※この記事は『政経東北』2022年5月号に掲載していますが、ネット配信に当たり一部実名を伏せるなど加筆・訂正を加えています。あらかじめご了承ください。
白河市の結婚式場「鹿島ガーデンヴィラ」の経営者が突然変わり、市内の経済人たちを驚かせている。同式場は白河商工会議所の元会頭が代表取締役を務め、地元に長く親しまれてきたが、新経営陣は県外在住者で占められている。不可解なのは、役員交代が社外に一切知らされず、式場運営の実績も見当たらないことだ。新型コロナウイルスの影響でブライダル業界は苦境に立たされているが、実績のない会社がどうやって同式場を立て直すのか注目される。
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実績ゼロの新経営陣が進める「M&A」真の狙い

それは、本誌スタッフが取材や営業で白河市内を回っていた際、訪問先で耳にした話だった。
「鹿島ガーデンヴィラの経営者が変わったみたいなんだが、何か知っているかい?」
鹿島ガーデンヴィラとは、阿武隈川沿いに建つ大きな三角形の屋根が印象的な地元の老舗結婚式場。婚礼だけでなく宴会や会合、セミナーなど幅広く使われている市内ではお馴染みの施設だ。
偶然にも同時期に数人から尋ねられたため、調べてみると、確かに経営者は変わっていた。
「普通、経営者が変われば取引先に役員変更を知らせる通知が届きますよね。しかし、それが一切なく、新経営陣は地元にゆかりの無い県外の人たちという話だから、市内の経済人の間では『社内で何かあったのではないか』といぶかしむ声が出ています」(ある会社役員)
地元に親しまれてきた施設の異変に触れる前に、鹿島ガーデンヴィラの歴史を説明したい。
事業の出発点は、和知繁蔵氏が1962年に個人創業した自動車運送業と縫製業だ。徐々に営業規模を拡大していった和知氏は1972年に㈱和知産業を設立し、社長に就任した。ブライダル業界に進出したのは1979年で、この年、2億数千万円を投じて結婚式場・ウエディングプラザ鹿島(現在の鹿島ガーデンヴィラ)をオープン。1983年には和知産業から㈱ウエディングプラザ鹿島に商号変更し、ブライダル専業となった。

和知氏はその後、栃木県大田原、足利、那須塩原、宇都宮の4市に結婚式場をオープン。2005年には社長の座を長男・裕幸氏に譲り、自らは代表取締役会長に就いた。同時に会社の商号をウエディングプラザ鹿島から㈱鹿島ガーデンに変更。2009年に現在の㈱ピーアンドケーカンパニーに変更した。
当時の役員は代表取締役・和知裕幸、和知繁蔵、取締役・和知徹、和知信子、首藤幸一、成田浩文、監査役・石坂幸恵の各氏。
和知繁蔵氏は白河商工会議所会頭を3期9年務め、白河観光物産協会理事長などの要職を歴任するなど、地元の名士として長く君臨した。
そんなピーアンドケーカンパニーで役員変更があったのは昨年10月28日。法人登記簿によると、前記の全員が一斉に退任し、新たに代表取締役・A、取締役・B、廣田彰人の各氏と、会計参与に税理士法人明清が就任したのだ。
社長のA氏と税理士法人明清の住所は茨城県、取締役の廣田氏も神奈川県と、地元の〝和知一族〟から県外在住者に取って代わられた格好。
一方、ピーアンドケーカンパニーにはグループ会社が2社ある。
一つは、白河フラワーワールドと那須フラワーワールドを運営する㈱フラワーワールド(白河市)。2018年4月設立。資本金300万円。社長の和知徹氏は裕幸氏の弟。同社に異変は見られない。
もう一つは貸衣装の㈱ウイル(白河市)。1988年6月設立。資本金1000万円。こちらは和知裕幸氏が社長を務めていたが、今年3月に辞任し、後任に邊見義栄氏が就いている。関係者によると、財務内容の良いウイルの社長を裕幸氏が務めていることに金融機関が難色を示し、邊見氏と交代したという。邊見氏の本業は飲食業㈱エールコーポレーション、不動産業㈲エール開発(いずれも白河市)の社長。
