こはた・ひろし 1960年生まれ。東大経済学部卒。自治省(現総務省)に入省し岡山県副知事、消防大学校長、復興庁福島復興局長などを歴任。現在2期目。
――福島駅東口再開発事業は着工と開業が1年程度延期されることが決まったあと、昨年12月定例会では規模の見直しを検討することが発表されました。
「再開発事業は計画もテナントもおおむねめどが立っていました。ところが着工までに全国的な資材費・人件費の高騰に見舞われました。市は再開発組合とともに資材の見直し、施設計画の調整、国の補助金の確保と工夫を重ねました。ただ、資材費高騰の影響を抑えるまでの効果は得られず、計画自体の見直しが必要になりました。
商業機能をどうするか検討する必要も出てきました。改めて福島商圏の需要を事業主体の再開発組合がマーケット調査をしたところ、コロナ禍を経て電子商取引(EC)は想定以上に伸張、実店舗の需要は急速に縮小していました。全体的な見直しが必要になり、コスト増による1年延期に加え、設計の見直しでさらに最低1年は遅れることになりました。
再開発事業は基本的に民間事業です。再開発組合はテナントが入る民間部分を、市は組合から買い取った公共部分を維持管理していきます。民間部分の主な収入は家賃ですが、テナント入居が見通せずランニングコストを賄いきれない状況になってしまうことが分かりました。
民間の維持管理部分を減らそうと、現計画では融合している公共部分と民間部分を別棟にする案を考えました。私は『街なかの賑わい創出のために公共部分だけでも先行して建てられないか』と提案し、その検討の中で分棟にすると民間部分の収支改善が図られ、事業継続にめどが付くことが確認されました。
公共部分については、建設費用を抑えるために規模を縮減し、その上で使い勝手の良い施設にしていこうと考えました。劇場ホールとコンベンション両方の機能を備えた建物は難しく、劇場ホール案とコンベンション案を市民に提示しました。あくまで議論のたたき台であり、それ以外の案も不可能ではないと思います。今後進むべき方向を、市民を交えた議論を踏まえ決めたいと思います」
――ここに来て駅周辺の東西一体のまちづくりという考え方も浮上しています。背景と、今後どのように議論を進めていくのか伺います。
「イトーヨーカドー福島店の撤退で西口の状況が変化することが挙げられます。民間企業の所有地なので市は注視しつつ情報収集してきました。民間の会社が入る話もありますが正確なことはまだ分かりません。売却の可能性も想定し情報収集に努めています。当該地は駅西側の玄関口であり、今後のまちづくりの観点から市として積極的に関与します。仮に所有者が売る場合、市民が望まない形になってはいけない。市が使うことも想定しなければなりません。そうなった時、市が何の案も用意していないのは好ましくない。議会や市民の皆さんの意見を聞き、市としての意向を複数用意していきたいと考えています。
福島駅東口と西口は一体化してまちづくりに取り組まなければなりません。2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では東西を結ぶ駅改札外の自由通路の改善を中長期的課題に位置付けました。まずは中心地の活性化を優先すべきと考えたからです。市が管理する自由通路の改善は、福島駅舎とも関わっています。市は駅舎の建て替えをJRに要望してきました。仮に建て替える場合、自由通路との調和が必要で、JRは市のまちづくりビジョンを参考にするとしています。そのために自由通路を含めた東西一体のまちづくりの方向性を今示しておくことは重要なのです」
――東口再開発地区にある既存建物の取り壊しが年度内で終了する予定ですが、結論を先延ばしにすれば東口はいつまで経っても「何もない状態」が続くことになります。一方、拙速に結論を出すわけにもいかず、木幡市長としては難しい判断を迫られるのではないかと思います。
「駅の東西両方の賑わいを創出していく必要がありますが、東口の方をより急がなくてはならないという認識です。再開発ビルは民間事業者が銀行から借り入れて建設しています。延期するほど金利負担が増えていき、事業成立が困難になる。もし破綻したら空いたままの土地が生まれます。だからと言って拙速にならないよう慎重に検討していきます」
――中期財政収支見通しで市財政の厳しさが明らかになっています。そうした中で本庁舎西側で市民センター(仮称)の建設が始まり、今後多くの公共施設の建て替えが控えています。老朽化施設の建て替えは必要ですが、財政収支も考えないと将来世代に大きなツケを回すことになってしまいます。
「福島市はこれまで大型事業を先送りしていた傾向があり、今それらをやらなければならない状況になっています。有効な手が打てるうちに積極的に行うことが必要です。将来の人口減少を考えると、今手を打たないとますます窮地に陥ってしまう。福島市が魅力のないまちになるのをただ待つのは避けたい。将来の人口を維持するためにも今やるべき事業は進め、むしろ先進的で魅力を感じてもらえるように転換したいです」
――人口減少、少子高齢化が急加速している中、子育て支援や移住促進に注目が集まります。人口減少、少子高齢化対策について地方自治体でできることが限られる中、国はこういう対策に取り組むべきだという考えがあればお聞かせください。
「中核市市長会会長として、子育て世帯の負担軽減など所得に絡んだ施策の充実を国に要望しています。移住を促進しようと自治体同士が負担軽減策で競争すると疲弊してしまいます。効果的な施策を国でしっかりやっていただいて、自治体が創意工夫ある施策を進めていくことが重要です。
人を呼び込むには産業がないと続きません。産業振興、企業誘致にとどまらず、地元産業の高度化が必須と考えます。時代の変化が非常に激しいですから、創業・起業にも力を入れる必要があります。人手不足対策についてはこれまで家庭に入っていた女性や障がい者、高齢者の皆さんにも働いていただけるよう、事業者と行政は環境を整えなければなりません。
外国人雇用も求められています。これからは外国出身者の活躍が地域の活力となります。市は昨年、多文化共生センターを開設しました。事業者をサポートし外国人を雇用することへの理解を促進しています。また、外国人が安心して暮らせる環境づくりを担うのが4月に開校する公立夜間中学です。他地域では夜間中学の生徒の7割は外国にルーツのある方で、日本語教育や居場所づくりの役目があります。以上のような取り組みで、さまざまな人を受け入れ誰もが活躍できる市を目指します」