに、実際の工事ではオスモカラーは使われていなかった」(同) 要するに関根さんは「これでは真面目に見積もりをした意味がない」と言いたいわけ。 しかし前述の通り、建設委員会や小山住職は関根さんの質問に耳を貸さなかった。おそらく両者は「工事を受注できなかった腹いせに難癖をつけている」としか捉えていなかったのかもしれない。 無関係の弁護士に対応を〝丸投げ〟  一方、土田建築設計事務所は、設計監理の契約先は無量寺であり、契約先を差し置いて関根さんの質問に答えるのは馴染まないとして、東京都内の松田綜合法律事務所(以下、松田法律事務所と略)を代理人に立てて対応を一任した。 そんな孤軍奮闘の関根さんに、ようやく援軍が現れたのは2021年4月。雨田地区の総代になった瀬谷広至さんが問題に関心を示してくれた。以降は関根さんと瀬谷さんの二人で、建設委員会や小山住職、土田建築設計事務所や大柿建業などにアプローチを試みているが、解決に向けた成果は得られていない。 「関根さんの話を聞き、もしおかしな点があるなら正すべきと考え一緒に調査に乗り出した。しかし、建設委員会や小山住職は『一人二人の言い分に取り合っていたらキリがない』と私たちの疑問に向き合おうとしない」(瀬谷さん) 関根さんと瀬谷さんは今年2月、建設委員会と小山住職に対し、工事に関する資料の開示や工事個所の確認を求めたり、工事の進め方を尋ねるなど10の申し立てからなる提案申立書を提出した。すると同4月、建設委員会から「土田建築設計事務所の代理人である松田法律事務所に問い合わせてもらうという結論に達した」との回答が届いた。 関根さんと瀬谷さんは、建設委員会メンバーや複数の檀信徒から「佐藤委員長が『弁護士に任せたので一安心』と言っていた」とか「小山住職が『弁護士に任せることに異論はないか』と建設委員会メンバーに多数決を取っていた」という話を聞いていた。まるで建設委員会と小山住職が松田法律事務所に代理人を依頼したかのような口ぶりだが、そうではない。同事務所が同3月に建設委員会に宛てた文書にはこう書かれている。 《貴委員会(※建設委員会)は、無量寺の檀信徒である瀬谷広至氏及び関根兼男氏から、令和4年2月13日付の「無量寺本堂屋根葺き替え工事に関する書類の閲覧及び質問並びに提案申立書」に記載されている各事項についての質問を受けている件について、当社(※土田建築設計事務所)に対し質問を行い、回答を求めておられます。 当社は無量寺から、本堂屋根の瓦葺き替え工事の設計監理業務の委託を受けたところ、当該業務は適切に遂行されており、貴委員会及び無量寺に対し負うべき責任はなく、特別対応すべき義務はないものと認識しております》 松田法律事務所は建設委員会からの問い合わせに「土田建築設計事務所の代理人」として対応している様子がうかがえる。 「建設委員会メンバーや檀信徒の中には、佐藤委員長や小山住職が弁護士を雇ったと勘違いしている人が多い。しかし、松田法律事務所はあくまで土田建築設計事務所の代理人にすぎず、両者の代理人ではない。にもかかわらず両者は、無関係の松田法律事務所に回答を〝丸投げ〟しようとしたのです」(瀬谷さん) 本誌が松田法律事務所に問い合わせると、担当弁護士もこのように話していた。 「私たちは土田建築設計事務所の代理人であり、建設委員会や小山住職とは関係ない。しかしどういうわけか両者は、私たちが両者の代理人も兼ねていると勘違いしているフシがある。両者には『それは誤解だ』という趣旨の手紙を出したが、きちんと理解してくれたかどうか」 こうなると、佐藤委員長や小山住職は代理人契約を交わしていないにもかかわらず「弁護士に任せた」と建設委員会メンバーや檀信徒にウソをついた可能性も出てくる。 ちなみに担当弁護士は、土田建築設計事務所の仕事ぶりについて 「無量寺との契約に基づき適切に行った。監理設計料も適正な金額だったと思います」 と強調。一方で、関根さんと瀬谷さんに対してはこうも語った。 「檀信徒が寺に関する情報の開示を求めるのは当然。それに寺が応じようとしたものの、依頼人(土田建築設計事務所)に聞かなければ分からない事案が出てきたら、依頼人は寺と監理設計契約を結んだ立場上、寺側に答える用意はある。ただ、契約関係にない檀信徒の質問に答えることはできない」 つまり、関根さんと瀬谷さんの質問に無量寺が答えるなら、土田建築設計事務所(松田法律事務所)は協力するというわけ。 土田建築設計事務所にも直接話を聞こうとしたが「弁護士にすべて任せている」と断られた。 60人超の檀信徒が「署名」に協力  工事を行った大柿建業は何と答えるのか。 「工事は4年前なので細かい点は覚えていないが、垂木が腐っていたので交換し、その後、野地板を張って瓦をかけて塗装と、予定外の作業が結構あった。腐った個所に足場をかけると崩落する恐れがあるため、順番に直しながら足場をかけていった。予定外の作業が出た場合はその度に土田建築設計事務所に連絡し、一緒に現場を見てもらった。工期は(2019年)3月までだったが、12月を過ぎると雪で屋根に上がるのは危険なため、作業を急いだ記憶がある。工事代金は千五百数十万円で、そこに消費税が加わり千七百数十万円が振り込まれたはず。その時の銀行の通帳は残っているので、それを見れば正確な金額は分かる」 前述の通り、寺から大柿建業に工事代金として支払われたのは約1720万円なので、発言の金額と照らし合わせると間違いなく支払われたと見てよさそうだ。 「他人がどう評価しているか分からないが、ウチとしては精一杯の工事をやったつもりだ。その時撮った作業の様子や工事個所の写真は、すべて寺に渡した。