【尾松亮】1Fで廃炉は行われていない!

1Fで廃炉は行われていない!【尾松亮(廃炉制度研究会)】

求められる法規制と原子炉の安定化

 東京電力福島第一原発の廃炉は現在どこまで進んでいるのか。本誌で「廃炉の流儀」を連載している研究者・尾松亮さんに現状と課題をあらためて解説してもらった。

廃炉はどこまで進んだか

廃炉はどこまで進んだか

 原発事故から12年が経過しようとしている。1F(福島第一原発)廃炉については「30~40年の廃炉」というフレーズが繰り返されてきた。最長40年として、その4分の1以上が過ぎたわけだが、廃炉工程はどこまで進んでいるのだろうか。

 2011年12月に発表された初版「中長期ロードマップ」では、同年12月の事故収束宣言(ステップ2完了)を起点にして「10年以内に燃料デブリ取り出しの開始」という目標が示されていた。初版ロードマップに添付されたスケジュール表では、25年後までにデブリ取り出しを完了する目安も示している。そして原子炉の解体を含む「廃止措置」の行程を最長40年で終わらせるとしていた。

初版ロードマップに示されたスケジュール

主要工程項目時 期初版ロードマップの規定2023年2月
現在の状況
ロードマップの開始時期2011年12月収束宣言・ステップ2完了の時点
燃料デブリ取り出し開始2021年以内「10年以内」と規定繰り返し延期
燃料デブリ取り出し完了2036年スケジュール表に20~25年後と目安が示されるロードマップから
「取り出し完了」時期の規定は消える
原子炉施設
解体終了
2051年「30年~40年後を目標」
と規定
ロードマップから
「原子炉解体」の規定は消える



 この当初スケジュールと照らし合わせると、現在の「廃炉工程」はどのくらい進んでいるのだろうか。昨年8月25日、東京電力は、2022年後半に取りかかる計画だった福島第一原子力発電所2号機の溶融燃料(デブリ)取り出しの時期について、23年度後半に延長することを発表した。デブリを取り出すロボットアームの改良、放射性物質が飛散するのを防ぐ装置の損傷、などが延期理由だ。ロードマップの「取り出し開始目標年」であった2021年にも、東電はコロナの影響を理由に「取り出し開始時期」を1年程度延期した経緯があり、延期決定が繰り返されている。

 このまま、本当にデブリ取り出しに着手できるのか? 仮に着手できたとしても、このロボットアームで取り出せるのは「燃料デブリ1㌘程度」といわれる。40年後にあたる2051年まで残すところ28年で、3基の原子炉内外に溶け落ちた核燃料をすべて取り出し、高度に汚染された原子炉の解体を完了することは絶望的に思える。

それでも「廃炉終了」はできてしまう

それでも「廃炉終了」はできてしまう

 2051年(ロードマップ開始から40年後)の廃炉完了なんて「無理だ」「フィクションだ」と思うかもしれない。しかし恐ろしいのはむしろ、それにもかかわらず「2051年1F廃炉終了はできてしまう」ということだ。

 「中長期ロードマップ」が示す、デブリ取り出しや原子炉施設解体は東電と政府の「目標」にすぎない。当初目標未達で「ここまでで終了します」といっても、法的責任は問われないのだ。そもそも「中長期ロードマップ」は、東電と政府のさじ加減でいかようにも改訂が可能で、実際にこれまで初版が示した目標を骨抜きにする書き換えが繰り返し行われている。

 2015年6月の第3回改訂版以降、「中長期ロードマップ」から「25年後」という「デブリ取り出し終了時期」の記述は見られなくなる。その結果、最新の第5回改訂版「中長期ロードマップ」(2019年12月)では「取り出し終了時期」が不明である。そもそも、ロードマップ終了時点(2051年)までにデブリ取り出しが終了するのかも曖昧になっている。

 少なくとも、初版「中長期ロードマップ」は「40年後」までに4基の原子炉施設の解体終了を目指していた。「1~4号機の原子炉施設解体の終了時期としてステップ2完了から30~40年後を目標とする」(8頁)という記述は、そのことを明示している。

