昨年4月に塩田金次郎・石川町長(77)が逮捕された官製談合事件は、福島空港に勤務する県職員の入札不正摘発につながり、捜査が県の出先機関や他市町村に波及する勢いを見せている。県内では、かねてから暗黙の了解で横行していた入札情報漏洩が毎年のように摘発されており、今年は誰が標的になるかに注目が集まっている。
志賀建設への「別件捜査」は新事件の布石!?
石川町や県発注の公共工事を巡り、公契約関係競売入札妨害と贈賄の罪に問われた石川町の土木建築業・志賀建設元顧問の関根徳夫氏(70)=石川町=と元役員で営業管理部長だった添田保雄氏(63)=平田村=の初公判が昨年12月2日、地裁郡山支部で開かれた。両氏は起訴内容を認め、検察側が懲役2年を求刑し結審。1月29日午後2時から判決が言い渡される。
志賀建設は石川町長(当時)の塩田金次郎氏や県福島空港事務所建設課に勤める県職員3人から秘密事項の設計金額(=予定価格)を聞き出し、自社の落札や、他社との受注調整(談合)に使っていた。塩田氏には設計金額を教えてもらった見返りとして少なくとも約42万円相当のビールを複数回に分けて贈った。
塩田氏は官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害、収賄の罪に問われ、昨年11月18日に懲役2年6月、追徴金約42万円、執行猶予5年(求刑懲役2年、追徴金約42万円)の判決を言い渡され確定した。
県警の捜査によると、少なくとも7回にわたって塩田氏から志賀建設に設計金額が漏れていた。このうち、裁判で官製談合や入札妨害と言及された6件の入札を一覧にした(表①~⑥)。町内を拠点とする志賀建設、水谷工業、福産建設、佐藤渡辺石川営業所が談合に加わっていた。



志賀建設は事件を受けて町や県から指名停止を受けている。残り3社も2022年9月26日の入札(表③~⑤)を巡って幹部が談合罪で略式起訴され、罰金40~50万円の略式命令が確定、指名停止となった。福産建設は当時別件で指名停止中だったため入札に参加していないが、③水谷工業と④佐藤渡辺が受注した2工事で下請けに入ったため同罪となった(福島民友2024年11月13日付より)。
塩田氏が志賀建設に初めて設計金額を漏らしたのは、遅くとも町長1期目の2019年6月のこと。添田氏は塩田氏の選挙運動を手伝っており、塩田氏が経営するエアーポンプ組立業・塩田工業には親族2人が勤めていた。関根氏が添田氏に、塩田氏とのパイプを利用して設計金額を聞いてくるよう指示した。
志賀建設は、県福島空港事務所でも官製談合を主導した。同事務所に勤める県職員3人から入札の設計金額や参加業者の情報を聞き出して落札に利用していた(表⑦、⑧)。同社社員(当時)の緑川家司氏(70)=古殿町=が県職員から聞き出し、関根氏らに教えていた。
関根氏と添田氏は福島空港の事件でも公契約関係競売入札妨害罪に問われた。志賀建設の緑川氏、県福島空港事務所建設課の志田欣也課長(55)、福田等主査(50)、須佐洋介主査(43)らが同罪などで立件。緑川氏と福田主査、須佐主査は在宅起訴され、1月15日午前10時から地裁郡山支部で初公判が開かれる。志田課長は官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害罪で略式起訴され、罰金50万円の略式命令が確定した。
緑川氏は、以前は水谷工業に勤め、福島空港には約35年前の建設時から業者として出入りしていたという。2015年に退職後、志賀建設に再就職。福島空港から除草や除雪作業を委託されている「いしかわ施設敷地管理事業協同組合」に出向していた。同組合には志賀建設や水谷工業など地元建設業者が加盟する。前述のように両社は常習的に談合をしており、密接な関係にあった。水谷工業では関根氏の親族が重役を務めており、この点でも関係が深かった。