関連の資料も寺に残っているはず。えっ、檀信徒がそれを見せろと言っているのに寺は見せないんですか? すべて見せれば疑いは晴れると思うんだが」(同) 松田法律事務所と大柿建業に共通するのは「なぜ寺側は隠そうとするのか」「すべて公開すれば済む話」というもの。裏を返せば「後ろめたいことがあるから隠したがっている」となるが、真相はどうなのか。 そもそも宗教法人が財産に関することを公開しないのはおかしい。宗教法人法第25条第3項によると、宗教法人は財産目録、収支計算書、貸借対照表、境内建物に関する書類、責任役員らの議事に関する書類や事務処理簿などについて、信者らから閲覧請求があった時は閲覧させなければならない。宗教法人を管轄する県私学・法人化に確認すると「会計帳簿などの資料は閲覧の対象外」というので領収書は見られないようだが、葺き替えた屋根が「寺の財産」に属することを踏まえると、関根さんと瀬谷さんが確認しようとするのは檀信徒として当然の権利だ。 関根さんと瀬谷さんは、前述・今年4月に寄せられた建設委員会と小山住職の回答に納得がいかないとして、すぐに再質問書を送ったが返事はなかった。そこで2人は、約420ある檀信徒を一軒一軒回り事情を説明、寺側に誠実な回答を求める署名に協力してほしいと要請した。すると、同9月中旬までに全体の7分の1以上に当たる60人超が署名してくれた。 「檀信徒の中には『本当は署名したいが、住職には法事などで世話になっているので勘弁してくれ』という人も結構いた。署名集めを通じ、私たちが思っている以上に、建設委員会や小山住職のやり方に不満を持っている檀信徒が多いことがよく分かった」(関根さん) 署名集めの過程では、新たに阿部計一さんも「自分もかつて、佐藤委員長に別の建物工事の明細書を見せるよう求めたが、結局見せてもらえなかった」として関根さんと瀬谷さんに協力する意向を示し、現在は3人で活動中だ。 同9月下旬には、集めた署名を再々質問書と一緒に建設委員会の正副委員長や小山住職らに送り、回答を迫っている。一人二人ではなく、60人超もの檀信徒が不信感を露わにしているのだから、事態は深刻だ。 求められる「公開」と「公平」  本誌は小山住職に取材を申し込んだが「私から話すことは何もない。すべて建設委員会で決めたことだ」と終始逃げの姿勢だった。 建設委員会の佐藤委員長には質問書を送り、電話でも「期限までに回答するか、直接お会いしたい」と伝えたが「私の一存で答えるわけにはいかない。建設委員会で協議し対応を検討したい」と言ったきり、文書等での回答もなければ、記者がかけた電話に出ることもなかった。 県北・県中地方の2人の住職に今回の問題について感想を求めると、次のように話してくれた。 「ウチの寺でも数年前に屋根の葺き替え工事をしたが、作業の手順、入札、お金の動きなど工事に関係するものはすべて公開した。どんなに些細なことも檀信徒の許可をもらってから進めることを心掛けた。工事資金の大半は檀信徒からの寄付なので、当然の進め方だと思う。工事途中には檀信徒を対象に見学会もやった。無量寺さんはすべて公開すれば疑われることはないのに、なぜ隠そうとするのか」(県北地方の住職) 「昔より信仰心が薄れる中、寺と檀信徒によるトラブルは大なり小なり増えている。そこで意識したいのは寺が日頃、檀信徒とどう付き合っているかだ。葬儀や法事だけが寺の仕事ではない。寺の本来の仕事は檀信徒への法施。特定の人と親しくするのではなく、すべての檀信徒と向き合い、公平に付き合っていれば不満は出ない」(県中地方の住職) 「公開の大切さ」と「公平な付き合い」を説いてくれた両住職。真逆の行動をする建設委員会と小山住職に、この言葉が響けばいいのだが。

  • 【第5弾】土壌汚染の矮小化を図る昭和電工【喜多方市】

     土壌・地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所が、土壌汚染対策法に基づき敷地内の土壌汚染原因とみなしている8物質のうち、4物質しか住民に報告していないことが分かった。同社が県に提出した文書と住民への説明の食い違いから判明。「住民に知らせなかったということか」という本誌の問いに同社は明確に答えていない。住民に知らせなかった4物質は、事業所敷地内でも周辺でも未検出か基準値内に収まり、深刻な汚染には発展していないが、住民は「隠蔽を図ったのではないか」と不信感を強めている。 ※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。 住民にひた隠しにした4種類の有害物質 汚染を除去する工事が進められている昭和電工(現レゾナック)喜多方事業所  喜多方事業所の敷地内で土壌汚染を引き起こしているとみなされている有害物質は表で示した8物質。シアン、ヒ素、フッ素、ホウ素は2020年に計測し、基準値を超える汚染が判明。残りの六価クロム、水銀、セレン、鉛は、実際の分析では基準値超過はみられないが、使用履歴や過去の調査からいまだに汚染の恐れがある。敷地は土壌汚染対策法上、この8物質により「土壌汚染されている」とみなされており、土地の変更を伴う工事が制限される。 昭和電工喜多方事業所敷地内で土壌汚染の恐れがある8物質 基準値を超過基準値を下回るor未検出シアン六価クロムヒ素水銀フッ素セレンホウ素鉛  ここで土壌汚染対策法の説明が必要になる。同法が成立したのは2002年。工場跡地の再開発などに伴い、重金属や有機化合物などによる土壌汚染が判明する事例が増えてきたことを背景に、汚染を把握・防止して健康被害を防ぐために制定された。