 しかし、最新版「中長期ロードマップ」では「廃止措置の終了まで(目標はステップ2完了から30~40年後)」(12頁)という記述にとどまり、この「廃止措置の終了」が「デブリ取り出し終了」や「原子炉解体終了」を含む状態であるかは示されていない。

 燃料デブリは取り出さず、損傷した原子炉はそのまま放置し、汚染水だけ海洋放出を済ませた時点で「これで我々の考える廃炉工程は完了です」と言うことは違法ではない。

実際は「保安・防護」作業

 政府は「廃炉を前に進めるために処理水の海洋放出が必須」など、「廃炉を前に進める」というフレーズをよく使う。

 しかし、実は福島第一原発では「廃炉(原子力施設廃止措置)」を前に進めることはできない。なぜなら、同原発で「廃炉」は行われておらず、そもそも廃炉の前提となる「廃炉計画」(廃止措置計画)も提出されていないからだ。

 IAEAのガイドラインや原子力規制委員会の規則に従えば「廃炉(廃止措置)」とは「規制解除を目指す活動」と規定される。「規制解除」とはどういうことだろうか。原子力発電所には放射線管理区域など特別な防護措置や行動制限を求める「規制」が課せられている。施設解体や除染を徹底することでこの「規制」をなくし、敷地外の普通の地域と同じ扱いができるよう目指すのが「廃炉(廃止措置)」である。

 原子力規制委員会規則によれば、廃炉終了のためには「核燃料物質の譲渡し完了」「放射線管理記録の引き渡し」などが求められる。つまり制度上は、「使用済み燃料も搬出され、放射線管理がこれ以上必要ない」状態を目指すプロセスが「廃炉」ということになる。

 通常原発の「廃炉」であれば、前記のような「規制解除」を目指す廃止措置計画を原子力規制委員会に提出し、認可を得る必要がある。例えば福島第二原発の場合、一応は上記規則に従った廃止措置計画の審査・認可を受けている。この計画を変更する場合にも、やはり原子力規制委員会の審査が必要になる。

 福島第一原発の場合、この廃止措置計画の提出も、原子力規制委員会による審査・認可も行われていない。「40年後終了目標」を示した政府と東電のロードマップは「廃止措置計画」ではない。現在、福島第一原発で行われている作業は「規制解除」を目指す工程としての「廃炉」ではないのだ。

 それでは、福島第一原発で行われているのは一体何なのか。原子炉等規制法によれば、事故炉がある原発には「特定原子力施設」という特別な位置づけが与えられる。この「特定原子力施設」に対しては、通常原発に対する廃炉規則は適用されない。その代わり、事故でダメージを受けた原子炉施設や損傷した核燃料の安全性を保つための「保安・防護措置計画」の提出と実施が求められている。つまり福島第一原発で行われているのは、事故原発および損傷した核燃料の「保安・防護」に係る作業なのである。

いい加減な「完了」を防ぐ法規定を

 筆者がさらに恐ろしいと思う動きがある。デブリ取り出しや原子炉解体の現時点の技術的困難を言い訳に、「デブリをそのままコンクリートで固めてしまえ」「原子炉施設は解体せずにそのままモニュメントとして残せばいい」という類いの提言が、あたかも「現実的な計画」として出され、それほど大きな批判も受けていないことだ。

 昨年9月28日、日本テレビのインタビューに答えた更田豊志前原子力規制委員長は燃料デブリの扱いについて次のように述べた。「できるだけ量を減らす努力はするけど、あとは現場をいったん固めてしまう、安定化させてしまうということは、現実的な選択肢なんだと思います」。



 「その場でいったん固めるのが現実的だ」と更田氏は言う。しかしこのデブリ固定化案は、「将来的に発生する放射性廃棄物を最小限に抑える」IAEA原則に反するため、チェルノブイリの廃炉工程で却下された案である(廃炉の流儀第33回)。

 住民不在の計画変更、事実上の廃炉断念案が承認されてしまうことは防ぐべきだ。事故の起きた原発の後始末を中途半端な状態で「終了」し、加害企業が他の原発の再稼働や新型炉の建設を認められるようなことを、私たちは受け入れてしまうのか、それが問われている。そのためにも「廃炉完了」の要件を定め、その完了を東電と政府に義務づける「福島第一原発廃炉法」の制定が必要なのだ。