ちなみに、ご当地ヒーロー「ダルライザー」として映画制作やイベント企画、白河市のPR活動を行っている和知健明氏は裕幸氏の息子。
一体、ピーアンドケーカンパニーに何があったのか。白河商工会議所の担当者はこう話す。
「和知裕幸氏は当会議所の常議員でしたが、本人から『会社を売却する方向で進めている』という話は聞いていました。そうこうしているうちに昨年12月、裕幸氏から常議員を退任したいという申し入れがあり、常議員会に諮って退任を議決しました。詳しくは分からないが(ピーアンドケーカンパニーの)株を譲渡したらしいですね。新経営陣からは当会議所の議員になりたいといった申し入れはきていません」
会社を売却し、役員が変わったという事実は把握しているようだ。
和知裕幸氏の親族によると、
「ピーアンドケーカンパニーの株は和知一族が持っていたが、昨年10月、株主に対して裕幸氏から『会社を売却することになった』と急に連絡があり、株を譲渡するのに必要な印鑑証明書などの準備を求められたようです」
というから、会社の売却は急だった様子がうかがえる。
和知裕幸氏に話を聞いたが、
「ピーアンドケーカンパニーは既に私の手を離れており、外野があれこれ言うのは差し控えたい。詳しいことを知りたければ、新しい役員に聞いてほしい」
と語るのみ。
そこで新経営陣に関するデータを集めてみると、不可解な事実が次々と明らかになった。
入り組む役員
A氏は東京都千代田区の不動産業㈱ルシアンホールディングスで代表取締役を務めているが、ルシアンが設立されたのはA氏がピーアンドケーカンパニーの社長に就任した直後の2021年11月。また、ルシアンンの取締役には前出・廣田彰人氏とB氏、会計参与には税理士法人明清と同じ顔触れが就いている。
A氏は栃木県宇都宮市の土木工事業㈱板橋工業でも代表取締役を務めているが、元の経営陣は2021年12月に一斉に退任し、代わってA氏をはじめ廣田氏らが就任している。
業界筋によると、板橋工業は創業70年近い老舗で、前社長の福田直樹氏はコインランドリー事業ふとん巻きのジロー㈱の取締役社長を務めているが、M&A紹介会社を通じてルシアンホールディングスに板橋工業を売却。株式はルシアンのM&AファンドLUCIAN15合同会社が100%保有しているという。ちなみに、合同会社は他にLUCIAN11~14と複数存在する模様。
A氏と一緒に名前が出てくる廣田彰人氏は、横浜市の土木建築・不動産業㈱ビービルドで代表取締役を務めている。同社は1991年2月設立。資本金2000万円。ただ、廣田氏が社長に就任したのは昨年2月で、それに伴って前経営陣は一斉に退任している。
同社のホームページを見ると、
《建築・不動産に関する様々な問題に対応いたします。株式会社エステート平和のグループとして、不動産再生事業とM&Aにより事業の拡大を行っています》
と書かれており、関連会社として飛翔興産㈱、アイリス住宅㈱、オーシャン貿易㈱が紹介されている。
㈱エステート平和(神奈川県大和市)は1990年2月設立。資本金1000万円。不動産業。代表取締役は山内五郎氏。
飛翔興産㈱(横浜市)は2016年8月設立。資本金1000万円。ホテル・旅館の運営管理。代表取締役は廣田彰人氏。
アイリス住宅㈱(静岡県伊東市)は2012年10月設立。資本金500万円。不動産業。代表取締役は廣田彰人氏。
オーシャン貿易㈲(横浜市)は1986年4月設立。資本金500万円。鮮魚類・魚介類・冷凍食品の輸出入および加工・販売。代表取締役は廣田彰人氏。ホームページでは株式会社となっていたが、実際は有限会社。自社の法人格を誤って紹介することがあるのだろうか。
このほか廣田氏は、栃木県足利市の分譲マンション管理業ゴールドライフ㈱の代表取締役でもある。2010年設立。資本金300万円。