汚染が判明した場合、その土地の所有者は汚染状況を都道府県に届け出なければならない。 汚染が分かった土地の所有者には調査義務が生じ、期限までに調査結果を都道府県に報告する必要がある。昭和電工喜多方事業所の場合、2020年に同社が行った調査で汚染が判明し、同11月に公表。公害対策のため、大規模な遮水壁工事や汚染土壌の運搬などを迫られた。 土壌汚染調査は、土地の所有者が環境省から指定を受けた「指定調査機関」に依頼して行う。喜多方事業所の場合、土地調査に関するコンサルティング大手の国際航業㈱(東京都新宿区)に依頼している。 土壌汚染対策法が定める特定有害物質は、揮発性有機化合物からなる第一種(11種類)、重金属などからなる第二種(9種類)、農薬などからなる第三種(5種類)に分かれる。全部で25種類になる。 喜多方事業所で土壌汚染が認められる8物質は全て重金属由来のものだ。戦中から約40年間、アルミニウム製錬工場として稼働しており、その過程で発生した有害物質を敷地内に埋めていたことで汚染が発生している。工場の生産工程で使用していたジクロロメタン、ベンゼンの有機化合物は、2020年にそれぞれ敷地内で計測したが、いずれも不検出だった。 基準に適合していない場合は、土地の所有者は「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に指定するよう都道府県に申請する。都道府県は周辺の地下水までの波及を把握し、住民が生活に利用して健康被害のおそれがある時は要措置区域に指定、汚染の除去を指示し、土地の所有者は期限までに必要な措置を講じなければならない。 健康被害のおそれがない場合は、制限の少ない形質変更時要届出区域の指定のみで済み、工事などで土地に変化がある際に計画を届け出すればよい。 公文書で判明  喜多方事業所は所有地の一部をケミコン東日本マテリアル㈱に貸している。届け出は同事業所が使用している土地と貸している土地に分けて申請され、全敷地が要措置区域と形質変更時要届出区域に重複して指定されている。汚染公表の2020年11月から5カ月後の21年4月に県から指定を受けた後、汚染除去の工事が始まった。有害物質が流れ込んだ地下水が敷地外に拡散しないよう敷地を遮水壁で覆い、地下水を汲み上げる方法だ。地下水は有害物質を除去し、薄めたうえで喜多方市の下水道や会津北部土地改良区が管理する用水路に流している。汚染土壌の運搬も進めている。 喜多方事業所以外にも汚染された土地はある。都道府県は指定した土壌汚染区域の範囲を台帳に記して公開しなければならず、福島県では台帳の概要をホームページで公表している。詳細を知りたければ、県庁や土壌汚染対象地を管轄する各振興局で台帳を閲覧できる。 筆者が喜多方事業所による「有害物質のひた隠し」に気づいたのは、この台帳を見たからだった。県に提出した文書では、冒頭に述べた8種類の有害物質で土壌汚染されていることを認めているが、住民には、「汚染が見つかったのは4物質」と事実の一部のみを説明し、残り4物質については汚染の恐れがあることを伏せていたのだ。 「要措置区域台帳」を見ると、生産工程での使用や過去の調査の結果、汚染の恐れがあるとみなされたのは重金属由来の有害物質(第二種特定有害物質)のうち前述の8種類。試料採取等調査結果の欄は全て「調査省略」とある。しかし、結果は土壌溶出量、土壌含有量とも基準は「不適合」だった。 調査省略なのに基準不適合とはどういうことか。それは、「土壌汚染状況調査の対象地における土壌の特定有害物質による汚染のおそれを推定するために有効な情報の把握を行わなかったときは、全ての特定有害物質について第二溶出量基準及び土壌含有量基準に適合しない汚染状態にある土地とみなす」(土壌汚染対策法規則第11条2項)との規定に基づく。喜多方事業所は、調査を省略したことで「汚染状態にある」とみなしているわけだ。 さらに規則では、汚染のおそれのある物質を使用履歴などを調べ特定した場合はその物質の種類を都道府県に申請し、確定の通知を受けた物質のみを汚染状態にあるとみなすことができる。試料採取の調査を省略する場合は、本来は前述の規定に従い、土壌汚染対策法で定めた全25物質により汚染されていると認めなければならないのだが、喜多方事業所は工場での使用履歴や過去の調査から汚染の原因物質を特定したため、書類上は8物質のみによる汚染で済んだということだ。 台帳には、喜多方事業所が調査を省略した理由は「措置の実施を優先するため」とある。時間をかけて調査するよりも、汚染状態にあることを受け入れて本来の目的である公害対策を優先するという意味だ。 ある周辺住民は、 「8物質による土壌汚染が認められているなんて初めて聞きました。住民に知らされているのは、そのうちフッ素などの4物質だけです。これら4物質は土壌を計測した結果、実際に基準値超えが出たにすぎません。私たちが知らされた4物質以外に六価クロム、水銀、セレン、鉛があるとは聞いていません」 と話す。 「住民軽視の表れ」  喜多方事業所にも住民に説明したかどうか確認しなければなるまい。同社は「書面でしか質問を受け付けない」というので、今回も期限を設けてファクスで質問状を送った。有害物質8種類に関する質問は以下の3項目。 ①8物質で土壌汚染されていると自社でみなしている、という認識でいいのか。 ②六価クロム、水銀、セレン、鉛について、土壌や水質における基準値超過があったか。 ③「土壌汚染対策法上は事業所敷地内が六価クロム、水銀、セレン、鉛による土壌汚染状態にある」という事実を住民に伝えなかったという認識でいいのか。 