福島空港が立地する玉川村の事情通によると、同組合の事務所はプレハブ小屋で空港脇に建っており、地元業者が一堂に会する場であったことから「談合小屋」と呼ばれていたという。談合小屋は、昨年4月30日に石川町長の塩田氏が逮捕されて数日後に突如解体された。事情通は「談合小屋では他にもやましいことが行われていたのだろう」とみている。
関根氏と添田氏は法廷で、塩田氏や県職員から得た入札情報は志賀建設の利益を最大化するために使ったと述べた。高額な工事では町外の業者を交えた真剣勝負が繰り広げられるので競り勝ち、小規模の道路工事は町内の業者と談合して予定価格(上限)の98%程度で落札し、各社で分け合っていた。
志賀建設が積極的に落札した工事は表の①、②、⑥(町発注)と⑦、⑧(県発注)の工事。町発注の⑤の町道工事は乗り気でなかった。添田氏は法廷で「技術者が足りず、本当は取りたくなかった。不調になると再入札になり、工期が延びて町に迷惑が掛かると思い落札した」と話した。さらに「ヨソから来る業者は実入りの良い仕事だけ取って、災害復旧工事などはやってくれない」と他社への不満を述べた。

別の事件で家宅捜索
縄張りに関係なくAランク業者が多数参入する県発注工事の入札は真剣勝負になることが多い。志賀建設は、⑦福島空港工事道路用工事では設計金額に加え、どの業者が入札に参加するのかを県職員に聞いている。参加業者に関する情報は設計金額同様、秘密事項だ。
県発注工事は、業者の実績や地域貢献度に対して持ち点をあらかじめ付与する総合評価方式による一般競争入札が採られている。そのため、一番安い金額を入れれば必ず落札できるというわけではない。自社と他社の持ち点を勘案し、競争相手のランクに応じて戦略が変わる。関根氏は法廷で、参加業者を県職員から聞いた理由を次のように語った。
「他の業者の評価点を知りたかった。競争相手が志賀建設より点数の低い業者なら、最低制限価格から金額を上げても落札できる。点数の高い業者なら、競り勝てるように最低制限価格に近く、かつ下回らない金額にしなければならない。県のホームページで過去の入札結果を見ると、各業者の評価点が分かるので、参加業者と設計金額が分かればどの金額を目指せばいいか分かる」
石川町と福島空港を舞台にした官製談合事件の震源となった志賀建設だが、県警の捜査は終わったわけではない。12月2日の裁判では、別の事件への関与をうかがわせるやり取りがあった。
弁護人「志賀建設をなぜ辞めたのか」
関根氏「2023年7月31日付で辞めた。会社で別の事件があったので、いるわけにはいかないという話だった」
弁護人「『辞めたことに偽装する』と書いたメモを残していた」
関根氏「会社から言われたことをメモに取っただけだ」
「別の事件」が何を意味するのか気になる。続いて添田氏への質問。
弁護人「なぜ辞めたのか」
添田氏「2023年7月末に辞めた。役員会で『これこれこういう事件があったので辞めてくれないか』と言われた」
弁護人「辞めた後にコンサルタント契約を結んでいる」
添田氏「今は報酬をもらっていない。逮捕された場合は契約を破棄するという条文を契約書に盛り込んでいた。4月30日に逮捕されて以降、入金はない」
検察側も「別の事件」を聞いた。
検察官「退職理由で述べた『こういう事件』とは起訴されたものとは別の事件か」
添田氏「別の事件だ。役員から『家宅捜索された。お前のところに来るかもしれない』と忠告された」
関根氏と添田氏が現に裁かれている事件とは別に、志賀建設の関与が疑われる事件があったことが分かる。証拠不十分や時効などで立件に至らなかったのか、あるいは現在も捜査中なのか。言えるのは近年、県警は汚職事件が起こると関係する業者や行政機関を取り調べ、芋づる式に別の不正を摘発しているということ。今年は誰がターゲットになるのか、捜査の行方は予断を許さない。