ここから見えてくるのは、①中心人物は廣田氏とみられること、②役員が入り組んでおり、各社は一体と見なせること、③少なくともピーアンドケーカンパニー、板橋工業、ビービルドはM&Aで経営者が代わったこと、④このグループに結婚式場の運営実績は見当たらないこと。
話によると、M&Aで買収された企業は他にもいくつかあるというから、前述した合同会社のLUCIANがその役目を果たしているのかもしれない。また、廣田氏が社長を務めるビービルドは前述の通り「不動産再生事業とM&Aにより事業の拡大を行っている」というから、このグループがそれを体現しているのかもしれない。
5期連続赤字の運営会社
ピーアンドケーカンパニーでは鹿島ガーデンヴィラのほか、栃木県内で4カ所の結婚式場を運営していたが、宇都宮市の式場は和知裕幸氏が退任する前の2021年6月に東京都内の医療系会社に売却され、A氏(廣田氏)が引き継いだのはこれを除く4カ所の式場とみられる。
鹿島ガーデンヴィラの従業員に話を聞いた。
「A社長とはこれまで3、4回会いましたが『経営は今まで通り続けていく』と言われており、ひとまず安堵しています。経営者が代わったことは対外的に知らせていないようで、取引先からも問い合わせがありましたが『今後も変わらず継続していきます』と伝えています。新経営陣は結婚式場の運営実績はなさそうですが、山形県内の結婚式場を買収したという話は聞いています」
A氏(廣田氏)はピーアンドケーカンパニー以外に、山形県の結婚式場の運営会社もM&Aで取得している模様だ。
鹿島ガーデンヴィラの不動産登記簿からも、薄っすらと見えてくる事実がある。
土地・建物には鹿島ガーデン(ピーアンドケーカンパニー)を債務者とする極度額3億8000万円の根抵当権(1984年)、同8000万円の根抵当権(1982年)、同2500万円の根抵当権(1984年)、同1200万円の根抵当権(1983年)が設定されている。根抵当権者はいずれも白河信用金庫。
設定額合計4億9700万円のうち、実際に融資されたのは3億5000万~4億円程度とみられるが、これらの担保が抹消されていないということは、A氏(廣田氏)はM&Aに当たり和知氏から債務も引き受けたわけだ。和知氏は個人保証をしていたはずで、売り上げが見込めない中、返済に窮していただろうから債務もセットで引き受けてくれたのは相当ありがたかったに違いない。
もっとも、白河信金に経営者が変更になった経緯を尋ねると、次のような返答だった。
「役員変更についてはこちらでも把握しているが、詳細は直接ピーアンドケーカンパニーに問い合わせてほしい」(総務統括部の担当者)
白河信金の内情を知る人物によると、牧野富雄理事長(白河商工会議所会頭)は守秘義務があるため第三者に詳細を話すことはなかったものの「どうやら経営者が変わったらしい」「何の相談もなかった」「こちらでも注視しているところだ」と困った様子を見せていたという。普通、M&Aは金融機関が深く関与するはずだが、同信金は今回、蚊帳の外に置かれていたということなのか。
実は、ピーアンドケーカンパニーは判明しているだけで3期連続赤字(別表参照)。

当期純利益が不明の2020、2021年8月期も新型コロナウイルスの影響をまともに受けているので、黒字になっていることは考えにくい。つまり、A氏(廣田氏)は5期連続赤字の会社を負債とセットで引き受けたことになるが、結婚式場の運営実績がない中、厳しさを増すばかりのブライダル業界にいきなり進出して、どのように再生を図るのか。
音信不通の新経営陣
県南地方のバンケット業界関係者が、コロナ下の結婚式場事情を明かしてくれた。