「事実」は県の公文書から判明している。喜多方事業所には本誌の認識に異議や反論がないか尋ねたつもりだったが、返答は「内容が関連しますのでまとめて回答させて頂きます」。筆者は総花的な答えを覚悟した。以下が回答だ。 「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり、土壌汚染対策法に定められている土壌汚染状況調査の方法により、有害物質について使用履歴の確認および既往調査の記録の確認を行い、当該8物質を汚染のおそれのある物質として特定しております」 土壌汚染対策法上、喜多方事業所が取った手続きを述べているに過ぎず、質問に正面から答えていない。①の有害物質8種類については「汚染のおそれのある物質」と認めている。ただし、同法施行規則に従うと「汚染状態にあるものとみなされる」の表現が正しい。 ②の4有害物質については、これまで土壌や地下水を計測して基準値を超えたわけではないため、喜多方事業所は汚染原因として住民には知らせてこなかった。筆者が2022年9月時点までに同社が県に提出した文書を確認したところ、同社はこの4物質について汚染状況を計測・監視しているが、基準値超過はなかった。問題のない回答まで避けるということは、同社はもはや自社に都合の良い悪いにかかわらず何も情報を出すつもりがないのだろう。 ③については、「以前より住民の皆様にご説明申し上げているとおり」で済ませ、本誌の「住民に伝えたか伝えていないか」との問いに対する明言を避けている。前出の住民の話からするに、「有害物質8種類で土壌汚染の恐れがある」という事実は伝わっていない可能性が高い。 本誌はさらに、「住民に伝えなかった」という認識に反する事実があれば、住民への説明資料と伝えた日時を示して教えてほしいと畳みかけたが、回答は 「個別地区に向けた説明会の質疑応答を含め多岐にわたりますのでその日時や資料については回答を控えさせていただきます」 「伝えた」と明言しない点、「伝えなかった」という認識に反する根拠を提示しない点から、喜多方事業所が土壌汚染の恐れがある有害物質の種類を住民に少なく報告し、汚染を矮小化している可能性が高い。  法律の定めに従い、県には汚染の恐れがある物質を全て知らせている一方、敷地周辺に波及した地下水汚染により実害を被っている周辺住民にはひた隠しにしてきたことを「ダブルスタンダードで、住民軽視の表れだ」と前出の住民は憤る。 しかし、住民軽視は今に始まったことではない。開示請求で得た情報をもとに取材を進めると、より深刻な事実をひた隠しにしていることが分かった。 あわせて読みたい 【第1弾】親世代から続く喜多方昭和電工の公害問題 【第2弾】【喜多方市】昭和電工の不誠実な汚染対策 【第3弾】【喜多方市】未来に汚染のツケを回した昭和電工【公害】 【第4弾】【喜多方市】処理水排出を強行する昭和電工

  • 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

     3月6日午後6時40分ごろ、石川町母畑字湯前の「ホテル下の湯」で火を出し、約6時間半後に消し止められた。同ホテルは数年前から休業していた。 母畑温泉の火事と言えば、ちょうど1年前、十数年前に閉館した廃旅館「神泉閣」で不審火が発生したことを本誌昨年4月号でリポートしたが、ホテル下の湯は日中、経営者がおり、鍵もかかっていたため不審火ではなさそう。 鎮火の翌日(8日)、現場を訪れると、一帯には焼け焦げた臭いが充満していた。作業をしていた消防署員によると「出火原因は不明。いくつか思い当たる箇所はあるが、これが原因とは現時点で断定できない」。ただ、消防署員たちはコンセントや電源プラグの状況を念入りに調べており、その辺りが「思い当たる箇所」なのかもしれない。 同ホテルは㈲ホテル下の湯(資本金1000万円、永沼幸三郎社長)が経営。登記簿謄本によると、敷地内には3階建ての旅館、5階建ての集会所・ホテル、2階建ての居宅、2階建ての共同住宅が建っていた。焼け跡を見る限りはどれがどの建物か判然としなかったが、複数の建物が密集していることは分かった。 現場にいた永沼社長に話を聞くことができた。 「この2日間、第一発見時の様子や出火時間など、同じことを十数回も聞かれてウンザリしているよ」(永沼社長) 取材途中にはお見舞いを持って訪れる人もいたが、永沼社長は「気持ちだけで十分。(お見舞いは)いらないよ」と丁重に断っていた。 「鎮火直後から友人・知人が何十人も来ているが(お見舞いは)全て断っている。塩田金次郎町長も来てくれたが、同じく断ったよ。気持ちだけ受け取れば十分だからね」(同) 建物は最も古い箇所で築60年になり、もともと老朽化していたが、そこに令和元年東日本台風の水害が襲った。同ホテルは北須川のすぐ横に建ち、1階が床上浸水したが、建築士による被災状況調査では損害割合20%未満で「半壊には当たらない」と診断された。 満足な補償が見込めない中、永沼社長は国のグループ補助金を使って立て直しを図ろうと考え、2億7000万円の交付を求める申請書を提出した。しかし、県から「既に公募期間を終えている」などの理由で申請書を受け付けてもらえなかった。 そうこうしているうちに新型コロナウイルスの感染拡大が起こり、営業再開できないまま今日に至っていた。今回の火事は、そうした中で発生したわけ。 「もっとさかのぼれば、12年前には震災と原発事故が起こり、客足が途絶えた。東京電力からは営業損害として賠償金300万円を受け取ったが、それだって逸失利益を考えると十分ではなかった」(同) 永沼社長は客にアンケート調査を行い、原発事故の影響を数値化。それを基に東電と交渉したが、それ以上の賠償は受けられなかった。 原発事故、台風水害、新型コロナウイルス、火事の四重苦に見舞われた同ホテルは今後どうなるのか。 「これから固定資産税について町と相談する予定だが、焼けた建物を解体するには億単位のカネがかかるので、簡単には決断できない。かといって、解体して営業再開するのも難しい。今後どうするかは、すぐには判断できないな」(同) 火事とそれに伴う解体は〝余計な災難〟だったが、似たような境遇に置かれているホテル・旅館は少なくないはずだ。

