特定帰還居住区域の課題

特定帰還居住区域の課題

 昨年6月、「福島復興再生特別措置法」が改定され、原発事故に伴い設定された帰還困難区域のうち、「特定復興再生拠点区域」から外れたエリアを、新たに「特定帰還居住区域」として設定し、住民が戻って生活できるように環境整備をする方針が決まった。これに基づき、帰還困難区域を抱える大熊、双葉、浪江、富岡の4町は「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定し、国の認定を受けた。4月までにそれら計画が出揃ったわけだが、その中身を検証しつつ、同区域のあり方について考えていきたい。

大熊・双葉・浪江・富岡の「復興再生計画」が出揃う

 原発事故に伴う避難指示区域は、当初は警戒区域・計画的避難区域として設定され、後に避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3つに再編された。現在、避難指示準備区域と居住制限区域は、すべて解除されている。

 一方、帰還困難区域は、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」(以下、「復興拠点」)に指定し、除染や各種インフラ整備などを実施。JR常磐線の夜ノ森駅、大野駅、双葉駅周辺は、同線開通に合わせて2020年3月末までに解除され、そのほかは葛尾村が2022年6月12日、大熊町が同6月30日、双葉町が同8月30日、浪江町が昨年3月31日、富岡町が同4月1日、飯舘村が同5月1日に解除された。

 とはいえ、復興拠点は、帰還困難区域は約8%にとどまり、残りの大部分は解除の目処が全く立っていなかった。

 そんな中、国は昨年6月に「福島復興再生特別措置法」を改定し、復興拠点から外れたところを「特定帰還居住区域」として定め、2020年代(2029年まで)に住民が戻って生活できることを目指す方針を示した。

 これを受け、帰還困難区域を抱える大熊、双葉、浪江、富岡の4町は「特定帰還居住区域復興再生計画」を策定し、国の認定を受けた。認定日は大熊町が昨年9月29日(今年2月2日に改訂版認定)、双葉町が昨年9月29日(今年4月23日に改訂版認定)、浪江町が今年1月16日、富岡町が同2月16日。大熊町と双葉町は昨年9月に一度、国から計画認定を受けているが、これは先行的に行われたもので、その後、エリアを追加して改訂版が認定された。実質的にはそれが「本計画」のような形になり、4月までに4町の計画が出揃ったことになる。

 これにより、対象エリアは、除染や廃棄物処理、道路などのインフラ整備が、全額国費で国によって行われる。そうして環境整備を進め、2029年までに住民が戻って生活できることを目指す。

 いずれも、計画期間は2029年12月31日までとなっており、放射線量は「一部で20㍉シーベルト/年を上回る箇所も存在するが、概ね20㍉シーベルト/年以下まで空間線量が低下している」とのこと。計画の主な部分で言うと、復興拠点の延長線上といった位置付けになり、各町で大差はない。つまりは、すでに解除されている復興拠点から、住民が戻って住めるエリアを徐々に拡大していく、といったイメージだ。

 対象エリアは大熊町が約4・4平方㌔、双葉町が約5・3平方㌔、浪江町が約7・1平方㌔、富岡町が約2・2平方㌔。帰還困難区域はこの4町のほか、南相馬市、葛尾村、飯舘村の計7市町村にあり、全体で約337平方㌔に上る。このうち、復興拠点は約27・47平方㌔で、帰還困難区域全体の約8%。特定帰還居住区域は約19平方㌔で、帰還困難区域全体(すでに解除済みの復興拠点を除く)は約6%しかない。復興拠点と特定帰還居住区域を合わせても、帰還困難区域全体の14%弱にとどまる。

 一方で、岸田文雄首相は、震災・原発事故から13年を迎えた今年3月11日、将来的には帰還困難区域を全面解除することをあらためて示した。2029年までに帰還困難区域全体の約14%が解除されるとして、全面解除はいつになるのか分からないが、そのころには帰還困難区域が「ふるさと」である人はいなくなっているのではないか。

意向調査の結果

 そもそも、特定帰還居住区域が避難解除されたとして、どのくらいの人が戻るのか。

 大熊、双葉、浪江、富岡の4町は国と共同で2022年に「第1期帰還意向確認」という名目で意向調査を実施した。

 大熊町は340世帯が回答し、「帰還希望あり」が143で約42%、「帰還希望なし」が120で約28%。

 双葉町は267世帯が回答し、「帰還希望あり」が168で約63%、「帰還希望なし」が38で約14%。

 浪江町は444世帯が回答し、「帰還希望あり」が256で約58%、「帰還希望なし」が117で約26%。

 富岡町は168世帯が回答し、「帰還希望あり」が85で約51%、「帰還希望なし」が40で約24%。

 こうして見ると、帰還希望者の割合が高いが、同調査は世帯単位の回答で、例えば4人世帯で、そのうち1人でも帰還希望者がいれば「帰還希望あり」にカウントされる。もっと言うと、今回に限らず、原発事故の避難指示区域(解除済みを含む)では、この間幾度となく住民意向調査が実施されてきたが、回答しなかった人(世帯)は、「もう戻らないと決めたから、自分には関係ないと思って回答しなかった」という人が多い。つまり、回答がなかった世帯の大部分は「帰還希望なし」の可能性が高い。そのため、実際の帰還希望者の割合(人数)は、もっと低いと思われる。

 実際、ある対象住民は「アンケート結果を見ると、『帰還希望あり』の割合が高いが、仲間内で話している感じでは、そんなに帰還希望者がいるとは思えない」と話した。

 さらに、この住民はこうも話した。

 「やはり、戻りたいという人は高齢の方が多い。解除目標まではまだ5年ほどあるから、それまでに亡くなってしまう人もいると思う」

 当然、特定帰還居住区域の設定に当たっては、そうした調査を踏まえたものになっているから、もっと実態が見えやすい調査方法にすべきではなかったか。しかも、復興拠点の計画では解除から数年後の居住者数の想定値が記されていたが、特定帰還居住区域復興再生計画ではそうした数字は示されていない。

 一方で、本誌が以前から指摘しているのは、帰還困難区域の除染は、原因者である東電の責任(負担)ではなく、国費(税金)で行うのは妥当か、ということ。

 対象住民(特に年配の人)の中には、「どんな状況であれ戻りたい」という人も一定数おり、それは当然尊重されるべき。同時に、新たな土地で暮らすことを決めた人の意思も尊重されるべきで、前者のために除染などで国費を投じるのであれば、後者のために同規模の生活再建支援予算を投じていい。そうでなければ、帰還困難区域の除染に関しても東電に負担を求めるしかないのではないか。

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