「結婚式の予約は月に数本。しかも、予約するのは従業員本人だったり親戚なので、一般客の予約はほとんど入らない。宴会は少しずつ増えているが、それでも月に10本程度。ただ、感染者数が増えると即キャンセルされるので、確実に開かれる保証はない。言うまでもなく結婚式場は感染対策をしっかり行っていて、室内空間は広く、テーブルも大きいので、街中の飲食店より感染リスクは低い。加えて結婚式、宴会は誰が出席しているか明確なので、不特定多数の客が混在する飲食店より安心なはず。それでも結婚式、宴会の自粛・敬遠傾向は相変わらずで、各式場とも雇用調整助成金などの支援制度や金融機関の支えでしのいでいるのが現状です」
ピーアンドケーカンパニーでも、経営者が変わる前の2020年6月にはSNS時代の挙式スタイルを提案するとして、専用ホームページを使って動画で結婚報告を行うネットウェディング(基本料金29万8000円)をスタートさせたが、奏功しなかったようだ。
民間信用調査会社・東京商工リサーチが調べた全国のブライダル関連企業198社の2020年決算(1~12月期)によると、売上高合計は5908億5000万円で前期より765億9100万円減少した。利益金合計も前期312億1000万円の黒字から119億2800万円の赤字に転落。また、黒字企業は127社、赤字企業は71社で、赤字企業は2018年39社、2019年41社から一気に30社も増えた。
2021年決算の調査結果はまだ出ていないが、新型コロナの影響が続いている点を踏まえると、2020年決算より悪化していることは容易に想像できる。
こうした厳しい状況下にあるブライダル業界に、実績ゼロの人たちが赤字続きで多額の負債を抱えた結婚式場を買収し乗り込んできたわけだから「本当に勝算があるの?」と疑うのは当然だろう。
A氏に話を聞くため前出・ルシアンホールディングスに問い合わせると、女性従業員が「Aにその旨を伝え、折り返し連絡させます」と答えたが、その後、連絡はなかった。
中心人物とみられる廣田氏に至っては前出・ビービルドに何度電話しても誰も出ない。
そこで、ルシアンとビービルドのホームページに書かれていたファクスに①ピーアンドケーカンパニーを買収した経緯、②役員変更を知らせない理由、③結婚式場の運営実績がなく、コロナ下でブライダル業界が厳しい中、どうやって会社の立て直しを図るのか――などの質問を文書で送ったが、ルシアンからは期日までに返答はなく、ビービルドはファクスも不通で文書送信すらできなかった。
メーンバンクの役割

県南地方のベテラン経営者は、今回の出来事を次のように総括する。
「私はブライダル業界には詳しくないし、新経営陣の人となりも分からないので、そこへの言及は控えたい。ただ、M&Aに関して言わせてもらえば、性急な感は否めず、正確な判断に基づいて実行されたようには見えない。普通、M&Aは『買収する側』が『される側』に〝のれん代〟を払う一方、負債を引き受ける場合は、納得して引き受ける負債と前経営者の責任で清算すべき負債を明確に線引きするものだが、性急に思えるM&Aのもとでそれが行われたのかどうか。さらに言うと、メーンバンクの白河信金がこのM&Aをどう判断したのか。昨今の金融機関は単にお金を貸すだけでなく、コンサルの役目が大いに求められる。その役目を果たした結果のM&Aなら構わないが、もし同信金の知らない間に経営陣が変わっていたとしたら何のためのメーンバンクかと言いたいですね。日頃からコンサルの役目を果たしていれば、会社の異変に気付いて必要な助言や制度資金等の案内ができたはず。同信金がM&Aの中身を知らないとしたら、ピンチのときに和知裕幸氏に頼りにされなかった証拠です」
新型コロナが収束しない中、赤字続きの老舗結婚式場を、実績ゼロの県外在住者がどうやって立て直すのか。あるいは、M&Aで不動産を再生させたら目的達成なのか。「真の理由」を知るには、新経営陣の動向を注視していく必要がある。
