  • 春のふくしまを巡る

    いよいよ本格的な春の観光シーズンを迎える。新型コロナウイルスの影響は続いている一方で、3月13日からはマスク着用ルールが緩和されるなど、かつての日常に近付きつつある。今春はいままで控えていた花見や観光に出かける人も多いのではないか。春の観光シーズンにおすすめの県内スポットを紹介する。(このページの写真撮影=地域カメラマン・渡部良寛さん) 観音寺川の桜並木(猪苗代町) 花見山から望む吾妻小富士(福島市) JR水郡線と「戸津辺の桜」(矢祭町) 小川諏訪神社のシダレザクラ(いわき市) 観音沼森林公園の春紅葉(南会津町) 田人町のクマガイソウ群生地(いわき市) あわせて読みたい ふくしま書棚百景 【福島県】2023年撮りに行きたい感動絶景

  • ふくしま書棚百景

    本が好きな人間にとって、書棚に多くの本が並べられている光景は憧れであり、読書欲を刺激されるもの。〝読書の秋〟に合わせて、県内の読書家の自宅、書店、古書店を訪問し、さまざまな書棚を見せてもらった。 深瀬幸一さん(福島市在住) 元高校教諭(国語)で、定年退職後も教壇に立つ。好きな本はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』。「人間の深さを描いた作品。5回は読みました」(深瀬さん)。上の写真は深瀬さんの実家の書棚で、隣接する自宅にも書棚がある。著書『るつぼの中の国語教師』。 石川屋(田村市常葉町) 海外の作家の希少な絵本も取り扱っている 東北でも数少ない絵本専門の書店。壁面に設けられた書棚に国内外の約2000冊の絵本が並ぶ。石井修一代表はすべての絵本の中身を把握しており、来店客から相談を受けることも多いとか。2014年に全面改装後は県外からも絵本ファンが足を運ぶ。 石川屋のホームページ 田村市常葉町常葉字中町36番地☎︎0247(77)2001営業時間9時〜18時30分 八木沼笙子さん(福島市在住) 長年編集業に携わっており、文学・美術など幅広い分野の書籍を所蔵する。「引っ越しや火災で好きだった本を一部消失してしまいました。さらに福島県沖地震で本棚が壊れたので、自宅内に分散して置いています」(八木沼さん)。日本文学の初版本の復刻版(写真右)は大量に譲り受けたもの。聖書や昭和史に関する大判の図説(写真下)は執筆の下調べに使う。 八木沼笙子 油絵・デッサン教室のホームページ スモールタウントーク(郡山市) サブカルチャー関連の書籍や雑誌、写真集などをそろえる古書店。郡山市出身・在住で、映画、写真、雑誌文化など幅広い分野に関心を持つ黒田真市さんが2009年に開店。住宅地の中にあり、まるで学生時代、友人の部屋に遊びに来たような雰囲気を味わえる。 郡山市安積町荒井字荒井12☎︎090(5848)1490営業時間12時〜19時30分

  • 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】

     1月に郡山市大平町で発生した交通死亡事故を受けて、市が危険な市道交差点をピックアップしたところ、222カ所が危険個所とされた。対象となる交差点で対策が講じられたが、これまで改善を要望し続けてきた住民は「死亡事故が起きて初めて動くのか」と冷ややかな反応を見せる。(志賀) 「改善要望を無視された」と嘆く住民 郡山市大平町の事故現場  郡山市大平町の交通死亡事故は、市道交差点で乗用車が軽乗用車に衝突し、近くに住む一家4人が死亡したというもので、全国的に報道された。現場となった交差点は一時停止標識がなく、道路標示が消えかかっていたため、市は市道交差点の総点検に着手した。 危険交差点は各地区の住民の意見を踏まえて抽出された。対象基準は「一時停止の規制が無く優先道路が分かりづらい」、「出会い頭の事故が発生しやすい」、「スピードが出やすく大事故につながりやすい」、「ヒヤリハットの事例が多い」など。合計222カ所が挙げられ、郡山国道事務所、福島県県中建設事務所、警察(郡山署、郡山北署)と連携しながら現場を確認。その結果、180カ所で新たな対策が必要とされた。 道路の区画線(白線)やカーブミラー、街灯は道路管理者(国、県、市町村)の管轄。「横断歩道」などの道路標示、道路標識、信号機などは都道府県公安委員会(警察)の管轄となっている。180カ所のうち市対応分は152カ所(区画線、道路標示78カ所、交差点内のカラー舗装44カ所、カーブミラー設置30カ所)、公安委員会対応分は28カ所(停止線の補修等28カ所)だった。 それ以外の42カ所は道路管理者、公安委員会でできる対策がすでに講じられているとして「対策不要」とされた。とは言え、各地区の住民らが危険と感じているのに放置するのは違和感が残る。そうした姿勢が事故につながるのではないか。 ピックアップされた危険交差点は別表の通り。