「安定化」「監視貯蔵」段階を制度に組み込め

 仮に「廃炉法」によって、「燃料デブリ取り出し」「原子炉を含む施設解体」「敷地の基準値未満へのクリーンアップ」までを廃炉完了要件として定めたとする。しかし、そのような完了状態の達成はとてもあと28年ではできないだろう。これが多くの専門家の意見である。

 だとするとさらに数十年、全体で100年以上かかる工程を想定しなければならない。その場合、直近10年、20年、何をするべきなのか。

 あくまで海外の廃炉事例を調査してきた研究者としての私見を述べる。

 1、「事故で損傷し、耐震性の低下した施設の安定化」、2、「津波や大規模地震に備えるための防災強化」、3、「追加の環境汚染を防止する対策強化」に注力する期間を設けた方がよいのではないか。取り出せても数㌘ならデブリ取り出し開始を急いで、リスクを高める必要はない。しかし、将来のデブリ取り出しが絶望的になるような「デブリのコンクリート固化」や、「原子炉石棺化」というようなことはしない。

 溶融燃料や未搬出の使用済み核燃料を起源とする事故再発を防ぎつつ、周辺環境への汚染流出を最小化し、その「安定化期間」を通じて「将来の廃炉完了」に向けた技術開発を続ける。汚染水海洋放出は撤回し、放射能減衰を図りつつトリチウムを含む高度な分離技術開発を進める。それを政府と東電に「廃炉法」で義務づけるのだ。

 法律にする以上、その計画の内容は、少なくとも国民に選ばれた議会が審議し、改定に際しても国会審議が必要になる。いままでのロードマップ改定のような国民不在の計画変更は防げる。

スリーマイル、チェルノブイリの廃炉法

スリーマイル、チェルノブイリの廃炉法①
チェルノブイリ原発
スリーマイル、チェルノブイリの廃炉法②
スリーマイル原発

 参考にすべきは、チェルノブイリ原発の工程における「安定化」のアプローチ。そしてスリーマイル原発2号機の工程における「無期限の監視貯蔵」という考え方だ。

 1986年に事故が起きたチェルノブイリ原発4号機にはコンクリート製シェルター「石棺」が被せられた。その後91年に当時のソ連国立研究所によって、石棺を含む4号機施設の長期的な安全性確保のために複数の案が検討された。国際コンペなどを経て採用されたのは、短期的には施設の倒壊を防ぐため補強などの「安定化(Stabilization)」の措置を行いつつ、遠い将来のデブリ取り出しを目指し続ける、という計画であった。原子炉を覆う新シェルター内部で将来的なデブリ取り出しを目指す計画を、ウクライナ議会は法制化している。(2009年廃炉国家プログラム法)

 スリーマイル原発2号機では1990年にデブリ取り出しを完了したが、その後原子炉解体に着手せず「無期限の監視貯蔵」を認めた。汚染された原子炉を即時解体すれば、廃炉期間は短縮できても労働者の被曝、環境汚染が増える。それを避けるための監視貯蔵制度である。その結果、スリーマイルでは事故から44年経過した現在もなお原子炉解体に着手していない。

 チェルノブイリもスリーマイルも、40年をゆうに超える長期の廃炉計画を前提としている。それと同時に、両事例ともに「デブリ取り出し」、「敷地のクリーンアップ」まで完遂する法的義務を事業者(※チェルノブイリの場合、国営事業者)に課している。技術的に困難でも、廃炉断念案を認めていないのだ。

 少なくとも事故後数十年の間は、ダメージを受け老朽化した施設の安定化、追加の環境汚染防止、労働者被曝低減を最優先とする。しかし将来的な廃炉完了要件を法的に定め、その達成を義務づける。

 チェルノブイリ、スリーマイルが採用したこのアプローチは、福島第一原発でも取り入れる必要があるのではないか。

おまつ・りょう 1978年生まれ。 東大大学院人文社会系研究科修士課程修了。文科省長期留学生派遣制度でモスクワ大大学院留学後、通信社やシンクタンクでロシア・CIS地域、北東アジアのエネルギー問題を中心に経済調査・政策提言に従事。震災後は子ども・被災者支援法の政府WGに参加。「廃炉制度研究会」主宰。

東洋大学国際共生社会研究センター(客員研究員・RA)

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