グーグルストリートビューを活用して現地の状況を確認すると、見通しが悪かったり、道路標示が消えて見えにくくなっているところが多い。 郡山市の危険交差点222カ所 中田町高倉字三渡(221番)。坂・カーブ・三叉路で見通しが悪い ※市発表の資料を基に作成。要望理由の「ヒヤリ」は事故発生の恐れがある(ヒヤリハット)、「見通し」は見通しが悪い、「優先」は優先道路が分かりにくい個所。対策の「市」、「公安」は点検の結果、市、公安委員会のいずれかが対応した個所。「なし」は市・公安委員会による新たな対策が不要とされた個所。 住所     要望理由対策1並木五丁目1-8ヒヤリなし2桑野五丁目1-5ヒヤリなし3桑野四丁目4-71ヒヤリ公安4咲田一丁目174-4ヒヤリなし5咲田二丁目54-5ヒヤリ公安6若葉町11-5見通しなし7神明町136-2ヒヤリ公安8長者二丁目5-29見通しなし9緑町13-13見通しなし10亀田二丁目21-7見通し市11島一丁目9-20ヒヤリ市12島一丁目137ヒヤリ市13島一丁目147ヒヤリ市14島二丁目32、34、36、37の角見通しなし15台新二丁目7-13見通し市16台新二丁目15-11見通し市17静町35-23見通し市18静町106-1見通し市19鶴見担二丁目130ヒヤリ市20菜根一丁目176ヒヤリなし21菜根一丁目296-1ヒヤリ市22菜根二丁目6-12見通し市23開成二丁目457-2ヒヤリ市24香久池一丁目129-1ヒヤリ市25図景二丁目105-2ヒヤリ公安26五百渕山21-4見通し市27名倉67-1見通し市28名倉78-2ヒヤリ市29久留米二丁目101ヒヤリ市30久留米三丁目26-5ヒヤリなし31久留米三丁目28-1ヒヤリ市32久留米三丁目96-4ヒヤリ市33久留米三丁目116-5見通し市34久留米五丁目3-1ヒヤリ公安35久留米五丁目111-35見通し市36横塚一丁目63-1ヒヤリ市37横塚一丁目126-4ヒヤリ公安38横塚六丁目26ヒヤリなし39方八町二丁目94-2優先なし40方八町二丁目245-4ヒヤリ公安41芳賀一丁目67ヒヤリ市42緑ケ丘西二丁目6-9優先公安43緑ケ丘西三丁目11-7見通し市44緑ケ丘西四丁目8-5見通し公安45緑ヶ丘西四丁目10-8見通し市46緑ヶ丘西四丁目14-2見通し市47緑ケ丘東一丁目2-20ヒヤリなし48緑ケ丘東二丁目11-1見通しなし49緑ケ丘東二丁目19-13優先市50緑ケ丘東五丁目1-1見通し市51緑ケ丘東六丁目10-1見通し市52緑ヶ丘東八丁目 (前田公園前十字路)見通し市53大平町字前田116-2見通し市54大平町字御前田53見通しなし55大平町字御前田59-45見通し市56大平町字向川原80-4見通しなし57荒井町字東195見通し市58阿久津町字風早87-2見通し市59舞木町字岩ノ作44-6見通し市60町東一丁目245見通しなし61町東二丁目67見通しなし62町東三丁目142-2見通し市63新屋敷1-91見通し市64富田町字墨染18見通し公安65富田町字十文字2見通し市66富田町字大十内85-246ヒヤリ市67富田町字音路90-20見通し市68富田東二丁目1優先市69富田町字細田85-1優先公安70富田町日吉ヶ丘53優先市71大槻町字西宮前26ヒヤリ公安72大槻町字南反田18−3ヒヤリなし73大槻町字室ノ木33-8見通し市74大槻町字原田東13-93ヒヤリ市75大槻町字葉槻22-1優先市76笹川一丁目184-32見通し市77安積一丁目155見通し市78安積一丁目38見通しなし79安積町二丁目350番1見通し公安80安積町日出山字一本松100番18見通しなし81三穂田町川田二丁目62-2見通し市82三穂田町川田三丁目156見通し市83三穂田町川田字駒隠1-4見通し公安84三穂田町川田字小樋41見通し公安85三穂田町川田字北宿3-2見通し公安86三穂田町野田字中沢目9見通し公安87三穂田町鍋山字松川53見通しなし88三穂田町駒屋二丁目62ヒヤリ市89三穂田町駒屋字上佐武担2-2見通し公安90三穂田町八幡字北山10-13見通し公安91三穂田町八幡字北山7-12見通しなし92三穂田町富岡字下茂内56見通し市93三穂田町富岡字下間川67ヒヤリ公安94三穂田町富岡字藤沼18-9見通しなし95三穂田町山口字横山5-4見通しなし96三穂田町山口字川底原22優先公安97逢瀬町多田野字清水池125見通し市98逢瀬町多田野字上中丸56-1見通し市99逢瀬町多田野字家向61見通し市100逢瀬町多田野字柳河原77-2優先市101逢瀬町多田野字南原26見通し市102逢瀬町河内字西荒井123優先市103逢瀬町河内字藤田185見通し公安104片平町字庚坦原14-507優先市105片平町字元大谷地27-3優先市106片平町字森48-2優先市107片平町字新蟻塚99-5見通し市108片平町字樋下68優先市109東原一丁目44見通しなし110東原一丁目120見通し市111東原一丁目229見通し市112東原一丁目250見通し市113東原二丁目127見通し市114東原二丁目141見通し市115東原二丁目235見通し市116東原三丁目246ヒヤリ市117喜久田町字双又30-19見通し市118喜久田町堀之内字北原6-9優先市119喜久田町早稲原字伝左エ門原優先市120日和田町高倉字牛ケ鼻130-1優先市121日和田町高倉字鶴番367-1優先市122日和田町高倉字南台23-1見通し公安123日和田町梅沢字衛門次郎原123優先市124日和田町梅沢字衛門次郎原150-2見通し市125日和田町梅沢字新屋敷115-1見通し市126日和田町字鶴見坦139優先市127日和田町字鶴見坦88優先市128日和田町字鶴見坦156優先市129日和田町字沼田29-1見通しなし130日和田町字原町25-1見通し市131日和田町字水神前145優先市132日和田町字水神前169優先市133日和田町字水神前184優先市134日和田町字境田17優先市135日和田町字鶴見坦40-54見通し公安136八山田二丁目204優先市137八山田三丁目204優先市138八山田四丁目160優先市139八山田五丁目452優先市140八山田西二丁目242優先なし141八山田西三丁目149優先なし142八山田西三丁目164優先なし143八山田西四丁目9優先市144八山田西四丁目30優先市145八山田西四丁目83優先なし146八山田西四丁目179優先市147八山田西五丁目284優先市148富久山町八山田字細田原3-18見通し市149富久山町八山田字坂下1-1優先市150富久山町八山田字舘前103-2見通しなし151富久山町八山田字菱池17-4見通し市152富久山町久保田字本木93見通し市153富久山町久保田字我妻117優先市154富久山町久保田字我妻136優先なし155富久山町久保田字石堂35-4優先市156富久山町久保田字石堂22優先市157富久山町久保田字本木54-2見通しなし158富久山町久保田字我妻79-1見通し市159富久山町久保田字麓山115-3見通しなし160富久山町久保田字麓山54-3見通しなし161富久山町久保田字三御堂12-2優先市162富久山町久保田字三御堂15-1優先なし163富久山町久保田字下河原123-1優先市164富久山町久保田字下河原38-2優先市165富久山町久保田字古坦131-4優先なし166富久山町久保田字三御堂122-2優先市167富久山町久保田字三御堂129-10優先なし168富久山町福原字猪田29-1見通し市169富久山町福原字左内90-63見通し市170湖南町三代字原木1148優先市171湖南町三代字御代1155-2優先市172湖南町福良字畑田181-1優先市173湖南町舟津字ヲボケ沼1見通し市174湖南町舘字上高野52優先市175熱海町安子島字北原24-54見通し市176上伊豆島一丁目25見通し市177田村町小川字岡市6見通し市178田村町小川字戸ノ内80-4見通し市179田村町山中字上野90-2見通し市180田村町山中字鬼越91-1見通し市181田村町山中字鬼越518-3優先市182田村町山中字枇杷沢264-6見通し市183田村町金沢字大谷地234-10見通し市184田村町谷田川字北田9見通し市185田村町谷田川字町畑11-1見通しなし186田村町守山字湯ノ川85-1見通し市187田村町正直字南17-1見通し市188田村町正直字北22-3見通し市189田村町金屋字水上35-1見通し市190田村町金屋字水上4見通し市191田村町金屋字マセ口14-2見通し市192田村町金屋字西川原80-3見通しなし193田村町上行合字北古川97優先市194田村町下行合字古道内122-2優先市195田村町下行合字宮田130-25優先市196田村町手代木字三斗蒔34優先市197田村町手代木字永作236-1優先市198田村町桜ケ丘一丁目59優先公安199田村町桜ケ丘一丁目170見通し公安200田村町桜ケ丘一丁目226見通しなし201田村町桜ケ丘二丁目1見通し市202田村町桜ケ丘二丁目2見通し市203田村町桜ケ丘二丁目27見通し市204田村町桜ケ丘二丁目90見通し市205田村町桜ケ丘二丁目115、297-17見通し市206田村町桜ケ丘二丁目144見通し公安207田村町桜ケ丘二丁目203見通し市208田村町桜ケ丘二丁目295-54見通し市209田村町桜ケ丘二丁目365見通し市210田村町守山字権現壇165-1見通し市211西田町鬼生田字前田407優先公安212西田町鬼生田字石堂1194優先市213西田町土棚字内出694-2見通しなし214中田町下枝字五百目55見通し市215中田町柳橋字石畑520-9見通し市216中田町柳橋字久根込564優先市217中田町柳橋字小中里217優先市218中田町牛字縊本字袋内1-1優先市219中田町高倉字弥五郎253優先市220中田町高倉字弥五郎202見通し市221中田町高倉字三渡13-2見通し市222中田町高倉字宮ノ脇198-1見通し市  また、緑ヶ丘団地などのニュータウン、住宅地も目立つ。住宅が立ち並び見通しが悪いのに、交通量が多いことが要因と思われる。 住民は地区内の危険交差点について、どう感じているのか。 7カ所の危険交差点がピックアップされた久留米地区の國分晴朗・久留米町会連合会長は「子どもたちが通るところもあるので心配」と語る。 「久留米は人口が多い住宅地(住民基本台帳人口6350人=1月1日現在)。地区内の子どもたちは柴宮小学校やさくら小学校に通っているが、交通量の多い通りを歩くので、事故につながらないか心配です」 例えば、久留米公民館近くの交差点(30番、写真参照)。四方向に一時停止標識が設置されているが、西側(内環状線側)から来た車は建物や駐車車両が視界に入り、交差車両が確認しづらい。 久留米三丁目の交差点(30番)。住宅地だが交通量が多い  東側から来る車からは、150㍍先に内環状線の信号が見える。青信号のタイミングには、一時停止をおざなりにして、急いで発信する車があるという。そうした中、危うく事故になる状況がたびたび発生しているようだ。もっとも、一時停止標識は設置されているので、今回の点検では「対策不要」となった。 同連合会では子どもたちの交通安全を守るため、関係機関と連携し、毎年1回、危険個所チェックを実施。地元住民は「柴宮小・地域子ども見守り隊」を組織して登下校時の見守り活動を行っており、市の2022年度セーフコミュニティ賞を受賞した。さらに年2回、市道路維持課の担当者を招き、各町会長が危険個所の改善を直接要望する場も設けている。ただ、「『近すぎる間隔で信号は設置できない』などの理由で要望は受け入れられておらず、危険交差点の解消には至っていない」(同)。 「本気度が感じられない」 片平町字新蟻塚(107番)。ブロック塀で右側からの車が全く見えない  郊外部の片平町でも、危険交差点が5カ所挙げられていた。片平町区長会の鹿又進会長は「いずれも見通しが悪かったり、優先順位が分かりづらい個所。改善されることに期待したい」と話す。 一方、同地区内で団体責任者を務める男性は「これまで信号機設置などを要望し続けてきたが、実現しなかった。市内で死亡事故が起きてから動き出すのでは遅すぎる」と憤る。 「朝夕は市中心部に向かう通勤車両が多い。通学する児童・生徒が危険なので、市や公安委員会に信号機設置を要望してきたが、実現しなかった。今回の点検も『対策不要』とされた個所が40カ所以上あるし、そもそも『いつまでにどう対策する』というスケジュールも明確ではない。交通死亡事故を受けてとりあえず動いた感がアリアリで本気度が感じられません。結局、見守り隊など地元住民の〝共助〟で何とか対応するしかないのでしょう」 公安委員会の窓口である郡山署に問い合わせたところ、「住民から要望を受けて県単位で優先順位を付け、限られた予算で対策を講じている。すべての要望に応えられないことはご理解いただきたい」と説明した。ちなみに、県警本部交通規制課が公表している報告書には「人口減少による税収減少などで財源不足が見込まれる中、信号機をはじめとした交通安全施設等の整備事業予算も減少する」との見通しが記されている。今後、安全対策の要望はますます通りにくくなるのかもしれない。 市道路維持課によると、定期的に道路パトロールは行っているが、総延長約3400㌔の市道を細かくチェックするのは困難なうえ、これまでは路面の穴、ガードレールや側溝蓋の損傷など異常個所を重点的にチェックしていたという。その結果、222カ所もの危険交差点を見過ごしてきたことになる。 事故を受けて郡山国道事務所、県中建設事務所も過去に事故が発生した交差点などを洗い出し、国道3カ所、県道41カ所が抽出された。 国道は国道49号沿いの田村町金谷、開成五丁目、桑野二丁目の各交差点。いずれも信号機がない交差点で、2017~20年の4年間で出合い頭の事故が2件以上発生している。担当者によると、現在、対応策を検討中とのこと。 県道に関しては場所を公表していないそうだが、現地を確認したうえで、必要に応じて消えかかった区画線を引き直すなど、緊急的に対応しているという。 悲惨な事故が二度と発生しないようにするためには、まず地区住民の声を聞き、危険個所を関係機関同士で共有する仕組みをつくる必要があろう。そのうえで、既存の対策を講じてもなお危険性が高い場所に関しては、市が中心となり違うアプローチの対策を模索していくべきだ。マップアプリ・SNSを活用した注意呼びかけ、交通安全啓蒙の看板設置、見守り隊活動補助金の拡充などさまざまな方法が考えられる。あらゆる対策により改善していく姿勢が求められる。 死亡事故公判の行方 大平町の交通死亡事故現場(事故直後に撮影)  さて、危険交差点総点検の発端となった大平町での死亡事故に関しては、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた高橋俊被告の初公判が3月16日、地裁郡山支部で開かれた。 報道によると、検察側は冒頭陳述などで▽事故当時は時速60㌔で走行、▽本来約80㍍手前で交差点を認識できるはずなのに、前方不注意で、気付いたのは約30㍍手前だった、▽22・3㍍手前で軽乗用車に気付きブレーキをかけたが間に合わなかったと主張。禁錮3年6月を求刑した。これに対し、弁護側は▽脇見運転や危険運転はしていない、▽道路の一時停止線が消えかかっているなど「事故を誘発するような危険な状況だった」として、執行猶予付き判決を求めた。 本誌記者2人は、傍聴券を求めて抽選に並んだが2人とも外れた。券を手にし、傍聴することができた裁判マニアが話す。 「傍聴席には被害者の遺族十数人の席が割り当てられていました。被告は背広にネクタイを締めた姿で出廷し、検察官が読み上げる起訴状の内容について『間違いありません』と認めました。テレビや新聞では『高橋被告は知人女性からの連絡を待ちながら目的地を決めずに車を運転していた』と報じていますが、それは事実の一部。裁判では、高橋被告は既婚者で子どもがいることが明かされました。知人女性と連絡を取り合い、待ち合わせ場所を決める中での事故だったのではないでしょうか。事故後は保釈金を払い、身体拘束を解かれました。香典を遺族に渡そうとしましたが会うのを拒否され、親族が代わりに渡しています」 弁護側の証人として、母親と職場の上司が出廷。上司は営業の仕事態度は真面目であったこと、罪が確定するまでは休職中であることを述べた。死亡した一家の親族も意見陳述し、「法律で与えられる最大の刑罰を科してほしい」、「4人の未来を返してほしい」と訴えた。高橋被告は声を震わせながら「本当に申し訳ないことをした」、「二度と運転しない」と何度も繰り返したという。 裁判は即日結審。判決は4月10日午前10時からの予定。危険交差点への対策と併せて、公判の行方にも注目したい。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証